カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

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第三節. 最初かもしれないだろ?

 荒れ果てた冬木の都会を少年少女が肩を並べて歩いていた。

 中肉中背の少年はやや茶色掛かった金髪に青い瞳、小麦色に焼けた肌を胸元から晒している。群青のオーバーオールは左右の脚丈が違うという独特な格好だ。着用するシャツも黄色で、背負っている剣は妙に歪曲しており、エメラルドブルーに輝いている。本人の髪の色味も相まってとても目立つ少年だ。

 少年よりやや小柄な少女もこれまた金髪で、長さは腰を隠せるくらいに伸びている。腰下が短い白のワンピーススカートの上に黒紫のベストを着こなし、ロングブーツを履き、赤いマントを軽く羽織る。ゾッとするほど美しい白肌と碧の瞳、それらを差し置いて彼女の異物感を際立たせるのは、尖った耳。ファンタジーなら、いわゆるエルフというやつだ。

 

 少年は歩きながら、楽しげに話している。

「そこで! 仲間の渾身のパスを受けたオレが相手チームのディフェンスを二人抜き! スピンの効いた華麗なシュートで見事ゴール! 大逆転したって感じッス!」

 少年は身振り手振り、ボールを蹴るような動きを交え、ふんすと鼻から息吐き腕を腰に。

「へー! ぶりっつぼーる?はよく分かりませんけど、ティーダさんはすごいんですね!」

「そ! ザナルカンド・エイブスのエース! アリサも今度やってみる? 俺がプロになれるくらい鍛えてやるよ」

「あ……でも私、ロザリアやみんなを探さないと……」

「そッスか。気が向いたらいつでも言ってくれていいッスから」

「はい、ありがとうございます」

「……それにしても……」

 少年、ティーダは首をぐるり回して辺りをボンヤリ見た。

「ここどこッスかね」

「どこなんでしょうか……」

 彼らにとっては日本の建物も元よりなじみないものではあるが、それがこうも損壊していれば何が何やら。

 ここらはゾンビなどのエネミーも少なく、延々燃え続ける火の手も控えめであったが、感受性豊かな年頃の少年少女は景色を見ただけでも気落ちしている様子。気分を盛り上げるための自慢話も飽きたらしく、ティーダは溜息を吐いた。

「瓦礫ばっかじゃん……」

「きっと、これって人の住んでいた家なんですよね」

「うん、多分」

「でも、誰も居ないですね」

「みんなどっかに逃げたか隠れたんじゃないッスかね」

「……どうしてこんな酷いことに」

 アリサはティーダに問うでもなく漏らした独り言であったが、ティーダはそれを聞くと眉間に皺を作り、遠くを見つめながら真剣な表情で答えた。

「……シンだ」

「……え?」

「これはシンってヤツの仕業なんだ……」

「な、何なんですかそれ?」

「所構わず暴れ回る酷いヤツで、スゲーでかい。この世界のみんな、シンに怯えながら暮してるんだよ」

「そんな……どうしてそんな事するんですか!」

「何かさ、機械を使った罰とか罪とかってみんな言ってる。オレ、ムズカシイこと分からない。でも、あれを止めなきゃダメだってのは分かる!」

 ティーダは声を大にして叫び、握り拳を作る。

「私も、手伝います。シンさんを止めます!」

「え、マジ!? 実はオレ、シンを倒すために旅してんだ。アリサも一緒に来てくれる?」

「はい! もちろんです! こんなことする人、放っておけません」

「まっ、人じゃないけど……あ、いや人か……?」

 


 

 という二人の成り行きを、承太郎とマシュは瓦礫の影に隠れて見ていた。

 承太郎は静かな声でひそひそとすぐ隣のマシュに話しかけた。

「……シンとは?」

「……分かりません……」

 マシュは困ったような、申し訳なさそうな、何とも言えない表情で二人を見守りながら答えた。

 承太郎もまた彼らに視線を戻す。

「この惨状はシンってヤツの仕業らしいが」

「いえ。違いますね。前の聖杯戦争の残滓なので、全然関係ないと思います」

「……あいつらも英雄……なのか?」

「そのはずです、よね?」

「まさか記憶を失っているのか?」

「可能性はありそうです」

 

 承太郎とマシュは新たな仲間を探していた。

 キャスター・テルミとバーサーカー・マルコの能力を目の当たりにした二人は現状の戦力不足を認めた。テルミの単体の強さはもちろんのこと、彼もまた仲間を集めていたわけで、七人しかいない英雄たちをこれ以上持っていかれると戦力差はさらに広がる。

 故にある程度の危険は顧みず仲間集めに奔走すべきでもあった。

 

「接触してみましょう」

「いいだろう。だが俺はここで待つ」

「えっ」

 

 交渉するなら身長百九十五センチあるガタイ良い男と二人よりも見た目麗しい少女だけの方がよいだろう。マシュは承太郎を見てぱちくり瞬きしたのち、それが理解できたようで気の締まらない表情で頷いた。

 

「心配するな。戦闘になったらすぐ出るさ」

「お願いします。それでは、行ってまいりま……」

 マシュがティーダとアリサの方に向き直ろうとすると、

「あの〜。そこで何してるんですか?」

「わぁっ!?」

 

 マシュたちが隠れ見ていたエルフの少女、アリサが瓦礫の上から顔を出してみていた。

 

「あっ、あの、私たちは決して怪しい者ではありません」と、怪しい感じで弁明するマシュ。

 アリサに続いてついてきたティーダも現れた。

「誰か居たんスか?」

 ティーダはマシュと承太郎を見ると驚くとともに安堵の溜息を吐いた。

「いや〜やっと誰かに会えたッス。あんたたち、この辺に住んでた人? 他の人たちはみんな逃げれたんスか?」

 承太郎とマシュは顔を見合わせた。彼らの、あまりの緊張感なさに。もしも英雄ならこの状況は戦闘になってもおかしくないはず。なのに彼らは腰に携えている武器に触れようともしない。

 承太郎はこの際と思い、一歩前に出て質問した。

「俺たちは聖杯戦争の英雄だ。あんたらもそうか?」

 ティーダと承太郎の距離は三メートルくらいしかない。さらに一歩踏み出せばスタープラチナの射程内に完全に捉えられる。それに気付いたマシュは承太郎が質問すると同時に何気なく横に退いた。

 が、当の二人はこの期に及んでもまだ無警戒のようだ。

「せいはいせんそう? なんスかそれ」

「何のことか分かりませんが、違うと思います」

 マシュも承太郎も、先刻からの態度やこの反応が謀りとは思えなかった。

「……」

 マシュは目を細めて二人を見る。その後、見比べるように承太郎も確認し、再びティーダとアリサに視線を向けた。

「いいえ。やはりあなたたちは聖杯戦争の英雄です。本来与えられるべき情報を持っていないようですね」

 これを聞いてもやはりというべきか、ティーダとアリサはさっぱりという風に首を傾げる。

「単刀直入に言います。あなたたちはこの世界の人間ではありません」

「はぁっ?」と当然の反応をするティーダ。

「あ、はい。そうですけど……」と、アリサ。

「信じられないと思いますが…………

って……え?」

「え」

「え」

 承太郎は、何だか余計にややこしそうな気がしていた。

 

 

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