申し開きもございません。
今日も今日とて出勤だ。
できればマスターと共に雄英まで行きたかったのだが、私とマスターが一緒にいれば目立ってしまうとマスターから断られた。
「仕方ないのは分かるが、なんとかならないものか……む?」
雄英に着くと、門の前に数人の集団がいた。マイクやカメラを見る限り、マスコミだろう。
「はぁ……朝早くから御苦労なことだ。」
今の時刻は午前4時30分。まだまだ生徒達はいないし、学校に寝泊まりしている職員以外も私を除いてまだ出勤していない。この記者達がどれだけネタを欲しているかが分かる。
マスコミのインタビューなぞ疲れるだけだから嫌いなのだが。
さて、奴らに気づかれない且超スピードで風圧を起こすこともない方法、か……丁度いい、やってみるか。
「【
風が私を包み込み、私の姿が掻き消えた。どうやら上手くいったらしい。
元々は施設に居た時に開発した風の個性【
思いついたはいいものの、今まで使うほどの状態になったことがなかった上、試したこともなかったが、中々使えるかもしれない。
「さて、グラウンドを借りて鍛錬でもするか。」
朝からちょっと得した気分になりながら、私は職員室に向かった。
◆◇◆◇◆
――そして午後の授業
「わ〜た〜し〜が〜……普通にドアから来た〜!」
「――私も来たぞ。」
ヒーロー基礎学。マスターと共に授業できる時間がようやくやってきた。勢いよく登場したマスターに生徒達も盛り上がっている。
「今日から、私とマ、オールマイトが二人でヒーロー基礎学を担当していく。」
「ヒーローの素地を作るためさまざまな訓練を行う科目だ。単位数も最も多いぞ。」
事前に打ち合わせしていた通りに二人で説明を行う。
「早速だが、今日はこれ!戦闘訓練!」
戦闘訓練と聞いた瞬間、一部生徒がざわめきだす。
「そしてそいつに伴って…こちら!」
「ポチッとな。」
私がボタンを押すと、教室の壁から幾つもの棚が機械音と共に現れる。
「入学前に送ってもらった個性届と要望に添ってあつらえた【
「「「おおおおお!!」」」
教室全体が盛り上がっている。自ら考えたコスチュームを着れるのがよほど嬉しいらしい。
「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!」
「余り時間をかけるなよ。」
「「「はーい!」」」
私達は生徒達の返事を聞き、一足先にグラウンド・βに向かった。
◆◇◆◇◆
待つこと数分。コスチュームに着替えた生徒達がグラウンドにやって来た。
「格好から入るってのも大切なことだぜ、少年少女!――自覚するのだ!今日から自分は、ヒーローなんだと!」
やはり、派手なコスチュームが多いな。機能性もそこそこしっかり考えられてはいたが……まぁそこは最初だし仕方ないか。
「いいじゃないかみんな、かっこいいぜ!さあ始めようか、有精卵ども!」
マスターは相変わらず【馬鹿でもわかる先生講座】という本の内容に沿って行動しているようだ。少し緊張して声が力んでるし、ぎこちない。こんなマスターは珍しいから、今の内にしっかり見ておこう。
「さあ、戦闘訓練のお時間だ!」
マスターが授業を進行しようとする。
「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」
いきなり生徒からの質問。だがまあ、想定していた質問だ。
「いいや、もう2歩先に踏み込む。
ちょっと間違えたなマスター?ジト目を送るが無視される。
「基礎訓練なしに?」
「その基礎を知るための実戦さ!――ただし!今度はぶっ壊せばOKなロボじゃないのがミソだ。」
マスター?ここは質問はここまでにして先に進行させないと……
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ぶっ飛ばしてもいいんすか?」
「また、相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか?」
「このマントヤバくない?」
……こうなるって言おうとしたんだが。
「んんん~聖徳太子!」
仕方ない。私が説明するか。
「私がそれぞれ説明するぞ。まず勝敗のシステムに関しては、ヴィランがアジトの何処かに爆弾を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている、という状況設定の下に設定している。ヒーローの勝利条件は時間内にヴィランを支給される拘束具で捕まえるか爆弾に触れて回収。ヴィランの勝利条件は制限時間まで爆弾を守るか、ヒーローを、同じく拘束具で捕まえることだ。ちなみに爆弾はマ、オールマイトの提案により、移動困難な核兵器を模したものだ。八百万の質問に関しては以上。
次に爆豪。拘束する為に相手を攻撃するのはアリだ。だが危険な攻撃や屋内戦に相応しくない攻撃は禁止。あくまでも訓練だからな。
次に麗日。除籍はない。安心しろ。
次に飯田。分け方はくじ引きだ。即席チームでチームワークを発揮することもヒーローには必要だからな。
最後に青山。お前は知らん!以上だ。くじを引いてくれ。」
「……私のセリフ」
マスターが端っこで拗ねているが、さっさとくじ引きしてしまおう。
◆◇◆◇◆
くじ引きを終え、最初のチーム以外はモニタールームに到着した。
「最初の対戦チームは緑谷と麗日、飯田と爆豪か。どう思う?マ…オールマイト」
「入試の結果と個性把握テストの結果を見る限り、飯田少年と爆豪少年がかなり有利だね。勝利条件の達成しやすいヴィランチームだし。――だが、実力にそこまで大きな差はないと思われる。緑谷少年と麗日少女もいくらでもやりようはある筈だ。――少年少女!この戦いは見物だぞ!しっかり観て学ぶように!」
マスターの言う通り、このチームは成績に見られる差程大きな差はない。緑谷は私達との訓練によって実戦でも十分に戦えるようになっているし、屋内戦想定の訓練も行っている。麗日も個性の使い方によっては訓練を有利に進められる。拘束するという訓練の性質上、麗日の個性も応用が利く。後は麗日がそこまで思考を回せるか……。
とはいえ、爆豪、飯田は共に学生にしてはかなりの能力があるのは事実。今までの好成績は伊達ではない。緑谷と麗日に付け入る隙があるとすれば、チームワークの差だろう。爆豪は恐らく、チームワークよりも私情を優先するだろう。緑谷を目の敵にしているようだし、この訓練を絶好のチャンスと思っていると思われる。それは緑谷も分かっているだろうから、そこを留意した上で上手く立ち回るのがベスト。――緑谷。お前の成長、しっかり見せてもらおう。
◆◇◆◇◆
『それでは、Aコンビ対Bコンビによる屋内対人戦闘訓練、スタート!』
マスターが開始の合図を出した。
「さあ、君たちも考えてみるんだぞ。」
マスターが成績用紙を取り出しつつ、生徒達に呼びかけた。
モニターの先では、緑谷達が窓から屋内に侵入していた。
慎重に先に進んでいく二人。
そして――
『ドン!!』
爆豪が曲がり角から奇襲を仕掛けた。緑谷達は両者無事。緑谷に少し掠っただけだ。
「こらデク。避けてんじゃねえよ」
「かっちゃんが敵なら、まず僕を殴りに来ると思った。」
私の後ろではマスターと生徒達がざわめいている。
「中断されねえ程度にぶっ飛ばしたらぁ!!」
爆豪が緑谷に突っ込む。そして右手で大振りの一撃を繰り出し……緑谷に止められた。
「――ほう。」
今の動き、完全に爆豪の動きを読み切っていた。付き合いが長いようだし、分析した結果だろうが、それでもそれをすぐに活かせるのは一種の才能だろう。
「ああああ!!」
「がはっ…!」
そのまま爆豪を投げ飛ばす緑谷。爆豪はまともに地面に叩きつけられた。
「かっちゃんは、大抵最初に右の大振りなんだ。どれだけ見てきたと思ってる。――凄いと思ったヒーローの分析は全部ノートにまとめてあるんだ!君が、爆破して捨てたノートに…。いつまでも、雑魚で出来損ないのデクじゃないぞ!かっちゃん、僕は、【頑張れ!】って感じのデクだ!」
緑谷が啖呵をきる。どうやら、私が思っていた以上に、この二人には因縁があるようだ。
「ビビりながらよぉ……そういうとこが、ムカつくなぁ!」
爆豪も怒気を高めながら構える。飯田からの通信に雑に守備を命令しているところを見るに、麗日は飯田に任せ、徹底的に緑谷を潰すつもりらしい。
「麗日さん、行って!」
麗日に緑谷が指示すると同時に、爆豪が爆風で跳躍した。
「余所見か。余裕だな!」
勢いそのままに繰り出された爆豪の蹴りをしっかりガードする。そしてそのまま足に確保テープを巻き付けようとして――焦った爆豪の右の大振りを読んで躱す。
完全に動きを予測している。爆豪の動きは決して悪いものではないが、緑谷の分析はやはり中々に正確だ。
だが、それももう警戒されている。容易に予測することはできないだろう。さて、どうする?
「ふっ!」
――逃げた。
「チッ。緑谷め。あれほど作戦は戦闘前か戦闘中に展開を読んで最後まで詰め切れと言ったのに……。」
恐らくここから先の展開用の作戦を考えていなかったのだろう。逃亡して作戦を考える時間を作ろうとしている。麗日と爆豪を引き離すのが目的とはいえ、この戦いの時間経過は緑谷側の不利だというのに。
「――なあ、おい!」
痺れを切らしたのか、爆豪が叫ぶ。
「俺を騙してたんだろ!楽しかったかずっと!ああ?随分と派手な個性じゃねえか!使ってこいや、俺の方が上だからよ!」
どうやら爆豪は随分と上に立つ事に固執しているらしい。無個性だと思っていた緑谷にド派手な個性があると分かって、自分が越される事を無意識に恐れたのだろう。緑谷に勝つ事で不安を取り除こうとして焦っている。
―――緑谷が爆豪と鬼ごっこしている間に、麗日が飯田と接敵。見つかってピンチとなった。
緑谷め。作戦をたてるのに時間をかけ過ぎだ。
実戦でそんな時間をかけていいと思っているのか?
「後で指導だな。――む?爆豪は何を……まさか!?」
爆豪がコスチュームの籠手を緑谷に自慢しながら構えていた。確かコスチュームの設計的にアレの威力は――
「やめろ爆豪!!」
「爆豪少年ストップだ!殺す気か!」
慌てて私とマスターが静止するが、
「当たんなきゃ死なねえよ!」
爆豪はそのままソレを解き放った。
『ドォン』
凄まじい爆音と揺れ。モニタールームの生徒達も流石に混乱している。
「少年!緑谷少年!」
マスターが緑谷に呼びかける。モニターで、爆破の煙の中から腰を抜かしているが無傷ではある緑谷の姿が確認できた。どうやら当たってはいないようだ。
爆豪。あんな性格だが、理性は一応あるらしいな。マスターも同じように考えているのだろう。訓練の中止はせず、あの爆破の禁止を言い渡すだけに留めた。
遠距離を封じられた爆豪に、ワン・フォー・オールをコントロールできない緑谷。両者インファイトしか攻撃手段がない現状。さて、緑谷はここからどうするか。
「――見せてもらおうか。」
◆◇◆◇◆
――緑谷視点
かっちゃんが向かってくる。このタイミングでは逃げられない。反撃するしか――
『緑谷。自分よりも素早く機動力が高い相手に対して、地上からのカウンターは悪手だ。そういう相手の殆どはタイミングをずらしてくる。――ワン・フォー・オールを完全にモノにするまでにそのような状況に陥った場合、相手の意表を突き、自分のペースに持っていくんだ。相手にペースを握らせたら負けと思え。』
コレだ!!
かっちゃんの跳躍にタイミングを合わせ、下にスライディング。
「なっ!?」
かっちゃんが驚く。意表を突いた次は――攻撃!
「ハァ!!」
かっちゃんの鳩尾にアッパーを食らわせる。
「ぐあっ!!」
「相手に主導権を――握らせない!!」
そのまま手首を掴んで地面に叩きつけた。
「ガハッ!!」
よし!このままテープを――
「舐めてんじゃ……ねぇぞ!!」
「がっ!!」
なっ、あの姿勢から爆破で跳び上がって蹴り!?
「コケにしやがって……許さねえ!!」
そのまま爆破をモロに食らう。
――不味い!ペースが、かっちゃんに!
「おらいくぞ!!てめぇの大好きな右の大振り!!」
「ぐあああっ!!」
痛い!痛い痛い痛い痛い!!
「デク!てめぇは俺より――下だ!!」
「がはっ……」
考える暇もくれないつもりだ。やっぱり駄目だ、強い!
もう、使うしか……
攻撃の切れ目を見計らってなんとか距離をとる。位置取りはこれでいい。後は――
「何で個性使わねえんだ。俺をなめてんのか?」
「……違う」
「ガキの頃からずっと!そうやって!俺をなめてたんかてめえは!」
「……違うよ」
僕は、君を……。僕は、君に……。
「君が……君がすごい人だから、勝ちたいんじゃないか!勝って――超えたいんじゃないか!バカ野郎!!」
「その面やめろや、くそナード!」
かっちゃんと同時に駆けだす。チャンスは一度。位置は良い…いける!
「【
「はあああ――」
今日こそ君に――
「「うおおお!」」
――勝つ!!
「行くぞ!麗日さん!」
タイマンじゃ、まだ到底敵わない!でも……
「
◆◇◆◇◆
「……ふん。」
緑谷と麗日の勝ち。圧倒的不利な状況を覆し、爆豪と飯田に打ち勝ってみせた。
成績としてはあまり良いとは言えない。屋内戦において、大規模破壊は厳禁。ましてや爆弾がある建物でやるなど馬鹿のすることだ。……だが、
「――悪くは、なかった。」
マスターが見出した緑谷のヒーローの素質。その一端程度は、見ることができた。
―――まるで、
『ズキ』
――?なんだ?今の感覚は……
まぁ良い。それよりも授業を続けよう。
ヒーローチームの勝利を宣言するマスターの声を聞き、私は意識を切り替えた。