才司Side
ああ、やっぱりちょっとピリピリしてるな。
ブリーフィングの為に全員が一室に集まる。場所はある空き倉庫を借り切った、即席のブリーフィングルーム。
集まっているのは二百人以上。かなりの大部隊だが、まぁそれにも理由がある。
「……では、これより作戦の概要を簡単にまとめます」
俺が進行役として、とりあえずさわりを説明する。
「まず今回のターゲットは、はぐれ
俺が映像を映し出しながら伝えると、多くの者達が唸っている。
まぁそうだけど、まずやっておくことがあるね。
「……さて、今回の作戦には裏においてぺーぺーの新人がいるから、おさらいも兼ねて説明しておこうか」
俺はおどけるように肩をすくめながら、小さく笑いつつそう告げる。
もちろん、これはイッセーのことだ。まだひと月も経ってないイッセーに、そこまで知っておけとは無理難題だ。新聖刃関連は結構ギリギリでねじ込まれたから、リアスちゃんもまだ講義はしていないだろうしね。
ただ、下手に名指しにすると悪目立ちとかされそうなんでね。そこは抑えておく。
「ウス! 気を使ってくれて助かります、才司さん!」
元気いっぱいに言わなくていいんよ。台無しだよ。
ちょっと頭痛を堪えるけど、結果的に空気が緩んだのか、ピリピリした雰囲気が和らいでいる。
これはこれで人徳なのかな?
なんとなく俺もちょっと頬が緩むけど、とりあえず気を取り直す。
今回は結構ガチな作戦だしね。イッセーに至っては、初めて過酷な戦場を経験する。情報はしっかり伝えておかないと。
「……では、僭越ながら私が説明するのです」
と、ランダリンが一歩前に出る。
「
「因みに力量次第で序列に差があり、戦死や引退、はぐれ認定もあるから割と変動や入れ替えは大きいものだ」
そう告げるランダリンに応えるように、席の方からも声が飛んだ。
その声を放ったのは、青い髪に緑のメッシュを入れた少女だ。
年齢はイッセーと同じぐらいか。ただ、優れた訓練を受けているのが分かる動作だね。相当の実力者なのが、何も知らなくても見て取れる。
「……特にフリード・セルゼンは、ただでさえ十四歳で悪魔祓い認定を受けた天才。更に神器との併用で最上級悪魔の打倒経験すらある男だ」
そう褒める様に語った少女は、その上で不快気な表情を浮かべる。
フリード・セルゼンという男が評価できる能力を持っていることが不愉快とすら思っている表情だろう。
「だが奴にあるのは狂暴な破壊衝動と悪魔に対する殺意だらけ。同胞にすら牙を向ける在り方からはぐれ認定を受け、堕天使側に流れ着いたと聞いていたんだがね?」
そう告げながらこちらに向ける視線に、俺も小さく肩をすくめる。
「まぁ、和平前は多少危険でも備えになる者は必要だったんでね。和平を受けてくれたおかげで、抑えてくれないと引き渡さざるを得ないと釘をさせるようになったそうだけど」
結果、見切りをつけて逃げてしまったから困ったものだよ。
ま、上層部はこういう事態も覚悟のうえで和平をしたんだろうけどね。
「そしてその際、フリード・セルゼンは何人かを引き入れて逃げていてね。その中に魔法研究者がいた。そして半グレ集団を隠れ蓑にしたこともあってこうして大部隊での討伐が決定したわけだ」
俺はそうまとめたうえで、続けて半グレ集団の情報を移す。
かなり規模の大きい半グレ集団で、数百人規模。しかも何人かは既に魔法を習得しているらしく、異空間の魔法で麻薬を運んでいる恐れがあった。
「そして幸か不幸か、その半グレ集団が他の半グレと大規模な抗争を起こそうとしている。どうやらフリードやその連れ、及び教わった魔法で調子に乗っているようだね」
相手の半グレ集団は、更にその数倍の規模。本当なら勝っても大打撃になるだろうけど、相手には異能がある。
戦闘用の異能を習得した者達は、例えるならバイオのBOW、それもボス役とかの脅威になりえる。正規軍人でも一人で挑むのは自殺行為レベルで、最低でも分隊規模は欲しいような連中だ。
そんなのが十数人入ると踏まえれば、勝算の一つぐらいは見込めるだろう。
だが、規模で圧倒的に負けている集団が仕掛けるんだ。ある程度の隙は生まれる。
と、いうわけでこの作戦だ。
「この作戦において、堕天使側は警察を協力してのバックアップだ。警察側もこの機会をチャンスと捉え、こちらを手伝いついでに大規模半グレ集団をまとめて検挙しようって腹積もりらしい」
おかげで堕天使側は100人越えの大部隊で、ある意味最も忙しい。
「……で、異能を習得している者達の鎮圧は悪魔側に任せることになる。上級悪魔が五人も来ているし、期待させてもらうよ」
そして悪魔側は数十名。三桁には届いていないが、周囲を管轄している悪魔を中心に、結構な人数がこれまた来ている。
そして、本命。
「で、フリード・セルゼンはそちらに任せることになるよ。新聖刃序列四位「斬り姫」ゼノヴィア、及び八位「敬虔なる聖剣」紫藤イリナ」
俺がそこを指摘すると、二人の少女は小さく微笑んだ。
「任せてもらおう。むしろそちらの仕事など必要ないぐらいに動かせてもらうさ」
「安心して頂戴! 例えあなた達が敗れようとも、私達の信仰は折れないわ!」
力強く頼もしいことを言ってくれるのはありがたい。ただしもうちょっと言葉を選んでほしかった。
「……和平はもう結ばれてるから、出来れば不満とか欝憤は聞こえないところで言ってくれないかな?」
俺はその辺、しっかりと釘を刺しておく。
自覚がないかもしれないけど、あまり激突されたりトラブルを起こさせると色いろ大変だ。俺はともかく他の人が我慢できないかもしれない。
やはり、一年間でそれなりの根回しをしたといっても限度があるか。ここからが長くなりそうだね。
しかも実際、新聖刃の二人は自覚してないみたいだし。
「……ふむ、誤解させたようだね。私はただ、戦士としてそういう覚悟を常に持つべきだと思っただけだったんだが」
心外そうにそういう青い髪のゼノヴィアという少女に、隣の紫藤イリナというツインテールの少女がたしなめるように指を突き付ける。
「もう、ゼノヴィアったら! ごめんなさい、この子ってちょっと初見だととっつきにくいところがあって―」
「君もだからね?」
無自覚に失礼なのは君もだよ。
ピリピリしている状況下で、同盟相手が負けることを前提に話をしないでほしい。気にする人はかなりイラつくって。
ただ、本当に自覚も無ければ思い当るところもないらしい。
紫藤イリナは凄くオーバーにショックを受けていた。少女漫画なら白目になってなんかエフェクトが出ているレベルだ。
そして涙目になりながら祈り始める。
「そ、そんなことをしていたなんて! 主よ、私の未熟をお許しくださいませ!」
『『『『『『『『『『痛たたたたたたたたたっ!?』』』』』』』』』』
被害甚大!?
悪魔の方々が、悪魔の方々が真摯な祈りによって被害大発生している!
ああもう、戦う前から酷いことになってるし!
「あの、最低限の足並みも揃えられないなら帰ってくれないかな?」
釘は差しておこう。しっかりと言っておかないと、繰り返すリスクが増えるし余計なトラブルのもとになる。
隣のゼノヴィアもため息をつきながら、額に手を当てて頭痛を堪えている様子だし。
「……相方が済まない。彼女はその、信仰心に酔いしれるタイプなんだ」
「……互いに手綱をしっかり握ってくれないかな?」
あえてきつめのことを言ったうえで、俺はため息をついてから意識を切り替える。
これはブリーフィングをさっさと切り替えた方がよさそうだ。余計ないさかいが今この場で生まれそうで怖いよ。
とりあえず俺は咳払いをすると、さっさと行動をまとめることにする。
「作戦決行は90分後。それまでに指定の位置に待機しているようにお願いします……以上!!」
なんかもうグダグダだよ。
ああもう、何事もなく終わってください!!
十分後、堕天使側のミーティングも終わったので、俺はリアスちゃんのところに合流した。
「……とりあえず、頭痛はもう大丈夫?」
「ええ。とはいえ、少し困ったメンバー構成のようね」
リアスちゃんは苦笑しているけど、微妙に目元が引くついている。
仕方ないだろう。ブリーフィングがもうハチャメチャというかグダグダだった。
教会側は今回、質を重視したピンポイント担当だ。
だからこそ、単独で最上級クラスにも通用する新聖刃を
おそらく、今回派遣されたメンツで三大勢力が争えば教会が一番強い。順当に勝つか、まず集中砲火で潰されるかの二択だろう。
堕天使側は、最後にフリードがいたのがこちらであることもあって気を使っている。責任を取って被害覚悟で潰す選択肢もあったけど、今回は補佐中心だ。口封じ扱いされる懸念と、三大勢力合同で対応したという形にしたい点、そして動ける若手で目立ったメンツが少ないところを踏まえている。
悪魔側はリアスちゃんを含めて、上級悪魔数名と眷属悪魔による対応だ。全体的にはバランス重視で、遊撃部隊も兼任している。これは近辺では悪魔が一番三大勢力で幅を利かせている点と、それゆえに先日の大騒ぎから意識をそらしたい思惑がある。連れてこれる悪魔を全員連れてきたといったところだ。
そして教会としてもは、ここでフリードを絶対に叩き潰したいからこその質の特化だろう。割と序列変動や除籍も多い新聖刃だけど、だからこそ自分達の力で汚名返上を試みたいのだろう。
かつてフリードがいた序列である八位についている紫藤イリナ。その相方であり、確実に格上だろう四位のゼノヴィア。二人の連携で叩き潰すのが狙いだろう。
とはいえ、そこはそこで問題だけど。
「……さて、彼女達はどこまでできるんですかね? 高みの見物といきたいですが」
「落ち着いてください、祐斗先輩」
小猫ちゃんが宥めているけど、祐斗君がピリピリしているし。
とりあえず、ブリーフィング中に暴発しなかったのはありがたい。殺気はもれていたけど、相手がスルーしてくれて助かったよ。
まったく。教会側もピーキーな攻勢にしてくれたものだよ。いや、悪魔側もリアスちゃんを任命したから問題だけど。抑えきれなかった堕天使側が言う事でもないけど、和平はまだまだ大変だなぁ。
「……あの、木場の奴どうしたんですか?」
あ、イッセーもやっぱり気になったか。
とはいえ、今説明すると更に祐斗くんの殺気が膨れ上がりそうだ。
「御免なさい、イッセー。今指摘するとややこしいことになりそうだから後で―」
リアスちゃんがそうとりなそうとした時だった。
「―簡単だよ、彼にとって聖剣使いは恨めしい存在なのさ」
……この声は。
「……分かっているなら、余計な指摘をしないでほしいね」
俺はちょっと殺気をあえて出しながら、後ろから歩み寄ってくるゼノヴィアちゃんにそう返す。
まったくもう。本当に勘弁してほしい。
ただゼノヴィアちゃんは、小さく肩をすくめるだけだ。
「逆だよ。余計な誤解は解いておいた方が後が楽だろう? その方が後々楽なんだよ」
と、ゼノヴィアちゃんは前置きする。
言いたいことは分かる。ただ、上手く行くかは別問題だ。
だって、それならここまでこじれてないからなぁ……。