イッセーSide
な、なんかピリピリしている雰囲気だぞ?
木場の奴は普段の雰囲気が完全に吹き飛んでる。才司さんも額に手を当てて、ちょっとイラついている雰囲気だ。ゼノヴィアってのもその反応に特に文句を言ってないし。
つまり、木場が教会に思うところがあるっていうのが原因か。それを才司さんが上手く宥めようとしたけど、原因の自覚があるゼノヴィアから来た所為で、ややこしくなったと思っている。そういう事か。
「……まず誤解を解いておくが、君の
まったく意味不明なことを言ってくるけど、つまりどういう事なんだ?
俺が首を傾げていると、リアス部長がこっちに振り返る。
「この際だから説明するわ。祐斗は元々教会に拾われたある研究の被験者なの」
「ひ、被験者!? それって、実験体とか、そういう……っ」
教会がそんなことをしていいのかよ。あ、でも才司さん達との話で「行き過ぎた研究は和平が結ばれて中止されたりしている」って言ってたな。つまりその前の話か。
なんかえげつない内容に俺がちょっと変な表情になっていると、ゼノヴィアの方も額に手を当てている。
「聖剣という物がある。聖なる力を秘め、魔性を屠る力を持った剣のことでね」
そう言いながら、ゼノヴィアは手を横に広げる。
そしたら周囲の空間が歪んで、なんかごつい剣が出てきた。
問題は、見た瞬間に俺に寒気が走ったことだ。
な、なんだこれ。めちゃくちゃヤバい雰囲気なんだけど……?
「これはデュランダル。聖騎士と称されたローランという信徒が使っていた伝説の聖剣だ」
そう言ってから、ゼノヴィアは小さく首を横に振る。
「だが聖剣は基本的に使い手を選ぶ。デュランダルに代表される伝説の代物に至っては、どれか一つに信徒の使い手が現れることすら十年に一度レベルだった」
「……裏を返せば、教会は強大な武装の殆どを死蔵している。これをもったいないと考えるのは、どんな勢力でも出てくる考えで、結果として使い手を生み出す研究が進められていたそうだわ」
リアス部長がそう言うと、木場は拳を握り締める。
「……そして僕はその被験者の一人だ。失敗作として毒ガスを巻かれたけどね」
は?
俺は一瞬、木場の言っていることが分からなかった。
え、毒ガス? 教会が? しかも一人って、何人もいたのにそんなことを!?
俺が顔を上げると、ゼノヴィアもかなり苛立っている様子だった。
「その件は研究主任達の独断だが、教会にとって忌々しい汚点であることに違いはない。……確かそいつは、堕天使側に流れ着いていたと聞いているが?」
「そこはちゃんと伝えているんだけどね? わざわざ迎え入れた手前即処罰ってわけにもいかないけど、相応のペナルティは受けるよう厳命はしてる」
才司さんがそう言うと、その上で肩をすくめた。
「ただ対教会ではタカ派の権化だから、いずれ勝手に暴走すると踏んでいるよ。上層部はその時になったら生贄になってもらうつもりだそうだけどね」
え、えげつない話が聞こえてきたぁ。
これが政治の世界ってことか。政治……怖い!
思わず震えていると、木場は拳を握り締めて何かに耐えるようにしている。
「……僕は一人、同胞達によって逃がされたんだ。……彼らの犠牲を無駄にはしない、僕は、エクスカリバーを超えて見せると誓ったんだ……っ」
「……前にも言ったと思うけど、それは八つ当たりだよ」
そこで、才司さんがそうはっきりという。
「聖剣計画の目標はエクスカリバーの使い手を人工的に見繕う事。それを踏まえれば君がエクスカリバーにいい感情を抱けるわけがないだろう。……だけど、それは坊主が憎くて袈裟を憎むようなものだ」
それとなくゼノヴィアを庇えるような位置取りに立ちながら、才司さんは真っ直ぐに木場を見据えている。
「エクスカリバーを嫌うのも、超えようとするのもいい。だけどやり方は選んでくれ。それができないようなら、例えバルパーが暴走しても君に処断は任せられない」
……な、なんかよく分からない雰囲気だけど、とりあえずバルパーってのが聖剣計画で毒ガスを巻いた野郎だってのは分かった。
木場もそこは分かってるのか、小さく息を吐くと踵を返す。
「分かってます。とりあえず頭を冷やしてきますよ」
……そういって、木場の奴はどこかに歩き去って行った。
「……まったく。才司さんはもう少し立場を考えてください。バルパーを囲っている堕天使の分際で、祐斗君に説教できる立場ですか?」
あ、今度は朱乃さんがやばい気がする。
なんていうか毒のある言い方で才司さんに小言を言ってきたぞ!?
「リアスちゃんが無理に抑えると、統率が乱れそうでね。誰かが前もって言わなきゃならないなら、恥を忍んで年長者の責務ぐらい果たすさ」
才司さんはさらりと流すけど、朱乃さんの殺気は向けられたままだ。
「手間をかけたわね、才司。朱乃も、矛を収めて頂戴」
あ、リアス部長がフォローに入った。
「……かしこまりましたわ、部長。では少し、お花を摘みに行ってまいりますわ」
朱乃さんはにっこり微笑みながら、そういうと同じようにどこかに言っていく。
その後姿を眺めてから、ゼノヴィアは同情の視線をリアス部長と才司さんに向けた。
「どうやらそちらも大変なようだ」
「分かったのなら気を付けて頂戴」
「余計な仕事を増やさないでね?」
そして部長も才司さんも、ちょっときつめに切り返す。
ま、まぁそうだよな。ゼノヴィアがわざわざ来た所為で木場が暴発しかけたわけだし。それを才司さんが止めたから、朱乃さんもピリピリしたわけだし。
ある意味元凶のゼノヴィアに言われたら、そりゃ一言言いたくもなるだろう。
よし、俺も一言言っとくか。
「あのさぁ。さっきからちょっと喧嘩腰に見えるからやめてくれないか? 俺は悪魔に成り立てだけど、和平を結んだんならもうちょっとこう……あるだろ?」
それぐらいは言っていいだろう。
イケメン王子の木場は、正直嫉妬しまくりでいけ好かない。だけどリアス部長の眷属である以上、俺の仲間でもある。
仲間に余計なことをしようってんなら、文句の一つぐらい言わせてもらうぜ、俺は。
ただ、なぜかゼノヴィアは文句を言いたくなりそうな表情だった。
「……わざわざ来たのは君の所為でもあるんだけどね」
は?
なんで俺が。自分で言うのもなんだけど、俺は別に教会と縁なんてないはずだぞ。
ん~? 父さんや母さんがクリスチャンって話も聞いてない。今まで通ってきた学校だって、進学校ってほどでもない。
全く心当たりがない。いったい何があって、わざわざ外人の信徒が俺に関わるってんだ?
俺が首を傾げてると、呆れてるゼノヴィアの前で、才司さんとリアス部長がちょっと考え込んでくれる。
「小さい頃の学友が教会の関係者だったか関係者になったんじゃないかい? 引っ越した友人とかに心当たりは?」
「……そういえば、駒王町は前任の一人が教会の人と揉めていたわね。時期的には、イッセーが小学生になるか否かってぐらいのはずよ?」
な、なるほど。流石二人は賢いです。
俺はその点で考えると、そういえばと思い出すことがあった。
「そういや、一人引っ越したやつがいたな。えっと、名前はなんだったっけ……」
俺がそれを思い出そうとした、その時だった。
才司Side
「凄い凄い! こんなに硬い腕なんて、鍛えている悪魔祓いでも滅多にいないわ!」
「そうだな。俺はこれだけでやってき男だからな。これでそう簡単に負けるわけにはいかないさ」
ん? なんかなごやかな話声が聞こえるね。
振り返って後ろを見れば、確かリアスちゃんのはとこのサイラオーグ・バアルって人に、ゼノヴィアの相方の紫藤イリナが話している。
見てる限り、雰囲気は和やかだ。むしろ紫藤イリナがフレンドリーに話しかけて、それをサイラオーグ・バアルが穏やかに受け止めている雰囲気だ。
……これをブリーフィングの時にやってくれれば。そう思ってしまうのは悪い事だろうかと思ってしまう。
「何をやっているんだ、イリナ?」
「あ、ゼノヴィア! 話があるって言ってたけど、もう終わったの?」
イリナがそう答えるけど、ゼノヴィアはちょっと頭を抱えている。
どうやら、お互いにフォローしあったりする凸凹コンビのようだ。癖の強い部分がお互いに会って、それがかみ合って結果的にましになっている系列らしい。
あ、ちょっと言い合いになってる。
うん、困ったもんだね。イッセーもちょっと困惑しているし。
「……お、思ったよりはフレンドリーだな。タカ派が多いって話だけど」
イッセーがそんなことを言っていると、サイラオーグ君が小さく苦笑する。
「悪魔側も、俺とリアス以外は和平に思うところがある物が多いようだな。おそらくぶつかり合わせてガス抜きをさせつつ、目的は達成できるよう根幹をマシな奴で埋めているのだろう」
なるほど。思ったよりはとっつきやすいと思ったよ。
上層部もそれぐらいのことは考えているようで何よりだ。文字通り種族が違う異常、異形の完成は人間社会に慣れ気味の俺だと困惑もするからね。ちょっと不安だったりはしてたんだよ。
そういえば、堕天使側も思うところがある物はいるけど、半分ぐらいは和平に賛同的な人がいたね。しかも上級クラスはほぼ賛同派だった。
……やっぱり、腐っても数百年はトップを務めている人たちの判断だ。俺の懸念ぐらいは何とかしてきたという事だろう。
と、そんなことを思っていたら教会側の言い合いも終わったらしい。
「まったく。ほら、旧交を深めたいのだろう? 最低限の話はすんだから、さっさと済ませておけ」
「オッケー♪ 気を使ってくれてありがとね、ゼノヴィア♪」
ふむ。
ということは、紫藤イリナがイッセーの知り合いだったのか。
「もう十年ぐらいたつのかしら。久しぶり、イッセー君。和平を結んだあとじゃなかったら、ショックで涙を浮かべてたわ」
ま、敬虔な信徒的に「幼馴染が悪魔に転生していた」はショックだろうね。
むしろその上でフレンドリーに接しようとしているのなら、この子はむしろ穏健派よりッポイね。
本作戦の主力はまだマシでよかったよ。……天然で喧嘩を売る子が穏健派とか、別の意味で教会が不安になるけど。
ただ、イッセーは思いっきり首を傾げていた。
「……え、えっと……?」
「……もしかして覚えてない!? 一緒に自転車で隣町に言ったりしたじゃない!!」
イッセーの反応に、紫藤イリナは困惑している。
あ、これイッセー本気で覚えてないのか?
でも見る限り美少女だし、イッセーが覚えてないってのもおかしい。イッセーが、美少女を、覚えてないとかおかしい以外の何物でもない。
あとこれは作戦において歪みを生みかねないし、ちょっと解決した方が……あ。
俺はその時、かつての過去を思い出した。
「紫藤イリナちゃん。酷い確認をしたいんだけどいいかな?」
「え、なになに? ちょっと今余裕がないんだけど?」
困惑しているイリナちゃんに、俺は確認するべきことを聞いておきたい。
「……駒王町に住んでいた時、どんな格好が基本だったかな?」
うん、一歩間違えなくても物凄く失礼なことを聞くんだ。覚悟を決めよう。
「経験上、十歳になってない子だと性別の差は意外と分かり難いからね。中性的な格好をしている場合、男だと勘違いすることが……俺の場合があった」
思わず視線を逸らしながら、俺はそこを指摘する。
イヤホンと、かつてそれをやらかしたことがあります。
「昔いじめられていた時に助けてくれた子が、基本短パンで髪も短くてね。ずぶぬれになってシャワーを
胃が痛くなるけど、これは前もって言っておかないと。
そういう事態があるとあえて語ることで、イッセーが非難される余地を少しでも削るんだ。自身の失敗は自他を問わず繰り返させない為にある!!
そしてイッセーとイリナは、同時にハッとなった。
「そうか! あの時の!!」
「そっか! 確かにあの時は男の子に勘違いされるかも!?」
どうやら、納得してくれたようで何よりだ。
さて、やるべきフォローはそれ以外にもある。
俺はそっとイッセーに近づくと、小さい声でアドバイスを試みる。
「この手のトラブルで言い訳はとにかく後だよ。まずはしっかり謝って、相手が落ち着いてからそれとなく自己弁護するように」
「え、あ、はいっ」
さて、これで少しは収まってくれるといいんだけどね……。
Other side
それから少しして、監視を行っているメンバーが半グレ集団の動きを察知する。
作戦目標は、半グレ集団を隠れ蓑にして共生しているフリード・セルゼン達はぐれ悪魔祓いや魔法使いのメンバーを無力化し確保すること。
だがしかし、その作戦は僅か十分後に破綻することとなる。
ちなみに、本作は一話を15kbぐらいにできるよう試みながら頑張っております!