イッセーSide
「……美味い。よく説明できないけど、美味い!」
「ふふ。紅茶に慣れてないイッセーでも分かる辺り、本当に美味しいお茶よね」
俺がなんていうか感動していると、リアス部長も紅茶を一口んでから微笑んでいる。
そしてそんな俺達の誉め言葉に、リライトさんは頬を少し染めていた。
「お褒めに預かり恐縮なのです。リライト家はこれでも、英国なのでティータイムは得意なのですよ」
可憐な女の子の素敵な笑顔は最高だ。
「確かに。俺もランダリンの紅茶は好きだね」
「……もう。お上手なのですよ、才司さんは」
……それが俺に向けられてないのにちょっとジェラシーだけど!
いや、でも才司さんはできた人だ。かなりアレなことをしているのは事実だけど、しっかり更生したうえでちゃんと頑張っている。少なくとも、今の才司さんは立派な人だと思う。
思うだけで嫉妬心が燃えそうになるけどね。
あれ? 紅茶が、ちょっとしょっぱいかな?
「……お? イッセー先輩、ダーリンにジェラってます? なら薪を追加ぁあああ!」
「ちょ、瑠璃ちゃん!?」
ぎゃぁあああああ!? 洞門さんが才司さんに抱き着いたぁあああああ!?
桐生と同じ匂いがしてたから嫌な予感はしてたけど、やっぱりやってくれたのこの子。
畜生、俺はまだなりたての下級悪魔なんだ。絶対に上級悪魔になってハーレム王になってやるけど、それはまだ先の話なんだ。
この勝ち組を見せつけられても、耐えられる自信がない……っ。
「あらあら。イッセーってば、何もこんなところで泣かなくてもいいじゃない」
ああ、そっと抱きしめてくれるリアス部長のお優しさに、別の意味で涙が出てくる。
あとおっぱいの感触が。俺の人生において、おっぱいの感触をこうも味わえるなんて、ありえたのか。
これだけでも転生してよかった気がする。よーし、頑張るぞー!
と思ってたら、後頭部にチョップが叩き込まれた。
「下品な顔は禁止です、変態先輩」
う、すいませんでした。
小猫ちゃんの痛烈なツッコミに、俺は何とか我に返る。
で、俺達は今お茶会だ。
駒王町の裏を管理するリアス部長に、その監視役の名目で来ていた才司さんとリライトさん。本当は和平に備えての色々とした工作活動の一環だったらしいけど、そういうわけでそれなりの情報交換はしていたらしい。
その一つがこの定期的なお茶会。和平が結ばれた後でも、各勢力の交流のモデルケースってことでしているらしい。
している、らしいけど……?
「朱乃さんと木場は来てないんですか? あと、もう一人いるっていう眷属とも俺は会ってないですけど」
なんで来てないんだろう。
ちょっと思ったことを口に出すと、リアス部長や才司さん、リライトさんは三人ともちょっと苦笑いだった。
「前にも言ったと思うけど、朱乃ちゃんは堕天使が嫌いでね? 俺も彼女も色々とややこしいところがあるから、尚更距離を置かれてるんだよ」
「祐斗さんは教会のことを結構嫌っているのです。これに関しては教会にも落ち度があるので中々なのですよ」
「最後の子はちょっと特殊なの。いずれ必ず、イッセーにも紹介するからもうちょっと待っててね?」
才司さんもリライトさんもリアス部長もそう言うけど、なんか分からん。
ま、あんまり踏み込むのもあれだよな。雰囲気が悪くなるか。
となると、変な空気にしちゃった分、俺が頑張って空気を変えないとな。
……あ、そうだ。
「そういやリライトさん。こっちに来る前に言ってたこと、もうちょっと聞いてもいいかな?」
そういや、その辺りを聞いてなかった。
なんでも、リライトさんや才司さんが駒王町にいるのは、和平のきっかけそのものが、二人とリアス部長が出会ったことだとかなんだとか。
三人揃っての時に言うって感じだったし、ちょっと聞いてもいいかもな。
「……そういえば、もう一年以上前の話よね」
「確かに。あの時は色々と心臓に悪かったなぁ」
リアス部長も才司さんも懐かしむ様子だけど、才司さんはどこか苦笑いだ。
何かあったんだろうか。物すっごく気になる。
「……事の発端は二年と少し前になるのです」
と、リライトさんが苦笑しながらそう話し始める。
「私は任務を何度かこなした際、両親が新婚旅行で行った沖縄に興味があったので……沖縄の教会を慰問するという名目でちょっとした休暇をしていたのです。その際、客船で向かっていたのですよ」
ほうほう。船の旅行かぁ。
なんていうか風情とかあるよなぁ。俺も一度ぐらいやってみてもいいかもしれないな。
ただ、その時才司さんと瑠璃ちゃんはちょっと苦笑いだった。
なんだなんだと思っていると、才司さんは紅茶を一口飲んで気分を切り替えたらしい。
「……で、その時俺は瑠璃ちゃん達と合流しようとこれまた沖縄に向かってたんだ。ご厚意でフェリー旅行を経験する形でね」
へぇ~。
「その頃にダーリンは戻ろうかとか思ってたんだ。で、相談を受けたパパが「なら間に入ろう」ってことになって、ちょうどその頃沖縄旅行中だったから、ダーリンを招待する感じだったの」
瑠璃ちゃんがそう言うけど、フェリーとか気が利いているのか利いてないのか。
でも船旅ってちょっと憧れるし、その辺りで心を落ち着けさせるとかそんな感じかもなぁ。
ただ、三人揃って表情が渋くなった。
「……だけどその船が、突如として轟沈したんだよ」
と、才司さんがそう言うけど、ちょっと待とうか。
え、轟沈? 沈没じゃなくて?
「細かい話は後でするけど、一撃で大破したフェリーの二等客室にいた俺は、その余波で吹っ飛ばされるわ破片が頭に激突するわで海に墜落して失神。ランダリンも何とか救命いかだに辿り着けたけど、生存者は絶望的だった」
「更に私も才司さんも、長距離通信や長距離転位には長けてなかったのです。……もちろん、助かってからはすぐに習得したのですが」
な、なるほど。
二人とも結構渋い表情だし、むしろ良く生きてたなぁ。
と、今度はリアス部長が苦笑している。
今度は何だと思っていると、リアス部長は写真を一枚取り出した。
なんだろう。小さめの島?
「で、二人が流れ着いたのが、昔グレモリーが購入していた無人島だったのよ」
「リアス部長のお家が持ってたんですか!?」
どんなところに流れ着いてるんだよ、っていうかマジか。
俺が驚いていると、才司さんもリライトさんも苦笑していた。
は~。またなんていうか、偶然って怖いなぁ。
「元々アウトドア用の一環で買っていたけど、他にもいくつかあったからあまり使ってなかったの。……事故から一年ほど経った春休みに、設備の点検とレクリエーションを兼ねて向かったら……驚いたわ」
そりゃ驚くよ。俺だって驚くよ。
「……慌てて臨戦態勢でした」
小猫ちゃんがパクパクとお菓子を食べながら、遠い目になっている。
「俺は死を覚悟したね。散々迷惑をかけておきながら捕虜になるとか、流石に神の子を見張る者に悪すぎたから」
才司さんは才司さんで、腹をくくり切っちゃってるし。
むしろ良くそこから持ち直したな。いったい何が起こったのやら。
俺が首を傾げてると、そこでリライトさんがため息をついた。
ん? なんだなんだ?
「ただ悪運が強かったのか、その時に私達は襲撃を受けたのです」
襲撃。他の神話体系とかだろうか。
俺がそんなことを思っていると、リアス部長が新しく写真を取り出した。
……なんか変な機械の獣っぽいのが出てきたんだけど。
しかもデカいな。なんだろうか、カモノハシ型ロボットって感じだろうか。あと10メートルはあるな。
「これがその襲撃者の残骸よ。そしてのちの検査で、客船を轟沈させたのもこれだということが分かっているわ」
リアス部長がそう言うけど、どういう事なんだろうか。
「神話とか三大勢力って、こんなロボット兵器が使われてるんですか?」
「いや違う。前に言った
才司さんはそう言うと、その写真のロボットを睨むように見つめる。
「ただウツセミと称されるそれらより遥かに性能が高く、また違うアプローチで完成しているんだ」
そ、そんな連中がいるってことか。
うわぁ。和平が結ばれたっていうけど、色々と荒事に巻き込まれそうだぁ。
ちょっと寒気を感じてると、リライトさんは気持ちを切り替えるように小さく微笑んだ。
「ですが、この共闘もあって戦意は薄れました。そして駆けつけたサーゼクス様の提案で、書状を送り届ける代わりに島の無断利用の不問と人里までの移送を了承したという事なのですよ」
なるほどなるほど。
「なんていうか、みんな大変だったんですね」
俺もびっくりだよ。
そんなことがあったのかぁ。大変だったんだなぁ。
人に歴史ありって、こういうことを言うんだろうか。
「なんていうか、世の中って結構大変なんですかね?」
なんかそんなことしか言えなかったけど、才司さんはそれにしっかりと頷いていた。
「そうだね。常に考え続けてたら生きていくのも大変だけど、そういうものさ」
その表情は小さい笑顔だったけど、なんていうか雰囲気が違った。
すすけているというか、裏側が壊れそうになっているというか。とにかく、なんか心の方が大変な感じになってそうだった。
そんな才司さんは、紅茶の水面を見つめながら、小さく納得させるように頷いていた。
「世界ではこの時でも、餓死したり殺し合っている子供がいる。日本でも、くまなく探せば悪意に弄ばれる子は出てくるだろうさ。……悪意をためらわない奴は、探せば本当にいるだろうから、さ」
その言葉にはなんていうか説得力が強く籠っている。
……幼馴染二人との間に起きた、才司さんの罪。
才司さんだけが悪いとは思わないけど、才司さんにも悪いところはある。少なくとも、才司さんはそう思っている。
だからだろう、その雰囲気はなんていうか、口出しを許さない雰囲気で―
「でも、ダーリンは手の届く範囲は見過ごさないでしょ?」
―なんていうかためらわずに、瑠璃さんがぎゅっと後ろから抱きしめた。
お、おおおおのぉれぇ! なんていうか凄い敗北感と嫉妬心が!?
「……その反応はどうなんですか、兵藤先輩」
小猫ちゃんの鋭い眼差しで、ちょっとだけ冷静になれたよ。
ただ、瑠璃ちゃんはなんていうか優しい笑顔で、ぎゅっと慰めるように才司さんを抱きしめていた。
「ダーリンは確かに酷い間違いを犯したけど、それをちゃんと悔やんでるんで改めて戒めてるでしょ? だから、そのあとのダーリンをその前を知ったうえで私やランダリン先輩が、大好きになるのは問題ないってことで♪」
ウインクまでする瑠璃ちゃんに言われて、才司さんはふっと力を抜いた。
「そうだね。うん、少なくとも今の俺は、そう思われる余地があるんだろうね」
そういいながら、才司さんはそっと瑠璃ちゃんの手を取った。
「ありがとう、瑠璃ちゃん。ちょっと悪い方向に言ってたよ」
才司さんに小さく微笑まれて、瑠璃ちゃんはホッとした笑顔で頬を赤らめている。
あ、これは本気で惚れてるんだ。なんつーか、嫉妬心も燃えるけど微笑ましい。
「どういたしまして~♪ あ、だったら今夜にでも初夜を―」
「―調子にのらないのですよ」
と、リライトさんのツッコミが入って、俺達は一斉に噴出した。
ああ、なんつーかこういうのもいい感じだよなぁ。
これからもこういったのが続けばいいんだけど―
「……お茶会中にゴメンねー。みんないる?」
―そこに、妙に神妙な顔つきをしたフレアさんが入ってきた。
「どうしたの、フレア」
才司さんが促すと、フレアさんはちょっと気まずそうに頬をポリポリとかいた。
途端に、リアス部長もリライトさんも、表情が引き締まっている。
「あ~。上からの通達で、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだってさ……荒事で」
え、荒事?
えっと、そういえば悪魔って、はぐれ悪魔の討伐とかもするって聞かされたけど。そういう方向なのか?
俺がちょっと戸惑っていると、リアス部長は俺の頭をなでながら小さく苦笑した。
「御免なさいね、イッセー。どうやら、少し早めに経験を積んでもらうことになりそうだわ」
ま、マジですか!?
こういう過去話を伸ばしておくとそれはそれで定評以下につながることもあるので、チョコチョコと明かしていく方向で試してみます。
そしてピタゴラスイッチレベルの偶然で結ばれた和平。これができたのは才司やランダリンがそれなりにビッグネームに関与していることもあります。その当たりに関してはまた別の機会に。