才司Side
「……はぁ」
休み時間に、俺は今後の予定を思い返して少しため息をついた。
いや、そこまでまずい事にはならないと思う。だけど裏にある事情を考えると、別の意味では重いことになっているのかもしれない。
「どうしたんですか、才司さん?」
「あ、聞こえてた?」
松田君に気づかれたので、俺は苦笑を浮かべる。
とはいえ誤魔化す必要もないか。彼らは事情を知っている側だしね。
「ちょうどよかった。よければ愚痴を聞いてくれるかい? 缶ジュースぐらいなら奢るからさ?」
こういうのは、吐き出すだけでもだいぶ変わるからね。それに人の意見を聞くことで、自分では思いもしない観点からの気づきが得られるかもしれないし。
「お? 松田なんかに相談事するなんて、切羽詰まってません才司さん?」
「桐生、お前流石に酷いぞそれは。……才司さんのことだから何かあるさ」
そこに群がる桐生ちゃんと元浜君。
そして言い分がちょっと酷かったので、松田君は憮然としている。
「んだとコラ! 俺だってなぁ、可愛い女の子の情報やカメラの使い方ぐらい教えられるっての!!」
松田君がそう言うと、何故か元浜君は得意げな様子で胸を張る。
「逆に言うとそれだけだろうが。俺ならスリーサイズまでは断言できる!」
マウントをとるのはそこでいいのかな?
「……で、何かあったんですか?」
「ああ、ちょっと場所変えようか。愚痴だけでも聞いてくれると嬉しいかな?」
と、いうわけで俺は三人を連れると、自販機でジュースを奢ってから校舎裏に。
そして一口飲んでから、愚痴を言うことにする。
「実は今週末、ある非合法グループの摘発に協力するよう指示を受けたんだよ」
それが、俺の愚痴というかため息の理由。
フレアが上層部から受けたのは、アザゼル総督、魔王サーゼクス・ルシファー、天界は天使長ミカエルの三名による連盟。つまり三大勢力全体の命令だ。
これを断ることは不可能に近いし、断る気もない。
「東京の半グレ集団に、堕天使からの脱走者と共生関係にある連中がいるみたいでね。タイミングを見計らって摘発するって流れなんだよ」
「脱走者って、そういや俺達に説明する時にも言ってましたね」
元浜君が興味深そうに眼鏡を動かすけど、まぁそういうのもいるわけだ。
どこの勢力だって、大なり小なり規範を守らない連中はいる。その中には脱走することを選ぶものだっている。そしてそんな連中の多くは、逃げた先でも迷惑行為を繰り返す余地がある。
悪魔においてもはぐれ悪魔は割と問題とはなっているし、リアスちゃんも上から指示を受けて管轄内に入った奴を捕縛もしくは討伐している。仮にも主と従っている眷属から逃げた連中、それを駒を半分も
天界や教会でも数多い。というより、堕天使そのものが天使としてやっていけなかったから墜ちた者達が始まりなわけだしね。同様に信徒としてやっていけなかった者達ははぐれになり、大抵が堕天使側に就く。
そして堕天使側も、つまりは欲望に負けた者達がいるわけだから、問題児は問題児だ。俺もある意味では近いところがあるのが何だけどね。
ただ、それらは和平を機に急増しているのも事実だね。
「綺麗ごとができるに越したことはないけど、綺麗ごとを押し通すのは簡単じゃない。戦争中なら尚更だ」
俺はまずそれを前置きしたうえで、言いたいことをそこに繋げる。
「つまり、戦争が終わるなどで綺麗ごとが通せるようになれば、それまで黙認するしかなかったことも締め付けることができる。……問題は、素直に締め付けられる人ばかりじゃないってことだよ」
「あ、なるほど。戦争中だと内ゲバは避けるけど、戦争が終われば中の問題に力を注げるから―」
「―捕まる前に逃げた連中が、犯罪者と手を組んだってわけですか」
桐生ちゃんと元浜君が納得してくれたけど、まぁそれもあるね。
実際、三大勢力はどこもかしこも、和平を機に内側の改革も進めている。
教会では「主の為信仰の為、例え煉獄に落ちようとも」なノリで行われていた研究を中止し、その人員を真っ当な方向に移そうとしているそうだ。
悪魔社会でも、これまで問題視されているいくつかの社会問題に力を入れようとしている。和平によってリソースが浮き、周囲の目が向けられることを現四大魔王は利用する流れだ。転生悪魔や下級中級の扱いにメスを入れたがっているらしい。
そして堕天使側も、これまで外敵に備えて容認せざるを得なかったことを改革する方針だ。神器保有者が平穏な日常の為に市井に居続けるということも、これまでよりは簡単に行えるようになったそうだ。
ただ当然、そうなればこれまでそういうことをしてきた連中にとって面白くない。中には忠誠心が吹き飛ぶぐらいの衝撃になっている者もいるだろう。そしてそういう奴ほど、おとなしく従うなんて選択肢を取らないものだ。
だから脱走者も少なからず出てきているのが実情だ。それでも三大勢力の連携で対応する余裕も増えているけど、これまでの遺恨からくる軋轢や、他の勢力に対する警戒もあって隙が無いわけではない。知恵が回るならあの手この手で掻い潜るだろうしね。
で、その一環として人間社会の犯罪勢力とつるむ形だ。例えるなら警戒網に引っかからないようにする隠れ蓑として犯罪組織に潜み、その内側で異能の方が便利なことや荒事を手伝って利益を得る。
当然この手の問題にも対応するわけで、規模が大きいグループともなれば人員も投入される。
ただ問題は、だ。
「そのついでに、不安を誤魔化させようって目論見だと思っちゃってね」
「誤魔化させよう? ……は、そういう事か!」
松田君が一瞬で悟ったみたいだけど、それに元浜君も呼応した。
「俺達が学校内でエロ本を見ないよう、共に殴り合って抑えているのと似たようなことか!」
……あながち間違ってないのが、なんというかもにょる。
俺はそれを苦笑いで誤魔化すけど、桐生ちゃんは眼鏡をキランとさせている。
「そういえば、兵藤から裏関連で大騒ぎが起きたって聞いてたわね。それですか?」
この子は本当に聡いなぁ。あとイッセーは口が軽いので説教です。
オーフィスとしか思えないけど、オーフィスにしては弱すぎる反応。そんなちょっかいをかけたと思われる事態に、三大勢力はピリピリしている。
ただ相手が相手だから、対応しているのは最高峰の実力者だ。というより、現場の実働がどうにか出来る相手じゃない。俺達は同年代では優秀だけど、神や魔王が出張ってなおマズい相手は無理がある。
「リアスちゃんはプライドも責任感もあるからね。自分が与えられた区域の問題は、自分達の手で解決したがるのさ」
それは別に悪い事じゃない。
自分のことは自分でするのは、基本的にやるべきことだ。自分の食い扶持を自分で稼いで、自分の生活を自力で確立させる。それができる人が基本的に大人とか自立しているといえるだろう。
ただまぁ、だからと言って何でもかんでも自分でやるって意味じゃないんだけどね。
「ただ、自分では手が足りない部分や力が足りない部分を認め、素直に対応できる人の力を借りる。その当たりの分別はまだ未熟なんだよ。ま、十代の女子だから当たり前だけどね」
十代でそこまでできる方が凄い。それは当然だ。
特にリアスちゃんは能力もあるうえ、今までしっかりとこなしているからね。どうしても「自分達の力で何とかする」という方向に行きがちだ。
なまじ優秀なうえに立派だから、失敗や挫折の経験は少ないし、あっても「頑張ってできるようになる」が先に来る。「見切りをつけて人に頼る」を身に着けるようになるのが今後の課題かな?
まだ十代の女の子だし、未熟なところは未熟ってわけだ。
「……当時の俺よりは立派でちゃんとしているからね。そこは先達でフォローしがいがあるんだけど……さ」
そう、そこは問題ない。
若い時の失敗は買ってでもしろ。失敗や挫折の経験は、取り返しがつくのならいい経験だからだ。まぁ普通は買わなくてもたくさんするけど。
ただ、取り返しのつかない失敗は、例え若かろうと売られたってするべきじゃない。むしろそうならないように、取り返しのつく失敗をして戒めるべきだ。
―脳裏に浮かぶのは、とんとんと右のこめかみ付近を指で叩く少女と、その隣で俺と彼女に微笑みかけるもう一人の少女。
……俺は取り返しのつかない失敗をした。それは何位があったとしても帳消しにはならないし、そう考えるべきでもない。
いや、そこは今は関係ないか。
今の問題は、だ。
「つまり、まだ「問題なし」と上が言えない程度には調査が進んでないってことが悩み事の一つ」
既に解決しているのなら、それをきちんと伝えればいいだけだ。
それが出来ずに、わざわざ少し離れたところでやることを与えている辺り、これは根が深い問題になりかもだ。
最強の存在がただちょっかいをかけた。それはそれで問題だけど、それだけで済まないと第問題だ。
「で、もう一つは? もしかしてやばい奴なんですか?」
松田君がそう言うけど、それとは別の問題だ。
「相応の実力者が集まってるから、そこはまだ問題じゃないんだ。ただ、ね?」
俺はそこで、胃と頭が痛くなるのを感じた。
「……タカ派のガス抜きも兼ねているみたいで、始まる前にひと悶着起きそうなんだよねぇ」
Other side
「悪いなミカエル。わざわざタカ派寄りの連中を派遣させちまってよ」
『そこは構いません。いずれはするべき問題ではありますからね。そうでしょう、サーゼクス?』
『その通りだ。不当な排斥や冷遇は、相手に対する無理解が大きな要因となることは歴史が証明している。それらの是正には相互理解が必須だからね』
「特に教会は、自分達を悪魔や堕天使という
『そういえば、日本では河原で殴り合うと友情が生まれるらしい。いっそのこと、私達も日本の河原で大王派と殴り合うべきだろうか』
「やめとけやめとけ。あの手の連中は殴っても分からねえよ。で、相手の方はどうなんだ?」
『人材の選定には苦労しました。仮想敵が集めた人員にそれなりに釣り合っていないと、余計な疑心を招きますからね』
『これだけいれば確実に勝てるが、あまり圧倒的すぎると確かに疑念が生まれそうだ。個人的に若い者達には、油断しなければ絶対に完勝できるぐらいの任務を与えたいところだが』
『……この場で一番若いサーゼクスに言われると、なんというか肩身が狭くなりそうですね』
「あんま気にすんな、ミカエル。で、敵さんはどんな感じなんだ?」
『
『……新聖刃か。神器保有者の取り込みも兼ねたコマーシャルとして設けられた、若手でありながら最上級の悪魔や堕天使に一人で対抗できる実力者の称号だったか』
「おっかねえよなぁ、サーゼクス。確かウチに流れ着いていたはぐれ悪魔祓いにそんな奴がいたが、和平で見切りをつけてたな。……あいつ、未熟だった頃とはいえ
『それだけの相手が半グレ集団……というのを隠れ蓑しているのは無視できません。特に彼は、神器そのものは比較的行為どまりで他に要素もなく、オーソドックスな強さで序列に数えられる身ですので』
「なるほどな。で、解散前に序列持ってたやつを三人も投入するってわけか。こっちはバックアップに若い連中を多めに入れておいているが、そっちはどうなんだサーゼクス」
『……こちらもミカエル達と似たようなものだ。ただし、従弟のサイラオーグが名乗りを上げていたので抑え役として派遣している』
『どこも和平に反対して抜けた者や、そこまでではないとしても不満や遺恨が残っている者は多いですからね』
『大丈夫だろうか? 共通の敵を持てば収まる者はいるが、必ずしもそうであるわけでもない』
「ま、分担すれば大丈夫だ。それに軋轢起こしてもめるのも想定のうちだろ? いっそのことちょっとぐらいぶつかった方がガスも抜けるだろうさ。……だからこそ、カバーできるよう大人も入れた過剰戦力一歩手前なんだしな」
「……ま、こっそり外周につけてる連中を入れれば圧倒的戦力差だ。これでトチったら世界の危機だっての!」
『アザゼル。日本でそういう発言はフラグなのだが……?』
『諦めてくださいサーゼクス、アザゼルはああいう男です』
この作品はオリジナル展開を初手からぶちかます作品となっていますので、ここからどんどん原作とはズレて行きますです、ハイ。
ただ八割見切り発車ぐらいの即興修正上等が自分に会っているようなので、脳内プロットは大まかにはありますがかなりアドリブでやっております。とりあえず、面白い魔改造プランを組み立て中だったり。
それはともかく、その一環でオリジナルの称号が教会に。
神器保有者がけた違いに増えれば、どの勢力も取り込みなりなんなりとするだろうと思いまして。教会では戦力拡大やそれらの暴走を少しでも抑える名目でこんな称号を作ってみました♪
ちなみに現段階で確定事項ですが、ゼノヴィア・イリナ・フリードは神器保有者になっております。それもあって鳴り物入りになっている感じですね。それ以外にもどんどん神器保有者を増やしていく所存なので、お楽しみに!