与えられた能力は女性を綺麗にする力でした 作:nao
「……よし、じゃあいきますよ、と。準備はいいですか?」
立ち上がった俺は、魔法を発動させる為に手の平がアリーに向かうように片腕を伸ばす。アリーは、そんな俺の動作にびくつきながらも覚悟を決めたように「――は、はい」と答える。目を力強くぎゅっと閉じているあたり、相当怖いらしい。
「あの、そこまで怖がらなくても」
「……う、うぅ」
「……あー、ちなみに、どこを綺麗にしてほしいかは希望はありますか?」
「……ど、どこでも」
だめだこりゃ……。
アリーは相変わらず小動物のようにプルプルと震えている。
そこまで俺、怪しく見えるのか……、まあ見えるか……。
ここは実際に魔法を使って見せるしかないか。地味にショックを受けつつも魔法を失敗しないように意識を切り替えて集中していく。意外にも魔法を使用するには集中力がいるのだ。自分が何をしたいのかを具体的に脳内でイメージする必要がある。俺は一度練習で魔法を使っているが、その時も使用できるまでに結構時間がかかったものだ。
本当は、100G、一回でどこか一部分だけに魔法を使おうと思っていたけど……。
アリーの後方に視線を移すと、アリーと同じ年位の女子四人が、馬鹿にしたようにアリーを見ているのが分かった。それを確認し、俺は突き出した腕に力を込める。
……ま、お客様第一号だし、髪と顔の肌の両方を綺麗にするか。サービスだ。
空腹でフラフラの中、瞳を閉じて懸命に意識を集中する。
そして――。
手の平が輝き出し、徐々に輝きを増していき、アリーを包み込んでいく。
――よし、なんとか一発で成功した。
そんな感想を心で漏らすと同時に、一気に全身に倦怠感が押し寄せてきた。思わず片膝をついてしまう。
……し、しんど。魔法を使うって体力いるんだな……。
例えるなら全力疾走をした直後のような感覚。魔法使いは体力が無いイメージがあったが、案外そうでもないのかもしれない。
「――えっ? え、え?」
魔法による光が収まりつつある中、俺が息を切らしていると、アリーの驚いたような声が聞こえてくる。重い頭を上げて、視線をアリーの方に向ける。そこで俺は思わず息を吞んだ。
美少女が――そこにいた。
腰まで流れたサラサラの真っ黒な髪に陽の光が反射しキラキラと輝く様はまるで宝石のよう。その小さな顔には先ほどまであったシミや出来物が無くなり、キメ細かい肌がアリーの美しさを形作っていた。ボロボロの服装は変わらないが、寧ろそれが芸術性を醸し出しており、幻想さを生み出していた。
姉が、女性にとって美容は重要なことだと言っていた記憶が蘇る。ここまで変わるとは思わなかった。この光景を見てしまうと姉の言葉に納得せざるを得ない。同時に俺の魔法の偉大さを感じる。
「え、な、なにが――こ、これが――私?」
アリーがサラサラになった自分の髪を触ったり、自分の顔をぺたぺたと触り、自分が大変身したことに気付き始めたらしい。鏡でもあれば良かったのだろうが、そんな気の利いたものはここには無い。
アリーは中々落ち着きを取り戻さないが、これが現実だと認識し始めたのか、徐々にその顔に笑顔が浮かんでくる。それを見て俺も素直に嬉しいと感じてくる。
……雑魚いとか思ってたけど、案外いい力なのかもな。
そんなほっこりした気分も「ちょ、ちょっとアリー、あんたよく見せなさい!」と、慌てたような大声によって台無しになってしまう。
先ほどまでアリーを馬鹿にしていた四人組だ。四人はアリーのあまりの変わりように驚きを隠せないようだ。アリーをジロジロと見つめる為、当のアリーは、最初会った時のように青白い表情を浮かべて「あ、ああ……」とびくびくしている。
「……え、嘘でしょう? 本当に綺麗になってる」
「幻惑魔法じゃないの……? いや、どう見ても本物……」
「こんな薄汚い店でこんなことが?」
「――というかこれがたったの100G?」
四人は皆同じ服装をしている。青と白を基調としたブレザーに近いような服装だ。多分だけど、学校の制服だと思われる。
……しかし、この四人も結構皆可愛いな。
四人は比較的裕福な家庭なのか、髪も肌もそれなりには整っている方だ。まあ、姉基準ではまだまだだろうが。そしてアリーには及ぼないものの四人ともそれなりに顔が整っている。スタイルだって悪くない。普通、こういう苛めっ子達ってあまり顔が整っていないパターンが多い気がするけど。
……いや、この四人だけじゃない。
そう、これは異世界に来てからずっと思っていたこと。この町にいる女性は、比較的綺麗な人が多い。というか綺麗な人しかいない。子供から高齢の人まで例外なくだ。一方の男は、皆イケメンというわけではない。男の見た目については日本のレベルとさほど差は無いように思える。これが男女不平等か。
「ちょっと! 私もお願いするわ! 100Gよね?」
俺が考え事をしていると、急にそんな風に声を掛けられる。見ると四人のうちの一人のポニーテールの少女が高圧的な態度で俺に100Gの硬貨を突き出していた。その後ろでは、他の三人もいそいそと100Gの硬貨を用意しようとしていた。どうもこの子がリーダー格の子らしい。最早、アリーは眼中に無いらしい。それほど四人の少女にとってこの魔法はとても魅力的なものだったらしい。
正直、さっき魔法を使った反動のせいで今すぐ寝てしまいたいくらい疲れているがお金を得る為には仕方がない。
「――分かりました。けど、条件があります」
「は? 何よ?」
目の前の少女が苛立った様子で俺に迫ってくる。折角可愛い見た目をしていても性格がこれではモテないだろうななんて感想を抱きつつも続ける。
「そこのアリーという子を虐めるのはもうやめるんだ」
四人から解放されたことでほっとしていたアリーは、突然自分の名前を呼ばれて「――ごほっ!?」と驚き、慌てている。……ちょっと面白い子だな。
「……はあ? どうしてあんたにそんなことを言われないといけないのよ? 関係ないじゃない!」
関係ないのはごもっともだがこのまま苛めを放っておくことはできない。まあ、これも実は姉の影響が大きい。苛めを見つけたら刺し違えてでも止めろと教えられてきたからな……。それに苛めがダメなのは日本だろうと異世界だろうと共通だろう、多分。
「俺が嫌なんだよ。……別に守らなくてもいい。でもその場合、俺は君たちを客とは認めない。早く立ち去ってくれ」
俺が毅然とした態度でそう言い放つと、少女はちらっとアリーの方を見つめて少し考える様子をみせた後、悔しそうにチッと舌打ちする。
「……分かったわよ、元々暇つぶしで遊んでただけだしもう手は出さない、これでいい?」
「よし、契約成立。……じゃあ改めて。一回100Gだから、髪とか顔の肌とかどこがいいかの希望はありますか?」
「はあっ? あいつは100Gで全部綺麗にしてもらってたじゃない!?」
「いや、あの子はお客様第一号だからサービスで顔と髪の両方をしただけです。ちなみにあの子と同じにするなら200Gです。ほら、看板にも1回100Gって書いてる」
俺がそう言うと少女は血管がはち切れんばかりに「あぁっもう!!」と叫ぶと、財布からもう一枚100Gの硬貨を取り出し、「ほらっ! これでいいでしょ、この貧乏人が!!」と二枚の硬貨を突き出してくる。
「……はい、毎度。――では早速」
硬貨を受け取ってポケットにしまい込み、俺は手の平を突き出し少女の顔にかざす。先ほどまで怒り心頭だった少女だが、これから綺麗になれるとあってか、その表情はワクワクしているようだった。性格が悪い子でも綺麗になりたいものなんだな……。
俺が先ほどと同様の要領で集中して魔法を使用する。三回目とあって効率よく魔法を発動させることができた。俺の手の平から光が溢れていく。
「す、凄い! 肌がすべすべよ! 髪もっ! ほらっ! こんなサラサラな髪、見たことが無いわ! これならきっと男も私を放っておかないわ」
少女の無邪気な喜びの声が聞こえると同時に、俺の全身に再び猛烈な倦怠感が襲い掛かって来た。それは疲れ切っていた俺の意識を刈り取るのに十分なほどのものだった。
そのまま俺は気を失った。
「――――ぶですか?」
真っ暗な中、遠くの方から声が聞こえてくる。段々とその声が鮮明になって来て、やがて俺は目を覚ました。まず初めに赤色に染まった空が目に入って来た。意識が朦朧とする。どうも仰向けで寝ているらしい。背中から固く冷たい感覚が伝わってくることから、石畳の上で寝ているらしい。
「あ、あの、……大丈夫ですか?」
横から鈴のような声が聞こえてきたので視線を移すと、そこにはお客様第一号である少女アリーがいた。