機動戦士ガンダム0088 ideal of Titans 作:わいるどうぃーぜる
「ドーバー」が駐屯基地から出撃してから半日後。
「エージェントさんとの待ち合わせの場所はここ、かな。軍用デッキなんだけど……」
着慣れた黒い制服から、タンクトップにウインドブレーカー、長めのズボンと簡素な私服に着替え、小さなボストンバッグを持ったシャルロッテはあたりを見渡す。
緑が形成された居住区とは違う、無重力対応型のクレーンや作業用プチモビが並ぶ殺風景な光景は、待ち合わせ場所というには少々奇妙だった。
その様子は軍港に間違って入り込んだハイティーンの少女、としか見えない。
実際、先ほども警備兵に絡まれかけたが、殴るようなことはせずに身分証を突きつけて黙らせた。
そうして落ち着かなげにあたりを見渡していたシャルロッテが、突然振り向いた。
そこには、いつのまにかでっぷりと太った、悠揚迫らぬを体現したような人物が護衛とともに立っていた。
「おお、シャーロット嬢、相変わらずカンが鋭いな」
「伯父様! 宇宙
「私もいつまでもジャブローのモグラと言われるのは業服なのでな。まあ、ジャブローのオフィスはもう消滅してしまったが。快適だったのだがね」
相変わらずとぼけたような物言いのゴップに、シャルロッテはやや戸惑いながらも、姿勢を正して言った。
「伯父様、この度は色々手を回していただいてありがとうございました」
「なに、子供に範を示すのは大人の義務だ。気にすることはない」
ゴップの言葉に、シャルロッテはかすかにうつむいて唇を引き締める。子供でないことを証明したいがために軍に志願したのに、結局、大人を頼ってしまった。
その様子を見ていたゴップはふ、と微笑むと、後ろに控えている護衛をちらりと見ると、指を鳴らす。
すべて同じ格好のせいか、どこか無機質にも見える彼らのひとりがシャルロッテの前に進み出て、スーツケースを差し出し、開ける。
そこには、黄色く生地が染められている女性用の、連邦軍標準ノーマルスーツがあった。
「伯父様、これは……!」
「さて、『シャルロッテ・ラガルト少尉』、君にはふたつの選択肢がある」
困惑するシャルロッテを見つめながら、ゴップはかつて己の職で行ってきたように、重々しく宣言した。
「ひとつはこのまま私と一緒に同行し、家に帰ること。もう一つは」
そのまま片手を上げると、ゴップの後ろにそびえる耐爆ドアが開いていく。
そこには黒と銀に彩られたモビルスーツ、そう、「ガンダム」が鎮座していた。
顔はゼータ系列だろうか。しかし、細身の体はどこか百式を思わせ、変形機構がないことをうかがわせた。
バックパックからは二本のビームキャノンが伸び、両肩から突き出てることが見て取れる。
「地球連邦軍の少尉として、第31任務部隊が運んでいた『ガンダム・レーヴァン』に乗り、作戦に参加するか、だ。君がテストパイロットとして乗る機体だった、な」
シャルロッテはうなずいたが、その表情には迷いが見える。
「でも、伯父様のお立場は」
「シャーロット。私が提案しているのだよ。そして、大人とは自分で決断するものだ」
諭しながら見つめてくるゴップの瞳を、シャルロッテは逆にのぞき込んだ。次の瞬間、自分のボストンバッグをゴップに投げ渡す。
「舐めないでよね、伯父様! いーい、わたしなら任務をこなしてこの子も無傷で持って帰ってきてあげるんだから!」
「おお、私の知るシャーロットに戻ったようだな? では、あの夏の別荘のときのように、大漁を期待しよう」
「任せて、伯父様!」
その勢いのまま、シャルロッテは跳ねるようにゴップの体に飛び込みぎゅっ、と抱きついた。
そして、そっと耳に口を寄せてささやく。
「でも伯父様、こういうやり方はわたし以外にしちゃ駄目だよ。カンのいいコだと嫌われちゃうから」
「心しておこう」
敬愛する伯父代わりの人物から体を離し、シャルロッテは「ガンダム」を見上げた。
物言わぬ鋼の巨人は、ただじっと自らの操り手を見つめていた。
目の前で、次々にモニターに火が灯っていく。
ノーマルスーツに着替え、コクピットに収まったシャルロッテは、その名前の由来となった「レーヴァン」と名付けられた黒に塗られた外部ユニットが接続され、機体との同期を取っていくのを確認していた。
エゥーゴのスーパーガンダムを範とし、限界のあるモビルスーツの航続距離・行動範囲をユニット接続により「渡り鳥」のように伸ばし、装甲、武装面も充実させることを目的として設計された「ガンダム・レーヴァン」。
それは、かつて計画されたGP計画三号機のコンセプトを元にして、ビグザムクラスのモビルアーマーに対抗するために肥大化した原型から、可能な限り余分なものを削ぎ落とした形にしている。
このタイプの機体に対処するためのアグレッサーとしてペズンに送られるはずだった機体が、いま、シャルロッテの手にある。
「待ってて、みんな」
自己診断プログラムのスキャンが終わり、すべて異常なし、と出た。同時に、整備員たちが一斉に機体から離れていく。
「伯父様、この機体、お借りします」
アイドリング状態だった核融合炉が通常出力まで上がっていく。同時に、ドッキングした「レーヴァン」のポンツーンが「ガンダム」を抱え込むような形へと変形し、「Gフライヤー」と呼ばれる巡航形態へと変形した。ゆっくりと前方の発進口が開いていく。
「いくよ、『ガンダム』! 全てはティターンズの理想のために!」
あのとき上官が啖呵を切ったときの台詞を、シャルロッテが叫ぶのと同時に、出撃指示灯が発艦許可を示すグリーンに切り替わる。
そして、リニアカタパルトは彼女を乗せた白い機体を射出した。それは放たれた矢のように、急速に遠ざかっていく。
「行ったか」
管制室で小さくなっていく光を見つめながら、ゴップはひとりごちる。
「さて、今回は永遠の厄介者とは言えんからな」
手を振り、人払いをさせると携帯型端末を取り出す。
無人となった管制室に呼び出し音がかすかに響き、相手が出る。
「うむ、ご令嬢はいま行ったよ。さて確認だが、彼女を使って君は何を成すのかな?」
相手からの声が返ってくる。
「サイド3のテロ攻撃を防ぎ、連邦支持を上げることにより、アクシズの浸透を可能な限り抑え込んでいきます」
「作戦が失敗したときは」
「後詰めの連邦軍を動かし、サイド3周辺にミノフスキー粒子を大量に散布させ、実質封鎖させます。テロ攻撃を防ぐためとあっては彼らもノーとは言えないでしょう。しかも実質、身内の反抗ですから」
「作戦が成功したときは」
「その時にはわたしの娘は『英雄』になってもらいます。放蕩娘には過分な対応かもしれませんが」
「よろしい。しかし、君はもう少し娘に目をかけたまえ。だから家を飛び出されるんだよ。ジョン・バウアー君」
通話が終わり、ゴップは光が消えていった宇宙空間を見据えた。
「人と違う能力があるというのは大変だな、シャーロット嬢。だが、無事に帰ってきたまえ」
今回はタイトル回収会。
なお、シャルロッテは天然物です。