機動戦士ガンダム0088 ideal of Titans   作:わいるどうぃーぜる

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皆様、ジークアクスは楽しんでいますでしょうか。
わたしも皆と同じようにシイコさんに脳を焼かれたため、IFとして、
「正史で、ティターンズに所属したシイコさん」
をうちのキャラクターたちと絡ませてみました。
ネタバレですがうちのキャラクターがボコボコにされます。


ideal of Titans外伝 魔女の襲来

推進剤の軌跡がモニターに映る。

 

デブリがそこかしこに漂う宙域を、一心に迫ってくる「敵機」、緑に塗られたハイザックに、シャルロッテは自分が駆るハイザック、そのビームライフルの照準を合わせる。

 

「いただき!」

 

操縦桿に付けられたトリガーを引き絞る。

そのとき、いままで画面に大写しになっていた「敵機」が消えた。

 

「ウソ!?」

 

慌てて全周モニターに目を走らせるが、視覚が捉えるより先に、足がフットバーを蹴飛ばす。

 

鋼鉄の巨人の片手が全力で振られると、勢いを失ったコマが転がるように機体が横転した。刹那、いままでシャルロッテ機がいた場所を、マシンガンの連射が襲う。

 

「あらあら、初手はかわされちゃったか」

 

その対抗機のコクピットには、シャルロッテと同じ、群青のノーマルスーツに身を包んだ小柄なパイロットがいた。

 

「なるほど、イステル君の部下らしい、生きのいい子ね」

 

そして彼女、シイコ・スガイは左手をヘルメットのフェイスシールドに当て、薄く笑った。

 

「いいプレッシャー。全力で狩らせてもらうわ」

 

 

 

少し前。

 

「連絡事項は以上です。しかし、教官ご自身が来られるとは思っていませんでしたな」

 

「まあ、不肖の生徒の顔を見たかった、というのはあるわね」

 

「これは手厳しい」

 

強襲揚陸艦「ドーバー」の応接区画。

そこで苦笑いをしながら、コンラッド・イステル大尉は自分と同じ、紺色の軍服をまとった目の前の女性を見る。

 

コクピットに収まるのか、とからかわれるほど大柄、かつ岩を削り出したかのような顔つきの自分とは対照的な、小柄な女性だった。

 

柔らかい雰囲気とその丸顔も相まって、柔和な人形……、日本の「コケシ」だったか、それを思い出す。

 

「ところで、お子さんはお元気で?」

 

「ええ、坊やは元気よ。こういう仕事をしているから夫に任せているけど」

 

「そうですか」

 

コンラッドはほんの少し、悩んだ。だが、直接顔を合わせたからには言わなければならない。

 

「教官、そろそろお子さんの顔を見に行っていいのでは。その、子どもには母親が必要ですし」

 

「考えておくわ」

 

即、帰ってきた答えにコンラッドは内心頭を抱えた。

実質、にべもない拒絶にこれからどう話を続けるか悩んでいると、

 

「たいちょー!」

 

彼のうしろから、呑気な声が聞こえた。

振り返るとコンラッドたちと同じ、紺色の軍服を着たふたりの女性が近づいてくる。

 

「シャルロッテ少尉、士官は品位を保ちなさい。イステル大尉、そろそろ模擬戦の時間ですが、お客様でしょうか」

 

コンラッドが率いる第31任務部隊モビルスーツ隊、その隊員で副官格のトシコ・ヒシカワ中尉は、その怜悧な眼差しを隊長の向かいに座る黒髪の女性に向けた。

 

その視線が一点に止まると、流れるような敬礼を彼女に送った。それを見た赤毛の士官、シャルロッテ・ラガルド少尉も慌てて敬礼をする。

 

視線の先にある襟章の階級は少佐。この場にいる誰よりも階級が上だった。

 

ゆっくりと黒髪の女性は立ち上がり、厳しい「士官の」表情となると、ふたりに答礼する。

 

「あー皆、紹介する。シイコ・スガイ少佐だ。昔、俺の教官をやっていた縁がある」

 

「おー、たいちょーの先生さんなんだ! はじめまし……!」

 

途中まで元気の良かった声に、急にブレーキがかかる。前から見えない角度でトシコの指が、シャルロッテのお尻をつねり上げていた。

 

その顔色の変化を見ながら、彼女……、スガイは微笑んだ。

 

「ふふ、元気ね。ところでさっき、模擬戦の時間、と聞いたけど、わたしも参加していいかしら。機体は持ってきているから」

 

スガイを除く、全員が顔を見合わせた。

 

 

そして現在。

 

「そんな、AMBACであんな機動は出来ないはず……!? あの新型のバックパックのおかげ?」

 

「ドーバー」の戦術管制室。

そこでモニター越しに、シイコとシャルロッテの模擬戦をコンラッドとトシコは観戦していた。

 

いかなるルートで手に入れたのか、スガイのハイザックは開発中の高性能機である「マラサイ」のバックパックを装備した、彼女の専用機としてカスタムされている。

その機体はデブリ漂う宙域の中を、糸で引っ張られるかのような急激な旋回・制動でシャルロッテのビームライフルの攻撃をことごとく回避していく。

 

そのトリッキーな機動に困惑の声をあげるトシコを見て、コンラッドは笑みを浮かべる。

 

「いいや違うな。少佐は一年戦争のときからあの戦術を使いこなしていた。なんせ百機オーバー撃墜のスーパーエースだ」

 

「百……! まさか、連邦の『魔女』と言われたあの……!?」

 

「姓が変わっているから気が付かなかったか? さあ、『魔女』の繰り出す魔法を見抜いてみろ、トシコさん」

 

そう信頼する副官に告げると、コンラッドは視線を再びモニターに落とす。

 

「肉薄されたな。内懐に入られると、ビームライフルを選択したハイザックにとって不利だ。さあどうするシャロ?」

 

 

演習場にて。

 

「ええいっ!」

 

接近警報が鳴り響くコクピットの中で、シャルロッテはためらいなくビームライフルを捨てた。

 

代わりに腰からヒートホークを引き抜く。ハイザックという機体の泣きどころで、機体出力の関係上、ビームライフルとビームサーベルは同時運用ができないのだ。

 

迫る相手のハイザックはビームサーベルを装備しているので、接近戦は不利。

それを見越して遠距離で仕留めるつもりだったが、完全にプランを崩された。

だからといって、あきらめるつもりはない。

 

斬りかかってきたビームサーベルを受け止め、一合、二合と打ち合う。

リーチも威力もビームサーベルのほうが上であるがゆえに、攻めこもうとするとヒートホークでは不利だ。

それでもチャンスを伺うため、受け止めることはできる。

 

「こんのぉ!」

 

目の前で光が弾ける。攻めかかってきたスガイ機の斬撃を、「その軌道を読み取って」すれ違うようにシャルロッテは自機を機動させた。

 

「もらった!」

 

目論見はあたり、その無防備な背中にヒートホークを振り下ろそうとしたとき、いきなり機体の足が引きずられるかのような感触が襲った。

 

「な、なんなの!?」

 

振り回されるかのように体勢を崩され、逆に無防備な背中を晒すシャルロッテ機にスガイ機は斬りかかる。

 

「こんのぉ!」

 

後ろから迫る殺気に対応するシャルロッテの動きは速かった。

操縦桿のセレクターをAMBAC格闘モードに切り替え、シャルロッテ機は後ろに蹴りを繰り出す。

 

それがカウンター気味に腹に決まり、両機は距離を離す。

 

 

「本当に、楽しませてくれる子」

 

かすかに息を荒らげながら、シイコは向き直ったシャルロッテのハイザックを見る。

血走った瞳に歯をむき出しにして笑うその顔は、「ドーバー」の艦内で見せていたゆったりとした表情ではなく、獲物を狙う獰猛な肉食獣のそれに変貌していた。

 

「けれど、そろそろ終わらせないとね」

 

そのまま、スロットルレバーを押し込むと、弾かれたように機体が疾走りだした。

 

 

「来る……!」

 

シャルロッテは一直線に向かってくるハイザック……、スガイ機を見据えた。

次で最後である、と分かっていたがゆえに、一挙一投を見逃さないように集中する。

 

それが、彼女の敗北の原因となった。

 

スガイ機が急加速し、肉薄してくる。

格闘戦で勝負してくる、と見てとったシャルロッテの目の端に、「何か」が見えた。

 

ザクマシンガン。

ワイヤーに繋がれた。

 

そこまで認識した瞬間、無意識に体が動いていた。

 

遠隔操作からの攻撃を避けるべく回避行動に移り、発砲してくるザクマシンガンの射線から逃れるために機体を横滑りさせる。

 

「はい、おしまい」

 

しかし、その機動はスガイ機に飛び込んでしまうことを意味していた。

 

あの引っ張られるような感覚がシャルロッテ機を襲い、背中から抱きとめるように拘束されると、こつり、とバックパックの後ろにビームサーベルの柄を当てられる。

 

実戦なら、コクピットはプラズマに貫かれて骨も残さず焼き焦がされていただろう。

 

どっ、とシャルロッテの額に冷や汗があふれだした。

 

 

数刻後。

 

艦内のブリーフィングルームに集まった隊員たちは、模擬戦の総評に移っていた。

 

「……というわけで、接近戦に移ったときにシャルロッテはイニシアチブを奪われっぱなしだった。すべて受け身では不利になるばかりだ」

 

コンラッドの解説に、直立不動で立つシャルロッテは顔面蒼白のまま、力なくうなずいた。

整備員の話では、到着後ものも言わずにトイレに駆け込み、「盛大に」戻したとのこと。

 

まあ、相当に絞られたからな。相変わらず加減しないひとだ。

 

ちらり、とコンラッドはシイコの方を見る。

つい先ほどのコクピットでの獰猛さは鳴りをひそめ、いつもの温和な表情に戻っている。

 

「さて、これで評価は終わるが最後にシャルロッテ少尉、何か質問は?」

 

「は、はい……」

 

青ざめた顔をあげ、シャルロッテはシイコの顔を見る。

ほんの少しためらってから、彼女はたずねた。

 

「シイコ少佐は、どうしてそんなに乾いて……、鋭いんですか」

 

また変なことを言い出した、とトシコが彼女をたしなめようとしたとき。

 

「なにかを手に入れるために、なにかをあきらめなきゃいけない、ということはないわ」

 

そう、シイコは告げた。

 

「望むものすべてを手にすることができたらどんなに幸せか。別に、選ばれたひとたちだけでなくてもね」

 

薄く笑みをたたえながらも、発せられた言葉は、ひどく真剣だった。

 

 

 

去っていくサラミス級の航跡が、展望室からはっきり見える。

コンラッドとシャルロッテはふたり、宇宙港でシイコを見送りながらたたずんでいた。

 

あの後、シイコは部隊員全員の稽古をつけ、文字通り全員を叩きのめしていた。

皮肉にも一番「保った」のはシャルロッテであり、戦いを見ていたはずの他のふたりは、シイコにとって鎧袖一触、という有り様であった。

 

聖痕戦術(スティグマ・タクティクス)

 

元は通信用ケーブルを利用し、いまは専用のケーブルを使い敵機を拘束、減速させる、あるいは相手の体勢を崩す。それがシイコの魔法だった。

 

一年戦争末期、高速でジム一個小隊を翻弄し、ついには空中分解させ全滅に追いやった「ゴーストファイター」ヅダをはじめ、公国軍のモビルスーツやモビルアーマーは、空間機動性がジムを上回るものが少なくなかった。

 

それらの機動力を奪い、離脱させないように自らの質量をもって拘束する。

また、一対一の格闘戦時にもトリッキーな動きや相手を「崩す」ことにも使われた。

 

講評後、確認されたシャルロッテ機には、片足とバックパックに「聖痕」が刻まれており、2回も使わせたことを褒められたが、シャルロッテの表情は晴れなかった。

 

その戦術を部隊内教本に組み込むべくトシコ中尉は居残り、コンラッドとシャルロッテのふたりがシイコの見送りに来ていた。

 

 

「なあ」

 

コンラッドが口を開く。

 

「なあに、たいちょー」

 

いつもの通り、どこかゆるい口調でシャルロッテは返事をする。

コンラッドはそれに、密かに安堵した。

 

いかに死ぬような目にあったとしても、部隊のエースが潰れてもらったら困る。

 

「お前、あの模擬戦で何を感じたんだ」

 

そう、コンラッドは頼まれていたのだ、シイコの夫となった彼の同期から。

どうかシイコさんの本心を聞いてくれ、と。

 

「んー……」

 

手すりに顔ごともたれかかりながら、彼女はちら、とコンラッドを見る。

猫のようだな、とコンラッドは内心で苦笑する。

 

「たいちょーはわたしがカンがいい、って知っているでしょ」

 

ニュータイプ、ってやつか。

 

ジオン・ズム・ダイクンという夢想家が生み出し、ザビ家によって利用され、地球人口の半分を死に至らしめた思想。

 

そんなものは公的に認められないし、認めたところで「道具として」利用されるだけ。

噂では戦災孤児を使い、人工的にニュータイプとやらを作り出す研究も行われているという。

 

そんなナチスまがいの非道な実験に、大切な部隊員を巻き込むわけにはいかない。

 

だから、あくまでもこの子は「カンがいい」だけにとどめておく。

そう、コンラッドは思っている。

 

「ああ、シャロはカンがいい。それがどうした?」

 

「あたしが負けたとき、感じたんだ」

 

そうして彼女は、窓に映るサラミスに視線を向ける。

 

「あの人の埋めようのない喪失感と、それを埋めようとする渇望を。ねえ隊長。シイコさんは何を失い、何を求めているの?」

 

いつものシャルロッテらしからぬ、真剣な声にコンラッドは考え込んだ。

おそらく、この子は今が素なのだろう。

 

「彼女はな、一年戦争のときにバディを失っている。噂では『親密な』仲だったそうだ」

 

ここで、コンラッドは一息つく。

 

「その後、彼女を支えた俺の同期と結婚したんだ。

だが、子供を産んでもまだ、少佐は戦争に囚われ続けているんだろうか」

 

すべてを欲し、すべてを失う。

 

ふと、どこかで聞いた警句が胸に浮かび上がる。

 

軍人としての名誉、子供という女性の喜び。そのすべてを手に入れてもまだ満たされないのか。

 

それほどまでに、あのバディと結びついていたのか。

 

「よくわかんないけど……」

 

シャルロッテは再度、コンラッドの方を見ると、人好きのする笑顔を浮かべる。

 

「埋まるといいね、シイコさん」

 

「ああ」

 

すでにサラミスの噴射光は、星のひとつと見分けがつかなくなっていた。

 

 

 

時に、宇宙世紀0086。

グリーンノアに住む少年が、刻の涙を見るまで、あと1年。




「ユニカム」や「マヴ」はジークアクス用語なので、あえて使用していません。
この世界のシイコさんは何を見つけられたのでしょうか。
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