機動戦士ガンダム0088 ideal of Titans   作:わいるどうぃーぜる

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接触

その5時間前。

 

 

宇宙、と一言で表現される空間でも、いろんな色彩を見せるものだ。

 

コロニーが集まっているラグランジュポイントでは開放型コロニーのきらびやかな光に、行き交う連絡艇の噴射光が蛍のようにきらめいている。

 

そして、いまペガサス級後期型「ドーバー」が進んでいる航路は、星の光のみがその紫に塗られた姿を照らしている。

 

しかし、静寂というわけではない。

艦の両側に突き出たモビルスーツ用デッキでは、人々の熱気であふれていた。

 

 

「隊長」

 

無重力状態の空間を作業員たちが行き交い、様々なパーツが積まれ雑然としたMSデッキ。そこに怜悧な女性の声が響いた。

 

「ああ、トシコさん」

 

振り向いたのは整備員と話していた男だった。

その姿は巌、という表現がぴったりの男だ。パイロットというより格闘家と言われたほうが似合いそうなその体格は、身にまとう黒を基調とした制服が窮屈そうに見えるほどだ。

 

 

「機関の調子は復旧したそうです。このままならペズンに着くのは予定より2日遅れ、1月25日です」

 

 

声をかけた女性は連邦軍のモビルスーツ、その戦技データの供給を司る教導団が駐屯する基地の名を出した。ふむ、と男は首をかしげる。

 

 

「いかに後期型といえども、ペガサス級だからな。もう建造されて10年近い。ハライタも起こすさ」

 

 

隊長と呼ばれたティターンズ将校、コンラッド・イステル大尉はその顔に似合わぬ人懐っこい笑みを浮かべた。その笑みを見て、コンラッドと同じ制服を着た黒髪の女性、トシコ・ヒシカワ中尉は眉間にしわを寄せる。顔立ちは美しい、と評していいが、まとう怜悧な雰囲気が魅力を損なっている。

 

 

「隊長、遅れを受容するようなことをみだりに口に出すものではありません。そもそも……」

 

「え、なになに? 着くのはあと二日? たのしみー♪」

 

 

小言を口にだしかけたヒシカワの顔が上を向いた。ふわり、と後ろで結ばれたポニーテイルが波打つ。

 

その冷たい視線の先には、赤毛をショートボブにした少女がいた。

胡坐をかくような格好で、口の端にパイロット用のスポーツドリンクチューブを咥え、上下逆の姿勢でゆっくりと近づいてくるその姿は、身に着けてる黒い制服より、学校の制服を着せたほうがよほど似合っているように見える。

 

 

「シャルロッテ・ラガルド少尉、訓練は終わったのか」

 

「終わったよー。新人君はなんと、5分保つようになりました! すごいねー!」

 

 

にぱ、と破顔するシャルロッテの後ろから、精魂尽き果てた、というような長身の男が顔を出す。

 

 

「なんとか、食いつけるようになりましたっす……」

 

 

その表情を見て、コンラッドはにやり、と笑う。

 

 

「だいぶ絞られたようだなアイランド少尉。しかし、配属当初に比べればだいぶマシになってきたぞ。結構なことだ」

 

「はい……、一年戦争のころからのベテランの方に、そう言ってもらえるのは有難いっす」

 

 

アフリカ系の血を色濃く備えた長身の男、カイル・アイランド少尉は冴えない声で答えた。もとより黒い肌というのも相まって、顔色が必要以上に青く見える。

 

 

「ペズン楽しみだなー。むこうにはゼク・アインとかあるんでしょ? ひょっとしたらツヴァイにも乗れるかも。それにいま運んでいる機材も使えるし、向こうに着いたらカイル、また特訓だよ!」

 

 

器用に体を回転させ、床に降り立った呑気なシャルロッテの言葉に三人は三人なりの反応を見せる、コンラッドは仕方のないやつだ、と片目をつぶり、トシコは氷点下の視線を送り、カイルは勘弁してくれ、という表情になった。

 

 

「こらシャル坊、アグレッサーのテストパイロットに選ばれて浮かれてるのはいいが、手前はもちっと機体を丁重に扱え」

 

「うえ、おやっさん!」

 

 

慌ててシャルロッテは振り向くと、背後の人物に直立不動の姿勢をとった。この艦「ドーバー」の建造当初から配属されているとうわさされる、ベテランの整備班長が立っていた。

 

 

「手前はスラスターを無駄に動かしすぎる。それに加えてAMBACも激しいからサーボモーターの消耗がひどいし手間がかかってしょうがねえ。推進剤消費も馬鹿にならねえぞ」

 

「あうううう……」

 

 

さすがに機体を整備してもらい、さらには自分の年齢よりも長く軍隊の飯を食べている人間にはエリート部隊とうたわれるティターンズの威光も通じにくい。助けを求めるように周囲を見渡すが、三人はそろって視線を逸らす。

 

そういう、部隊の「日常」が繰り広げられているとき。

 

 

「連絡。コンラッドMS隊長、至急ブリッジに来られたし」

 

 

流された一本の艦内放送で、刻は動き出す。

 

 

 

そして現在。

 

コンラッドの大音声が響き渡った直後のザクの動きは早かった。

 

一機が迎撃するために反転し、あわててノーマルスーツのパイロットらしき人間がシャトルから飛び出してくるのが確認できる。

 

しかし。

 

「甘い甘い!」

 

二条のビームが闇を切り裂き、正確にゲターの推進器を吹き飛ばす。先行し、ゲターの下腹に潜り込んでいたシャルロッテ隊の攻撃だ。拡散率と出力を絞られたビームの一撃は、見事にゲターのエンジンだけを吹き飛ばしていた。

 

それを確認したコンラッドのマラサイはスラスターから炎を噴射し、一気に反転したザクに向けて突進する。

慌てたようにザクはその手に持つ銃、ザクマシンガンを乱射するが、真っ直ぐに向かってきているはずのマラサイに当たらない。

 

スラスターを精密に操り、真っ直ぐ飛んでいるように見せかけつつ進行方向に角度をつけ、敵の照準を巧みに狂わせながら、コンラッドはトリガーを引き絞った。

 

一撃はザクマシンガンを腕ごと吹き飛ばし。

二撃目は推進剤を満載したランドセルに当たらない角度で、コクピットだけを蒸発させる。

 

 

僚機の無力化を尻目に、パイロットが乗り込んだもう一機のザクはバーニアを全開にして逃走を図る。が。

 

 

「落とすな。生け捕りにしろ」

 

「おまかせあれー♪」

 

 

盾に「03」のステンシルが描かれたもう一機のマラサイが、派手なバレルロールをしながらザクの前方に回りこむ。

行く手を塞がれたザクは、とっさに腰からヒートホークを抜き、振りかざすが。

 

がら空きになった右足が吹き飛ぶ。

 

間髪入れずヒートホークを振り上げた右手が吹き飛ぶ。

 

左足も左手も同様の運命をたどり、安定を失い、でたらめに回りだした胴体を、コンラッドのマラサイががっちりと掴んだ。

 

 

「カイル、初撃お見事!」

 

「相変わらず無茶やりますね……」

 

 

ライフルを構えた「04」の識別番号が書かれたマラサイがシャルロッテ機の隣に並ぶように位置取りする。

そのまま二機は、ザクのコクピットにまだ発射直後で赤く光るビームライフルを向けた。

 

 

「よし、それでは容疑者の確保に移る。俺が乗り込むからシャロとカイルはそのまま銃口を突きつけておい……」

 

「隊長! そいつから離れて!」

 

切羽詰まったその声に、コンラッド機は反射的に胴体だけとなったザクを突き放す。同時に核融合炉を暴走させたのか、ザクは大爆発を起こした。

 

「シャロ! 助かった!」

 

ガンダリウム合金で装甲されたマラサイといえども、推進剤を巻き込んだ核融合炉の爆発にはただでは済まない。しかし、爆炎の中から現れたコンラッド機は、塗装に傷が目立つが無事であった。

 

礼を言うコンラッドの声に安堵のため息をつきつつも、シャルロッテは独り言ちた。

 

「まったくもう、何が『ジーク・ジオン!』だよ」

 

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