機動戦士ガンダム0088 ideal of Titans   作:わいるどうぃーぜる

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流動

0088.1/25 AM10:30

「ええ!? いきなり哨戒任務なの? 聞いてないよ!?」

 

パイロット控室、という名の娯楽室と化した部屋に、すっとんきょうな声が響き渡る。

 

そこには駒をつまんだまま、あからさまに嫌そうな顔を向けるシャルロッテと、ゲーム真っ最中のチェス盤を挟んで目を丸くしたカイル、そして二人にタブレットを突きつけているトシコがいた。

 

 

「口を慎めシャルロッテ少尉。すでに哨戒スケジュールは組んである。それともいま私がやっている暗号解読の方をやるか?」

 

「い、いやその……、どちらかというと哨戒の方を……」

 

 

ひたすら地味な作業をやり続けるのにはまったく向いていない、良く言えば生粋のパイロット気質、悪く言えば脳筋気質であることを自他ともに認める娘は、目の前に差し出された画面を不承不承見て、ええ、と再度不満の声をあげた。

 

 

「一番手! それも今すぐじゃないですかやだー! それにごはんの時間をまたいじゃう!」

 

「ちゃんと残しておいてやる。あとサービスで温め直しておいてもやる。私としてはランチ抜きで続けて二直目をやってもらってもいいんだぞ? 早く行け」

 

「オニ! アクマ! 冷血ふくちょー!」

 

 

盤面に駒を叩きつけるように置き、ぷりぷりと怒りながら、それでも素直にシャルロッテは控室を出ていった。

その様子を首をすくめて見ていたカイルが尋ねる。

 

 

「しかし、どうしてまたいきなり哨戒任務なんすか? あと3時間もすればペズンの領空域っすよ」

 

「もうすぐ領空域だから、だ。仕掛けるならな」

 

「いやまさか、なんぼなんでも連邦軍の教導団の鼻先でコトを起こす馬鹿はいないっすよ」

 

 

カイルの軽口に、トシコはクルーに「氷の女王」と恐れられる冷たい瞳で、カイルを見下ろした。

蛇に睨まれたカエルのように硬直するカイルを見つめたあと、ふ、と盤面を指して言った。

 

 

「Rh8。チェックメイト。シャルロッテが戻ってきたら次はカイル少尉、お前の番だ。準備しておけ」

 

「え、ちょ、ホントだ! いつの間に……」

 

 

盤面を見直すカイルを尻目に、トシコは控え室を出る。

騎士は盤面に置かれた。あとは「対手」がどう出てくるか。

 

 

「……と、いうわけでいま出てるってわけ」

 

「あはは、そりゃシャロちゃんも災難だ」

 

0088.1/25 AM11:56。

艦長は休憩に入り、もう少しで目的地に到着する、という状況ではどうしても気が緩む。「ドーバー」のブリッジでも例外ではなく、通信オペレーターは哨戒機相手に無駄話に花を咲かせていた。

 

 

「そうだよーふくちょーが哨戒しろしろってうるさいから一回りしてるだけだし。だいたいうちの艦がやられるわけ無いじゃん。異常なんてないない」

 

 

くるん、とブリッジから見える位置で、シャルロッテが駆るマラサイ高機動型が華麗に宙返りをする。

 

原型機が重装甲がゆえに、機動性という点においていま一歩であることを、この機体は改善している。

結果、参考にされたザクⅡ高機動型と同じ、稼働時間が低下したというデメリットを除けば、部隊のパイロットに好評を持ってむかえられていた。

 

 

「まあそれも軍隊ってやつね。どうしてもビシッとさせる、ということにお偉方はこだわるから……ん?」

 

 

そこまで軽口を叩いたところで、オペレーターは通信が入っていることに気づいた。

 

 

「ペズンから……? 本艦宛ではない、全域放送……? ちょっと、何これ!」

 

 

ペズンから発信された放送を聞く、オペレーターの顔色がみるみる変わっていく。

 

 

「ごめん、シャロちゃん通信を中断するね。艦長、MS隊長は至急ブリッジにお願いします」

 

 

血相を変えたオペレーターの様子に、ブリッジがざわつく。その喧騒を聞きながら、マラサイのコクピットに座るシャルロッテは、全周モニター越しに周囲を見渡していた。

 

 

「なにか、いる。なに、このざらついた感じ……」

 

 

その少し前。

 

 

「中々破れんな」

 

 

艦の情報中枢ともいえるCICで、コンラッドとトシコは、シャトルから回収された携帯メモリの暗号解読を行っていた。

 

 

「これはジオン軍のレベル5暗号です。時間をかければ解けますが、暗号表がなければ、解読にとにかく時間がかかるように作ってあります」

 

ふむ、とコンラッドは眼の前のモニターを見つめる。暗号解読自体はほぼ自動化されているが、まだまだ意味を成さない図形、単語が踊っている。

 

 

「それと、シャトルの乗員の身元がわかりましたが、一つ問題が」

 

「なんだ?」

 

「彼、アナハイム・エレクトロニクスの社員ではありません。身内です」

 

「なんだと!?」

 

 

自分のデスクから立ち上がり、コンラッドはトシコのデスクのモニターをのぞきこんだ。そこにはシャトルで映された動画と、連邦軍の制服に身を包んだ証明書らしき写真が並んでいた。

 

 

「顔認証で判明しました。ペズンの情報士官です。現役であることも確認できました」

 

「なぜペズンの将校が、わざわざアナハイムの社員に化けて一体何をやってる……?」

 

 

急に疲労を感じたコンラッドは眉間を揉んだ。くそ、状況が交錯しすぎてて何がなんだかさっぱりわからん。

 

その時、艦内放送が鳴り響いた。

 

 

「艦長、MS隊長は至急ブリッジにお願いします」

 

 

0088.1/25 PM12:15

 

「何事かね」

 

 

上着を袖に通しながら、サウス艦長が艦長室から直接降りてくる。

やや遅れて、コンラッドとトシコも入室したのを確認して、通信オペレーターは録画した映像を再生する。

 

 

「……もはや、スペースノイドにおもねる地球連邦政府に義はない。我々はニューディサイズと名のり、地球連邦軍からの離脱を宣言する……」

 

 

「ブレイブ……! 一体何が!?」

 

 

決起の演説を行っている男を見て、コンラッドは愕然とする。それはまさしく、ペズン駐留連邦軍教導団の実質的司令、ブレイブ・コッドだった。

 

 

「なんということだ……、これでは今回の任務そのものが破綻してしまう」

 

 

同じく驚愕しているサウス艦長と上官を落ち着かせるように、トシコが冷静に話し始める。

 

 

「とにかく、このままペズンに入港するわけにはいかなくなりました。アグレッサー機とはいえ、反乱者にむざむざ有力な機材を渡すわけにはいけません」

 

 

サウス艦長は二度、三度と首を振り、深呼吸をする。そして帽子をかぶり直し、不安そうに見つめる艦橋クルーに声をかけた。

 

 

「諸君、聞いてのとおりだ。我々は至急、現宙域を離れ、サイド3駐屯地に帰還す……」

 

 

「隊長!」

 

 

その言葉を遮るように、艦橋に切羽詰まったシャルロッテの声が響き渡った。

 

 

「9時、上角20度、なにか来る! 隊長、回避を!」

 

 

それを聞いたコンラッドはとっさに大音声を発した。

 

 

「回避運動始め!」

 

 

慌てて操舵手が舵を回し、一気に艦が傾く。その瞬間。

 

 

一条のビームが、「ドーバー」を襲った。

 

 

高出力のビームが着弾する不気味な振動が艦橋を揺らした。

 

 

「被害状況知らせ!」

 

 

サウス艦長の命令に、艦内オペレーターが被害診断プログラムを起動する。モニターに、左舷エンジンに被弾したことを示す赤いマークが点滅していた。直後、機関室からも報告が入る。

 

「こちら機関室! 左舷補助エンジンに被弾、主機ミノフスキー場不安定化、出力落とします!」

 

 

切羽詰まった報告が飛び交う中、コンラッドは状況の急変に対応すべく心のスイッチを入れ替える。

 

 

さあ、なんでも来い。

 

 

そう、心を鎮めたときだった。

 

 

「隊長、敵機体発見! こいつ……」

 

 

シャルロッテの声が、再度艦橋にこだまする。

 

 

「こいつ、『ガンダム』だ!」

 

 

 

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