機動戦士ガンダム0088 ideal of Titans   作:わいるどうぃーぜる

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今回は戦闘回。
書いても書いても終わらなかった……。


濁流

「なんだと、ガンダム!? エゥーゴか! シャロ、Zか、それともマークⅡ強化型か!?」

 

 

平常心を吹き飛ばすような報告に、コンラッドの叫びがブリッジに響き渡る。直後に帰ってきたシャルロッテの返事は。

 

 

「やったああああああガンダムと勝負だ! 一度戦って」

 

 

そこまで伝えて、通信は雑音に包まれた。

 

 

「あのバカ! シャロ、一体どうした!」

 

「ミノフスキー粒子の濃度、急速上昇! 戦闘濃度まで上がっていきます!」

 

「なんだと!」

 

 

オペレーターからの報告に、コンラッドは愕然とした。ミノフスキー粒子散布は煙幕のようなもので、目標を追跡しながら展開できるというものではない。

つまり、少なくとも航路を予測し、待ち伏せをしないといけないが、濃度が上がっているということは。

 

 

「我々は、はめられたというわけか」

 

 

絞り出すような艦長の一言に、「ガンダム」の名前で動揺していたコンラッドの心が一気に落ち着いていく。

ぐっ、と奥歯を噛み締め思考を回転させ、いまの状況の最適な判断を引き出していく。

 

 

「艦長はCICに移動を。防空戦闘はわたしが指揮を取ります。トシコは防空指揮所に上がれ」

 

 

もうこの状態ではモビルスーツで出撃はできない。核融合炉の始動、推進剤の充填ほか前準備をやってたら前世紀のナグモ・タスクフォースの二の舞だ。

ならば、艦長に操艦を任せ、モビルスーツの特性を知った自分たちが防空戦の指揮をとるのが合理的である。

 

 

「任せた。頼むぞ」

 

「了解しました」

 

 

その判断にうなずいた艦長は、副操舵手に操舵をスイッチさせて操舵手とともに艦の中枢部にあるCICに、トシコも戦闘艦橋直上にある防空指揮所に移動していく。

 

残ったオペレーターが次々と指示を出し、手空きの人間は宇宙服に身を包んでいった。

 

 

「モビルスーツデッキの人員は至急退去せよ。敵襲につき与圧を抜く」

 

「対空機銃座展開完了。迎撃準備よし」

 

 

船体の両脇に設けられたバルジから、種が芽吹くかのように次々と格納式のレーザー砲座が顔を出す。即座に戦闘態勢に移行できたのは、幾多の実戦をくぐり抜けてきた艦とクルーということを示している。

 

 

「敵モビルスーツ確認。形式は……、リック・ドム!? エゥーゴじゃないの!?」

 

 

防空指揮所、モビルスーツのコクピットを応用した全周モニターについたトシコは、迫りくるモビルスーツ群を確認して困惑の声をあげた。

 

9年前、一年戦争のときにジオン公国軍が開発したモビルスーツ、通称「リック・ドム」は、旧式化が進んでいるためティターンズと敵対する組織であるエゥーゴでは使われていない。

 

滅多にないトシコの動揺した声に発破をかけるように、コンラッドは叱咤した。

 

 

「いまは考えるな! 機数知らせ!」

 

「申し訳ありません、機数3機、1時下方30度から突っ込んでくる!」

 

「敵の狙いはMSデッキだ! 取舵10、下げ20!」

 

「機銃群、前方に火力集中!」

 

 

サウス艦長の号令とともに、「ドーバー」の巨体が一気に傾く。投影面積を減らし、レーザー砲を一門でも敵機に指向させるためだ。続けてコンラッドの命令に従い、右舷・左舷のレーザー機銃が一斉に射撃を開始する。

 

狙うべき戦艦の機動を確認したリック・ドム小隊は、即座にその黒と紫の丸っこい機体を横滑りさせるが、遅れた一機が火線に絡め取られ、爆散する。

 

しかし、残った二機はさらに肉薄、ジャイアント・バズを発射し、それはやや狙いは甘いものの、「ドーバー」を捉えた。

 

衝撃が、ブリッジを襲う。

 

 

「右舷前部MSカタパルト被弾! 損傷大!」

 

 

セオリー通りか。まずは発進口を潰して、それから反転、機関かブリッジを狙ってくる。

 

コンラッドはモビルスーツでの対艦攻撃の方法を思い返しつつ、次の取るべきアクションを考える。

 

その時、

 

 

「カイル・アイランド少尉、右舷リーディングエリア到着。上部発進口展開願いますっす」

 

 

いつもの通り、呑気ともいえるような声がブリッジに届いた。

 

 

「カイル! なぜそこにいる!」

 

「先輩の次がオレの哨戒だったんでモビルスーツの中で待機してたんっす。コクピットなら下手に避難するより安全っすから。それに……」

 

 

いままでの朴訥な口調が、急に引き締まった。

 

 

「シャロ先輩のマラサイ、そろそろ推進剤が切れるっす。早く行ってあげないと」

 

 

その言葉にコンラッドは凍りつく。なんたる失態。哨戒が交代直前だということを失念していた。

部下の推進剤残量の把握は隊長の第一の役目なのに。

 

さらに追い打ちをかけるように、切羽詰まったトシコの報告が耳朶を打つ。

 

 

「隊長! シャルロッテの動きに余裕がなくなってきました! おそらく推進剤が限界です!」

 

 

コンラッドは、自分に5秒だけ迷う時間を与えた。宝石のように貴重な秒数を費やして結論を出す。

 

 

「艦長、発艦許可を願います。上部折りたたみカタパルトは使えますか」

 

「最近使っていなかったが、整備は行っている。やれるか」

 

「やらなければ『ドーバー』は沈みます。やってみせます」

 

「よろしい。上部発進口開け!」

 

 

そして、「ドーバー」よりやや離れた宙域。

 

 

「本っ格的にヤバくなってきた!」

 

 

フットバーを蹴飛ばしながら、シャルロッテは叫んだ。眼前のモニターには、胴体、脚部ともに推進剤が10%を切ったことを示す警報が流れている。

 

 

「この、『ガンダム』め!」

 

 

シャルロッテの駆るマラサイは、彼女の叫びとともにビームライフルを連続で撃つが、そのことごとくが外され、それに倍する連射速度のビームが飛んでくる。

 

 

「何あれ! どんだけおっきいジェネレーター積んでるの!」

 

 

推進剤が切れかけているからこそ、機体は軽く、運動性が上がっているがゆえに回避に徹していればそうそう撃墜はされない。

 

しかし、それはジリ貧に陥っているということも示している。

 

 

「なんとかしなきゃ、なんとか……」

 

 

迫りくる破滅の時を見据えながら、シャルロッテはひたすらに相手の隙をうかがっていた。

 

 

そして、ドーバー艦上。

 

 

「面舵一杯! 続けて右舷の下部スラスター吹かせ!」

 

 

サウス艦長の操艦指令に従い、舷側に並ぶレーザー砲を、上方より襲い来る敵機に向けるべく操舵手が艦を操るが、エンジンの被弾のせいもありその動きは巨鯨のように鈍い。

 

それをリック・ドム隊は見逃さなかった。

 

レーザー砲の分厚い火箭が自分たちに向く前に、回り込むように機動し、ジャイアントバズを撃ち込んでくる。それはあやまたず、光を瞬かせるレーザー砲群を襲った。

 

 

「左舷機銃群に被弾! 機銃BからD、Fからの信号途絶! 通信アンテナ被弾!」

 

「左の防空エリアに大穴があいたか!」

 

 

被弾の衝撃に耐えた直後に、オペレーターが読み上げる被害報告にコンラッドは歯噛みする。

 

その傍らでは、発艦担当のオペレーターが、額に汗を浮かべながらカイル機の誘導を行っている。

 

 

「上部カタパルト展開よし。ガイドビーコン……、点灯しませんが支障なし」

 

「リーディングエリアよりカイル機、上部カタパルトエリアに移動しました」

 

 

象が鼻を伸ばすかのごとく展開したカタパルト基部に、下部格納庫から姿を現したカイル機は射出器に脚部を固定し、加速に備えて腰を落とす。

 

 

「カイル機、発進! ……!?」

 

 

発艦オペレーターがスイッチを押すが、反応しない。再度押すがやはり反応がないことを認め、顔色がみるみる青ざめていく。

 

 

「カタパルト反応なし! 電路故障のようです!」

 

「脚の固定を外してくださいっす! そのまま行きます!」

 

 

カタパルトによる加速がなければ、十分に速度が乗る前に、すでにスピードが出ている敵モビルスーツに翻弄される危険性がある。しかし、置物のまま撃破されるのは耐え難い。

 

MS隊長として、決断を下そうとしたときだった。

 

 

「よう、お前さん方お困りのようだな」

 

「親父さん!?」

 

 

急に入ってきた第三者、整理班長の声に、コンラッドは驚きの声をあげる。

 

通信の箇所を確認すると、カタパルト前方に設置された発着艦誘導所からだ。ブリッジからでも半球状の透明ドームに、かすかに人影が見える。

 

 

「さっきの被弾で避難所の電源が切れたから、もしやと思って来てみれば案の定だ。こっちで再起動する」

 

ほどなくして発着艦灯が灯り、ガイドビーコンが進路を照らす。

 

その瞬間、下方からリック・ドムが艦体と交差するように上方に抜けていく。発進直前のカイル機を確認したのか、慌てて反転しようとするが、十分に加速がついた機体は中々振り向けない。

さらに、残ったレーザー砲も二機の進路を邪魔するようにばらまかれ、時間を稼ぐ。

 

 

「いける! もういいおやっさん退避を!」

 

「もう間に合わねえ」

 

 

淡々とした口調にカイルは絶句した。

 

 

「カイル、このフネを、シャロ嬢ちゃんを守ってやれ。任せたぞ」

 

そしてカイルは見た。進路クリア・発進の指示を示す、指を二本突き出し真っ直ぐに前方を指す、整備班長の姿を。

 

 

「……カイル・アイランド、行きます!」

 

「敵機直上、急接近!」

 

 

トシコの絶叫と、カイルの叫びが交差し。

 

「ドーバー」の右舷格納庫上部に、火柱が上がる。そして。

 

 

その爆炎の中から、蒼く塗装されたマラサイが、宇宙を駆ける。

 

マラサイは、乗り手の意志を示すかのようにモノアイを光らせた。

いまだ母艦に取り付こうとする敵に、その手に持つビームライフルが光を放った。

 

 

 

「右、左、左……」

 

 

ビームライフルの射撃をかわしつつ、シャルロッテは相手の動きをひたすら観察していた。そして相手の動きがある一点に来たとき、くわっ、と目を見開く。

 

 

「そこだ! とっておきだよ!」

 

 

マラサイ高機動型の隠し玉、シールドに増設した三連ミサイルポッドからミサイルを斉射する。クレイ・バズーカの弾頭と似た散弾式の弾頭が転回しつつあった「ガンダム」の鼻先でばらまかれ、「ガンダム」は急ブレーキをかける。

 

 

「もらった!」

 

 

その隙を見逃さず、スロットルを全開に叩き込みシャルロッテは相手に突進する。左腰からビームサーベルを抜刀し、左手から伸びた黄色い刃が宙を裂いた。

 

あっという間に「ガンダム」に肉薄していくシャルロッテがその刃を振り下ろそうとした刹那。

 

それは偶然ではなかった。

 

まるで蛇が鎌首をもたげるかのように、円盤状の物体が両機に割って入ったのが見え、対処できたのは、彼女の並外れた反射神経と、鍛えられた操縦技術のたまものだった。

 

その円盤状のものが光るのと、サーベルを振り下ろさずにマラサイの右手が自身のコクピットを守るのと、ほぼ同時だった。

 

 

「ビームライフルが!」

 

 

右手の上腕部が吹き飛びつつマラサイは「ガンダム」と交差した。シャルロッテは機体を反転させ、牽制のために頭部バルカン砲をばらまいていく。

 

 

「何あの武装! 知らない! でももう一回!」

 

 

バルカンの弾が切れるのと同時に再突撃をかけるべく、シャルロッテはスロットルレバーを握りしめる。

しかしその時、コクピットに警報音が鳴り響いた。

 

 

「しまった、推進剤切れ!?」

 

 

ランドセルに残っていた推進剤の最後の一滴を使い尽くし、マラサイは主推進力を失う。それを見てとったか、「ガンダム」は勝ち誇るようにビームライフルを撃ちかけてくる。

 

 

「まだまだ!」

 

 

即座に機体をマニュアルに切り替え、辛うじて推進剤が残っている脚部のバーニアを使い、まるで跳ねるようにマラサイは回避していく。

しかし、それも限界が近づいてきていた。

 

 

「手こずらせおって。たかが量産型モビルスーツが『ガンダム』に勝てるとでも思ったか」

 

 

そのパイロットは舌なめずりをするかのように、ビームライフルを乱射し、青く塗られたマラサイを追い詰めていく。

 

 

「だが、そろそろおしまいだ。死ね」

 

 

ロックオンカーソルが縦横無尽に跳ね回るマラサイに忍びよっていく。その光景に、パイロットは歪んだ笑みを浮かべる。

 

だから、気が付かなかった。

 

自身の機体がロックオンされた、という警報に。

 

 

「何っ!」

 

 

突如、「ガンダム」は反転し、盾を構える。当時に、盾が蒸発するように吹き飛んだ。

 

コクピットのモニターに、全速で迫ってくるもう一機のマラサイが映し出される。それを見て取ったパイロット、ジョン・カッシングは悪態をついた。

 

 

「あの雑魚どもは何をやってる! ええい、ここでこれ以上『ガンダム』を傷つけるわけにはいかん、撤退だ!」

 

 

そして白い機体は、反転し去っていった。

 

 

「……先輩! シャロ先輩!」

 

 

完全に推進力を失い、漂流状態に陥ったマラサイを捕まえ、停止させるとカイルはコクピットを開き、中破状態のマラサイに取り付く。

すると、ハッチが開いていく。

 

「先輩、大丈夫っすか!」

 

覗き込むと、ぐったりとパイロットシートに倒れ込んでいるノーマルスーツ姿のシャルロッテの姿が見えた。慌ててカイルは操縦室の中に潜り込む。

 

 

「おなかすいた……」

 

 

天を仰いだまま、ぼそりとつぶやいた先輩の言葉に、カイルは体勢を崩しかけた。のろのろと上体を起こしたシャルロッテは、カイルのそんな姿を見て、にこ、っと笑う。

 

 

「助けに来てくれてありがとね、カイル」

 

「まったくもう、無事でよかったっす」

 

 

手を取り合い、コクピットから抜け出す二人の目に、満身創痍だが、いまだその威容を見せつける、「ドーバー」が近づく姿が映った。

 

 

 

 

班長、約束、守れました。




この時代の艦船のMS対策は、

・とにかく分厚い対空砲火で寄せ付けない、もしくは積極的に撃墜を狙う
・当たっても「被害が少ない」場所に当てる

方面に特化しているのではないかと推測して描写しました。

何しろ相手は対策しなければ、「ブリッジの至近まで肉薄してバズーカ撃ち込んでくる」ほどの機動性を持つ化け物ですので。
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