機動戦士ガンダム0088 ideal of Titans   作:わいるどうぃーぜる

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今回も原作キャラが出ます。が、変化球と思う人もでるかも。


決意

それからの動きは早かった。

 

 

連邦軍経由の正式な命令が届けられ、放置状態だった「ドーバー」の修理が一気に行われていく。

 

といえども、作戦開始日まで3日しか時間的余裕はなかったので、行われた修理は、

 

・右舷モビルスーツデッキは復旧せず

・損傷した対空レーザー砲は格納機構を省略、むき出しのまま搭載する

・エンジンはメインエンジンのみ調整、破損した副エンジンは修理せず

・通信用アンテナはユニットごと全交換

 

という戦時の突貫工事そのものとなった。

 

幸いにも、左舷モビルスーツデッキはほぼ無傷だったためにコンラッド隊のモビルスーツ3機を整備、発艦させるのには支障はない。

 

それでも問題は山積しているので、シャルロッテと別れたあとのコンラッドとトシコは、ほぼ不眠不休でチェックやスケジュール調整に明け暮れていた。

 

そして出撃前日。

ふと、コンラッドは書類が映し出されたモニターから顔をあげた。こりにこった肩をほぐすように首をぐるりと回すと、オフィスから出ていこうとして、トシコからの視線を浴びる。

 

 

「煙草吸ってくる」

 

「吸わないでしょう。それに、原則コロニー内は禁煙です」

 

「んじゃコーヒーで」

 

「お早いお戻りを」

 

 

オフィスを出て、休憩所へと足を進めようとしたが、ふと思い立ち逆の方向へコンラッドは歩を進める。

 

しばらく歩くと、カーテンで区切られた区画が見えてきた。「ドーバー」の紋章をあしらったそこをくぐり抜け、扉をノックする。

 

 

「入りたまえ」

 

 

「艦長室」とプレートがかけられたそこをくぐると、戦闘艦とは思えないほど気品のある部屋が目に入る。

 

この部屋の主であるサウス艦長はコンラッドの姿を認めると、デスクの椅子から腰を上げ、ソファを勧めた。彼が腰を落ち着かせると、自らも対面に座る。

 

 

「出撃前日とあってはさすがに酒というわけにはいかんな。コーヒーを出そう。厨房から直送の挽きたてのやつだ。艦長の特権というやつだな」

 

「有り難くいただきます」

 

 

しばらくして、艦長付きの従兵によって持ってこられたコーヒーは、普段カフェイン補給のために飲むものとは比べ物にならない味と香りだった。

久しぶりにコンラッドは地球の味、というものを堪能した。

 

 

「やはり、サイド3駐留艦隊は動かんそうだ」

 

 

コンラッドが飲みきったところを見計らって、サウス艦長はぽつりと切り出した。

 

 

「いざというときの最後の盾ですからな。いたし方ないかと」

 

「その代わり、ジオン共和国軍が同行するらしい」

 

「彼らですか」

 

 

内心の失望を押し隠しつつ、コンラッドは応える。

 

ハイザック主体のジオン共和国軍は、確かに残党より機材の質では上回っているがとにかく士気が低く、下手すれば内通の危険すらある。

 

特に、スペースノイドから蛇蝎の如く嫌われているティターンズの士官が率いるとなればなおさらだ。

 

 

「まあ、なんとかなるでしょう。というよりなんとかします。もうこうなっては意地でもありますから」

 

「意地か」

 

 

サウス艦長は自らのカップに残っていた黒い液体を飲み干した。そのままソーサーに置くと、改めてコンラッドと向き合った。

 

 

「ひとつ聞いておきたい。君がそこまでこの作戦にこだわる理由とはなんだ? 確かにカッシング大佐の裏切りはその理由にはなるが」

 

「そうじゃありません」

 

 

手を組み、そこに視線を落としたまま、コンラッドは沈黙した。話すべき言葉を探している部下に、サウス艦長はポットのコーヒーを空になったカップに注いでやる。

 

 

「……わたしは三年前、30バンチにいたんです」

 

「例の事件か!」

 

 

ティターンズの悪行の中でもひときわ際立つ、反連邦デモ鎮圧のために、当時使用が禁止されていたG3ガスをコロニーに注入、1500万人を虐殺した「30バンチ事件」がコンラッドの口から出てきたことに、サウス艦長は驚きの声を上げた。

 

 

「弁解するわけではないですが、わたしがいたのは外周警備です。寄せ集められた部隊の統率をしていたのですが」

 

 

コンラッドの脳裏に、ザクマシンガン改を突きつけてくるハイザックの姿が浮かんだ。そして響く、命令に従え、という声が。

 

 

「あの時、確かにわたしは自分を裏切りました。だからこそ、二度と民間人をどちらの側であろうともテロの脅威に晒したくない。そう、願っております」

 

 

部下の告白に、サウス艦長は先程のコンラッドの鏡写しのように考え込んだ。いくばくかの時が流れ、彼は口を開いた。

 

 

「……君は、整備班長から聞いたりして、この艦の過去を知っているかね」

 

「いえ、彼は実務的なことしか話さなかったので」

 

「そうか。君が過去を打ち明けたのなら、私も語ろう。この艦は五年前、コロニーの阻止限界点にいた」

 

「0083……、デラーズ……、まさか!?」

 

 

ペガサス級で、デラーズ紛争に参加した艦は一隻しかない。その艦の名前は。

 

 

「この艦の前の名はアルビオン。核搭載型として試作されていたガンダム2号機を、デラーズ・フリートに奪われ、終わり無き追撃を行った艦だ。だが、その結末は君も知っているだろう」

 

 

そう、あのときの連邦軍はすべて後手を踏んだ。結果、コンペイトウでの観艦式を襲撃され、ガンダム2号機の核弾頭により参加艦艇に大被害をこうむり、あげくに北米穀倉地帯にコロニー落下まで許したのだ。

 

皮肉にもその行為こそが、ティターンズの設立に決定的な追い風となり、宇宙市民はさらなる弾圧に晒される事になるのだが。

 

 

「歴史に『もし』はない。しかし、私は思うのだ。もしあのとき、もっと良い手を打てていたら、歴史はもっと穏やかなものになったのではと。そして、君の苦悩も無かったのではないかと」

 

「まさか、あなたは」

 

「私は死人だよ。墓を掘り起こしてくれるな」

 

 

さみしげに笑う艦長の言葉に、コンラッドは口をつぐんだ。

 

彼は知っていた。最善を尽くしたはずなのにすべてが裏目に出てしまった男を。

結果としてデラーズ紛争での責任を一手に引き受け、極刑に処されたとされる一人の男の名を。

 

 

「今度は、成功させましょう」

 

 

長い沈黙のあと、コンラッドはそれだけしか言えなかった。それで十分でもあった。

 

 

「ああ」

 

 

そうして、艦長は立ち上がった。それが会話の終わりの合図だった。

去り際に、コンラッドはポットを取り上げる。

 

 

「サウス艦長、このコーヒーは貰います。うちの怖い副官がそろそろしびれを切らしている頃ですので」

 

「ポットは主計科に返しておけよ」

 

 

答えを背に、コンラッドは艦長室を出る。

 

そして扉が閉まる前に、コンラッドは艦長のひとりごとであろう声を聞いた。

 

「『ガンダム』を追い、テロを阻止するのは、この艦の宿命なのやもしれぬ」

 

 

 

出港当日。

 

コンラッド隊は「ドーバー」のブリーフィングルームに集合していた。

 

しかし、空席がひとつあるのがどこか寂しさを感じさせる。

 

 

「目標地点は資源採掘用アステロイドベルト区画のひとつ、通称『オイル・アレイ7』。

ある程度の資源が採掘されたあと、事故が発生しデブリが大量発生し、採算割れを起こしたので放棄された区画です。

衛星ミサイル施設が隠匿されるだけあって、周辺宙域はデブリが多いので注意するように。

また、衛星ミサイルというリスクも存在するので、母艦は後方に待機。モビルスーツ隊はプロペラントタンクを装備して出撃します」

 

 

大型モニターに映し出される図面に示されているルートを指しながら、トシコは流れるように説明していく。

 

 

「目標は、採掘所時代、岩塊に作られた作業施設を転用した指揮所、コードネーム『ギガース』。

軍用とまではいかないまでも、事故に備えてある程度の装甲は施してあります。なので、ビーム兵器の使用を前提として攻撃を行います。なにか質問は」

 

 

説明が一段落ついた時、カイルはおずおずと手を上げた。

 

 

「カイル少尉、なにか」

 

「あの、こう言っちゃなんすけど、ジオン共和国軍の方たちは? 共同作戦っすが呼ばれてないっんす?」

 

 

たちまちのうちに表情が険しくなるトシコを見て、カイルは地雷を踏んだ、と質問したことを後悔した。

 

 

「かれらは、独自に動くそうだ。どうやら身内の不祥事は自分たちで解決したいらしい。こちらから資料は送っておいた」

 

 

吐き捨てるような答えに、どれだけ邪険な対応をされたのか、とカイルは首をすくめた。

 

ふたりのやりとりを聞いていたコンラッドは重々しく口を開く。

 

 

「今回のミッションはかなり厳しくなる。しかし、やり遂げなければまたテロの連鎖が起き、地球も宇宙もさらに傷が深くなる。どうか、皆の力を貸してくれ」

 

「つまりいつもの我々の仕事ですね。長引かせず、すぐに終わらせましょう」

 

「先輩方から見ればまだまだですが、シャロ先輩の分まで頑張りますっす!」

 

 

自らが鍛え上げた、気負わぬ部下の返事に感謝と頼もしいものを感じながら、コンラッドは叫んだ。

 

 

「第31任務部隊、出撃!」




0083のOVA最終巻、エンディングで流れる「彼」の運命に理不尽さを感じてはや31年。自分なりに「もし」を込めて書いてみました。
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