推しの子猫   作:ponkottu

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推しの子に喋る猫を加えてみたいという妄想から気づいたら投稿してた……


プロローグ 僕が死んだ日

 これは嘘のようで本当の話。僕が体験した「推しの子」たちとの物語だ。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「うおぉぉぉおお!!アイー!!!」

 

「ちょっ、先輩!患者さんの横で叫ばないで下さい!前にも言いましたけど、ここは病院!叫ぶなら自宅でお願いします!」

 

 この限界オタクまっしぐらの人は雨宮吾郎。これでも優秀な医者で同じ医大の先輩だ。先輩がこうなったのは以前先輩が看ていた患者の影響らしい。患者の名前はたしか「天童寺さりな」。彼女はかなりのアイドル好きで特に同い年の「星野アイ」に惹かれていた。

 彼女は退形成性星細胞腫で長く闘病生活を送っていたが、4年前に亡くなった。それ以降、ゴロー先輩はアイドル「B小町」の星野アイの熱烈なファンになったのだった。

 

「はぁ、いいか後輩。可愛い子は目の保養、さらに心と健康の促進にもなる。これはちゃんとしたら治療だ」

 

「いや、どういう理屈ですかそれ……。とにかく院内で騒ぐのは控えて下さいよ!」

 

 もしかしたら先輩はさりなちゃんの意思を継いでいるのかもしれない。先輩はそういう人だ。まあ、今の状態を見ると本当に星野アイのことを推しているだけなのかもしれないが……

 

 そんな先輩と働いていたある日、転機が訪れた。

 

「えぇ!星野アイがうちの病院に!?しかもお腹の子は双子で20週を迎えてる!?」

 

「バカっ!お前声が大きい!」

 

 なんと、あの星野アイがうちの病院にやってきた。ちょうどネットでは星野アイのアイドル活動休止が世間を騒がしていた。そのタイミングでこんな田舎の病院にお腹に子どもを持ってやってきた……。

 ああ、これはあれだ。いわゆるスキャンダルってやつだ。このことが世間に知られればきっと星野アイのアイドル人生は終了。同伴している監督の事務所も終わりだろう。

 今はネットの世の中、当人の事情なんてスマホの画面を見てる奴らは考えるはずもない。ただ氷山の一角を見ただけで全てを知った気になってギャーギャー騒ぐ。そういう世の中だ。

 

「ちなみに先輩、星野アイは一体誰と……?」

 

 ゴロー先輩は大きくため息をついた。その顔は少しやさぐれているようにも見える。無理もない。推しのアイドルに子どもができていたなんてかなりショックだろう。

 

「俺も知らん。てか知りたくない。本人が内緒って言ってるんだから俺たちがとやかく騒ぐ必要もないんだ。いいか、お前も含めて誰もこのことは公表したりするんじゃねぇぞ」

 

「そんなことしませんよ。それをして僕らになんのメリットがあるんですか。むしろデメリットでしょ」

 

 もうすでにこの病院は共犯だ。こうなったら嘘に嘘で塗り固めて隠し通すしかあるまい。

 

 そしてこれが星野アイとの最初の出会いとなった。

 

 ゴロー先輩は少し鼻息が荒くなっていた。星野アイは偽名を使い、順調にお腹も大きくなっていった。星野アイの面倒を見る先輩は今までで一番楽しそうだった。

 

 しかし、流石はアイドル。非常に整った顔立ちをしている。そしてなんといっても魅力的なのは彼女の瞳だ。あの絶対的な自信に溢れた瞳を今まで見たことがない。そして不思議と彼女の魅力に、光に群がる虫のように吸い寄せられていくのだ。

 

 気づいた時には僕もアイのファンになっていた。

 

「星野さん、よく歌ってますよね、お子様に聞かせているんですか?」

 

「あははっ!だって私の子だよ?絶対小顔でスタイル良くてダンスができて歌も上手だよ!」

 

 アイはいつも明るくポジティブで本気で妊娠を隠し通すつもりだ。

 

「だからって踊り出すんじゃない!何かあったらどうするんだ!」

 

 そう注意するのはアイが所属する苺プロダクションの社長、斎藤壱護。孤児だったアイをスカウトし、アイドルに育てた。今のアイがあるのは彼のおかげだろう。ここまできたらもう一蓮托生だと、いろいろと話を聞くことができた。

 

 アイのいる病院の日々は賑やかで楽しかった。これも彼女から溢れ出るオーラと、彼女の底なしの明るさ、天真爛漫な性格のおかげだろう。

 彼女との時間はあっという間に過ぎ、お腹の子はもう40週目に入りいよいよ出産が控えていた。

 

「せんせ、後輩さん、おつかれさま。でも呼んだらすぐ来てよ?」

 

「おう、家はすぐ近くだしな」

 

「星野さん、たしかに僕はゴロー先輩の後輩ですけど、その呼び方は……」

 

「えー、いいじゃん!こ・う・は・い・さん♪」

 

「まあ別にいいですけどね……」

 

(可愛すぎる!)

 

 そうして病院を後にした。

 

「あ、先輩。僕忘れ物しちゃったんで一旦病院に戻ります」

 

「おう、先に帰っとくぞ」

 

「はい、お気をつけて」

 

 病院から出て数歩歩いた所で家の鍵を忘れたことに気付いた。幸い一階の机の上に置いたままであるため、すぐに見つけることができた。これなら先輩に追いつくことができるだろう。足早に病院を出た。

 

「ん……?先輩?」

 

 病院を出ると先輩が走って林の中に入っていった。一瞬誰かを追いかけているようにも見えた。

 

「この感じ……!」

 

 この胸騒ぎは覚えがある。これは死が迫っている時に感じるものだ。以前にもこの胸騒ぎがした時、さりなちゃんが亡くなった。まさか、先輩が……

 

「……くそっ!」

 

 自分に出せる全速力で先輩を追いかけた。

 

 ドシャッ

 

 林の中を進んでいると前方で何かが落ちたような音がした。心臓の鼓動が早まる。

 

「先輩!ゴロー先輩!いたら返事をして下さい!」

 

 気付くと崖の近くに来ていた。そこにいたのはフードを被った人だ。

 

「……先輩?」

 

 声をかけるとフードを被った人がビクッと体を震わせてこちらを向いた。

 

(先輩じゃない……?誰だ……?)

 

 さらに心音が早くなる。嫌な予感がする。さっきの音、見知らぬ男性。いやな想像が頭をよぎる。

 

「お前、誰だ?先輩に何かしたのか?」

 

「お前も星野アイを診ていたやつだな?」

 

 こいつ、なんでアイのことを。

 

「星野さんのことを知っているのは一部の人間。あなたは……」

 

 言いかけたその時、男がダッシュでこちらに詰め寄ってきた。

 

「なっ!?」

 

 咄嗟の行動に反応できず、男に羽交い締めにされた。

 

「お前もあの主治医と同じところに送って……やるよぉ!」

 

 男は崖側に詰め寄らせるとそのまま背中を思い切り蹴り飛ばした。

 

「やめろっ!っっ!うわぁぁぁあああっ!!!」

 

 僕はそのまま崖を転げ落ちた。何度も全身が打ち付けられ、頭から地面に叩きつけられた瞬間、僕の意識はそこで途絶えた。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

(痛つつ……あれ、どこだここ?くそ、足が思うように動かせないな……、くそ、あの野郎、崖から突き落としやがった。それにアイが妊娠していることを知っているようだった。早く戻らないと!)

 

 真っ暗だった視界が少しずつ明るくなっていく。静まりかえっていた周囲からは物音が聞こえ始める。

 やがて世界が再び視界に入った時、僕は驚愕した。

 

(…………は?)

 

 目の前に広がった光景は林の中でも病院の中でもなく、見知らぬ女性の腕の中だった。

 

(どうなってる!?なんで?体が思うように……いや、声も上手く発音できない!)

 

 必死にもがくが女性の腕にしっかりと掴まれ動けない。というか、これでも僕は大の大人だ。なぜ、腕に収まっている?なぜ、女性がこれほど大きく見える?僕は……

 

 ふと、子猫の腕が見えた。黒い毛に覆われ、小さな肉球が見える。だが不思議なことにその腕は自分の意志と同じように動く。まるで自分の腕のように……

 

「元気な子だね!ミカン、よくがんばったね」

 

(ミカン……?なんだ?名前か?)

 

 女性の視線の先を見るとそこには黒猫がいた。黒猫の周りには2匹の子猫が産まれたばかりのようだ。

 

「3匹とも無事に産まれたよ。名前はどうしようかな」

 

(3匹?2匹しかいないぞ?もう1匹はどこだ?)

 

 女性は残りの2匹を一緒に抱き抱えると立ち上がった。すると自分の目線も高くなり、やはり自分は女性の腕の中にいると改めて認識した。

 

(いや、そんなまさか……)

 

 ふと、ある仮説が頭をよぎる。しかし、その仮説はあまりにも非科学的だ。

 しかし、女性が鏡の前に立った時、僕は悟った。

 

「ほら!三兄弟、可愛い!今日からよろしくね」

 

 崖から落とされた際、僕はきっと死んだのだと。

 

 そして、死ぬ間際に見たあれは現実なのだと。

 

 小さな体の内から沸々と感情が湧き上がる。

 

 死ぬ間際に見たのは……

 

 血だらけのゴロー先輩──────────-

 

 子猫の瞳が光る。それは復讐の劫火。自分と先輩を殺した犯人への殺意。

 

(復讐してやる……!!)

 

「あれ、この子の眼……不思議……」

 

 その瞳に宿した光は地獄の炎のように赤黒く、血に染まったかのように鈍く、濃く、光を灯していた。

 

 

 

 

 

 これは僕が体験した嘘のようで本当の話。

 

 

 

 

 

 




ここまでは原作と同じ流れ
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