Unknown Wizard Chronicle 作:シノギ
皆さんも熱中症には注意してください。
リアルでの話、職場でなりかかってしまいました…
本家ストウィ第8話、シリアス回の始まりです。
この作品内では普通にノアール(異性)が
ウィッチ達と交流どころか、
かなり深いスキンシップも行っていますが、
基本軍規はそのままです
言うなれば今まで見て見ぬふりをしてきた
現状を改めて見据えるようなものになります
なってるはずです…
“ブリタニア空軍、
対ネウロイ殲滅特殊部隊インビジブル所属
ウィザード、ノアール・ルー少尉であります”
『(? これは……?)』
ノアールは“自身の声”で意識が覚醒した。
かと言って、眠ったままの状態で不意に出た声により
意識が覚醒したわけではなく明確な声によって、
である。
覚醒した意識を周囲に向けてみると、
そこにはもはや懐かしさすら覚える光景が
広がっていた。
『(これは……501部隊に来た頃の記憶か……)』
基地のブリーフィングルームにて
初めて501のウィッチたちと出会った頃の情景を見、
ノアールはコレが夢の中で夢だと自覚する
明晰夢に類したものだろうと推測する。
『(そこまで時は経ってないはずなのに、
もうずいぶんと昔のように感じるな……)』
異性として節度のある態度を心掛けるあまり、
ウィッチたちと距離を置いて過ごしてきたこと……
自身の軍人然とした態度を、
行き過ぎているから改めるようにと言われたこと……
慣れない防衛に四苦八苦し、
満足な戦果を得られなかったこと……
自分よりも軍歴の少ない
宮藤やリーネが戦果を挙げて、
その焦りから悪夢にうなされていたこと……
そして――――
“み、皆さん………あ、りがとう……ございます……”
自身の焦りや後ろ暗さ、
打ち明けていなかった秘密を受け入れられ、
改めて501部隊の皆から歓迎されたこと……
『(でも……そう感じるのは、これまでの思い出が
それだけ濃密なものだったからなんだろうな……)』
“部隊の皆に囲まれている自身”を見て、
ノアールは感慨に浸り――――
『(ん?)』
――――“違和感を覚える”。
ルッキーニとバルクホルンという
二人の姉が出来て……
訓練とはいえ水着に扮したウィッチたちと
海に行き……
サーニャと宮藤の誕生日をきっかけに、
自身の誕生日までも祝ってもらい、
エイラという三人目の姉も出来て……
『(………これは……どういうことだ?)』
ノアールの違和感は次第に強くなっていった。
『(この気持ち悪いくらいの違和感はなんだ!?
これらの思い出にそんな感情なんて
抱くはずがないし……
夢の中で夢と自覚しているせいか?
それとも自分が体験した出来事と
今見ている夢の出来事に齟齬が――――)』
そこまで考えが至った瞬間、
ノアールは自身が感じている
違和感の糸口を見つけた。
『(“自分が体験”した……?)』
ノアールはここまで見てきた
過去の出来事の回想ともいえる夢を思い返す。
それらの出来事の中に
自身が覚えている以外のことなど一つもなかった。
それ自体に違和感はない。問題は――――
“それを体験してきた自分”を
“自分自身が見ている”ことである。
自分視点で見えるはずの過去の記憶が
“自分自身”を視界に入れたまま進むなど
ありえない……
別の人間の視界として見るなどしない限り……
『じゃあ……今こうして
“自分”を見ている
ノアールは自問自答のように呟くと、
目の前の――――
“ウィッチたちに囲まれている自分”へと目を向ける。
『
ノアールのその言葉が合図だったのか、夢の情景が
時が止まったかのように動かなくなり――――
“唯一動いている自分”が
ゆっくりとノアールへと振り返る……
『ッ!!?』
振り返った“自分”は
髪色こそノアールと酷似していたが――――
その顔色は血色が悪いという程度の比ではない程
真っ白になっており、
邪悪な笑みを口元に浮かべ、
その両の眼は光の届かない奈落の如く、
漆黒だった……
◇◇◇
『(……あの夢はいったい……?)』
「……い………ノア……尉」
『(アレは……誰かから見た自分の姿……なのか?
いや…自分があんな笑みを浮かべられるなんて
考えられない……そもそも、あの顔立ちは
完全に自分とは別人だったし……
だとしたらヤツはいったい誰だ?
部隊の皆さんが自分を責め立てていた
あの夢とも違う感じだし……)』
「ノアール少尉!」
『はっ!!』
ノアールの意識は声変わりして久しい
男性の声によって引き戻された。
「どうかしましたか?
手元が止まってらっしゃるようでしたが…」
『…ああ、すいません。ちょっと考え事を……』
ノアールが今いる場所は、501基地のハンガー。
そして彼の意識を引き戻したのは
普段このハンガーにてウィッチたちの
ストライカーや銃器を整備する
男性職員の一人だった。
そしてノアールの目の前にあるのは
ストライカーユニット…
それもルッキーニが穿いている
「G55チェンタウロ」だった。
今はその内部機関が曝け出されており、
ノアールの手元や作業机に置かれているのは
他の男性職員が手にしているものと同じ
ドライバーやスパナといった整備用具……
何処をどう見てもストライカーユニットを
整備しているといった様相だった。
「お疲れでしたら、後は我々が仕上げますが…」
『大丈夫です!……でも、申し訳ないんですが…
もう一度今のところを
おさらいさせてもらえませんか?』
「…はい。我々でよければ」
ノアールは今まで上の空だったことを心配されたが
問題ないと返し、先まで男性職員に聞いていた部分を
復習しようと尋ねていた。
するとそこへ――――
「いつもありがとうございます!」
ハンガーの外からノアールには
聞き慣れた声が響いてきた。
『(宮藤さん?)』
「お菓子作ってみたんですけど、
皆さんで食べてください♪」
声のした方向にノアールが顔を向けると、
大きなお盆を持った宮藤が来ており、お盆の上には
このハンガーで整備をしている男性職員の
人数分用意された湯呑と
扶桑茶が入っていると思われる急須。
そしてお茶請けに作ったであろう
おはぎの乗った皿が置かれていた。
先のセリフとその一式から察するところ、
整備を任せている男性職員への差し入れのために
来たのだろうと、ノアールは推測する。
だが、そんな彼女の厚意もこの部隊においては
“褒められたものではない”。何故なら――――
『宮藤さん…』
「あれ?ノアールくん、なんでこんなところに?」
整備兵の一団の中から
ノアールが現れたことに驚く宮藤。
宮藤の立っていた場所から遠い位置に
ノアールが立っていたため、彼女は彼がハンガーに
居ることに気づいていなかったようだ。
『少し整備の方々から勉強を…ね……』
「勉強…?」
『大したことじゃありません……
それよりも、ソレはここにいる方々への
差し入れですか?』
「あ、うん!いつもストライカーや
銃の整備をしてもらってるから、
何かできないかなって♪」
『……そう、ですか』
宮藤の善意しか感じられない笑顔に、
ノアールは申し訳ない顔をする。
だが、今後も“こういった事態”が起こった時に
トラブルが起こらないようにと、
ノアールは意を決して口を開く。
『宮藤さん、この部隊における規則を
貴女は把握しきれていますか?』
「へ、規則?なんのかな?」
『……まあ、把握しきれていたら
“こんなこと”はしないんでしょうけど…
貴女のことですから、純粋な厚意からの行いだ
ってことはわかります…』
「どういうこと、ノアールくん?」
『この501部隊において在籍している男性職員、
もしくは何らかの理由で訪問している男性士官は、
ウィッチとの会話及び接触は必要最低限に
留めるようにと義務付けられてるんです』
「えっ!?」
ノアールから告げられた衝撃的な言葉に
宮藤は怪訝な顔をする。
「で、でもノアールくんは…!」
『自分は例外中の例外です。
ブリタニア本国上層部から正式な手続きを経て
この部隊に出向しているんです』
「そ、そうなんだ……」
『ですが他の男性職員・士官の方々は、
先に言った通り……どういった形であろうと
ウィッチとの必要以上の接触は禁じられています。
自分は同姓ですから、
こうして交流はできますけど……』
「で、でも……私……」
ノアールの説明に宮藤は納得しつつも、
未練たらたらといった様子で
持っているお盆を見下ろす。
そんな彼女の様子を見て
ノアールは小さく溜息を吐く。すると――――
『じゃあこうしましょう。
“宮藤さんが作りすぎたお菓子の処理に
困っていたから、ノアール少尉が勿体ないと
言って全部食べて処理した”……でどうです?』
「え……あっ!」
ノアールの告げた妥協案に呆けている宮藤の手から
お盆が掻っ攫われる。
『せっかく宮藤さんが作ってくれたんです。
放置して腐らせるくらいなら、その方がマシです。
“たとえ自分が食べきれなかったとしても”ね…』
「あっ……」
宮藤はノアールの言葉の真意に気づき、
柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとう、ノアールくん…」
『……朝食だけじゃ物足りませんでしたしね。
頭を使う際に糖分が必要ということも
ありますし……』
ギュッ…
その時、宮藤はノアールの服の袖を握る……
「ありがとう……」
『………今回だけですよ。
今後は意識してください…』
ノアールの言葉に頷いた宮藤は
名残惜しそうな顔をしつつハンガーを後にした。
「ノアール少尉……」
宮藤を見送ったノアールの元へ、
先の整備兵の一人が声をかける。
「よろしいのですか?このような形で……
我々がいただいても……」
『軍規には触れていないはずです、
自分はウィザードですから。
それに皆さんだって、軍規だからとはいえ
宮藤さんの厚意を無碍にするのは
忍びなかったんじゃないですか?』
その一言に整備兵たちは閉口する。
理由は言わずもがなだろう。
『もし咎められでもしたらその時は、
“ノアール少尉に無理やり食べさせられた”……
とでも言ってしまえばいいんですよ』
ハンガー内にいた気まずい顔をしていた
整備兵たちの顔が、
その一言でキョトンとしたものになり、
それが次第に控えめな笑い声を伴った
笑顔になっていく。
『? 自分は笑われるようなことを
言ったでしょうか?』
「いえ……ノアール少尉から
そんな言葉が聞けるとは思いませんでしたので…」
一番近くにいた整備兵の一言に
首を傾げるノアールに、
その場にいた整備兵たちが近寄りながら
理由を話し始める。
「失礼なことを申すなら……
この部隊に来た頃の少尉は、容姿に似合わず
軍人という概念が服を着て歩いているんじゃ
って印象でしたから……」
「ハンガーや滑走路での自主訓練に臨む姿も
大人顔負けでしたしね……」
「思わず少尉の実年齢を忘れてしまうほどでしたよ」
「極めつけはあのジープを用いた自主訓練……
正直言って、内心では恐々としていましたよ……」
『あっ……』
ジープの件を口にしたのは、
かつてノアールが501に来て次の日、
ジープを相手にした接戦を繰り広げた際、
運転手を任せられた男性職員だった。
『あの時は、すいませんでした。
当時の自分は周囲の人間への配慮が
全くもって成っていなかったんです……』
「いえいえ。以降はあの特訓も
ミーナ隊長に禁止されましたし、
もう過ぎたことですから…」
「むしろ我々は、
ノアール少尉に感謝しているんです」
『えっ?』
感謝されるようなことをした覚えがないノアールは
怪訝な顔をする。
「我々は軍人であっても、部署の違い、階級、
いざという時の戦闘の心得があっても、
ネウロイを前にすれば
大した戦力にならない立場です…」
「そんな我々でも出来ることは、
ウィッチの方々が駆るストライカーを…
ネウロイを撃ち抜く銃器を
万全な状態にしておくことだと、
一同心掛けています」
「その矢先に現れた貴方は、
我々男性軍人の希望と呼んでいい存在なんです…!」
『自分が……皆さんの希望……?』
「そうです。年齢こそ我々より下でも
少尉はウィッチの方々と同じ
魔法力を持っている……
ウィッチの方々の一番近い立場で共に戦える……」
「正直に申すなら、その立ち位置に嫉妬しない
と言えば嘘になります……
でも、少尉の最前線に置いての覚悟と信念を
我々は見せつけられてきました」
「だからこそですよ。
少尉が早朝からハンガーに来て、
“ストライカーが不調に陥った際の応急処置や
整備工程、銃器のメンテナンスの工程を見せてほしい”
という申し出に快く応じたのは」
ノアールが何故ハンガーで
整備兵たちと共に作業をしていたのか…
それは先の整備兵が言った通りの理由だった。
そしてその動機も――――
「少尉がストライカーや銃器を用いない分、
ウィッチの方々が窮地に陥った時に
対応できるようにって理由ですよね?」
『……はい』
「だからこそ我々は引き受けたんですよ。
戦いだけでなく、知識の面でも
ウィッチの方々の力になろうとする
少尉の姿に応えるために」
『皆さん……』
いつの間にかノアールの周囲には
大半の整備兵が集まっていた。
彼らのノアールを見る目は、
彼らの言う希望を見据えている目をしていた。
「ノアール少尉、本来なら貴方ほどの歳の方に
このようなことを申すのは、正直情けないです。
ですが、我々は少尉の覚悟と信念を信じています!」
「直接ウィッチの方々の力になれない
我々の分まで頑張ってください!」
“501のウィッチたちを守ってほしいの”
男性職員たちの言葉を聞いた瞬間、
ノアールの脳裏に
以前ウィルマに告げられた言葉がよぎる。
あの時のウィルマと同じような、
男性職員たちの希望に満ちた目を見、
ノアールは自信無さげな顔をして俯く。
『自分の信念に応えてくださった皆さんの
お気持ちは嬉しいです。ですが、まだ自分の中では
皆さんの言うような、ウィッチの方々の力に
なろうとする覚悟がまだ出来ていません……
だから……』
「焦ることはありませんよ。
我々はその覚悟が出来ても、
それを戦いという形に
活かすことができないんですから……」
男性職員の言葉を聞き、
ノアールは彼らの不甲斐ない気持ちを噛み締めて
彼らの眼を見返す。
ガタッ…
その時、ノアールの手に持ったままの
お盆の上にあった湯呑同士がぶつかって
音を立てた。
『…皆さんの休憩室はどこですか?』
「あはは……こちらです」
しんみりした空気がノアールの告げた
その言葉で霧散し、心に秘めていた
ノアールへの信頼を告げられて
満足顔の整備兵たちは中断していた作業へと
戻っていった。
尚、ノアールの又渡しによって
整備兵たちに振舞われた宮藤お手製のおはぎは
概ね好評という結果となったのは言うまでもない。
◇◇◇
ハンガーにて自身お手製のおはぎを
ノアールに託した宮藤は、
その後リーネと共に洗い場にて洗濯物を干していた。
今日は風が強いねと尋ねた宮藤に、
洗濯物の乾きが早くなりそうと付け加えて
リーネは同意する。
「そうだリーネちゃん、さっき格納庫でね…」
「?」
宮藤は先のハンガーでの出来事をリーネに話す。
「へぇ…そんなことがあったの…」
「なんで、ミーナ中佐は
そんな規則を作ったんだろう……
リーネちゃん知ってる?」
「私も命令があることは知ってたけど、
あまり気にしてなかったから…」
「えぇ~…こんな命令絶対変だよ!変過ぎる!
あの時はノアールくんが居てくれて、お菓子は
ちゃんと皆さんに振舞えたからよかったけど……。
ちゃんとした命令でここにいるノアールくんと
話すのは良いのに、他の人はダメだなんて………
リーネちゃんもそう思わない?」
「えっ!私、姉弟以外の男の人と
殆ど話したこと無くて……////」
「でもノアールくんは?」
「ノアールくんは感覚的には
弟と話すみたいな感じだし……」
「そっか…学校とかは?」
「ずっと女子校だったから…ごめんね」
「ううん…!」
参考になれず謝るリーネに宮藤は
気にしないよう首を振る。
すると宮藤の視界に大きな船影が映る。
「ほら!あれ、赤城だよ!」
「あかぎ?」
「うん、私の乗ってきた船。
修理してるって聞いたけど直ったのかな?」
洗い場から見える海上に浮かぶ船は、
宮藤がこの欧州に来る際に乗船し、
宮藤の初陣の際に超大型ネウロイとの戦闘で
甚大な被害を被った遣欧艦隊の一隻、
戦艦赤城だった。
彼女たちから見える船体に目立った損傷はなく、
修理が完了したのだろうと宮藤は予想する。
「あ、いたいた!芳佳ぁー!」
「ミーナ中佐が呼んでるぞ!」
「あ、はーい!」
その時、洗い場の出入り口から
ルッキーニとシャーリーが現れ、
ミーナが宮藤を呼んでいた旨を伝える。
宮藤が応答の声を上げ、何の用事かと呟いて
リーネと顔を見合わせた。
◇◇◇
『失礼します。ノアール・ルー少尉、参りました…』
宮藤がルッキーニとシャーリーに呼ばれて
ブリーフィングルームに赴く数分前、
その場所に召喚を受けたノアールも足を運んでいた。
ブリーフィングルームにいたのは
501部隊の二柱であるミーナと坂本、
そしてノアールにとっては初見にあたる、
扶桑海軍の制服を身に纏った
初老に差し掛かったであろう扶桑の男性軍人だった。
「来たかノアール。いきなり呼び出してすまんな」
『いえ、問題ありません。してご用件は?』
ノアールを待っていた3人のいる部屋の奥に
彼が向かう傍ら、
急な召喚に謝罪する坂本。
それに彼は問題無いと返し、
召喚された理由を尋ねる。
「今回の呼び出しは、
私でも坂本少佐でもなくこの方からの呼び出しなの」
「初めまして。扶桑皇国海軍大佐、
現在は空母赤城の艦長の杉田です」
ミーナの説明を受けたタイミングで、
扶桑海軍の制服を纏った扶桑軍人
――――杉田淳三郎がノアールに自己紹介する。
『空母赤城の艦長……
ということはあの遣欧艦隊の……!』
「はい。本日は艦の乗員を代表して
貴方と宮藤さんにお礼を言いに来ました」
『…では宮藤さんも呼んで…』
「それはシャーリーさんとルッキーニさんに
頼んであるわ」
宮藤を呼びに身を翻そうとしているノアールを、
ミーナは心配ないと言って制止する。
『それにお礼なんて……
あの時の自分は井の中の蛙としか言い様のない
青二才でしたし……艦隊の損害も
かなりのものになってしまいました。
過ぎたこととはいえ、
失態であることに変わりありません…』
「いやいや、肝心要の赤城が護られただけでも
僥倖というもの。
宮藤さんと共に誇っていいことです」
『しかし……』
不慣れな防衛遅滞戦闘に四苦八苦していた
あの頃を思い出し、自身は称賛されるべきではないと
食い下がるノアール。
するとそこに坂本が窘めを入れる。
「ノアール、杉田艦長はお前と宮藤の働きが
意義あるものだったとして称賛されているんだ。
責任感が強いお前の気持ちは理解している。
だがそれでも、自身に向けられた称賛を
無碍にするのは逆に失礼というものだぞ?」
『それは……そうですね。杉田艦長、
改めてその御言葉、ありがたく頂戴します』
「そう言ってもらえると、
私も代表して来た甲斐があるというものです」
無駄のない礼の姿勢を崩さない
ノアールを見ていた杉田は、
微笑ましいものを見るような顔になる。
「ミーナ中佐や坂本少佐から事前に聞いていた通り、
その歳にして素晴らしい立ち振る舞い。
今で此れならば、赤城の船員くらいの歳になれば
どれほどの大物になるか……
孫の行末を心待ちにする隠居の気持ちとは
こういうものなのでしょうなぁ」
『……恐縮です』
「孫……それに隠居とは……
杉田艦長、お戯れを……」
「フフフッ♪」
和やかな雰囲気がその場を包んだところで、
ノアールは先ほどから杉田が持っている
風呂敷に包まれた大きい包みと、
その上に乗っているこれまた風呂敷に包まれた
先のものより小さな包みに気づく。
『杉田艦長、先ほどから持っているそれは一体?』
「ああ。これは――――」
「失礼しまーす!」
その時、ブリーフィングルームの出入り口が開き、
杉田がお礼を述べに来たもう一人である
宮藤が到着した。
「宮藤さん!お会いしたかった」
彼女の姿を見るや、
杉田は宮藤の元へと歩み寄ろうとする。
すると――――
スッ…
『(ん?)』
「こちらは赤城の艦長さんよ。
ぜひ貴女とノアール君に会いたいと仰って」
「私とノアールくんに? あ!」
宮藤はそこでようやく
ノアールが同室していたことに気づいた。
それから、先のノアールと同じようなやり取りを
宮藤と杉田がしている最中、
ノアールはついさっきミーナが見せた仕草に
思案顔になる。
『(今さっきミーナ中佐、宮藤さんと杉田艦長の間に
無理矢理割り込んだように見えたけど……
確かにこの基地内における規則は
自分も把握してるけど、ああも露骨…というか、
過敏に対処するほどのものなのだろうか……?)』
ノアールは、ここに来てようやく
ミーナがこの501において定めている
軍規に一つの疑問を持ち始めた。
そんな中、杉田は今まで持っていた包みを
宮藤に差し出す。
「全乗員で話し合って決めました。
これを貴女にと…」
「あらあら、よかったわね♪」
「ありがたく受け取っておけ、宮藤」
「はい、ありがとうございます!………?」
受け取った宮藤は、その包みの上に置かれていた
もう一つの小さな包みに気が付く。
その小さな包みを杉田は手に取り、
ノアールへと向き直る。
「それから、こちらはノアール少尉に」
『え?自分にもですか?』
差し出された小さな包みを
思わず受け取ったノアールは怪訝な顔をして
杉田を見返す。
「同じ扶桑出身の宮藤さんと違い、
他国人な上に10歳の少年だと聞いて、
全乗員ギリギリまで苦心しまして…。
坂本少佐やミーナ中佐の助言をいただいて
ようやく最適な落としどころのものを用意しました。
どうか受け取ってもらいたい」
『……先の御言葉共々、
ありがたく頂戴します杉田艦長』
501に立ち寄った要件を済ませることができた杉田は
そこで顔を引き締め、
ミーナ中佐へと顔を向ける。
「反攻作戦への前哨として、
我々も出撃が決まりました」
「いよいよ…ですか……」
「反攻作戦?」
ガリア奪還に向けての反攻作戦という言葉に、
ミーナやノアール、
後ろにいた坂本の顔が引き締まる。
「ええ。今日はその途中で
寄らせていただいたのです。
明日には出港ですので是非艦に来てください、
皆が喜びます」
「あ、はい!」
欧州に来るまでの間とはいえ、
艦内の乗員たちともそれなりに交流していた
宮藤はその申し出に快く応じるが――――
『宮藤さん、明日自分たちは
ネウロイ出現の予報のために出撃予定で…』
「あっ!」
「そうです。杉田艦長、残念ですがその申し出は…」
「そうですか……残念です……」
◇◇◇
ノアールと宮藤はブリーフィングルームを後にし、
杉田からもらった品物を一度宿舎の
それぞれ自分の部屋へと持ち帰るため、
廊下で待っていたリーネと共に向かっていた。
「艦長さんって大佐だから、
ミーナ中佐より偉いんだよ」
「へぇー!そんなに偉い人だったんだ…」
「艦長さんが代表して
お礼を言いに来てくれただなんて凄いね!」
「えへへ……////」
照れ笑いしていた宮藤は、ふと自分が貰った品物と
ノアールの貰った品物の大きさを見比べる。
「なんだか悪いなぁ……
私が貰ったのはこんなに大きいのに、
ノアールくんは私のより小さいものだなんて…」
『贈り物の価値に大きさや種類は関係ありませんよ。
これらには杉田艦長を含め、
赤城の全乗員の感謝の気持ちが
込められているんですから。
その想いはその品が壊れようが、
時の流れで風化しようが変わらない……
そうでしょ?』
「あ…そうだね、うん」
自分の感じていた負い目など些末なものだったと
宮藤は気づき、宿舎の道のりへと目を向ける。
その直後――――
「宮藤さんっ!!」
「ふぇっ!!?」
不意打ちに驚く宮藤達3人の前に、
扶桑海軍の軍服を着たノアールよりは年上の
少年兵が立ちふさがるように現れ、
両手で手紙を差し出すような姿勢で制止していた。
「さ、先の戦いでの宮藤さんの勇戦敢闘には
大変敬服しました!艦を護っていただき…
た、大変感謝しています!」
「は、はい…どういたしまして……」
宮藤とそう歳は離れていないであろう少年兵は、
緊張しているといった様子で
感謝の言葉を捲し立てる。
未だに突き出したままの手紙の説明が無い辺り、
相当のようだ……
その言い分から彼は赤城の船員の一人なのだろうと
察した宮藤はその感謝の言葉に応じる。
「あの……その、ですね……
これ、受け取ってください!」
ここでようやく少年兵は――――
もっとも、察しのいい悪いに関係なく
予想できるであろうが…
――――突き出している手紙の受け取り相手である
宮藤に改めて手紙を差し出す。
「え?…あの……」
「わぁ~♪」
『………』
差し出された手紙の意味に宮藤は疑問顔だが、
ソレを見ていたリーネはいち早く察して
宮藤の耳元に顔を寄せ、
ノアールは苦悶の表情を浮かべた。
「ラブレターじゃない?」
「
「うん、受け取ってあげたら?」
そう言ってリーネは宮藤が持っていた包みを持ち、
受け取れるよう両手を開放した。
小説などの中でしか見たことも聞いたこともない
思ってもみなかった宮藤は、
緊張した面持ちで受け取るために歩み寄った。
直後――――
スッ……
「ふぇっ!?ノアールくん?」
ノアールが、
まるで先の杉田と宮藤の間に割って入ったミーナと
同じように割り込んだ。
『赤城の乗員の方ですよね。
お名前は存じ上げませんが、
貴方はこの基地内における軍規に
違反している自覚はあるのでしょうか?』
「っ……そ、それは……」
少年兵の表情が気まずいものに変わる。
自覚の上での今度の行動のようだ……
「ノアールくん!軍規だなんて……
手紙を受け取るだけだし……」
『なら正式に手続きをして、
検閲を踏まえた上で送られるべきです。
貴方の事情を察して、
今この場で内容を確認することはしませんが……
それでも軍規に違反しているのは事実です』
「ノアールくん、何もそこまでしなくても……」
『リーネさん、
それからハンガーでも言ったはずですよ宮藤さん。
たとえ秘密裏にこの手紙を受け取ったとしても、
何かしらのきっかけでこの事実が露見したら、
当事者である宮藤さんも彼も、
側で見ていたリーネさん、
それに自分にも罰則が与えられるんですよ?』
「そんな……」
恋文か単に感謝の言葉が綴られた手紙かを
受け取るだけで、そこまでの大事になるなどと
思ってもいなかった宮藤は愕然とする。
「ま、またノアールくんから
又渡しってことにすれば……」
『それはあの時だけと言ったはずです……。
それに彼にとっても、又渡しという形で宮藤さんに
その手紙が渡っても嬉しくないでしょう?
もっとも、検閲という形にしたら
同じことですが……』
そう言ってノアールは少年兵に向き直る。
すると彼は――――
「自分は、ノアール少尉にも感謝しています!!」
一旦宮藤への手紙を後ろ手に持ち、
今度はノアールへと感謝の言葉を述べ始めた。
「目覚ましい活躍をされたのは宮藤さんだと
艦の何人かは思っていますが、同じ男でありながら
ウィッチの方々のように空を飛び、
苦戦しつつもネウロイに果敢に立ち向かう
ノアール少尉の姿にも自分は感服しました!!」
『ッ……!』
「少尉のような方が戦っている事実を知り、
自分も自分の同期たちも
誠意奮起しなければという想いが溢れました!
改めて自分が軍に志願した初心を
奮い立たせていただいたこと感謝しています!」
『それは……何よりですが……』
「この期に及んで恩着せがましいことを
申していることは熟知しています。
ですがどうか、今度の件に関しては
見逃していただけないでしょうか?
後に罰則を受けるとしても、
自分は甘んじて受け入れる覚悟です!」
ノアールは少年兵の真剣な眼差しを見て、
彼の言葉は本気だと察した。
「ノアールくんお願い!私もいつも怒られてるから、
それが増えるくらいどうってことないよ!」
「わ、私も……ちょっと不安だけど、
芳佳ちゃんのためなら……」
宮藤とリーネの懇願する顔にノアールは委縮する。
先まで軍規を盾に諭していた事態から一変、
この場において異を唱える自分が
間違っているのではと思い始めるノアール。
兎にも角にも、何かしら言わなければならないと
口を開いたその時――――
「あなたたち何をしているの!」
宮藤達が先に出てきた基地の方から
責め立てるような声が響く。
『ミーナ中佐!』
先の声の主はミーナだった。
その顔は普段の隊員たちを見守る優しい表情とは
当然ながら正反対で、
また時折見せる憤った表情よりも
さらに一段と厳しさが際立っているようだった。
そんなミーナはノアールたちに歩み寄ると、
少年兵が持っていた手紙をひったくるように
取り上げる。
「このようなことは厳禁と伝えたはずですが……
ノアール少尉、貴方からもそう伝えなかったの?」
『ッ!……はい、いいえ。
軍規に違反していると彼には諭したのですが…』
「そう……。とにかく、少尉も言っていた通り
ウィッチーズとの必要以上の接触は厳禁です。
したがって、これはお返しします……」
「……申し訳ありませんでした」
ノアールと違い、ミーナには何を言っても
最早無理だろうと察した少年兵は
突き返された手紙を受け取り、
足早にその場を去った。
「あなたたちも、それを置いたら軍務に戻りなさい」
ミーナの促す言葉に、
後ろ髪ひかれるような表情をしていた
宮藤とリーネは隊舎へと入っていった。
ノアールもそれに続こうとすると――――
「ノアール君…」
ミーナの呼び止める声に彼は振り向いた。
『なんでしょう?』
「さっきの件、
貴方が引き留めてくれてよかったわ。ありがとう…」
『……いえ、軍規ですから。それに本音を言えば、
彼の誠意や宮藤さんたちに
揺さぶられてしまった自分がいたのも事実です。
ミーナ中佐が来てくれなければ、自分は……』
「そう……でも規則は規則よ……規則なのよ」
ノアールから視線を逸らしたミーナ。
その言葉は、まるで自身に向けて
言い聞かせているようにも聞こえる……
『中佐?』
「……少し部屋で休むわ。
ノアール君もそれを部屋に置いたら、軍務に戻って」
『……了解』
隊舎に入っていたミーナを、
ノアールはその姿が見えなくなるまで見送った後、
改めて自身も隊舎に入った。
◇◇◇
『これは……!』
自室に戻ったノアールは、
改めて杉田艦長から貰った包みを開ける。
手のひらより少し大きな長方形の箱を開けると、
入っていたのはチェーンのついた
蓋付きの懐中時計だった。
その形状に沿って合わせた緩衝材に納まっている上に――――
『この模様、501部隊の……』
懐中時計の蓋部分に彫られていた5つの光と
雲を思わせる意匠、そして何より
箒によって形作られた五芒星から、
501部隊のパーソナルマークだと理解し、
オーダーメイドで相当な値打ちのものだ
というのが窺える。
『なんだか、
持ってたら戦いの最中に壊れそうで怖いな……』
手に取って見ていたノアールは
懐中時計をそのまま納まっていた箱に戻し、
机の引き出しにしまう。
『………』
贈り物を確認し終えたノアールは
椅子の背もたれに身を預け思案に暮れる。
彼の脳裏に浮かんでいたのは――――
『……ミーナ中佐、
なんであんなに悲しそうな顔を……』
少年兵に向けていた厳格な表情から打って変わり、
悲しみを押し殺すような表情を浮かべて
隊舎に入っていったミーナの顔だった。
“……ありがとうノアール君”
“キミがこうであるべきと思っている人たちも、
信念を持って戦わなければならないほど
弱い存在かもしれない…”
海上訓練前にノアールに注意を促した時に
ミーナが見せた悲し気な笑顔……
そして、ウィルマの言っていたその言葉が響き、
ノアールの渋面が険しくなる。
『(この部隊に来る事前に、
部隊内における規則を予習していたから
“これは規則なんだ”と何の疑問もなく
納得していた……でも……)』
その規則を定めたミーナ自身から、
ある程度の規則の軟化を言い渡されて戸惑った。
『(そして、それを部隊長が言うのならと納得しつつ、
基本は元の規則に従事しつつやっていこうと
決めていた……でも……)』
自身の事情が絡んでいたとはいえ、
より一層部隊内のウィッチ達との
深い繋がりを結べるようミーナが都合してくれた。
『(矛盾してる……
自分をこの部隊に迎え入れたことと、
あの赤城の船員に対しての態度……
この規則を定めたミーナ中佐の行動は、
明らかに矛盾してる……)』
ついにノアールの中で今度の一件をもたらす
きっかけになった規則への疑問が
確実なものとなった。
『(知りたい………どうしてミーナ中佐は、
倫理的に考えれば凡そ予想できる常識を
わざわざ軍規として定めたのか……
そして、上層部からの出向とはいえ、
元からあった規則を軟化……
いや、もう捻じ曲げてると言えるくらいにしてまで、
どうして自分を受け入れてくれたのか……)』
決意を込めた目をして顔を上げるノアール。
だがそこで、彼は以前にも似たような出来事が
あったことを思い出す……
『(トゥルーデ姉さんの時も、
こんな感じだったかな……)』
バルクホルンが自身と宮藤を苦悶の表情で
見ていたのを疑問に思い、
ミーナに相談に行ったことを思い出すノアール。
今度の一件に関しても、
規則を定めた当人であるミーナに
聞きに行くべき事柄だが……
ノアールは自身に待ったをかける――――
今度の一件も、
自身が気安く触れていい案件では
ないかもしれない…と……
その考えに至ったのは、
ひとえに前回のバルクホルンの一件を
踏まえていたからに他ならない。
今度のことに関しても、
ここですっぱりと切り上げるべき案件だと
彼も頭では理解している。だが――――
『知らなければいけない気がする……
“特別扱い”“例外中の例外”だなんて言葉で
片づけてちゃ駄目だ!
その真意を知らないと、
自分が自分を許せなくなる!!』
理性以上に本能が、
これまで目を向けることのなかった
自身がここにいることを許される理由を
知りたいと欲していた。
たとえ自分の行動が、結果ミーナの信念を
土足で踏み荒らすことになるのだとしても……
決意したノアールは立ち上がり、
自身の部屋を出ていく。
その足取りは、
ミーナのいる部屋とは別の方向に向かっていた……
今回も前後編になります。
ハンガーにてウィッチのために働く
男性職員の方々の心情を描写してみました。
漫画版ワールドウィッチーズでの描写を
参考にしたまでですが…
話は変わりまして…
ユナフロが終わってしまう…
501や502だけでなくその中のウィッチ達と
交流のあった別部隊のウィッチが
一堂に会して共に戦うというコンセプトは
良いとは思ってたのですが…
残念ですね……
だいぶ昔にブラウザ版で出てた
軌跡の輪舞曲も無くなっちゃって…
もうストウィゲームは家庭用ゲーム機
で出してるやつしか遊べないというのは
悲しい気がします…(ちなみに全部持ってます)
それでは