Unknown Wizard Chronicle 作:シノギ
盆休みに入りまして時間的に余裕ができ、
執筆に集中できると思ったのですが…
FGOの夏イベントが始まりましたね…
基本的な形態が周回システムのイベントですから
そっちに集中して執筆が疎かにならないよう
心掛けたいですね…
話を戻しまして…
今回、久しぶりにウルトラシリーズを知っている方なら
“コレってあの話のオマージュだろ”
と感じる描写を入れてみました
戦略的にはどうなんだろうと
思われるかもしれませんが、
ぶっちゃけるとノアールの能力を
初代に固定しているならこういう描写しても
イイよねって感じで入れました(笑)
「ハルトマン!
二度寝はするなと言っただろうがぁ!!」
「……んん……二度寝じゃないよ……
今から……さんど…寝……」
「なお悪いわッ!!」
501部隊隊舎にて恒例とも言うべき怒号が聞こえてくる
エーリカ・ハルトマンの部屋の前、
ノアールは佇んでいた。
『(トゥルーデ姉さんが部屋に居なかったから、
もしかしてと思ったけど…)』
ここに来る前、決意を胸にバルクホルンの部屋を
訪れたが、当人が居なかったのを確認し、
何処に行ったのかと予想して
真っ先にこの場所が浮かんだのだ。
昼間の訓練を終わらせていた二人が小休憩のために
隊舎に居ることは把握していたため、今度の件を
聞くなら今しかないと思って来たのだが……
『(エーリカさんの生活態度は、
ONとOFFの差が激しいからなぁ……)』
これまでの501部隊での生活の中で、ノアールは
エーリカの人となりをある程度は把握していた。
カールスラントが誇るスーパーエースの一人、
ネウロイとの戦いにおいては勇猛果敢と持て囃され、
事実共に戦場で戦っている自身もその評価は正しい
と思える一方……
普段の私生活は壊滅的。ずぼらでめんどくさがり屋、
それを象徴するかの如く自室はごみ屋敷もかくや
と言った有様。
その割に時折鋭い意見を述べることもある上に、
将来の夢は医者になること……
なんとも掴み所のない人物だとノアールは
今でも思っている。
『(でも、ある意味エーリカさんも居てくれて
よかったかもしれない…)』
ノアールはエーリカとバルクホルンが
一緒にいたことを幸運だと解釈する。
彼が訪問した理由……
それはミーナ自身に聞いたところで
話してくれる案件ではないかもしれない。
ならばこの部隊の設立時から共に行動している人物に
聞けばいい。
その候補である二人が一緒にいるのだ。
もしこの二人が駄目でも、坂本がいる。
それでも駄目なら、最終手段として
ミーナ自身に聞きに行くしかないが……
『…よし!』
顔を引き締めたノアールはノックのために
手をドアに近づける。
「わかったよぉ~……
もうちょっと休憩したかったのにぃ~……」
「休憩どころか就寝していたではないか!
……お、おい待てハルトマン!
せめてシャツを――――ッ」
ガチャンッ!
『ぇ…?』
「ふぁ?」
ノックするはずのドアが内側に開くのと、
ドアを開いてすぐそばに人影があったことに
思わず声を上げた二人。
そして――――
バタンッ!
扉の前で立ち止まっていたノアールより、
部屋を出ようとするエーリカの勢いの方が
強かったためか、ノアールはエーリカに
押し倒される形でその場に倒れた。
すると――――
「ひぁっ////」
エーリカの口から、幼い容姿に似つかわしくない
悩ましい声が響く。
「ハルトマン、大丈……ッ!?」
倒れ込んだうえ、妙な声を上げているエーリカを
案じてバルクホルンが、その手にエーリカのシャツと
上着を持って部屋の外を見る。
見えてきた光景は――――
エーリカが倒れたまま顔を赤くして
震えている様子と……
エーリカの下着越しの胸元にノアールが
手と顔を押し付けられる形で倒れているものだった。
何故このような状態になったかの説明をすると……
ノアールのドアに向けて伸ばされていた手が
空を切り、その手の高さが丁度部屋から出てきた
エーリカの胸元の高さであり、
倒れ込むと同時にノアールの顔にまで
胸元が押し付けられ……この結果である……
なんとも、ずいぶん遅れて目立ち始めた
ラッキースケベである……
「は、ハルトマン!
お前、ノアールにナニをしている!?////」
「し、仕方ないっ……じゃん……
ノアールがいるなんて……思わな…ぁんっ////」
思いもよらない現状とエーリカの悩ましい声に
バルクホルンも顔を赤くする。
「の、ノアー…ル……手、動かさない……で…?
鼻息も……抑えて……くすぐったい……////」
『っ……っ……』
「ぁんっ!う、頷かなくて……いいか…らぁっ////」
声が出せずノアールが頷きで返事すると共に
エーリカの色めいた声が響き、
すぐさま頷くのをやめる。
その後、エーリカが身をどける形でその場は収まり、
一度自室に引っ込んだエーリカが
着替え終わったところで三人が出揃った。
『すいませんでした……
すぐさまノックをしなかった自分が悪いんです…』
「いや……それもそうだが、
着替えもせずに外に出ようとしたハルトマンも
問題ありだ!」
「ぐすん……穢されちゃったよぉ~……
もうお嫁にいけないよぉ~……
ノアールぅ、貰ってくれる?」
我が身を抱きしめて瞳を潤ませ、
首を傾げつつ尋ねるエーリカ。
『…………そうですね、嫁入り前の女性の身体に
ああも触れてしまったら、
その責任は取らないとですし……』
「真に受けるなノアール!!
ハルトマンも紛らわしい言い方をするな!!
私はこんなにも世話のかかる……
というより世話しかかからない義妹など
まっぴらごめんだぞ!!」
エーリカの揶揄い本意の冗談に対し
真剣な顔で悩むノアールに、
バルクホルンが声を荒げる。その発言は
最早彼を本当の弟として扱っているものだった。
ちなみに――――
「(あ~……ノアールって本気と冗談の
区別できないのは知ってたけど……
言ってることも本気か冗談かわからない……
というかほとんど本気なことしか
言わないから…………え?……あれ?
……なんでこんな顔赤くなってんだろう私……)////」
自分の冗談のカウンターによって、赤くなった顔を
隠すのに必死なエーリカの姿があった。
余談として……
ノアールがシャーリーを助けた際に
ほぼ裸同然の彼女を抱きしめていた件については、
非常時の不可抗力だったことと、
ノアール本人が覚えていないという奇跡的な偶然、
そして宮藤の抱きしめによって不本意に
抱擁させられていたということもあり
有耶無耶になっている。
◇◇◇
「ところで、ノアールは
ハルトマンに何の用事があったんだ?」
『……いえ、実はトゥルーデ姉さんの部屋に
行った後に、エーリカさんの部屋に来たんです』
「私の?」
「じゃあトゥルーデに用事があったんじゃないの?
なのに一緒に来てほしいって私まで呼んだのは
なんで?」
所変わって三人はバルクホルンの部屋に集っていた。
エーリカの部屋は来客を迎えられる
状態ではないのと、女性二人が男性の部屋、
この場合ノアールの部屋に入るのは世間体的に
よろしくないということで、この結果となったのだ。
窓際に立つバルクホルン、
部屋の椅子に背もたれを前にして座るエーリカ、
ドア付近に立ったままのノアール。
三人の話をする様相はこんな形で始まった。
『実は……ミーナ中佐のことで……』
「ミーナの?」
『………この部隊を設立した……
いえ、それ以前からの既知である
バルクホルン大尉とハルトマン中尉に
どうしても聞きたいことがあって!』
「「ッ!?」」
自分たちを階級付きで呼んだノアールを見た二人は、
かなり真剣な話なのだろうと察して顔を引き締める。
「話してみろノアール……。
もっとも、内容次第では話せることに
限りがあるが……」
『それはわかっています。
以前のバルクホルン大尉の時の経験から、
踏み込んではいけない一線というものがあることは
承知の上です……それでも知りたいんです!
そうしないと、自分は……』
「……とにかく話してみなよ。
まずは、なんでミーナのことを聞きたいのかの
理由が知りたいな?」
『はい。実は先ほど――――』
ノアールは先に起こった赤城の乗員である
少年兵と宮藤のやり取りを……
それを過剰とも取れる態度で突っぱねた
ミーナの態度を……
そして、それらを踏まえた上で、
なぜ自分だけがこんなにも部隊のウィッチ達と
共にいることを許されているのかという疑問を
二人に話した。
「………」
ノアールの話が終わったところで、
腕を組んでいるバルクホルンの表情は
晴れやかではなかった。彼自身も、
そう易々と話してくれることではないと
覚悟していたため、
期待した顔をすることはなかった。
だがそこに――――
「話してもいいんじゃないかな、
ノアールになら……」
暗い表情の二人とは打って変わって、
静かに笑みを浮かべたエーリカがそう告げた。
「ハルトマン!今回の件に関しては、
そう易々と話せる問題ではないんだぞ!?
ミーナの許可もなく、あのことを話すなどと……」
「そりゃあミーナの事情を知ってるのは、
私らと坂本少佐ぐらいだし……
軽々話せることじゃないってのもわかってるよ」
「だったら……」
「でもさ、トゥルーデだって
疑問だったんじゃないの?
あのミーナがさ、上からの命令とはいえ
年下とはいえ、ノアールを迎え入れて、
家族の一員としてここに置き続けてるのがさ?」
「それは……っ!」
反論していたバルクホルンは
図星を突かれたように押し黙る。
そして少しずつ彼女もミーナへの疑問を口にする。
「確かに……きっかけはどうあれ、ルッキーニを、
私を、エイラを、ノアールの姉として接することを
許してくれたことに違和感を覚えたことは事実だ。
それどころかそれ以外の面々にも、
同性同士の交流とそう変わらない接し方を
咎めることなく放任している…
だが、それでも今度ばかりは……」
「ノアールだって面白半分で聞いてる……
というよりそんな気なんて微塵も持つ子じゃない
ってわかってるでしょ?お義姉ちゃんとして」
「………そうだな、その通りだ。
コイツは何につけても真剣なやつだったな」
エーリカの諭しに苦笑したバルクホルンは
今一度真剣な顔でノアールを見据える。
「ノアール、今から私とハルトマンが話すことは
くれぐれも他言無用だ」
「坂本少佐か、万が一ミーナに
それをどこで知ったのかを聞かれたら、
私とトゥルーデに聞いたって言っていいから。
ミーナもきっと、私たちがちゃんと考えた上で
ノアールに話したんだろうって
わかってくれると思うから……」
『……はい、決して……』
まるで戦いに赴く前の身構えているような顔をする
ノアールに予想通りだったと二人は内心で苦笑した。
「あれは……ダイナモ作戦のことだった……」
◇◇◇
ダイナモ作戦。
それはカールスラント、ガリア、オストマルクからの
国民及び政府首脳をブリタニアへと避難させるために
行われた一大作戦だった。
その支援に宛がわれたウィッチ隊に
ミーナやバルクホルン、エーリカも
参加していたという。
作戦自体は成功したものの、撤退に際して被る
ネウロイからの攻撃を防ぐため、
非常の際、一部の部隊には決死の防衛を務めるよう
命令が下っていた。
言ってしまえば、囮の役柄を被った軍人たちは
国の宝たる人々を守るためならばと、
覚悟を胸に戦いその身を犠牲にしていった。
そしてその防衛線の一つ、パ・ド・カレーの基地にて
整備兵として従事していた
“クルト・フラッハフェルト”も、
その一人となってしまった……
ミーナとクルトは隣家の幼馴染同士で、
ミーナは彼を兄のように……
いや、もしくはそれ以上の存在として慕っていた。
共に音楽家を目指していたが、
戦況の悪化に伴いミーナはウィッチとして
最前線に配属されることとなり、
クルトもまた軍に志願し、
最前線へと赴くこととなった。
ミーナと共にいられるから、
ミーナだけを戦わせたくない……
その想いを胸に抱いて……
パ・ド・カレーの基地から発進する折に見た
クルトの姿――――
それがミーナにとって、
彼を見た最後の姿となってしまったのだ……
どんな些細な理由であろうと、
関係を持ち交流を深めれば
それがいつの間にか掛け替えの無いものに
変わっていく……
だが、ソレが深ければ深いほど、
失われたときに被る悲しみや苦しみは
身も心も引き裂くような傷になってしまう……
だからこそミーナは、たとえ不条理だと、
不公平だと罵倒されようとも、
それすらも飲み込む覚悟を持って規則を定めたのだ。
自身の元へと集ってくれたウィッチ達に、
自分と同じ悲しみと傷を負わせないように……
◇◇◇
バルクホルンとエーリカが話し終えた頃には
夕方に差し掛かろうとする時間になっていた。
当然ながら、その場の空気は
いかにも陰鬱としたものになっていた。
そして――――
トンッ……
『………』
俯いていたノアールが唐突に膝をつく。
「ノアール!?」
「どうした!?」
突然崩れるようにへたり込んだノアールを見て
慌てる二人。やがて――――
『っ………っく…………ぅぅ……』
ノアールの静かな嗚咽が響いてきた。
『そんな………そんな傷を負ってるのに………
これまで築いてきたものも、善意も悪意までも
背負って…………それでも、普段から……
あんなに明るく振舞って……
部隊の皆さんのために尽力して…………
挙句の果てに………その幼馴染の方と同じ
男性である自分を受け入れてくれたって
言うんですか……?
自分のために規則を捻じ曲げて………
家族と呼んでくれて……三人を姉さんと呼ぶことを
許してくれて……。なのに自分は……
今の今までそれが……どれだけ重大なことだったのか
知りもせず、ただその厚意に
甘えていただけだったなんて………ッ!!』
両手で顔を押さえるノアール。
だがすでに流れていた涙はその程度で
収まることなどなかった。
バルクホルンやエーリカも、
彼の嗚咽が収まるまで止めることはしなかった。
そして、震えていた肩も嗚咽も収まり、
押さえていた手が離れた時のノアールの顔は――――
◇◇◇
翌日、食堂にて朝食をとっていた
ウィッチやウィザード達はネウロイ出現の警報により
一同ブリーフィングルームへと集合した。
「ガリアから敵が進行中との報告です」
「今回は珍しく予測が当たったな……」
「ええ…」
これまで観測班からの予報を裏切る形で
出現していたネウロイが今度ばかりはずいぶんと
素直に現れたという皮肉を込めた坂本の言葉に
ミーナは同意する。
「現在の高度は15000。
進路は真っすぐこの基地を目指してるわ」
「よし、ルーチンの迎撃パターンで行けるな……
今日の搭乗割は……
バルクホルン、ハルトマンが前衛、
ペリーヌとリーネが後衛、
宮藤は私とミーナの直掩。それからノアール……」
『……はい!』
坂本の言葉に応えるノアール。その瞳は
これ以上ないほどの決意が込められているように
輝いていた。
「お前は遊撃及び、いざという時の大火力による
砲撃担当として出てくれ。訓練しつつも
フォーメーションの関係上、未だにこんな形でしか
お前を使ってやれないのは忍びないが…」
『お気遣いなく……付け焼刃の戦術は実戦では
命取りになります。ならば自分は、自分ができる
全力でもって皆さんの力になるだけです!』
「…そうか、頼むぞ!」
残ったシャーリー、ルッキーニ、エイラ、サーニャは
基地待機を言い渡され、出撃メンバーは
すぐさまハンガーへと向かった。
発進ユニットにてそれぞれストライカーを履いた
ウィッチ達は自身の銃器を手にハンガーから
滑走路へと向かい、事前に割り振られた
フォーメーションに沿った隊列に並んで飛び立つ。
ビームカプセルを点火し、SUAを装着した
ノアールも隊列全体を見渡せるよう、ウィッチ達より
少し高い高度を維持しつつ飛び立った。
基地に向かってきているネウロイの侵攻ルートに
沿って飛び続けること数分……
「敵発見!」
「タイプは!?」
「確認する!」
ミーナの確認の声に、坂本は魔眼によって
ネウロイの姿を確認する。
遠視によって捉えられたネウロイの形態は、
ビームの発射機関がまばらに点在している
キューブ状をしていた。
「300メートル級だ。いつものフォーメーションか?」
「そうね……」
「ならば、今回ノアールは
一撃必殺の砲撃担当だ、いいな?」
『了解!』
「よし、突撃!」
坂本の指示によって前衛のバルクホルンとエーリカ、
後衛のリーネとペリーヌが先陣を切って
ネウロイへと接近する。
「……ッ!?」
照準を合わせて引き金を引こうとした矢先、
ネウロイに変化が起こった。
なんと、巨大なキューブ状をしていたネウロイが
分裂し、小型のキューブ状ネウロイの大群となって
攻めてきたのだ。
「なにっ!?」
「分裂したっ!?」
予想外のネウロイの能力に驚く一同を他所に、
ミーナは一人、自身の固有魔法である
“三次元空間把握能力”によって、
分裂したネウロイの規模を視ていた。
「右下方、中央、左、それぞれ丁度100機分よ!」
「総勢300機分か……勲章の大盤振る舞いになるな!」
「そうね……」
坂本の言う通り、撃墜数を稼ぐにはおあつらえ向きの
敵ではあるが、数が多いというのはそれだけで
脅威ともいえる。弾数も魔法力も限りのある
自分達が不利なのは否めない。
早々に大本のコアを見つけ出し、一網打尽にするのが
上策であろう。
「どうする!?」
「貴女はコアを探して!」
「了解!」
ミーナはこのメンバーの中で唯一の魔眼持ちである
坂本をコアの探索にあてる。
「バルクホルン隊は中央、ペリーヌ隊は右を迎撃!」
「「了解!」」
「私は左の一群を相手にするわ。
宮藤さん、貴女は坂本少佐の直掩に入りなさい!」
「了解!」
「いい?貴女の任務は少佐がコアを見つけるまで
敵を近づけないことよ!」
「はい!」
それぞれの一群に対処する隊を割り振って
ミーナは指示を出す。
その中で、コアの探索に集中する坂本の護衛として
宮藤を起用する。
そして最後にノアールへと指示を告げる。
「ノアール君、貴方は機動性と
光線の攻撃力を利用して各群の中から
ネウロイの子機の何機かを誘導しつつ
各個撃破すること。ただし、光線を放つ際は
私達にその流れ弾が来ないよう事前に連絡、
且つ高度を注意して行うこと。出来るわね?」
『要するに、各群にちょっかいを出して
ついてきた奴らを、皆さんから引き剥がした後に
全部撃ち落せってことですね!?』
「その通りよ!」
『了解!ですが、なるべくミーナ中佐の一群の中から
いただきますよ。他はロッテで迎撃しますが、
中佐は一人なんですから!』
「? ええ、ありがとう……」
いつになく力強い進言をするノアールに
困惑しつつも、自身をフォローしてくれる旨に
礼を言うミーナ。
そのやり取りを声だけで聴いていたバルクホルンと
エーリカは徐に互いを見合わせ、苦笑していた。
「各員、行動開始!」
『「「「「「「了解!!」」」」」」』
各員事前の指示にあった一群へと向かっていき、
坂本と宮藤は高度を上げて空域全体を
見渡せる位置にてコアの探索を開始する。
数の有利を活かし不規則な軌道を描きながら
迫りくる小型ネウロイ。
だが長年戦い続けてきた腕は伊達ではなく、
変則的な軌道でそれらをかわし、
少しずつではあるが一機一機撃破していくミーナ。
「これで十機!」
「こっちは十二機!」
「久々にスコアを稼げるな!」
「ここのところ、全然だったからね!」
直線状に飛びつつ、通過時に撃ち落す戦法で戦う
バルクホルンとエーリカ。
背中合わせになって言葉を交わすほどの
余裕を見せる二人。
そして合図も無しに再び攻めてきた何機かの
小型ネウロイの攻撃をかわし、
再びネウロイの掃討に戻っていく。
「いいこと?貴女の銃じゃ速射は無理だわ。
引いて狙いなさい!」
「はい!」
「私の背中は、任せましたわよ!」
一方、狙撃専門のリーネと組んだペリーヌは
改めて彼女の弱点を指摘しつつ、
フォローに回るよう指示し、単独で一群の中へと
突っ込んでいく。
「コレを使うと、後で髪の毛が
大変なのよね……………トネールッ!!」
ペリーヌの固有魔法“雷撃”。
ガリア語でそれを意味する名を叫んだ瞬間、
彼女の身体から周囲に向けて雷撃が放たれ、
周辺に飛んでいた小型ネウロイが一斉に消滅した。
全滅を確認し、一回転して制止したペリーヌは
雷撃によって逆立ってしまった
自身の髪の毛を押さえつつ一息つく。
「ふぅっ……私にかかれば、このくらい――――」
ダンッ!
パァンッ!
得意げに呟いていたペリーヌの背後で銃声が響き、
ネウロイの消滅時特有の音が響く。
見ると、自分の背後から迫ってきたもう一機が
撃ち落される瞬間が眼に映った。
「はぁ……はぁ……」
「や、やるじゃない…?」
ライフルを構えて息を整えているリーネを見、彼女が
自身の援護をしてくれたことに気づいたペリーヌは
思った以上に成長していたことに感心して呟いた。
一方、遊撃を任されたノアールはと言うと――――
『そうだ!そのままついてこい!』
各群の停滞している空域を満遍なく飛び回り、
味方の射線上に入らないよう気を配りつつ、
その中から自身を追いかけてくる個体を
誘導していた。もちろん、先の行動開始前に
告げていた通り、ミーナの担当している
一群から誘導してきた個体の割合が多いのは
言うまでもない。
『(目視で凡そ三十機、そろそろか……)
各員に通達!各個撃破のため高高度へ上昇、
その後光線の掃射を始めます!』
「「「「「了解!」」」」」
コアの探索と護衛を務める坂本と
宮藤以外のウィッチが応答し、
それを聞いたノアールはその場から急上昇し、
誘導していたネウロイを連れてウィッチ達の戦う
高度よりさらに高い空域へと飛ぶ。
味方個体が乱雑に飛び交っていない空域に
来たためか、三十機の小型ネウロイはまるで
統率の取れた動きでノアールの周囲を
方位するように動き始める。
そして、ノアールが一定の高度に達したところで
上昇をやめた時には、彼の周囲を円形に取り囲んだ
状態になっていた。あとは一斉掃射によって
ノアールを撃ち落すだけ……
と思われたが……
子機になったことが仇となったのか、ノアールが
上昇をやめてその場でホバリングした理由に
考えが至らず、彼らはまんまとその包囲陣を
組まされたのだ。
ネウロイに視線があるとしたら、
彼らが最後に見た光景は――――
腹這いの状態でホバリングしたまま、
両手を十字に組み、光線を放ったノアールが
その場で回転し始めた様子だった。
◇◇◇
「みんな……凄い……!」
坂本と共に高高度で戦場を見渡せる位置にいる宮藤が
思わず呟く。
これまで戦ってきたネウロイは大型、
もしくは中型が一機出現するに留まっていた。
それが此度は小型とはいえ300機もの大軍を相手にし、
それらを仲間のウィッチ達が
持ち味を生かした戦術でもって応戦しているのだ。
未だにそれが未熟な宮藤が呟くのも無理はない。
そんな彼女をコア探索に尽力する坂本の護衛役として
起用したのは最適な判断だろう。
「あっ!」
その時、眼下に広がるネウロイの子機たちの中から
数機だけこちらに近づいてくるのが見えた宮藤は
機関銃を構え、引き金を引く。
「その調子で頼むぞ、宮藤!」
「はい!」
とはいえこの程度の規模なら宮藤も対処が可能だ。
全機撃ち落して、再び警戒に務める。
◇◇◇
戦闘が開始されてかなりの時間が経過した。いまだに
大本のコアは見つからず、ウィッチやウィザード達は
子機の掃討に奔走していた。
その頃、ミーナは自身が担当していた一群の
大半を撃墜し、それらが別の群へと合流したところを
見計らって、坂本の元へと訪れていた。
「コアは見つかった?」
「ダメだ……」
「…まさか、また陽動!?」
あれだけの数のネウロイの子機を見渡して
コアが見つからない……
ミーナは以前現れたコアの無い囮のネウロイの時と
同じ戦法に嵌ったのかと推測する。
「…違うだろう。コアの気配はある……
だが、どうもあの群れの中にはいないようだ」
坂本の否定でひとまず不意打ちの可能性が
消えたことにミーナは安堵する。
そして再び戦場を見渡すと、
最初は海上上空での戦いだったのが
大陸に迫っている状況になっていることに気づく。
「戦場は移動しつつあるわね……」
「ああ。大陸に近づきつつあるな……」
このままこの大量のネウロイを大陸に上陸させては、
戦況が不利になる。
ミーナや坂本の中で少しばかり焦りが出始める。
そしてもう一つの危機も――――
「(みんな、魔法力も弾数も
そろそろ危ない頃かしら……
少し無理をしてもらうのは忍びないけど……
ここは……)ノアール君!魔法力は残ってる!?」
≪ッ!全滅とはいきませんが、
掃射してある程度の数を減らせるほどは!≫
「そう(察しが良いのは流石ね……)。よく聞いて!
このままいけば戦況的にも不利になるわ。
貴方の光線の掃射でおおよその子機を一掃する!
残った敵が態勢を整えている間に坂本少佐が
コアを見つけて、それを撃ち落せば!」
≪了解!ではミーナ中佐、各隊員が掃討中の
ネウロイたちを自分の元に誘導、
その後現在の高度から急降下して離脱後、
光線の一斉掃射で一網打尽!
この作戦でどうですか!?≫
「わかったわ!皆聞いたわね!
各員ネウロイ群をノアール君の周囲に誘導!
その後急降下して現高度を離脱して!」
「「「「了解!!」」」
バルクホルン、エーリカ、ペリーヌ、リーネは
撃墜を最小限に留め、ノアールと同じ誘導へと
戦術を切り替え、彼の元へとネウロイを集合させる。
とはいえ、それまでの間にある程度の数を
減らすのも忘れない。
彼の光線の威力は全員が把握しているものの、
たった一人に大量のネウロイを
押し付けることになるのだから……
『すぅ~……はぁ~……』
現在ノアールは先の誘導したネウロイを一掃した
高度と同じ空域に停滞していた。
呼吸を整えつつ、飛行できるギリギリの魔法力を
残したうえで両腕に魔法力を集中させる。
そのせいか、両腕が少しばかり光を帯びていた。
「ノアール!!」
『ッ!?』
バルクホルンの呼びかけに、閉じていた眼を見開く。
瞬時に周囲を見渡すと、戦闘開始時より数は
減ったもののそれでも100機近くのネウロイが
取り囲んでいた。
「男の子のカッコいいところ、見せる時だよっ♪」
「頼みましたわよ!」
「気を付けてね!」
「全員急降下!現高度より離脱する!
ノアール、任せたぞ!」
『了解!』
誘導を終えた4人がノアールへと一声かけた後、
一斉に降下していく。
それを見届けたノアールは再び腹這いの状態になり、
光を帯びた両腕を十字に構え、回転を始める。
光線による……見様によっては光の鞭が、
集結したネウロイに振るわれ、
次々と撃ち落されていく。
その回転も一回に留まらず何度も行われるため、
一週目で撃ち損ねたネウロイも二週目三週目の
回転によって撃ち落され、
ノアールが魔法力の限界になるまで撃ち終えた頃には
殆どのネウロイの子機が消滅していた。
そして、それを見守っていたウィッチたちの視線が
より高い所に向いていたことが
功を奏したのだろう……
さらに高高度に停滞していた数機の、
先と同じ形のネウロイの子機が眼に見えた。
「上ッ!!」
「ッ!!」
宮藤の声に坂本がその数機の中から
コアを見つけるために目を凝らす。
しかし――――
「クソっ、見えない!」
ネウロイたちは丁度太陽に重なるような位置に
停滞しており、日の光に眼を焼かれるために
坂本は苦悩する。
「行きます!!」
コアの有無はさておき、自分たちの頭上にいるなら
脅威と変わらない。そう判断して宮藤は
高高度のネウロイに向かっていく。
数機のネウロイたちも捕捉されたと判断したのか、
急降下しながらビームを放ってくる。
シールドで防ぎつつ機関銃を撃ち放つ宮藤。
その下からミーナも援護射撃を行う。
「よしいいぞ!もう少し頼む!」
「はい!」
太陽と重なっていた位置から降下してきたことが
功を奏し、さらには宮藤とミーナによって
数が減ってきたことにより、コアの探知が
容易になってきた坂本。
そしてついに――――!
「見つけた!!」
今まで倒してきたものと同じ形の小型ネウロイが
一機、大陸に向かって飛んでいく。
その中にコアが隠れていたところを坂本は
しかとその眼で見た。
「あれなの!?」
「ああっ!!」
「全隊員に通告、敵コアを発見!
私たちが叩くから、他を近づけさせないで!」
≪<<<<了解!!>>>>≫
ノアールの一掃を免れた残党を撃ち落すことに
専念していたウィッチやウィザード達に
通信を入れて、ミーナ、坂本、宮藤は
大陸に逃れようとするコアネウロイを追いかける。
「いたっ!!」
雲を抜けた先にコアネウロイを発見し、
三人が一斉掃射を始める。
銃弾の雨に晒されて損傷したコアネウロイが
急上昇し、射線上から逃れるが……
「宮藤、逃がすなッ!!」
「はいっ!!」
宮藤が急旋回し、
機関銃を撃ち放ちながら追いかける。
不慣れな体勢の中で放たれた一発が命中し、
体勢が崩れたコアネウロイに次の弾丸が撃ち込まれ、
ついに消滅した。
ネウロイの消滅時に振り撒かれる残骸を
各々がシールドを展開して防御する。
その時――――!!
キィンッ!
「ッ!!」
ネウロイの残骸の一つが坂本のシールドを突き破り、
彼女の前髪を少しばかり掠めていった……
「……美緒っ!?」
ミーナがその驚愕の光景に声を上げた。
そして、もう一人――――
『(坂本少佐………今、確かにシールドが……!?)』
遅れてその場に駆け付けたノアールもまた、
その光景をしかと目にしていた。
◇◇◇
時間は少しばかり遡り……
ミーナ達三人でコアネウロイを撃ち落す旨の通信が
各員に報せられたと同時に、
大本が危機に晒されていると察した残党の
小型ネウロイ達も大陸に向けて動き始めたのだ。
そうはさせまいとウィッチやウィザード達は
残党の掃討に奮闘した。
そのお陰も手伝って三人の元に
残党のネウロイが来ることはなかった。
そんな中ノアールは、自身の周囲にいる
小型ネウロイを撃ち落した後、
全速力で三人の元へと向かった。
だがその時には宮藤の手によってコアネウロイが
撃ち落された後だった。
ノアールも安堵して、労いの言葉をかけようと
近づいた直後――――
坂本のシールドを、ネウロイの残骸の一部が
突き抜けたのを見た……
そして今に至る――――
「芳佳ちゃんすごーいっ!!」
「ふんっ、あんなのマグレですわよ!」
「いや、不規則軌道中の敵機に命中させるのは
なかなか難しいんだ…」
「宮藤、やるじゃ~ん♪」
「え、えへへ……そうかな?」
ミーナとノアールがかつて無いほどの事態を
目の当たりにしているのを他所に、
遅れてきた前衛後衛メンバーが宮藤の撃墜を評価し、
された当人は照れ笑いを浮かべる。
「……綺麗」
コアネウロイが撃墜されたことで残っていた
子機ネウロイ達も白い結晶となって落ちていく。
その光景は皮肉にも宮藤が徐に呟いた言葉を
口にしても仕方ないほど煌びやかな光景だった。
「ああ……こうなってしまえばな……」
「綺麗な花には棘が……と言いますわね……」
「自分のことか~?」
「なっ……失礼ですわね!!」
アンニュイな表情で呟いたペリーヌを
揶揄うエーリカ。
それを機に、その場に和やかな雰囲気が
立ち込めるが……
そんな中、ミーナは徐に目を向けた陸地の
“とある場所”を見据えて
何も言わずに降下していった……
「ミーナ?」
そんな彼女を見たバルクホルンが声をかけたことで、
全員が全員、降下していくミーナに目を向ける。
「っ!?おーい、何処に――――」
「待て。一人にさせてやろう……」
呼び止めようとするエーリカを、坂本が引き留める。
悟ったようなニュアンスの坂本の言葉に、
エーリカとバルクホルンは
今一度ミーナが下りていった場所を見据え、
「そうか……ここは、パ・ド・カレーか……」
バルクホルンは渋面な顔で呟いた。
最早廃墟しか残っていなかったが、
それでも見覚えのある風景からここがパ・ド・カレー
――――ミーナにとって忘れたくても
忘れられない場所だったことはすぐに分かった。
『パ・ド・カレー……はっ!!』
その名を聞いたノアールは、
思わずバルクホルンとエーリカに振り向く。
見返していた二人は何も言わずに頷いた。
『(ここが……)』
それだけで理解したノアールは、
二人から聞かされたダイナモ作戦の内容を思い出し、
下りていったミーナの後姿を悲痛な面持ちで見た。
しばらくした後、一人迎えに降りた坂本と共に
ミーナが全員と合流し、
501基地へと帰還の途についた。
その彼女の手には、
パ・ド・カレー基地の跡地に残された車
――――クルト・フラッハフェルトの車の中に
残されていた包みがあった。
中身は、ついに彼から渡されることが叶わなかった、
ミーナのためにと用意したであろう
真紅のドレスが入っていた……
◇◇◇
ネウロイの掃討が完了したウィッチ達が基地に
帰還してしばらくし、停泊していた赤城が出港した。
その甲板の上では、これより前線に赴く船員たちが
最後に501基地を目に焼き付けて、
ネウロイと最前線にて戦うウィッチ達の雄姿を胸に
戦おうと士気を高めていた。
その中には、宮藤に手紙を渡そうとした
あの少年兵の姿もあった……
「やっぱり、来なかった……」
元よりあの基地での規則もあった……
自分の行いのせいで、
宮藤に迷惑もかけてしまった……
ネウロイ出現のために出撃したという
連絡が来ていたため、見送りの余裕も
無かったのだろうという理由を
挙げることもできた……
だがもしかしたら……と言う期待も
少なからずあったため、少年兵は
徐々に離れていく501基地を肩を落としたまま
見つめていた。
その時、戦闘機とは少し違うエンジン音と、
それに伴って起きたであろう突風が
少年兵の軍帽を飛ばした。
振り向くと、赤城船首に向かって飛ぶ
3人のウィッチの姿が見えた。
3つの軌道は赤城の上を宙返りし、
やがて速度を緩めて赤城と並行するように並ぶ。
飛んできたのは坂本とリーネ、
そして宮藤だったのだ。
「みんなありがとー!頑張ってねぇーッ!
私も頑張るからぁーッ!!」
先日、お礼が言いたいと強く思っていた宮藤が、
船員たちに向かって手を振る。
「よかったね、芳佳ちゃん♪」
「うん!ちゃんとお礼言えた!」
「…世話になったからな」
「…はいっ」
「みんな嬉しそう♪」
「……よかった」
宮藤だけでなく坂本も見送りに来てくれたことに
船員たちは活気づく。
坂本自身も、欧州と扶桑の行き来で
乗った船だったため、内心では何かしら
礼をしなければと思っていたのだ。
そして――――
ビュンッ!!
宮藤達とは違う速度で赤城と並行して飛ぶ
影が現れた。
「ノアールくん!?」
見覚えのある影に思わず声を上げる宮藤。
3人を一瞥したノアールは軽く頷き、
空中で直立不動の姿勢になる。
彼の装備であるSUAだからこそ出来る所業だ。
そして彼は、その状態のまま船員たちに向かって
敬礼の姿勢になった。
不器用な彼は、宮藤のように見送りの言葉を
かけることはできなくとも、感謝の気持ちと
これから前哨戦に向かう彼らへの敬意を表するために
ここまで飛んできたのだ。
それを見ていた船員たちは、
活気づいていた姿勢を正し、海軍式の敬礼で返した。
それを視線だけで見まわして、
今度は船首の方へと飛んでいく。
そこでも敬礼の姿勢をしばらくした後、
今度は先の左舷とは反対側の右舷に飛び、
再び敬礼の姿勢になった。
「アイツ、わざわざ赤城の全船員に敬礼を送るために
ああして飛んでいるのか…」
「アハハ……律儀なノアールくんらしいですね…」
「うん。でも、だからこそノアールくんの
感謝の気持ちが籠ってるって思うな…」
ノアールなりの感謝の表し方だと解釈している
宮藤たちは苦笑する。
船尾にいる船員たちに敬礼を送ったノアールは、
最後に赤城の艦長である杉田がいるであろう
指揮所の側まで飛び、敬礼を送った。
無論、ここまでの所業で彼の意志をくみ取った
杉田や副長の樽宮達も精一杯の敬意の返答として
敬礼を返した。
『……武運を祈ります』
一息ついたノアールは小さくそう呟くと、
後ろ髪引かれることなく基地へと帰っていった。
◇◇◇
♪♪~…♪♪♪♪~
「♪~……♪♪♪~…」
501基地の宿舎のミーティングルームにて、
その歌声と旋律は響いていた。
旋律の出所は、元よりこの部屋に備え付けられていたグランドピアノによるもの。
その鍵盤に指を巡らすは、ピアニストの父を持つ
サーニャによるものだった。
彼女は歌だけでなくピアノにも精通しているのだ。
その旋律に伴い歌を奏でるのは、かつて声楽家を
目指していた501部隊長であるミーナだった。
スタンドマイクを前に詞を紡ぐ彼女は、
パ・ド・カレーの跡地に残されていた、
今は亡きクルトの贈り物である
真紅のドレスを身に纏っていた。
曲目は“リリー・マルレーン”
これより戦場へと赴く赤城の船員たちに向けて
送られるこの曲は、クルトの想いが込められた
贈り物を受け取り、過去の悲劇を乗り越えようという
彼女の決意の証でもある。
宮藤達が帰還後、
赤城を見送りに飛んできたのがその証拠だ。
そんな彼女の姿を記録するためバルクホルンが
カメラを構えており、
歌声を電波に乗せて赤城に送る通信機器を
シャーリーが操作している。
他のウィッチ達は各々の姿勢で
ミーナの歌声に聞き入っており、
さらには機材を運び込むために尽力してくれた
何人かの整備兵も彼女の歌声に酔いしれていた。
『………』
そして、一足先に基地に戻っていった
ノアールもまた、ミーナの姿を目に焼き付けながら、
その歌声に聞き入っていた。
カールスラントが発祥とされるこの曲と詞を、
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケという女性が
歌い上げる……
そんな思いが脳裏に浮かんだノアールは、
まるでこの曲が、彼女のためにある曲なのでは
という錯覚を覚える……
それを思う彼の視界は、次第に滲んでいき――――
パチパチパチ………
曲が終演を迎え、室内に拍手が響き渡り、
歌い終えたミーナは恭しい一礼を見せた。
「とっても素敵な歌でした…」
「…ありがとう」
赤城の見送りから戻った3人の代表で宮藤が
ミーナの歌声への感動を伝える。
そんな彼女の言葉を受け取ったミーナの表情は
とても晴れやかで、いつもの彼女らしい
慈母のごとき笑顔だった。
「フンッ!」
「ふぁっ!なにふるんでふか~…」
その時、宮藤の背後から先までミーナの歌声と
同じくらい、サーニャのピアノの旋律に
聞き入っていたエイラが手を伸ばし、
宮藤の頬を引っ張る。
「サーニャのピアノはどうしタァ?
サーニャのぉ~!」
「ほってもふてひでひたぁ~…」
「ええい!もっと褒めロぉ~!」
「褒めてまふってばぁ~……」
ミーナの歌唱だけでなくサーニャの伴奏も忘れるな
というエイラの抗議に宮藤は忘れてないと応じる。
あまり目立つことに慣れていないサーニャは
それだけで顔を赤くしていた。
宮藤の頬が引っ張られた顔の抗議で
その場に笑いが起こる。
ミーナもその可笑しさから口元を押さえて
笑っていた。
ひとしきり宮藤の頬を引っ張ったエイラは
続いてノアールにもちょっかいをかけようと
ミーティングルームの上階に上る階段の側で立つ
彼の元へ向かう。
「さぁ~ノアールゥ~…お前からも
サーニャのピアノの感想ヲ
聞かせてうぇぇぇぇ~~~ッッ!!?」
以前にも聞いたエイラの素っ頓狂な叫び声。
それを聞いた一同はまさかと思い、エイラ…
ないしノアールの方へと目を向ける。
そこには、以前ほどあからさまではないが、
声を押し殺してさめざめと涙を流す
ノアールの姿があった。
「お前は……いちいち感情表現が
極端すぎるんだヨぅ~……
珍しく怒ってた時もそうだけド、
泣くときはとことん泣くんだナお前ハぁ……」
彼のそんな姿を見て悪戯する気も失せたのか、
エイラはハンカチを取り出して
ノアールの涙を拭き始める。
『すいません……ミーナ中佐の歌声が……
とても……とても素敵だったので……』
「ありがとう……ノアール君……」
くすりと笑うミーナ。
エイラもこんなノアールの姿を見たら宮藤のように、
サーニャのピアノはどうしたと責めることも
憚られるため、何も言わずに留飲を下げた。
通信機器の片づけにかかろうとしていた整備兵たちは
普段の無表情なノアールしか知らなかったために
涙を流す彼の様子に面食らっていたが……
付き合いの長いミーナを含むウィッチ達にとって
ノアールの涙は、笑顔を作ることのできない
彼にとっての最上の感動を示すものだと
理解していた。
◇◇◇
ミーナを主役としたミニコンサートが閉幕し、
今日における軍務も終了して各員が
それぞれ宿舎の部屋に戻りそれぞれ休みに入った。
『………』
そんな中、501部隊のパーソナルマークが刻印された
懐中時計を取り出し、
真剣な表情で眺めていたノアールは、
深呼吸して椅子から立ち上がる。
『……行かないと……あの人の元に……』
懐中時計を箱に戻し部屋を後にするノアール。
先日のバルクホルンの部屋へと向かった時とは
また一味違う……否、それ以上に決意の籠った表情を
浮かべながら歩を進める。
目指すは、ミーナの自室――――
“「貴女も行きたかったんでしょう?」”
“「ああ。世話になった艦だからな…」”
『…?(ミーナ中佐と……坂本少佐?)』
ミーナの自室に差し掛かろうとした時、
その部屋の中から話し声が聞こえてくるのに
気づいたノアール。
一人は部屋の主であるミーナと分かり、
もう一人はその声音から坂本だと認識する。
見ると、ミーナの部屋の扉が少しだけ開いており、
ノアールは扉の側まで近寄って中の様子を窺う。
「……あの人を失った時、本当に辛かった……
こんな想いをするくらいなら、
好きになんてならなければよかったってね……
……でも、そうじゃなかった」
「……そうか」
『(……中佐)』
ミーナの言うあの人とは、
クルトのことだろうとノアールは想起する。
過去に受けた自分と同じ悲しみをこの部隊に
来てくれたウィッチ達に味合わせたくない……
そのために規則という形で彼女たちに枷を付け、
そして自分自身にも枷を付けた……
たとえ自分のプライドによるものだったとしても、
それでウィッチ達を護れるのならと……
だが、ミーナ自身はどうなる?
今度のコンサートが、
その悲劇を乗り越えようとする彼女の心の表れ
だったのだとしても、傷そのものが
消えることはない……
その傷を背負ったまま……
部隊長としてウィッチ達を守りながら……
ネウロイと戦いながら……
誰が
それができる可能性のあるクルトは
もうこの世にいない……
“代わりに彼女を守る”という言葉も、
クルトはもういないという彼女の心の傷を
抉るだけに過ぎない……
『(そう……だから……だから自分は……ッ!!)』
ノアールは握りしめた拳を胸に当て、
心を落ち着かせる。
それが、彼に部屋の中で交わされている会話に
意識を向けさせることに繋がった。
「でも失うのは今でも恐ろしいわ……
それなら、失わない努力をするべきなの……ッ!」
先までとミーナの語気が変わったと感じたノアールは
部屋の中に目を向ける。
そこには、銀のワルサーPPKの銃口を
坂本に向けて構えるミーナの姿があった……
『ッ!!?』
「なんだ?ずいぶんと物騒だな……」
ノアールは予想だにしていなかった光景に
声を上げそうになるが、
そんな状況にも動揺していない坂本の
落ち着き払った声に勢いが削がれ、
気を落ち着かせた。
「約束して……
もうストライカーは履かないって……」
「それは命令か…?」
「っ……」
いつもと変わらず毅然とした態度で返答した
坂本の言葉に、ミーナの表情が少しばかり崩れる。
それを見た坂本は、彼女の行動が
本心からのものではないと確信する。
「そんな格好で命令されても、説得力が無いな……」
「ッ……私は本気よ!今度戦いに出たら、
きっと貴女は帰ってこない……!」
「“だったらいっそ自分の手で”
……と言うわけか?」
「っ……」
「矛盾だらけだな……お前らしくもない……」
「違う……違うわッ!!」
一度崩れた表情だけでなく、その語気も最早
先のような毅然さは感じられなかった。
今のミーナは、追い詰められた末に駄々をこねる
子供のようだった。
『(やっぱり……
坂本少佐のウィッチとしての寿命は……)』
“「私は……
もうすぐ戦えなくなっちゃうから……」”
以前ウィルマから聞いたその言葉の意味……
それは、先の戦闘時に坂本に降りかかった事態が
物語っていた。
ウィッチは一部の例外を除き、20歳を迎えると
魔法力の衰退が始まるとされる。
そして何より表立って現れる現象は、
シールドの強度の低下だ。
ウィッチにとってネウロイの攻撃を防ぐ
シールドが役に立たなくなる。
それはそのウィッチの生存率を
圧倒的に下げる要因になってしまう。
「私は……まだ飛ばねばならないんだ……」
その言葉を最後に坂本は部屋の出入り口に
歩を進める。
ミーナはその背に向けて銃を構えるも、
その手は震え、引き金にかけられた指が
引かれることもなく――――
結局、ミーナは坂本が部屋を出るその瞬間まで、
その背を撃つことはできなかった……
『(坂本少佐……ミーナ中佐……)』
坂本が部屋を出ようと歩いてくるのを見た
ノアールは、月明かりによって出来た影の
かかっている近場の柱の陰に隠れた。
坂本の部屋の方向と反対側にあったこともあり、
ノアールは彼女に気づかれることもなく
やり過ごした。
そして再び、ミーナの部屋の前に立つ。
その部屋の中からは、声を押し殺しても聞こえる
すすり泣く声が響いていた。
今のミーナがどんな様子なのかを想像するのは
難しくない。
盗み聞く形になったとはいえ、
先の会話を知っている彼としては、
そんなタイミングで部屋を訪ねるのは
デリカシーが無いのは承知している。
だが、それでも……
昨日と今日の出来事で自分の中に生まれた決意を
告げるのは、この時しかないと自分を叱責し――――
コンコンッ
ノアールは、部屋の扉をノックした。
◇◇◇
『………』
「………」
ノアールがミーナの部屋に入って数分……
二人は一言も言葉を交わすことなく窓から見える夜景を見ているだけだった。
先のノックに応じたミーナは、
訪問者がノアールだと知ると、
しばらく待つよう彼に告げた。
持っている拳銃をしまうなり、
少しばかり乱れたドレスを直すなり、
頬を流れる涙を拭いたりと部屋と自身の状態を整え、
改めて招き入れた。
だが、部屋に入った時の彼女の顔を見た時、
ノアールは顔を歪めそうになった。
その瞳が、泣いていた人間特有の
色合いをしていたからだ……
「ノアール君、こんな時間に何の用かしら?」
沈黙を破ったのはミーナの方からだった。
彼女としては、あのまま泣き寝入りしようと思った
矢先のノアールの訪問だったため、
早々に用事を済ませようと切り出したのだ。
そしてノアールは外の景色に目を向けたまま、
口を開く。
『……まずは、ミーナ中佐の歌に感動した……
という感想を……』
「……ありがとう。でも、それは
あの時の貴方の涙でもう充分に――――」
『あの涙の理由の話と………
そして、貴女への謝罪を………』
ようやく目を合わせたノアールの言葉に、
ミーナは怪訝な表情をする。
『バルクホルン大尉とハルトマン中尉に、
貴女の過去を聞きました……』
「ッ!!?」
予想だにしていなかった言葉にミーナは戦慄した。
『自分は知りたかったんです。
この501に来る以前から事前に予習していた規則を、
どうして自分にだけ適応しなかったのかを……。
最初は部隊長である貴女がそう決めたのならと
納得して、過ごしていました…。
でも、宮藤さんの一件の時の貴女の
あからさまな態度を見て、今度はどうして
このような規則を作るに至ったのかを
知りたくなったんです…』
「……」
自身の過去を知ったノアールに
厳しい視線を送るミーナ。
だが、彼がどうしてそんな…
人の心に土足で踏み込むような真似をしたか、
その理由を知るために、閉口して先を促す。
『正直言って、思い立った自分の頭を
撃ち抜きたくなりました……お二人は自分を信頼して
話してくれたのかもしれませんが、
こんな話……気軽に聞いていいものじゃないと……』
「……後悔した?私の過去を聞いて……」
『………いいえ。誰に唆されたわけでもない、
自分が聞きたいと望んで聞いたことです……
後悔なんてしたら、貴女への侮辱になる……』
ノアールの瞳が自身を真っすぐに見ているのを
見たミーナは、その言葉に偽りはないだろうと
確信する。
「失望した?こんな……自分のプライドを
規則にしてまで部下のウィッチ達に押し付ける
部隊長なんて――――」
『貴女に失望する輩がいるのなら!
自分はそいつを許しませんッ!!』
突然の怒号に、物憂げな表情になっていたミーナは
目を丸くした。
見ると彼の顔には、歯を食いしばった怒りと、
その目尻から涙を流す悲しみと、
両方の感情が浮かんでいた。
『そして自分は……自分を許せなくなった……
貴女の過去を知ったあの日まで、
自分は貴女に守られてばかりだったんだと…
あんなにも辛い過去を経験して、それでも誰かを、
この部隊を、そしてこんな自分さえも
守ろうとしている貴女が、失望される部隊長だなんて
ありえませんッ!!』
「ノアール君……」
溢れ出す涙を気にも留めず捲し立てるノアールに、
ミーナは何も言うことができなかった。
『中佐は知り得ないかもしれませんが……
自分はこれまで、この基地にいる整備兵の方々や、
他のウィッチ隊に所属するあるウィッチの方から、
“自分はウィッチを守るために在る”と
言われてきました……』
「ウィッチを守る……?」
『これまでも自分はこの部隊に来て、
その都度ウィッチの方々を助けてきました。
でも、それだけでした……自分はそこまで称される
大それた存在なんかじゃないと、
自分に自信を持つことができなかったんです……』
「……」
『でも……銃を向けてまで坂本少佐を止めようとした
貴女の覚悟と……ウィッチの寿命が迫ってきても
戦おうとする坂本少佐の覚悟を知ったら……
もう、自信が無いだなんて足踏みしてる
場合じゃないと気づいたんですッ!
だから……ッ!!』
ノアールは自分の胸に手を当てて告げる。
記憶が無いと自覚してからも抱くことのなかった、
自分自身が今日までこの部隊で過ごし、
芽生えた覚悟を示す言葉を――――
『自分……ノアール・ルーはこの身の全力でもって、
この501のすべてのウィッチの方々を守りますッ!!
そして、今日までもこれからも自分たちを
守ろうとしてくれた“ミーナさん”、
貴女のことも守らせてくださいッ!!』
「ッ……!?」
ノアールが階級呼びを捨てて自身を呼んだことに
眼を見開いたミーナ。
言いたかった言葉を告げたノアールは、
強張っていた身体を解き解すように息を吐く。
『バルクホルン大尉とハルトマン中尉に
話を聞いた後に、覚悟はできていたんです。
そして坂本少佐と貴女の話を聞いて、
決意表明するならこの時しかないと思い、
訪ねたんです……。こんな時間に、
自分のために話を聞いてくれて、
ありがとうございました…』
そしてノアールは一礼し、部屋を出ていった。
「………ノアール君」
ノアールの決意表明を最後まで一言も話すことなく
聞いていたミーナは、苦悶の表情を浮かべていた……
「貴方の言葉は嬉しい……でも……
貴方の告げた“守る”中には、
貴方自身も入っていなければならないのよ……
それだけはどうか……どうか……っ…」
両手を組み、祈るような仕草を見せるミーナの眼には
涙が浮かんでいた……
ノアールの此度の決意表明は混じり気の無い
正義感からのものだった……
だが、同時にミーナにとっては辛い記憶を
呼び覚ますにたるものだった……
今は亡き
酷似していたのだから……
関係した者にしか知ることのできない
ミーナ中佐の過去話回……
正直言ってノアールには知ってもらわないと
この後の展開への発破がかけられないと思い、
こういう描写にしました。
雰囲気を壊さないように、本編と次回の冒頭を
何度も何度も見返しましたが……
その度にミーナ中佐の悲しい表情を見せられて
正直辛かったです…
そしてタイトル通り、
ノアールは覚悟決めました。
これからはより一層ウィッチ達を助けるために
全力で戦ってくれることでしょう……
全力で……ね……
それでは