Unknown Wizard Chronicle   作:シノギ

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本編において
小説版「サイレントウィッチーズ」――――
通称「いらん子中隊」において展開された描写の
一部が言及されます。

また、人間とネウロイの和解、
人型ネウロイへの解釈などに独自解釈が多分に
含まれます。

あらかじめご了承ください。


第15話「エガオの代償」

坂本美緒少佐が、

ネウロイに撃墜され重傷を負った……

 

 

 

その衝撃的な事実は、

リアルタイムで眼にしたウィッチ達にも、

基地で待機していたミーナやエイラ、

サーニャにも、そしてノアールにも

暗い影を落とした。

 

 

医療班が到着するまでウィッチの中で

唯一治癒魔法を持つ宮藤が

応急処置を施そうとしたものの、

 

 

 

ネウロイに対して無防備になっていた自分を

救うために、坂本が墜とされた……

 

 

自分のせいで、

坂本が重傷を負ってしまった……

 

 

 

その重すぎる事実が責任となって

宮藤に圧し掛かり、

バルクホルンを治癒した時のような

冷静さが保てず、無駄に魔法力を散逸させて

満足な治癒が出来なくなってしまっていた。

 

 

質が駄目でも量でなんとかする……

という焦っている中で下した判断で、

医療班が坂本を運んでいる最中も、

宮藤は治癒魔法を照射し続けた。

 

 

だが、彼女の魔法力も

潤沢ではあっても無限ではない…

 

 

ミーナが連れ立ってきた基地に在籍している

医師と看護婦が到着し、

集中治療室に運び込まれる直前まで

治癒魔法を行使していた影響で、

宮藤はとうとう、バルクホルンが支えている

腕の中で気絶してしまった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「芳佳ちゃん!芳佳ちゃん!!」

 

 

 

気絶した宮藤の顔を覗き込んで

リーネが呼びかけるも、

彼女はぐったりしたままで

目を覚まさなかった。

 

 

「部屋に運ぼう。リーネ、手伝ってくれ!」

 

「はいっ!」

 

 

バルクホルンが自身の肩に宮藤の腕を回し、

リーネがそれを支える形にし、

宮藤を部屋まで連れて行った。

 

 

 

「(宮藤さん……)」

 

 

 

必死になって坂本を治癒しようとし、

気絶するまで無茶をしていた彼女を案じつつ

ミーナは集中治療室の扉を見つめる。

 

いまだに扉の側で立つ

ペリーヌを落ち着かせ、

すぐそばにあった腰掛に座らせる。

 

 

 

 

 

『ミーナ中佐……』

 

 

 

 

 

その直後、ミーナに声をかける者が一人……

 

 

 

「ノアール君……」

 

 

 

ミーナが眼を向けた彼は、

悲痛な顔と俯き気味な様子も相まって、

より一層背丈が小さくなったような印象を受けた。

 

 

 

『ミーナ中佐……それからペリーヌさん……

申し訳ありません……。坂本少佐を守ることも……

少佐を墜としたあのネウロイも、

逃がしてしまいました……っ!』

 

 

 

握りしめた拳は震え、

それに乗じてその小さな身体も震えていた。

 

 

 

「ノアールさん、そんな……」

 

「貴方だけの責任じゃないわ!

私だって、美緒のシールドが役に立たないと

知っていながら、出撃させてしまった……。

彼女なら大丈夫……きっと帰ってくるって

奢っていたのよ……」

 

「中佐……」

 

 

 

互いに責任を負い合おうとする二人にペリーヌは、

坂本の限界を知っていた二人に追及する言葉も出ず、

悔し気に顔を歪ませる二人を

見ることしかできなかった。

 

 

 

すると――――

 

 

 

 

 

 

「ノアール少尉……!」

 

 

 

 

 

 

ノアールの後ろから男の声がかけられる。

 

 

 

『ッ…貴方は!?』

 

 

 

振り返ったノアールが見たその人物は、

ブリタニア本国の病院にて彼を

半ば強引に連れて行った大尉官

――――トレヴァーの副官だった。

 

 

 

「マロニー大将の副官が、

どのような要件でしょうか?」

 

 

 

ミーナは本国上層部に報告に行く機会が多いため、

彼がトレヴァーの副官だとすぐに見抜いた。

 

 

「先のネウロイとの戦闘時、ノアール少尉が

件のネウロイから精神的な攻撃を受けたとの

報告がありました。その精密検査のため、

一時的に少尉を本国上層部の医療機関へ収容します」

 

「待ちなさい!

検査ならこの基地の医療施設でも……」

 

「坂本美緒少佐が重傷を負ったという報告も

届いています。

重傷者に対して人員を割いている中で、

精神的な攻撃に留まった隊員に割ける人員は

少ないと思われますが?」

 

「っ……」

 

「それにこれは、少尉を本部隊に派遣した

大将直々の命令です。

元より少尉の体調管理や負傷時の治療を

行ってきた医療機関で治療を受けた方が

確実性は高いと思われますが…?」

 

 

 

ミーナは内心焦っていた。

副官の言っていることは理論的に鑑みても

問題はないし、現状を鑑みても正鵠を射ている。

なにより、上官直々の命令ならば従うしかない……

と解ってはいるものの、今度の一件を見ていた……

というよりその場にいた彼を本国上層部の元に

渡してしまってはマズいと焦っていたのだ。

 

 

副官の言い分を聞く限り、坂本が撃墜された

という報告は受けているが、

宮藤に関してのことは報告を受けていないようだ。

 

だがそれらを総て見ている彼が

上層部の管轄する施設に入ってしまえば、

501にとっての不利になる情報を聞き出し、

その機に乗じてトレヴァーが

介入してくるかもしれない……

 

 

宮藤に関してのことは彼女と、

そして坂本が意識を取り戻してから

バルクホルンとエーリカの立ち合いの元、

 

 

 

“宮藤芳佳に軍法会議を望む意思はなく、

諸々の軍規違反により処分を言い渡した”

 

 

 

という、あくまで今度の件は

部隊内でのみで清算したという形に

しようとしていたのだ……

 

 

どうにかしてノアールを

上層部に渡さないようにしなければと

思考を巡らせていたミーナの耳朶に――――

 

 

 

 

 

『了解……直ちに向かいます』

 

 

 

 

と、どこか諦めのようなものを含んだ

彼の声が響いた。

 

 

「ッ…ノアール君!?」

 

「うむ。では諸々必要なものを持って来るように…」

 

『…はっ』

 

 

ノアールの応じた声に頷き、副官はその場を去った。

 

 

 

「ノアール君……」

 

『……支度してきます。

しばらくはここに戻ってこれないので、

そのつもりでいてください…』

 

「ノアール君ッ!」

 

 

 

 

宿舎に向かおうとする彼を呼び止めるミーナ。

 

だが、部隊長としての自分の思惑を

表立って言うことが出来ないもどかしさに

言葉が続かない。

そんな彼女の雰囲気を察してか、

ノアールは振り向いた。

 

 

 

 

 

『安心してくださいミーナさん……自分は、

坂本少佐が撃墜されたという事実以外、

喋るつもりはありませんから』

 

 

 

 

彼の一言に、ミーナは瞠目する。

 

言うなれば彼は、

ミーナの危惧している状況にならないように

振舞ってくれると言っているようなもの

だったからだ。

 

 

 

『あの時の自分も、途中から

自暴自棄になっていましたからね……

そのせいで前後の記憶が混乱している

……とでも言っておけばいいでしょう』

 

「ノアール君…でもそれだと万が一の時に……!」

 

『報告の度に上層部に出向しているミーナさんより、

幾分か上層部内での立ち振る舞いは把握しています。

それに、遅かれ早かれ上層部には

呼ばれることになっていたと思います。

一部隊に出向しているとはいえ、

自分が出撃した戦いにおいて

ネウロイを逃がしているんですから……』

 

 

どう足掻いても呼び出しを受ける運命だった

という彼の言葉に、ミーナも、

そしてペリーヌも言葉が出なかった。

 

 

 

『坂本少佐が目を覚ましたら、伝えてください……

“貴女のことを守れなかった、

不甲斐ない自分でごめんなさい”と……』

 

「そんな伝言なんて!

ノアールさんご自身がお伝えなさいなっ!」

 

『それでも伝えてほしいんです……

コレが、自分が皆さんを守れる、

最後かもしれないから……』

 

 

 

ノアールはその言葉を最後に、

彼女たちに背を向けて去っていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

副官が乗って来ていた軍用車に乗り、

ノアールは基地を出ていった。

 

 

それから数時間後、集中治療室のランプが消え、

担当医がミーナとペリーヌに声をかける。

 

手術は成功したものの、

坂本の意識は未だに戻っておらず、

心拍数も辛うじてといった状態で

予断を許さない……

要は彼女の生命力に賭けるしかない

といった状況だった……

 

 

個人用の病室に移された坂本の側で

ペリーヌはすぐさま医者を呼べるように

という役目のために残っていた。

その病室に、魔法力の消耗で

気を失っていた宮藤が、

リーネが付き添う形で訪ねてきた。

 

どの面下げてといった文句と共にペリーヌは

宮藤を引っ叩き、怒鳴り散らす。

リーネが仲裁するが、それでも収まらない。

 

それを他所に、宮藤は回復した魔法力を駆使し

再び坂本に治癒魔法を照射し始めた。

担ぎ込まれた際には焦って無駄に魔法力を

散逸させていただけだったが、

今度こそはと宮藤は臨む……

 

 

その頃、ミーナ、バルクホルン、エーリカは

今度の件に関しての宮藤への処罰を

どうするかの会議をしていた。

 

独断先行、命令違反、その上で上官を負傷させ、

挙句敵機を取り逃がした……

 

ここまで負の条件が出揃えば、

まず間違いなく重罪……

悪くなれば銃殺刑も免れない……

 

とはいってもミーナ自身、

宮藤に公の場に立たせる気はなく、

あくまで部隊内の処罰にだけで留める

といった方針は変わらなかった。

 

バルクホルンはその対処に対して甘いと

窘めるも、ミーナは意見を変えることはなかった。

 

 

食堂では、ルッキーニ、シャーリー、

サーニャ、エイラが席についていた。

主な食事担当を務める宮藤やリーネが

手が離せないため、

缶詰による食事となっていたが……

 

エイラが試しにとタロットで宮藤を占うと、

死神を意味するカード、それも正位置で出たことに、

一同“縁起でもない”と内心呟いた。

 

 

その際――――

 

 

 

「ねえシャーリー、ノアールどこ行ったの?」

 

 

文句を言いつつも缶詰をつまむルッキーニは

シャーリーに尋ねる。

 

 

先の出撃から帰還した直後にはノアールはいた。

だがそれ以降姿を見ておらず、

部屋に行っても誰も居なかった。

 

 

「なんでも上層部の医療機関に

連れてかれたらしいぜ?まあ十中八九、

あの時のノアールの状態が原因だろうけどな……」

 

「ノアールがブチ切れテ、

ネウロイをボコボコにしたって奴カ?」

 

「その時のノアールもそうだけど、その後だよ……」

 

「どういうことですか?」

 

 

現場にいなかったエイラとサーニャに

シャーリーとルッキーニは

その時の状況を主観を交えつつ説明する。

 

 

「そりゃあ少佐が撃たれて逆上するのは

解らなくもないけどさ……

あの時のノアールはホント……

あたしでも怖いって思うくらいだった……」

 

「うん。帰って来てから、皆ちょっと

ノアールから距離取ってたもんね……

帰ってきたら謝らないと……」

 

 

それを聞いた二人は一様に渋面を露にした。

 

 

そしてその後、今度は人型ネウロイが

ノアールを追い詰めているような雰囲気になり、

危険と判断した全員でノアールと人型ネウロイを

引き剥がしたと説明した。

 

 

 

「で、ルッキーニちゃん…ノアールに

用事って謝りたいって件のこと?」

 

「ううん。それもあるんだけど

そうじゃなくて、ちょっと待ってて!」

 

 

そう言うとルッキーニは食堂を飛び出していった。

何だろうかと、三人は顔を見合わせる。

 

 

数分後、ルッキーニが食堂へ戻ってきた。

その手にはその場にいた誰もが

見たことのあるモノが握られていた。

 

 

 

「それっテ、ノアールの…!?」

 

「うん。ちょっと前にやっと届いたって

ミーナ中佐から渡されて、

一番のお姉さんであるあたしがノアールに

渡してあげてって言われてたんだけど…」

 

 

 

ルッキーニが握っていたのは――――

 

 

 

 

星を意味する五芒星の真ん中から

持ち手の先を重ねた五本の箒が伸びた

デザインのバッジ――――

 

 

 

以前、一か月遅れのノアールの誕生日を

祝った際、エイラの強い主張で決まった

ノアールのパーソナルマークのバッジだった。

 

 

 

「なんで届いてすぐノアールに渡さなかったんだ?」

 

「ノアールをびっくりさせられる

タイミングで渡そうって考えて、

それまであたしの秘密基地に置いてた

宝物入れのビンに入れててぇ~」

 

「すっかり忘れてテ、

今日まで渡してなかっタ……って?」

 

「ルッキーニちゃん……」

 

「え……えへへへぇ~……♪」

 

 

呆れ顔を浮かべる三人に、

誤魔化し笑いをするルッキーニ。

 

 

「お前ナァ~…

これノアールの誕生日プレゼントなんだゾ?

業者にデザイン送って、

届いたら改めて渡すからって伝えテ、

ノアールもわかりましたって言って待ってたんだゾ?

同じ姉としては許せないナァ~?」

 

「うじゅぅ……ごめんなさい……」

 

「まあまあ♪ノアールが戻ってきた時に、

坂本少佐が目を覚ましてて、今度の一件で

気まずい雰囲気になった関係を一新する

ってことで渡せばいいじゃねぇか♪」

 

「うん。ノアールならきっと、

それで許してくれると思うわ」

 

 

こうしてノアールのパーソナルバッジは、

彼が戻ってきた時に渡そうということで片が付いた。

 

 

とはいうものの、彼女たちが知る由もないが…

ノアール曰く、いつ戻ってくるのか

わからないというのが現実だったのだが……

 

 

 

「ン?」

 

「どうしたの、エイラ?」

 

 

 

エイラの疑問声にサーニャは問いかける。

 

 

「いや、なんと無しにノアールのことモ

占ってたんだケド……」

 

「なんて出たんだ?」

 

 

シャーリーが尋ねると、エイラはその手に

持っていたタロットカードを

全員に見えるように表にする。

 

 

 

 

「塔のカード……」

 

 

 

 

そびえ立つ塔に雷が落ちて崩壊する絵柄の

そのカードは、その場にいる全員の心に

一抹の不安を抱かせた……

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

日が沈んでしばらくした後、坂本の容体が急変し、

心拍数を示す機器から警告音が鳴り響く。

 

 

それまでの間、宮藤は治癒魔法を

照射し続けていたのに、だ……

一旦落ち着いたところで、

宮藤の坂本を救いたいという焦りは

治癒魔法の効果を阻害してしまっていたようだ…

 

リーネが担当医を呼ぶために部屋を出た後、

自分だけではどうにもならないと

治癒魔法の照射を止めてしまった宮藤に

ペリーヌは叱咤する。

 

 

 

「貴女がやらないで誰がやるの!

今少佐を救えるのは貴女しかいないのよ、

宮藤芳佳ッ!!」

 

 

 

その言葉にハッとした宮藤は、

苦悶の表情をしている坂本を見つめて、

かつて坂本が自分に言い聞かせていた言葉を

思い出す。

 

 

 

「落ち着いて……集中して……」

 

 

 

その言葉を呟きながら、

宮藤は治癒魔法を照射し始める。

今までは両手の周囲にしか灯っていなかった

魔法力の光が、今度はそこから広がって

坂本の全身を包むように満ちていった。

 

 

 

 

結果、心拍数は安定し、

ミーナと担当医が駆け付けて容体を見たところ、

もう心配は無いとの診断が下された。

 

魔法力の消耗と、長時間つきっきりで

側にいた宮藤とペリーヌは、疲れから

坂本のベッドに上体を預ける形で眠っていた。

 

 

 

 

「美緒…」

 

 

 

ミーナの呼びかけに、

坂本は徐に目を開き、彼女の眼を見返す。

 

一言も発することなく見つめる二人。

ミーナは助かって安心したという意志の

視線を送り…坂本は――――

 

 

 

 

 

「……それでも、飛ぶのね?」

 

 

 

 

その手に馴染んだ愛刀の如く、

まだ剣は折れていない……

という意志の籠った瞳をしていた……

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

翌朝、病室に射してきた朝日の光で

宮藤は目が覚めた。

 

 

 

 

 

「あぁっ、坂本さ…っ!」

 

 

 

 

徐に目を向けた先に上体を起こした

坂本の姿を見て思わず声を出す宮藤だが、

彼女の静かにというジェスチャーで口を押さえる。

 

坂本の指さす先で、

備え付けの長腰掛で寄り添うように眠る

リーネとペリーヌの姿があった。

 

 

「よかった……」

 

「宮藤、顔色が悪いぞ?」

 

「っ……」

 

「………ありがとう」

 

 

 

宮藤の反応を見た坂本は、

彼女の体調が悪くなるほどの必死の治癒魔法によって

自分が助かったことへの礼を述べた。

 

 

 

「何故、撃たなかった?」

 

「えっ…?」

 

 

 

互いに窓から見える朝日を見つめながら、

坂本は宮藤に問い掛ける。

 

 

「あの時、何故お前はネウロイを撃たなかった?」

 

「………撃てなかったんです」

 

 

問いに答えた宮藤の手を握り、

その顔を覗き込むような体勢にする坂本。

 

 

「人の形だからか?

アレはお前を誘い込む罠だっ…!」

 

「でも………私あの時……何か感じたんです…っ」

 

 

 

これまで相対してきたネウロイと、

明らかに違う行動をしていた……

 

 

元々軍人ではない宮藤の感覚では、

たった一回のその例外だけで

ネウロイに対しての敵対心を無くしてしまった…

 

 

そんな迷いが彼女の中に残っていれば、

仮に今度の敵ネウロイが例外だったとしても、

同じ戦術で同じようなネウロイが現れた時、

そう都合よく例外のネウロイと

同じことになるとは限らず、

間違いなく死ぬのは彼女だ……

 

 

だからこそ坂本は断言する。

宮藤の心に残る迷いが断ち切れるように、

という祈りを込めて――――

 

 

 

 

 

「ネウロイは……敵だっ……!」

 

 

 

 

 

……と。

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りを、

“病室の窓の外の影”で聞いていた

“ソレ”は、血が滲むほどの拳を握り、

苦悶の表情を浮かべながら、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

坂本が目を覚ましたのを見届けた宮藤は、

事前に告げられていた

 

“坂本の状態を確認後、

執務室に出頭するように”

 

という命令通り、ミーナと、バルクホルンと

ハルトマンが待つ執務室に赴いた。

 

 

独断専行、上官命令を無視という

軍規違反を犯したというミーナの指摘に宮藤は頷く。

 

さらには軍法会議の希望の有無を問い掛けられるが、

軍規に関しては疎い宮藤は、

戸惑いの声を漏らすだけで答えられず、

ミーナの判断で希望は無いということとなった。

 

尤も、希望有りと答えたところで

宮藤の立場は火を見るより明らかだ…

そんな現状の中に彼女を放り込まないように

というミーナの配慮である。

 

 

そして今度の命令違反に対しての処罰として、

勤務や食事、衛生上のためにという場合を除き、

翌日から十日間の自室禁錮を命じられた。

 

 

 

 

「異議は?」

 

「あの……私、ネウロイと……」

 

 

 

 

異議を尋ねるミーナに対し、

宮藤は坂本に一蹴されてしまった思いを

ミーナにも告げようとする。

 

 

 

「改めて問います…異議は?」

 

「っ……聞いてください!!」

 

 

 

 

 

 

バンッ!

 

 

 

 

 

 

ミーナの持つホルダーを

机に叩き付ける音によって沈黙が下りる。

 

 

 

「……異議は?」

 

「………ありません」

 

「退室してよろしい…」

 

 

 

 

ミーナにも聞いてもらえなかった事実に、

宮藤は肩を落とし執務室を後にした。

 

 

 

 

執務室の外で待っていたリーネに迎えられた宮藤は、

落ち込んでいる自分に気を使った彼女の勧めで

大浴場に赴いた。

 

 

そこでは坂本とペリーヌ、ミーナを除いた全員が

湯船に身を浸していたり、

シャワールームで身体を洗ったりしていた。

 

自室禁錮という処罰だけで済んでよかったと

シャーリーやルッキーニ、エーリカたちが慰める。

 

 

 

そんな中で、宮藤は今この場ならばと

声を張り上げる。

 

 

 

今回のネウロイは、これまでのネウロイとは

違うものを感じた……

 

ネウロイと戦うことなくこの戦争を

終わらせられるかもしれないと……

 

 

 

だが、この中で軍歴の長いバルクホルンが

ソレを一蹴した。

宮藤のソレは経験の浅さからくる

一時的なものでしかないと……

 

その後に全員から告げられた意見も、

どれも宮藤の言葉に賛同しかねる

といった物だった……

 

その後はルッキーニの慰めを兼ねた

悪ふざけによって有耶無耶になり、

結局宮藤の思いは全員に届くことは無かった……

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「いいな、宮藤軍曹。

必要な時以外は外出禁止だ……」

 

 

 

バルクホルンの言葉と共に、

宮藤の部屋は外から南京錠が施された。

これで宮藤は例外を除いて軍内部での

自由な行動はできない。

 

 

 

 

「(どうして、誰も信じてくれないの……)」

 

 

 

宮藤自身も今度の一件は、

自分の軽率な行動によって起こったことだと

自覚している…

 

ネウロイは敵……その事実は揺らぐことは無い

という言い分も理解できる……

 

 

 

「(アレは間違い…?ううん、違うよね……)」

 

 

 

ならば、あの時接触した

ネウロイの不可思議な行動の説明は

どうなるというのだ?

 

 

敵であるネウロイがわざわざ自分に

攻撃もしないで接触を図ってきたのは何故なのか?

 

 

坂本の言う通り、

罠だと言われればそれまでかもしれないが、

その指摘も所詮は推測でしかない。

ネウロイが敵である、という事実から

連立して想起できる事柄にしか過ぎない、

と宮藤は考える。

 

 

 

「(私……どうしたら――――)」

 

 

 

 

 

 

コンコンッ!

 

 

 

 

 

 

その時、宮藤の部屋にノック音が響く。

 

 

ベッドに横たわっていた宮藤は慌てて

上体を起こして出入り口のドアへと向かう。

が、ドアの外から人の気配は感じない。

どころか、先のノック音は未だに続いていた。

 

 

出入り口のドアからではない。

 

 

そして宮藤は未だに続いているノック音が

“ガラスを叩いた時”

特有の音であることに気づいて

窓の方へと目を向ける。

 

 

 

 

 

部屋が薄暗く、外からの光の方が

明るいために逆光になっていたが、

シルエットと背丈からノック音の主が

誰なのかはあっさり判明した。

 

 

 

 

「ノアールく……っ……!!」

 

 

 

 

宮藤は思わず彼の名を叫びそうになるが、

ノアールの静かにというジェスチャーで

口を両手で塞ぐ。

 

窓の側まで歩み寄り、開け放って彼を迎え入れる。

外が生憎の雨だったため、

開けた瞬間に少しばかり部屋に

雨水が入ってしまったが……

 

 

SUAを装着していたノアールは

建屋の外側に作られている、

“人一人分が立てるスペース”に立っていたのだ。

 

 

「ノアールくん、どうして窓から?」

 

『貴女と話をね……。

“秘密裏に戻ってきた”自分が自室禁錮中の

貴女の部屋を訪ねたなんて知れたら、

少々面倒になるんで…』

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人型ネウロイと接触した、

貴女の意見を聞きたいんです……』

 

 

 

 

 

 

 

ノアールのその言葉に宮藤は、ようやく

自分の話を聞いてくれる人がいた

という嬉しさのあまり――――

 

 

 

 

 

 

 

 

“軍規に従順なノアールが

何故秘密裏に自分に会いに来たのか”

 

 

“処分が下される前に

基地を離れていた彼が、

何故自分の処罰内容を知っているのか”

 

 

 

 

 

 

という違和感を捨ててしまった……

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

それから宮藤は、昼間の内に部隊の皆に

話したい内容を総て打ち明けた。

 

 

 

自分の体験したこと、

それによって感じたことを……

主観的なものでしかないのは否めないが……

 

 

それをノアールは相対しながら、

一言も返すことなく聞きに徹していた。

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 

隣室や廊下に聞こえない小声で話すように

徹底していたため、余分に気を張っていた

宮藤はそこで一息吐いた。

 

そして聞きに徹していたノアールは

ようやく口を開く。

 

 

『宮藤さん、話したいことは

すべて言い終えましたか?』

 

「えっ……うん。

ねえノアールくん、私の言ってること……

感じたことって間違ってるのかな?」

 

 

心の中で蟠りになっていたものを

総て吐き出したことで、宮藤は改めて

自分の発言に対しての見識ができる

余裕が生まれた。

 

昼間は自分の言葉を信じてくれないことに

躍起になって意見を述べようとしていたが、

今はそれらが部隊の全員から、

賛同しかねるという意見が出るのも

仕方が無いと納得することが出来る。

 

それらを踏まえた上で、宮藤は尋ねる。

角は取れたものの、自分よりも

軍人としての人格が出来上がっている

ノアールに自分の意見の正否を問い掛ける。

 

 

『それを言う前に、

宮藤さんに話しておきたいことがあります。

あの人型ネウロイに関してのことです』

 

「……うん」

 

『今から四、五年くらい前…

スオムスにあるカウハバ基地にて、

とあるウィッチ隊が人型ネウロイと交戦した

という報告があったんです』

 

「えっ!?」

 

 

ノアールの齎す情報に宮藤は眼を見開く。

それと同時に、大浴場にてエーリカやエイラが

それについて話していたことを思い出す。

 

 

『その交戦の最中、

そのウィッチ隊に在籍していた

扶桑海軍のウィッチの一人が

人型ネウロイから接触を受けた後、

一種の洗脳を受けた状態になって

連れ去られたという記録も残っています』

 

「…そんな」

 

『その後、その人型ネウロイの本拠地である場所を

特定した際も、洗脳状態だった扶桑海軍の

ウィッチを操って、同士討ちを避けたいウィッチ隊に

苦戦を強いたということです…』

 

 

それを聞いた宮藤は愕然とした。

ノアールの話す内容を自分に準えたなら……

 

 

連れ去られたというそのウィッチは自分で、

苦戦を強いられたウィッチ隊というのは、

501部隊ということになる……

 

 

もし自分が遭遇した人型ネウロイが、

ノアールの話していた人型ネウロイと

同じ目的で自分に接触したのだとしたら……

 

 

 

「じゃあ……私の感じたことって――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自分は……

“ネウロイの声が聞こえました”……』

 

 

 

 

 

 

 

宮藤の言葉を遮るように告げられたその一言は、

彼女が息を呑むのには充分すぎる衝撃だった。

 

 

 

「えっ!?声が聞こえたって……」

 

『まあ自分の場合は、コアに直接触れていたから……

かもしれませんが……』

 

「はっ!」

 

 

 

“コアに触れた”というキーワードに宮藤は、

無意識とはいえ、自身もコアに

触れようとしていたことを思い出す。

 

もしかしたらアレは、ノアールが体験した事象への

誘いの合図だったのではないかと……

 

 

「なんて、言ってたの?」

 

『自分の感覚で述べるなら“言っていた”

というより……“言っている言葉が見えた”

と言うべきでしょうが……

“痛い”……と言っていました。

まあ、自分が散々痛めつけた後でしたからね……』

 

 

 

坂本が墜ちたのを追いかけた宮藤やペリーヌは、

ノアールが逆上してネウロイを完膚なきまでに

叩きのめしていた光景を見ておらず、

後からの報告で知ったのだ。

 

その時の状況を説明していたリーネが

青ざめた顔で身体を震わせていたことから、

相当怖かったのだろうと、なんとなく理解していた。

 

尤も、今相対している彼からは

恐怖感などは感じないが……

 

 

 

ネウロイはやはり敵なのかという思考を

中断させられ、そんなことをぼんやりと

考えていた宮藤にノアールは告げる――――

 

 

 

 

 

 

 

『宮藤さん、

今度のネウロイは貴女の言う通り、

何かが違うのかもしれません…』

 

 

 

 

 

 

 

――――と、宮藤の“抽象的”な言葉に

“賛同する”言葉を……

 

 

 

「えっ?」

 

『より正確に言うのなら、

以前現れた個体とは別なのかもしれない……

という意味でですが……』

 

「どういうこと?」

 

『ミーナ中佐も言っていたでしょう?

ネウロイは日々進化していると…

 

以前現れた個体は戦うことと、

ウィッチを洗脳することしかできなかった……

 

でもその洗脳によってネウロイが

“人間の言語”と“言語の意味”を

理解していたとしたら…?』

 

「あっ!」

 

『洗脳されたウィッチが、

人型の姿なら警戒を緩めたという実験を経て、

そこから別のアプローチを

かけてきたのだとしたら…?

 

実際問題、宮藤さんは洗脳を受けていた

という自覚は無いんじゃないですか?

通信妨害が為されていたとはいえ、

現場に駆け付けた坂本少佐の呼びかけに

すぐさま応じれたことが、その証左です…』

 

「うん…」

 

 

ノアールのその言葉で、

宮藤の中にあの人型ネウロイに対しての

希望が再び芽生え始める。

 

 

 

 

ノアールの

“可能性でしかない言葉”によって……

 

 

 

 

『事実、自分はネウロイの言葉が視えました……

自分の逆上が引き起こしたことですが、

それに対するネウロイの言葉……

それも、キチンと意味が合致した言葉がね……』

 

「ノアールくん、それじゃあ…!」

 

 

 

 

 

 

 

『とはいえ、その対話が和平のためなのかは

不明瞭ですがね……』

 

 

 

 

 

 

 

宮藤の言葉が、ノアールの制止の言葉で遮られる。

 

 

「え?」

 

『ネウロイと和解し、

この戦争を終わらせることが出来る……

それは元より争いを好まない貴女の願望です。

ネウロイ側も同じように考えているとは

限らないんですよ?』

 

「……」

 

『貴女へのアプローチだって、

ネウロイ側の主張を人類に発信するための

メッセンジャーとして

利用するためかもしれない――――』

 

 

 

 

 

 

 

「でも!ネウロイは

“痛い”って言ってたんだよね!?」

 

 

 

 

 

 

今度はノアールの言葉が、宮藤の言葉で遮られた。

 

 

 

「言葉を知って、意味を知って、

それを正しく使ってノアールくんに伝えたのなら、

私たちの言葉だって、

私たちの痛みだって伝わるはず!

そうすればきっと……!」

 

 

 

 

宮藤の言葉のその先は容易に想像できる……

 

 

ノアールは一度目を閉じて、

再び宮藤に問い掛ける……

 

 

 

『貴女がそう思ったのなら、自分は何も言いません。

でも、事は貴女個人でどうにかできる

問題じゃありませんよ?』

 

「え?」

 

『ネウロイと人間が和解する……

という行動に移るには、余りにも時間が

経ち過ぎてしまっていますからね………

いや、時間だけじゃない……

人の命も、暮らしも、思い出も……

何もかも失ってしまって久しい……。

今更ネウロイが人類に和解を求めても、

失ったものすべてを返せという主張が

人類の大多数を占めて、結局は戦争になる…』

 

「あっ……」

 

『貴女だって父親を……

直接的ではないかもしれませんが、

ネウロイによって大切なものを

奪われている一人なんですよ?

それを踏まえた上で、貴女はネウロイと

分かり合えると言い切れますか?』

 

 

 

 

ノアールの試すような問いに、

宮藤は父の顔を思い浮かべながら

目を閉じる。

そして――――

 

 

 

「………言い切れないかもしれない」

 

『……』

 

「でも!今はただ、あのネウロイが

私に何を伝えたかったのかを知りたい!」

 

『その結果、たとえ言葉が通じても

ネウロイと人類は分かり合えない、

という結果になったら?』

 

「………戦うよ、守るためにっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………フッ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

宮藤は自分の目を疑った――――

 

 

 

 

 

ノアールが“わらった”のだ……

 

 

 

 

そのことに呆けていると、

ノアールは最初に入ってきた窓を開き、

そこから上体だけを外に出してガサゴソとし始める。

 

再び上体を起こすと、その手には

数十枚のシーツを結び合わせて作った

即席のロープが握られていた。

 

その端を宮藤のベッドの四方にある

装飾の一つに結び付け、

もう片方を窓の外へと放り投げた。

 

 

 

 

 

『では自分はこれで……』

 

 

 

 

作業を終えたノアールは窓から外に出て

建屋の外にあるスペースに立った。

 

 

「ノアールくん、コレは?」

 

『“自分は何も見ていません”』

 

「え?」

 

『元より自分は

“まだこの部隊に帰ってきていない”

ことになっているんです…

だから貴女がこの瞬間何をしようと

“自分は知らないし、見てもいない”……

そして、貴女も“自分を見ていない”

……それでいいでしょう?』

 

 

 

 

 

振り返って宮藤に言い聞かせるノアール。

その口の端は“吊り上がっていた”。

 

 

 

 

 

「ノアールくん、ありがとう……」

 

 

宮藤はその“違和感”を感じつつも、

ノアールが施してくれた自分への助力に感謝する。

 

 

 

 

『礼なんていりません。元より

“礼を言う相手なんて居ない”

という前提でしょう?』

 

「あっ…そうだね……」

 

『フッ………

どうやって脱出したのかを問われた時、

うっかり自分の名前を

言わないでくださいよ。それでは……』

 

 

 

そう言ってノアールはそこから飛び去って行った。

 

ウィッチのストライカーのように

エンジン音が無いため、宮藤の部屋を訪れた時も、

今飛び立った時も、

誰にも気づかれずに事が運べたのだ。

 

 

宮藤は早速、ノアールが用意してくれた

シーツのロープで降りるために

窓の外に出る。

 

 

 

 

 

「(そういえば……

ノアールくん笑ってたけど……)」

 

 

 

 

ロープ伝いに降りながら、

宮藤は先のノアールが見せた笑みを

思い出し――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(なんか………ヘンだったな……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その違和感を拭い去れずにいた……

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『………これでいいんです……これで……』

 

 

 

 

501基地上空。雨風吹き荒ぶ中に浮遊し、

ノアールは俯き気味で呟く。

 

 

 

 

 

そもそも、501基地には

基地周囲を探知するレーダーが

備わっているはずである…

 

そのレーダーには当然ながら

ウィッチの位置を特定する

表示が示されるはずであり、

ノアールも例外ではない……

 

 

 

ならば、何故ここまで堂々と上空に居ながら

基地に感知されないのか……

 

 

 

 

『ちょっと“力を開放”すれば……

こんなこともできるんですね……

レーダー網を掻い潜れた理由も納得です……』

 

 

 

そしてノアールは、

雨に濡れて顔に張り付いている前髪を払う――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから見えた彼の右眼は“紅く”光っていた……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

翌日の夜明けの近い時間、501部隊のウィッチ達が

ブリーフィングルームに集合していた。

 

 

緊急招集をかけたミーナの口から、

衝撃の事実が齎される……

 

 

 

 

 

 

「宮藤さんが脱走したわ!」

 

 

 

 

 

 

「脱走!?」

 

「……やるなぁ♪」

 

「……あの馬鹿っ!」

 

「……っ」

 

 

宮藤の起こした予想外の事態に

それぞれがリアクションする中、

リーネは俯き気味に事の次第を見ていた。

 

 

宮藤の部屋からシーツのロープが

垂れ下がっているのを見つけたリーネは、

宮藤が自室から抜け出し、ハンガーから

自身のストライカーで飛び立つのを…

否、飛び立とうとしている所を

彼女はしかと見ていたのだ。

そんな彼女を見て、親友ともいえるリーネは

自分も共に行くと告げたが、

宮藤はそれを突っぱねた。

 

 

自分がそうしたいと思ったことだから……

リーネまで巻き込みたくないと……

 

 

宮藤の気持ちを汲んだリーネは、

必ず帰ってくるよう約束をして

彼女を送り出したのだ。

 

 

その一部始終を見ていたのに止めなかった

罪悪感が表情に出てしまっていた。

 

 

 

「コレが司令部に知れたら厄介だわ……

すぐに連れ戻して――――」

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリンッ!

 

 

 

 

 

 

 

「はい!501統合……ッ…閣下!」

 

 

壇上に備え付けられている緊急用電話が鳴り響き、

ミーナが受話器を取るとその相手は

ミーナの上官――――

トレヴァー・マロニーからのものであった。

 

 

そこから二言三言やり取りを交わし、

渋々といった様子で承諾を伝えると

受話器を置いたミーナは全員に聞こえるよう告げる。

 

 

 

 

 

「……司令部から、

宮藤さんに対する撃墜命令が下ったわ……」

 

 

 

 

 

その言葉にこの場の誰もが……

そしてその中でもリーネが一際息を呑んだ。

 

 

 

「しかも、私たちがそれを躊躇すると見越してか、

司令部からも直接手を回していると

連絡があったわ……。

その手が届く前に、私たちが宮藤さんを

確保しないといけないわ!」

 

 

 

ミーナが全員に指示を伝えている内心、

司令部から回されている“手”というモノに

“嫌な予感”を感じていた……

 

 

 

「(考えすぎであってほしいけど……)

出撃は私、バルクホルン大尉、

ハルトマン中尉、シャーリーさん、

ルッキーニさんよ。

エイラさんとサーニャさんは基地待機。

ペリーヌさんも残って少佐の看病をお願い。

それから、リーネさん……」

 

「…はい?」

 

 

出撃を言い渡された4人と、

基地待機の2人、そしてペリーヌが

ブリーフィングルームから出ていく中、

ミーナはただ一人、リーネを呼び止めた。

 

 

「貴女は今日一日、宮藤さんの代わりに

自室で謹慎していなさい、いいわね?」

 

「っ……はい!」

 

 

宮藤が脱走したとミーナが告げた時、

一番の親友である彼女が驚きもせず

心配そうな顔で俯いていた。

そして宮藤の撃墜命令が下ったと聞いた時に

初めて表情が崩れ、より一層心配する顔になった。

 

最初の表情でミーナは、

宮藤が脱走したことを彼女は知っていたと

予測していたのだ。それゆえのこの処置。

 

リーネもミーナならきっと

見抜いているのだろうと察したうえで

潔く指示を承諾した。

 

 

 

そして宮藤を連れ戻すための

出撃メンバーの5人は基地を飛び立った。

 

 

 

 

余談として――――

ミーナが、宮藤然り、坂本然り……

扶桑出身のウィッチはどうしてこうも、

良くも悪くも自分をハラハラさせるのかと

内心で呆れ交じりの溜息を吐き……

その影響か、病室で宮藤の脱走を

ペリーヌから聞いていた坂本が

豪快なクシャミをしていたことを追記する……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

その頃、基地を飛び出した宮藤は、

先日人型ネウロイと遭遇し、

コアに触れようとしたところを

坂本の介入によって中断させられた

例の空域に到着していた。

 

 

あのネウロイが自分との対話を望んでいるのなら、

あえて丸腰でここまで来た自分に

再び接触してくるはず……

 

 

そう信じて周囲に目を配っていると――――

 

 

 

 

 

 

シュンッッ!!

 

 

 

 

 

「あっ!!」

 

 

 

ネウロイが発している奇怪音が聞こえ、

振り向いた先にあの人型ネウロイが居た。

 

ただしその姿は、

大半の部分は修復されているものの、

使い魔の耳にあたる部分の片方が欠けており、

ストライカーの足先に該当する部分が

何かに掴まれたように変形していた。

 

 

 

 

 

「(たしか、ノアールくんが

あのネウロイを攻撃してたって……)」

 

 

 

 

ネウロイの身体はコアが健在な限り、

その都度再生されていく。

それがこれほどまで中途半端な状態ということは、

ノアールがこのネウロイに与えたダメージは

相当なものだったことが窺える。

 

だがそれと同時に、このネウロイが

あの時自分に接触してきたネウロイと

同じである証左とも言えた。

 

 

 

宮藤の姿を確認した人型ネウロイは

攻撃することもなく背を向けて、

まるでついてくるように誘導し始めた。

少しばかり離れたところで、

宮藤を振り返ったのがその証拠だ。

 

 

その途中、ネウロイが少しフラつきながら

飛んでいるのを見た宮藤は、

ネウロイにもやはり痛みはあるのだろうか

……と思いつつ、

おとなしくその後をついていった。

 

 

 

 

その様子を、宮藤を連れ戻すために出撃した

5人のウィッチ達が目撃した。

 

 

バルクホルンとエーリカはそれぞれ

MG42を構えるが、ミーナが待ったをかける。

その視線の先にあるモノを見据えて、

全員が息を呑む。

 

 

 

 

 

空に浮かぶ白い雲の中に在る、

雨雲よりもドス黒い色をしたソレ

――――ネウロイの巣が全員の前に

その異様な姿を見せていた。

 

 

 

 

コレを破壊するために各国から集められた

ウィッチを含めた精鋭たちが

攻撃を仕掛けたものの、そこから現れる

ネウロイの猛攻によって返り討ちにされ、

相当量の戦力を準備する間、

一定の防衛線を保つに留めるしか

できなかったのだ。

 

 

そんな近づくことすら困難だったはずの

ネウロイの巣に、人型ネウロイの誘導

によって宮藤が苦も無く

入っていってしまった。

 

 

 

彼女だけ巣に入ることが許されたことには、

何か深い理由があるのかもしれない……

 

 

 

そう考えたミーナは全員をこの場で待機させ、

様子を見ることにした……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

巣の中に上昇して入ったはずの宮藤は、

いつの間にか洞窟のような形状の空路を

並行飛行しているのに気づく。

 

その先に入っていくと、ネウロイの身体を

構成する八角形状の物体で

覆われたドームのような空間に出た。

 

 

 

彼女が入ってきたタイミングで、

謎の幾何学模様がドームに沿って

流れるように走り、眼下にガリアと

その周囲の西ヨーロッパ全体を

見渡せるような地形図が広がる。

 

 

その上に大玉サイズのネウロイのコアが

浮遊しており、

人型ネウロイがその側に寄り添うように

浮遊していた。

 

 

宮藤が自分をここに連れてきた理由を

尋ねようとすると、

その答えの代わりなのか、

周囲に無数の映像が浮かび上がる。

 

 

 

 

宇宙から見た地球の映像から始まり……

 

 

ネウロイの巣が出現し、

人類側からの攻撃が開始され、

それに対してのネウロイの攻撃……

 

 

街が焼き払われている映像……

 

 

宮藤が最初にこの地へ来た際に遭遇した

ネウロイと坂本が戦っている映像……

 

 

記録された映像と思われるソレに

宮藤は思わず声を上げる。

 

 

 

そして次に映し出されたのは、

宮藤すらも身に覚えのない映像……

 

 

 

 

 

 

地面に落下したであろう

ネウロイのコアの破片……

 

それを見下ろし何かしらの記録をする、

白衣を着た男たちと軍人たち……

 

 

薄暗い部屋の中に複雑な操作パネルが

いくつもある機械と光を放つカプセルがあり、

その中にネウロイのコアの破片が浮いている……

 

そのカプセルから伸びたパイプが――――

 

 

 

 

 

 

 

“鈍色のカラーリングをした

鋭角なパーツばかりで構成された

首の無い人型の機械”に繋がれていた……

 

 

 

 

 

 

その映像はすぐに終了し、

今度は宮藤と人型ネウロイが遭遇した時の

映像となった。

 

 

 

「私だ!」

 

 

 

これで宮藤に見せる映像は無いのか、

彼女が思わず笑いながら人型ネウロイと

戯れていた映像で一時停止される。

 

 

宮藤は徐に、自分を見つめている(?)

人型ネウロイと向き合い、右手を伸ばす。

 

 

そして人型ネウロイも右腕を伸ばし、

その袖と思われる部分から

人間で言うところの手指を伸ばして、

宮藤と同じ姿勢になる。

 

 

 

 

 

そして互いに少しずつ近づいていく……

が……

 

 

 

あともう少しで宮藤の手が

ネウロイの手指に触れるか否か

というところで、人型ネウロイが

突然見当違いの方向に顔を向け、

その場から消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「っ……待って!!」

 

 

 

 

 

宮藤は、何の前触れもなく消えてしまった

人型ネウロイの行方を捜してドーム内を見渡す。

 

 

 

こんなところまで連れてこられて……

攻撃されることも……

ノアールの言っていた

洗脳と思われることもされなくて……

 

 

それどころかあの人型ネウロイは、

自分の真似であろうとその手を

自分に向かって伸ばしてくれた……

 

たとえノアールの言う通り、

全人類がネウロイを許さないと

口をそろえて主張したとしても、

今この時だけは……

 

 

 

 

 

人間とネウロイが理解し合える

チャンスだったというのに……

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!どこ行ったの!?」

 

 

 

大声で呼びかけるも、ドーム内は

幾何学模様の光が流れているばかりで

なんの反応も返ってこなかった。

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

すると突然、宮藤と人型ネウロイが

遭遇した時の映像で止まっていた

画面の一つが宮藤の前に浮かび上がる。

 

 

テレビジョンの砂嵐のような映像が

しばらく流れた後、先のものと比べて

ノイズの酷い映像が流れ始めた。

 

 

 

映し出されたのは、見覚えのある白髪の少年……

されどその顔は、今まで見てきた彼の顔の

どれにも該当しない、憤怒一色のものだった……

 

 

 

「(コレって、ノアールくんがネウロイを

追い詰めてたって聞いた、あの戦いの!?)」

 

 

 

ノアールがネウロイを殴ると同時に

映像のノイズが酷くなっていく……

 

そして、ノアールが魔法力を込めた右手を

突き出した瞬間に映像が切り替わった

――――

 

 

 

 

それは、先に一瞬だけ映し出された

実験室のような部屋の映像……

されど、先の映像と明らかに違うものが

ソコにはあった……

 

 

 

 

 

 

液体が入れられたカプセルの中に、

一糸纏わぬ姿で浮いている子供……

 

 

 

それが部屋の中にあるカプセル一つ一つに

一人ずつ入れられていた……

 

 

 

しかもその子供の容姿が――――

 

 

 

 

「(アレってノアールくん……?

でも、他のカプセルに入れられてる子も

ノアールくんとそっくり……)」

 

 

 

 

彼女の知るノアールよりも幼く、

髪の色や長さなどの微妙な差異を

差し引けば、全員が全員ノアールと

ほぼ同じ顔をしていたのだ……

 

 

全ての子供が全員同じ顔をしている異様な光景に、

宮藤は薄気味悪さを覚える……

 

 

再び映像が切り替わり、今度は病院の

手術室のような場所の映像になった。

 

その部屋に備え付けられた手術台の上には、

ベルトで両手両足、胴体を拘束された

ノアールと同じ容姿の子供が

寝かせられていた。

 

 

 

 

 

「なんで…縛られて――――えっ?」

 

 

 

 

 

診療所の娘故にその部屋の用途を

いち早く見抜いた宮藤は、

子供を手術台に縛り付けている光景に

違和感を覚える。

 

 

 

そして彼女の見ている映像の中で、

身体全体を覆うマスク付きの防護服を着た

人間たちが子供の周りに殺到し、

その内の一人がピンセットを使って、

“紅く輝くソレ”を子供に近づける……

 

 

 

 

 

 

「アレって……ネウロイのコアッ!?」

 

 

 

 

 

 

ピンセットで摘まめるほどの大きさとはいえ、

特徴的な形状をしたソレは、

間違いなくネウロイのコアだった……

 

 

 

 

ソレを防護服の人間は子供の顔部分――――

宮藤が見ている映像では

陰になっている部分へと入れ込んだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノアールで言うところの、

“眼帯で隠されている左眼”へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、その子供が狂ったように暴れ始める。

だが見ての通り手術台にベルトで

全体的に縛られているため、いくら暴れても手術台が

激しく揺さぶられるだけだった……

 

 

 

 

 

「ノアールくんッ!!」

 

 

 

 

 

彼と同じ顔の子供が苦しんでいる姿に、

宮藤は思わず叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

そしてしばらく暴れていた子供は、

突然電池が切れた人形のように

おとなしくなり、身体全体を弛緩させた。

 

そして宮藤が見ている方に顔が傾き、

子供の断末魔の顔が露になった――――

 

 

 

 

暴れていた時に見せていた

強張ったまま硬直した顔で……

 

涙ではなく、血が流れ出ている

見開かれた眼をし……

 

開かれたままの口からは

血交じりの泡が噴き出していた……

 

 

 

その様相はまさに、

苦しみぬいて死んでいった人間の最期

と言っても過言ではなかった……

 

 

 

 

「ッ~!!」

 

 

 

 

見知った人間の死に顔を偶然とはいえ

見てしまった宮藤は口を手で塞ぐ。

 

 

だがそのショックの余韻を感じる間もなく、

突如として宮藤のいるドーム内に振動が起こる。

 

かと思えば、ドームの一角から

ネウロイのビームに酷似した

極太のビームが飛び出し、

宮藤のいる付近まで迫ってきた。

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

宮藤の咄嗟の回避行動によって直撃は免れたものの、

巣の内部で最も重要であろうネウロイのコアは

破壊され、

その衝撃に曝された宮藤は気を失いドームの外、

そこからネウロイの巣の外へと

放り出されてしまった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

宮藤がネウロイの巣の中で人型ネウロイと

コミュニケーションをとっている間、

彼女を連れ戻す役割を帯びた

5人のウィッチ達は事の次第を見守っていた。

 

 

しばらく経っても宮藤が出てこないことに

不安を覚えた矢先、彼女たちの目の前に

件の人型ネウロイが現れた。

 

宮藤の目の前から姿を消した人型ネウロイは

巣の外に一瞬で移動していたのだ。

 

 

 

宮藤の姿が無いことに、

人型ネウロイの行動は罠だったのかと

判断したウィッチ達は迎撃のために

散開するが、人型ネウロイが突然巣の外に

現れたのはウィッチ達への攻撃のためではない……

 

 

 

 

 

さらにその後方から迫って来ていた、

謎の飛行物体に対抗するためだったのだ……

 

 

 

 

 

その飛行物体は攻撃態勢を取ろうとしている

ウィッチ達を尻目に、彼女たち以上の速度でもって

人型ネウロイの頭上を取り、その機首部分に

装備された機関砲でもって攻撃を行う。

 

 

着弾と同時に白煙が広がり、

それを見届けた飛行物体はその場所を通過し、

今度は“首のない人型”の形態に変形した。

 

 

白煙が散った場所には不完全な損傷に

留まっていた人型ネウロイが、

片腕を無くしつつも浮遊しているといった様子で、

ストライカーのウィング部分と思しき

発光機関からビームを雨あられと乱射する。

 

 

 

そのビームはウィッチ達をも巻き込むほどの規模で、

それぞれシールドや回避でもってやり過ごす。

 

だがやがて飛行物体に向けて集中して

放たれるようになり、

ウィッチ達は現状の把握に専念する余裕が出来た。

 

 

 

ネウロイの攻撃を受けている

人型に変形した飛行物体は、

前方にウィッチのシールドとは異なる

光の防壁を展開し、ビームを防いでいた。

 

そして飛行物体は、両腕部を前に突き出すと、

その空間に赤い光を収束させ、

ビームにして人型ネウロイに向けて解き放つ。

 

 

 

人型ネウロイを容易く消滅させた

収束ビームはネウロイの巣にまで到達した。

 

先の宮藤が受けた衝撃のビームは

この飛行物体によるものだったのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「にょわぁぁぁーーー!!?」

 

 

 

 

ルッキーニは視界の端に映る

落下物に素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

 

「芳佳ぁぁぁ!!!」

 

「宮藤ぃぃ!!」

 

 

 

 

巣の外に放り出された宮藤が

気を失ったまま落ちていくのを眼にし、

ルッキーニとシャーリーがすぐさま

追いかけていった。

 

 

 

その間、人型ネウロイを消滅させ、

ネウロイの巣にまでビームを届かせた

首の無い人型の飛行物体は接敵した際の

形態に戻ってその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

その方角は奇しくも

501基地がある方向だった……

 

 

 

 

 

 

 

「芳佳、大丈夫!?」

 

「……うん。あの、ネウロイは…!?」

 

 

 

二人が追い付いて呼びかけたことによって

宮藤の意識が戻り、

ミーナ達の待つ高度にまで戻ってきた。

 

 

 

「宮藤軍曹、無許可離隊の罪で拘束します!」

 

「えっ…!?」

 

「……帰投します!」

 

 

厳格な表情でもって

ミーナから拘束を言い渡された宮藤は、

そのまま五人に囲まれる形で

基地に連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?誰かいるよ?」

 

 

 

基地が近づいてくると、その滑走路に

数人の兵士と、ブリタニア空軍の軍服の

何者かが立っているのに

ルッキーニが気づく。

 

 

その軍服の人物が誰なのかを察したミーナは

渋面を浮かべつつもその人物の前に降り立つ。

 

 

 

 

 

「ご苦労だった、ミーナ中佐……」

 

 

 

 

労いの言葉をかけたその人物――――

トレヴァー・マロニー大将のすぐ後ろに、

先の人型ネウロイを殲滅した飛行物体が

再び首の無い人型に変形して降り立った。

 

 

 

「…さっきのだ」

 

「アレはっ………ッ!?」

 

 

 

ソレを見た直後、トレヴァーの周りにいた

兵士たちが帰還したウィッチ達を

取り囲むように立って機関銃を構える。

 

とはいえ、ウィッチにはシールドという

防御手段があるためいくら周囲を

囲まれようとも傷がつけられることはない。

この行為は、あくまでも穏便な事態ではない

ということを自覚させるための

ポーズと捉えるべきだろう。

 

 

 

 

「まるでクーデターですね、マロニー大将……」

 

 

 

薄らと笑みを浮かべるトレヴァーに、

事の説明を促すように尋ねるミーナ。

 

 

「命令に基づく正式な配置転換だよ、ミーナ中佐…」

 

 

書類を示しながら事態の

正当性を主張するトレヴァー。

 

 

 

「この基地は、これより私の配下である

第一特殊強襲部隊、通称“ウォーロック”が

引き継ぐこととなる」

 

「ウォーロック?」

 

 

眉を顰めているミーナ。

 

その視界の外で、

ペリーヌによって押される車椅子に乗った

坂本が格納庫から姿を現し、

扶桑刀を兵士に取り上げられていた。

 

しばらくして基地に待機していた

サーニャ、エイラ、そしてリーネも

その場に姿を見せて、

帰還した六人と共に並び立つ。

 

 

 

 

 

「ウィッチーズ、全員集合かね?」

 

 

 

 

11人のウィッチが並び立ち、

トレヴァーがそれを見渡している間、

宮藤は無意識に視線だけで周囲を見渡す。

 

 

 

「(あれ?ノアールくんは……?)」

 

 

 

全員集合…とは言われたものの、

それはウィッチにのみ限ったことだ。

あと一人、この部隊の一員である

彼がいないことに疑問を持つ宮藤。

 

その間に、トレヴァーが宮藤の前に立つ。

 

 

 

 

「君が宮藤芳佳軍曹か…」

 

「っ……はい」

 

 

トレヴァーが目の前に立っていたことに

気づいた宮藤はすぐさま返事を返す。

 

 

「君は軍規に背いて脱走をした……そうだな?」

 

「えっ………軍規……」

 

 

自分の信念に沿って起こした行動だった

とはいえ、宮藤は自分の行動が

軍規に当てはめると重罪である

脱走に類する行為だと改めて理解した。

 

 

 

「(でも……アレは、

ノアールくんが手伝ってくれたからで……)」

 

 

 

あのノアールが手を貸してくれたのなら、

きっと問題は無いのだろうと……

そう判断して飛び出したのに……

 

事はとんでもなく悪い方向に

向かっていたことを初めて自覚する宮藤。

 

 

それと同時に――――

 

 

 

 

 

 

“『……“秘密裏に戻ってきた”自分が

自室禁錮中の貴女の部屋を訪ねた

なんて知れたら、少々面倒になるんで…』”

 

 

“『どうやって脱出したのかを問われた時、

うっかり自分の名前を

言わないでくださいよ』”

 

 

 

 

 

 

ああも念を押して自分がここにいることを

誰にも言わないようにと言い含めていた

彼の行動に宮藤は“一つの予想”を立てる――――

 

 

 

 

「(ノアールくん……

こうなることをわかって……?

ううんそんな!ノアールくんが

私達にこんなことするなんて……)」

 

 

 

 

自分の予想をありえないと一蹴し、

宮藤は無意識にトレヴァーの後ろに佇む、

首の無い人型の飛行物体に目を向ける。

 

 

 

その飛行物体は、

ネウロイの巣の中で見た映像の中にあった

あの“首の無い人型の機械”に酷似していた……

 

 

 

 

「あっ……その後ろの…!」

 

「フッ……ウォーロックのことかね?」

 

 

 

ほくそ笑みながらその飛行物体――――

ウォーロックの名を説明するトレヴァー。

 

彼の部隊の名の由来は、

この機体の名から取られたものなのだろう…

 

 

 

「私見ました!ソレがネウロイと

同じ部屋で、実験室のような部屋で!」

 

「ッ!!何を言い出すんだ君は!?」

 

「でも私、見たんです!それに……っ!」

 

 

先までの余裕なものから宮藤の一言に

表情を崩したトレヴァー。

それを目ざとく見たミーナと坂本は

事の次第を見守る。

 

 

宮藤も続けざまに言葉を述べようとするが、

巣の中で最後に見た“彼”と同じ顔の子供の

最期の表情が脳裏をよぎり、言葉が詰まる。

 

 

「質問に答えたまえ!君は脱走をした…そうだな?」

 

「っ……はい。でも……!」

 

 

強引に話を戻したトレヴァーの

問いに答えたために、

宮藤の言葉が遮られてしまった。

 

 

「中佐、私は脱走者は

撃墜するように命令したはずだが?」

 

「はい。ですが……!」

 

 

ミーナの反論を聞くこともなく、

トレヴァーはウォーロックの元へと

歩を進める。

 

 

「隊員は脱走を企てる……

それを追うべき上官も

司令部からの命令を守らない……

全く残念だミーナ中佐、

そしてウィッチーズの諸君……」

 

 

ウォーロックの前で足を止めたトレヴァーは、

そこでウィッチ達に振り向いて、

その命令を告げた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日ただいまをもって、第501統合戦闘航空団、

ストライクウィッチーズは解散する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その命令に宮藤も、

そして他のウィッチ達も驚愕する。

 

 

「各隊員は可及的速やかに

各国の原隊に復帰せよ…以上。

解ったかね、ミーナ中佐?」

 

「………了解しました」

 

 

業腹ではあるが……

と言った様子でその命令を受諾したミーナ。

 

 

 

 

 

「(そんな……解散?……ウィッチーズが?)」

 

 

 

 

怒涛の展開に理解が追い付かない宮藤は

言葉が出ず、唖然としたままになっている。

 

 

 

「君の独断専行が原因なのだよ、宮藤軍曹…」

 

「えっ……!?」

 

 

 

自身の行動が、今度の事態を引き起こした……

それを改めてトレヴァーに指摘されたことで、

宮藤は追い詰められる。

 

 

 

「安心したまえ。

ネウロイはこのウォーロックが撃滅する。

ブリタニアを守るのに、

君達はもう必要ないのだ……」

 

 

「っ……!!」

 

 

 

その言葉が致命的となったのだろう、

宮藤はそこで気を失ってしまった。

 

 

 

「宮藤!!」

 

「芳佳ちゃん!!」

 

 

バルクホルンとリーネが倒れてしまった

宮藤を案じてすぐさま駆け寄る。

他のウィッチ達も彼女の周りに殺到する。

 

 

 

 

 

 

「それにしても――――」

 

 

 

 

 

そんな彼女たちのことなど気にも

留めていないトレヴァーは

さらに言葉を続ける――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネウロイを取り逃がすどころか、

脱走兵一人撃墜することもできんとは……

この部隊に来て腕が落ちたか?

これでは万が一に備えて

貴様を向かわせた意味が無いではないか

 

 

 

 

 

――――“ノアール”!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に、気絶した宮藤を除く

ウィッチの誰もが瞠目する。

 

 

 

 

今この男はなんと言った?

 

 

 

 

誰を呼んでそう言った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『申し訳ありません。現着した時には

宮藤軍曹が巣の中に入った直後だった上に、

ウォーロックのビームの威力が強力で

吹き飛ばされた直後の宮藤軍曹を、

ミーナ中佐たちが確保したものですから……』

 

 

 

 

 

 

その答えは、ウォーロックの前に佇む

トレヴァーの前に――――

 

 

 

 

 

『大事の前の小事に、

各国から派遣されたウィッチの方々を

傷ものにしたとあっては、

閣下の沽券にかかわると判断したまでです……』

 

 

 

この部隊に来た頃の……

抑揚のなくなった声音で謝罪をする

ノアール・ルーが降り立った。

 

 

 

 

 

「フン、まあいいだろう。

失態は今後の働きで挽回する……

今度の一件もそういった形で返してもらうとしよう」

 

 

『仰せのままに、閣下……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノアール君……貴方……ッ!?」

 

 

 

首を垂れたままのノアールに

ミーナが声をかけ、

それに応じるために振り向いた

彼の顔を見た瞬間、言葉を失った――――

 

 

 

 

彼女たちの知る、彼の唯一露になっていた

右眼の“青い瞳”が

冷たく冷え切った“紅い瞳”でもって

ウィッチ達を見据えていたからだ……

 

 

 

 

 

 




病室で坂本少佐に治癒魔法を施してる場面は
原作やアニメと台詞の言い回しを
一部変更してますが…

よくよく見直せばペリーヌの台詞が、
レオにおけるモロボシ隊長からゲンに
発破をかけるあのシーンや、

メビウスにおけるゲンからミライに
発破をかけるシーンと
似た感じになってましたね


また、芳佳が施錠を施されている自室から
出られた描写は完全に独自解釈です。
アニメでも小説内でも
明確な描写が無かったので…
“窓を開けることはできても高所だから
ロープになるものが部屋にない限り出られない。
だったら外的な要因でそういうモノが持ち込まれたら
芳佳は脱出できる”という解釈で、
こうなりました



そして巣の中で芳佳が見た本作オリジナルの
映像ですが……
本格的にノアールの正体を明らかにする
つもりで書きました。

とはいえ殆ど答え出てるんですけどねwww

ちゃんと明らかにするのは……
あと2話くらい後ですね
ここから最終局面は細かく分割するので


それでは
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