Unknown Wizard Chronicle   作:シノギ

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本編中、ご都合主義すぎる描写が一部
描かれます。




第16話「わらった大嘘つき、ないた正直者」

第501統合戦闘航空団基地――――

否、そこにはもはや

元とつけた方がいいのだろう……

 

解散を告げられ、この場所を離れること

となったウィッチ達の姿は当然ながら

その場所には無く、部隊長のミーナの

方針により、厳格さなど一部を除いて

無かったその施設は、ウィッチ達による

かつての賑やかさが嘘だったかのように

静まり返っていた……

 

 

多種多様な人種で構成された部隊

だったために、様々な料理が

食卓に並んだ食堂……

 

 

海から流れてくる気持ちのいい風と

燦々と輝く太陽の光が降り注いでいた、

主に洗濯物の乾燥で使われていた洗い場……

 

 

デブリーフィングに使われることも

あったが、娯楽用品が置かれていて、

特にその中の一つであるグランドピアノで

ミーナの一日限りのミニコンサートが

行われたミーティングルーム……

 

 

訓練後や一日の終わりに

汗を流すために使われ、ウィッチ達の

賑やかな声が響いていた大浴場……

 

 

基地に在籍する整備兵によって

ウィッチ達のストライカーが日夜整備され、

時にはシャーリーが自身の改造した

ストライカーの試運転をしていた格納庫……

 

今はその格納庫と滑走路を繋ぐゲートは

打ち込まれた数十本のH形鋼によって

塞がっており、彼女たちの相棒である

ストライカーユニットも

残されたままだった……

 

 

そんな、誰も居なくなった施設を

ただ一人で見て回る者が一人――――

 

 

 

 

 

『………』

 

 

 

 

ノアールは、最後に辿り着いたその場所――――

自身が寝泊まりしていた宿舎の一室で

佇んでいた。

 

 

 

 

 

『………痛かったな…』

 

 

 

 

 

ノアールは徐に左の頬に手を当てて呟き、

その痛みを味わったその時の光景を回想する――――

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

トレヴァーの追及に応える形で彼と

ウォーロックの前に降り立ったノアール。

 

振り向いて見たウィッチ達の表情は

まさに青天の霹靂……

 

誰一人として言葉が出ることは無かった。

 

 

そんな彼女たちに、ノアールは告げる……

 

 

 

『既に閣下から聞き及んでいるはずです。

501部隊は解散。自分はそれに伴い、

原隊指揮官である閣下の元へ戻ります。

ガリア開放作戦は、

閣下の率いるウォーロックが成し遂げます。

貴女方のような、重要な時期に

内輪揉めしている脆弱な部隊には、

もう任せておけません……』

 

 

 

淡々と、何の感情も伴っていないその言葉に

さらに困惑した顔になるウィッチ達。

だがそんな中で――――

 

 

 

 

「ノアール貴様ッ!!」

 

 

 

憤った声を張り上げたのは

バルクホルンだった。

宮藤をリーネに預けて立ち上がり、

ノアールの目の前に立つ。

 

それを見ていた機関銃を持った兵士たちが

構えるも、トレヴァーが片手を上げて

それを制止する。

 

 

 

 

「何故そんなことが平然と言えるんだ!

何故あっさりとそちら側に

立っているんだ!!

お前と我々の絆は、こんなことで崩れるほど

脆かったというのかッ!!?」

 

 

 

その言葉は、この場に居るウィッチ達の

総意でもあった……

 

 

 

最初こそ、異性な上に融通の利かない、

軍人という概念が服を着て歩いているのでは

と思われていた彼も……

 

挫折やウィッチ達との衝突…

そこから始まった触れ合いの中で

様々な一面を彼女たちに見せてきた。

 

 

 

仲間に……家族に……姉弟になった……

 

自分達ウィッチを守ると言ってくれた……

 

 

 

それが彼女たちに安らぎや

幸福といった良いものを与え、

逆に不安と悲しみといった

悪いものも与えたが、

 

それもこれも全て、

ここまで共に戦ってきた絆を

より頑強にするのに必要なものだった……

 

 

それら総てを、

何の未練もなく打ち捨てるのかと……

 

 

 

そんな彼女たちの視線を一身に受けている

ノアールは徐に俯いて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッ………ハッハッハッハッハ!!』

 

 

 

 

 

 

 

大声で“嗤いだした”……

 

 

 

『この期に及んで情に訴える…ですかぁ?

バルクホルン大尉、貴女は理想的な軍人だと

思っていましたが、所詮は身内が絡むと

途端に弱くなる年相応の

お嬢さんでしたかぁ?』

 

「なっ!?」

 

 

“あの”ノアールが嗤いだしたことに

呆然としていたウィッチ達。

並びに彼の口から告げられた

バルクホルンを卑下する言葉に

誰一人として声を発することが

出来なかった。

 

 

 

『ちょ~っと悲劇的な内情を打ち明けて、

弱々しい部分を見せただけで信じ切る

……実にいい気分でしたよ?

各国の上玉ウィッチの方々がいる

この環境の中で、唯一居ることを

許された男って立場はねぇ?』

 

「あの時貴方が語った過去は、

私達を騙すための嘘だったんですの!?」

 

 

ペリーヌの憤った問いかけに、

応えるまでもないといった

表情で応じていたノアール。

 

だが、周囲にいるウィッチ達の憤り、

もしくは混乱といった表情を見――――

 

 

 

 

『フッ……

まあ、あえて答えるのなら――――』

 

 

 

口の端を上げて再び嗤った。

 

 

 

『嘘!嘘だったんですよ、何もかも!!

そういう悲劇的な過去を持った少年が

過酷な戦いの中にいる少女たちと出会い!

共に戦い、触れ合いの中で互いに心を開き、

それぞれが掛け替えの無い

存在になっていく!

 

自分たちを守ってくれる人がいるから、

自分たちもその人を守るために頑張ろう!!

 

………そんなご都合主義な物語を

堪能させてあげたんです。

良い娯楽になったでしょう?

むしろ感謝してほし――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!

 

 

 

 

 

 

 

乾いた音が響いた。

 

その要因となった

ミーナの右手が振り抜かれ、

ノアールの左の頬が赤くなっていた。

 

 

 

 

「私たちを守ると言ってくれたのも……」

 

『フッ……嘘ですよ……』

 

「私やルッキーニ、

エイラを姉呼びしたのも……ッ」

 

『家族ってことなら姉弟って立場も

テンプレートでしょう…?』

 

「あの極端すぎる怒り顔モ……

泣き顔モ……っ!」

 

『……っ……

嘘だって言ってるでしょう……っ』

 

「ノアールッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああもうッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 

 

ミーナが、バルクホルンが、

エイラが立て続けに問い質していくうちに、

ノアールの声に苛立ちが混じり、

ルッキーニが彼を呼んだ瞬間、

彼はその場で地団太を一つ踏む。

 

 

その瞬間、彼のSUAを装備した脚が

踏みしめられた部分が凹んで

クレーターのようになる。

 

それにより、問い質したかったであろう

他のウィッチ達を黙らせたノアールは、

再度彼女たちを睨みつける。

 

 

 

『もう自分は貴女方の仲間でも、

家族でも、姉弟でもありません。

いい加減、現実を見てくださいよ……?』

 

 

 

それを最後に、

ノアールは彼女たちに背を向ける。

 

 

 

『お別れです。いつかまた……

フッ……いえ、こんな人の心を利用して

惑わせる、最低最悪の男になんか、

また会いたいだなんて思う人、

居ないでしょうねぇ?』

 

 

 

振り向いてその言葉を告げたノアールは

その場を後にする――――

 

 

その時――――

 

 

 

 

 

 

 

タンッ!

 

 

キィーンッ!

 

 

 

 

 

 

ノアールの背中に軽い衝撃が走り、

その後に小さな金属音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノアールのバカぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ルッキーニの悲痛な叫びが

背中越しに聞こえ、

ノアールは彼女がポケットに入っていた

“何かしら”を投げつけたのだろうと思い、

特に気にすることもせずに基地内へと

去っていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

その後、ノアールは

本格的にガリア開放作戦が決行されるまで

特にすることもなく、

501基地の様相が変わる様を見つめていた。

 

 

管制塔内が実質的な作戦指揮所となり、

ウォーロックの開発から携わってきた

研究者たちや、トレヴァー直属の部下の

軍人たちがそこかしこで開放作戦の準備に

取り掛かっていた。

 

閉ざされた格納庫の外の滑走路でも

ウォーロックの調整が行われていた。

人型ネウロイ殲滅のために

急遽出撃したため、開放作戦前の

再度の調整である。

 

 

その指揮所の中で一番高い位置に立つ

トレヴァーは、自分の理想的な形に

なっていく様相に満足といった様子で頷く。

 

ノアールはその後ろに位置する壁際に

もたれ掛かっており、

誰の邪魔にもならないように佇んでいた。

 

 

 

「閣下、ウィッチーズ全員が、

当地より離れました!」

 

「うむ」

 

 

見下ろす位置にいる兵の一人の報告に

頷いたトレヴァー。

 

 

「すべて順調……

いえ、些か早急であることは

否めませんね…」

 

「ああまったくだ……。

そもそも、あの忌々しい扶桑の小娘が

ネウロイと接触することさえなければ……」

 

 

副官の見当違いな発言を訂正した言葉に

応じたトレヴァーはそこで言葉を区切り、

ノアールを振り返る。

 

 

 

「貴様が取り逃がすことさえなければ、

こんな時期に我々が動くことは

無かったのだがな?」

 

『申し訳ありません、閣下……』

 

 

瞑目して首を垂れるノアール。

その態度に忌々し気な顔で鼻を鳴らし

眼を逸らしたトレヴァー。

 

 

「しかし、

扶桑に帰してよろしかったのですか?」

 

「軍を離れ、ストライカーを失った

ウィッチーズなど、ただの小娘に過ぎん。

恐れる必要などない!それに……」

 

 

再びノアールに振り返るトレヴァー。

 

 

 

「この展開は、

其奴が望んだことでもあるからな、

ノアール?」

 

『………そうですね』

 

 

 

 

するとノアールは壁から離れ、

トレヴァーの側に近寄る。

 

 

『閣下。作戦開始時間まで

暇はありますでしょうか?』

 

「ウォーロックの調整が済み次第だ、

それなりに時間はかかる。

それがどうした?」

 

『扶桑の言葉に“立つ鳥跡を濁さず”

という言葉があるそうです……

“いずれこの場を去る”自分としては、

その言葉に則って自身の使っていた

部屋などの整理をしたいのですが……』

 

「………まあいいだろう。

この場に居たところで、ネウロイを殲滅する

しか能の無い貴様にできることなど何もない。

命令があるまで、

思う存分整理とやらをしているがいい。

ストライカーが無ければ飛べない

魔女たちと違い、貴様は――――」

 

『わかっています!……

命令があれば、

どこからでも飛んでいきますよ……』

 

 

トレヴァーの言葉を遮るように答えた

ノアールは、そのまま指揮所を去った。

 

 

 

「閣下、よろしいのですか?

この機に乗じてヤツが脱走など

企てたりしたら……」

 

「フン!

“脱走したところでどうする”というのだ?」

 

 

副官の危惧に対し、

トレヴァーは悪い笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの魔女たちのような……

いや、あの魔女たちですら

人間と扱ってもいいと思うほどの

“化け物”などに、外で生きられる場所など

存在しないのだからな!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

指揮所を出たノアールは冒頭のように、

この基地で過ごした施設を、

その場所で得た思い出を

回想しながら回っていたのだ。

 

 

自身の部屋を出たノアールは

滑走路に出ると、遠目でウォーロックが

機材に繋がれて調整されている様子を見つつ

歩いていた。

 

 

そして――――

 

 

 

 

 

キンッ!

 

 

 

 

『っ!?』

 

 

小さな金属音と、

何かを踏んだ時特有の感触を

足裏に感じたノアールは立ち止まって

少しばかり後ろに下がる。

 

 

見ると、ノアールの足があったところに、

表が下になり、ピン部分が上になった

バッジが落ちていた。

 

なんとなく気になったノアールは、

そのバッジを拾う。

 

 

『なんでこんなところに、

こんな――――ッ!?』

 

 

そのバッジを表にした瞬間、

ノアールの言葉が途切れる……

 

 

 

彼の手に握られている“バッジ”、

それは――――

 

 

 

自身の誕生日を

ウィッチーズの皆と祝った時、

自分へのプレゼントとしてデザインされた

パーソナルマーク――――

五芒星と五本の箒を組み合わせた

“彗星のバッジ”だった……

 

 

 

そして彼は気づいた。

 

自分が今いるのは、先にウィッチ達に

別れの言葉を告げて去ろうとした後、

ルッキーニが投げつけたものが

自分の背に当たった

あの場所だったことを……

 

 

 

 

ルッキーニが、このバッジを持っていた……

 

 

 

大方、自分をビックリさせて、

喜んでもらうために……

 

 

 

 

 

 

『くっ!!!』

 

 

 

 

 

その事実を理解した瞬間、

ノアールは滑走路を飛び出し

ひたすら走った。

 

 

俯きながら、

何処に行くのかもわからないまま、

途中で自身の身に当たる木々の

枝葉等のことも気にすることなく、

ひたすらに……

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁっ!!』

 

 

 

 

 

そして、何かに躓いて

ノアールは前のめりに倒れた。

 

 

倒れたその場所は、

島の東側の海岸にある砂浜だった。

 

 

水着姿のウィッチ達と海上訓練兼、

海水浴をした……あの場所だった……

 

 

 

 

 

『っ……くぅ………はっ!』

 

 

 

 

倒れたノアールは、

その際に口に入った砂を吐き出しながら

顔を上げる。

 

その視線の先に、

持っていたバッジが落ちていた。

 

 

 

ソレに手を伸ばそうとし――――

 

 

 

 

 

『………フッ』

 

 

 

その手を引っ込めて、上体を起こし、

少し崩れた正座のような体勢で俯く。

 

 

 

そして、おあつらえ向きに

誰もいない場所まで来たのならばと

ノアールは……

 

 

 

 

 

 

 

 

『今更じゃないか!!』

 

 

 

 

 

 

 

これまで溜め込んでいたであろう感情を

大声で叫び始めた………

 

 

 

 

『何もかも全部自分でぶち壊しておいて!!

今更これを貰ったところで

何になるって言うんだよ!!

 

だからコレを貰う資格なんて

自分には無いんだ!!

 

いやそもそも!!

自分みたいな“化け物”が!

 

あんなにも素晴らしい人たちを

守るだなんて!!

家族に、姉弟になるなんて

烏滸がましかったんだ!!

 

こんな化け物に守ってもらったり!

化け物が自分の家族だ姉弟だなんて

嫌に決まってる!!

自分のためにあの人たちが

悪く言われるなんて耐えられない!!

 

もっと言えば!自分に

“家族なんて居なかったじゃないか”!!

こんな化け物に家族なんて

居るはずもないじゃないか!!

 

だからぶち壊したんだ!!

宮藤さんを焚きつけて

解散に追い込むきっかけになってもらって!

皆がこの場所から離れれば

誰も死んだりしない!!

 

自分は自分の過去を偽って

みんなと一緒にいる環境を

内心で役得だって思いながら過ごしてた

最低野郎だって印象付けて!!

 

そうすれば皆忘れてくれる!!

こんな最低な化け物のことなんか!!

人は嫌な記憶は

忘れようとする存在だから!!

 

そうすればこの先自分が死んだって

誰も悲しんだりしない!!

ここに来るまでだって

そうだったじゃないか!!

 

そうだよ!!これでよかったんだよッッ!!

あは、あはは、アハハハハハッッ!!』

 

 

 

何もかもぶちまけたノアールは、

ひたすら“わらい”だす……

 

 

 

 

『なんだ!

自分だってわらえるんじゃないか!!

何がわらえないだよ!!

アッハッハッハッハハ………

ハハッ……!!』

 

 

 

 

自分の愚かしさをわらい……

 

 

 

『自分がわらった時、

みんなびっくりしてたなぁ!!

あの時の皆の顔可笑しかったなぁ!!

アハッハッハッハッハ……!!』

 

 

 

呆然としていたウィッチ達の顔を

思い出してわらい……そして……

 

 

 

 

 

『アッハッハ……はは……はぁっ……』

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

『はっ……はぁっ……ぁぁ……』

 

 

 

 

 

それはもはや、“わらっている”

とは呼べなくなってしまった……

 

 

 

『なんだよ……わらえよ………

今更こんな……

っ自分でやったことなんだから!!

わらえば忘れられる!!

ここで出会った人たちも!!

その人たちと過ごした思い出も!!

全部わらって忘れればいいんだ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『忘れろッ!!忘れろよッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『忘れて!!………忘れ…てっ……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………忘れ………たいのに……っ!!』

 

 

 

 

 

 

ノアールの手が、

無意識に彗星のバッジを握り締め、

その胸に抱きしめるように引き寄せる。

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁぁぁあああああッッ!!!!

うわぁぁぁぁあああ!!!!

ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!!』

 

 

 

 

 

 

今までで一番……

ウィッチ達にも見せたことのない大声で

泣き叫び始めた。

 

 

 

 

『嘘つきでごめんなさいッ!!

 

守るなんて言ってごめんなさいッ!!

 

姉弟になってごめんなさいッ!!

 

家族になってごめんなさいッ!!

 

仲間になってごめんなさいッ!!

 

友達になってごめんなさいッ!!』

 

 

 

 

彼がこんなにも泣いていれば、

必ず彼の姉である三人のウィッチか、

そうでなくとも側にいたウィッチが

慰めるために尽力したであろう……

 

 

 

 

 

 

 

『みんなと出会ってごめんなさいッ!!』

 

 

 

 

 

 

だが、もうこの場所に彼女たちはいない……

 

 

 

 

 

 

 

『化け物でッ………ごめんなさいッ……』

 

 

 

 

 

 

少年の悲痛な慟哭は、

残酷なまでに美しい海原に

虚しく響いていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

『生まれてきて………

ごめんっ……なさい………っ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ン?」

 

「どうしたのエイラ?」

 

 

ロンドン行きの列車に乗り遅れ、

駅員の勧めで貨物列車の荷台にタダ同然の

形で乗りこんだエイラとサーニャ。

そんな中、エイラの様子の変化に

気づいたサーニャは話しかける。

 

 

「今……ノアールの泣いてる声が

聞こえたようナ……」

 

「ノアールが……?」

 

 

サーニャの耳には聞こえなかったが…

もしかしたら、“エイラだから”

聞こえたのではないかとサーニャは

納得する。

 

 

そして、サーニャは

基地から離れる時に思った疑問を

エイラに尋ねる。

 

 

「ねえエイラ。エイラはノアールのこと……

どう思ってる?」

 

「ん?……フンッ!決まってるだロ!」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「うじゅ?」

 

 

 

基地からほど近い民間飛行場にて、

シャーリーがタダ同然に譲り受けた

という複葉機のソードフィッシュに

乗り込もうとした時、

ルッキーニが振り向き――――

 

 

 

 

501基地の方角に目を向けていた……

 

 

 

 

「どうしたルッキーニ?」

 

 

先んじて操縦席に乗ってエンジンの始動

をしようとしていた時に、

突然振り向いたルッキーニを見て

呼びかけるシャーリー。

 

 

 

「うん……なんかね、

ノアールが泣いてる声が……

聞こえたような……なかったような……」

 

「ノアールが泣いてる?」

 

 

シャーリーにも聞こえなかったが、

“ルッキーニなら”聞こえたのだろうと

シャーリーも内心で納得する。

 

 

そしてシャーリーも、

基地から離れる時になっても彼に対して

“なんの癇癪も起こさなかった”

ルッキーニに疑問を尋ねる。

 

 

「なあルッキーニ。お前はノアールのこと、

どう思ってるんだ?」

 

「どう思ってるって……

そんなの決まってるよ!!」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

そして、基地から少し離れた

人気の少ないバス停にて下車した

カールスラント組の三人の内……

バルクホルンもまた、

基地のある方向に目を向けていた。

 

 

 

「トゥルーデ?」

 

「どうかした?」

 

 

 

宮藤の発言によって焦りを見せていた

トレヴァーの様子から、その部分を

突き詰めていけば彼の牙城を崩すことが

出来ると踏んだ三人は、

監視が居なくなったタイミングで

とあるバス停で下車し、

ミーナの案内で基地の様子を観察できる

セーフハウスに向かっていた。

 

 

その少し前に、

エーリカが持ち前の色気を駆使して

ヒッチハイクをしようとしたが、

虚しくスルーされたことを追記する。

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

その矢先、バルクホルンが

一際自分たちの行き先を……

もっと言うならこれから監視を行う

501基地に目を向けているのに

疑問を持った二人はバルクホルンに尋ねる。

 

 

 

 

「いや……今、ノアールの泣いている声が

聞こえた気がしたんだ……」

 

 

 

 

全く違う場所でも、同じようなタイミングで

同じような空耳が聞こえるなど、

偶然と言えるだろうか?

 

それはもはや偶然ではなく、

必然と捉えるのが自然ではないだろうか?

 

そして二人は問い掛ける、

他の場所でもノアールの姉になった

彼女たちに尋ねられていた同じ疑問を……

 

 

「トゥルーデはノアール君のこと…」

 

「どう思ってんの?」

 

 

 

 

 

「フン……愚門だな――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ノアールは

嘘つきだ(ダ・だよ)!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

全く違う場所で同じ疑問に答えた

三人の言葉は、全く同じだった……

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「嘘つき……ですか?」

 

「はい。私はその方に

会ったことはないのですが……

リネット様の仰っていた人物像から

推測して……の結論ですが……」

 

 

 

迎えの使用人が運転するロールスロイスに

乗りながら、リーネはその使用人に

悩み事があると見抜かれて、

先のノアールの言い分と、

リーネの知る限りでの彼の人物像を

使用人に話したのだ。

 

その結果の冒頭の言葉だった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

そして、軍用トラックに乗って

一度基地を離れ、軍港から扶桑空母赤城に

乗船し、次第に遠ざかっていく

501基地を眺めていた

宮藤、ペリーヌ、坂本もまた……

 

 

 

 

「宮藤、ペリーヌ……

私はあの時のノアールの発言に

違和感を感じてならないのだが……

お前たちはどう思う?」

 

 

 

 

車椅子の肘置きを支えにして組んだ両手を

口元にあて、二人を試すような目線で

問い掛ける坂本。

 

 

 

真っ先に答えたのは、ペリーヌだった……

 

 

 

「ご尤もですわ!あんな正直者の嘘を

見抜くなんて、ルッキーニさんの方が

もっとマシな嘘ぐらいつけますわよ!」

 

「はっはっは!確かにな♪あっ!

今気づいたが、あのノアールの嗤い方は、

もしや私を真似した笑い方だったのか?」

 

「なっ!?だとしたら

大根役者もいい所ですわっ!!

少佐の豪快で凛々しくて頼り甲斐の

感じられる笑い方と比べたら、

彼の嗤い方なんて……

ブツブツ……ブツブツ……」

 

 

背後でクドクドと文句を呟いている

ペリーヌを苦笑した顔で見ていた坂本は、

今度は宮藤に目を向ける。

 

 

 

「宮藤はどう思う?」

 

「私は……気を失ってて、

ノアールくんの言葉は聞いてないから、

坂本さんやペリーヌさんみたいに、

ハッキリとは言えないんですけど……」

 

 

右舷から見える海原を見つめながら

宮藤は呟き、坂本に振り返って答えた。

 

 

 

 

 

「ノアールくんはきっと、

皆に酷いことを言った自分に

後悔してると思います!」

 

 

 

 

 

「後悔…ですの?」

 

「私、基地で目を覚ます前に

夢を見てたんです。

 

皆と一緒にストライカーで空を飛んでいて…

でも、突然皆いなくなって……

皆を探してるうちに、遠くの方で

ノアールくんが飛んでいるのを見つけて……

呼んでみたら、

“こっちに来るな”って身振りをしながら、

私から離れようとしたんです。

追いかけても追いかけても追いつけなくて……

その時のノアールくん……泣いてました……」

 

 

宮藤の夢に出たノアールの様子を、

それぞれの脳裏に想起する坂本とペリーヌ。

 

 

「ふむ……夢は夢でしかない……

と、一蹴するのは容易いが……

何の因果か……唯一ノアールの言い分を

聞いていない宮藤がそんな夢を見たのは

偶然とは思えんな……」

 

「ですわね……。でもノアールさんは、

何故あのようなことを?」

 

「ついこの間までアイツと関わってきた

我々から言わせれば、

アイツの見せてきたあの態度が

全て演技だったとは到底信じられん。

ということは、だ……

全て嘘だったと我々に印象付けさせる

弱みなり理由なりがアイツにあると

見た方が自然だろう…」

 

「弱みって?」

 

「……あくまでも、最後に見せた

アイツの態度が演技だった、

という前提での私の推測だが――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノアールが失っている過去の記憶が、

関係しているのかもしれん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノアールの謀りは、

その効果を一つも発揮していなかった……

姉になった三人はおろか、その相方たち…

そして他のウィッチ達でさえも

彼の態度が見せかけだと断言していた……

 

 

ノアールは、自分はもう孤独だと

自己完結しているが……

 

彼女たちにとっては、

今更どれだけ引き離そうとしても、

どれほど言葉を尽くして拒絶しようとも、

そんなものが関係ないほど、

大切な存在となっていたのだった……

 

 

 

 

だが、彼女たちが知らずにいる

“その真実”……

 

彼が自身を化け物と称するほどのソレは、

彼と彼の上官であるトレヴァーと

その関係者でしか知り得ない――――

 

 

 

 

 

 

 

とてつもなく残酷な真実だった……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

数時間後、出撃を報せるサイレンが

元501基地に響き渡る。

それと同時に滑走路にて調整を終えた

ウォーロックが起動した。

 

 

 

「ウォーロック零号機、準備整いました!」

 

 

司令部にてウォーロックの起動を確認した

職員が発進準備が整った旨を報せる。

 

 

「これより、

ガリア地方制圧に向かわせます!」

 

「うむ…」

 

「ウォーロック零号機、発進せよ!!」

 

 

トレヴァーの作戦開始の旨を伝える

副官の指示により、

コントロールを担当する職員の操作で、

ウォーロックは基地を発進した。

 

首の無い人型形態から飛行形態に変形し、

さらにスピードを上げる。

 

 

 

「飛行形態に変形完了!」

 

「ガリアへの進路変更を確認!

すでに亜音速に到達しました!」

 

「フンッ、どうだ!

小生意気なあの魔女たちとは全く違う!

ウォーロックこそ、

我々のネウロイ研究の成果なのだ!」

 

 

ウォーロックの現状を

その都度報告する職員たちの言葉に

トレヴァーは満足げに頷く。

 

 

「技術主任は、実戦投入にはもう少し

出力レベルを整えたいとのことでしたが……」

 

「そんなことは解っておる!

だが、ウィッチを追放した今、

我々が戦うしかないのだ!」

 

 

副官の危惧に対しても

毅然とした様子で応じるトレヴァー。

 

 

「実績が必要なのだよ。ネウロイを殲滅し……

そして世界の主導権(イニシアチブ)を握るために……」

 

 

自身の理想的な青写真を夢想し、

笑みを浮かべるトレヴァー。

 

 

 

だが彼は気づいているのだろうか?

ウォーロックは確かに人類の技術の粋を

集めた結晶かもしれない……

 

だがその根底にあるのは、敵である

ネウロイによって齎されたものだ……

 

制御できたからといって、

それが自分たちの力であるとは言えない……

 

ネウロイに勝つためにネウロイの力を行使する……

 

それは言ってしまえば

“人類の力ではネウロイには勝てない”

という人類の敗北を証明していることに

他ならない……

 

 

なんとも皮肉な話である……

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

元501基地から発進したウォーロックは、

まだそう遠くに離れていない

扶桑空母・赤城の頭上を通り過ぎ、

ガリア地方上空に鎮座するネウロイの巣

目掛けて飛んでいった。

 

それを右舷から見た坂本、ペリーヌ、

そして宮藤は左舷へと場所を移し、

その戦況を見守ることにした。

 

 

 

ウォーロックが巣の領域に入った瞬間、

ネウロイの主要武器であるビームが

巣そのものから放たれる。

それらを飛行形態の機動力を活かして

回避するウォーロック。

 

すると今度は巣の中から

大型ネウロイが出現し、

直接ウォーロックを攻撃し始める。

 

それすらも回避したウォーロックは

機首部分を開き、そこからビームを放って

大型ネウロイの胴体部分を撃ち抜き、

そのまま撃破した。

 

 

 

「一撃でネウロイを……!?」

 

「あっ……」

 

「な、なんという威力ですの…!」

 

 

魔眼を発動して見ていた坂本が

驚愕の声を出す。

ネウロイが消滅した際の白い結晶が

見えたことで、宮藤とペリーヌは

ウォーロックがネウロイを

早速撃破したのだろうと確信する。

 

 

 

「おかしい……何故ウォーロックは

ビーム兵器を使えるんだ…?」

 

 

坂本が知る限りの今の軍の技術力で、

ネウロイを一撃で倒せるほどの威力を

誇るビーム兵器など作れるはずがない。

 

 

「あっ!」

 

 

そんな時、宮藤が小さく声を出す。

 

 

「どうした宮藤?」

 

「見たんです……

ネウロイが見せてくれたんです……」

 

 

宮藤が思い出したのは、人型ネウロイが

自身を連れて巣の中に入った際、

様々な映像の中にあった

“首の無い人型の機械”がネウロイのコアの

破片が入ったカプセルの側にいた映像だった……

 

 

「っ!ウォーロックは

ネウロイと会ってたんです!」

 

「ウォーロックがネウロイと

接触していただと!?」

 

「ありえませんわ!ネウロイは敵ですのよ!?

それに、ネウロイの技術を手に入れたのなら、

私達にも報告があるはずですわ」

 

「でも……」

 

 

ペリーヌに一蹴された宮藤は、

自分が見た情報が偽物とは思えないと食い下がる。

 

 

 

「本来ならあり得ない………だが辻褄は合う……」

 

「えっ!?」

 

 

賛同の言葉にペリーヌは思わず坂本を見る。

 

 

「もし、敵がネウロイだけでないとしたら……。

宮藤、お前の行動はあながち間違いでは

なかったかもしれん……」

 

 

坂本の自分を弁護する言葉に

宮藤は戸惑った顔をするが……

そこに連なって、思い出したことを口にする。

 

 

「それに、ノアールくんのことも……」

 

「何故そこでノアールさんが!?」

 

「宮藤、話してくれ。あの人型のネウロイが

ウォーロックについての情報を

お前に教えるために誘導したのだとしたら、

そのノアールについての情報にも、

重要な何かがあるのかもしれん!

もしかしたらそれこそが、

アイツが我々を裏切ったと口にした理由に

繋がっているのかもしれない!」

 

 

坂本とペリーヌは、

ウォーロックとネウロイの戦闘に気を配りつつ、

宮藤が見聞きしたという

ノアールについての情報に耳を傾けた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ウォーロック零号機、ネウロイを撃破しました!」

 

「ハッハッハッハッハ!見ろ!

もはや、我々の力はネウロイを超えたのだ!」

 

 

高笑いするトレヴァー。

まだ一機撃墜しただけで

勝ち誇った気でいるようだが……

それも全てネウロイの力あっての

ものと分かると滑稽に見える……

 

 

 

 

戻ってネウロイの巣の空域にて、

ウォーロックの背後に先に倒した

大型ネウロイと同じ個体が出現する。

 

それを感知したウォーロックが

そちらに進路を向けると、

さらにその後ろからも同型の

大型ネウロイが出現する。

 

 

 

「どうした?何が起きている!!」

 

「ネウロイが二機出現しました!」

 

「…いえ三機です!!」

 

「何っ!?」

 

 

副官の報告を促す命令に、

レーダー班の兵士たちが

ネウロイの追加出現を報告する。

 

 

 

「構わん!殲滅しろ!!」

 

 

 

焦りを見せる兵士たちに向かって

トレヴァーの命令が飛び、

ウォーロックにネウロイの攻撃を命じる。

 

 

 

 

 

命令を受けたウォーロックは

飛行形態で再び一機撃墜し、

旋回してもう一機の元に向かう。

だがその間にも二機、三機と

大型ネウロイが次々と出現する。

 

ウォーロックは飛行形態から

人型形態に変形し、前後左右に忙しなく

向きを変えながらビームを放ち、

ネウロイを撃破していく。

 

だがそれ以上に出現するネウロイの数が

圧倒的だった。

 

 

 

 

「ネウロイの数……八……九!!?」

 

 

指令室にもその圧倒的なネウロイの

増加率が伝わっていた。

 

 

「ウォーロックの処理能力は、限界です!」

 

 

研究員の進言にトレヴァーは表情を歪ませる。

 

 

 

「“コアコントロールシステム”を稼働させろ!!」

 

 

 

思った以上に苦戦を強いられている現状に、

トレヴァーは奥の手ともいえる

そのシステムの稼働を命じる。

 

 

「しかし、コントロールするには

共鳴させるコアを持ったウォーロックが

五機以上必要です!」

 

 

研究員の進言にさらに顔を歪ませるトレヴァー。

 

現状、ウォーロックは一機しかいないため、

このシステムは使えないと今更になって自覚する。

 

 

 

 

 

 

ジリリリリッッ!!

 

 

 

 

 

 

その時、ウォーロックの操作パネルに

備え付けられた警報ベルが鳴り響く。

 

 

「どうした!?」

 

「こ、コアコントロールシステムが、

勝手に動いています!!」

 

「なに!?」

 

「ウォーロック自らが

コアコントロールシステムを

稼働させたようです!」

 

 

 

 

 

 

そのシステムを稼働させたウォーロックの

周囲には、大型ネウロイの大群が

円を描くように旋回し続けていた。

 

魔眼でその様子を見ていた坂本も

その光景に驚かざるを得ない。

 

 

 

 

 

「ウォーロックの

コアコントロールシステム、

正常に稼働しています!」

 

「すべてのネウロイを支配下に置きました。

予想以上の成果です!」

 

 

想定外の事態に一瞬肝を冷やした

トレヴァーだったが、システムの稼働状況を

報告した兵士の言葉に余裕を取り戻す。

 

 

 

あるいは、この時点で違和感に

気づくべきだったのかもしれない……

 

なんの命令もなくシステムを

稼働させた時点で……

 

勝手に稼働したシステムが

何の問題もなく動いている時点で……

 

 

 

 

 

そしてウォーロックの支配下に置かれた

ネウロイ達は一斉にビームを発射し、

味方であるはずの他のネウロイを

攻撃し始めた。

 

同士討ちを始めたネウロイ達は次第に数を減らし、

最終的にネウロイの巣の下に残ったのは

ウォーロックただ一機だった。

 

 

 

 

「ネウロイを殲滅しました!!」

 

 

 

モニター上のネウロイの反応が

すべて消えた状況を監視員が報告すると、

指令室内に歓喜の声が上がる。

 

 

 

が……

 

 

 

「ッ!?」

 

「どうした!?」

 

「いえ、それが……」

 

「こちらからの制御が、遮断されました!」

 

 

ネウロイの反応を示す光だけでなく、

“ウォーロックを示す光”までも

消えてしまったのだ……

 

 

 

 

 

突如として指令室からの制御を

受け付けなくなったウォーロック。

ネウロイの巣の下で浮遊しているその姿は

やがて変化を見せた――――

 

 

 

 

 

鈍色をしていた機体は“黒く”染まり、

本体内部から発せられていた青い光が

“紅い光”となった……

 

 

 

まるで“ネウロイ”のような

色合いとなって……

 

 

 

 

ネウロイの巣から離れたウォーロックの

様子を見ていた宮藤たち三人と、

赤城の杉田艦長を含む乗組員たち。

 

先の戦闘以降、巣からネウロイが現れる

気配が無いことから戦闘が終了し、

基地に戻るのだろうと全員が思っていた――――

 

 

 

が……

 

 

 

 

ビュンッ!!

 

 

 

バァァァン!!

 

 

 

 

黒いウォーロックはその両腕部から、

赤城の進行方向を横切るように

ビームを放った。

 

 

 

 

 

 

 

ウォーロックが人類を攻撃し始めたのだ……

 

 

 

 

 

 

「空母赤城が、ウォーロック零号機の

攻撃を受けています!!」

 

「なに!?」

 

 

指令室では想定外の事態に

混乱が広がっていた。

 

 

「ウォーロック制御不能……暴走しています!!」

 

「馬鹿な!!」

 

 

トレヴァーの余裕の表情はとうとう崩れ去った。

 

そこに副官が進言する。

 

 

「閣下!至急、ウォーロックの停止を!」

 

「ならん!貴重な零号機だ!

今停止すれば海中に没する!」

 

 

トレヴァーの言葉はあまりにも愚かだった。

暴走している兵器を優先して

人命を蔑ろにするようなものである……

 

 

「しかし、味方を攻撃する事態と

なっているのです!どうか、ご決断を!!」

 

「くっ……やむを得ん」

 

「ウォーロック強制停止システム、稼働準備!」

 

「稼働準備!」

 

 

苦渋の決断を下したトレヴァーの指示に

兵士たちは準備に取り掛かる。

 

 

 

 

その間、ウォーロックの攻撃は依然続いていた。

 

杉田艦長の指示のもと、

ウォーロックに対しての対空戦闘が開始された。

 

だが、ネウロイのビームですら防ぐ

シールドを持つウォーロックに、

通常兵器しか装備していない赤城の攻撃は

あまりにも無力だった。

 

 

 

 

「ウォーロック強制停止システム、稼働!!」

 

「強制停止!!」

 

 

指令室ではとうとう、

ウォーロックを強制停止させる準備が整い、

トレヴァーの指示で操作が行われた。

 

 

 

これでウォーロックは止まり、

事態は収束する――――

 

 

 

 

はずだった……

 

 

 

 

 

 

 

ビュンッ!!

 

 

 

 

 

 

一瞬動きが鈍ったウォーロックだったが

依然止まることなく、とうとうそのビームが

赤城の船体を直撃し、航行不能になるほどの

損害を与えてしまった。

 

しかもそのビームはそのまま元501基地にまで届き、

基地の西側の一部を破壊した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

『ッ!!』

 

 

 

基地で起こった爆発は、

未だ東側の海岸で佇んでいた

ノアールにも当然聞こえていた。

 

 

 

『こちらノアール!!司令部、応答願います!!』

 

 

耳につけていたインカムを使って

司令部に連絡を取るノアール。

 

 

 

<ノアール、貴様か……>

 

『閣下!状況は!?』

 

 

呼びかけに応じたのはトレヴァーだった。

インカムにはそれ以外の兵士たちの

右往左往する声も聞こえており、

司令部内は混乱していることが見て取れる。

 

 

<あまりにも想定外だ……

ウォーロックが暴走し、空母赤城を攻撃している!

こちらからの制御も全く受け付けなくなった!>

 

『ッ!なんですって!?』

 

 

ノアールは海岸から赤城の航路の方向に目を向ける。

船体こそ見えないが、

水平線の先に黒煙が昇っているのが見えた。

 

 

『(宮藤さん……坂本少佐……

ペリーヌさん……!!)』

 

 

赤城に乗って扶桑に向かっていた

三人を案じるノアール。

 

 

 

 

<ノアール……今のウォーロックは、見様によっては

先に殲滅した数多のネウロイ達の怨念が

乗り移ったものかもしれん……

我々人類の希望がネウロイの手先になった以上、

もう一つの希望である貴様に縋るしか道はない。

故にノアール、“最後の命令”だ――――>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<刺し違えてでも構わん!

ガリア制圧最後の敵であるネウロイ(ウォーロック)を殲滅せよ!!

 

その暁に、貴様は英雄として称えられ、

“人間”として我々人類の心に

刻み込まれるだろう!!>

 

 

 

 

 




ノアールの初めての笑い声が嗤い声だった件…

そしていつになく絶望的な描写が
前半部分に集約しております…

正直、自分で書いてて辛かったです…
掛け替えの無いものだからこそ、
自分で壊さなければならない残酷な仕打ち…
その相反する感情に打ちのめされたからこその
あの何度も口にした謝罪の言葉
だったのでしょう

そしてここから最終決戦、と同時に
ノアールの正体を正式に明らかにしたいと
思います。


それでは
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