Unknown Wizard Chronicle 作:シノギ
所謂オリジナル回です。
なにぶん久しぶりの執筆のために戦闘を含む描写があまりにも拙い所もありますが、
ご容赦のほどをお願いします。
第1話「小さな
「皆さん、緊急の招集ごめんなさいね……
でも早急に報告しなければならない事案ができたの」
時間にして正午前、ブリタニアのガリアに面した
ドーバー海峡の小島に設営された
第501統合戦闘航空団の基地。
その基地内にあるブリーフィングルームにて
隊長である、
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐が
正面の壇上にて集合した隊員たちに声を張り上げる。
「まったくだよ、いつになくトゥルーデが
必死に起こしてくるから渋々起きたけどさ……」
「当たり前だ!戦闘隊長である坂本少佐がいない今、
突然の緊急招集だ。迅速に状況を把握して
対処してこそカールスラント軍人としての務めだ!」
壇上のすぐ正面左の席に着く二人。
あからさまに欠伸と文句を零しているのは
エーリカ・ハルトマン中尉。
それを注意するのは
ゲルトルート・バルクホルン大尉。
「でもさ、緊急ってわりに一旦ここに集合してるし、
出撃って感じじゃなさそうだよな……」
「うんうん、なんかあったの?」
壇上から正面右の2番目の席とそのすぐ後ろの机に
布を敷いて寝転がっているのは
シャーロット・E・イェーガー中尉と
フランチェスカ・ルッキーニ少尉。
「夜間哨戒のために寝てるサーニャちゃんや
エイラさんは呼ばなくてもいい、
とのことでしたけど……」
「もしや!坂本少佐に何かあったんですの!?」
バルクホルンの後ろに座る
リネット・ビショップ軍曹。
そしてシャーリー(愛称)の隣で突然立ち上がったのは
ペリーヌ・クロステルマン中尉。
以上のメンバーと今ここにいない3人を含めた10人が
第501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」の
メンバーである。
「いいえ。今回集まってもらったのは
ネウロイに関してのことでも、
扶桑に向かった坂本少佐のことでもないの」
ミーナの言葉に
鬼気迫る表情を浮かべていたペリーヌは
安心した様子で顔を弛緩させる。
「以前、私が本国の上層部へ報告に出向いた折に、
本国ブリタニア空軍からこの501に
追加人員を派遣すると辞令があったの」
その言葉に各々驚きの声が上がる。
「待てミーナ。少し前にリネット軍曹が
ここへ来てから、間を置かず再び派遣だと?」
「タイミング的におかしいよね~?
なんか急遽決まったって感じ…?」
「その疑問はもっともよ。
はっきり言って今度の一件は、厄介ごとを
押し付けられたともとれる内容だから……」
旧知の仲であるバルクホルンやエーリカの言葉に
渋面を隠すことなく呟くミーナ。
そして表情を引き締めなおし言葉を紡ぐ。
「上層部曰く、リーネさんや坂本少佐が
扶桑でスカウトしようとしている新人のウィッチの
練度不足を補うため……だそうだけど」
「……すみません、私あまりお役に立てなくて……」
「っ!リーネさんを責めているわけじゃないわ。
あなたがここへ来て一層努力していることは
理解してるから」
「…はい」
ミーナのフォローにリーネは返事をするものの、
表情は優れない。
「中佐が面倒と仰るくらいの追加人員って
どんな方ですの?」
「前の部隊で相当な問題児だったとか?」
「またリーネみたいに、
おっぱいおっきいのかな!?」
「っ!!////」
ペリーヌの問いに、
シャーリーが便乗して予測を立てる。
ルッキーニの場違いな言葉に、
リーネは思わず顔を俯かせる。
「実は、今度派遣される
追加人員というのは――――」
ウゥゥゥゥゥーーー!!!
その時、基地全体に警報音が鳴り響く。
ウィッチたち全員がその警報に顔を引き締める。
「ネウロイ!?」
「この前より予報、外れやすくなってない?」
「本件は一時保留とします。
戦闘隊長代理としてバルクホルン大尉、
ハルトマン中尉とロッテを、
シャーリー中尉とルッキーニ少尉のロッテで出撃!
ペリーヌさんとリーネさんは私と基地待機!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
出撃の命令を受けた4人が自身の翼たる
ストライカーユニットが収められた
ハンガーへと走る。
4人がそれぞれのユニットを装着し、
使い魔の耳と尻尾を出現させる。
「発進!!」
出撃メンバーの中で一番上の階級であり、
戦闘隊長代理を仰せつかったバルクホルンが
号令を出すと同時に銃器を装備した全員が
基地を飛び立った。
「中佐、敵の種類と規模は?」
<敵は1機。中型サイズの円盤型だそうよ>
バルクホルンはインカムでミーナに連絡を取る。
もたらされた情報は
すぐさま出撃メンバーに行き渡る。
「円盤型か~…また見たことないタイプだね……」
「どんな形で来ようとコアを撃ち抜けば同じさ!」
「らくしょ~♪らくしょ~♪」
「楽観的になるなリベリアン、ルッキーニ少尉。
未確認の形で来るからこそ、警戒してしかるべきだ」
バルクホルンの窘める言葉に注意された二人は
渋々という様子で返事をする。
そしてしばらく飛んでいると――――
「もうすぐ戦闘空域………ん?」
バルクホルンの言う通り、
報告にあった空域に差し掛かろうとした時、
全員がおかしな光景を目撃した。
ビュンッ!ビュンッ!!
報告された円盤型ネウロイが戦闘空域を
縦横無尽に飛び回りながら
あらぬ方向へと主武装であるビームを
放っているのである。
しかもウィッチたちが戦闘態勢に
なっていないにもかかわらず…である。
<どうしたの?>
「ネウロイの動きがおかしいんだ…」
「あたしらまだ攻撃もしてないんだぜ?」
「でもアレ、明らかに何かと戦ってます
って感じだよね……」
「あっ!見てあそこ!!」
ミーナへ報告している3人をよそに、
ルッキーニが唯一“ネウロイ以外”の
飛行物体を発見する。
円盤型ネウロイの側面にある発光部分が
空に向けられると共にそこからビームが放たれる。
そのビームの雨の中を縫うようにして飛ぶ一つの影――――
それは明らかに鳥と呼ぶにはあまりに大きく、
戦闘機と呼ぶにはあまりにも小さい……
言うなれば今この光景を見ているウィッチたちと
同等の大きさをした影だった。
「ウィッチか?」
「でも、あたしら以外出撃してないし……」
「別の空域で戦ってたのがこっちまで流れて来たって
なったら、報告入るはずだしね…」
「でもスゴいよ。エイラみたいに
シールド無しでビーム避けてるし!」
ルッキーニの言う通り、円盤の側面にある発光部分が
向いている方向から雨あられとビームが
ばら撒かれているにもかかわらず、
敵対しているウィッチと思われる影はどこ吹く風
といった様子で次々とそれを回避し続けている。
かと思えば、ネウロイが距離を取るか、
空域から離脱しようとしているか定かではないが、
自身から大きく離れようとすればその退路を塞がんと
影はネウロイの飛ぶ方向のさらに先へ飛んで
逃がさないようにしている。
<とにかく、現在交戦中のウィッチと協力して
件のネウロイを倒して!>
「了解した」
「あの様子じゃ、回避や妨害に精一杯で
まともに攻撃もできないって感じだしね…」
「よし、あたしらが先行する!
ルッキーニ、行くぞ!」
「うじゅ!」
シャーリーとルッキーニが先陣を切って
戦闘空域に侵入する。
キュィィィィン!
ビュンッ!ビュンッ!!
先まで交戦していた影とは別のモノが
近づいてきたのを察知したのか、
奇怪音を発しつつネウロイが目標を
シャーリーとルッキーニに変えてビームを放つ。
「ハルトマン、我々も続くぞ!」
「りょうか~い……ってトゥルーデ、あれ見て!!」
戦闘開始したシャーリーとルッキーニに続こうとした
バルクホルンとエーリカ。
その矢先、エーリカがネウロイの真下を指さす。
ネウロイが別の目標に狙いを定めると同時に
海面との距離が離れたのだ。
その真下――――
発光部分が唯一存在しない円盤の中心
――――に先まで交戦していた
ウィッチと思われる影が潜り込んだ。
その影が背面飛行の体勢になり、
自分にしか聞こえないであろう声量で
二言三言呟くと、
青く光るパイプが走るガントレットを装備した両腕を
右を縦に、左を横にした十字に組み合わせる。
ビィィィィィィ!!!
十字に組み合わせた両手の右手部分から
青白い無数の光の線の奔流が放たれ、
ネウロイの円盤中央に直撃する。
キィン!パァァァァン!!
放たれた光線がネウロイの表面をえぐり、
そのまま中にあったコアにも直撃し砕け散る。
それと同時に外側の胴体部分も白い欠片となって
砕け散った。
「なんだ、今の一撃は!?」
「あのウィッチの固有魔法……かな?」
「にしちゃあ凄い威力だったぜ、
ネウロイのビームとも違うみたいだけど」
「すっごいカッコよかった!!白い光がビーって!」
戦闘らしい戦闘をしなかったウィッチたちが
先の影が放った光線に
それぞれ思うところを述べていると……
『ご協力、感謝します……失礼ですが、
第501統合戦闘航空団の方々で間違いありませんか?』
ネウロイを倒した光線を放ったウィッチが
バルクホルン達のもとへと飛んできた。
そこで4人はそのウィッチの姿を見て驚愕した。
「(っ!!子供!?)」
「(ストライカーじゃないけど……
でも私たちみたいに飛んでるし…)」
「(ルッキーニと同い年ぐらい……か?)」
「(あれ?あたしと同じくらい?ぺったんこだし…)」
両腕と両足に装着された
黒い物々しいアーマーとは裏腹に、
その容姿と体躯はあまりにも幼かった。
身長はアーマーを含めても
ルッキーニよりも少しばかり低い。
自分たちの身内であるスオムス出身のウィッチよりも
さらに白い髪。
それを肩上で毛先に一切の乱れがない
ボブカットにしている。
顔は左眼部分のみが前髪で隠れているが、
見えている容姿だけ見ても
ルッキーニと同じくらい幼い。
服装はブリタニア空軍尉官が着ている服を
改造したものだろうか、前部分はその名残があるが、
袖は上腕の半分までしかない。
下は膝上まで隠れたタイプの
青いズボンを穿いている。
とても先までネウロイのビームの中を
苦も無く回避し続けた猛者とは思えない。
「間違いはない。第501統合戦闘航空団所属、
現戦闘隊長代理、
ゲルトルート・バルクホルン大尉だ。
貴官の所属と名を聞こうか?」
戦闘隊長代理であるバルクホルンが問いに答え、
件のウィッチへと問いを返す。
『申し遅れました。
ブリタニア空軍、対ネウロイ殲滅特殊部隊
“インビジブル”所属“ウィザード”、
ノアール・ルー少尉であります。
本日付で第501統合戦闘航空団に着任しました。
お見知りおきを…』
彼女……否、彼は敬礼し答えた。
「「「「ウィザード!?」」」」
4人が驚くのも無理はない。
―第501統合戦闘航空団・基地ブリーフィングルーム―
『トレヴァー・マロニー大将の命により
第501統合戦闘航空団へと派遣されました、
ブリタニア空軍、対ネウロイ殲滅特殊部隊
“インビジブル”所属、ノアール・ルー少尉です。
改めてよろしくお願いします』
時間にして1330(ヒトサンサンマル)に差し掛かる頃、
ブリーフィングルームにて
集合していたウィッチたちは
出撃したメンバーも含めて正午前と同じ位置にいた。
ただ一人の例外を除いて――――
「えー…出撃前に招集した追加人員の件ですが、
今紹介してもらったノアール・ルー少尉が
この501に着任するという案件だったの。
正式に着任する前に
ネウロイとの戦闘になるとは思わなかったけれど…」
『それは仕方がないでしょう。ネウロイが自分たちに
都合を合わせてくれるわけがありません。
むしろ自分にとっては、最前線の空気を
少しでも感じられたというだけで
僥倖と思いますが…?』
「そう言ってもらえると助かるわ…」
壇上に立つミーナとその横に立つ
ノアールが話している。
そのやり取りを見ている他のウィッチたちは
奇妙な感覚を覚えていた。
「(装備を外すと、より一層小さいな…)」
「(ルッキーニよりも背が低いってだけでも
驚きなのに、その上軍人で少尉でウィッチ……
いやウィザードか……)」
「(なんか会話の内容さえ無視すると、
姉と弟が話してるように見えるな~)」
「………う~ん…」
出撃した4人は改めて件のウィザード
―――ノアールを凝視する。
戦闘が終わって全貌を見ていた4人でさえも
いまだに慣れることができない。
ストライカーユニットと同じ働きをしていたであろう
あのアーマーが装備されておらず、
地に足を付けた状態でみると、
驚くことに部隊の中で一番最年少で低身長だった
ルッキーニよりも背が低い。
階級も同じとはいえ、むしろこの少年が
少尉ということに違和感を覚える。
対して、待機組で初めてノアールを見ることになった
二人はというと――――
「(見た目からしてルッキーニさんよりも年下……
リーネさんぐらいならまだしも…
こんな子供が戦場を…
しかもこんな最前線にだなんて……)」
「(こんな年の子で既に少尉……
ルッキーニちゃんの時もそうだったけど……
私、全然だな……)」
ペリーヌとリーネは初対面からして
すでにノアールの異常さに
驚愕なり負い目を感じていた。
そんな中、もう一人の待機組であり
“部隊長”でもあるミーナは――――
「(姿勢も表情もほぼ動かない。
前髪で片目しか見えていないけれど
目線も一切のブレもなく私を見ている。
軍人たらんと自分を律しているトゥルーデも、
人間である以上大なり小なり隙もある。
でもこの子の場合は、
ソレがほとんど感じられない……
こうは言いたくないけど、
人の形をした機械みたい……
今ここで私がワルサーを取り出して構えたとしても、
引き金に指がかかる前に取り上げられて
逆転される……
そんな光景が幻視できるくらいに……
事前に手渡されたプロフィールを
見た限りでは何の冗談かと思ったけど…
成程、上層部が送ってきただけの人物では
あるということね……)」
ほぼ全員が思っているノアールの異常さだけでなく、
優秀さと危険性を感じていた。
「では、今ここにいないメンバーを除いて
皆さん自己紹介をしたいと思います。まずは私から。
この部隊の隊長、
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。階級は中佐」
『ヴィルケ中佐…』
「ミーナでいいわ」
『ではミーナ中佐と…』
続いてノアールは壇上から見える
他のメンバーに目を向ける。
「ゲルトルート・バルクホルン。階級は大尉…」
「エーリカ・ハルトマン、中尉だよ。よろしく~」
『改めてよろしくお願いします、
バルクホルン大尉、ハルトマン中尉』
「シャーロット・イェーガー中尉だ。よろしくな♪」
「フランチェスカ・ルッキーニ……
ロマーニャ空軍…少尉だよ……」
『イェーガー中尉、ルッキーニ少尉、
改めてよろしくお願いします』
先の戦闘で共に帰還した4人に挨拶をしたノアールは、
続いて待機組の2人に目を向ける。
「ペリーヌさんとリーネさんは初対面だったわね、
自己紹介をお願い」
「はい。ペリーヌ・クロステルマン、
ガリア空軍中尉。お見知りおきを…」
「リネット・ビショップ軍曹です。
よろしく、お願いします…」
『クロステルマン中尉、ビショップ軍曹ですね……
よろしくお願いします』
ここまでの全員の名前を覚えるために呼んでいた
ノアールの声に抑揚は感じられなかった。
「では解散します。
バルクホルン大尉とハルトマン中尉は
執務室まで来てください。
先のネウロイとの戦闘報告をお願い」
「了解した…」
「お腹空いてるのにぃ……」
「文句言うな…」
「他の皆も各自任務に就いてください。
それからリーネさん」
「は、はい!」
「ノアール少尉に基地内を案内してほしいの。
坂本少佐に課されてる自主訓練の合間で
構わないけれど、いいかしら?」
「り、了解しました…」
各隊員に指示を送ったミーナは
最後にノアールに目を向ける。
「最後に、ノアール少尉…」
『はい…』
「上層部からの命令とはいえ、
私たちは貴方を歓迎します。
ですが、魔法力を持っているとはいえ貴方は男性で、
この部隊は基本的に女性ばかり。
部隊を預かる身として、このような例外は……」
『わかっています。異性間だからこそ起こる弊害、
ミーナ中佐が危惧しているのはその一点でしょう?』
「ええ…」
『自分もその部分には同意です。
ですので、自分はハンガー出口の一角に手配している
簡易コンテナを自室とし、
食事・就寝等はそこで行います。
衛生面に関しては、冷水などで済ませますし。
出撃や呼び出しがあった時のスピーカーの設置も
手配しています。
それから、先のビショップ軍曹の基地案内ですが、
上層部から資料を見てある程度把握していますし、
そもそも最低限の施設しか利用しない基地内を
案内されても
その案内をするビショップ軍曹の時間を
割いてしまうことになります。ですので――――』
「ノアール少尉!」
立て続けに飛び出す言葉を遮るように、
ミーナは静止の意味も込めてノアールの名を呼んだ。
『……何でしょうか?』
「確かに貴方の言う通り、異性間によるトラブルは
起こってはいけない事象よ。
でもだからと言って、一切のコミュニケーションを
破棄すればいいということではないのよ」
『ですが、事前に見たこの部隊での規則には……』
「確かに、必要以上の異性とのコミュニケーションは
禁じています…」
『自分もこの基地に駐屯している整備兵と同じく
男性である以上、そんな例外を許しては
部隊内の不平不満がいつか良からぬ事態を招くのは
明白…自分の具申は間違っているでしょうか、
ミーナ中佐…』
解散と言い渡された隊員たちも、
ミーナと論戦を繰り広げるノアールの狂気的――――
否、そんなものが一切感じられない論弁に
足を止めざるを得なかった。
そして、自分の返答を待って見つめ続けている
ノアールを前にしているミーナはというと――――
「(まるで子供の我儘……
いえ、彼の年齢からしてみればその通りなのだけど…
正論の子供の我儘に困らされる日が来るなんて……
上層部との交渉の方が
幾分かマシに思えてくるわね………)」
苦笑交じりの小さな溜息を吐き、口を開く。
「ではノアール少尉」
『はっ…』
「部隊長命令という名目なら、
貴方は指示に従いますか?」
『…今の自分はこの501に配属した身、
部隊長である貴女の指示ならば異存はありません…』
「よろしい、では言い渡します――――」
「ノアール・ルー少尉、
貴方の簡易居住スペースの申請を直ちに破棄し、
この基地内の居住スペースを使用すること!」
『はっ!………は?』
「並びに、食堂・浴室といった共有スペースを
使用することも許可します。
浴室に関しては、使用中の立て札を
設置するなどして対応しましょう」
『っ……それは――――』
「部隊長命令…よ?」
『っ……』
事前に従うと言ってしまった以上、
逆らうことはできないノアール。
彼自身もこのような事態は想定外だったのか、
了承の言葉がなかなか出てこない。
その時、全員が驚きの顔を浮かべる――――
今までほとんど表情が変わることのなかった
ノアールの顔が、年相応に戸惑い、慄いていた。
そんな彼の肩に、
ミーナが手を置いて視線を合わせる。
「ノアール君、前の部隊がどんなものだったのか、
私たちは知らないわ。
でもね、私たちは貴方が男だからと言って、
除け者にすることはしない。
共に戦ってくれるのなら、貴方は私たちの仲間よ」
『仲…間……』
「仲間なら、同じ環境に身を置いて
親睦を深めることも重要よ。
確かに規則も重要だけど、それを守りつつ
互いを知っていく。
それが信頼という形となって、
戦いの中で活かされてくるんだから……」
『……』
先の命令口調とは打って変わって、
弟を窘める姉のような口調で諭すミーナ。
“少尉”ではなく“君”と呼んだことも
その意思の表れだろう。
そんな彼女の言葉に、
ノアールは少しばかり目を伏せる。
『……幾ばくか腑に落ちない点はありますが…
命令ならば、従いましょう……』
「ええ、今はその言葉だけで十分よ。
というより――――」
ミーナは未だに残っている隊員たちを見て苦笑する。
「ノアール君が入るにあたって、
今後はそれを意識した生活を
心がけるようにってみんなに言うべきだったわね」
少しばかりのミーナのミスに
各々呆れ交じりの声が漏れる。
そんな、何処となく緩んだ空気にノアールは
首を傾げていた。
―基地内・執務室―
ノアールがミーナの命令通り、
基地内の居住スペースに
生活拠点を移すよう手配した後、
リーネに案内されて基地内の施設を
回っている最中――――
執務室では部隊長のミーナと、命令を受けて
足を運んだバルクホルンとエーリカの姿があった。
「ストライカーとは違う装備…ね……」
「ああ。ウィッチとウィザードの違いなのかは
分からんが、私たちの装備とは
何もかもが違っていた」
「アレはもはや甲冑って感じだったよね~…」
話の内容は、先の戦闘で見た
ノアールの戦力についてだった。
「私たちのように銃器を使わずに、
自身の魔法力だけでネウロイを倒す…」
「少しばかり聞いたが、
銃器の扱いが出来ないわけではないらしい」
「でも自分の戦闘スタイル的に銃器は
むしろ邪魔になるだけなんだろうね~。
まああんな光線ぶっ放せるんじゃ、
銃なんて豆鉄砲も同然だしね」
「光線?」
「私たちが戦闘態勢になった時、
ネウロイの隙を突いて奴が放ったんだ。
魔法力を光の奔流にして解き放つなど、
聞いたことがない…」
ノアールの見せた力の一端にミーナは思案顔になる。
「じゃあバルクホルン大尉、坂本少佐が
戻ってくるまでの間、ノアール少尉と摸擬戦を
何度か行って、彼の戦闘形態の特徴を
ある程度纏めておいてもらえるかしら?」
「了解した。都合がつくメンバーにその都度
相手をさせるという形でいいか?」
「そうね。そうすれば彼が
どのようにして対応するのかも見れるわけだし…」
「でもさ?ノアールの武装って
あの光線しかないんじゃない?
あんなトンデモ、私受け止めたくないよ~…」
「何を弱気になっているハルトマン!
ネウロイのビームと思えば同じことだろう!」
「それはそうだけどさ~……」
「それについては心配ないと思うわ」
ミーナの自信にあふれた言葉に、
バルクホルンとエーリカはミーナを見やる。
「あれほど用意周到に私たちから
距離を置こうとしていた彼が、そういう所に
気を回していないとは考えられないもの。
多分だけど、リーネさんに案内されている
今この時も、この施設での身の振り方は
こうしようだとか、
ここでの自分の立ち位置はこうであるべきだとか、
考えてるんじゃないかしら?」
「あぁ~……確かに、
なんとなくそんな感じがする……」
「規則を重んじる奴の姿勢は、
私としても好感が持てるが…
奴の場合は少々常軌を逸してるな…」
「えぇ~?トゥルーデにそう言われちゃったら、
ノアールもオシマイだねぇ~…」
「どういう意味だハルトマン!!
そもそもお前は規則を軽んじすぎだと何度も…!」
旧友達のやり取りに苦笑するミーナ。
だがその内心では、ノアールの動向に
思いを馳せていた。
「(私が命令を下した時に見せたあの戸惑った表情……
多分彼は、今まであらゆるしがらみに拘束されながら
今日まで戦ってきた。
そのしがらみがある中で身の振り方を矯正し、
自分に課してきた。
そうじゃなかったら、あんな淡々と自分を
人間とも思っていない口調で
自分を縛ったりはしない。
それが
突然緩くなったことで戸惑ったからこその
あの表情だったのね…
無意識のうちに、そのしがらみが
自分の心の拠り所になっているなんて…
なんて可哀そうな子……)」
そして、ミーナは部隊長として
更なる先へと思考を巡らせる。
「(上層部が……“あの男”が
どうして彼を送ってきたのかはわからない…
スパイとしてなのか、それとも別の理由なのか……
いずれにしても、今後も上層部の動きを探りつつ、
彼をごく普通の人間になれるように
導いてあげないと……)」
年齢にそぐわない、
軍人として完成され過ぎている少年……
幼いとはいえ異性にこれほどまで
深入りしようとするとは、ミーナ自身も
自分の行動に驚く。
だが……彼女はもしかしたら、
無意識のうちに気づいていたのかもしれない……
とてつもなく深く暗い闇を……