Unknown Wizard Chronicle   作:シノギ

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前話とタイトルが似通っていることから
お察しかと思われますが、
オリジナル回後編です。

次回から本編へと繋がっていきます。

タグでも表記しておりますが、
本編に繋がるに伴い、
本編と同じ描写で展開される場面が
目立つようになるので、
あらかじめ本編を視聴しておくか、
視聴しつつ本作品を読んでいただくか
読者の方々それぞれにお任せします


第2話「孤高の魔法使い(ウィザード)

501統合戦闘航空団の基地には

隊員たちが寝泊まりする男子禁制の宿舎がある。

 

だが昨日よりこの宿舎には例外となる存在が

入居することになった。

ソレは――――

 

 

 

 

『………眠る前に見た天井だ……

あれ?自分はなんでこんなセリフを?』

 

 

 

起床ラッパが鳴るよりも先に目を覚ましていた……

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「え?ノアール君が起きてこない?」

 

「…はい。人数分の朝食は用意されてて、

最初見たときは気づかなかったんですけど、

遅れて来たサーニャちゃんとエイラさんの分が

無くなっても一組余ってたからおかしいな

って思ったら…」

 

 

起床ラッパが鳴り渡り、それぞれの部屋で

身だしなみを整えたウィッチたちは

各々のペースで食堂に赴き、

今回は食事担当の職員の用意していた

朝食をとっていた。

 

そんな中、リーネが朝食を乗せていたトレーが

一つ余っているのに気づきミーナに指摘する。

 

 

「おかしいわね。シャーリーさんは今日もハンガーで

ストライカーの調整のためにって

私たちより先に朝食を済ませてたし……。

遅れてくるとはいえルッキーニさんも

食事時は必ず来るし……」

 

「昨日の今日だが、あの規律に対して従順にを

常としているような奴が…寝坊などという

普通の子供のような失態をするか…?」

 

「いやトゥルーデ、一応言っとくけど

ノアールってばまだ10歳だよ?

ルッキーニより年下なんだよ?

そんな凡ミスなんて可愛らしい欠点じゃん。

私みたいに♪」

 

「お前の場合は年不相応だから却下だ……」

 

「ご自分の朝食があることをご存じないのでは?」

 

「まさかそんな……」

 

 

 

「なあ、みんなが言ってる

“ノアール”って誰なんダ?」

 

「ルッキーニちゃんより…年下って……」

 

 

そんな中、昨日のブリーフィングルームにおける

緊急招集とノアールの紹介の際に来ていなかった

二人が会話に入る。

 

 

一人目はプラチナブロンドの長髪と

独特のニュアンスの口調で話す、スオムス空軍少尉の

エイラ・イルマタル・ユーティライネン。

 

もう一人は、銀髪のボブカットで寝起きなのか

少しぼんやりした顔をした501統合戦闘航空団の中で

唯一のナイトウィッチ、

アレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク。

部隊の皆からは愛称で「サーニャ」と呼ばれている。

階級はオラーシャ陸軍中尉。

 

二人は昨日は夜間哨戒の予定だったが、

予報が外れて出現したネウロイが倒された

ということもあり、

予定が変更されて昨夜は監視所からによる

監視のみが行われた。

 

ちなみに夜間哨戒が行われる際、

朝食を済ませた後は早々に部屋に戻って

魔力の補充に当てている。

 

 

「そういえば、エイラさんとサーニャさんは

知らなかったわね。実は昨日から、

追加人員がこの部隊に派遣されてきたの」

 

「しかも魔法力を持った男の子、ウィザードだよ♪」

 

「魔法力を持った…男の子…?」

 

「ウィッチの歴史とかで魔法力を持った男も

かつてはいたって聞いたことあるケド……

まさかホントにいるとはナ……」

 

「ああ。昨日の戦闘のみだが、

奴はネウロイと渡り合えるほどの

実力を有しているのは確かだ…

この後にでも訓練や摸擬戦を見て、

詳しく見る予定なんだが……」

 

 

 

 

 

 

 

「みんなぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

その時、食堂の扉が突然開き

ルッキーニが鬼気迫る様子で飛び込んできた。

 

 

「ど、どうしましたのルッキーニさん!?」

 

「あ、あのねあのね!!

さっきシャーリーの所に行ったら

ハンガーの外にいたノアールがね!!」

 

「ノアールがハンガーに?」

 

「それでどうしたの?」

 

「ええっとええと……

なんて言ったらいいのかな……?

と、とにかく来て!!」

 

 

充分な説明もないままルッキーニは

食堂を飛び出していった。

 

 

「なんだったんだ?」

 

「ルッキーニがあそこまで慌てる姿なんて

早々無いんだナ…」

 

「とにかく、行ってみましょう。

私とバルクホルン大尉、それから紹介も兼ねて

エイラさんとサーニャさんも一緒に来てください。

後の皆さんはそれぞれ持ち場についてください」

 

「ハルトマン、一応釘を刺しておくが…

このあとノアール少尉の訓練と摸擬戦をする予定だ。

二度寝は許さんからな?」

 

「わかってるよ~、それもあったから

今日も熱心に起こしてきたんでしょ……ふぁぁぁ…」

 

 

エーリカのあからさまな欠伸に

まったくと呟いたバルクホルンは

ミーナやエイラ、サーニャと共に

ハンガーへと向かった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「おいノアールよせって!!危ないぞ!!」

 

 

 

ハンガーに着いた一行が耳にしたのは

シャーリーの注意する声だった。

 

声の方向に目を向けると、シャーリーと共に

ミーナ達を慌てて呼びに来たルッキーニが

時折両手で眼を隠すような仕草をしていた。

 

 

「リベリアン、どうしたんだ?」

 

「さっきルッキーニさんが

慌てて私たちを呼びに来たのだけど…」

 

「バルクホルン!ミーナ中佐たちも!

頼む、ノアールのアレやめさせてやってくれ!!」

 

 

シャーリーが指さしていたのはハンガーの外、

海に突き出た滑走路との間にある

広大なスペースだった。

そこにあった光景とは――――

 

 

 

 

 

ブゥゥゥン!!

 

 

 

 

 

基地職員や時たま免許持ちのウィッチが運転する

ジープがハンガー外のスペースを走っている。

運転しているのは着ている服装から

男性職員の一人だろう。

そのジープが走る先にいるのは――――

 

 

 

 

ジープに向かって突進しようとしている

ノアールだった。

 

 

 

「ど、どういうこと!?」

 

「これはいったい!?」

 

 

ミーナやバルクホルンも予想外の光景に

驚きを隠せない。

 

 

「危ない!!」

 

「いや大丈夫ダ、アイツは避ける…」

 

 

サーニャの心配する声に、

固有魔法“未来予知”を持つエイラが落ち着かせる。

 

 

 

 

 

『たぁぁっ!!』

 

 

 

 

 

ノアールが高く飛び、前方宙返りをしている間に

ジープがその下を通り過ぎる。

 

 

その後も、迫りくるジープをバク宙や

側転といった技で回避し続け、

何度目かのラッシュが終わった後、

ノアールが待ったをかけた。

 

 

 

『ふぅ……もう結構です。ありがとうございました』

 

「い、いえ……あの、本当に大丈夫なんですか?」

 

『問題ありません。こちらこそ、

無茶な依頼を受けていただきまして…』

 

「そんなことは……訓練のお役に立てるなら、

こちらとしても本望です。では……」

 

 

ジープを運転していた男性職員に

お礼を述べるノアール。

男性職員は安心した様子でジープを運転し、

指定の駐車場へと向かった。

 

 

 

「ノアール少尉…」

 

『っ!?おはようございます、

ミーナ中佐、バルクホルン大尉。

それから……そちらは…?』

 

 

 

ミーナの呼びかけに、ノアールは敬礼して挨拶する。

バルクホルンにも挨拶したところで、

隣のエイラとサーニャの姿を目にし、首を傾げる。

 

 

「昨日は夜間哨戒のために寝ていた、

エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉と

サーニャ・リトヴャク中尉よ」

 

『なるほど。初めまして、ノアール・ルー少尉です。

昨日付で501統合戦闘航空団に着任しました。

よろしくお願いします』

 

「あ、ああ…ヨロシク……」

 

「よろしく……」

 

 

先までジープを相手にアクロバットな動作でもって

応戦していたにもかかわらず、

何事もなかったように自己紹介をするノアールに

エイラもサーニャも若干表情を引きつらせていた。

 

 

「で。ノアール少尉、さっきのアレは

どういうことだ?」

 

『アレ…とは?』

 

「男性職員がジープを運転して、

貴方にぶつかろうとしていたでしょう?

それについての詳しい説明をしてほしいわ」

 

 

誰一人として予想していなかった事態に対して、

渋面を隠さないバルクホルンとミーナ。

それもそうだろう。

ネウロイに対して唯一対抗できるウィッチを、

一般職員がどんな形であれ手にかけるなど

重罪も重罪だろう。

たとえ例外ともいえるウィザードといえど、だ。

もちろん、部隊長であるミーナによって

基地に在籍する全職員にノアールの着任は

通達済みである。

 

 

 

『あの男性職員に対しての罰則は見当違いです…

先ほどの件に関しては自主訓練のために

必要なことだったからです…』

 

 

 

そう述べるノアールにミーナたちは

怪訝な顔を浮かべる。

 

 

「自主訓練だと!?

あんな危険極まりないアレが訓練だというのか!?

一歩間違えれば命に係わるんだぞ!?」

 

 

滅多に見せない怒りの剣幕で捲し立てる

バルクホルンに対し、

ノアールは全く動じた様子を見せていない。

それどころか――――

 

 

『バルクホルン大尉、

自分たちが相対しているのはなんですか?』

 

「な、なに?」

 

『自分たちが倒さなければならない敵は誰ですか?』

 

「何を今更……もちろんネウロイだ!

国を奪い、家族を引き裂き、

あらゆるものを壊し尽くす災厄――――ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんな奴らと戦うにあたって、

今更“車の突進ごとき”で

臆する必要がどこにあるんでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

――――この言葉に

さすがのバルクホルンも息を呑んだ。

 

 

『ネウロイとの戦いだって、危険極まるどころか

一歩間違えれば命を落とします。

最前線であるここで戦う貴女方なら

ソレは重々心得ているはずです。

 

自分もそんな場所で戦う以上、

それ相応の訓練をした方が最適だと考慮して

職員の方に頼んでジープによる訓練を

実施したのです。何か問題でも?』

 

 

 

ノアールの指摘は正鵠を得ている。

 

実際、ウィッチにかかればネウロイなんて

難なく倒せる、と思う人種が世界には

ごまんといるだろう。

 

だが、実際に相対している彼女たちにとっては、

生と死が隣り合わせの世界なのだ。

 

シールドがあるからといって魔法力は無限じゃない…

 

その身を預けているストライカーも

魔法力がなければ動かせないし、

ネウロイからの攻撃以外の不調によって

戦闘不能になったりもする……

 

故にウィッチたちは戦いにおいては

決死の覚悟を持って臨まなければならないのが

常である。

 

もちろん、ベテラン格である今この場にいない

エーリカを含めたミーナたちカールスラント組も、

夜間哨戒という特殊な環境下で飛んでいる

サーニャやエイラも、それを心得ているのは確かだ。

 

 

が、彼ほどその心得に重きを置いて臨む者は

どれほどいるだろうか?

ウィザードという例外を除いても、

ましてや10歳の子供が……である……

 

 

 

 

常在戦場の心得――――といえば聞こえは良い。

 

 

 

 

いかにも坂本が気に入りそうな胆力の持ち主だ、

とミーナは内心思った。

 

 

 

「ノアール少尉、

貴方の訓練に対しての心構えは理解できました。

 

ですが、それを踏まえても部隊長である

私への断りもなく、第三者から見れば

誤解を生みかねない訓練を実施したことは

看過できません。

 

よって今後、自主訓練をする際は

具体的な内容を書面などで纏めて私に提出し、

私の許可が下りてから実施すること。いいわね?」

 

『……了解しました。申し訳ありません…』

 

 

ミーナの注意にノアールは頭を下げる。

 

 

「ところでノアール、お前朝食はどうした?

食堂に用意してあったお前の分が

まだ残っていたんだが…」

 

『え?それでしたら自前の携帯食料で――――』

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

 

 

 

ノアールがその問いに答えを言い切る前に、

バルクホルンはノアールの両手どころか

両手首を掴む。

 

 

『バルクホルン大尉、

よろしければ手の力を緩めていただけると……

段々指先の感覚がなくなってきているのですが……』

 

 

ノアールの指摘通り、バルクホルンの掴んでいる

彼の手首から先が段々白くなっていっているのだ。

それもそのはず……

今のバルクホルンは使い魔の耳と尻尾が出ている状態

――――魔法力を発動させているのだ。

 

バルクホルンの固有魔法は

身体強化の部類である“怪力”。

彼女が部隊の中で唯一MG42を

両手で構えて戦えているのは

この固有魔法のおかげである。

 

そんな彼女が本気になれば、

子供の手首なんて簡単に砕いてしまうだろう。

それを血流を止める程度に留めているのは

彼女の配慮だろう。

 

 

「お前はハルトマンとは別ベクトルで

世話のかかるやつだな……」

 

『ハルトマン中尉と、別ベクトル?』

 

「確かに戦場において充分な食料が

確保されないケースは……度々ある…

その心構えは確かに大切なことだ、

私も認める。だがなっ!!」

 

 

 

バルクホルンは片手だけノアールの手を開放すると、

そのまま引きずるようにしてハンガーの出入り口に

向かって走る。

片手だけ繋がれたノアールは

バルクホルンの身体強化の脚力によるスピードや

身体の軽さも相まって最早地面から

浮いてしまっている。

 

 

 

「逆に食べれるときはしっかり食べて英気を養う!!

用意された食事は残さず食べる!!

これも軍人として重要な心構えだぁッ!!」

 

『なぁ~るぅ~ほぉ~どぉ~……』

 

 

 

と、そんなバルクホルン達の声が遠くから

流れてくるのを聞きながらミーナたちは見送った。

 

 

 

「あはは……確かに、エーリカとは別ベクトルで

世話のかかる子ね……」

 

「ミーナ中佐、あの子本当に10歳なんですか?」

 

「言動だけ見れば、大尉以上の堅物軍人

って感じだナ……」

 

 

表情を引きつらせるだけだったサーニャとエイラも、

最終的には奇異な眼でノアールを見ていた。

 

 

「その印象はご尤もよ。

私も初めて彼にあった時はそう思った。でも……」

 

 

 

ミーナは思い返す――――

 

 

 

 

 

ある程度の自由を許されて、

年相応の戸惑った表情を見せた彼の顔を……

 

 

 

 

 

「とにかく、しばらくは長い目で見てあげましょう。

悪いんだけど、二人もそのつもりで

彼のことを見てあげてくれないかしら?」

 

「わかっタ」

 

「わかりました…」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

その後、501部隊の半数による

ノアールの矯正活動が始まった。

え?ネウロイに対しての訓練は、ですって?

勿論それも行いつつである……

 

 

まず食事に関しては、

非常時を除き携帯食料による栄養摂取は控えること…

人数分の食事は用意されているので、

必ず食堂に赴いて食べること…

 

自主訓練に関しては、命令通りミーナに

訓練内容をまとめた書面が提出されたが、

その殆どが常軌を逸したものだったため

軒並み却下された。

 

いくつか容認してもいい内容のものもあったが、

ミーナ監視の元実施した結果、

危険と判断され却下された。

 

“ネウロイを相手にするならこれくらいは……”

云々とノアールは弁明したが、

部隊長命令として無理やり納得させた。

 

 

ちなみに共同訓練に関しては、ノアールだけでなく

他のウィッチ達も苦労する羽目になった。

 

 

 

 

彼のストライカーユニットと同じ役割を司る装備

――――魔法力増幅飛行脚・手甲。

彼はこれをSUA(ストライカーユニットアーマー)と呼称している。

 

 

これはストライカーユニットによってもたらされる

浮力や推進力を脚部だけでなく

両腕部にも分配することで、

通常のストライカーユニットでは不可能な動きが

可能になったものである。

 

ストライカーによる飛行では描けないような旋回力、

急制動から別方向に向けての急加速、

急上昇や急降下など容易くやってのけてしまう。

 

もっと言えばホバリング状態を維持したまま

微動だ一つせず上下左右前後に

身体を向けることもできる。

ちなみに上下逆さまでも同様である。

 

だがここまで自由度がありすぎると弊害も起こる。

それは――――

 

 

 

 

「おいノアール!ロッテ組んでるのに

一番機を追い越す奴があるか!!」

 

『す、すいませんイェーガー中尉!』

 

 

そう言って自分の後ろを飛ぶ

シャーリーに謝罪するノアールは飛行速度を落とす。

 

ウィッチのネウロイに対しての

フォーメーションはロッテ

――――つまり二人編隊で行われる。

他にも三人編隊のケッテ、

ロッテ同士を合わせたシュバルムというのもあるが

これは余談である。

 

501部隊も同様に、

基本的相性のいい二人にロッテを組ませて

戦闘を行うのが常だが、

ノアールはどのウィッチと組ませても

芳しい結果とはならなかった。

 

 

それもこれも全てSUAが原因だ……

 

 

ストライカーユニットで出来ないことを可能にした

装備に、ストライカーユニットで同様の動きで

ついていけというのは土台無理な話だ。

ならば必然的にノアールはストライカーユニットに

合わせた飛行を心がけねばならない。

 

だがノアールはソレをことごとく失敗していた……

 

 

先のシャーリーのように

一番機を追い越してしまったり…

 

一番機の旋回に合わせて旋回しても、

角度が急すぎて旋回を終えたばかりの一番機と

ぶつかりそうになってしまったり…

 

 

と…散々な結果となってしまった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

訓練の監督を務めていたバルクホルンが

ミーナへの報告と共にノアールの戦闘における

ポジションを告げる。

 

 

 

「奴は遊撃及び、

固定砲台に従事した方がいいかもしれん……」

 

「そう……協調性に欠ける子だとは思ってたけど……

まさか戦闘スタイルにまで

その性分が浸透しているなんて……」

 

 

バルクホルンからの報告と書面を見て

溜息を吐くミーナ。

 

 

ミーナがバルクホルンから聞いていたのは、

訓練の報告だけではない。

ミーナの許可によって利用できるようになった

共用スペースにてノアールが他のウィッチたちと

どのように交流しているのかということも

含まれている。

 

だがその報告内でも、

喜ばしい結果とはならなかった…

 

「更衣室や風呂は例外として、

奴は基本的に共用スペースを

休憩がてらに利用することをしないんだ……

 

リベリアンやルッキーニ、ハルトマンが

小腹が空いたと言って食堂へ来ることもあるが…

奴は朝昼夕と決まった時間に出される食事以外に

食堂へ来ることはない…

 

ミーティングルームに置いてある

ちょっとした娯楽用品に

手を付けている様子も見られない…

 

訓練で使われるハンガーや滑走路以外で

奴の姿を見た者は男性職員ですら

ほとんどいないらしい……」

 

「それでも、一緒に訓練するときの移動の合間に

何か話したりはするはずでしょう?」

 

「確かに話はする。だが奴はこちらからの質問に

答えてはくれるが、奴の方から話を振ってくることは

絶対になかった……

あの陽気なリベリアンでさえ、

途中から気を遣うように話しかけるのを

やめるくらいだからな…」

 

「そう……これは難題ね……」

 

 

交流はあっても必要最低限。

尚且つ軍務に関すること以外の

コミュニケーションが一切無い。

プライベートな姿を見せることがないため、

ソレを話のタネに本人に話しかけることもできない。

 

 

これでは着任当初にミーナが下した命令も

意味を成さない……

当人はミーナの配慮した厚意に

甘んじているつもりなのだろうが、

そこには一切の遊びというものがない……

 

軍務もウィッチとの交流も、

それらすべてを作業のように

淡々とこなしているにすぎない……

 

ミーナは当初の予定とはあまりにも

かけ離れた結果になって、

改めてノアールの中に根付いた

“軍人たらん”とする信念に呆れを覚えた。

 

 

「そういえば、摸擬戦に関してはどうだったの?」

 

「ああ。奴を遊撃や固定砲台にするべき

と判断した要因がソレなんだ。

それになんというか…ミーナの予想通り、

奴は我々と摸擬戦をする時の備えも

しっかり整えていたようだしな…」

 

 

 

ノアールとの一対一の摸擬戦は、

その都度都合がいいメンバーで行われた。

相対するウィッチの装備はそれぞれの得意とする

銃器の構造をし、訓練用のペイント弾を

撃てるようにしたものである。

だがノアールは装備の都合上、

銃器を満足に扱えないという欠陥があった。

このままではペイント弾を用いた摸擬戦は

不可能とされたが……

 

 

 

「魔法力を圧縮した玉?」

 

「そうだ。奴曰く、魔法力の光線を放つモーションで

同じように撃てるらしい。

魔法力の玉自体も調整次第で、

被弾してもストライカーへの損傷はなく、

身体に当たっても衝撃があるだけで

怪我をすることもない。

 

摸擬戦前に実物を見せてもらったが、

ソフトボールくらいの弾力だった。

実際に食らったメンバーも、

被弾しても問題なかったらしい」

 

「そう。それで戦績は?」

 

「現時点でミーナや坂本少佐を除いた全員が

それぞれ一回ずつ奴と摸擬戦を終えた。

奴の動きは同じウィッチを相手にする時とは

まるで容量が違っていたよ…

私やハルトマン、エイラが1勝、

ペリーヌやリネット軍曹、リベリアンやルッキーニ、サーニャが1敗だ」

 

「まずまず……といったところね……」

 

 

ベテラン組のエーリカやバルクホルン、

未来予知による回避能力の高いエイラに勝てないのは

仕方がないだろうが、

その他のメンバーに勝利しているというのは、

前の3人に負けたことと比較しても

プラスマイナスゼロと言ってもいいだろう。

 

 

「彼の飛行センスから遊撃というのはわかったけど…

固定砲台という判断はどういうこと?」

 

「奴の魔法力による光線は、

範囲こそ狭いが精密性は申し分ない。

しかも範囲が狭いにもかかわらず、

注ぎ込む魔法力の調整次第では

とてつもない威力を発揮する。

 

しかも我々が扱っている銃器と違って、

魔法力がある限り、最大威力の光線を放つとき以外は

リロードするタイムラグも起こらない。

 

まあその分飛ぶための魔法力が少なくなるのも

事実だが…ソコは奴の塩梅次第だろう。

 

とにかく結論を言えば、リネット軍曹の精密性と

サーニャの一撃の破壊力を合わせて、

且つ連射重視か単射重視かを選択できる

フレキシブルな戦力を有しているということだ」

 

「それは確かに、遊撃と固定砲台と呼ぶに

ふさわしい戦力ね」

 

 

汎用性に長けた戦力というのは

この戦時下において貴重なものだろう。

だがその分、ある意味一点に特化した戦力よりも

扱いが難しい点がある。それは――――

 

 

 

「満遍なく戦力があるに越したことはないけど……」

 

「ああ。逆に誰のどのポジションの

代役を務められるかという点では

イマイチ決めあぐねている……。

遊撃や固定砲台が妥当と判断した

私が言うのもなんだが……

奴は戦力の中でも宙ぶらりんの状態だ……」

 

 

私生活のみならず、戦闘においても

連携をとれるポジションに収まらない。

ある意味、リーネが入隊した時よりも

厄介な事態なのは確かだ。

 

 

「わかったわ。二つの意味に関しても、

ノアール君が部隊の皆と連携できるように

対策を考えてみるわ。大尉は引き続き、彼の訓練と

摸擬戦を検証してどのポジションに

彼を置くことができるか検討してみて」

 

「了解だ」

 

 

 

バルクホルンが執務室から出るのを見送ったミーナは、

“とある人物”に連絡するために

基地の管制塔へと向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

<はっはっはっは!それはまたなんとも…

優秀なのか厄介なのか、

掴み所のない新人が入ったものだな>

 

「笑い事じゃないわよ美緒。

貴女も彼と相対すればわかるわ…」

 

 

501基地の管制塔。そこにある通信機の前で

ミーナは疲れ果てた顔をしつつ通信相手に応対する。

 

現在繋がっている通信相手は

現在ブリタニアに向かって来ている遣欧艦隊の一隻、

戦艦赤城――――

そこに乗船している501における戦闘隊長、

坂本美緒少佐だ。

 

 

<それにしてもその新人ウィッチ……

いやウィザードの…ノアール少尉だったか?

常在戦場の心得を常としているその姿勢は

私としても好感が持てるが、

些か堂に入りすぎている気もするな…

齢10歳……ルッキーニよりも年下なのだろう?>

 

「私もそう思うわ。最初の印象は

完成され過ぎている軍人か、軍人という概念が

服を着て歩いているかのようだった。

 

でも……本当に本当の時々だけど……

年相応の表情を見せる時もある…

まあ、それもすぐに掻き消えてしまうのだけど……」

 

 

ミーナは、話のみとはいえ坂本が

ノアールに対して抱く印象が

予想通りであったと思うと共に、

坂本でさえも感じたノアールの年不相応な異常性に

対して同意する。

 

 

<まあ、ソレは追々矯正していくとしてだ……

私としてはミーナが軒並み却下したという自主訓練の

カリキュラム、その内容を是非とも見てみたい♪>

 

「一応言っておくけど、

間違っても参考にはしないでね?

あのトゥルーデもやり過ぎと評価するほどの

内容なんだから…」

 

<わかっているさ。

だが、たとえ実践することはなくとも、

その自主訓練を課すことでどういう所を

鍛えてきたのか、という話のタネには

なると思わないか?>

 

「ぁ!」

 

 

ミーナはハッとした。

考えてみれば、自分は提出された訓練内容が

過激すぎるという点でしか見ておらず、

ソレが彼のこれまで費やしてきた軌跡――――

言うなれば彼の根幹に繋がる手がかりという点では

見ていなかった。

 

こればかりは坂本に一本取られたと言う他ない。

 

 

「盲点だったわ。彼の性格からして、

いきなりプライベートな話をするよりも、

こういう内容から話をしていけばいいってことね…」

 

<そういうことだ。私としてはどちらかというと

そういった内容の方が話しやすいという所も

あるから、他の皆にもそういったところを

意識して話してみるといいと提案してくれ>

 

「ええ、そうしてみるわ…」

 

 

一度二人の会話が途切れる。

 

 

<ではなミーナ。予定では明日の日没ごろに

基地に着くことにしている>

 

「どこか寄る予定でもあるの?」

 

<宮藤博士の研究室があった場所へ……

連れて行ってほしいと言っている奴がいてな……>

 

「貴女が言っていた有力候補……

宮藤芳佳さん、ね?」

 

<ああ。軍に入る気はないと

頑なに拒否されてはいるが…

それでも宮藤博士のことを知るために

単身ブリタニアへ渡ると決意した

アイツの心意気に押されてな……>

 

「でも美緒……いずれはわかることよ?

宮藤博士は…もう……」

 

<ああ。だがあの日のことを知っていた上で、

アイツをここまで連れてきた責任は

取らなければならない……

どんな言葉を投げ掛けられようと…な……>

 

 

 

501部隊における二柱による通信はそこで終わった。

 

 

 

 

 

 

遣欧艦隊の帰還、それはこの物語の始まりの合図……

 

 

だが、本来の歴史においては存在しなかったモノが、

この物語に交じり合うこととなった……

 

 

 

 

唯一魔法力を持った少年ウィザード

――――ノアール・ルー。

 

 

 

 

歪な存在の交じった物語は

ついに始まりへと至った……

 

 




前書きでもお伝えしましたが、
これにてプロローグ扱いのオリジナル回は
終了です。

次回は本編における第1話と第2話を
お送りします。

以降の話は本編の話と同じ内容で
進めたいと思います。
その合間にオリジナル回を
また入れるという形にします。


今回に関しては、元ネタをご存知の方は
いらっしゃるでしょうか?

特にジープの部分と
十字に組んだ両手から放つ魔力弾という部分

が、それに当たります。

あとはノアールの戦場における心構え
の描写に関しては


幼●戦記の●-ニャ・フォ●・デグ●チャフ


をイメージしています。
タグに追加した方がいいでしょうか?
あれほどのミリタリー要素マシマシな
内容なんて書けないのに……
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