Unknown Wizard Chronicle 作:シノギ
時系列で言うならば第1話の後半から
第2話の最後までといったところです。
尚、原作と描写が大差ない場面を
ダイジェストで描写する部分が含まれます。
そのため、あらかじめアニメ視聴をするか、
視聴しつつお読みいただけると幸いです。
主人公であるノアールのプロフィール
に関しては、もうある程度501部隊のウィッチ達と
打ち解けた辺りで投稿する予定です。
というのも、明らかにもうちょっと話が進まないと
公表できない情報が多々あるためです
しばらくお待ちください
欧州ブリタニア、第501統合戦闘航空団基地、
本日も晴天なり……
燦々と輝く太陽とそれを遮る雲がほとんどなく、
岸辺に打ち付ける穏やかな波の音も相まって、
戦時下という状況でなければ
実に安穏とした時間が流れている今日この頃…
501部隊基地のハンガーの中から延びる
滑走路の線から外れたスペースに
二つのデッキチェアとその間に飲み物が乗った机が
置かれていた。
そのデッキチェアの上には
タンキニタイプの水着を着たルッキーニと、
上がビキニ、下は前が際どい所まで開くタイプの
ズボンを装備したシャーリーが寝そべっていた。
誰が予想するだろうか?
いかにも日光浴をしているようにしか見えない二人を
見て、“戦闘待機中”などと……
「ハァ~イ、おかえり♪」
その時、哨戒を終えて戻ってきたサーニャとエイラが
滑走路へと降りてきた。
シャーリーがデッキチェアから身体を起こして
手を振ると、二人も振り返して
ハンガーへと向かった。
するとそこに近づいてくる影が一つ――――
「相変わらず緊張感のない方々ですこと。
そんな格好で……戦闘待機中ですわよ!」
「なんだよ、中佐から許可貰ってるし…
観測班からも、あと20時間は敵も来ない
って言ってるし。
それに、見られて減るもんでもな~い♪」
日傘をさして不謹慎な態度の
シャーリーとルッキーニに
注意したのはペリーヌだった。
それに対し、誰に見られようがお構いなし
といった様子のシャーリー。
事実、彼女のプロポーションは部隊内で
トップクラスのレベルで、“グラマラス・シャーリー”
という通称で呼ばれており、
当人も気に入って時々名乗っている。
「ペリーヌは減ったら困るから
脱いじゃダメだよ~♪」
「大きなお世話です!まったく……
まもなく坂本少佐がお戻りになられます!
そうしたら、真っ先に貴女方の
緩み切った行動について進言させていただきます!」
「うわっ!告げ口だよ……」
「ペッタンコのくっせに~」
「お黙りなさい!……っというか貴女にだけは
言われたくありませんわ!!」
ペリーヌのヒステリックな叫びを他所に、
シャーリーはふと思い出したことを呟く。
「そういえば…今朝ノアールのやつ、
朝食の後すぐに基地を出たみたいだけど、
ペリーヌ何か知らないか?」
「人の話をっ……!んんっ!ノアールさんなら、
ブリタニア本国から呼び出しを受けて
出たそうですわよ!
なんでも、彼の装備の調整とか…」
「ああアレな。前にノアールのやつに
見せてくれないかって頼んだんだけど、
“実戦に投入したとはいえ、試験運用中な上に
軍の機密に触れるから”って断られたんだよなぁ~…」
「はぁ……そんなものを背負わされて
戦っているのが、僅か10歳の子供だなんて……
嘆かわしい限りですわ……」
ペリーヌの憂いを帯びた顔を見て、
目を丸くするシャーリーとルッキーニ。
「へぇ…ペリーヌでもそんな顔するんだ?」
「っ!!それはいったいどういう――――」
ウゥゥゥゥゥーーーッ!!!
その時、基地周囲に警報音が鳴り渡る。
「敵っ!?」
「まさか…早すぎますわ…!?」
シャーリーとルッキーニが
デッキチェアから飛び起きる。
ペリーヌも観測班の予報よりも明らかに早すぎる
ネウロイ出現の報せに驚きを隠せない。
3人はすぐさまハンガー内へと走る。
シャーリーとルッキーニは風呂場と隣接した更衣室で
着替えてからトンボ返りでハンガーに戻る。
戻ったころにはバルクホルンやリーネ、
ペリーヌがストライカーを穿いた状態で
発進準備を整えていた。
「ミーナ中佐からの命令だ!私とリネット軍曹、
ルッキーニ少尉とクロステルマン中尉は出撃!
遣欧艦隊の救援に向かう!!
リベリアン、お前は待機だ!!」
「ラジャー!」
「あたしだけ待機かよ……」
「つべこべ言うな!遣欧艦隊の現在位置からして
少しばかり時間がかかる。
ある程度の戦力を残しておかなければ、
我々の方が不意を突かれては元も子もない!」
「わかってるよ!」
シャーリーの“なあなあ”な返事に
不満顔になるバルクホルンだが、
優先順位は救援であると自分に言い聞かせ、
ルッキーニとペリーヌ、リーネの準備完了と共に
基地を飛び立った。
その直後――――
<救援部隊の皆、よく聞いて!>
「ミーナ中佐!?」
「どうしましたの?」
バルクホルン達4人のインカムに
ミーナからの通信が入った。
<早朝からブリタニア本国の軍上層部に出向中だった
ノアール少尉が、遣欧艦隊の救援のために
出撃したと連絡が入ったの!>
「なんだって!?」
<上層部にも連絡が入って、
直接命令を受けて出撃したそうよ。
指揮権はこちらに移すと言っていたけど……>
「出撃させておいて指揮権は丸投げとは、
何を考えている!?」
<連絡によれば、あなた達より先に
遣欧艦隊と合流できるそうだけど、
戦力的に不利なのは変わらないわ。
なるべく早く合流してあげて!>
「了解した!」
通信を終えたバルクホルンは今一度全員に振り向く。
「聞いての通りだ!護衛の坂本少佐に加えて、
ノアール少尉が遣欧艦隊と合流するそうだが、
戦力的不利なのは否めない。なるべく急ぐぞ!」
「「「了解!!」」」
◇◇◇
閑話休題
時は遣欧艦隊からの救援の報せが届く
数分前に遡る――――
『……スゥゥ~…………フゥゥ~………』
ブリタニア本国、軍司令部の施設内に設けられた
輸送機等を格納するスペース。
その広大なスペースのほぼ真ん中にノアールは
瞑目して立っていた。
ゆっくりと息を整えている彼の周囲には
輸送機等の燃料が入れられていた空のドラム缶が
不規則な間隔で置かれている。その数、凡そ20。
その側面には、標的を示す丸い円が描かれており、
その中心にはネウロイのコアが描かれていた。
『………ッ!!』
息が整ったのか、ノアールは瞬時に眼を見開き、
両手を十字に組み合わせる。
バシュン!バシュン!バシュン!
ノアールが周囲にあるドラム缶一つ一つを
正面に見据えると共に組み合わせた右手から
青白い魔法力の弾が放たれる。
それらはドラム缶に描かれたネウロイのコア目掛けて
一発ずつ命中し、その側面を見事に凹ませる。
ノアールの魔法力の弾は調整次第で、
中が空洞になっているドラム缶等は
先のように凹ませるほどの耐久性はある。
『……フゥ……ん?』
すべてのドラム缶に魔力弾を撃ち込んで
一息吐いていたノアールは、その中で
自分から一番遠くに置いていたドラム缶に近寄る。
魔力弾が撃ち込まれて倒れていたドラム缶には、
標的であるネウロイのコアから少しズレた位置に
凹みが出来ていた。
『ッ……!』
それを見たノアールはその眼を鋭く細める。
口にこそ出ていないが、ソレは明らかに自分の失敗に
対する悔しさがにじみ出ていた。
「ノアール!」
その時、格納庫内に声が響く。
ノアールはその声の主を瞬時に理解し、
声のした方向に向くと同時に背筋を伸ばし、
敬礼する。
そこに立っていたのはブリタニア空軍の制服を纏い、
中年期になってしばらくした男性だった。
彼の名はトレヴァー・マロニー。階級は大将。
ブリタニア空軍の戦闘機団司令官にして、
第501統合戦闘航空団の上官でもある。
「ここで何をしている?」
『はっ!マロニー大将、
SUAの調整が終わるまでの間、
自主訓練を行っていた次第です』
「ふむ、結構なことだな」
『恐縮です…』
トレヴァーの言葉に敬礼を解いたノアールは
そのまま瞑目して軽く一礼した体勢になって
制止する。
身長的な意味でノアールが見上げなければ
トレヴァーから見えない顔が、俯くことによって
より一層表情が見えなくなる。
ノアールから視線を外したトレヴァーは、
周囲に倒れているドラム缶を見渡すと
徐に話し始める。
「話は変わるが、501部隊に配属になって
しばらく経ったが……貴様から見て、
部隊内の印象はどう感じるかね?」
『印象……ですか……』
ノアールは瞑目していた眼を少しばかり開いて、
少しばかりとはいえ501部隊で過ごしてきた日々を
振り返る。
『多種多様な国から集められた精鋭
というだけあって、満遍なく戦力が整った部隊
と言えるでしょう。自分は訓練でしか
ウィッチの方々の実力は見ていませんが、
あの方々の実力が組み合わさった時の戦力は、
並大抵のネウロイにも負けない威力を
発揮するでしょう』
「ふん……なるほどな……」
『……?』
ノアールはトレヴァーの語気に
少しばかり不満げな物が混じっているように
感じたが、気のせいと切り捨てて
彼の言葉を待つ。
「貴様という戦力が加わったことで、
何かしらの変化はあったかね?」
『はい。唯一の異性ということもあり、ミーナ中佐の
指示のもと部隊の方々に自分を意識した行動を
心がけるようにという傾向が
流れ始めました。戦闘に関しては残念ながら
自分の戦闘形態も相まって立ち位置は遊撃か
固定砲台という形に落ち着きましたが、そちらは
自分のこれまでと同じ要領で行動できるので
問題ありません。それに……』
「それに……なんだね?」
“ミーナ中佐の厚意により、
自分のこれまでの身の振り方を変えてみようかと”
と続けたかったノアールだが…
『はい、いいえ。私事ですのでお気になさらず……』
「………まあいい、何はともあれ貴様はこれまで通り
ネウロイを殲滅するために働けばよい。
私の面子を汚さなければ差して文句もない」
『心得ております、マロニー大将……』
忘れがちになると思うが、
ここまでのやり取りはすべて
中年期になってしばらくした男性と、
齢10歳の子供のやり取りである。
子供相手にこれほどの態度をとるトレヴァーも
異様に映るが、その態度に対して
一端の軍人然とした態度で応対するノアールの方が
より一層異様に映ることだろう。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
<緊急連絡!監視所より
超大型ネウロイ出現との報告!
並びに扶桑皇国より渡欧中の戦艦赤城より
救援要請の報せあり!現在位置は――――>
その時、格納庫内に警報が鳴り響く。
ソレを聞いたノアールとトレヴァーの顔が引き締まる。
「マロニー大将!!」
するとそこへ、トレヴァーより若い
ブリタニア空軍服を着た軍人が駆け込んできた。
彼はトレヴァーの副官を務めている人物だ。
「ネウロイ出現の報せだろう?聞こえている…」
「はっ!それについては……。問題は……ッ!?」
トレヴァーに駆け寄ってきた副官は
トレヴァーの影になって見えなかった
ノアールの存在に今まさに気づいた。
だが副官の顔には、ただ気付いたというには
大げさすぎる表情が浮かんでいた。
まるで、恐ろしいものでも見たかのような………
「の、ノアール少尉。貴官の装備の調整が完了した。
マロニー大将、こちらを……」
副官は手にしていた片手で持ち運べるサイズの
ジュラルミンケースを前に出し、
その中身を取り出しやすいよう開く。
ケースの中に手を伸ばしたトレヴァーは
その中にあるモノを取り出し、ノアールに向き直る。
ノアールもそれと同時に俯かせていた顔を上げ
直立体勢になる。
「軍上層部から直接命令を下す。
ノアール・ルー少尉、
遣欧艦隊に強襲したネウロイを殲滅せよ!」
『はっ!』
「なお、貴様が発進した後の指揮権は501部隊に移す。
以降はミーナ中佐の指示に従うように」
『了解!!』
「頼むぞ?」
そう言って、トレヴァーはジュラルミンケースから
取り出したソレをノアールに手渡す。
それは20センチ弱ほどの円筒型をした
棒状のモノだった。色彩は黒。
持ち手部分の下部分で短いシルバーのラインが
横三本三組ずつ並び、それらを貫くように
長いシルバーの一本線がそれぞれ真ん中で
交差している。
先端部には青く輝く結晶体が内蔵した
カプセルがあり、それを三又に立った支柱が
囲うような形になっている。
そのすぐ下、親指が当たる位置に
唯一の可動部であろうスイッチがあった。
その名は「ビームカプセル」。
ノアールの装備であるSUAを励起させる
特殊デバイスである。
それを受け取ったノアールは今一度トレヴァーに
敬礼を返し、振り向くと共に格納庫の外にある
滑走路へと走る。
走りつつノアールはビームカプセルを右手で持ち、
スイッチを一度押し込む。
押されたスイッチが離されると共にポップアップし、
先端の結晶体が淡く光り始める。それと同時に、
ノアールの体周囲にも青い光が
オーラのように浮かび上がる。
それを見たノアールは格納庫から少し出たところで
足を止め、ビームカプセルを空に掲げ、
ポップアップしていたスイッチを再び押した。
カッッッ!!!
その瞬間、先端の結晶体から
太陽に勝るとも劣らない光がフラッシュする。
光が収まった時、ノアールの身体にはSUAが
装着されていた。
『SUA装着完了、各部異常なし……
ノアール・ルー、発進します!!』
ノアールはその場でジャンプするように
身体を浮かせる。その瞬間、
まるで重力が無くなったかのように上昇し、
そのまま直線飛行でネウロイの出現した方角へと
飛んで行った。
その姿は、両足と両手をピンと伸ばした体勢で、
まるで槍のようであった。
◇◇◇
そして現在――――
『こちらノアール!目視により超大型ネウロイと
噴煙を確認。
噴煙は戦艦及び駆逐艦からの火災と思われる!』
目線の遥か先とはいえ、ネウロイを目視で
確認できるところまで来ていた。
501部隊の基地からでも20分はかかる距離を
それ以上の速さで縮められたのは
僥倖と言えるだろう。
だが速さを重視した飛行を続けたために、
ノアールには一つの懸念があった――――
『(供給パイプの色が青くなってる…
これほど速度重視で魔法力を消耗したのは
今までほとんどなかった……)』
ノアールは飛行体勢のまま、
自身の両腕のSUAに走るパイプの色を見る。
このアーマーには各部位に魔法力の供給と
残量を示す役割のあるパイプがあり、
その発行色と光量で残量を確認することができる。
発進した直後の色は白に近い青だったのが
今や濃い青になっていた。
『(以前まではこの色になる頃には
ネウロイを撃破できていた……
今度ばかりは短期決戦で臨むしかない……
幸いにして敵は超大型とはいえ1機のみ。
一気呵成で畳みかければ――――)』
<――少尉!――しなさい!!
ノアール少尉!応答しなさい!>
その時、ノアールのインカムに
ミーナからの通信が入る。
基地から距離が離れているためか、
少しばかりノイズ交じりだ。
『ミーナ中佐、こちらノアール。
ネウロイ及び遣欧艦隊を目視で確認。
これよりネウロイ殲滅に――――』
<待ちなさい!出撃命令は上層部からとはいえ、
指揮権は私に移されているわ。
独断専行は許可できません!>
『ッ!!……了解、申し訳ありません。
ではミーナ中佐、指示をお願いします』
ノアールは指示を待つ傍ら、表情こそ硬いものの
いつでも臨戦態勢をとれるように意気込んでいた。
ネウロイは人類の敵。奴らを倒すために自分は在り、
この力もそのために在るのだと教えられてきた。
その教えを遵守し、501部隊に来る以前から彼は
数々のネウロイを殲滅してきた“らしい”。
そのどれも、楽な戦いとは言い難かったが、
彼はそれらを乗り越えてきた“のだそうだ”。
突然十数名の最前線部隊に派遣されたとはいえ、
自分のやることは変わらない。
だから今度も、あのネウロイを――――
<現在、バルクホルン大尉が指揮する
遣欧艦隊の救援部隊がそちらに向かっているわ!
ノアール少尉は艦隊の護衛である
坂本少佐と合流して、救援部隊の到着まで
艦隊の防衛と遅滞戦闘に従事しなさい!>
――――その命令に対し、
ノアールの思考に空白が生じた。
『……は?防衛と遅滞戦闘…?
ネウロイ殲滅では…なく?』
<それは救援部隊が到着してからよ!
今は遣欧艦隊の防衛が最優先なの!>
『救援部隊到着の時間は…?』
<急いでいるとはいえ、まだ15分はかかるわ!>
それを聞いたノアールはすぐさま応答する。
『15分!?それまで防衛を務めろと!?』
<別のウィッチ隊に救援要請しても
間に合わない以上、坂本少佐と貴方が
務めるしかないの!>
『しかし!自分が一気呵成に攻め込んで、
短期決戦でネウロイを殲滅すれば――――』
<これは一対一の闘いじゃないのよ!?
戦艦や駆逐艦に乗船している
船員のことも考えて!!>
ノアールはそこで“初めて”その思考に至った。
自分以外に被る被害というものを……
<既に駆逐艦の何隻かがやられたと
報告も入ってるわ。
貴方は短期決戦というけれど、その間に被る被害を
無視するわけにはいかないわ!>
『それは……確かに……』
<無理無茶な命令なのはわかってます!
でも今は貴方と坂本少佐しか頼れる人がいないの!>
『………了解。救援部隊到着まで、
防衛及び遅滞戦闘に務めます…』
<バルクホルン大尉たちも急いでるわ。
こう言うしかないけれど、頑張って!>
ミーナとの通信はそこで切れた。
通信を終えたノアールは、
改めて進行方向に見えるネウロイを見据える。
だが、その表情に先までの自信の色はなかった……
◇◇◇
事の経緯と顛末を語ろう……
防衛と遅滞戦闘の命令を受けたノアールは
坂本少佐と合流後、
残存していた戦闘機隊と坂本が攻撃、
ノアールが艦隊の防衛という形で戦闘を再開した。
ここまでの連続射撃が祟ったのか、
坂本の装備である九九式二号二型改13mm機関銃が
銃身の赤熱化によって使用不能になり、
坂本は扶桑刀による直接攻撃に切り替える。
ノアールはというと、今までほとんど……というより
ほぼ全く経験したことのない防衛及び遅滞戦闘に
四苦八苦していた。
なにせ彼は、これまでネウロイに対して常に
“攻める側”として戦い続けていたために、
“守る側”のノウハウを全く経験していなかったのだ。
状況が状況だけに、今更無理と切り捨てて
攻める側になるわけにもいかない。
戦争において常に状況が変わるのは
いつの時代も同じだ。
そこで付け焼刃の策として、
ネウロイから放たれるビームを自身の武装である
光線で相殺し、艦隊を守るという戦法を取った。
だが即興の策故に万全とは言い難かった。
ノアールの放つ光線は十字に組んだ右手から一筋、
そして直線でしか放つことができない。
そのため、複数のビームが放たれれば
その内の一つは相殺できても、
それ以外は打ち消せずに直撃、
ないし至近弾として見逃してしまうのだ。
おまけに光線のエネルギーは魔法力。
飛行にも運用されているために
無駄撃ちをしていけば、魔法力が枯渇して
墜落してしまう。
そこでさらに苦肉の策として、
駆逐艦や戦艦への直撃コースのビームのみを相殺する
という戦術に切り替える。
とはいうものの、自分の身は一つしかない故、
撃ち漏らしたビームで駆逐艦の何隻かが大破、
ないし轟沈という結果になってしまった。
救援部隊が来るまでこのまま泥沼化した戦況が続くか
と思われたその時、艦隊の中心となっていた
戦艦・空母赤城から“一人のウィッチ”が飛び出した。
彼女の名は“宮藤芳佳”。
坂本がとある理由で扶桑皇国から連れてきた少女だ。
軍人でもなければ航空ウィッチでもない身で
ストライカーユニットを装着し、
さらには訓練もなしで飛び立って見せたのだ。
おまけに彼女の展開するシールドは
坂本が展開するものと比べてはるかに大きい。
彼女の見せた才能の片鱗に坂本は期待を寄せ、
自身を囮にし、宮藤がコアを撃ち抜く戦術でもって
攻勢に移る。
最初のアタックは失敗したものの、
二度目は宮藤が坂本の動きを参考にし、
ネウロイの胴体スレスレに近づいて飛ぶ。
馴染むどころか触れることすらなかった
13mm機関銃を構えて
ネウロイのコアがある部分に向けて引き金を引く。
コアが露出したものの、
そのまま通り過ぎてしまう宮藤が再び銃を構えるが、
最早届かないことに悔しさを覚える。
その直後、まったく別方向から放たれた銃弾が
露出したコアに直撃した。
即座にダメ押しに放たれた数発の銃弾も
すべてコアに直撃し、
ネウロイのコアは完全に砕け散り、
その胴体も白い欠片となって崩れていった。
◇◇◇
「コア破壊、かっくに~ん♪
十発十中だよ!すっごーいでしょー!」
「こちらも確認した。
ネウロイ撃墜、戦闘を終了する…」
501基地から飛び立った救援部隊の4人が
ようやく到着した。
先のネウロイのコアを撃ち抜いたのは
ルッキーニの銃弾だったのだ。
「坂本少佐ー!!ご無事ですかぁーー!!」
ペリーヌが先んじて坂本のもとに飛んでいく。
彼女が坂本を尊び慕っているのは周知の事実なので、
誰一人として彼女を止める者はいなかった。
「ペリーヌのやつ、どさくさに紛れて
少佐に抱き着く気だよ!きひひひっ♪
後でからかってやろーっと………お?」
「あら?」
不敵に笑っていたルッキーニも、
坂本の元へ先んじて飛んでいたペリーヌも、
その先に見えた意外な光景に自分の眼を疑う。
それは、坂本が気を失った宮藤を抱えて
飛んでいる光景だった……
「なっ!なんなんですのあの小娘は!!
誰なんですか!!?」
ヒステリックな叫び声をあげるペリーヌ。
何故かメガネが空中で回転し、
怒りの象徴なのかストライカーの魔道ポンプから
煙が発せられた。
≪バルクホルン大尉、こちらノアール≫
「ノアール少尉、防衛及び遅滞戦闘の遂行、
ご苦労だった」
≪いえ……艦隊のほとんどは撃沈、残った艦の損害も
甚大という結果になってしまいました。
己の不甲斐なさを悔いるばかりです、
申し訳ありません……≫
「全滅を免れただけでも救いと思うしかない…
悔いる気持ちを糧にして、次の闘いに活かせばいい」
≪はい……≫
通信を終えたノアールは赤城や駆逐艦、
その周囲に浮かんだ救命ボートたちを見下ろす。
生き残っていた一般兵や艦長たちが感謝の意を込めて
今回の功績者である坂本や宮藤、
ノアールたちに手を振っていた。
その光景を見た宮藤は、
初めて自分の力で誰かを守ることができた事実に
歓喜の涙を浮かべ、
逆にノアールは、それら感謝の気持ちを
受け取る資格はないと言いたげに
苦悶の表情を浮かべて顔を俯かせた。
◇◇◇
遣欧艦隊の生き残った艦たちは、
ブリタニアに到着し、
501部隊への補給物資が運び出された後、
入渠となった。
坂本は宮藤と共に宮藤の父――――
宮藤一郎の研究室があった場所へと向かった。
遣欧艦隊の救援として来ていたノアールや
バルクホルン達4人も
ブリタニア到着までの護衛を終えて無事に帰還した。
そしてその夜、宮藤の付き添いを終えて
基地に帰ってきた坂本の呼び出しで
501メンバーの全員が基地の出入り口に集結していた。
皆各々、真面目不真面目な様相なものの、
目の前に立つ“新たなる仲間”の姿を
しっかりと見据えていた。
「えー、本日付で連合軍第501統合戦闘航空団に
配属となった、宮藤芳佳だ!」
「宮藤芳佳です!よろしくお願いしますッ!!」
この日、ストライクウィッチーズに
再び新たなる仲間が加わった……
◇◇◇
「ふぅ……」
501部隊の基地にある宿舎。
その一室で宮藤は一息つく。
ストライクウィッチーズの一員として
配属になったため、
この宿舎を使うことになったのだ。
「(やっぱり疲れてるな……
今日一日だけでいろんなことがあったんだもん…)」
人類の脅威、ネウロイとの遭遇……
普通の学生でしかなかった自分が見ることのなかった
戦場の様相……
父の命が失われた戦争を嫌っているにもかかわらず、
父と交わした約束を守るために、
空へと飛び立ち、戦った……
坂本に連れられて知った、父の最期……
そして何より、自分の意志で決めた
ストライクウィッチーズへの入隊……
これらをその日一日だけで経験したのだ。
一般の学生の身では余りある経験だろう……
「(時間も時間だし、そろそろ寝ようかな…)」
宮藤は扶桑を発つときに持ってきたカバンの中から
寝間着である甚平を取り出そうと手を伸ばす。
そこへ――――
コンコンッ
宮藤の部屋の扉がノックされた。
「っ…はい!」
突然のノックに驚いた宮藤だが、
すぐさま来客の応対に立ち上がる。
扉を開けて、先の顔合わせをしたときに見た
ウィッチたちの平均的な目元辺りに
視線を向けていたが、来訪した人物は自分よりも
少しばかり低い背丈の人物だった。
『こんな時間にすいません、ミヤフジさん…』
来訪者は宮藤にとっては意外な人物……
ノアールだった。
「いえ!……ええと、ノアール…さん?」
『はい、ノアール・ルーです…』
ノアールと宮藤は先のウィッチたちの顔合わせの後、
坂本とノアールの顔合わせの折に
初めて対面したのだ。
曲がりなりにも遣欧艦隊の防衛のために
同じ戦場で戦っていた者として…
ちなみに彼が魔法力を持った男性・ウィザード
であるということも承知している。
年齢こそ自分より年下とは聞いたが、
彼の雰囲気からは全くそんなものを感じさせない
凄みを感じているため、宮藤も敬語で話している。
「私に何か用事ですか?」
『用事……というほど大げさなものでは
ないのですが……』
「?」
『改めて、貴女に感謝をミヤフジさん。
軍属でない身でありながら参戦してくれた
貴女のおかげで、先の一戦を
乗り越えることが出来ました…』
「そ、そんな!!私、ホント考えなしで飛んだ
っていうか!必死だったっていうか……
最後も肝心な所で失敗しちゃったし……」
ノアールの感謝の言葉に、
宮藤は謙遜した言葉で返す。
『ですが、坂本少佐と自分しか戦力がいなかった
あの戦況に貴女という一石が投じられたおかげで
事態が好転したのは事実です。
ソレは誇っていいものですよ』
「は、はぁ……」
『自分なんて、これまで経験したことがなかった
防衛という事態に、その場凌ぎで応戦するしか
なかったんですから……自分が不甲斐ないです……』
宮藤は悔し気に眼を伏せるノアールを見て、
自分より年下なのに責任感が強い、
自分に厳しいんだなと思った。
『とにかく、先のことだけ伝えたかったんです。
改めてありがとうございました』
「いえ、そんな……」
『明日からは坂本少佐との訓練に
自分も参加する予定です。新人である貴女と
多少カリキュラムは異なるでしょうが、
互いに頑張りましょう』
「は、はい!」
宮藤の返事を聞いてノアールは会釈すると、
自分の部屋への廊下を歩いて行った。
その直後――――
「あの、ノアールさん!!」
宮藤の呼び止める声に振り返るノアール。
「私のおかげであの戦いを乗り越えられ
たって言ってましたけど、
でもノアールさんのおかげでもあると思います!」
『自分の……?』
「坂本さんがネウロイに攻撃している間、
ずっとノアールさんは守ることに
徹してくれてたんですよね?そのおかげで、
私も大したケガもなくて済んだし、
飛び立つこともできました!
だから、私の方こそありがとうございました!」
『っ!!?』
宮藤の勢いよく頭を下げる様子にノアールは
少しばかり驚き、顔を上げた宮藤の
邪気のない顔を見て、今度は眼をそらす。
宮藤に面している顔の左側は
前髪に隠れて見えないため、彼女からはその表情を
窺い知ることはできない。
『では……失礼します…』
「はい、おやすみなさい!」
ノアールは“逃げるように”その場を立ち去った。
ガチャン!
『………』
閉めた扉にもたれ掛かるようにして、
ノアールは俯く。
“ありがとうございました!”
宮藤の言葉が脳裏に響く。
それと共に、ノアールの表情が苦悶に歪む。
『言ったことはあったけど……
言われたことなど一度もなかった……
でも……感謝される資格なんかないんだ……
経験したことのない事態に、必死だっただけ……』
“考えなしで飛んだっていうか!
必死だったっていうか……
最後も肝心な所で失敗しちゃったし……”
『それでも貴女は役目を果たせた……
自分は与えられた命令を完遂することも
できなかった……』
ノアールの握り締められた両手が
悔しさを滲ませるように震える。
『このままじゃダメだ……自分の使命は、
ネウロイを殲滅すること……
これまでずっとそうしてきたんだ……
戦えない自分なんて……
存在する意味なんかない!!』
◇◇◇
「マロニー大将、例の施設における
資料や実験中の検体、並びに関係者の“処分”
……完了しました……」
「ご苦労。私の持つヤツに関する資料以外、
処分漏れはないだろうな?」
「はっ!抜かりなく…」
ブリタニア本国、軍司令部の一室。
トレヴァーとその副官が
意味深な会話を交わしていた。
「しかし、本当に良かったのでしょうか?」
「大事の前の小事だ。もはや我々にとっては
アレが本命である以上、ネウロイを殲滅する以外、
不利益しか生まんヤツに関することは
徹底的に処分しなければならん。
それとも貴様、ヤツに情が移ったとは言うまいな?」
「いいえ、決してそのようなことは!
ましてや“あんな紛い物”に対して情など!!」
「フンッ!だろうな……」
トレヴァーの脳裏に浮かぶ“ヤツ”の姿、
その瞬間彼の表情は不快に歪む。
「それもこれも全て、実験に際して莫大な予算を
無駄に消費した末の結果だ。
その成果であるヤツ自身も、
取り立てて眼を見張るほどの性能を
有しているわけでもなし……飛んだ期待外れだ……
それでいてあんなみてくれとは、
烏滸がましいにもほどがある!」
「しかし……万が一、ヤツの口から
例の件が漏洩などしたら……」
「問題はない。ヤツとアレに関しての実験について
は全く別プランとして完全に割り切られている。
それにヤツ自身、幼少期からの教育も相まって
軍人という概念が服を着て歩いていると感じるほどの
完成度だ。ゆえに――――」
トレヴァーの言葉が一瞬途切れる――――
「軍人として国のために命を散らすことも
厭うまいよ……」
「……お言葉ですが…“普通の人間”ならば、
一瞬躊躇する選択ですね……」
「むしろ私としてはその過程で処分されてくれると
助かるんだがね……まあ、今回の調整も
最前線に派遣した故の最後の恩情だ……
せいぜい壊れるまで、そしてアレが完成し
量産の確約が取れるまで、
ネウロイを殲滅してくれたまえ……」
トレヴァーが横目で見ているのは、
机の上に広げられた数枚の資料。
その中の一枚に、びっしりと並ぶ文字と
一枚の小さなモノクロ写真が掲載されていた。
その写真の人物は、
“両目”でカメラを見つめているであろう
無表情の少年だった……
SUAの装着プロセスとその機能の一部を
初めて見せる回ということでしたが……
ええ、はい……完全に“シン”を意識しております…
だって最終局面であんな技術を用いた“アレ”を
作れるならこんなのも作れるでしょ?みたいな(ガクブル
あとはマロニー大将がフライング出演しておりますが、
今作での三人称による名指しではトレヴァーとしております。
何故ってマロニーだと完全に鍋に入れる
アレを連想してしまうという安直な理由です
(今の時期では食べたいという気にはなりませんが、
久々に食べたい気もします)
ともあれようやっと主要メンバーが出揃い原作開始です。
久々の投稿作品にて高い評価をしてくださって大変ありがたいです。
今のところ週一投稿で頑張っておりますが、
執筆作業の進み具合では頻度が下がる可能性もあります。
ですが目次でも書いてある通り、
第1期は必ず終了させますので
それまでどうかお付き合いくだされば幸いです
それでは……