Unknown Wizard Chronicle 作:シノギ
今にして思い返してみると、第1期が放送された年って
2008年だったんですねぇ…
それでいて第3期が2020年って…
キャストの皆さんはどんな気持ちで
ウィッチ達を演じられたんでしょうねぇ…
坂本少佐は2代目になっちゃいましたし…
服部に至っては劇場版からの参戦でしたし…
やっぱり視聴者の方々と同じように
「おかえり」って気持ちだったんでしょうか
遣欧艦隊がブリタニアに到着した翌日。
501部隊長であるミーナは
早朝からブリタニア本国軍司令部に出向していた。
「無事扶桑から増援と補給が届いたようだが?」
「坂本少佐及び補充員一名、
宮藤芳佳が着任しました。
通常通り、軍曹待遇としてあります」
ミーナと相対しているのは
ノアールを501部隊に派遣したトレヴァーと
ブリタニア首相だ。
「前回の派遣に引き続き、
戦力が強化されたことは実に喜ばしい…」
「だがここ最近、ネウロイの襲来が
不定期になっているそうじゃないか…?」
「確かに。今までの週一回のパターンから、
徐々に間隔が狭まってきています…」
「今のままでいくわけにはいかんだろうな?」
「現場を無視した空論を押し付けられるのは、
お断りしたはずですが…?」
「……」
その言葉に眉を顰めるトレヴァー。
彼の鋭い眼光に真正面から相対するミーナと
一触即発といった雰囲気が漂うが、
首相の咳払いで霧散する。
「結果が出せればよいのだよ…」
「ご安心を。ブリタニアの…いえ、世界の空は
私たちウィッチーズが守ってみせます!」
◇◇◇
501部隊基地のブリーフィングルームにて、
朝食を終えたウィッチたちや
ウィザードが揃っていた。
そこへ司令部から戻ったミーナと
その後ろを歩く宮藤が入室したため、
全員の顔がブリーフィングルームの
壇上に向けられる。
「はい皆さん、注目!」
ミーナが柏手を打つ。
場所の様相と言い分も相まって、
さながら教師のようにも見える。
「改めて今日から皆さんの仲間になる
新人を紹介します。
坂本少佐が扶桑皇国から連れて来てくれた、
宮藤芳佳さんです」
「宮藤芳佳です。皆さんよろしくお願いします!」
ミーナに紹介され、宮藤がお辞儀をする。
「階級は軍曹になるので、
同じ階級のリーネさんが面倒を見てあげてね?」
「……っ!はい…」
「…?」
ミーナの指示に一瞬呆けるリーネは、
返答こそしたもののその表情は優れなかった。
その様子に宮藤は疑問顔になる。
「はい。じゃあ必要な書類、衣類一式、階級章、
認識票等はここにあるから」
「…っ!」
宮藤はミーナの言った一式が入れられている
箱の上に置かれたワルサーPPKを見て
嫌悪感のある表情をする。
「あの……」
「はい?」
「コレはいりません…」
「何かあった時に、
持っておいた方がいいと思うけど…」
「……使いませんから」
「…そう」
軍属になったとはいえ、宮藤は基本的に
誰かを傷つけることを良しとしない。
むしろ逆に癒すことを心掛けている。
だがこのワルサーPPKは、
あくまでも護身用として支給されたものだ。
そのためにミーナは持っているよう勧めたが、
宮藤はそれでも承諾しなかった。
心配そうな表情のまま、ミーナは銃を受け取った。
「あっはっはっは!おかしなやつだな?」
「ッ!!」
宮藤の様子に笑い飛ばす坂本。
その後ろにいたペリーヌは
宮藤が入室してきた時から浮かべていた不満顔を
さらに険しくする。
「なによ綺麗事言って、ねぇどう思う?」
「んぁ…?」
軍人としてあるまじき態度への
不満を漏らすペリーヌは
後ろにいたルッキーニに同意を求めるが、
机の上にお気に入りの敷物を敷いて寝転がる彼女は
宮藤の態度に興味がないのか生返事を返す。
ペリーヌの場合、そこに些かの嫉妬心があることは
言うまでもないだろうが……
「なによなによ!!」
ブリーフィング中にもかかわらず、
ペリーヌは我慢の限界だったのか
我関せずといった様子で部屋を出て行ってしまった。
「あらあら…仕方ないわね……
個別の紹介は改めてしましょう。では解散!」
ガタッ!
ミーナの号令に立ち上がる一同。全員を一瞥し、
ミーナは壇上から降りて部屋を後にした。
「……っ?……?」
中途半端な形で終わったブリーフィング。
宮藤も唐突に終わってどうしたらいいのか
わからないといった様子だ。
そんな彼女の背後に迫る影が――――
ムニッ!
「へぁっ!!?」
その影――――
ルッキーニは宮藤の背後から手を伸ばし、
彼女の小ぶりな胸を掴んで
あまつさえムニムニと揉んでいた。
「どうだ?」
「……残念賞」
その行動の意図を把握しているシャーリーは
主語のない問いを投げる。
ルッキーニの返事は感想からもわかる通り
不満気だった。
「リーネは大っきかっタ……イヒヒ♪」
「っ……////」
エイラの呟きと意味深な視線に
リーネは顔を俯かせる。
どうやら彼女も同じ洗礼を受けた口らしい…
「あはははっ!あたしほどじゃないけどね?
あたしはシャーロット・イェーガー。
リベリオン出身で階級は中尉だ、
シャーリーって呼んで!」
「…はいっ」
シャーリーの握手に応じる宮藤。
その手が力強く握られ、少しばかり苦痛に歪む。
「あっはっはっは!食べないと大きくなれないぞ?」
「ぁ~……////」
「あぁ~つまんな~い……」
シャーリーが笑うと共に揺れる豊満な胸を見て
顔を赤くする宮藤。
そんなシャーリーの胸にお構いなしに
ルッキーニが顔を埋める。
「エイラ・イルマタル・ユーティライネン。
スオムス空軍少尉。
こっちはサーニャ・リトヴャク、オラーシャ陸軍中尉」
「……zzz」
エイラの自己紹介と、ほぼ寝ている状態で
エイラに支えられているサーニャの紹介が終わる。
「あたしはフランチェスカ・ルッキーニ、
ロマーニャ空軍少尉!」
「よ、よろしくお願いします!」
ここまででほぼ全員の自己紹介が済んだ。
それを見越して坂本が声をかける。
「よし自己紹介はそこまで、各自任務に就け。
リーネと宮藤は午後から訓練だ」
「はいっ!」
「返事だけは良いな。
リーネ、宮藤に基地を案内してやれ」
「っ…了解っ」
指示を受けたリーネが立ち上がり、宮藤と対面する。
「私宮藤芳佳、よろしくね」
「リネット……ビショップです……」
「…?」
イマイチ覇気のない自己紹介をするリーネに対し、
宮藤は不思議そうな顔をするばかりだった。
「それからノアール!」
『はっ!』
「バルクホルンから事前にお前の訓練成績や
摸擬戦の戦績なども見せてもらったが、
実際に見てみたい。別メニューにはなるが、
お前もリーネと宮藤たちと共に訓練に参加してくれ」
『了解!訓練開始は同じく午後から?』
「そうだな。それまでは別任務に就いていてくれ」
ノアールは敬礼で返すと、
宮藤とリーネに少しばかり近寄る。
『ではビショップ軍曹、宮藤軍曹、また午後に…』
「…はい」
「はい!ノアールさん…」
『宮藤軍曹、一応言っておきますが
自分の階級は少尉です。軍属になった以上、
最低限の礼節は心掛けてください』
「は、はい……ノアール…少尉…」
宮藤は昨夜のノアールと同じ態度で
接しようとしたが、彼の元来持つ
軍人然とした厳格な態度に気圧され、
思わず階級呼びになる。
それを聞き届けたノアールは会釈をして
ブリーフィングルームを後にした。
◇◇◇
リーネに連れられた宮藤はその後、
屋内の宿舎や食堂や浴場といった共有スペース、
屋外にある射撃場、基地全体や
ドーバー海峡が見渡せる展望台などを案内され、
その時点で訓練時間が近いこともあり、
訓練場所であるハンガー及び
滑走路へと向かっていた。
その最中――――
「リネットさん、ノアールさ……
少尉ってどんな人なんですか?」
「ノアール少尉、ですか?」
訓練場所に向かいがてら、
宮藤はリーネにふと思ったことを訪ねていた。
ネウロイがまだ怪異と呼ばれていた時代、
魔法力を持って戦っていたのは10代の少女たち、
ウィッチだった。
だがさらに過去の歴史を紐解けば、
かつては男性の中にも魔法力を有している存在が
いたことは記述としてある。
宮藤が知る限り、魔法力を有した男性など
ノアールが初めてなのだ。
しかも先のメンバー紹介の際、
全員の外見年齢を見れば彼はルッキーニと
同じくらいとみていいだろう。
先日の顔合わせの時にも感じたが、
自分よりも年下で軍人で、
さらには魔法力を有した存在…
ウィザードである彼はこの部隊においては
どんな存在なのか……
宮藤はそれが気になって仕方がなかった……
「実は私も、ノアール少尉とは
あまり話したことがなくて…」
「え…そうなんですか?」
「彼は私と同じ、ブリタニア空軍から
派遣されてきた人なんです、しかも上層部からの……
あの歳で上層部の方々が重宝しているなんて、
すごい人だと思います…」
「そんなすごい人なんだ……」
「私の知っている限りでは、戦いにおいては、
私たちウィッチと系統は違ってもネウロイに
引けを取らない実力を有していることは確かです。
ちょっと怖いくらい軍規に従順で、
上官の命令には絶対に従うことを徹底している……
そんな感じだと思います…」
軍規に従順という部分では
宮藤も同意できるところがある。
実際、呼び方を徹底するようにと
先ほど注意されたばかりだ。
「(私より年下なのに……)」
「私より年下なのに少尉に就いてるんです……
私なんて全然……」
「え?」
「い、いえ!こっちの話です…!」
宮藤は自分が思っていたことと
全く同じ言葉をリーネが口にしたことに驚くが、
思わず出てしまったボヤキだったのか、
リーネは誤魔化す。
◇◇◇
午後になり、坂本監修の元宮藤とリーネの訓練、
それと並行してノアールの実証訓練が行われた。
竹刀を手に坂本が立っているのは
滑走路の始まりの位置。
そこをスタート地点とし、
宮藤とリーネは全力疾走する。
ノアールも共に全力疾走している。
ちなみに宮藤とリーネは滑走路の左側を走り、
右側をノアールが走っている。
前者二人は滑走路の先端で一度息を整え、
再びスタート地点に全力疾走、
これを往復するという訓練内容だが、
後者は内容こそ同じなものの、
前者と違う所は先端とスタート地点で
息を整えることなく全力疾走で往復する
という内容になっている。
その後は腕立て伏せ、腹筋といった基本的な
基礎体力をつけるための訓練が実施された。
宮藤とリーネは腕立て伏せの時点で
体力の限界を訴えていたが、
ノアールは彼女たちに課された倍の内容の
訓練をこなしているにもかかわらず、
疲労の顔色を見せることなく完遂した。
続く射撃訓練ではリーネの主武装である
“ボーイズMk1対装甲ライフル”を使った
遠方にある標的を撃ち抜くといったものだった。
先にリーネと宮藤による射撃訓練が行われ、
ノアールは遠方に設置する標的を
用意する役を担当した。
彼の飛行武装であるSUAはストライカーと違って
すぐさま装着できるうえに、二人が終わった後、
すぐにノアールの射撃訓練を行うための配慮である。
ちなみに、SUAを装着するプロセスを
宮藤と坂本は初めて目にし、
二人が大小驚きの顔になったのは余談である……
閑話休題
二人の射撃訓練の成績は、
リーネはもとより使い慣れた銃ということもあり、
二射目で標的を撃ち抜くことが出来た。
宮藤はそもそも銃器を扱ったことがない上に、
扱うことに抵抗感があり、
さらには坂本の固有魔法である
魔眼を用いなければ見えない位置にある標的が
見えないということもあってライフルの
装填弾数すべてを撃ち切っても
撃ち抜くことができなかった。
続くノアールはというと――――
「よし!ではノアール、お前の射撃を見せてくれ」
『はっ!』
坂本の指示を受け、
ノアールは先まで宮藤が俯せになって
ライフルを構えていた位置に立つ。
「あれ?ノアールさ……
少尉はライフル、使わないんですか?」
「ノアールはかなり特殊な武装で戦うんだ。
訓練用の弾丸の消費が抑えられて、
我々としては喜ばしいものだが…
まあ、説明するよりは見てもらった方が早い」
宮藤が坂本の説明を受けている間、
ノアールは両膝を少し曲げて、
腰を引いた前傾姿勢になる。
そして両腕を十字に組み――――
バシュンッ!!
右手から魔力弾が放たれ、標的に着弾した。
だがその直後――――
バシュンッ!バシュンッ!バシュンッ!
ノアールは立て続けに魔力弾を撃ちだす。
それと共に、正面に構えていた両手を
だんだん上に向けていく。
「ノアール少尉は、何を?」
先に射撃訓練を終えて
ノアールの訓練を見学していたリーネが
着弾確認を担当していた坂本に問い掛ける。
魔眼を発動しながら見ていた坂本は
驚愕の表情を浮かべる。
「ノアールの奴、
最初の一撃目で上に打ち上げた標的を
続いて放った魔力弾で落下する前に
打ち上げ続けている!!」
「「ええっ!?」」
銃弾を使った標的を撃ち抜く訓練なら、
撃ち抜いた時点でその標的は交換されるのが常だが…
ノアールの魔力弾は威力の調整次第で
如何様にもできる。
故に標的の原形を留めたまま
撃ち続けることも可能なのだ。
さらには標的の板は落下する最中も
不規則な動きをするため、
それを捉えるのは至難の業だ。
だが彼はそれを難なく捉え続けている上に、
打ち上げ続けているというのだ。
ベテラン格の坂本が驚いている時点で
それがどれほどの神業なのかが窺い知れる。
バシュンッ!
『ッ!!?』
ノアールの顔が焦りの表情になった。
それと同時に遠くの方で
何かが水に落ちる音が聞こえた。
「ここまでで19発命中……
最後の一撃が決まっていれば、
いい締めだったんだがな」
『……情けない限りです…』
「何を言う。突然のことで少しばかり驚いたが、
不規則に落下している標的を正確に捉えて
打ち上げ続けていたんだ。
ネウロイにもそういった不規則な動きをする個体が
いることは確かだ。これだけでもお前の実力が
私の期待以上であることの証左に他ならない」
『ですが20発で打ち砕くはずだった標的を
19発しか当て続けられなかった挙句に撃ち漏らした……
それはつまり、実戦では20機の敵の内1機には
自分が撃ち抜かれてしまうということになります。
訓練とはいえ恥ずべき結果です……』
「はっはっはっは!なんというか、
お前は宮藤とは違う意味でおかしなやつだな。
だが、扶桑の侍にも通ずるその精神、
私は好ましく思う」
『……恐縮です、坂本少佐』
坂本の賞賛の言葉を受け取ったノアールだが、
その表情は自身の失敗に対して
悔しさを滲ませていた。
続いてはストライカーを用いた飛行訓練のため、
一同は滑走路の先端からハンガーへと向かう。
「ノアールさん凄いですね!
私じゃ全然見えない的を撃つだけじゃなくて、
打ち上げ続けられるなんて!」
ハンガーへと向かう最中、宮藤は興奮した様子で
先のノアールの神業を称賛する。
だがノアールは――――
『……また階級呼びが無くなってますよ宮藤軍曹。
賞賛の言葉はありがたく受け取りますが、貴女はまず
銃器への耐性をつけることから始めてください。
戦場において武器を持たない者は
逃げるか死ぬかの選択肢しかないんですから……』
「っ!!……は、はい……」
ノアールの淡々とした注意に
宮藤の興奮は一気に冷め切り、
気落ちした表情になる。
「でも、宮藤さんの言う通り凄いですよ。
私なんかじゃあんなこと……」
『当然でしょう。そもそも自分と
ビショップ軍曹の扱うものが違うんですから。
そのことに気後れするのはお門違いというものです』
「え…?」
『汎用性に特化したものと
一点に特化したものの性能を比べるのは
愚の骨頂です。自分から言わせてもらえれば、
正確性と威力の高い一撃を撃ち放てる
ビショップ軍曹の方が優れていると感じますが…?』
「そんな!私なんて、
実戦じゃ訓練通りになんて出来ないのに……」
『それは仕方ないでしょうね。
戦場とは常に動いているのですから…
いつでも都合のいいコンディションとは
いかないでしょう……』
「うぅ……」
そんなやり取りをハンガーに向かう一同の中で
先頭を歩いていた坂本が聞き耳を立てながら
思案する。
「(宮藤に対しては軍人としての心構えを説く
姿勢を見せるが、余りにも素っ気なさすぎる……
リーネにはフォローする姿勢を見せるが、
その後がお粗末だ……
ミーナから聞いてはいたが、
コミュニケーション能力に難ありだな…
私個人としては、
この姿勢は嫌いではないのだが……)」
ハンガー内に到着した4人は
発進ユニットの後ろに集結する。
するとそこへ先のブリーフィングで出て行った
ペリーヌが現れる。
「坂本少佐、私も参加させてください!」
「おお、新人と一緒に自主訓練とはいい心がけだ!」
「え、ええ……二人ずつペアを組めば、
やりやすいでしょうし…////」
「気が利くな、ペリーヌは♪」
坂本の言葉に顔を赤くし
憧憬の視線を向けるペリーヌ。
その様子を不思議そうな目で見る宮藤。
「私はペリーヌ・クロステルマン、ガリア空軍中尉。
坂本少佐にはとてもお世話になっておりますの。
今日は貴女に付き合って差し上げますわ」
「ありがとうございます!一生懸命頑張ります!」
「フンッ……」
「……あれ?」
ペリーヌの自己紹介と気遣いに頭を下げる宮藤だが、
そっぽを向かれたためにどうして?と首を傾げる。
『では、ペアは坂本少佐とクロステルマン中尉、
ビショップ軍曹と宮藤軍曹。
自分は宮藤軍曹とその都度交代して飛ぶ、
という形になるのでしょうか?』
「いや、ノアールは先の実証だけで
お前の実力をほぼ把握できた。
飛行訓練に関しては別の機会に見ようと思う。
以降の訓練は宮藤の練度上げに
集中しようと思ってな」
ノアールの案に坂本は
彼に実証訓練の一時終了を告げる。
練度の差が激しすぎる人間を
二人も抱えて訓練するのはさすがの坂本も
荷が重いと判断したのだ。
ならばここは実力的に申し分ないノアールの
実証訓練をまた後日見るようにして、
宮藤に対する訓練に集中する方が建設的だろう。
『了解。では自分は自室での小休憩の後、
自主訓練に臨みたいと思います』
「ああ。次の飛行訓練でも
存分にその実力を見せてくれ」
『はっ!では宮藤軍曹、ビショップ軍曹、
クロステルマン中尉、自分はこれにて』
「はい、お疲れ様です…」
「お疲れ様です…」
「ええ、ごきげんよう…」
三者三様の挨拶を受けて、
ノアールはハンガーを後にした。
「では、飛行訓練に移る。ペアは……
まあ、先のノアールが言っていた組で
飛ぶのがベストだろう。
実力の練度バランスを考えればな」
「「はい!」」
坂本のペア発表にリーネと宮藤が返事を返す中、
ペリーヌは後ろを振り向いて
喜色の表情を浮かべていた。
「(やりましたわ!
久方ぶりに坂本少佐の僚機で飛べるなんて♪
それもこれも私が提案するはずだったペア割を
ノアールさんが置き土産に
残してくれたおかげですわね♪)」
ノアールの機転で敬愛する坂本と飛べることに
ペリーヌは内心でノアールに感謝の念を送った。
「どうしたペリーヌ?」
「い、いえ!なんでもありませんわ!
ノアールさんの分まで飛行訓練頑張りましょう♪」
「? まあ、やる気充分なのはいいことだ。
では各自、ストライカーを装着しろ!」
「「「了解!!」」」
◇◇◇
翌日、宮藤とリーネの姿は空にあった。
ストライカーユニットを装着しての二人編隊
―――ロッテを組んでの飛行訓練である。
リーネは問題なく飛べているのに対し、
宮藤の飛行姿勢はふらついている。
「なかなか上達しないわね……」
「魔法力はあるんだが、
コントロールができてないんだアイツは……」
リーネの旋回に合わせて遅れ気味で旋回、
もしくはバランスを崩してリーネの旋回軌道よりも
内側を飛んでいる宮藤。
その様子を坂本と、今日はミーナも見学に来ていた。
「リーネさんは、
相変わらず訓練では上手くやれているわね…」
「実戦で訓練の半分でも出せればいいんだが……」
「そうね……」
ヒョイッ
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ミーナが振り返って、
少しばかり坂本から距離を離すと、
その間を低空飛行で宮藤が通り過ぎて行った。
「ノアール君はどうだったの?」
「奴はバルクホルンと組んで
宮藤たちより先に飛んで見せてもらったが……」
「……その様子だと、芳しい結果じゃなさそうね?」
そう言ってミーナが見た坂本の顔は、
釈然としていないといった様子だった。
「ヤツの装備、SUAだったか……
ロッテの前に個別での飛行を見せてもらったが、
正直これまで見たことのない飛行形態で
少しばかり驚いた…」
「美緒でも戸惑う程ということは、相当ね……」
「ああ。確かに今の我々が
ヤツの軌道についていくのはほぼ不可能に近い…
速さとくればシャーリーが適任だと思ったが、
急減速からの別方向への急加速といった
機動性については、スピードが自慢のシャーリーでも
ほぼ不可能だろう」
「だからこそ彼には2番機の立ち位置で
飛んでもらいたいのだけど……」
「事前に読んだ報告書の通り、奴は1番機に
追従する技術が圧倒的に不足している。
遊撃や固定砲台という判断は、
覆しようがないな……」
「そう……」
ノアールの実力を鑑みた坂本でさえも、
バルクホルンが下した彼の立ち位置を
否定することはできないようだ。
「ヤツは
どのようにしてネウロイと戦っていたのだろうな?」
「さあ……彼自身があまり話してくれない
っていうこともあるけど…そういえば、
改めて聞いてみる機会がなかったわね……」
「今度それとなく聞いてみるか?」
「そうね……美緒か私になら、
彼も答えてくれるだろうし……」
その後、ミーナは書類整理のためその場を離れる。
基地内へ戻る最中、
ミーナは前回の軍上層部への報告会であった
ある出来事を思い出す……
◇◇◇
「マロニー大将、少しお話が…」
「なんだね?」
司令部での報告会が終わり、
会議場から退出してすぐにミーナは
トレヴァーの元へと走る。
「ノアール少尉について、
少々聞きたいことがあるのですが…」
「答えられる範囲でなら構わんが?
そういえば、遣欧艦隊救援前に
ヤツと少しばかり話したが、着任後、
君からヤツのことを聞いたことはなかったな。
どうだね?私の虎の子と呼ぶに相応しいヤツは?」
「確かに、あの試作機を用いた戦闘技術においては
言うに及ばず、普段の立ち居振る舞いも軍人として
非常に優秀と言わざるを得ません……ですが……」
「ですが……なんだね?」
「少々……いえ、あまりにも
完成され過ぎていると思うのですが……?」
ミーナはトレヴァーに対して非難の眼を向ける。
トレヴァーはブリタニア空軍の中でも
所謂タカ派の人間だ。
そんな人物が派遣してくる人材がどんなものかと
警戒していたミーナだったが、
まさか魔法力を有している男性・ウィザードだった
というだけでも驚きなのに、それが齢10歳の
少年だったという部分でも驚いたのだ。
正直に語るなら、トレヴァーは
ミーナ達ウィッチーズを快く思っていない。
ネウロイに対して通常兵器が通用しない中、
うら若き魔法力を持つ少女たちが
幾度となく戦果を挙げていく。
勿論彼にだってウィッチに頼らなければ打破できない
今の現状を変えなければならない
という気持ちはあるだろうが……
ミーナが知る限り彼のやり口は、
最早ウィッチたちを何とか蹴落とし、
自分たちが表舞台で活躍できるように工作している
という風にしか感じない。
その矢先のノアールの登場だ。
ウィザードの力は本物で、
実力も最前線に出して問題ないレベル。
だがあのトレヴァーの動向を知っている
ミーナからすれば、そんな秘蔵の子だった彼を
わざわざ自分たちに譲渡する理由に見当がつかない。
軍人として完成され過ぎている点から
スパイの線も疑ったが、主観ではあるが
初日に見せた年相応の戸惑った表情と、
その後の必要最低限なコミュニケーションしか
とらない彼の行動からその線は薄いと判断できる。
コミュニケーションに消極的なスパイなど
スパイ失格である。
「完成され過ぎている……とは?」
「あれほどの逸材が成人前か
成人後の中堅を迎えた軍人であるなら
まだ頷けます……ですが彼はまだ10歳の少年です!
なのにあの一切の無駄がない立ち居振る舞いや
物言い、異常と言っていいほどの
自主訓練の危険度の高さとその行動力。
何処を取ってもあまりにも逸脱しすぎています……」
ミーナは、ノアールのあの異常性は
この男による差し金に違いない
という意味も込めて問い質す。
だがトレヴァーはその言葉を聞いて
少しばかり考える仕草を見せると……
「ミーナ中佐、
軍人として完成していることの何が悪いのかね?」
逆にミーナに問い掛けてくる。
「っ……それは…」
「最前線である君の部隊に
即戦力として使える人材を派遣した。
年齢こそ若すぎるが、
命令に忠実に従う人間が来たことに
何の不満があるのかね?」
「………」
「我々は軍人だ。その軍人である君が
軍人の何たるかで疑問を持つとは……
よもやミーナ中佐、ヤツに個人的な
情が沸いたなどとは言うまいな?」
「っ……そんなことは!!」
トレヴァーの踏み込んだ問いに
ミーナは抗議の眼を向けるが、
彼についてどう配慮するかと考えている
自分がいたこともあり、言葉が続かなかった。
しばらく沈黙がその場を支配するが、
トレヴァーの“ふむ”と言った言葉がそれを打ち消す。
「ならば…君のもとで再教育してみるかね?」
「え?」
「私としては何の問題もなく、
君はヤツを上手く扱ってくれると思っていたが…
君が納得のいく形に再教育したいというのならば、
私は構わないがね…?」
「それは、彼に関しての管理権限を私に…
ないし私の部隊に移譲してくださる……
ということでしょうか?」
「そう捉えてくれて構わない。
だが、私としてはあの形が理想的だと思い
教育させていたんだがね…
完成しているモノに手を加えて
使い物にならなくなる……
そんな結果にならなければいいが……」
「ご安心を……
そのようなことには絶対にさせません……!」
「せいぜいヤツを頼むぞ…?」
トレヴァーの嫌味ったらしい言葉に
ミーナは眉根を寄せた視線で見返した。
◇◇◇
翌日の早朝、基地に鳴り響く
ネウロイ出現の警報で隊員たちは目が覚めた。
「監視所から報告が入ったわ。
敵、グリッド東114地区に侵入。
高度はいつもより高いわ。
今回はフォーメーションを変えます。そして…」
ブリーフィングルームにてミーナが地図と
指揮棒を持って各員に説明をする。そんな中、
フォーメーションの決定権を委ねた坂本を一瞥し、
それに頷いた坂本は出撃メンバーを発表する。
「バルクホルン、ハルトマンが前衛!
シャーリーとルッキーニが後衛!
ペリーヌは私とペアを組め!」
「「「「「了解!(はーい!)」」」」」
「それから…ノアール!」
『はっ!』
最後に名前を呼ばれたノアールが力強く答える。
「お前も遊撃として参戦してもらいたい。
フォーメーションを組んでの訓練はまだとはいえ、
お前の装備の機動力なら味方の弾に
当たったりはしないだろう?」
『了解!誠意奮闘します!』
「うむ、その意気だ!」
それを見届けた坂本はミーナに向き直る。
「残りの人は、私と基地で待機です!」
出撃組と待機組が決定し、前者に選ばれたメンバーは
すぐさまハンガーへと向かい、
基地を飛び立っていった。
◇◇◇
報告のあった空域に差し掛かった時、
魔眼を発動していた坂本が目標である
ネウロイを発見した。
飛行速度はそれほど速くなく、
非常にずんぐりとした外観をしている。
「敵発見!突撃ィーー!!」
前衛のバルクホルンとエーリカが
先行してネウロイに接近し攻撃を開始する。
坂本とペリーヌはコアの特定と護衛のために
高々度でホバリングし、
シャーリーとルッキーニは前衛二人の援護のために
後方から援護射撃を行う。
そしてノアールはというと――――
『(大丈夫……味方の射線に入らないよう意識して
ネウロイを殲滅する!!)』
遊撃という立場にも拘らず、
前衛組と並んで攻勢に出る。
接近しつつ掃射してそのまま離脱する
バルクホルンとエーリカを参考にし、
敵に接近している間光線を放ち続けて
装甲を削る戦法を取る。
すると、どの銃弾が直撃したのか定かではないが、
あっさりと浮力を失って落ちていくネウロイ。
「手ごたえが、なさすぎる……?」
坂本の護衛を務めていたペリーヌは思わず呟く。
前衛と後衛を務めていた4人も同じことを思っていた。
自分たちが攻撃を仕掛けてから……
否、攻撃を仕掛ける前もネウロイ側からの攻撃が
一切なかったのだ。
いつものパターンなら、
ネウロイ側の射程圏内に入ったウィッチたちを
撃ち落すためのビームが放たれていても
おかしくないはずなのに……
だが、そんなことに構っていない者が一人――――
ビーッ!!
前衛と後衛の攻撃が止んでも光線を放ちながら
追い打ちをかけるノアールだった。
「ノアール!深追いしすぎじゃない!?」
『何を言ってるんですかハルトマン中尉!
コアを破壊するまで油断は禁物です!
この動作だってただのハッタリで――――』
「おかしい!」
その時、魔眼でコアを探索していた
坂本が声を上げる。
「コアが見つからない!」
『な、なんですって!?』
「まさか、陽動ですの!?」
「だとしたら基地が危ない!!」
坂本の魔眼は
遠距離視とコアの特定に特化した効果を持っている。
それを用いてもコアが見つからないとなれば、
今自分たちが相対しているネウロイは
ただのハリボテ、もしくは囮ということになる。
ならば、本命こそ強力なネウロイということになる。
凡その主力をこちらに割いている今、
基地の待機組だけでそれを防げる保証はない。
ましてやその内二人は実戦戦績はほとんど無し、
軍人になってまだ数日、というメンバーだ。
ミーナがそんな二人を実戦に出そうとは
思わないだろうと考えれば、
実質戦力は二人しかいない……
より一層不安が募る……
『……坂本少佐!自分が単機先行、
待機組と合流して本命のネウロイを殲滅します!!』
そういうや否や、ノアールは囮のネウロイを尻目に
基地に向かって飛び出していった。
「なに!?待てノアール!!」
「ど、独断ですわよ!?」
突然の事態と
ノアールの有無を言わせぬ意見に戸惑っていた坂本は
既に追いつけない距離まで離れていったノアールを
見送るしかできなかった。
「あのスピード、シャーリーに負けてないよ!?」
「まさかこんな身近にあたしと
肩を並べるくらいの猛者がいようとは……」
「何を暢気なことを言っている!!
我々もノアール少尉に続いて戻るぞ!!」
「なんかノアール、
焦ってるみたいな感じだったよねぇ…」
出遅れはしたが、先行した出撃組は
すぐさま基地に向かっているであろう
ネウロイの迎撃のために、もと来た道を引き返した。
◇◇◇
『情けない……情けないっ……
情けないッ!情けない!!情けない!!!』
基地に戻る道中、
ノアールは戒めのようにその言葉を口にしていた。
『(陽動するネウロイなど……それにも気づかず自分は
ひたすら囮のネウロイを撃ち落そうと……
今この場に拳銃があるなら
まぬけな自分の頭を撃ち抜きたい!!)』
普段の彼の無表情を知る者が見れば驚くだろう……
悔しげに歯ぎしりする表情を浮かべた彼の顔など……
ダダダダッ!!
その時、機関銃の銃声がノアールの耳に届く。
見ると海面スレスレを
何かが通り過ぎたような波紋が広がり、
その先に黒い影が見える。
『(ネウロイ発見!超高速タイプ……
だがこの調子なら、追いつける!!)』
そう思案してノアールが加速しようとした矢先、
ネウロイの上空から追従するように飛ぶ
影が下りてくる。
『(あれはミーナ中佐とユーティライネン少尉!!
けど、あのスピードじゃ追いつけない……
自分が……自分がやらないと!!)』
ノアールはミーナとエイラの高度と
同じ高さを維持しつつ、スピードを上げる。
だが次の瞬間、追跡していた
ネウロイの後方部が分離し、先端部がさらに加速、
切り離された後方部が
追従するミーナ達に襲い掛かってきた。
「加速した!?」
「速すぎる……まずいわね……」
そう言うや否や、エイラとミーナは
切り離された後方部分を躱す。その直後――――
ビーッ!!
パキィィィン
やり過ごしたネウロイの胴体を
ノアールの光線が打ち消した。
「うわっなんダ!?…ってノアール!?」
「ノアール君、いつの間に!?」
『先に出現したネウロイは陽動でした。
ですので急いで戻ってきたんです!』
意外な人物がいたことに驚くエイラとミーナに
ノアールが簡潔に経緯を説明する。
『自分なら奴に追いつけます。このまま――――』
「待って!リーネさんと宮藤さんが
バックアップに回っているわ!」
『っ!? あのネウロイは、
今のあの二人には荷が重すぎるのでは――――!?』
その直後、弾丸が直撃する音と、粉砕音が鳴り響く。
三人が眼前を見据えると、
ネウロイが砕け散った直後に見せる
白い結晶が落ちていく光景が広がっていた。
「リーネさん……できたのね」
バランスを崩して海に落ち、
笑いあって勝利を分かち合うリーネと宮藤を見て
ミーナは顔を綻ばせる。
『………』
「?……どうしタ、ノアール?」
そんな中、無言で少しばかり俯くノアールに
エイラが声をかける。
『いえ、なんでも……
宮藤軍曹とビショップ軍曹両名の救助に向かいます』
着水した時点でストライカーでは飛べないため、
唯一無手のノアールが二人の救助に向かった。
第4話、終了です。
如何でしたでしょうか?
タイトル通り、ノアールは
着任前のあの戦績以降
まったくと言っていいほど良いとこ無しです…
まあコレも次回の伏線ゆえに仕方が無いのですが…
次回はそんなノアールが……
というより、新しい環境下から感じる
ストレスが引き起こす
自分達でも起こりうるかもしれない
ちょっとした事故を描こうと思います。
オリジナル回な上に、
展開的にちょっと早急すぎ、
且つ解釈違いが起こるところもありますが…
自己満足なところが目立つ本作なので
どうかご容赦ください
それでは