Unknown Wizard Chronicle 作:シノギ
スマホ版を先に投稿させていただき、
追々パソコン版を投稿します。
そのためパソコン版の最新話の前の話の表示が
遅れることになりますので、
注意してください。
本内容の中にて若干のキャラ崩壊の描写がありますので
注意してください。
「「アハハハッ♪」」
勝利の喜びを分かち合う宮藤とリーネのもとに
ノアールが回収のために高度を落とす。
そして手を伸ばせば二人に手が届く
という所に差し掛かった時、
笑顔の二人は彼に向き直る――――
その瞳に“嘲り”の感情を込めた
視線を向けながら………
「ああノアールさん、残念でしたね。
せっかく急いで戻ってきたのに、無駄足でしたね♪」
『っ!? 宮藤軍曹、なにを……?』
明るい声音とは裏腹に、
その言葉は明らかに他人を見下すもので、
普段の彼女を知るノアールはそのギャップに
恐ろしさを覚える。
「私たち二人でも倒せる
ネウロイすら倒せないなんて、
何のためにここまで来てるんですか?
ね~芳佳ちゃん♪」
「ね~リーネちゃん♪」
「「アハハハハハハッ♪」」
再び響く二人の嗤い声。
だが先のものと比べて、その声にはノアールに対する
明らかな嘲りが含まれていた。
『ち、違う……自分は……っ』
「どうやら買い被りだったらしいな……」
その声に振り向けば、先行組のメンバーが
同じく非難の眼でノアールを見ていた。
「所詮、お前は口だけ態度だけの
腑抜けというわけか……」
「そんなの私にだって出来るもんね♪」
「そもそも、女所帯の中に殿方を入れること自体が
間違いだったんですわ。穢らわしいッ!」
バルクホルンとエーリカ、そしてペリーヌ。
「ここは子供の遊び場じゃないんだぜ~?」
「や~い、役立たずぅ~♪」
シャーリーとルッキーニ。
「空回りしか出来ないお前なんか、邪魔なんだヨ…」
「……出ていって」
エイラと、この場にいないはずのサーニャ。
その誰もが口にする言葉に、
嘲りや侮辱が込められていた。
『自分は……自分は……ッ!!』
「なあミーナ、
コイツはもういらないんじゃないか?」
坂本の告げた言葉は、ノアールには
振り上げられた死神の鎌のように思えた……
「ノアール君……」
『ミーナ…中佐……』
振り向いて見たミーナは口元に笑みを浮かべていた。
その様子に少しばかり安堵するノアールに
彼女は徐に右手を伸ばす。
頬を撫でるような仕草の手を見たノアールは
何をするのかと呆けていたが…
それが隙だったのだろう――――
ミーナの手が突然ノアールの左眼を隠す前髪を掴み、
引き千切らんとばかりに引き上げたのだ……
『あぁッッ!!』
予想だにしていなかった痛みに
思わず声を上げるノアール。
片眼だけで見たミーナを見やると――――
「アナタはもういらないわ……」
他のウィッチたちと同じ、
嘲りの感情が込められた瞳をしていた……
『うあぁぁぁぁぁぁッッ!!!!』
501部隊の宿舎の一室に叫び声が響く。
ベッドの上で上体を起こしたまま
荒い呼吸を繰り返すノアールは
周囲の様子を見渡して、
ここが自身の部屋だと確認すると、
一度大きく息を吸って呼吸を整える。
『夢か……』
“とある事件”が起こる、数日前の出来事である……
◇◇◇
「え?ノアール君の様子が?」
お昼を過ぎた時間。
執務室にて書類整理をしていたミーナのもとに
報告に来ていた坂本がそんな話を切り出した。
「ああ。訓練の成績自体は問題はないんだが、
段々やつれていってるように感じるんだ。
疲れているなら無理するなと当人に言っても
“問題ありません”の一点張りでな……
それで問題なく訓練を続けられているのだから、
流石の私もどう奴に声をかければいいのか……」
「なら、上官命令として彼を休ませれば……」
「それはもう試したさ……
その時は命令を聞いているように見えたんだが、
ルッキーニやハルトマンから聞いた話だと、
ノアールは隠れて自主訓練をしているらしい……」
「なっ!? まさか、私が禁止した訓練をまた!?」
ミーナの書類整理をしている手が止まる。
「いや、さすがにそこまではしていないらしい。
そういう行動に伴ってか、訓練の時以外、
奴が私達と行動を共にするのを
意図的に避けている節すら見えるんだ……」
「いったい彼に何があったのかしら……?」
ノアールの自身の健康状態を顧みない行動……
部隊内から孤立するかのような行動……
それらの原因が何なのか……
二人は思考を巡らせる……
「なあミーナ、これは私の推測なんだが……」
「なに?」
「恐らくノアールは――――」
ガチャン!!
その時、執務室のドアが乱暴に開け放たれた。
「中佐、大変だよ!!」
訪問者はルッキーニだった。
その表情はいつになく切羽詰まっている様子だった。
「どうしたルッキーニ!?」
「あ!少佐もいたんだ…」
「ルッキーニさん、何があったの!?」
坂本がいたことに少しばかり勢いが
収まるルッキーニ。
立ち上がって先を促すミーナの言葉にルッキーニは
慌てて訪問した理由を答える――――
「ノアールが階段から落ちちゃった!!」
◇◇◇
ルッキーニの言った事態が起こったのは、
少し時間が遡った基地内の廊下での
出来事が発端だった。
訓練時間が終わり、
宮藤とリーネは汗を流すために大浴場に赴いた。
その先で偶然先に入っていた
シャーリーとルッキーニと合流し、
共に風呂から上がって基地内を歩いていたのだ。
「ルッキーニちゃん、最初の時もそうだったけど…
急に人の胸を触るのはどうかと思う……」
「え?だってこの前より成長したか
気になったんだもん。結局残念賞だったけど♪」
「うぅ……」
ルッキーニの恒例ともいえる
胸の大きさ診断を受けた宮藤が抗議の声を上げるも、
以前と何ら変わらずという
カウンターを受けて気落ちする。
風呂場では必然的に全員生まれたままの姿に
なるため、無防備になるのは当然だが…
いくら同姓とはいえ胸を触られた挙句、
評価されるなど女性として
物申したい気にもなるだろう。
とはいえ宮藤の発言が後に
自分に返ってくるようなことになろうとは……
そこで宮藤はふと疑問を持った。
「そういえばルッキーニちゃんって、
ノアールさんには私にやったみたいなことしたの?」
「えっ!?」
宮藤の問いに、表情が固まるルッキーニ。
そしてそのまま余所余所しい様子を
見せ始めたことに、宮藤もリーネも、
そしてシャーリーでさえも少しばかり驚く。
「そういえばノアールが着任してきた時、
ルッキーニってばそういうことしなかったよな?
“ホントに男なの?”って感じで
胸元に掴みかかるかと思ってたのに…」
「ルッキーニちゃん、ノアール少尉のこと苦手なの?
同い年くらいなのに…」
「うん……えとね……
ノアールって……なんか怖い……」
「「「怖い……?」」」
ルッキーニのノアールに対する感想に
3人は声をそろえて驚く。
「あたしと同い年くらいだから、
仲良くなれるかなって思ったけど…
全然笑わないし、バルクホルンみたいに
規則規則って言ってるし、
近づくだけで変な感じするし…
よくわかんなくて怖い……」
ルッキーニは軍に所属していて階級こそ少尉だが、
感性は年相応のままだ。
故に戦闘においては理論理屈よりも
本能に従って動くことが多く、それがいい意味で
部隊に貢献する要因にもなっている。
とはいえ、逆も然りだが……
そんなルッキーニを姉のように、
または母親のように見守ってきた
シャーリーもルッキーニが感じたことを
疑うことは殆どしない。
そして宮藤やリーネもルッキーニの言い分には
同意できるところがあったため、
彼女の感じた印象を否定することはしなかった。
すると――――
「ん?あれってノアールじゃないか?」
噂をすればなんとやら……
自分たちが歩いていた廊下の先から
こちら側に歩いてくるノアールの姿が見えた。
だがその様子は、
どこか心此処に在らずといったもので、
足運びも覚束ない様子だ。
そんな彼が廊下の間にある階段の
下り側に差し掛かろうとした時――――
頭を押さえて階段の手すりに
寄り掛かる様子を見せた……
「ノアール少尉、
なんだか様子おかしくないですか?」
「なんか寝ぼけてるみたいな感じ…?」
「ここ最近やつれてる感じがしたな
と思ったらやっぱりか!!」
「私、ちょっと様子見てきます!!」
診療所の娘たる所以か、
宮藤が率先してノアールの元へと走る。
ノアールの元へとたどり着いた時には、
丁度階段から降りようとしていた時だった。
「ノアールさん大丈夫ですか!?」
『っ!! 宮藤軍曹、
また階級呼びを忘れてますよ……
いい加減に覚えて――――』
「そんなことより!
ノアールさん今さっきフラついてましたよね!?
そんな体調でさっき坂本さんの訓練を
受けてたんですか!?」
メニューが別とはいえ、坂本の訓練を
一緒に受けていた宮藤も先までノアールが
訓練を受けていたことは知っている。
その時にはこのような様子を見せなかったのに、
今はもう何故この状態で訓練が
受けられていたのかと疑問が募る。
『これは自分の問題です。
貴女が気にすることじゃありません……』
「それでも心配なんです!ノアールさん
無理してるんじゃないですか?坂本さんに
休ませてもらえるように言いましょうか…?」
『……気遣いは無用です。
これくらいの疲労は以前の部隊では
日常茶飯事でした。戦果を挙げるためなら、
今更このくらい……』
「ダメですよ!!」
ノアールが階段を降りようとしたところを、
宮藤が肩を持って止めようとする。
それを振り払おうとノアールが振り向き
宮藤を見やる。
その瞬間、宮藤は見た――――
ノアールの顔が、これまで見たことのない
恐怖一色に染まっていたのを……
『ひっ!!』
信じられない光景に固まっていた宮藤の手を
ノアールが振り払う。
だが不幸にも、
ノアールが立っていたのは階段の段差の途中で、
宮藤の見立て通り彼の体調は万全でなく、
さらには恐怖の余り
力んだ振り払い方をしたことが要因となり――――
ノアールの身体がバランスを崩して、
階段下の踊り場に倒れ伏すことになってしまった……
「ノアールさん!!」
宮藤の鬼気迫る声に、
小走りで近づいていたリーネたちは
すぐさま宮藤の元へと駆け付ける。
それと同時に、階段下の踊り場で倒れている
ノアールの姿も見える。
「ノアール!?」
「おい!しっかりしろノアール!!」
階段下に急いで降りたシャーリーが
ノアールを抱き上げて声をかける。
ルッキーニもこの時ばかりは非常時として
シャーリーに追従してノアールに駆け寄る。
遅れて宮藤とリーネも駆けつけて、
ノアールの様子を見る。
『自分は…………役立たず……なんかじゃ……』
その言葉を最後に、
ノアールは意識を失ってしまった。
「すぐに医務室に運ばないと!
宮藤!あたしがノアールを運ぶから
その間治癒魔法を頼む!」
「はい!」
「リーネは先に医務室に行って
医者がすぐに診られるように連絡してくれ!」
「わかりました!」
「ルッキーニは中佐たちにこのことを報せるんだ!」
「わかった!!」
シャーリーが冷静にそれぞれ指示を出し、
リーネとルッキーニは
それぞれ目的の場所へと走っていき、
宮藤は治癒魔法を発動しながら
シャーリーと共に医務室へと走っていった。
◇◇◇
『……ん』
意識が覚醒したノアールが最初に見たのは、
自分の部屋ではない天井だった。
上体を起こし周囲を見渡すと、
心電図を表すモニターとそれに繋がれた
大きな機器が置かれており、
清潔感の保たれた部屋であることが窺えた。
『医務室……か……』
その部屋が何処なのかを判断したノアールは
窓の外を見やる。
眠っている間に天気が変わったのか、
空には雲が広がっていた。
部屋にかけられていた時計を見ると、
自分が記憶している時間から
1時間弱ほど経っているようだった。
それを確認した彼は徐に
“前髪で隠れた左眼”辺りに手を当てる。
すると、何かしかの違和感を感じたのか、
すぐさま周囲を見渡す。
結果、ベッド脇の机の上に置かれた自身の軍服の上に
“目的のモノ”を見つけて安堵の表情を浮かべ、
それに手を伸ばす。
するとそこへ――――
「ノアール君…?」
『っ!! ミーナ……中佐……』
見舞いに来たであろうミーナが、
ノアールが起きていたことに驚きの顔をしていた。
ノアールはすぐさま目的のモノを取ると、
腰にかかっていた布団の中へと隠し、
少し俯き気味になる。
『ご心配をおかけしました。
もう大丈夫ですので、すぐに軍務に――――』
「待ちなさい…」
ミーナのその言葉で、
ベッドから出ようとしたノアールの動きが止まる。
「ノアール少尉、
貴方は絶対安静と医師から診断されました。
ですのでもう一日だけ、体調回復に務めなさい」
『なっ!?』
ミーナの言葉にノアールは狼狽する。
『何故ですか!?倒れたとはいえ、
今は特に体調不良もありませんし!!』
ノアールの弁明にもミーナは
首を縦に振ろうとしない。それどころか、
何か言いたげな表情でノアールを見ていた。
「ノアール君、貴方…
自分がどれくらい眠っていたのかわかってる?」
『どれくらいって……ほんの一時間ほどじゃ……』
「丸一日よ……あなたが眠っていたのは……」
ミーナの言葉に言葉を失うノアール。
窓から見えた空の天気が違うのは当たり前…
既に一日経過していたのだから……
『……申し訳ありません。
このような些事で、皆さんにご迷惑を……』
申し訳なさを醸し出している表情をしたノアールが
ミーナに向き直り頭を下げる。
そんな彼の様子を見て、
ミーナはベッドの脇にあった
見舞い人用の椅子に腰掛ける。
「“自分は役立たずなんかじゃ”……」
『っ!!?』
「シャーリーさんが、貴方が気絶する直前に
そう言っていたのを聞いたのよ」
『………』
自分が無意識にその言葉を呟いていた事実に、
ノアールは口を噤む。
「ここには私と貴方しかいないわ。
どうしてそんなことを言ったのか、教えてほしいの…
もしかして、誰かにそう言われたの?」
『……実は――――』
それからノアールはぽつぽつと話し始める。
数日前――――
リーネが宮藤と共にネウロイを撃墜した
あの日の夜から見るようになった
“部隊の全員が自分を責め立てる夢”のこと……
同じ夢を何度も見ては起きてしまうため、
満足に眠れていなかったこと……
そんな夢を見る内に、現実の部隊員全員が
本当に自分をそう思っているんじゃないかと
思い始めていたこと……
『自分の使命はネウロイを殲滅すること……
以前の部隊にいた頃から
ずっと自分に課してきたことです……
それがこの部隊に来てからは、
まったくもって皆さんの役に立てていない……
皆さんが原因じゃないことはわかってます…
自分の力不足だと……
だからより一層の努力をしているのに……
全く戦果が出ていない……
このままじゃ本当にあの夢のように
皆さんに見限られてしまう……
そう思ったら不安で仕方なくて……
訓練に没頭すれば忘れられるからと思って…』
ミーナはノアールの今日まで
心の中に燻ぶっていた蟠りを聞き、
坂本の報告にあったノアールの行動の理由の
大半を理解した。
そしてノアールが医務室で眠っている間に、
坂本が執務室で言おうとしていた
ノアールに感じた印象を思い出していた――――
“「奴はこれまで経験してきた戦いの中で、
自分の実力の範疇で失敗したことが
ないのかもしれん……あったとしても
どうにか取り戻せた、
もしくは取り戻す機会があったか……
そういう折り合いがついていたから、
なんの問題もなく戦えていたのだろう……
だがこの部隊に配属になり、目的が同じとはいえ
他人を意識しなければならなくなった……
それ故に自分の戦い方が出来ずに失敗して、
他人がフォローしてくれるとはいえ、
それを自分の失敗を他人に押し付けているような
罪悪感を覚える……
そういう意味で他人と距離を置いてしまう悪循環…
頼りになるのは自分のみだった人間が
陥りやすい思考をしているのかもな、奴は……」”
ミーナは改めてノアールに尋ねる。
「ノアール君、貴方の以前の部隊の話……
もっと言うなら、貴方自身のことについて聞かせて?
貴方の不安や悩みを聞く以前に、
私は貴方について知らなさすぎる……」
『……でも、これは自分の問題で』
「そうかもしれない。
だけどそのために貴方はこうして倒れてしまった。
部隊長として……
という理由がないと言えば嘘になるけど…
それ以上に私は……いえ、私たちは貴方が心配なの。
お願い、貴方のことを教えて?」
ミーナの懇願する顔に後ろ暗いものが感じられない
と感じたノアールは
少しずつ自身の過去を話し始めた――――
◇◇◇
曰く、彼は幼かった頃の記憶がない……
両親の顔どころか、いたのかすら覚えていない……
生きているのかもわからない……
魔法力を有しているとはいえ、
性別上の関係でウィッチ隊に配属させられず、
以前の部隊は自分一人で戦っていた……
そんな、存在が曖昧な自分――――
ノアール・ルーにとってネウロイと戦うことは、
自分という存在を誇示する唯一の希望だった……
それ以外の生き方を知らない彼にとって、
戦うことをやめることは、
自分の存在を否定すること……
もっと残酷に言うならば
“死ぬ”ことと同義だったのだ……
◇◇◇
話し終えた後のその場の空気は案の定、
陰鬱なものだった……
ミーナは予想すらしていなかった彼の過去に
言葉を紡ぐことができなかった……
彼が年不相応な態度をとる理由も……
大人顔負けの論戦ができる理由も……
軍人として完成され過ぎている理由も……
総てはそんな殺伐とした過去を
乗り越えてきた末に身に着けた
悲しい結果だったのだと……
ミーナは改めてノアールを見据える――――
世界で唯一のウィザード……?
完成され過ぎている軍人……?
何処がだ…?
そこにいるのは、
親の愛情を受けるはずだった時間を無くし、
すべて戦争に費やしてその身を削り、
最早ボロボロという言葉すら生温いほど摩耗し切った
“ただの子供”だった……
「ノアール君、ごめんなさい……」
そんな彼に、ミーナはまず謝罪した。
『何故、ミーナ中佐が謝るんですか?』
「今回の一件は、貴方と十分な交流を
速やかに実施しなかった私にも責任があるわ……
貴方が軍人として完成され過ぎている
先入観に囚われて、
その実態を知ろうとはしなかった……
しばらくは規則に則って他の男性職員より
少し交流がある程度で構わないと
奢っていた私の落ち度よ……」
ミーナ自身も、
いずれはそういう機会を設ければいいと
考えてはいた…規則を踏まえたうえで
少しずつ交流を重ねていけば、彼との距離も
縮まっていずれは良好な関係になるだろうと……
だが彼女が思っていた以上に
ノアールの抱えていた闇は深すぎた……
そのためにこのような事態が起こってしまった……
『それで構わなかったんですよ。
ミーナ中佐の危惧していることは理解しています。
それを踏まえたうえで皆さんとは
必要最低限の交流だけで良しとしていたんですから。
戦うこと以外に価値のない自分なんて――――』
「ノアール君!それ以上言わないで!!」
彼自身に落ち度は殆ど無いにもかかわらず、
ミーナを弁護しようとするノアール。
そんな彼の手を握ってまで言葉を遮ったミーナの
必死な姿にノアールも呆け顔になる。
彼が次に口にする言葉など、想像に難くない……
ミーナはこれまでの戦いの中で、
彼のような
忘れることさえ出来はしない“彼”も
同じような
言うなれば、背水の陣――――
今ですら無残な有り様なのに……
そんな心情を持って戦い続けていれば、
いつかこの子は命を落とすだろう……
命令とあらば、躊躇いもなく
自ら命を投げ出すだろう……
もしそうならなかったとしても、身体が……
心が壊れてしまう……
こんな幼い少年が……
誰にも理解されないまま、
愛されることもないまま……
戦うことでしか自分を証明することもできずに……
そんな痛々しい彼の姿にミーナは
声を上げずにはいられなかった。
彼女も理性ではわかっている……これはエゴだと……
部隊長として、規則を定めた者として、
これ以上深入りするべきではないと……
だが、この501部隊の隊員たちを
家族のように想っている彼女の心の中では、
最早彼を他人と見ることなどできなくなっていた…
偶然とはいえ知ってしまったから…
様々な事情を抱えて集い
戦っている自分たちと同じように、
彼もまた暗い事情を抱えて戦っていたことを……
でも、まだ間に合う…この子を迎え入れて
最初に感じた思いを再び思い起こし、
彼の眼を見つめる。
取り返しがつかなくなる前に……
「ノアール君、もういいのよ…
一人だけだったかつての部隊と違って、
ここには同じ目的を掲げて戦う仲間が、戦友がいる。
貴方一人だけが責任を感じる必要はないのよ?」
身を乗り出すように自身を見つめるミーナに対して、
ノアールは俯きをさらに深くする。
『でも……』
「貴方の信念を否定するわけじゃないわ。
その姿勢はとても大切なことよ?
でもね……いつも一人だけで抱えられる問題が
起こるわけじゃないわ。
それが積み重なって、いつかは限界が来る。
そうなったら、また今度みたいに倒れて
迷惑がかかることになるのよ?」
『なら…どうすれば……?』
その言葉にミーナは苦笑する。
この子はあまりにも不器用すぎると…今の彼なら、
部隊の皆とも打ち解けられるかもしれない
という希望が見えてきた。
「貴方はまず、誰かに頼ることを覚えないとね?」
『誰かに、頼る?』
「他人への甘え方…って言えばいいのかしら…
この前のリーネさんと宮藤さんのことだって、
リーネさんが故郷であるブリタニアを守るって
プレッシャーを、訓練もまだ未熟だった宮藤さんが
支えてくれたからこそ得られた勝利だったんだから」
『あの二人も……』
「だからある意味、
今の貴方と心情的に近しいあの二人から
交流を始めるのが難易度的には
優しいんじゃないかしら…?」
『でも自分は、軍務以外の会話というものを
したことがありません…
そんな自分と話しても、
皆さんが疲れるだけじゃないかと……』
「趣味とか、特別な日課にしていることはないの?
そういうものから会話が弾むこともあるんだけど…」
『そういう類のものもありません。
そういった時間も訓練に
費やしてきたものですから……』
思っていた以上に事は上手く進んでくれないと
ミーナは思った。
趣味が訓練等とくれば、
既に軍務の中での訓練で好印象を持っている
坂本が喜びそうな話だが…
事実、以前彼女との通信でそういったところから
話を広げれば……というやり取りをしたとはいえ――――
「(考えてみれば、
彼と一番相性がいいのは美緒かもしれないわね……
でも、それだと本末転倒だし……)」
堅苦しさを無くすために“遊び”の部分を作ろうとして
結局軍務に繋がっては元も子もない…
ミーナは顎に手を添えて思考する。
リラックスさせるために指導する等、
ミーナ自身もあまり経験のないものだった。
元々彼女も仕事人間――――
言うなればワーカーホリックの気があるため、
ノアールに提案しておいて自分にも
そのための一案がなかったことに
反省を覚える。坂本のことをどうこう言えない。
ならばいっそ、任務以外を趣味や遊び、
休息に費やしているメンバーに
頼ってみるのもいいのではないか?
とミーナは思案する。
趣味というカテゴリーで言えばシャーリー。
少しばかり似通うが、
遊びというカテゴリーで言えば、
同年代というのも加味してのルッキーニ。
休息というカテゴリーにおいてはエーリカが――――
「(いえ、ソレはやめておきましょう……)」
『…?』
そこまで思考してミーナは首を振る。
後天的とはいえ、かつての生真面目だった
エーリカ・ハルトマンを“あんな風”に
変えてしまったのは、同じ原隊にいた
“自称伯爵のとあるウィッチ”の
影響を受けてしまったからだ。
戦いにおいては優秀と言わざるを得ないが、
私生活があまりにも悲惨すぎるのだ……
ノアールをそんな彼女に任せてしまえば
どうなるか……結果は言わずもがなだろう…
下手をすればバルクホルンが
毎朝起床を促す労力が2倍になりかねない……
そこでミーナは、ふとノアールの顔を見やる。
そしてリラックスを促す前に
やるべきことに気づいた。
「そうだわ。まずはお互いに相対した時に
印象を明るく見せる必要があるわね」
『印象を…明るく…?』
「ええ。貴方って目線こそ合わせてくれるけど、
俯き気味のせいでまるで睨んでるように
見られるのよ。今もそう」
『これは……その……最早クセと言いますか……』
「なら直した方がいいわ。貴方は受け答えは
きっちりしてるのだから。それから、
その左眼を隠してる前髪を上げて――――」
『ぇ……?』
ノアールは、
その光景がゆっくり流れていく感覚に襲われる。
“ミーナ”が“右手”をノアールの“前髪”に伸ばす……
次の瞬間――――
パンッ!!
乾いた音が医務室に響いた。
ミーナは今まさにノアールの前髪に
伸ばされていた右手に痛みが走ったのを感じて、
自分が手を振り払われたのだと自覚した――――
他ならぬノアールの手によって……
「の、ノアール…君………ッ!?」
だが、ソレと同じくらいの“驚愕の光景”が
見えたことでミーナは言葉が途切れる。
そして、ミーナの手を振り払ったノアールは――――
『……いら……ない……自分……いらな……い……』
前髪もろとも左眼を両手で覆い隠し、
今まで見せたことのない狼狽えた様子で
身体を震わせていた。
「ノアール…君…」
『ッ!!』
ミーナの声にノアールは反応するが、
最早先ほどの落ち着いた様子ではなかった。
彼女を見る目はカッと見開かれ、
口元もわなないていた。
『ご……ごめ……な、さい……
ごめん……な……さい……』
ミーナの赤くなった手を見、
自身が仕出かしたと自覚したノアールは
震える口で謝罪の言葉を口にする。
だがその言葉は軍人としてのものではなく、
むしろ子供の謝罪としか言いようがなかった……
ダンッ!!
「ノアール君ッ!!」
ミーナの制止の声も聞かず、
ノアールは医務室から飛び出す。
すると――――
「うわっ!! ってノアール!?」
『ッ!?』
医務室から出て聞こえた声にノアールは眼を向ける。
見ると、突然医務室から出てきたノアールに
驚いたシャーリーを筆頭に、ルッキーニ、リーネ、
宮藤といった彼を医務室に運んだ際にいたメンバーが
そこにいた。
だが、今の彼の眼には――――
『ち、違う……自分…は……
役、立たず……なんかじゃ……ッ!!』
自分に嘲りを込めた視線を向ける
“あの夢”の彼女たちにしか見えていなかった。
『うあぁぁぁァァッッ!!!』
その視線から逃れるように、
ノアールは脱兎のごとく逃げ出した。
「ノアール君!! あっ……みんな、来ていたの?」
「お見舞いに、と思って……」
ミーナが彼女たちがいた理由を尋ねると、
宮藤の言う通り、持っていたバスケットには
ノアールのためにと作られた
サンドイッチやおにぎりが入れられていた。
「そう……。各員、ノアール君を探して!
今この場にいない人たちにも通達!
ただし、捜索人員はウィッチだけに限定!
もし見つけても、
あまり刺激しないようにとも伝えて!」
「わ、わかりました!」
「すぐ皆さんに通達します!」
宮藤とリーネがこの場にいないウィッチへと
伝えるためにその場を後にする。
その場に残ったのはミーナとシャーリー、
そしてルッキーニのみとなった。
「中佐、ノアールの奴なんか怯えてる
みたいだったけど……なんかあったのか?」
シャーリーの問いに応えず、
ミーナは振り払われた自分の右手を見て呟く。
「私は……彼の触れてはいけない古傷までも、
暴いてしまったのかもしれない……」
あの時、ノアールがミーナの手を振り払った瞬間、
余りの勢いで前髪が巻きあがった。
そして露になったノアールの左眼……
というより顔の左眼周囲が――――
完治しているものの、
明らかに火傷を負った痕が残っていたのだ……
◇◇◇
宮藤とリーネの通達により、
あの場にいなかった坂本、ペリーヌ、バルクホルン、
エーリカ、エイラ、そしてサーニャが
ノアールの捜索に参加した。
ミーナの指示通りウィッチのみで
捜索することになり、人数は11人。
二人一組で捜索することになった。
その中で固有魔法
“三次元空間把握能力”を持っているミーナと
固有魔法“魔導針”を持つサーニャは
それぞれ別の誰かとペアを組むことになり、
さらに基地内の至る所に秘密基地を自作し、
暇さえあれば基地内を探検している
ルッキーニは単身でも問題ないとし、
バルクホルンとエーリカ、ペリーヌとシャーリー、
サーニャとエイラ、宮藤とリーネ、
坂本とミーナという組で探すこととなった。
だがここにきて厄介な事態が発生する。
それは――――
ザァァァァ……
「雨…ですわね……」
「マズいぞ……
基地内に居なかったから外だと思うけど……
雨風が凌げるところにいてくれればいいが……」
ペリーヌたちの言う通り、
それなりに強い雨が降り始めたのだ。
絶対安静と言われたノアールがこの雨の中、
吹き曝しのままでいればどうなるか……
結果は言うまでもない。
二人と、今この時同じく捜索しているウィッチたちは
ノアールがせめて雨風が凌げるところにいてくれ
と願った。
そんな中、唯一単身でノアールを探す
ルッキーニはというと――――
「ノアールゥゥーーー!」
基地の建屋の一つである屋根の上に昇り、
大声でノアールを呼んでいた。
「う~ん……どこ行っちゃったんだろう……」
ルッキーニはいつになく真剣な表情で周囲を見渡す。
知っての通り、ルッキーニはノアールに対して
第一印象はあまりいいものではなかった。
彼の放つ得体の知れない気配に気味の悪さを覚え、
年齢特有の無遠慮さを出すのも憚ったほどだ。
そんな彼女が何故今になって
ここまで真剣に彼を探そうとしているのか……
それは、医務室から飛び出してきて
自分たちを見た時のノアールの怯えた表情が
理由だった……
501においては鳴りを潜めているが、
かつての彼女は原隊では問題児扱いされていた。
その度に厳罰を受けて、
それと同じ数だけ怯えた表情を浮かべていた。
お叱りを受けることはあるが、年齢に沿った罰
であると共に、慰める役割を担う
シャーリーという存在がいるおかげで
原隊の時ほど酷いものではなくなった。
そんな経験をした彼女だからこそ、確信したのだ。
ノアールも怯えたり、
逃げ出したりすることもある……
自分と何ら変わりない存在なのだと……
ルッキーニが屋根から飛び降り、
森の中を探し始める。
そして、基地の至る所に作った中でも数少ないが、
雨が降った時のためにと、
不要になった木材を重ねて作った
屋根が付いた秘密基地が近くにある場所に
差し掛かった時――――
「あっ!」
ルッキーニが思わず声を上げる。
『ごめんなさい……ごめんなさい……
ごめんなさい……』
その秘密基地の中で
ひたすら謝罪の言葉を呟き続けるノアールが
うずくまっていた。
「ノアール…?」
『ッ!!?』
ルッキーニの呼びかけに、
ノアールは身体を震わせ、そのまま話し出す。
『ルッキーニ…少尉……』
「大丈夫…?」
『な、なにを……しに来たん……ですか……』
平静を装っているようだが、
震えている声で台無しだ。
「ノアールが飛び出して行っちゃったから……
みんな探してるよ?」
『探して……自分は……厳罰に……
処されるん……ですか…?』
「大丈夫だよ!
あたしもミーナ中佐に何度か怒られたりしたけど、
水の入ったバケツ持って立たされたり、
坂本少佐の特別訓練とかやらされたりとかだったし、
ノアールだってきっと――――」
『自分が仕出かしたことは、
そんなことで済ませられる問題じゃないんです!!』
「え?」
「どうしたの芳佳ちゃん?」
偶然か、ルッキーニとノアールのいる場所から
ほど近い丘の下を歩いていた宮藤の耳に
その声は聞こえた。
その様子にリーネは声をかける。
「今ノアールさんの声が聞こえた気がする」
「ホント?」
「うん、この上から!」
「あっ!待って芳佳ちゃん!」
宮藤が駆けだしたのを見て
リーネも急いで駆け出した。
『役立たずと……皆さん思ってるんでしょ……?』
「え?」
『自分はいらないんですよね……?』
「ノアール……」
『そうですよね……
ここには選りすぐりの方々がいるのに、
自分が出しゃばってきたところで
何の足しにもならないですよね……
宮藤軍曹やビショップ軍曹でさえ
戦果を挙げられてるのに、自分には何もない……
何もない自分なんか、ただ邪魔なだけですよね……?
おまけに自分のこの顔を見られたくないからって、
ミーナ中佐に……上官に手を上げるなんて……
自己中心的ですよね……』
ノアールの口から語られるのは、
ひたすら自分を否定する言葉だけだった。
そんな彼の様子を見ていたルッキーニは、
彼の言葉をほんの少ししか理解できなくても、
彼が自分を苛め抜いてしまうほど
落ち込んでいるということは理解した。
「ノアール……あたしもね……
逃げちゃった時があったんだ……」
『……ぇ?』
「マーマに会いたくて……
隊を抜け出したこともあるし……
この501に来てからも色々やっちゃってたんだ……。
でも、中佐はちゃんと話を聞いてくれて
怒ってくれるし、シャーリーが時々
慰めてくれるから、この部隊に来れて
よかったって思うんだ…」
ルッキーニが語りだした自身の失敗談。
その告白にノアールは耳を傾ける。
「他の皆もね、時々失敗して
怒られちゃう時もあったし、
ノアールのことだって同じことだよ!」
『同じ……こと……?』
「ちゃんと話して、
ごめんなさいって皆に言えばきっと許してくれるよ!
中佐だって、ノアールに謝りたいって
言ってたし……」
『……』
ルッキーニの言葉に
未だノアールは不安を感じているのか
満足に顔をあげもしない。
ノアールを元気づけるにはどうすればいいか――――
ルッキーニが考えているのはただそれだけだった。
最早最初に感じていた得体の知れなさなど
気にも留めていない。
そして、一つの結論に至った――――
ギュッ
『ぁ……』
ノアールは予想だにしなかった感触に呆け、
抵抗すら忘れてしまった。
屋根のおかげで雨が当たる割合は減っていたものの、
ここに来るまでの間に濡れたせいで身体は
少しばかり冷えていた。
だというのに、自分の顔から頭に感じる
この温かな感触はなんだ?
右眼の視界に至近距離で映っているのは、
先まで離れていたはずの緑のタイが
蝶型に結ばれた白い衣服。
その隙間から見える褐色の肌。
押し当てられていることで感じる
子供特有の柔らかさ。
さらには自分の肩や背中には
抱き寄せるように腕が回されている。
そう、ノアールは今
ルッキーニに抱き寄せられているのだ。
『ルッキーニ少尉……なにを!?』
「シャーリーがね……
あたしが怒られて落ち込んでた時に、
たまにこうしてくれたんだ。
マーマもそういう時、よく抱きしめてくれてね…
だからノアールもこうしてれば
きっと元気になるかなって…♪」
そう言われたノアールは、改めてルッキーニに
抱きしめられている感触に感じ入る。
子供特有の高い体温のおかげで
温かさは申し分もなく、無意識なのか
ノアールの背中に回したルッキーニの手は
時々ポンポンと落ち着かせるように軽く叩いている。
『元気になっているのかわかりませんが……
すごく穏やかな気持ちです……』
「そっか、よかった♪……ん?」
『……っ!?なにか?』
「ノアール、その顔……」
『……すいません、こんな火傷した顔……
見たくもないですよね……』
抱きしめているため、必然的にノアールの顔が
ルッキーニに見えやすい位置に来ているのは
仕方のないことだろう。
「それは…あたし気にしないけど……
ノアールって左右で眼の色が違うんだ」
『え……はい』
ルッキーニの言う通り、
ノアールの露になっていた右眼が青色なのに対し、
前髪で隠れていた左眼は紅色だった。
「そんな綺麗な眼してるなら、
顔なんて気にしないよ。自信もって!」
『そうです…か……。初めてです……
この顔を見て……そんな風に……
言われた……のは……』
混じり気の一切ない屈託のない満面の笑顔。
そんな顔を見たノアールは緊張の糸が途切れたのか、
ルッキーニの腕の中で意識を手放した。
「あ、寝ちゃった……ノアールが起きるか、
皆が来るまでこうしてようかな。
シャーリーもあたしが寝るまでそうしてくれたし♪」
そう言って、より一層ノアールを
抱きしめるルッキーニ。
その様子はシャーリーのような母親のよう
とは言わないまでも、
弟を慰める姉のようであった。
そんな二人の様子を
少し離れた草陰から見ている者が二人――――
「ルッキーニちゃん、ノアールさんを見つけたんだ」
「そうだね。ノアール少尉を
ルッキーニちゃんが慰めてるみたい」
先にノアールの声を聞きつけた宮藤とリーネだった。
年少組二人の雰囲気を察知してか、
ここから様子を見ていたのだ。
結果は良好という形になり、二人は安堵する。
「ねえリーネちゃん、
ああして見るとルッキーニちゃんがお姉さんで
ノアールさんが弟みたいに見えない?」
「あ……そうだね。いつもシャーリーさんに
甘えてるルッキーニちゃんをそんな風に
見られる日が来るなんて思わなかったけど」
「うん。知り合ってまだそんなに経ってないけど、
私もそう思う。あ……雨が!」
雨雲の隙間から西日の光が射し込む。
今度のちょっとした事件の終わりに
相応しいタイミングといえよう。
◇◇◇
ルッキーニがノアールを落ち着けて
少しばかり経った後、タイミングを計って
出てきた宮藤とリーネが迎えにくる形で
ノアールはミーナたちの元へと戻った。
罪悪感からかミーナと相対した時のノアールは
再び逃げ出してしまうのではないかと思えるくらい
怯えた様子だったが、
付き添いで隣にいたルッキーニに促される形で
ミーナに謝罪の言葉を述べた。
この時、自由奔放で悪戯好きのルッキーニが
ノアールに対して大人な対応をしている様子を見て
普段のルッキーニを知る宮藤とリーネ以外の
メンバーは信じられないモノを
見たような顔をしていた。
そして謝罪されたミーナも、
ノアールの事情も知らずに勝手なことを
してしまったことへ謝罪した。
そのことに再び罪悪感を覚えたノアールが
慌てた様子を見せ、そんな彼の様子を見ていた
周りのメンバーは、もれなくノアールに抱く印象を
いい意味で更新することとなった。
ノアール自身も、
今度の一件をきっかけに少しづつではあるが
部隊のウィッチたちと交流を持とう
という心持ちになった。
そして改めて、ノアールは自分の過去を話し、
本当の顔を全員に見せることとなった。
幼少期ならではの男とも女ともつかない顔立ち。
唯一露出していた青い瞳をしていた右眼……
そして“火傷をした紅い瞳の左眼周囲”も
全員に見せることとなった……
当然、それを見たウィッチたちは
最初ギョッとした顔をした。無理もない。
殆ど治っているとはいえ、或いはこの戦時下において
こういった怪我は掃いて捨てるほどあるとはいえ、
今まで相対していた、しかも10歳程度の少年が
顔に火傷を負っていたとは
思いもよらなかっただろう。
ノアール曰く、記憶を失う前に負った怪我のようで、
何が原因でこうなったのか覚えていないという。
しかも他人から見て大丈夫と思える左眼も
彼自身“見えていない”という。
見えていない左眼を露出している意味はない……
さらには火傷を負った顔を見られたくない……
そういう意味でノアールは左眼側の前髪を
ワザと長くし、さらにその下に、
額部分で巻いた鉢巻きに左眼部分を隠すような
青い布が付いたタイプの眼帯を付けて隠したのだ。
彼が顔を表立って見せない理由を知った
ウィッチたちは、なんと声をかけていいか
わからないといった様子で沈黙していた。
すると――――
「恥じ入ることはないぞ、ノアール!」
沈黙を破ったのは、坂本の一言だった。
「今日までお前のことを見てきた私だから解る!
お前の雄姿は、その程度の怪我で
曇ることなどないとな!」
『坂本……少佐……』
「その通りだ、ノアール少尉…」
バルクホルンも続いてノアールを鼓舞する。
『バルクホルン…大尉……』
「傷痕がなんだ!
男ならそれすらも誇りにして示すことが、
カールスラント軍人たる行いだ!!」
「トゥルーデ、
ノアールはカールスラント軍人じゃないよ?」
「話の腰を折るなハルトマン!
それくらいの心意気を持って、傷のことなど気にせず
堂々としていろと言ってるんだ!」
少しズレた物言いにエーリカがツッコミを入れるが、
バルクホルンがノアールを
励まそうとしている心は伝わった。
そんな二人に賛同して、他のウィッチたちも
笑顔でノアールを見つめる。
そんな優しい眼差しを向けられたノアールはというと――――
『……み、皆さん………
あ、りがとう……ございます……』
両手で顔を覆い隠し、泣き崩れた。
「わぁぁ!ノアール、大丈夫だから!!」
『ヒック……すいません………
こんな、風に……受け入れて……
もらったことが……今まで………
無かったものですから……』
「大丈夫……もう大丈夫だから……」
ルッキーニが隣に立ち、抱きしめて頭を撫でる。
その光景に唖然としているメンバーの中で、
いち早くルッキーニの様子を形容していた宮藤が
不意に呟く――――
「ルッキーニちゃん、
ノアールさんの“お姉さん”みたい♪」
その一言に、全員が少しばかり呆然とする。
その中に“姉”というワードに
過敏に反応してしまっている者もいた……
『お姉…さん……?』
「はい。今もそうですけど、
秘密基地でノアール少尉を慰めてる
ルッキーニちゃんもそんな風に見えましたよ♪」
『………ま、待ってください!
まさか自分、あの醜態を見られてたんですか!?』
「え? あ、はい……芳佳ちゃんも一緒に……」
「……ごめんなさい」
件の一言を発するきっかけになった
一部始終を見ていたことに謝罪する二人。
それを確認したノアールは急激に顔を赤くした。
『な、何故でしょう……
どうしてこんなにも顔が熱くなってるんでしょうか。
今までこんなことなかったのに……////』
「怯え顔とか泣き顔とか、
現在進行形で照れ顔とか見られてるのに今更かヨ?」
エイラの指摘にノアールは顔どころか
耳まで赤くする。
そんな彼をルッキーニが庇うように抱きしめる。
「もうエイラ!ノアールイジメないで!」
「ワリぃワリぃ、
イジったら意外と面白い反応したからついナ♪」
ルッキーニの注意にエイラは
ニシシといった顔で謝る。
「ところで、ルッキーニがお姉ちゃんみたい
って件はどうするんだヨ?」
「あの、エイラさん…そのことなんだけど――――」
「ねぇノアール!
あたしのこと“お姉ちゃん”って呼んで!!」
“事情”を知っているミーナが
その提案を取り下げようとするが、
ルッキーニの声がそれを遮る。
『え?……ルッキーニ少尉を……?』
「うんうん♪ほら早く!!」
期待を込めた眼差しを向けられるノアールは
突然のことに言葉が続かない。
ルッキーニがここまで興奮するのも無理はない。
もとより故郷のロマーニャでは
一人娘だったというのもあるが、
ノアールが来るまでの501において、
マスコットのようでもあり
一番の末っ子のような存在でもあったのだ。
彼女自身年齢からして仕方のないことでもある上に、
よくシャーリーのふくよかな胸に顔をうずめては
甘えている姿を見せているため反論のしようがない。
だが心のどこかで、誰かに甘えてもらえる…
自分と同じような存在が自分の下にできたらいいな
という願望は少しばかりあったのだ。
その時――――
「待てルッキーニ少尉!」
静止の声をあげたのは、バルクホルンだった。
ちなみに先の“姉”というワードに反応していた者
というのが彼女だ……
「トゥルーデ……」
「……」
先に提案を取り下げようとしていたミーナも
バルクホルンの隣に立っているエーリカも、
心配するような眼でバルクホルンを見る。
「し、姉妹同士ならともかく………姉弟で
“お姉ちゃん”と呼ぶのは些か情けなく聞こえる…
ここは一つ“姉さん”と呼ぶのがいいのではないか?」
『“姉さん”?』
「ッ……そ、そうだ……」
少しの沈黙の後に語られたのは呼び方の矯正だった。
その時のバルクホルンは平静といった顔を
していたが、旧知の仲である二人から見れば
無理をしているのは明白だった。
バルクホルンを見ながら漏らしたノアールの呟きに、
少しばかり動揺していることからも窺い知れる。
「その方が、より一層大人びて
聞こえるかもしれんぞ…」
「じゃあじゃあノアール!
あたしのこと姉さんって呼んで!?」
『えと……じゃあ……“フラン…姉さん”……』
「~~っ!!なあにノアール!?
またギュってしてほしい?
言ってくれればいつでもしてあげるよ♪」
ルッキーニが嬉しさのあまりノアールの両手を取って
激しく握手するように振るう。
「ファーストネームを縮めて姉さんって呼ぶか……
やるなノアール♪」
『いけません…でしたか?』
「ルッキーニが喜んでるみたいだし、別にいいさ。
というかむしろ、軍務とプライベートを区別する
って意味も込めて普段は階級呼び無し、
軍務の時だけ階級呼びってしたらどうだ?
そういう切り替えなら得意だろ?」
『それは……まあ……。
でも、皆さんいいんでしょうか?』
シャーリーの提案にノアールは
他の全員に確認の眼を向ける。
「……元よりお前は軍務に関しては
問題なく取り組めているんだ、
呼び方に関して指摘するこだわりもない、
好きにしろ…」
「私も気にしないよ♪」
「そもそも、ほとんどの方を階級無しで呼んでいる
どこかの誰かさんもいるわけですし。今更ですわよ」
バルクホルンとエーリカ、そしてペリーヌ。
「えへへ……でも友達になるってことなら、
私も階級無しで呼んでくれると嬉しいな♪」
「うん。むしろ、ミーナ中佐みたいに
“ノアールくん”って呼んでみたい♪」
宮藤とリーネ。
「私も問題ナーシ!」
「うん。私も好きに呼んでくれていい…」
エイラとサーニャ。
「あたしもシャーリーでいい♪」
「うむ、異存はない!」
「これでようやっと、皆と打ち解けられるわね♪」
シャーリーと坂本、そしてミーナ。
全員の了解を得たノアールは一度顔を俯かせる。
そして――――
『では……フラン姉さん、シャーリーさん、
バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、
クロステルマン中尉、宮藤さん、リーネさん、
ユーティライネン少尉、リトヴャク中尉、
坂本少佐、ミーナ中佐
……で、どうでしょうか?』
それぞれの呼び方を披露するノアール。
その中に階級呼びが混じっているのは、
敬意と、まだそこまで親しい間柄ではない
という彼の生真面目さがにじみ出ていると感じ、
大半が苦笑する。
「うんうん♪これでようやっと
お前とも仲良くなれる気がするよ♪」
シャーリーがノアールの頭を雑に撫で、
それを合図に親睦を深めたいと思う各々が
ノアールの側に殺到する。
荒々しくも嫌な気はしない
撫でられる感触を感じながら、ノアールはふと
バルクホルンを見やる。
最初に立っていた位置から動かず、
提案を終えてから視線をそらしている上に、
左の二の腕を掴んでいる右手が強く締まっていた。
そしてその顔には苦悶の表情が浮かんでいた。
今日この日、ノアール・ルーは改めて
ストライクウィッチーズの一員として
迎え入れられた。
スマホ版のみの後書きです。
如何でしたでしょうか?
本小説内ではルッキーニがお姉ちゃんになっちゃいました…
中の人的にはバブみ溢れるキャラも演じられてるので
違和感は無い……ハズ……?
刺さる方は刺さる……ハズ…?
とはいえルッキーニの感覚的にはごっこ遊びの意味合いが
まだ濃厚です。
今後の描写の中で所々“あ、お姉ちゃんしてるな”って
部分が見せれればいいなと思っています
そして執筆中に“本家お姉ちゃん”回への伏線を張ってみました
本編の描写的には芳佳がその要因になっているということになっていますが、
その一因の一つを担う形で今回の描写を取り入れました
そして、ようやっとウィッチ達と打ち解ける
ノアールの描写が増えていくというわけで
これまでの回で殆どなかったと言っていい“描写”が
展開されていくので、
皆さんどうかご期待ください
それでは