Unknown Wizard Chronicle   作:シノギ

7 / 22
投稿中に寝落ちしてしまいました。
お待たせしてしまいすいません。

前話での伏線の回収回です。
本家お姉ちゃん主役回とも言えますね。

皆さんのご想像通りの展開かとお察ししますが、
どうか最後までお楽しみください

今回は前回よりも長めです


第6話「妹と弟」

『……んぅ?』

 

 

意識が覚醒したノアールが思わず呟く。

ぼやけた視界のピントが合うと共に、

その光景が明瞭になり――――

 

 

 

『あれ?』

 

 

 

思いもよらない事態に疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

改めて501部隊の全員と打ち解けられた先日、

大半の面々とぎこちなくではあるものの、

角の取れた会話ができるようになった。

 

それから、彼が雨の中に吹き曝しだった

ということもあり、

風呂に入るよう促されたのだが――――

 

 

 

 

 

 

「あたし、ノアールの背中流してあげたい!!」

 

 

 

 

 

紆余曲折あってノアールの姉になったルッキーニが

そんなことを言い出した。

 

彼女自身、別段含みがあっての発言ではない。

ただ偏に姉らしく弟を世話したい

という純粋な思いから出たものだろう。

 

だが知っての通り、

ノアールの存在は例外中の例外。

 

着任当初のミーナの規定により、

混浴など言語道断である。

だがルッキーニには男女間の恥じらい

といったものはまだ難しいというのと――――

 

 

 

 

 

 

「私も、よく妹や弟たちと一緒に

お風呂に入っていましたし……」

 

 

 

 

 

意外や意外、

リーネの弁護の言葉が齎されたことにより、

より一層ルッキーニの発言を

無碍にするのが難しくなった。

 

 

結果、ルッキーニは水着着用での入浴、

ノアールは水着を持っていなかったため、

扶桑で言う所の手ぬぐいを、

マナー違反ではあるが腰に巻いて入浴…

 

 

ちなみに手ぬぐいを誰から譲り受ける

という話になった時、

坂本と宮藤が余分に持っているとなって、

ペリーヌから宮藤から貰うようにと

念を押されたのは余談である…

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

浴室におけるノアールへの

スキンシップは極力控える、

洗体に関してはお互い背面のみとし、

正面は各々で行うこと。

 

 

これらを遵守したうえでの混浴を許可され、

ルッキーニとノアールは大浴場へと赴いた。

 

 

浴場の椅子を前後に並べて

最初にルッキーニの背中から流すこととなった。

曰く“その方がノアールの背中を

いっぱい流してあげられるから”だそうだ…

 

深緑の髪を纏めて括り、

露になった水着有りの背中を

ノアールは手探りではあるが

スポンジで丁寧に洗った。

 

途中脇腹に触れてくすぐったがるなどといった

微笑ましいやり取りもあった…

 

 

「どう、ノアール?痒いとこな~い?」

 

『は、はい……問題ありません』

 

「もうノアール!そこはもうちょっと

気軽に言ってくれていいよ!

“痒くないよ姉さん”とか

“うん、姉さん”でいいから!」

 

『それは……フラン姉さんが

“姉さん”って呼ばれたいだけなんじゃ……』

 

「だって姉さんだも~ん♪」

 

 

 

ノアールの番となり、

ルッキーニによる洗体が始まってのやり取りだ。

かつて母親やシャーリーにしてもらった

やり方の見様見真似だろうが、

背中から腰にかけてしっかり洗っていた。

 

 

それぞれの背面が終わり、

正面は各々で済ませてから二人は

隣り合って湯船に身を沈ませる。

 

 

「はぁ~……気持ちいいねノアール♪」

 

『はい……シャワーを浴びたことはありますが、

風呂は身体全体が温かくなって、いいですね…』

 

「ん~ぅ…」

 

『……なんですか、フラン姉さん?』

 

 

突然不満そうな顔で

自分を覗き込んでくるルッキーニに

ノアールは首を傾げる。

 

 

「ノアール、顔固い…」

 

『え? 固い…って?』

 

「もうちょっと笑った方がいいよ!」

 

『笑う……と言われても……』

 

 

ノアールは先ほど見せた

ルッキーニの嬉しそうな顔や、

リーネと宮藤が時折見せていた笑顔などを

想像して口元や眉根を

動かしてみるが、水面に映った自分の顔は

そのどれにも似つかないほど歪んだ顔になっていた。

 

 

 

「じゃあくすぐって笑っちゃおう!」

 

『えっ!? さすがにそれは

過度なスキンシップになるんじゃ!?』

 

「もんどーむよー!

コチョコチョコチョコチョ~~♪」

 

 

ルッキーニは湯船に浸かっている

ノアールの脇腹辺りに手を伸ばして

あの手この手でくすぐるが――――

 

 

「………あれ? くすぐったくない?」

 

『……はい、特には……』

 

「むぅ~~! 笑って!笑ってノアール~!」

 

『そぉ……そぉ~いわえてもぉ~……』

 

 

 

無感性なのか、

全くくすぐったさを感じないノアールに

ルッキーニは癇癪を起して

ノアールの頬を引っ張る。

 

 

 

こうしてルッキーニとノアールによる

初めての姉弟で一緒にお風呂…

というイベントは他のウィッチたちの

入浴時間が迫っているということで終了した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

何故先のことをノアールが

思い出していたのかというと――――

 

 

 

 

 

「にゃむにゃむ………

んへぇ……ノアールぅ~……♪」

 

 

 

 

そのルッキーニが医務室で寝ていた

ノアールのベッドの中に潜り込んで

彼の頭を抱えて寝ていたからである。

 

彼女は基本宿舎に設けられた

自分の部屋を利用することは一切無い。

屋外に数ある秘密基地はもちろん、

お気に入りの毛布を敷けば木の上だろうが

ハンガーの梁の上だろうが眠ることができる。

 

そんな彼女がわざわざ屋内の…

それも医務室の…

それもノアールの寝ているベッドで寝ていた理由……

難しく考える必要もない……

 

 

 

「お姉ちゃんが……いるから………

だ~いじょ~ぶ~♪」

 

 

 

―――という感じである。

 

 

『(……いつもなら起床ラッパが鳴る前に

起きてるけど、これじゃあ起きれないな……)』

 

 

ルッキーニの心地いい寝言を聞いて、

起こすのも忍びないと考えるノアール。

 

以前までの彼ならば、

何とかしてこの状況を抜け出そうとしただろうが……

 

 

 

『(自分一人じゃない……みんな同じ……

なら……少しくらいは……

いい……かな……?)』

 

 

 

視界で確認できる明るさからして、

日の出にはまだ早い。

ノアールは普段なら明瞭にしようとする意識を

あえて緩めることにより、睡魔に身を委ねた。

 

 

 

 

 

意識を失ったため、

ノアール自身は気づかなかったようだが……

その時の彼の口元は薄く弧を描いていた……

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

起床ラッパが鳴り渡り、早朝訓練の最中の坂本と、

夜間哨戒を終えて帰投した

サーニャとエイラ以外の面々が食堂に赴いた。

 

今日の食事担当は宮藤とリーネで、

メニューは扶桑料理である。

 

ちなみにノアールは身体的にも精神的にも

問題ないと医師の診断が出され、

復帰して食堂に赴いていた。

もちろん、席はルッキーニの隣である。

 

 

 

「おかわり~♪」

 

「あ!は~い!」

 

 

各々のペースで食事をしているメンバーの中で

いち早く食べきったルッキーニが

厨房にいる宮藤に追加を要求する。

 

メニューの一つである豆ご飯の入ったボウルを持って

ルッキーニの元へと赴く宮藤。

 

その時、向かいに座っていた、

いち早く食堂に来て料理一式を持って

テーブルについていた

バルクホルンのトレーが眼に映り、

そのどれもがほとんど手が付けられていない様子が

見て取れた。

 

 

「あの……お口に合いませんでした?」

 

「……」

 

 

その様子を見て、不評だったのかと不安になって

宮藤はバルクホルンに尋ねるが、

当人は答えずに料理一式が乗ったトレーを

返しに行ってしまった。

 

 

「おかわり早く~!」

 

『フラン姉さん、皿をそんな風に扱うのは

行儀が良いとは言えませんよ?』

 

「だぁって、早くおかわり欲しいんだもん!」

 

「あ、はいはい!ちょっと待ってね!」

 

 

ノアールの注意を意にも介さない

ルッキーニの催促に、

慌ててボウルをかき混ぜる宮藤。

 

 

「バルクホルン大尉じゃなくても、

こんな腐った豆なんて……

とてもとても食べられたもんじゃありませんわ!」

 

 

メニューの一つである小皿に入れられた納豆に

不満を漏らすペリーヌ。

 

 

厳密に言えば腐っているのではなく

発酵させている、が正しいのだが……

馴染みのある扶桑人の宮藤や坂本ならともかく、

料理として見栄えは良いとは言えず、

香りも独特で、おまけに納豆特有のネバつきもあり、

他国人からすれば不評なのも致し方ない。

 

 

「納豆は身体にいいし、

坂本さんも好きだって言って――――」

 

「ッ!!」

 

 

宮藤の一言に過敏に反応するペリーヌ。

そのまま形振り構わず宮藤に詰め寄る。

 

 

「坂本“さん”ですって!?

ノアールさんの時にもそれとなく

言いませんでした!?少佐とお呼びなさい!!

私だって……さん……付けで……////」

 

「……?」

 

 

詰め寄ってきたにもかかわらず、

最後は何故か赤面して顔を俯かせるペリーヌに

宮藤は首を傾げる。

 

すると調子を取り戻したペリーヌは

納豆の入った小皿を持って抗議する。

 

 

「と、とにかく!いくら少佐がお好きでも、

この臭いだけは絶対に我慢が出来ませんわ!!」

 

 

ここまであからさまに拒否されると、

作った本人としては少しばかり

罪悪感が沸いてくる宮藤。そんな時――――

 

 

 

「おぉがぁわぁりぃ~~!!」

 

『あの、宮藤さん……

フラン姉さんが、そろそろ限界で……』

 

「あぁ!はい!!」

 

 

ルッキーニの涙目の催促で

その場は有耶無耶になり、

宮藤は急いでボウルから豆ご飯を

ルッキーニの皿へと移す。

 

 

すると、納豆を見るのも拒否すると

言わんばかりにそっぽを向いていた

ペリーヌの元へ――――

 

 

『クロステルマン中尉、

よろしければその納豆…自分がいただきますが?』

 

 

ノアールが控えめに提案を持ちかけてきた。

 

 

「えっ!?ノアールさん、

こんな腐った豆食べられますの?」

 

『確かに見栄えは良いとは言えませんし、

臭いも独特ですけど……臭いも殆どしない、

味もいいとは言えない軍用レーションと比べれば

雲泥の差だと思います』

 

 

ノアールがここまで言えるようになったのは、

ひとえにこの部隊に来てから

食べるようになった料理のおかげである。

 

朝昼夕と食べるようになった食事に

慣れてきて数日したある日、ノアールは試しにと

自分が携帯していた軍用レーションを食べたのだが、

様々な料理の味に慣れてしまった彼の舌は、

これまで気にすることのなかった

レーションの味を的確に伝え、

見事に“不味い”と彼に認識せしめたのである。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「それは……そうですが……」

 

『それに、戦時下において出された食事は

全部食べないとですし…』

 

「うぅ……」

 

『でも、文化の違いから

向き不向きがあるのも頷けますし…

なら、無意味に残すより食べられる誰かが

食べたほうがいいかと…』

 

「それで…貴方が処理してくださると?」

 

 

頷くノアールを見て、

彼に気を使わせてしまったことを恥じるペリーヌ。

だがいかんせんこの見た目と臭いは

看過できないと思案し、結果――――

 

 

 

「では、お願いしますわ…」

 

『はい、お任せを…』

 

 

ペリーヌから納豆の小皿を受け取ったノアールは

自分の席に戻る。

そして宮藤に顔を向けると……

 

 

『あの、宮藤さん』

 

「はい?」

 

『追加の米をお願いします。

先ほど自分の分の納豆を混ぜて食べたら

美味しかったので』

 

「あっ! うん、ありがとうノアールくん♪」

 

 

ノアールの無意識のフォローに顔を綻ばせた宮藤は

嬉々としてノアールの元へと赴いていった。

 

 

ちなみに嬉しさのあまり、ノアールへのおかわりを

最初より多く盛ってしまったのは余談である……

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

その後、宮藤とリーネは朝食の後片付けを終え、

衣服類などの洗濯のために洗い場にて

作業をしていた。

 

するとそこに突然の突風が巻き起こる。空を見ると、

バルクホルンとエーリカが飛行訓練を行っていた。

自分たちの不慣れな飛行と違って、

ベテランの風格すら思わせる力強い飛行に

二人は思わず声を漏らす。

 

 

そんな訓練をしている内の一人、

バルクホルンは眼下で見上げている宮藤を見、

苦しげな表情をしていた。

 

 

 

 

 

「乗れてないな……」

 

「ええ…遅れがちね……」

 

 

洗い場への出入り口に立ち、

同じく飛行訓練を見ていた坂本とミーナが

二人の描く飛行軌道のうち、バルクホルンの軌道が

彼女らしくないことに疑問を持っていた。

 

 

「完璧主義のバルクホルンらしくない……

次のシフトは外した方がいいか?」

 

「エースが使えないと…若干不安ね……」

 

「そうだな。他が使えるようになったとはいえ……

火力が不足する……過労で身体でも壊したのか?」

 

「何か…気にかかってるみたい」

 

「…?」

 

「宮藤さんが来てからよ……それに、

この前のノアール君の一件から、

彼のことも……」

 

「宮藤とノアールが……?」

 

 

旧知の仲であるミーナに

バルクホルンの不調の原因を尋ねると、

眼の前で作業をしている宮藤と、

今頃自主訓練の最中であろう

ノアールが原因かもしれないと返ってきた。

 

 

 

「ふむ……それぞれ、組ませてみるか……」

 

 

 

確認も兼ねて、次の訓練の際にバルクホルンと宮藤、

もしくはノアールと組ませて

飛行訓練を実施しようと坂本は思い立った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

自分が来るまで午後から予定されている

“ある催し”の準備をリーネに任せた宮藤は、

バケツとモップを持参し基地内の清掃に

取り組んでいた。

が、501部隊の基地はウィッチたちが

利用するであろう通路や施設だけでも

かなりの規模があり、利用しないところまで含めば

一日で終わらないほどである。

 

そのため、ウィッチたちが特に利用する場所は

その日の当番であるウィッチそれぞれに

割り振られたエリアを清掃し、

利用しないところはウィッチ以外の

常駐する職員が清掃を行っている。

 

 

 

 

「……ふぅ、本当に広いなぁこの基地」

 

 

 

とある通路の壁をモップで水拭きしている宮藤。

ある程度の範囲を拭き終わり、

一息吐こうとモップを壁から離して担ごうとする。

その直後――――

 

 

 

『中尉危ない!!』

 

「きゃっ!」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 

ベシャッ!

 

 

 

突然の鬼気迫る声と小さな悲鳴に

宮藤はモップをそのまま担ぎ、

妙な水音がした背後を振り向く。

そこには――――

 

 

 

 

『うぅ……冷たい……』

 

 

 

モップの先を頭から被ったノアールが

苦々しい顔をして立っており、

その横には驚いて尻もちをついている

ペリーヌの姿があった。

 

 

「あぁ!!ご、ごめんノアールくん!!」

 

『わっぷ!!』

 

 

現状を見た宮藤がモップを持ち上げるが、

頭を下げると共にモップまで振り下ろしてしまい

再びノアールの頭へ落ちる。

 

 

「ああっ!!ご、ゴメン!!」

 

『い、いえ……大丈夫です。

クロステルマン中尉は大丈夫ですか?』

 

「わ、私は問題ありませんけど……

それより宮藤さん!

早くそのモップを下ろしなさいな!」

 

 

ペリーヌに指摘され、慌ててノアールの頭に

乗っているモップを手放す宮藤。

水に浸されていたモップを被っていたため

ノアールの頭はずぶ濡れだった。

 

 

「全く!貴女は注意力が散漫すぎますわ!」

 

「うぅ……」

 

『まあ被害を被ったのは自分だけですし……

問題は……』

 

「そんなずぶ濡れで言っても説得力ありませんわよ!

ほらノアールさん、ジッとしててくださいまし!」

 

 

ペリーヌは懐からハンカチを取り出すと

ノアールの髪を丁寧に拭いていく。

水気を取るためにしっかりと拭きつつも

負担がかからないように配慮している手際に

ノアールは心地よさを覚える。

 

この時、宮藤も懐からハンカチを取り出していたが、

タイミングが遅れて手持無沙汰になってしまった。

 

 

「これで水気は取れたはずですわ。

ですが一応髪は洗ってくださいまし」

 

『はい。ありがとうございます……』

 

「それから…感謝しますわ。貴方がいなかったら

私がずぶ濡れになっていました…」

 

『いえそんな…』

 

「ごめんねノアールくん…」

 

『大丈夫ですよ宮藤さん、

次は気を付けてくださいね…』

 

 

そう言ってノアールはその場を立ち去ろうとする。

 

 

すると、その廊下の先に先程の訓練を終えて

反省会をしているであろう

バルクホルンとエーリカを見つける。

ノアールが見つけると共に、

その視線の先を見た宮藤も同様に二人を見る。

 

 

 

「……っ!」

 

『……?』

 

「あ…あのっ!」

 

 

 

バルクホルンが宮藤とノアールを視界に捉えると

すぐさま眼を逸らして

エーリカを伴ってその場を立ち去る。

 

 

先の食堂の時然り、今も然り…

宮藤はバルクホルンが意図的に

自分を避けているのではないかと感じた。

 

 

そして、ノアールは――――

 

 

 

『(バルクホルン大尉……

一瞬のあの表情……あの時も……)』

 

 

思い出したのは、

彼がルッキーニを姉と呼ぶきっかけとなった事件…

 

呼び方を矯正した時と……

 

ノアールと親睦を深めようと

殺到したウィッチたちの中に入らず、

そっぽを向いていた時……

 

 

――――そのどちらの時にも見せていた

苦々しい表情に近しいものを感じていた……

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

コンコンッ!

 

 

 

 

 

「はい!」

 

 

 

基地内にある、主にミーナが常駐している

執務室の扉がノックされ、

書類整理をしていたミーナが返事をする。

 

 

 

『失礼します……』

 

「あら、ノアール君…どうしたの?」

 

 

 

訪問者はノアールだった。

呼び出した覚えもないミーナは訪問の理由を尋ねる。

 

 

『実は、ご相談したいことがありまして…』

 

「なにかしら?」

 

 

ミーナは彼の、少しばかり相手の顔色を

見ながら伺う態度を見て、

少しばかり嬉しさを覚える。

 

これまでの彼からの相談事と言えば、

軍務に関してのことが総てだった上に、そのどれもが

無表情の元行われていたことだったため、

年相応の反応を示しながら話しかけてくる

彼の行動に、微笑ましいものを見るような眼を

してしまうのは仕方がないことだろう。

 

 

『その……バルクホルン大尉に

ついてなんですが……』

 

「え…?」

 

 

相談事の内容を聞くと同時に、

ミーナは少しばかり動揺する。

 

つい先ほど坂本と件の二人に関しての

話をしていた矢先に、その内の一人から

もう一人のことに関して相談されたとなれば、

動揺するのも頷ける。

 

 

『同じカールスラント出身で、

旧知の仲ということもありますし……

ミーナ中佐の方が相談しやすいと

判断して来たのですが…』

 

「そう……それでバルクホルン大尉についての

相談って?」

 

『あくまで…自分の主観での話なのですが……

バルクホルン大尉は……なんというか……

無理に自分を律している、というか……』

 

「ッ!?」

 

『今の自分だからこそ

言えることかもしれませんが……

この501に来る前の、もっと言えば

自分が記憶している一人で戦っていた頃の自分と

同じような雰囲気を感じてならないんです……』

 

 

 

ノアールのあくまで主観で感じている

バルクホルンへの印象……

ミーナの内心を述べるならば、

その印象はほぼ真相を捉えていると言っても

過言ではなかった……

 

 

ミーナはこれまで他人への関心を見せなかった

ノアールが、拙いながらもその姿勢を

見せつつあることに嬉しいと思う反面、

二つの意味で危うさも感じていた。

 

 

その一つは、

ここ最近目立ちつつあるバルクホルンの不調。

それがこのノアールでさえ

感じ取れるようになっていることに、

悪い予感を感じていた。

 

 

そして――――

 

 

 

『ミーナ中佐、

バルクホルン大尉は何か自分に思う所でも――――』

 

「ごめんなさいノアール君……

彼女に関してのことは、

勝手に私の口から説明することはできないわ…」

 

 

 

ノアールの言葉を遮るミーナ。

 

 

彼女の感じている危うさのもう一つ……

 

“ノアールが他人への干渉が

どこまで許されるのかを判断できていない”

 

という点である……

 

 

前回の一件で、他人を知ることに

少しばかり積極的になろうと努力しているノアール。

今度の件に関しても

その一端としての側面が強いのだろう。

 

 

 

だが、どんな理由があろうと

他人に自分のことに関して

知られたくない秘密の一つや二つはある……

当人の口から話すのなら話は別だが……

 

 

 

今度の件に関して、

ミーナは原因ともいうべき事柄をほぼ把握している。

そしてその原因には、今ここにいない宮藤が……

間接的にはノアールが関わっていると

言えなくもない……

 

それを今ここで言ってしまえば彼のことだ、

自分が原因である理由を聞いてくるだろうし、

それに関してバルクホルンへと

謝罪なりなんなりするだろうし、

その結果、ノアールがバルクホルンの事情を

知ってしまった事実が露見して、

より一層二人の関係が悪化してしまう恐れがある。

 

部隊長としてソレは避けねばならない事態だ。

と同時に、バルクホルンの友人としての意味と、

ノアールを正しく導かなければならない

という意味も含まれているが…

 

 

 

「貴方が感じている印象は、

はっきり言って私も坂本少佐も感じているわ…」

 

『なら……』

 

「でもね……この前の一件の

貴方の時のように、他人に相談したところで

どうこうできる事柄だけが起こるわけじゃないわ。

すぐ起こりうることだったり……

今尚続いていることだったり、ね……」

 

『……それは、

過去の記憶がない自分のことだったり、

この左眼の火傷の痕のようなものですか…?』

 

「……そうね、そう捉えてもらってもいいわ」

 

『……なら、自分が気安く触れていい

案件じゃないのも納得できます…』

 

 

ミーナはノアールに釘を刺さなければならない事情に

罪悪感を覚えつつ、

彼なりに今度の件に関して触れてはいけない事情

だと理解してくれたことにも安堵を覚える。

 

 

『すいません、元から相談できない事柄のために

ミーナ中佐の時間を無駄にしてしまって』

 

「いいのよノアール君。

むしろトゥルーデ本人に直接尋ねる前に

私に相談しにきてくれただけ、まだ重畳よ」

 

『トゥルー…デ?』

 

 

ノアールは聞きなれない

名前と思われるワードに首を傾げる。

 

 

「バルクホルン大尉の愛称よ。

私やハルトマン中尉もそう呼んでいるの」

 

『そうなんですか…』

 

 

するとミーナは片づけていた書類を纏めて

デスクの引き出しに戻す。

 

 

「さて、そろそろ時間ね」

 

『え? 時間…とは?』

 

「? ああ、ノアール君には

まだ伝えてなかったかしら?」

 

『…?』

 

 

 

事態を把握しきれず首を傾げるノアールを、

ミーナは微笑ましいものを見る目で見つめていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

時間にして1600時頃。

501部隊の面々は宿舎の裏手にある

オープンカフェに集っていた。

 

ここで今から行われるのは

ブリタニアが発祥と言われ、

出身者であるリーネの発案で企画された

アフタヌーン・ティーパーティというものである。

 

最前線基地というだけあって一部を除いて

ウィッチを含む各職員は常に常在戦場の心情を

課されるのは致し方ない。

 

 

だが人間誰しも娯楽は必要である…

 

 

その一環として、不定期的に

こういった休息の時間を作ろうという

ミーナの方針の元、リーネの発案を経て

今回のティーパーティが企画されたのである。

 

 

 

「作戦室からの報告では、明後日が出撃の予定です。

皆さん、今日はゆっくり英気を養ってください」

 

 

パーティが始まる前に

軽い今後の予定を告げるミーナ。

彼女が座るタイミングを見て、

今度は坂本が口を開く。

 

 

「ああ、宮藤とリーネ、二人はこの後訓練だ」

 

「「はい!わかりました!」」

 

 

坂本の指示に応じた二人の返事を最後に、

茶会は幕を開けた。

 

宮藤は直後、紅茶が入れられたカップを扶桑で言う

湯呑を持つように持った挙句、

ズズズと飲み始めてペリーヌに呆れられ、

リーネに紅茶は音を立てずに飲むと窘められて

赤面するといった小事があった。

 

 

「ノアールさんを見習いなさいな。

同年代のルッキーニさんと違って、

ここから見ても落ち着いて――――」

 

 

と、ペリーヌは坂本とミーナが着いているテーブルの

すぐ横のテーブルでシャーリーとルッキーニと

共に着いているノアールを見やる。

と共に、宮藤とリーネもそちらに目を向ける。

 

ところが――――

 

 

 

 

『………』

 

 

 

ガチガチッ…ガチガチッ……

 

 

 

当のノアールは左手にソーサーを持ち、

右手でカップの取っ手を持って固まっていた。

 

 

「あ…あら?」

 

「ノアールくん、なんか固まってない?」

 

「……あ、一応紅茶は飲んでるみたい……」

 

 

三人が見ている中で、

ノアールはカップを口元に運んで紅茶を飲み始める。

 

だが、カップを口元に運ぶ動作、

カップを傾ける動作、

戻してソーサーに置く動作、

 

それらの動作が行われている中、

その動作を行う体の部位以外のところが

ほとんど固まっていて、まるで

プログラムされた動作しかできない

機械のようであった。

 

 

「なぁに緊張してんだよノアール?」

 

『し、シャーリーさん…!』

 

 

同席しているシャーリーが

ぎこちない所作をしているノアールに声をかける。

 

 

『お茶会と聞いたので……

見様見真似で無礼のないよう心掛けているのですが、

何か間違ってたでしょうか?』

 

「あっはっは♪

そう固くなんなくてもいいって。

お茶会ってのはリラックスして

楽しむ場なんだからさ。ある程度の凡ミスくらい、

あたしは気にしないし。

ルッキーニなんてお構いなしだぜ?」

 

「んむっ?」

 

 

シャーリーとルッキーニの間に挟まれる形で

ノアールが座っているため、ノアールは

シャーリーの反対側にいるルッキーニを見やると、

ティースタンドに乗せられていたカップケーキを

口に咥えたまま、こちらを見ていた。

 

 

「ほらな?」

 

『そ、そうですね……』

 

「ノアール!これ美味しいよ、ほらあーん♪」

 

『えっ!フラン姉さん!?』

 

 

ルッキーニがティースタンドに乗っていた

もう一つのカップケーキをノアールに差し出す。

しかも言動から彼に食べさせるつもりのようだ。

 

 

「ほらノアール、あーんして?」

 

『え、ええと……?』

 

「応えてやれよ。

これもお姉ちゃんの義務のつもりなんだろうさ」

 

『はい…じゃあ……あー…』

 

 

ルッキーニの差し出してきたカップケーキに

口を開けて応じるノアール。

それを見た彼女は嬉々として

彼の口にケーキを食べさせた。

 

 

「ね?美味しいでしょ?」

 

『はい……甘いです……』

 

 

ルッキーニの嬉しそうな顔を見たノアールは、

咀嚼しながら無意識に別のテーブル――――

バルクホルンとエーリカが着いている

テーブルへと眼を向ける。

 

 

 

 

 

 

明らかにこちらを見ていて、

誤魔化すように紅茶を飲み始めた

バルクホルンが眼に見えた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その後、各隊員たちは午後の訓練、

夕飯、その後に給料が手渡しで普及され、

入浴を経て各々個室へと戻り

明日に備えて休んでいた。

 

 

 

「………」

 

 

 

ただ一人、待機室にて佇む

ゲルトルート・バルクホルンを除いては……

 

 

 

 

「どうしたの?電気もつけないで…」

 

 

そんな彼女にミーナが声をかける。

執務室にて残っていた書類整理を終え、

基地内に誰か残っているか見回って、

宿舎に戻る途中のようだ。

 

 

 

「妹さんのことでも考えてたの?」

 

「ッ………」

 

 

 

二人きりだからこそ、

ミーナは確証に近いと感じていた疑問を

バルクホルンへと投げ掛ける。

ハッとした態度をとる彼女を見て、

ミーナは疑問が真実だと実感した。

 

 

「アレは、貴女のせいじゃないわ…」

 

「……いや、もっと早くネウロイを攻撃していれば、

クリスまで巻き込まずに済んだ…」

 

「敵の進行を遅らせて、

街の人たちが避難する時間を作ったわ!」

 

「国を守れなかったのは事実だ……」

 

「……それは、貴女だけじゃないわ」

 

「ッ……すまない」

 

 

同じ悔しさを背負うミーナに対して失言だったと、

バルクホルンは謝罪する。

 

 

「そうだ!休暇も溜まってるし、

しばらく休みを取ったらどうかしら?

お見舞いにも行けてないでしょう?」

 

 

この機に乗じて、ミーナは休むように

バルクホルンへと提案する。

 

元より彼女は、ノアールと同様

軍規に従順な面が強い傾向がある。

だがそれでも人間、限界は訪れるものだ。

 

少しばかり羽を伸ばしても問題ない

という意思を込めての提案だった。

 

だが――――

 

 

 

「その必要はない。

私のこの命は、ウィッチーズに捧げたのだ!

クリスの知っている姉は、あの日死んだ。

次の作戦にも必ず出してくれ!」

 

 

 

バルクホルンはその提案を突っぱねて、

心配は無用と断言した。

そしてミーナを残し、待機室を後にした。

 

 

 

その直後――――

 

 

 

 

「ッ!! 貴様…!」

 

 

 

バルクホルンが突然立ち止まり、

敵意の籠った眼を向ける。

その様子を見たミーナは彼女の視線の先を見る。

 

そこには――――

 

 

 

 

 

「ノアール…君……」

 

 

 

 

手ぬぐいを持ったまま佇むノアールがそこにいた。

 

 

 

「……聞いていたのか?」

 

『……いいえ、と言えば嘘になります。

ですが誤解を解くように申し上げますと、

故意にではないということだけは

信じていただければ……』

 

 

ノアールの発言は事実だ。

その手に握られていた手ぬぐいから連想できるように

彼は今まで入浴していたのである。

以前のルッキーニとの混浴は例外として、

ノアールはミーナが定めた規則通り

入浴時間をずらして入るようにしていたのだ。

 

大まかにいうならば、ウィッチたちが先に入浴し、

その後最後に入浴したウィッチの誰かが

ノアールに報せに行くという形をとっての

入浴体制とした。

 

が、今日は何の偶然か、

最後に入浴していたのがエーリカだったことと、

彼女が湯船で顔を出したまま居眠りを決め込み、

ノアールに報せに行くのが遅れてしまったため

この時間となってしまったのだ。

 

 

「だが、今の今まで聞いていた。違うか?」

 

『…はい。そこは自身の好奇心故の所業です。

申し訳ありません……』

 

「……まあ、お前の筋金入りの従順さに免じて、

今回は不問にする。聞かれたところで、

お前にどうこうできる事情でもないことだしな」

 

「トゥルーデ……」

 

「だが次は無いぞ、ノアール少尉」

 

『はっ……』

 

 

ノアールの返事を聞いて、

今度こそバルクホルンはその場を後にした。

 

 

 

「ノアール君……」

 

『ミーナ中佐、改めて申し訳ありません。

以前バルクホルン大尉について

相談していたこともあって、

どうしても素通りできなかったんです……』

 

 

顔を上げずにミーナにも謝罪するノアールに、

彼女は決意を固めた表情を浮かべる。

 

 

「聞いてしまった以上、

貴方にも知る権利があるかもしれない…」

 

『え…でも……』

 

「貴方までトゥルーデのことを気にして、

軍務に支障を来したら元も子もないでしょう?

それに、逆に貴方が無理に話を聞き出して、

関係が悪化するのも私の本意じゃないし…。

今から私の部屋に来て。

少し長くなるかもしれないから…」

 

『……はい』

 

 

ノアールはミーナに連れられ、

彼女の部屋へと赴いた。

そしてそこで、バルクホルンの抱えている

“しこり”の正体を聞くこととなった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「今日は編隊飛行の訓練を行う!」

 

 

 

翌日、ハンガーにて坂本の声が響き渡る。

彼女の前に立つのはリーネ、ノアール、

宮藤、そしてバルクホルンだ。

 

 

「一番機は私とバルクホルンが担当する」

 

「「はい!」」

 

「リーネは私の二番機に!」

 

「はい!」

 

「宮藤はバルクホルンの二番機だ」

 

「っ……」

 

 

宮藤は気まずい視線をバルクホルンへと向ける。

対するバルクホルンは坂本の指示に返事をした後、

一切視線がブレていなかった。

 

 

「宮藤、返事はどうした!?」

 

「は、はい!!」

 

 

慌てて返事をした宮藤。

その直後、ノアールが手を上げる。

 

余談だがこの時、慌てて返事をしている宮藤に

少しばかりバルクホルンが視線を投げかけていた。

 

 

『坂本少佐、自分は二番機のお二人と交代で訓練

ということでいいんでしょうか?』

 

「ああ。実戦に出すにはまだまだだが、

ノアールの編隊飛行訓練の成績は伸びつつある。

だが、練度の関係上交代は宮藤と行うように」

 

『っ……宮藤さんと……了解しました』

 

 

宮藤ほどジッとではないが、

ノアールもまたバルクホルンを見やり返答する。

 

 

 

坂本とリーネ、バルクホルンと宮藤という

二組のロッテを組んで基地を飛び立つ。

ノアールは訓練の見学とすぐさま交代できるように

滑走路にて待機。

 

 

 

改めて説明すると、ロッテは一番機が司令塔となり、

敵の動きに合わせて攻撃しつつ二番機に指示を送る。

二番機は常に一番機の後ろを飛び、

指示を受けて行動、時に一番機の支援を行う

というものである。

 

 

 

 

坂本とリーネ組が先頭を飛び、

バルクホルンと宮藤組がそれを追いかける

という形で訓練が開始された。

 

 

 

 

「あの豆狸ぃ~……!」

 

『? クロステルマン中尉?』

 

 

訓練が始まってしばらくすると、

悔し気な唸り声が聞こえたため、

その方にノアールが眼を向けると

ペリーヌがこれまた悔しげな顔で佇んでいた。

 

 

『どうかされたんですか? それに豆狸…って?』

 

「の、ノアールさん!?

な、なんでもありませんわ!」

 

 

人に聞かれていたとは思っていなかったペリーヌは

腕を組んで顔を逸らした。

ちなみに豆狸とはペリーヌが宮藤を

罵倒するときに呼ぶ名前である。

 

 

その直後――――

 

 

 

 

 

 

ウゥゥゥーーー!!

バン!ババンッ!!

 

 

 

 

 

 

敵襲を示す警報と信号弾が打ち上げられた。

 

 

「敵襲!」

 

「えっ!」

 

「まさかっ!?」

 

「ッ…敵か!!」

 

 

訓練中だった四人は空中でホバリングし、

その中で坂本は基地の尖塔に昇っていた

基地職員の持つ指示板を見る。

 

 

「ネウロイだ!

グリッド東、07地域、高度一万五千に侵入!!」

 

 

坂本を先頭に訓練中だった三人が続き、

ミーナ、ペリーヌ、そしてノアールが

指示のあった空域へと飛び立った。

 

 

 

 

「最近、奴らの襲撃サイクルはブレが多いな…」

 

「カールスラント領で動きがあったらしいけど、

詳しくは……」

 

「カールスラント……!」

 

 

事前予報では明日とされていた襲撃が

今日だったことに坂本は愚痴を漏らし、

ミーナはその要因の一つを呟くが、

ハッキリとしたものではないため言葉が濁る。

その中で祖国の名が出てきたことに

バルクホルンは過敏に反応する。

 

 

「どうした…?」

 

「いや……なんでもない……」

 

 

坂本の問いにバルクホルンは言葉を濁す。

だがその顔には自分の感情を

押し殺しているような苦悶の表情が浮かんでいた。

 

 

「よし、隊列変更だ!

ペリーヌはバルクホルンの二番機に!

宮藤は私のところに入れ!」

 

「(またっ!?)」

 

「うぇっ!?」

 

 

坂本の指示とはいえ、

憧れの坂本の二番機に宮藤が起用されたことに

ペリーヌは横目で宮藤を睨む。

宮藤はその圧に気圧されて怯み、

飛行姿勢が若干崩れる。

 

 

 

前衛をバルクホルンとペリーヌ、坂本と宮藤、

後衛をミーナとリーネ、

遊撃にノアールという方陣で組み、

ネウロイのいる空域を目指す一行。

 

 

 

 

「敵発見!」

 

「バルクホルン隊突入!」

 

「了解!!」

 

 

 

魔眼を展開し、ネウロイを捕捉した坂本の声に

ミーナが指示を送る。

指示を受けたバルクホルンは

ペリーヌを伴って先行した。

 

 

 

「少佐、援護に!」

 

「了解!ついてこい宮藤!」

 

「はい!!」

 

 

 

ミーナの先行したバルクホルン隊を

援護する指示を受けた坂本も宮藤を伴って

ネウロイの飛ぶ高度より高く上昇する。

 

 

 

相対するネウロイは巨大なロケット型の胴体の

中間に、ビームの発射機構を先端に備えた

三枚のプロペラが回転しているタイプだった。

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

 

ダダダダダダッ!!

 

 

 

 

先陣のバルクホルンによる二丁の

MG42による一斉射撃を皮切りに、

各員各々の銃器で攻撃を開始する。

 

ネウロイの胴体近くを滑るように飛びつつ

射撃を叩きこむ一撃離脱戦法で

果敢に攻め立て、各員はコアを探す。

 

 

 

 

 

「(私がついていけないなんて……)……っ!?」

 

 

 

 

 

そんな中、

バルクホルンの僚機として飛んでいるペリーヌは

自分がバルクホルンに遅れていると感じ、

その要因に思いを馳せようとした矢先、

同じくネウロイに攻撃を仕掛けている

坂本と宮藤が視界に映った。

 

 

 

「あの豆狸!坂本少佐と一緒に!!」

 

 

 

その嫉妬心に気を取られ、

自身がバルクホルンについていけていない要因を

見落としてしまった。

 

 

 

だが別の目線からはその要因が明らかだった……

 

 

 

 

「やっぱりおかしいわ……」

 

「え?」

 

『ミーナ中佐?』

 

 

脈絡もなく疑問を口にしたミーナに

リーネとノアールは問いを投げる。

 

 

「バルクホルンよ!

あの子はいつでも、視界に二番機を入れているのよ。

なのに今日は、一人で突っ込み過ぎる!」

 

 

 

 

ペリーヌが遅れているのではなく

“バルクホルンが先行し過ぎていた”

 

 

 

 

ペリーヌ自身が感じていた疑問が

違う所で解決している最中、

ミーナの言う通りバルクホルン隊は

ネウロイの胴体の一部分――――

ビームの発射機構を有する場所にホバリングして

攻撃し続けるという戦法を取っていた。

 

 

ネウロイに対しての攻撃方法が

一撃離脱戦法が基本とされる中で、

これはあまりにも危険な行為だ。

 

 

ネウロイとの戦いを長年続けてきたバルクホルンも

“本来なら”その危険性に気づいているはずだ

――――本来なら……

 

 

 

 

「(あの時、私の判断が遅れたために

あの結末を招いてしまった……だからこそ、

ネウロイは迅速に倒す!徹底的に!!)」

 

 

 

今のバルクホルンの心の中は、

最愛の妹、クリスティアーネ・バルクホルンを

昏睡状態に陥らせてしまったかつての失態を

繰り返さないようにという強迫観念に突き動かされ、

視野が狭まってしまっていたのだ。

 

 

 

「リーネさん、ノアール君、あそこを狙って!」

 

「はい!」

 

『了解!』

 

 

ミーナの指示を受け、

リーネは対装甲ライフルを撃ち放ち、

ノアールは両手を十字に組んで光線を発射する。

 

放たれた弾丸と光線は

バルクホルンとペリーヌが攻撃を集中していた

ビーム発射機構周辺に着弾し、

二人はそのタイミングでネウロイから距離を取る。

 

 

次の瞬間、別の発射機構から反撃のビームが

接近しすぎていたバルクホルンとペリーヌに殺到し、

シールドで防いだものの動きが止まってしまう。

 

 

「近づきすぎだ、バルクホルン!」

 

 

後方から援護射撃をしていた坂本隊の二人には

一部のビームしか放たれなかったため

少しばかりの回避か、

援護射撃を続行できるほどの余裕があった。

その中で坂本もバルクホルン隊が

近づきすぎていると気づき注意を促す。

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

 

バルクホルンはネウロイが

再びビームを放つ体勢になったことを察知し、

射線上から逃れるために急上昇する。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

だがその結果、僚機として後ろにいたペリーヌに

その流れ弾が放たれ、

咄嗟にシールドで防御するもその勢いは殺せず、

反動で押し出される形となった。

 

 

 

さらに最悪なことに――――

 

 

 

 

 

ダンッ!!!

 

 

 

 

弾き飛ばされたペリーヌの背後に、

ネウロイのビームを躱して

静止していた状態のバルクホルンがいたため、

衝突してしまった。

 

 

 

 

ビュンッ!ビュンッ!

 

 

 

 

それを隙と見たネウロイは再びビームを

バルクホルンへと殺到させる。

態勢が整っていないままバルクホルンは

シールドを展開したものの、

即席で展開したシールドは彼女の持つ銃器まで

守ることはできず、片方のMG42を破壊し、

弾倉が誘爆。

 

バルクホルンはその衝撃で負傷し墜落していった。

 

 

 

 

 

 

「大尉ッ!!」

 

「バルクホルンさんッ!!」

 

 

 

 

 

それを見たペリーヌと宮藤は

背後から放たれるネウロイのビームを防ぎつつ、

墜落していったバルクホルンを救出するため

急降下していった。

 

 

 

 

「おのれっ!!」

 

 

 

坂本は怒りを露にする。

三人が離脱してしまったため、

残ったメンバーが積極的に攻撃を開始するも、

決定的な火力を欠いてしまっていることと、

仲間の一人が負傷してしまった動揺が広がり、

士気が下がってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「私のせいだ……どうしよう……っ!」

 

「出血が!!」

 

 

 

墜落していったバルクホルンを

空中で受け止めた宮藤とペリーヌは

平坦な草原にバルクホルンを横たわらせ

傷の状態を確認する。

 

誘爆によって飛び散った銃器の破片が

胸元に突き刺さり、傷口から溢れ出た血が

トップスの下着を赤く染めていた。

 

 

「動かせない、もっと酷くなる……

ここで治療しないと…っ!」

 

「お願い……大尉を助けてッ!!」

 

 

診療所の娘故の知識で

無理に動かすのは危険と判断した宮藤は

治癒魔法で応急処置を決断する。

 

流石のペリーヌも、

この現状を好転させるのは宮藤しかいないと

泣き出しそうな顔で懇願する。

 

 

 

宮藤が治癒魔法を発動し、

その波動を傷口とその周囲に展開している最中、

ネウロイは先端部を空へと向けてその場で制止し、

その状態のまま交戦を続ける

ウィッチたちを迎え撃っていた。

 

 

 

 

「こんな力が………ッ!?」

 

 

 

ペリーヌは初めて見た宮藤の

治癒魔法の波動に見入っていたが、

直後、その波動に反応したのかネウロイがビームを

自分たちに向けて放ってきたことを察知し、

邪魔はさせないとシールドを展開してそれを防ぐ。

 

 

 

 

「(倒さなければ……奴らを……

私の命は……そのために……

失うものなど……もう何も……)」

 

 

 

治癒魔法の効果が表れ、

バルクホルンの意識が戻りつつあった。

だがその意識の中で、

彼女自身はただネウロイを殲滅するために戦う

機械のような様相を呈していた。

 

そして――――

 

 

 

 

「っ…………クリス?」

 

 

 

 

意識が覚醒し、バルクホルンの視界に映ったのは

自分を心配している表情を浮かべた妹の顔だった。

そしてそれはやがて――――

 

 

 

 

「今、治しますから!!」

 

 

 

 

必死な表情で治癒魔法を自身に施している

宮藤の顔へと変わった。

 

その様子からバルクホルンは現状を把握し、

上官としてペリーヌと宮藤に指示を出す。

 

 

「私に張り付いていては、

お前たちも危険だっ……離れろっ…

私なんかに構わず、その力を敵に使えっ…!」

 

「嫌です…必ず助けます!仲間じゃないですか!!」

 

 

宮藤はその命令を拒否する。たとえ上官と言えども、

他人の命が懸かっている現状で

そんな命令を聞くほど、

宮藤は聞き分けがいい方ではない。

 

 

「敵を倒せ……

私の命など、捨て駒でいいんだっ……」

 

「貴女が生きていれば、

私なんかよりもっともっと大勢の人を守れます!」

 

「……無理だ。皆を守ることなんて出来やしない……

私は、たった一人でさえ……」

 

 

 

 

 

 

 

「皆を守るなんて無理かもしれません……

だからって、傷ついている人を

見捨てるなんてできません!!

一人でも多く守りたい……守りたいんです!!」

 

 

 

 

 

 

宮藤の迷いのない瞳を見つめ、

彼女の純粋さ故の信念に

バルクホルンは優しい笑みを浮かべる。

 

 

 

直後――――

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

 

ネウロイから放たれたビームの集中砲火が、

宮藤たちを守るために

ペリーヌが展開していたシールドに直撃――――

 

 

する手前で別のなにかに直撃する。

 

 

 

それは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『この先だけは、何があろうと通らせはしない!!』

 

 

 

 

 

 

自分の体周囲に常時発動している

魔力フィールドを全開にし、

その身で直接ビームを防いだノアールだった。

防御態勢であろうクロスしていた両腕を解き、

ネウロイを睨みつける。

 

 

 

 

「ノアールさん!?」

 

 

 

 

思いもよらない助っ人の登場にペリーヌは驚嘆する。

その間にも、ネウロイからのビームの雨が降り注ぎ、

ノアールは宮藤たちに直撃するビームに

その身をぶつけることで阻む。

 

 

 

「貴方、シールドは!?」

 

『防御魔法は自分を守るための

魔力フィールドしか持ち合わせていません。

ですから自分にできるのは、

クロステルマン中尉の負担を減らすことと、

治療に専念する宮藤さんを守るしかできません!』

 

「それなのにどうして貴方は!?」

 

 

 

 

 

 

 

『バルクホルン大尉に、

死んでほしくないからです!!』

 

 

 

 

 

 

その直後、ネウロイのビームをまた防ぐノアール。

そんな彼の言葉を聞き、

バルクホルンの意識がノアールへと向けられる。

 

 

 

『大尉、聞こえているのなら聞いてください。

家族の記憶を持たない自分では

貴女の気持ちを理解することは

できないかもしれません……。

 

そんな自分の言葉なんて、

貴女の心には響かないかもしれません……。

 

でも……それでもッ!

フラン姉さんという存在を得た自分にも

理解できることがあります!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴女を失うことで、

妹さんが悲しむということを!!』

 

「っ……クリスが……」

 

 

 

 

 

バルクホルンの脳裏に

泣きじゃくるクリスの姿が想起する。

 

 

 

『かつての機械的と言われた自分を

解き解してくれた一人である貴女が、

今度は自分のようになってはダメです。

家族を失う悲しみすら

思い起こさなかった自分のように……』

 

「ノアール……」

 

『そして、自分が思い起こさなかった

悲しいという気持ちを、妹さんに味合わせないように

――――自分が貴女を守ります!!』

 

 

 

 

直後、今まで雨あられと降り注いでいた

ネウロイのビームが一瞬止まる。

するとネウロイはプロペラの先端部分にある

三つの発射機構から一点に収束したビームを

ノアールたち目掛けて解き放つ。

 

 

 

 

 

 

 『(収束したビーム!?中尉のシールドも、

自分の防御フィールドでも防ぎきれない!!

かと言って光線でも受け止めきれない

……だったら!!)』

 

 

 

 

ノアールは突如、

クロスしていた両腕の先に魔法力を集中し、

合わせたあと頭上に掲げる。

 

 

 

『(イメージしろ……

ウィッチの皆さんが展開するシールドのように……

広範囲にかけてフィールドを広げる!!

そしてビームを押し留めて

跳ね返(リバウンド)させるイメージで光線を放つ!!)』

 

 

 

そしてノアールは合わせた両腕を左右いっぱいに広げ、

その身を伏せた。

その動作は、まるで自分の目の前に

壁を作ったかのように見えた。

そしてその結果――――

 

 

 

 

 

 

 

 

バァァァァン!!!

 

 

 

 

 

 

 

ノアールの前方に展開された青白い光の壁が、

ネウロイの収束ビームを見事に受け止めた。

 

その範囲は発動者のノアールのみならず、

宮藤やバルクホルン、

ペリーヌさえも覆い隠すほどの大きな壁だった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「アレは!?」

 

「光の……壁!?」

 

「まさか、

アレがノアールのシールドだというのか!?」

 

 

 

コアを探して攻撃している最中、

ネウロイの収束ビームが放たれ、

万事休すと戦慄していたミーナたちは、

突如として発動し、ビームを防いでいる

光の壁を目の当たりにして、自分たちのような

シールドとは異なるという観点から、

光の壁はノアールが発動したものと判断した。

 

 

 

「でもノアールくんが

シールドを使ったことなんて……」

 

「一度もない。奴の防御手段は

常時身体の周囲に展開している魔力フィールド

と聞いていたからな……」

 

「だとしたらアレは、ノアール君の“守りたい”

という意志の体現なのかもしれないわね」

 

「よし!心配事はなくなった!

ネウロイも今の一撃を放ってガス欠らしい。

今の内にコアをむき出しにする!!」

 

 

坂本の言う通り、

ネウロイは収束ビームを放ち終えた直後、

周囲を飛んでいた坂本たちを迎撃するための

ビームを放つこともなく静止状態になっていた。

 

それと同時に、

収束ビームを防いでいた光の壁が霧散し、

発動していたノアールがその場に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

「ノアールさん!!」

 

 

 

 

倒れ込んだノアールのもとにペリーヌが駆け寄る。

見ると、SUAの供給パイプの色が

光を失い黒くなっていた。

魔法力の枯渇によって気を失ったようだ。

 

 

 

「あっ!バルクホルンさん!」

 

 

ノアールの様子を見ていたペリーヌの耳に、

宮藤の慌てた声が聞こえる。

 

見ると、宮藤の治癒によって

傷が塞がったバルクホルンが、

ストライカーを装着し、自身の残ったMG42と

宮藤の13mm機関銃を持って離陸体勢を取っていた。

自分を心配する宮藤には振り向いて

微笑むことで返し、

 

 

 

 

「ペリーヌ、ノアールを頼む」

 

 

 

ペリーヌにはノアールを託す旨を伝える。

彼女が頷いたのを見届けて、

バルクホルンはネウロイ目掛けて飛びたつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コアだ!!」

 

 

 

 

 

 

丁度その時、ミーナたちの奮闘が功を奏し、

ついにネウロイのコアが露出した。

そのままコアを破壊しようと引き金を引く

ミーナや坂本たちの合間を縫って、

バルクホルンが突撃する。

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

 

 

 

 

雄々しい雄叫びをあげながら、

それぞれの機関銃の引き金を引き絞るバルクホルン。

間髪無く撃ち込まれた銃弾に曝された

ネウロイのコアは打ち砕かれ、

やがてその身体総てを白い結晶体に変えていった。

 

 

 

憑き物が落ちた雰囲気を漂わせ、

空中に佇むバルクホルンの元へ

少しばかり怒りを滲ませた表情をした

ミーナが飛んでいく。

 

 

 

 

 

「っ……ミーナ――――」

 

 

 

 

 

 

パンッ!

 

 

 

 

 

 

ミーナは、振り向いて自分が来たことに気づいた

バルクホルンの頬を叩いた。

 

 

 

「何をやっているの!?

貴女まで失ったら私たちはどうしたらいいの!?

故郷も何もかも失くしたけど、

私たちはチーム……いえ家族でしょう!?

この部隊の皆がそうなのよ!!」

 

「ッ……」

 

 

 

ひたすらに敵を倒すため戦うのではなく、

守るために戦う決意を込めた突貫だったとはいえ、

また無茶な行動をしてしまったことは事実。

 

ミーナの必死な説得と、

自分を抱きしめた行動にバルクホルンは、

改めて今までの自分の行動を恥じ入った。

 

 

「貴女の妹のクリスだって、きっと元気になるわ!

だから妹のためにも、新しい仲間のためにも、

死に急いじゃダメッ!!

皆を守れるのは、

私たちウィッチーズだけなんだから!!」

 

「……すまない。私たちは家族だったんだよな……」

 

 

独り善がりに戦っていた自分の行いを反省し、

バルクホルンはミーナに謝罪する。

そして――――

 

 

 

「ミーナ、休みを……

休みを貰えるか?見舞いに行ってみる……」

 

「やっとその気になったようだな…?」

 

 

 

妹に向き合う決心をしたバルクホルンに

ミーナは頷き、様子を見ていた坂本の問いかけに、

バルクホルンは笑みで返した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

501部隊基地宿舎。

その中の部屋の一つ……

ノアールの部屋のベッドで横になるその部屋の主。

 

 

 

 

 

 

『……っ……ぁ』

 

 

 

 

 

 

意識が覚醒したノアールは、小さく声を漏らした後、

視界に映る天井と自分の体勢を確認し――――

慌てて飛び起きた。

 

 

 

 

 

『ネウロイは!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「心配無用です、戦闘は終了しましたわ……」

 

 

 

飛び起きたノアールの耳に聞こえてきたのは、

落ち着き払った女性の声だった。

傍らを見ると、少しばかり驚いた顔をしたペリーヌが

備え付けの椅子に腰かけていた。

 

 

『クロステルマン中尉、お怪我は!?』

 

「きゃっ!の、ノアールさん!?////」

 

 

ペリーヌを見るや否や、

ノアールは身を乗り出して彼女の肩を掴む。

顔も近くなったうえに、

突然肩を掴まれたためペリーヌは赤面する。

 

 

『宮藤さんは!?バルクホルン大尉は!?』

 

「ノアールさん落ち着きなさいな!!

私たちは無事です!!

バルクホルン大尉も豆たぬ……

っ、宮藤さんの治癒のおかげで無事ですわよ////」

 

『……そうですか、よかった……』

 

 

張りつめていた気を落ち着かせるためか、

ノアールは大きく息を吐いた。

 

 

「そ、その……ノアールさん……?////」

 

『はい?』

 

「心配のあまり思わず、

というのはわかりましたから……

そろそろ肩を…離していただけるかしら……?////」

 

 

ペリーヌの指摘に、ノアールは自分が彼女の肩を

掴んでいたことにようやっと気づいた。

すぐさま離そうととした矢先――――

 

 

 

 

 

 

ガチャッ!

 

 

 

 

 

 

ノアールの部屋の扉が開かれた。

 

 

 

「ハルトマン!入室前にはノックをだな!?」

 

「トゥルーデだってノアールが心配だったんでしょ?

面会時間ギリギリまでクリスの側にいて、

帰ってきたら帰ってきたで早歩きで

ここまで来てさ?」

 

「なっ!!それは否定せんが……

ソレとコレとは話が――――」

 

「およ?」

 

 

入室してきたのはエーリカとバルクホルンだった。

ノックもなしに入室したことを

バルクホルンがエーリカに咎めるが、

彼女自身もその行動に移りかねない雰囲気を

漂わせていたと指摘されて、勢いが削がれる。

 

 

そんな二人の視界に、

部屋の中の光景が映し出される――――

 

 

 

 

傍から見れば、

ノアールがペリーヌの肩を抱いて

身を寄せ合おうとしている光景を……

 

 

 

「お、お前たち何をしている!?////」

 

『何を……って?』

 

「トゥルーデ、私たちはお邪魔みたいだし

時間置いてから来ようよ♪」

 

「な、押すなハルトマン!お邪魔とはなんだ!?」

 

「ハルトマン中尉!?私は別にノアールさんとは

“そういう関係”ではなくてよ!!?////」

 

 

 

ただならぬ雰囲気を漂わせているノアールたちに

対して咎めようとするバルクホルンを

エーリカがニヤニヤした顔で

部屋の外に出そうとする。

 

ペリーヌは在らぬ誤解だと

慌ててノアールから離れて弁明する。

 

 

「いやぁ~

お二人がイイ雰囲気を醸し出してるもんだからさ♪」

 

「誤解です!!ノアールさんは

私たちを心配した勢いで、

この場にいた私の肩を掴んだだけで、

深い意味はありませんわよ!!////」

 

「………そうなのか……ノアール、そうなのか?」

 

 

 

エーリカへのペリーヌの弁明にバルクホルンは

ノアールに目を向ける。

対するノアールは臆面もなく――――

 

 

 

『はい。結果的に自分の行動が皆さんを守った

とはいえ、あの戦いの中で一番危機的状況だったのは

お二人と、ここにいない宮藤さんでしたから

……つい勢いで……』

 

 

と言ってのけた。

その表情に下劣な雰囲気は微塵もなかった。

 

 

 

「そういうことならいい。

だが、無闇に異性の身体に触れるのは

緊急時を除いて控えた方がいい。

こうは言いたくないが、妙な難癖をつけて

訴えられるとも限らんからな?」

 

『はい。クロステルマン中尉、

申し訳ありません……』

 

「っ……別にもういいですわよ!

貴方に守ってもらったのは事実ですし……」

 

 

 

そう言ってペリーヌはノアールが起きたことを

他のメンバーに報せるため、

扉の前に立つ。その直前――――

 

 

 

「ペリーヌと……」

 

『はい?』

 

「貴方の誠実さを見込んで、

これからはそう呼んでくださいまし。

それから……私たちを守ろうとしたあの佇まいは、

とても凛々しかった…ですわよ////」

 

 

そう言い残し、ペリーヌは慌てて部屋を出て行った。

彼女自身、最後の方のセリフは

言っている内に恥ずかしくなっていき、

尻すぼみになってしまっていたため、

慌てて出て行ってしまったのだ。

 

 

ちなみに――――

 

 

 

 

 

 

『あの、クロス……ペリーヌさんは最後、

なんと言っていたんでしょうか?』

 

 

 

 

ノアールにはなんとも都合のいい?悪い?ことに

最後の方のセリフは聞こえていなかったようだ。

 

そんな彼の言葉に、エーリカはニヤついていた顔を

何故か瞳が白くなった驚愕の顔にして戦慄する。

 

 

「(えぇ~?最後のほうだけ聞こえないって、

ノアールってばもしかして鈍感……?)」

 

「いや、私にも聞こえなかった。

まあ親しい仲になれたことは僥倖じゃないか」

 

「(トゥルーデ、お前もか……)」

 

 

このメンバーの中で唯一

あのセリフが聞こえていたエーリカとしては、

バルクホルンには黙ってもらって、

今後ノアールが異性間で起きるであろうトラブルに

どうアタフタするのかを見届けようと

画策していたのだが、

懸念材料だったバルクホルンさえも

彼と同類だった事実に内心呆れていた。

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

「じゃあ私は部屋に帰って寝よっと…

トゥルーデの病院への送り迎えしたから

眠くて眠くて……」

 

「あぁ、すまないハルトマン。というより、

そういう時に真っ先に寝ようとするお前が、

わざわざノアールの様子を見に

私と同伴するとは……」

 

「宮藤と同じく、

トゥルーデを守ってくれた恩人だからね。

ありがとう、ノアール♪」

 

『いえ。バルクホルン大尉が無事だったなら、

それで……』

 

「♪~…あ、思い出した。ほらトゥルーデ、

ノアールにアレ……提案しなくていいの?」

 

「ッ……わかっている!

だが、心の準備というものがだな……」

 

『…?』

 

 

ペリーヌに代わってベッドのそれぞれの傍らに立つ

エーリカとバルクホルン。

すると、エーリカの何かを勧めるセリフに、

バルクホルンが口を噤んだのを見て

ノアールは首を傾げる。

 

そして、意を決した様子のバルクホルンは

語り始める。

 

 

「ノアール、お前と宮藤のおかげで

私はこうして命を繋ぎとめることができた。

今日、妹のクリスのもとに赴いて、

目覚めることはなかったが……

今一度妹と向き合って分かった。

私は独り善がりの理由で、

妹を守ることができなかった私に、

姉である資格なんかない……

だから戦いの中で自分がどうなってもいいと

自暴自棄になっていたんだと……」

 

『……』

 

「だが……まだ生きているクリスにとって、

すぐ側に居られる存在は、

私しかいないんだとも理解できた……

あのまま自分の命を軽んじて

戦い続けて死んでしまったら、

それこそ妹を残して死んでいった愚かな姉……

いや今度こそクリスの姉としての

資格を失ってしまっていた。

その上、家族であるこの部隊みんなにも

悲しい思いをさせてしまう所だった……

だから、ありがとうノアール……」

 

 

感謝の言葉を告げるバルクホルンの表情は、

ノアールの記憶のどれにも当てはまらないほど

優しさに満ちたものだった。

これが姉たる者としての

バルクホルンの表情なのだと彼は思った。

 

 

『いえ……自分は同じ姉を持つ者として、

妹さんの気持ちを代弁しただけです。

自分がバルクホルン大尉の

妹さんの立場になった時に思ったことを、

素直に述べただけですから…』

 

「………あ~…その、だな……」

 

『はい……?』

 

 

再びバルクホルンの口が重くなった。

 

 

「ここからが、ハルトマンの言っていた

提案にあたる話なのだが……」

 

『なんですか……?』

 

「さっきも言ったように……

いや、ミーナが言っていたように、

この部隊はみんながみんな家族だ。

その認識はしておいてくれ?」

 

『はい……もちろん……』

 

「それでだな……お前にはもうルッキーニという

姉がいるわけだが……その……」

 

「もう~いちいち回りくどいなぁトゥルーデは!

つまりねノアール、

トゥルーデが言いたいのは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、もう一人欲しくない?

……ってこと♪」

 

 

 

 

 

 

 

エーリカによってバルクホルンの提案が暴露された。

 

 

『姉さんをもう一人?』

 

「ハルトマン!

そんな軽々しく言える問題じゃないんだぞ!?

特に本当の家族の記憶がない

ノアールにとっては繊細なものなんだ!」

 

「だからこそトゥルーデが守ってあげたい

って思ったんでしょ?

ルッキーニはルッキーニなりに頑張ってるつもり

だけど、それだけじゃ絶対限界があるって」

 

 

エーリカの指摘にバルクホルンは反論できなくなり、

申し訳なさそうな顔でノアールに向き合う。

 

 

「勝手なことだとは思う……

だがハルトマンの言っていたことを

考えていたことは事実だ。

私個人の事情を説明するなら、あの日お前と部隊の

みんなが打ち解けるきっかけになった事件の際に、

お前が私を見て“姉さん”と呼んでくれただろう?」

 

『はい……』

 

「アレに心を揺さぶられて、

クリスと雰囲気の似ている宮藤がいたことも

相まって今度の事件が起こったんだ。

それくらい、お前が私を姉さんと

呼んでくれたことが印象的で、

お前が私を守ると言ってくれたことに

悔しさを覚えて、私がお前の姉となって

守ってやりたいと思えたんだ。だからノアール……」

 

 

 

 

 

 

 

「私を、姉さんと呼んでくれないか?」

 

 

 

 

 

懇願と申し訳なさが籠った表情で

ノアールに提案するバルクホルン。

それに対しての返答は――――

 

 

 

『……なんと呼べば?フラン姉さんを

名前呼びで姉さんと呼んでいる以上、

大尉のこともそう呼びたいです…』

 

「ぁ………ならトゥルーデでいい…」

 

『じゃあ……“トゥルーデ姉さん”』

 

「っ……ああ、ノアール」

 

 

 

承諾と、それの証としてノアールは

バルクホルンの愛称呼びのうえで姉さんと呼んだ。

 

 

「はぁ~……ようやっと終わったよ……

これで心置きなく寝れるってもんだよ、

ふぁぁぁ~~」

 

『ハル……っ……エーリカさん、

これを機にエーリカさんとも

もっと親しくなりたいのですが、どうでしょう?』

 

 

ノアールの意外な提案に一瞬呆け顔になるエーリカ。

どうやら彼も無自覚に気分が高揚しているようだ。

 

 

「ヒヒッ♪ いいよ。

トゥルーデの弟ってだけでクリスと同じ、

仲良くするのは大賛成だから♪

んじゃ、お姉ちゃんを守った弟君には

このセクシーギャルからご・ほ・う・び♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ!

 

 

 

 

 

 

 

エーリカは、ノアールの頬にキスをした。

 

 

 

「なっ!!?」

 

 

バルクホルンはエーリカが心なしか

ノアールに顔を寄せていることに

疑問を持っていたが、

このためだったのかと自覚した瞬間立ち上がる。

 

 

 

「ハルトマン!!貴様なにをやって!!?」

 

「えぇ~?これくらい挨拶みたいなもんじゃん。

私これから寝るし、おやすみのキスってことで♪」

 

「その場合はお前がされる側だろう!!

ノアールに妙な習慣を吹き込むな!!」

 

「あ~あ~お姉ちゃんになった途端これだよ……

じゃあねノアール♪」

 

「待てハルトマン!!お前ノアールによからぬ感情を

抱いているのではあるまいな!!?」

 

 

 

騒がしく部屋を出て行った二人を

見送ったノアールは、

先にエーリカの唇が触れていた頬に手を這わせる。

 

 

 

 

『トゥルーデ姉さんは、

なぜあんなにも怒ってたんだろう?』

 

 

 

頬とはいえ異性からのキスという行為の

重大さを理解しないまま、

ノアールは首を傾げていた。

 

 

 

その後、ペリーヌの報せを受けて

先の三人と夜間哨戒のために就寝していた

サーニャ以外の全員がノアールの部屋に殺到した。

最初の姉たるルッキーニが涙ながらに

ノアールに抱き着いたのは言うまでもない。

 

 

余談だが、ノアールの部屋を見た何人かが

元から備え付けられていた必要最低限の家具以外に

何もないことに気づき、

親睦も兼ねて今度ブリタニアへ

買い物に行こうと約束をしていた……

 

 




バルクホルンが姉になる構想は
割と初期からありました。

そこから
“ルッキーニよりも下になるから
ルッキーニがなにも影響を受けないのは違和感あるなぁ…
第一印象から友達になれてないから、
弱い一面を見てお姉ちゃんになって守ってあげたいって
思わせるのがいいか”

という構想から

ルッキーニを最初の姉に

それがきっかけで
バルクホルンのトラウマが発症

和解と二人目の姉に

という構成にしました。

そして何気にエーリカからサービス
貰っちゃってるノアールが羨ましい…
エーリカファンの皆様ごめんなさい

ペリーヌも少しばかりデレを見せてましたし…

そして最後に、
これは展開上仕方ないとはいえ、
書き終えた後に気づいたのですが……


何気にノアール、ミーナ中佐の部屋に
連れ込まれてるって羨ましくないですか?


それでは
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