Unknown Wizard Chronicle 作:シノギ
訓練のための装いとはいえ今見てもみんな最高過ぎですよね
そしてそんな彼女たちの中にいられるノアール君、
マジ裏山…(#^ω^)ピキピキ
タイトルも本家同様に3つの単語で揃えてみました。
最後まで読んでいただければその意味を理解してもらえると思います。
特に3つ目……
『………ん~』
某日、時間にしてお昼前。
501基地の宿舎から基地格納庫へと続く
廊下を歩くノアールは、眉根に皺を寄せて唸っていた。
「どうしたの、ノアールくん?」
「何か悩み事?」
そんな彼の隣を宮藤とリーネが歩いていて、
先まで交わしていた話がひと段落し、
ずっと悩んでいる様子を見せていたノアールに
声をかける。
『悩み事……と言われればそうなのですが……
お二人に話していいものかどうか……』
「遠慮することないよ、ねぇリーネちゃん?」
「うん。話してくれないと、
力になれるかどうかもわからないんだし♪」
『そう、ですね……じゃあお言葉に甘えて……』
普段ノアールはその表情をあからさまに変化させることは早々ない。
そんな彼がここまで悩んでいる雰囲気を
醸し出すほどの悩み事……
きっとすごい悩みに違いないと、
二人はできるだけ彼の力になってあげようと
決意していた。
そしてノアールはその悩み事を打ち明けた――――
『明日の水上訓練に着ていく水着が………
無いんです……』
「「…………へ?」」
想定外の――――思っていた以上に小規模な、
という意味での悩み事に宮藤もリーネも目が点になった。
◇◇◇
数分前、基地宿舎のミーティングルームにて
ウィッチたち9人とノアールが集合し、
基地の東側にある海岸にて
水上訓練が行われる旨が伝えられた。
が、この時宮藤は何を勘違いしたのか――――
「やったぁー!海だぁー!海水浴だぁーー!!」
と両手を上げて喜びを露にしていた。
そして、自分以外のメンバーが不思議なモノを
見るような顔をしているのに気づいた宮藤は首を傾げる。
「あれ?皆さん海、嫌いなんですか?」
やはりこういう時は生粋の軍人か元一般人かの差だろう…
宮藤以外の全員はこの報告が意味する事柄を
理解していた。
そんな一人であるリーネが宮藤に小さく声をかける。
「芳佳ちゃん……訓練よ、訓練……」
「……訓練?」
「そうだ!我々は戦闘中、
どんな状況にも対応せねばならん、
たとえ海上で飛行不能になってもだ…
そこで、海に落下した時の訓練が必要なのだ…」
「……なるほど」
海岸にて行われるのが訓練と聞いて
納得の声を口にするも、
宮藤はわかりやすく落胆していた。
「なんだ宮藤!訓練が嫌いなのか!?」
「い、いえ……そうじゃないですけど……」
慌てて弁解する宮藤を見て、ミーナは笑う。
そして坂本の説明を継いで全員に改めて
海上訓練の内容を説明する。
「フフフッ♪集合場所はここ。
時間はヒトマルマルマル(1000)時よ。いい?」
『「「「「「了解」」」」」』
「わかったわね、宮藤さん」
「はいっ!」
「じゃあ以上の内容をシャーリーさんや
ルッキーニさんにも伝達してください。
シャーリーさんは今日は朝からハンガーにいるわ。
ルッキーニさんは……
基地のどこかで寝てると思うから探してみて」
「わかりましたっ」
「ノアール君、お義姉さんを探すのを
手伝ってあげてくれるかしら?」
『わかりました。でも、シャーリーさんが
ハンガーにいるのなら、
凡その場所は見当がついていますが…』
「そう、それは頼もしいわ♪」
自由奔放な義姉の捜索をノアールに任せたミーナは
今一度宮藤に顔を向ける。
「宮藤さん、
なにも一日ずっと訓練ってわけじゃないのよ?」
「え?」
「つまり、訓練の合間には
たっぷり海で遊べるってこと♪」
「~~っ!ミーナ中佐♪」
宮藤の明日の訓練への意気込みを高めるために
ミーナは言葉を尽くした。
当日、彼女はその訓練に伴う代償を
思い知ることになるのだが………
◇◇◇
その後、宮藤はリーネとノアールを伴って
シャーリーがいるであろうハンガーへと
向かっていたのだが、
その矢先のノアールの悩み事であった。
そういえばルッキーニと混浴するとなった時、
彼は水着を持っていなかったと発覚したのを思い出し、
そういう意味も籠った気の抜けた返事を返されて、
ノアールは申し訳なさそうな顔をする。
『すいません……やっぱり女性に対して相談する
悩み事じゃなかったですよね……』
「あっ違う違う!!思ってたより大したことない悩み……
でも明日の水上訓練のために水着が必要なら
大した悩み……なのかな?」
「ノアールくん、原隊にいた頃に
水上訓練はしたことないの?」
『自分が記憶している限り必要最低限の……
それこそ戦闘に関する訓練を
集中して行っていましたから。
そうでなくても、墜落したことなんて
一度もありませんでしたし…
汎用性に特化した訓練をここで実施しているのは
自覚していましたが…
こんな形で自分の訓練不足を思い知るとは……』
ノアールの言い分に宮藤もリーネも内心頷く。
それなりに交流が多くなった今でも、
彼はなんでもそつなくこなす天才型の
人間というイメージが強かったため、
不謹慎ではあるが自分たちのように
苦手としているものもあったのだと知って
親近感を持った。
「なんだか安心しちゃった」
「うん、そうだね芳佳ちゃん♪」
『え?安心…とは?』
「ああ、変な意味じゃなくてね?
ノアールくんが――――」
ドォンッ!!
その時、突然爆音が鳴り響いた。
宮藤は咄嗟にリーネに抱き着き、
ノアールは爆音がした方向と二人がいる間に
身体を滑りこませて二人を庇うような体勢になった。
「なに!?」
「ハンガーの中から?」
「…行こう!」
行先だった場所から聞こえてきた爆音に
顔を強張らせる二人は走り出す。
『(今の音……もしかして……)』
二人に続くノアールは、
その爆音の原因を凡そ把握しつつあった。
「シャーリーさん!!」
「よぉ~!どうしたんだ三人で?」
格納庫に着くなりその場にいたシャーリーに
声をかける宮藤。
だが、彼女の表情はいつものにこやかなものだった事と、
ハンガー内に特にこれといって爆音の原因となるものが
見当たらなかったことに呆然とする。
そんな中、ノアールは得心がいったという顔をしていた。
「あの…さっきの音は…?」
「これか?これはなぁ……♪」
宮藤たちは、エンジン部分を露出させたストライカーを
装着したまま発進ユニットに腰掛けていた
シャーリーのもとに集う。
魔法力を発動させてストライカーを
発進ユニットに固定させ、魔導エンジンを起動させる。
気持ちよさそうにエンジンを回すシャーリーに対し、
それに伴う爆音に耳を塞ぐ宮藤たち。
原因が分かったことに声を上げる宮藤だが、
爆音のせいでその声すら届かない。
計測器を操作していたシャーリーは
宮藤の身振りを見てエンジンを止める。
その際、リーネが気を失って倒れそうになり、
ノアールが自分に寄り掛からせる形で受け止めた。
「静かにしてくださぁぁぁぁい!!!」
エンジン音が止んだ瞬間に放った
宮藤の大声がハンガーに響き渡る。
「……声が大きいっ」
「えっ……ああ、ごめんなさい……。
っていうかなんなんですか?
ハンガーで一体何をやってるんですか?」
先の爆音に負けないほどの大声を出した宮藤は口を塞ぎ、
シャーリーにここで何をしているのかを尋ねる。
『リーネさん、大丈夫ですか?』
「んん……ふぇ……っ!!
ご、ごめんノアールくんッ!////」
受け止めていたリーネに声をかけるノアール。
意識を取り戻したリーネは慌てて体勢を整える。
自分より背の低いノアールに支えてもらっていた事への
申し訳なさもあるが、
年下とはいえ異性と密着していたことへの
羞恥心もあった。
「んぅ~うるしゃいなぁ~……」
その時、彼女たちの頭上から
不満気な少女の声が聞こえてきた。
「あっ!ルッキーニちゃん!?」
「ふぁぁ~……せっかくいい気持ちで寝てたのに
芳佳の大声で起きちゃったじゃない……」
「ああ、ごめんね?」
見るとそこにいたのはルッキーニで、
ハンガーの梁の上に彼女お気に入りの
毛布を敷いて寝そべっていた。
そしてそのまま梁の上から飛び降り、
シャーリー達のもとに着地する。
「ルッキーニちゃん、あの音平気だったの?」
「うん。だっていつものことだし。
あっ!おはようノアール♪」
『おはようフラン姉さん』
寝起きに義弟の顔を見られたことで
ルッキーニの機嫌が少しばかり良くなった。
「いつも?シャーリーさん
いつもこんな轟音立てて……?」
「ストライカーのエンジンを改造しただけだよ」
「エンジンの改造…って、どういうことです?」
「おいで、見せてあげる♪
それからノアール、また頼めるか?」
『…いいですよ。というより、
こういう時のシャーリーさんについていけるのは、
自分だけでしょうし…』
滑走路へと向かうシャーリーに促されて
宮藤たちはそれについていく。
その最中、シャーリーが当たり前のように
という様子でノアールに
頼みごとをしていたのを見て、宮藤たちは驚く。
「ノアールくん、知ってたの?」
『ええ。実を言うと、
ハンガーにシャーリーさんがいるのと、
あの爆音を聞いて凡その見当はついていました。
そこにフラン姉さんも一緒にいることもね』
「教えてくれればよかったのに…」
『話す機会がなかったというか……
説明するより見てもらった方が
早かったといいますか……』
そうこうしている内に、
一行はハンガー外の滑走路へと辿り着く。
「あの、改造って?」
「魔導エンジンのエネルギーの割り振りを弄ったんだよ」
「割り振りって、攻撃や防御に使う分のエネルギーを
変えてるってことですか?」
「そういうこと♪」
「いったい何を強化したんですか!?」
発進態勢を整えるシャーリーは、
年季の入ったゴーグルを装着する。
「もちろん速度!」
「シャーリー!!」
「おう!」
リーネの問いに答えたシャーリーは
傍らにいたルッキーニの声に応じる。
ルッキーニの手には速度観測機があった。
「準備は良いな、ノアール!!」
『いつでもいいですよ!!』
SUAを装着して既に上空で待機していた
ノアールにも声をかけ、
応答を聞いたシャーリーは真正面を見つめる。
「ゴォーー!!」
ブォォォォォン!!
ルッキーニの合図にシャーリーは発進した。
滑走路を滑るように進むその速度は
宮藤たちが普段見ている他のウィッチのものと
比べても段違いのものだった。
「いっけぇ!シャーリー!!」
「すごい、なんて加速…」
「まだまだ!」
三人が見ている前で、シャーリーは離陸する。
ノアールはその前に飛行姿勢を取っており、
彼女が上昇すると共にそれについていく形で飛び立つ。
ちなみに空中で衝突しないよう
ある程度の距離は保っている。
「おっ!一気に上がったな」
その頃、宿舎のバルコニーにて
シャーリーの飛行を見学していた
坂本とペリーヌ、ミーナの姿があった。
ミーナと坂本の手には双眼鏡が、
ペリーヌの手にはルッキーニの持つ
同じ型の速度観測機があった。
「高度1000メートルまで50秒。
今までにない上昇速度です、少佐」
「ピーキーに仕上げたわね」
「…お手並み拝見だ」
「行くよマーリン!魔導エンジン、出力全開!!」
『了解!こちらも速度を上げます!』
部隊の二柱からも期待を寄せられているシャーリーは
魔導エンジンの出力を上げると共に
彼女の固有魔法“超加速”を発動させる。
その声を聴き、ノアールも遅れないよう速度を上げる。
「シャーリーさん、まだ加速してる!」
「でもノアールくんもちょっと遅れてるけど
着いていってる、すごい!」
飛行機雲を作りながら飛ぶシャーリーのスピードが
さらに加速していくのを見て驚嘆するリーネ。
そしてそれに遅れ気味とはいえ、
並行して飛んでいるノアールにも驚く宮藤。
「時速770キロ!……780……785……790!……795!!
800キロ突破!記録更新だよ!!いっけぇー!!」
観測機が示す速度を告げるルッキーニと
それに驚く宮藤たちの目の前を
シャーリーとノアールが横切る。
その速度は最早、認識した瞬間
その視界から消えるほどのものとなっていた。
「もっと……もっとだッ!!」
更なる加速を求めて、
シャーリーは魔法力を全開にするが――――
ガタガタガタッ……
『っ!!ストライカーに振動が!
シャーリーさん、これ以上は……!』
「…くっ!」
シャーリーのストライカーが限界を訴えているのに
気づいたノアールが注意を促し、
シャーリーは悔しげな表情を浮かべる。
一方、バルコニーにてその様子を見ていた坂本たちも
その異変に気付いた。
「加速が止まります!」
「どこまでいった?」
「800を超えた辺りです」
「そうか……800を超えると伸びなくなるのか……」
「やっぱり……これが限界なのかしらね……」
「………音速は、まだまだ遠いな……」
ネウロイとの戦いを生業にしている彼女たちにとって、
未知なる領域に挑戦するシャーリーの飛行に
期待するものがあっただけに、
記録更新のみに留まった今回の結果に対し
残念な表情を浮かべる三人だった。
「それにしても……」
「はい?」
「遅れ気味とはいえ、シャーリーに並行して
速度を維持しつつ飛んでいるノアールも凄いものだな」
坂本はシャーリーの叩き出したスピードに
感心すると共に、
それに勝るとも劣らないスピードで飛んでいる
ノアールにも驚いていた。
「言われてみれば、たしかに……」
「ノアールが並行して飛んでいるのは、
シャーリーのストライカーに異常があった時の救援のため
と聞いたが?」
「ええ。安全を考慮してシャーリーさんが速度に特化した改造を施しても、
何かしらのトラブルが無いとは限らないから…
彼女の速度に並行して飛べる上に、
なにかあった時に助けられる人がいた方がいいって」
「なるほど……だが、それでどうしてノアールに
白羽の矢が立ったんだ?」
「以前リーネさんが初戦果を挙げた時があったでしょう?
囮のネウロイがいた空域から私たちがいた空域までの
距離を飛んだ時の彼の飛び方を見て、
シャーリーさんが頼んだらしいの」
「あの時か……!確かに奴は何の苦も無く
ミーナ達と合流していたな……」
「ええ。しかもあの時のノアール君の様子からして、
あのままネウロイに追いつけそうな勢いを保っていたわ」
「ふむ……」
囮のネウロイ相手に一気呵成に責め立てた上、
通常のウィッチでは時間のかかる距離を
苦も無く駆け抜ける、
しかもその際に余力を残している節を見せた……
「(改めて考えれば、
ヤツの力はまだ未知なるところが多いな……)」
「(そんな彼の力を発揮するあの装備……
本当に試験運用のためのものなのかしら?まるで……
彼のためにチューンナップされているような……)」
改めて二人は、
ノアールの醸し出す不明瞭な点に疑念を募らせていった。
そんな疑念を募らせている501部隊の二柱とは別に、
全く別の場所からノアールを見つめる眼があった……
◇◇◇
最速記録を更新したシャーリーの挑戦が終了し、
自身のストライカーを元の通常状態に
調整し直している頃には夕方にさしかかっていた。
そんな中、芳佳とリーネ、そしてノアールは
シャーリーが最速を目指すルーツを教えるために
持ってきたスクラップ長の中身を見ていた。
そこに張り出されているのはすべてシャーリーに関する
記事や写真ばかりだった。
「グラマラスシャーリー、
新記録……バイクの記録ですか?」
「そうさ♪」
「シャーリーは、パイロットになる前は
バイク乗りだったんだって♪」
調整を中断しシャーリーは
軽食に作ってきたハンバーガーを手に取って話し始める。
「ボンネヴィル・フラッツって知ってるかい?」
「ボン?」
「リベリオンの真ん中にある、
見渡す限りすべて塩で出来た平原さ♪」
「そんなところがあるんですね」
「そこは、あたしらスピードマニアの聖地なんだ……」
シャーリーはその頃のことに思いを馳せているのか、
心地いい顔をして眼を閉じる。
「そこで記録を破った日に耳にしたのさ…
魔導エンジンを操って空を舞う、
世界最速の魔女たちの話をね。
その日あたしは軍に志願して入隊。
今ここでこうしてるってわけ♪」
「それで、任務のない日に
スピードの限界に挑戦してるんですね!」
「最速かぁ…すごいなぁ…」
シャーリーの最速に対する情熱に納得するリーネと宮藤。
そこで、宮藤は再び疑問を投げかける。
「でも、それってどこまで行けたら満足するんです?」
「そうだなぁ……いつか音速……
マッハを超えることかな?」
「音速って…?」
『読んで字のごとく音が伝わる速さのことです……
たしか、時速1200キロだったかと…』
「そう!あたしはそこを目指してるんだ!」
「そんな速度を出すなんて、本当に可能なんですか?」
「さあねぇ……でも夢を追わなくなったらおしまいさ♪」
シャーリーは首にかけていたゴーグルを外し
宮藤たちにウィンクすると、
それを自身のストライカーのウィング部にかけた。
すると――――
『シャーリーさん、
貴女は軍にいるべきではないと思います……』
ノアールの突然の発言に、シャーリーは怪訝な顔をし、
リーネと宮藤も首を傾げる。
「ノアールくん?」
「何を言って……」
「なんだよノアール、お前までバルクホルンみたく
“最前線たるこの場所で何を不謹慎な”とか言いたいのか?
早速お義姉ちゃんの性格を継承しちまったのか?」
余談だが、ノアールがバルクホルンを
姉呼びすることになった旨は部隊全員に知れ渡っている。
ルッキーニは当初“姉は自分だけ”とゴネていたが、
ノアールの“フラン姉さんは1番目、
トゥルーデ姉さんは2番目だから”という
鶴の一声で一気に機嫌がよくなり、了承した。
バルクホルンも
“最初にノアールの姉になったのはルッキーニだから”と
特に文句を言うことはなかった。
閑話休題
『いえ、トゥルーデ姉さんなら
そう言うかもしれませんが…
シャーリーさんの最速を目指す信念は本物だと、
ここまでの話でわかりました。
でも、だからこそ貴女はここにいるべきじゃない!』
「だからこそ?」
『だって貴女の出身はリベリオン!
ネウロイの侵攻が未だない国のはずです!
ウィッチとして最速を目指すのなら
そこでもよかったはずです!
なのに態々こんな激戦区に来るなんて……
ネウロイとの戦いは命がけです!
そんな中で命を落としたら、マッハを超えるっていう
貴女の夢も叶わなくなるんですよ!?』
いつになく必死な形相で捲し立てるノアールに
シャーリーやルッキーニ、
そして宮藤やリーネも驚きを隠せない。
そんな彼に対し、シャーリーは頭を掻きながら答える。
「まあ確かに、ノアールの言うこともわかるさ。
バルクホルンからも似たようなこと言われたし……」
『だったら…!』
「けどあたしの場合、
原隊で色々やらかしちまったっていう経緯で
ここに来たようなもんだし……。
あたし以外にもリベリオンから
軍に志願するウィッチは少なからずいるぜ?」
『それは……そうかもしれませんけど……』
納得がいっていないノアールの肩に
シャーリーは手を乗せる。
「それに、もうここに来ちまった以上、
今更夢のためってだけでこの501を去るなんて出来ない!
ここにはルッキーニや、仲間たちもいる」
「「「シャーリー(さん)…」」」
「その仲間のためにネウロイと戦おうって思える。
そしてもしかしたら、あたしの国のリベリオンも
将来ネウロイが侵攻してくるかもしれない……
そうなった時のためにここで経験を積む…
あたしが軍に残る理由はそれだけだ!」
『……シャーリーさん』
心配する顔をするノアールに
シャーリーは歯を見せて笑う。
「“501部隊にて活躍したグラマラス・シャーリー!
今度はネウロイの侵攻だけでなく音速の壁も打ち破った!”
なんて見出しの新聞が出るかもしれないだろっ♪」
暗い雰囲気を打ち破るようなおちゃらけた言葉に、
宮藤とリーネはくすくすと笑いだす。
そして、それでも晴れやかな顔をしないノアールを――――
ギュッ
シャーリーは抱きしめた。
『っ!?……シャーリーさん!?』
「ありがとなノアール。
あたしを心配して怒ってくれたんだよな?」
『……はい』
「けどあたしは大丈夫だ。
夢を叶えるその時まで、あたしは死にはしない!」
『夢を……叶える……』
「ノアールにも無いか?叶えたい夢って?」
シャーリーの言葉にノアールは思考する。
だが……
『……わかりません。これまで考えたことも、
考える余裕もありませんでしたから……』
「そっか……でも焦る必要はないさ。
お前はまだまだ幼いんだから、
これから先の人生の中で見つかるはずさ♪」
『見つかるでしょうか……?』
「見つかるんだって思っておけば気が楽だぜ?」
ルッキーニ以外の、それも異性を抱きしめる機会は
早々無かったため、しばらくノアールを
抱き寄せたままにしていたシャーリーは、
こういう時に騒ぎそうな人物へと目を向ける。
「おやおや~?自分の特等席を義弟に取られたのに、
ルッキーニお姉ちゃんは大人しいままなのかなぁ~?」
その人物――――
ルッキーニに揶揄い気味に尋ねるシャーリー。
宮藤とリーネもルッキーニの方を見ると、
彼女は発進ユニットの上でそわそわといった様子で
シャーリーを見ていた。
が、シャーリーの言葉を聞いた瞬間、
落ち着かない様子を引っ込めて腕を組んで顔を逸らした。
「お、弟がシャーリーに抱きしめられてる時は、
お姉ちゃんは我慢するの!だから平気だもん!」
「ふ~ん?じゃあこれからはルッキーニを
抱きしめる割合を減らしてもいいのかぁ?」
「へっ!?………ぐぅ……んぬぬぅ~~……」
突然の宣告に先まで平静を保っていたルッキーニの表情が
苦悶に歪む。
心なしかシャーリーを見つめる目が
涙目になってるようにも見える……
『シャーリーさん……
フラン姉さんをイジメないでください……
これでは自分がシャーリーさんを
フラン姉さんから奪ったみたいな感じになって
居たたまれないです……』
「アッハッハッハ!ワリィワリィ♪」
そしてノアールを離したシャーリーは
ルッキーニに冗談だった旨を伝えると、
ルッキーニはたちまち機嫌を直した。
まだまだお姉ちゃんには遠いなと内心苦笑しながら、
立ち上がって伸びをする。
そして何かを思い出したように宮藤たちに話し出す。
「ああそういえば、
三人は用があってここに来たんじゃないのか?」
「「え?」」
『……あ』
「「あぁ!!忘れてた!!」」
顔を見合わせた宮藤とリーネは当初の予定を思い出し、
慌ててシャーリー達に伝達した。
◇◇◇
翌日、予定されていたヒトマルマルマル(1000)時の
ミーティングルームにて、
まさにこの世の桃源郷ともいうべき光景が広がっていた。
そこにはそれぞれ年齢に見合った、
もしくは裏腹に大胆な、
或いは性格ならではの個性豊かな水着で着飾った
ウィッチたちが一堂に会していたのだ。
坂本と宮藤は普段着ている扶桑海軍の軍服と
学校指定の制服を脱いだだけの水練着姿。
とはいえ、黒に近い紺色の水練着から伸びた
透明感のある両腕両足の白さ、
或いは日に焼けた薄小麦色の肌が目立ち、
露出が少なくも、普段隠れている所が出ている、
意識していなかった所が目立つというだけで
充分魅力的に映る。
リーネはワンピースタイプの水着。
露出度で言うなら先の宮藤や坂本と変わらないが、
リーネは胸元にフリフリが着いたピンク色の
可愛らしいタイプな上に、幼い顔とは裏腹に
豊満な胸元のおかげで谷間が作られている。
そのギャップこそが彼女の魅力を引き立たせる
スパイスであろう。
バルクホルンとエーリカはトップスからボトムスまでが
一体化したスタンダードなタイプの水着で、
翼を広げた鳥のマークが描かれた、
それぞれグレーのラインが入った黒と、
黒一色のカラーリングをしたものだ。
厳格な性格のバルクホルンと、そういった物にこだわりの
無さそうなエーリカらしいチョイスだが、
鍛えられてバランスのいいプロポーションを
持つバルクホルンと、
小柄故の愛らしさを持ったエーリカが水着姿になるだけで
その魅力が十分発揮されていると言っても過言ではない。
サーニャ、エイラの北国出身の二人も
今回の水上訓練のために用意した水着を着用していた。
共に出身と普段あまり外に出ない性格も相まって
眩しさすら感じる色白の肌、
サーニャは儚げな印象に反して水着は背中や
腰の両サイドで結び目を作って着る
黒のセパレートタイプの水着でこれまた
ギャップによる魅力が窺える。
対してエイラはトップスは白、
ボトムスは薄い青のセパレートタイプの水着。
体型は眼を見張るほどではないとはいえ、
普段は軍服と白のタイツで覆われた
肌が露出しているというだけで魅力は十分だろう。
部隊長であるミーナは胸元と腰の両サイドで
結び目を作って着る白のセパレートタイプの水着。
その上に深緑の上着を着ている。
普段は部隊長としての貫禄と、
ウィッチたちを見守る母親のような気品を持つ
彼女がこれほど大胆な水着を、
それも上着で露出を抑えているとはいえ、
その下にある水着を見出した時の背徳感たるや、
言葉にしえない何かが湧き上がってくるものがある。
ペリーヌは青に近い紫のセパレートタイプの水着。
体型こそスレンダーだが、
ガリア令嬢たる所以の上品さと、
金の長髪と知的さを感じるメガネをしている彼女が、
軍服と黒タイツで覆われた肌を露出し、
アダルトな色合いの水着で着飾ることで
彼女の意外な一面を見たようなこれまたまた
ギャップによる魅力が伝わるだろう。
シャーリー、ルッキーニの仲良しコンビも
セパレートタイプの水着だ。
シャーリーは彼女のイメージカラーともいえる
真紅の水着で、部隊内で一番のプロポーションを持つ
彼女の魅力を十分引き立てている。
ん?説明文が前までのみんなと比べて少ないと?
そこは所謂“デカァァぁぁぁイ!説明不要!!”
というヤツである……
閑話休題
ルッキーニは白に近い緑のカラーリングの水着で
所謂タンキニタイプ。
部隊内のウィッチの中で一番幼いため体型は
年相応のものだが、ロマーニャ出身故の健康的な
褐色の肌をしている彼女が明るいカラーリングの
水着で着飾るだけで魅力的……
否、愛らしさを感じられるだろう。
そんな、あらゆる国の魅力的なウィッチを集めた
満漢全席ともいうべき世の男性陣の誰もが羨むであろう
その場に、ただ一人居ることを許されている
ノアールはというと――――
『………んん……んぅ……』
腕を組み、眉間に皺を寄せて視線を彷徨わせていた。
「どったの、ノアール?」
『フラン姉さん……』
そんな彼の様子を見たルッキーニが
真っ先に駆け寄ってくる。
『なんて言うのかな……
これが所謂、場違い感って言うのかな?
自分、ホントにこの場に居て良いのかなって気がして……』
「なんで?」
『それは……改めて考えて、
こんな大勢の女性陣の中に男一人……
逆に悪い気がして……』
「そんなん気にすんなよノアール♪」
ギュッ!
ムニュッ!
『うわっ!』
陽気な声と共にノアールの首に腕が巻き付き、
赤い布に覆われた柔らかい何かが顔に押し付けられる。
余談だが、図らずもシャーリーの片乳に
顔を押し付けられているノアールに対し、
羨ましそうな顔をしているどこかの
豆狸がいたことを付け加える……
「そういうのを気にすんのは
もうちょい大きくなってからだぜ?」
『シャーリーさん……』
「むしろ今だけは、この魅力溢れるあたしらの艶姿を
瞼に焼き付けておけよ♪
自分で言うのもなんだけど、一生の宝になるぜ♪」
「おいリベリアン!!」
そんなシャーリーに対し叱責したのは
バルクホルンだった。
「なんて破廉恥な!
ノアールの教育に悪い、今すぐ離れろ!!」
「なんだよバルクホルン。
ノアールの緊張を解す一環としての
スキンシップじゃないかぁ」
「だとしても他にやり方があるだろう!?お前のせいで
ノアールが変に色気づいたらどうしてくれる!!」
「それはそれで健全じゃねぇの?逆にバルクホルンは
ノアールが、これから先も女に魅力を感じない
不能になってもいいってのか?」
「なっ!!そ、そこまでは言っていない!!
だがまだ時期尚早というかだな!!////」
パンパンッ!
「はいはいそこまで!」
そこにミーナの柏手が響く。
「シャーリーさん、大尉の言う通り、
ノアール君の教育に悪影響よ。すぐに離れなさい」
「はぁ……はぁ~い」
渋々と言った様子でシャーリーはノアールから離れる。
そんな彼のもとにミーナが赴く。
「ノアール君、場違いだなんて感じることはないのよ?
あくまでこれは訓練のための装いであって、
同時にネウロイとの戦いの合間に催す
レクリエーションのようなものだから」
『はい、ミーナ中佐。ですが……どうにも……』
「? 何かしら?」
「ああもう、わかってないな~ミーナは~…」
自分の説得にそれでも遠慮気味な態度をとるノアールに
首を傾げているミーナ。
そんな彼女を見かねたのかエーリカが割って入ってくる。
そしてある意味爆弾を投下した――――
「ノアールはここにいる皆が魅力的すぎるせいで
緊張してるって言いたいんだよ。ね?ノアール?」
と、両手を広げて皆を表現したエーリカは最後
ノアールに尋ね――――
『皆さんが魅力的すぎて緊張………
そうですね、そう言っても過言ではないかと……』
と、ノアールは何の臆面もなく、歯に衣着せることなく、
ストレートに、あっけらかんと言ってのけた。
「はっはっはっは!そう言われて悪い気はしないな♪」
「まあ、あたしらを見て
そんな感想抱くのは仕方ないよなぁ♪」
「えへへ…そんな風に言われたの初めてだよ♪」
「ねぇノアール、あたし可愛い!?」
異性はおろか同性からの敬愛の眼差しすら
スルーする坂本や、
自分の武器を自覚し、言われ慣れているシャーリー、
異性からのそういった言葉をまだ深く理解できていない
宮藤やルッキーニはノアールの賞賛の言葉に
なんの臆面もなく返す。
が、それ以外の面々はというと―――――
「あ、ありがとうノアールくん。
(でも、もうちょっとそれとなく言ってほしいな////)」
「ほ、褒めても何も出ませんわよ!!(改めて考えたら、
ノアールさんも殿方ですし……
すこし色合いが大胆過ぎたかしら?////)」
「う、うむ…こういう時に女性を称賛する言葉を
言えることは良いことだ!(落ち着け私!
アレはあくまで子供ならではの何の含みもない
素直な感想だ!いや…かと言って、
言われて悪い気はしないが……
ああもう相手は弟だぞ!!////)」
「ニシシっ!ノアールってば大胆だねぇ♪
(とはいえからかいのつもりで煽ったのに、
いざ言われてみると……
なんかこう、ちょっと恥ずかしいな……
自信が無いわけじゃ無いけど……////)」
「……////(そんな風に言われたことなかったから……
この格好、ちょっと恥ずかしく感じてきた……)」
「お、お前もうちょっと恥じらい持って言えヨ!
(マズイ……サーニャ一人にそんなこと言ったら
言い返せてたのニ、私まで含まれてるって言われて
タイミング逃しタ!……ああもウ!
なんで顔熱くなってんだよ私!!////)」
と、普段異性との交流を極力控えているウィッチたちは
ノアールの直球すぎる誉め言葉に
各々穏やかじゃない心境だった。
そして、それを一番近くで聞いたミーナはというと――――
「ノアール君、そういう軟派な言葉は
あまり口にするものじゃないわ。
たとえ善意でも、お世辞としてもね」
と、ただ一人ノアールの賞賛の言葉を冷静に嗜めた。
『あ……すいません……』
「いいのよ。でも勘違いしないでね?
着飾っている自分を褒められて喜ばない女性はいないわ。
けれど、時と場合によれば、
思わせ振りな言葉に聞こえてしまうのも事実だから……」
『はい……。ですが、皆さんがすごく素敵だな
っていう気持ちは本当です』
「……ありがとうノアール君」
『……?』
ミーナの“悲し気な笑顔”に首を傾げるノアール。
そんな彼女を遠くから見ていたバルクホルンとエーリカ、
そして坂本は心配そうな顔をしていた。
「よし!全員傾注!!」
浮ついた雰囲気を引き締めるように坂本の声が響く。
そこには少しばかり、
ミーナの気分を一新させるための配慮もあった。
「装いはどうあれ訓練は訓練だ!
全員基地東側の海岸に集合!
各員水上訓練にかかれ!」
『「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」』
◇◇◇
「「やっほぅーー!!」」
楽しげな声を発しながら
シャーリーとルッキーニは岩場から飛び出し、
海へと飛び込む。
また別のところでは競泳選手もかくやといった
見事なフォームのクロールで泳ぐバルクホルンと、
その後ろを楽しそうに犬掻きでエーリカが泳いでいた。
ここまでの描写でも、
ただの海水浴を楽しむ年頃の少女たちにしか見えないが、
一応これでも水上訓練である。一応……
また別のところ――――というより砂浜では、
サーニャとエイラが海を眺めながら腰を下ろしていた。
「……肌がヒリヒリする…」
「……腹減ったナぁ~…」
北国出身の二人にとって、
燦々と輝く太陽の下で海を泳ぐという行為は縁遠く、
また二人ともそこまでポジティブな性格ではないため、
最低限の水上訓練を終えた二人は
こうして休憩していたのだ。
「な、なんでこんなの履くんですかっ!?」
宮藤の戸惑う声にサーニャたちは眼を向けると、
岩場の上にそれぞれのストライカーと同じ形と
重量を模して用意された訓練用ストライカーを履いた
リーネと宮藤が立っていた。
「何度も言わすな!万が一海上に落ちた時のためだ!」
「他の人たちもちゃんと訓練したのよ?
あとは貴女たちだけ」
坂本とミーナの言葉に二人は岩場の端に立つ。
だが、後の結末が解っているために飛び込めずにいた。
そんな二人に発破をかける坂本。
「つべこべ言わずさっさと飛び込め!!」
ザブンッ!!
その声に端を発し、二人は飛び込んだ。
というより、体勢的にストライカーを下にして飛び込んだため、
声に驚いた拍子に落ちた……と言ってもいいかもしれない……
「浮いてこないな……」
「…ええ」
飛び込んだ直後の水飛沫を最後に、水面は静かになった。
それもそのはず。
模したものとはいえストライカーを装着して海に飛び込んだのだ。
空ではウィッチを飛ばすための装備でも、
海に落ちてしまえば単なる重石でしかない。
魔法力を用いなければ、か弱い少女たちの筋力でストライカーを装着したまま
水面に上がるなどほぼ不可能だ。
この事態に対しての対処の一例を述べるなら……
まずは自身の命を優先し、ストライカーを一旦放棄する。
貴重な装備をそう簡単に……と思われるかもしれないが、
生命第一に考えれば水面に上がるのに重石になるストライカーは結論から言って
邪魔でしかない。
もっと言うならば、精密機械が集約したストライカーが
水に浸かってしまった時点で再使用はほぼ不可能だろう。
「やっぱり飛ぶようにはいかんか……」
「そろそろ限界かしら……?」
坂本の持っていた懐中時計が二人が飛び込んでから
30秒経過したことを告げる。
直後、二人が水面に顔を出した。
だがストライカーの取り外しに時間がかかったのか、
水面に顔を出した時点で岸に泳ぐための体力もなく、
顔を出すのに必死で犬掻きをしている状態だった。
「いつまで犬掻きやっとるか~。ほら、ペリーヌを見習わんか!」
「全くですわ…」
藻掻いている二人のすぐ前を呆れた顔でペリーヌは泳いで通り過ぎていく。
「そんな……っ……いきなりっ………無理っ……」
とうとう体力の限界が来たのか、リーネも宮藤も沈んでいってしまった。
『坂本少佐、ミーナ中佐…』
それを見ていた坂本たちのもとに黒の水泳ズボンを履いた
ノアールが駆け寄る。
『必要なら、自分がお二人を引き上げますが?』
「できるのか?お前の装備はストライカーと違うとはいえ、
二人分の体重を抱えたまま水面に上がるなど……」
『水の中なら体重は関係ありませんし、大丈夫です。
それに、以前発動したあの光の壁を応用したいと思いまして…』
「ノアール君、それはどういう?」
ザブンッ!
ミーナの質問に答える前に、ノアールは海の中に飛び込む。
そして――――
バシャン!
数秒後に水飛沫が上がり、ノアールとその両手で掴まれた宮藤とリーネが
顔を出した。
息を整える二人を岸へと運び、坂本とミーナの前に立つノアール。
「早いな。体重は関係ないとはいえ、水の抵抗もあっただろうに…」
『ええ。ですから光の壁を蹴って上ってきました』
「光の壁を…蹴って?」
『はい。見ててください』
そう言うとノアールは再び海に向かって飛びあがる。
そこから海に落ちると思いきや――――
フワッ!
ノアールは水面の上に立ってしまった。
その足元には、以前ノアールが展開した光の壁の
小さくなったものが展開されていた。
『コレを水中で展開し、足場代わりとして蹴って上がってきたんです』
「……はっはっはっはっ♪形も様相も違うとはいえ、
まさか“海渡り”を見られるとはな」
「ウミワタリ?美緒、なんなのそれ?」
聞き慣れない単語にミーナは坂本に尋ねる。
ノアールも聞き耳を立てる。
「いやなに……以前私の部下だった“あるウィッチ”が
見せてくれたことがあってな。それを思い出したんだ……」
坂本の懐かしさを感じているその顔は、とても穏やかな表情をしていた。
◇◇◇
「よーし!皆休憩だー!」
坂本の号令がかかり、体力に余裕がある面々はそのまま遊びに興じ、
それ以外の面々は号令通り休憩に入った。
そしてその中で、宮藤とリーネはというと――――
「………もう…動けない……」
「………私も……」
訓練用ストライカーを抱えて砂浜に上がり、俯せに倒れ込んでしまった。
あれから休憩を挟みつつ何度もストライカーを履いたまま飛び込み、
どうにかコツを掴んできた二人だったが、
その頃にはもう体力的にも精神的にも限界に達しており、
とても海で遊ぶほどの気力など残されていなかった。
出来ることと言えば、この休憩中に後々の訓練のための
体力を取り戻しておくくらいだろう。
「あ…遊べるって言ったのに……ミーナ中佐の……嘘つき……」
上手く口車に乗せられたと確信した宮藤は不満を口にする。
「すぐ慣れるさ♪」
するとそこに、二人に励ましの声を掛ける者が一人――――
「シャーリーさん!」
「それにな?」
シャーリーは宮藤とリーネの間に腰を下ろし、
そのまま仰向けの大の字になって寝そべる。
「こうやって……寝てるだけでも、悪くない♪」
勧められた二人は、それに倣って仰向けになる。
太陽から齎される暖かさ……
その日の光を受けて熱を帯びた砂浜……
岸に押し寄せる波の音……
雲を流れさせる心地のいい風……
何もせずに仰向けになって感じるそれらが、
いいバランスで調和することによってリラックス効果を発揮していた。
「お日様……あったかい……」
「うん…気持ちいい……」
「……だろ?」
そうして心地のいい休憩を堪能している三人のもとにまた一人――――
『お二人とも、大丈夫ですか?』
「あ、ノアールくん!」
ノアールが三人の仰向けになった視界の上から顔を覗かせていた。
「心配いらないよ。今二人にいい休憩の仕方を教えてたところだったから♪」
『そうですか。それならいいんですが……』
「ごめんねノアールくん。私たちが疲れて岸まで泳げない時、
その度に助けてもらっちゃって……」
『いいんですよリーネさん。その分自分もあの光の壁のコツを
掴めるようになったんですから。……あ、これが扶桑で言うところの
“イッセキニチョウ”というものなのでしょうか、宮藤さん?』
「あはは……間違ってはないけど、こんなに疲れるくらいなら、
二鳥も取れなくていいかな……」
苦笑している宮藤は、首を上に向けてノアールの姿を視界に捉える。
すると、あることに気づいた。
「ノアールくん、水着見つかったの?」
「そういえばノアールくん、水着が無くて困ってたって言ってたよね?」
「え?そうなのか、ノアール?」
『え!?……ああ、コレは……』
三人の問いにノアールは今現在履いている水泳ズボンの端を持ち、
視界を彷徨わせる。
まるで話すことを躊躇っているように……
しばらくして、ノアールは話し出す。
『コレは昨夜……自分の持ち物の中に水着の代わりになるものが無いか
探してたら、前に餞別で貰ってたモノがあったのを見つけて……』
「そうだったんだ、よかったね♪」
『はい……。………』
水上訓練のための水着が見つかったことを喜ぶ宮藤に、
ノアールは返事を返すが、その顔はいまいち浮かない表情をしていた。
『あ、そういえば』
「なに?」
『昨日、ハンガーに向かっていた時に宮藤さんは何を言おうとしてたんですか?
リーネさんもそれを察していた様子でしたが…』
「……ああ、あの時のね」
ノアールは二人に水着の相談をしたときに、
爆音でかき消されて聞けなかった宮藤が言おうとしていたことを尋ねる。
「ノアールくんでも失敗しちゃったり、
経験したことが無いこともあったんだなって思ったんだ」
「うん。こうして話すようになったけど私、今でもノアールくんは
なんでもそつなく熟せちゃう天才型の人ってイメージがあったから…」
『それは……買い被りというものです……。
そんな人になれるよう、努力はしているつもりですが……
お恥ずかしい限りです……』
「そんなことないさ♪」
ノアールと宮藤、リーネの会話にシャーリーが加わる。
「誰にだって、得意なこと苦手なことくらいある。
あたしだって海鮮(シーフード)の中じゃタコが大っ嫌いだしな!」
「えっ!そうなんですか!?」
「ああ。あのウニョウニョした見た目と触った感じが嫌なんだよ……
うぅ~ッ!!思い出しただけで鳥肌がヤベェ~……」
経験済みの事柄だったのか、シャーリーの顔が青ざめていた。
そして話を戻すため、両手で頬を叩く。
「まあアレだ。あたしが言いたいのは、完璧な人間なんかいないってことさ。
好きなことは好きって言えばいいし、嫌いなことは嫌いって言ってもいい。
欠点って言えば聞こえは悪いけど、それも言い換えれば
その人の個性と呼べなくもないことだしな♪」
『個性……ですか?』
「うん。あの時、私もリーネちゃんも
そんなノアールくんを見て親近感を感じたんだ♪」
「そうだよ。だから、恥ずかしがることないんだよ?
むしろ、そういう所も時々見せてほしいな。もっと仲良くなれるもん♪」
『……皆さん』
嬉しさのあまり、ノアールの言葉がそこで途切れる。
そんな彼を見ていたリーネは――――
「あれ?ノアールくん、今笑って――――」
「あれ?今なにか……」
リーネの言葉を遮ったのは、宮藤の声だった。
その声に、全員が宮藤を見る。
「どうしたの芳佳ちゃん?」
「今、太陽のところ……何か横切ったような……」
「なにが?」
『っ!?』
全員が目を凝らし、太陽の周囲を見る。
すると太陽の真下を通り抜ける、雲ともプロペラ機とも違う影を見つける。
それは紛れもなく――――
「敵だ!!」
『「ネウロイ!!」』
シャーリーはすぐさま立ち上がり、基地のハンガーへと走る。
宮藤とリーネも立ち上がろうとするが、
そのうち宮藤はまだ訓練の疲れからかへたり込んでしまう。
『自分が先行して――――はっ!!』
ノアールは自分の胸元に手を這わせ“何かを取り出すような手ぶり”をする。
だが返ってくるのは自分の身体の感触だけだと気づき、ハッとした。
『しまった!ビームカプセルは更衣室の軍服の中だ!』
「私たちも出撃するから、一緒に行こう!」
「そうだよ!シャーリーさんだけに行かせられないよ!」
『……わかりました、急ぎましょう!』
ノアールと宮藤、リーネがハンガーに向けて走り出した直後、
ネウロイ出現を報せる警報が基地から放たれる。
その頃、海岸近くの岩場に設置された緊急連絡用の電話により、
基地の監視所からの連絡を坂本が受けていた。
「敵は一機!レーダー網を掻い潜って侵入した模様!」
「もう……また予定より二日早いわ!」
「誰が行く!?」
「すでにシャーリーさんたちが動いてるわ!」
シャーリー達と違い、警報を聞きつけてハンガーに向かう残りのウィッチたち。
その中にシャーリーやノアール、宮藤やリーネがいなかったことに
気づいたミーナは、すでに彼女たちは行動を始めているだろうと予測する。
その頃、シャーリー達は滑走路の縁にある石垣を上り、
真っ先に上ったシャーリーとノアールはハンガーへと走る。
「は、走るのも速い……」
「の、ノアールくんも……」
遅れて上ってきた宮藤とリーネは、どんどん小さくなっていく
二人の背中を見て呟く。
『シャーリーさんは先行してください!自分も後から追いつきます!』
「任せとけ!!」
更衣室へと向かったノアールを見送り、
シャーリーは自身のストライカーが固定されている発進ユニットへと走る。
ストライカーを装着すると共に、使い魔であるウサギの耳と尻尾が顕現し、
愛用のゴーグルを首にかけ、M1918自動小銃を背負う。
発進準備が整うと共に、ハンガーのハッチが開く。
「イェーガー機……出るッ!」
発進ユニットのロックが解除されると共に、シャーリーは発進した。
「シャーリーさぁん!!……うわっ!!」
シャーリーの滑走線上に宮藤が立っていたが、
その風圧に押されて倒れ込んでしまう。
「大丈夫!?」
「……んむぅ」
「芳佳ちゃん!私たちも!」
「うん!」
カッッッ!!!
その時、宮藤たちが向かおうとしていたハンガーの方から眩い光が放たれた。
「今のって!?」
「ノアールくんの!!」
『宮藤さん!リーネさん!先に行きます!!』
ハンガーから走って出てきたノアールの両手両足には既にSUAが装着され、
その助走を経てジャンプし飛び立った。
ウィッチのストライカーと違って、ノアールのSUAは滑走を必要としないのだ。
「リーネちゃん……ハンガーから更衣室ってそこそこ遠くなかったっけ?」
「うん。でもノアールくんの足の速さなら………って!私たちも出ないと!!」
「あっ!そうだった!!」
宮藤とリーネも慌てて自身のストライカーが
固定されている発進ユニットへと走る。
◇◇◇
<シャーリーさん、ノアール君、聞こえる!?>
「中佐!?」
『感度良好!指示を願いますミーナ中佐!』
その頃、発進して急上昇し低空を流れる雲より高い高度で水平飛行に移った
シャーリーとノアールはミーナからの通信を受けていた。
ハンガーの外には、木箱による即興の机の上に設置された通信機と
地図を広げていたミーナと坂本が指示を送っていた。
<敵は一機、超高速型よ。すでに内陸に入られてる……>
「敵の進路は?」
<方角は、ここから西北西……目標はこのまま進むと……>
シャーリーの応答に、ミーナが報告にあった情報を伝え、
坂本がそれと同時に敵の侵入してきた方角、
そして現在位置とを結んだ線を地図上に引いていき、
その進行方向にある目ぼしい地域を割り出す。
<ロンドン!>
<ロンドンだ!直ちに先行せよ!
シャーリー、ノアール、お前たちのスピードを見せてやれ!>
「了解!」
『了解!イェーガー大尉と共に先行します!
宮藤軍曹!リネット軍曹!先行に伴って衝撃波が来ます!
気を付けてください!』
命令を受けたシャーリーは首にかけていたゴーグルを装着し、
指示のあった方角へとフルスロットルで飛び立っていった。
ノアールもそれに伴う形でスピードを上げた。
その直前、二人の最高速による飛行で発生する衝撃波への注意を
遅れて飛んできた宮藤とリーネに促しながら……
「うわぁっ!!」
「ッ……ととっ!!」
衝撃波が宮藤たちに襲い掛かるが、
事前のノアールの忠告によってある程度の覚悟をしていたお陰で
少し体勢が崩れるだけに留まった。
「もうあんな所に!?」
「リーネちゃん、急ごう!」
昨日のシャーリーとノアールが見せた限界速度ほどではないものの、
既にはるか遠くへと行ってしまった二人を宮藤たちは追いかける。
◇◇◇
「頼んだわよ、シャーリーさん、ノアール君……」
シャーリーのストライカーは通常状態でもスピード重視の調整が
彼女の手腕によって施されている。
そしてノアールも、速度重視の調整をしたシャーリーのストライカーに
負けないスピードを誇っている。
故に今度の敵ネウロイに対して有効だと判断し、
二人を先行させたミーナは無事を祈るニュアンスを込めて呟いた。
「あぁ~!シャーリー行っちゃった!まさか“あのまま”なのかな……」
するとそこへ、ルッキーニが遅れてハンガーに到着した。
だが直後、彼女が呟いた言葉にミーナと坂本は首を傾げる。
「何が“あのまま”なんだ?」
「えっとね……昨夜あたし、シャーリーのストライカーをね……」
「ッ……」
「ヒッ!!」
坂本が先の言葉の理由を尋ね、
ルッキーニが答えようとするが背後から放たれたプレッシャーに
背筋が凍る感覚を覚える。
「あ、あの……ナンデモナイデス……」
ルッキーニは慌てて何事も無いと訂正し振り返るが――――
「続けなさい?フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」
ゴゴゴゴゴ……
時すでに遅し……
笑みを浮かべながらその実、眼と内心は笑っていないミーナの強圧に圧され、
ルッキーニは泣く泣く白状することとなった……
“シャーリーのストライカーを壊し、
挙句の果て適当に部品を繋げて押し込んで外見だけは元の状態にした”
ルッキーニの白状した真実は以上の通りだ。
専門知識が無ければ、ストライカーの修理はおろか改造など出来るはずもない。
ましてやシャーリーのストライカーは大半が彼女の手によってチューンナップ
されているようなものである。
そして今度の事件の犯人であるルッキーニにはストライカーの専門知識など皆無。
だがそれでもシャーリーが今も尚問題なく飛べているのは
奇跡と言えなくもないが、危険であることに変わりはない。
「大尉、帰投せよ!繰り返す!シャーリー大尉、直ちに帰投せよ!!」
ルッキーニに仕置きの拳骨を食らわせた坂本は、
通信機でシャーリーに繰り返し連絡を試みるも応答がない。
基地側の事情で言うなれば、距離が離れすぎていることと、
シャーリー側の事情で言うなれば、ストライカーが限界間近の状態で
加速し続けているためにインカムが電波を捉えづらくなっているためだ。
さらに細かく言えば、この時彼女は一種のトリップ状態になっているのも
一因と言える。
「宮藤さん……リーネさん……早く追いついて…!」
ミーナは、遅れているとはいえシャーリー達を追いかけている宮藤たちに
望みを託す。そして――――
「ノアール君……シャーリーさんをお願い…!」
並行して飛び立ったノアールにも最良の結末になるように祈りを送った。
◇◇◇
「離される……」
「追いつけないよ……」
その頃、宮藤たちは必至でシャーリーとノアールに追いつこうとしているものの、
加速し続けている彼女たちに追いつけるはずもなくぼやきを漏らす。
「(なんだ?全然加速が止まらない……今日はエンジンの調子がいいのか?)」
最速を目指しているシャーリーだからこそ感じる感覚なのだろう、
彼女の認識ではいつもの戦闘時のチューンナップのはずが、
今日は何故かスピードが乗っている……どころかどんどん上がっている。
普通なら疑問に思うところだろうが、
彼女の中にはかつて感じたことのある感覚が蘇ってきたために、
そこまで思考が及んでいなかった。
『(離される?今日のシャーリーさんのストライカーは
戦闘時のチューンナップのはず……これじゃあまるで……)』
<ノアー……!……少尉!聞こえるか!!>
ノアールが最初は並行して飛んでいたはずのシャーリーが
どんどん遠ざかりつつあると感じたその時、
彼のインカムにノイズ交じりの坂本の声が聞こえてきた。
『こちらノアール!感度不良!再度応答を願う!』
<少尉!…………大尉の……ライカー…………障につき!連れ戻せ!>
『? 少佐!もう一度お願いします!』
ノイズがあまりにも酷く、途切れ途切れの言葉しか聞こえないため、
ノアールは再度応答を請うた。
その直後――――
「いっけぇぇぇぇぇーーーー!!!」
彼女の中に蘇ってきたのは、かつてバイクレーサーだった頃に感じた
世界最速の壁を超えたあの瞬間だった……
そして今この時、再びそれ――――今まで誰も到達しなかった領域
――――を感じ取ったシャーリーは今ならばと、
自身の全力の魔法力によって固有魔法“超加速”を発動させたのだ。
シャーリーを覆うように出現していた気流の壁が、
固有魔法を発動したその直後に弾け飛び、ソニックブームを引き起こした。
『うわっ!!(これはソニックブーム!?
まさかシャーリーさん、音速を……超えた!?)』
すぐ側を飛んでいたノアールも当然ながらその影響で吹き飛ばされ、
その下の海面からも水飛沫が巻き起こった。
先に起こったソニックブームを見て、
ノアールはシャーリーが音速を超えたことを確信した。
<ノアール!応答しろノアール!!>
『坂本少佐!!』
明瞭になった通信により坂本の声に応じるノアール。
『イェーガー大尉が、今音速を超えて――――』
<ノアール!シャーリーのストライカーは危険な状態だ!
ネウロイの撃破はおろか、最悪シャーリー自身が危ない!!>
『なんですって!?』
坂本から齎された情報をいち早く噛み砕いたノアールはすぐさま
自身のスピードを上げる。
すでにノアールのSUAの供給パイプの色は暗い青となっていた。
インカムに指を這わせるノアール。
『(最悪自分も危険……でもシャーリーさんを放っておけない!!)
宮藤さん、リーネさん!また衝撃波が襲い掛かる恐れがあります!
自分もシャーリーさんを助けた後、魔法力は残ってないかもしれません!
その時は頼みます!!』
<えっ!?ノアールくん!!>
宮藤の戸惑った声に応じることなく、
ノアールは空気抵抗を減らすように両腕両足を引き延ばし、
より一層自身を槍のような状態にした。
そして――――
◇◇◇
「えっ!?ノアールくん!!」
ノアールの通信を受けていた宮藤はその意味を理解するのに四苦八苦していた。
「助けた後、頼みますって……ノアールくん何を――――」
リーネも通信を聞いていたため、その意味に思考を巡らせる。
その直後――――
ブワッ!!
「「うわぁっ!!」」
二人の前方から来た衝撃波――――
シャーリーが音速を超えた直後にも受けた――――が再び襲い掛かり、
体勢が崩れる。
「今のって、さっきと同じ!」
「うん!まさかノアールくんも!?」
ガァァァァン!!
ピキィィィィン!!!!
直後、何かがぶつかるような衝撃音と、
ネウロイのコアが破壊された時特有の音が響き渡る。
音の方向を見ると、白煙とネウロイの消滅に伴って現れる白い結晶が
降り注いでいるのが見えた。
「て、敵撃墜です!!」
<シャーリーさんとノアール君は!?>
「ええと……」
曲がりなりにもネウロイを殲滅できたため、基地に報告をするリーネ。
シャーリーとノアールの安否を尋ねるミーナに、
宮藤は白煙が起こっている周囲を見渡す。
するとその白煙の中から、見慣れたウサギ耳のシルエットが
飛行機雲を伴って現れた。
それに遅れて、飛行機雲を伴わずに飛ぶ小さなシルエットも……
「あ!無事です、シャーリーさんは無事です!」
「ノアールくんも!!」
無事を確認した宮藤とリーネは、すぐさま二人の元へと飛んでいく。
宮藤達が無事を確認して飛んできている最中、
遅れて飛んでいたノアールがシャーリーを正面から抱きしめる形で捕まえた。
ネウロイ撃墜までの顛末を語るなら――――
超音速の領域に達した嬉しさでネウロイのことを忘れていたシャーリーは、
前方から迫るネウロイに気づいた直後にすぐさまシールドを張った。
だがシャーリーの身体はそのまま弾丸のように、
ネウロイの後尾部分から一瞬で前頭までを突き抜け、
その最中にあったコアもろとも砕いて見せたのだ。
『シャーリーさん!!』
「…………」
ノアールの声に反応を示さないシャーリー。
だがその顔は、まるで楽しそうな夢を見ているかのように笑顔だった。
力が抜けた証左なのか、シャーリーの使い魔の耳と尻尾が消え、
ストライカーが両足から抜け落ちた。
『夢を叶えられた人の表情とは、こんなにも美しいんですね……』
シャーリーの満足した笑顔を見たノアールは、思わず感嘆の声を漏らす。
『自分も……いつか………こんな………笑顔……を………』
その直後、ノアールは意識を失った。
供給パイプの光が失われたSUAが消えるも、シャーリーを抱きしめる腕の力が
緩まないのは彼の意志の表れだろう。
そして、意識を失った彼の口元は、
先の砂浜でリーネが見たものと同じ形をしていた……
だがこの時、意識を失ったノアールは意図していなかっただろうが……
彼は今、部隊内最強のプロポーションを持つ
グラマラスシャーリーの肢体をその身総てで堪能していたのだ……!
重ねて言うが、意図していなかったのだ……
◇◇◇
「あれ!?あわわわわ~~っ!!」
「全然無事じゃなぁい!!」
目の前でシャーリーのストライカーが抜け落ち、
そのしばらく後にノアールと一緒に落ちていくのを見た宮藤とリーネは慌てだす。
二人が落ちる場所目掛けて宮藤とリーネが全力で飛び、そして――――
バシャンッ!
間一髪、宮藤とリーネはシャーリーとノアールを救出した。
一件落着――――と思われたが……
「えぇぇ!?なんでぇ!?」
リーネがシャーリーの背中から、
宮藤がノアールの背中から挟み込む形で確保したのだが、
超音速の衝撃波によってシャーリーが水上訓練の時から身に着けていた水着が
ボロボロになり、落下していた時には丸裸の状態になっていたのだ。
しかもノアールがシャーリーにしがみついたままの状態で確保したために、
普段ルッキーニが堪能している豊満な胸の感触をその顔総てが直に
押し付けられている形になってしまっていたのだ。
ちなみに宮藤は、挟み込まれても溢れ出すシャーリーの横乳に
手を這わせている状態になっていた。
<どうした!何があった!?>
「あ……ぁぁ……♪」
「しゃ、シャーリーさんを確保しました!////」
閉じていた眼を開いたリーネが、
シャーリーが丸裸の状態になっているのを見て再び眼を閉じる。
さらに宮藤が不謹慎にも偶然(?)掴んでいたシャーリーの胸を揉んでいることに
顔を赤くしていた。
それに伴って宮藤がシャーリーを抱きしめる力が強まり、
二人の間に挟まれているノアールの身体も
より一層シャーリーの身体と密着して……
◇◇◇
<でもっ!////>
「でも、なんだ!?」
リーネの声色が尋常じゃないものであると感じた坂本は先を促す。
だが聞こえてくるのは………
<うわ~……おっきぃ……♪>
<きゃぁ!!芳佳ちゃん何やってるの!!
ノアールくんもいるのに!!////>
という、宮藤がシャーリーの胸の感触を堪能する声と、
リーネの恥ずかし気に注意する声だけだった。
「…?」
「ッ……////」
坂本はそれらの声が意味する事柄に疑問顔だったが、
ミーナだけはソレを理解し、思わず顔を赤くしていた。
「おい!状況を正確に説明しろ!ノアールも無事なのか!?」
どうにもはっきりとした応答が無いことに業を煮やした坂本が再び先を促す。
<ノアールくんも無事ですけど……説明できませぇぇぇーーん!!////>
シャーリーは丸裸……
宮藤はシャーリーの胸を揉みしだいている……
ノアールは丸裸のシャーリーの胸に顔を埋めたまま……
とてもネウロイとの戦闘後とは思えないアレな状況に陥ったリーネは
唯々そう答えるしかなかった……
◇◇◇
「フッ……なかなかどうして、面白い子だな彼は……」
501部隊基地の海岸沿いにある木の上。
首から下げた小銃用照準眼鏡を覗き込み、
坂本と見た目は異なる“魔眼”を発動し、
ネウロイが撃墜された方角を“視ていた”人物が一人――――
タイプとしてはミーナと同じ、仕事のできる女性、
だがそれでいて堅苦しさを感じさせない
柔軟性のある物言いをするといった雰囲気を漂わせていた。
焦げ茶色のジャケットを着て、
ポケット部分が茶色の生地の黒いズボンを穿き、
膝下までのブーツを履いている。
黒い長髪に、容姿は美人と呼んで差し支えないと言ったところだ。
「(ウィザードというだけでも驚きなのに……
試験運用中とやらのあの装備でマッハを超えるとは……)」
その女性は、先の出来事――――
ハンガーから更衣室に向かう途中だった彼を思い出す。
緊急出撃のために宮藤とリーネの中から消えていった小さな疑問……
“ノアールが更衣室から戻ってくる時間が早かったこと”
その答えは“彼女”にあった。
「(あの小さな機器(デバイス)を起動させただけで
あれだけの性能を発揮させる装備………
私の知る限り、あまりにも“最先端すぎる”……)」
秘密裏にそのデバイス――――ビームカプセルを手に取ってみた“彼女”は、
見た目とは裏腹に驚異的な性能を発揮するその装備にある種の疑念を持ち、
更衣室までの道の途中で“彼女”からビームカプセルを手渡され、
なんの躊躇いもなく行使しているノアールにも疑念を持った。
「(コレは……近頃部隊への予算削減があからさまになってきたことと、
関係があるかもしれない………
曲がりなりにも彼は“あの男”が差し向けた子……
彼がソレを自覚しているかは定かじゃないけど――――)」
彼女はもう一つ――――
ノアールと初めて出会った“昨日”のことを思い出していた。
◇◇◇
『し、失礼しました!よもやカールスラント軍の士官の方だったとは……』
それは昨日――――
宮藤とリーネと共にノアールがシャーリーとルッキーニに
水上訓練の時間と場所を報告し、シャーリーの一言で彼が水着の件を思い出し、
“ルッキーニがシャーリーのストライカーを壊した場面”
を見逃した後のある廊下での出来事――――
「構わないよ。なにしろミーナ中佐にも黙って来ているのだから、
君が警戒するのも無理はない」
慌てて敬礼の姿勢になった彼を見て、
その小さな外見で一丁前に軍人としての態度をとるギャップに
思わず彼女は苦笑した。
ノアールの背後から声をかけた彼女は、
警戒して迎撃体勢――――両手を十字に構え――――
になっていた彼に自分の首にかけていたもう一つ
――――柏葉付き騎士鉄十字章を見せ、
ソレを見たノアールは冒頭の姿勢となったのだ。
ミーナからの報告を受けて、
彼を一目見るためにお忍びでここへ来た……
というのを皮切りに、少しばかり彼と話した……
“お忍び”という形でここに来ているために、
彼女がそれ相応の立場であると察してか、
一方的に投げ掛ける彼女の質問に彼は不満な顔一つせず答えてくれた。
その最中、彼女が使う機会がなく持て余していたサイズフリーの水着
――――黒の水泳ズボンも餞別として渡していた。
そして最後……彼女がこの基地から退却――――
という形で再び姿をくらまそうとした矢先に彼から問いが投げられた……
『あの……やはりお名前をお聞きすることはできませんか?』
この言葉に彼女は頭を悩ませる。
彼女自身、自分の名はウィッチで有る無いに関係なく、
軍に所属している人間なら少なくとも一度は耳にしているであろう名前
だからである。
ここまで話して、彼が今日ここで自分と会って話したことを
悪戯に言いふらすような人物じゃないのは理解しているが、
彼の背後にいる影のことを考えると気が進まなくなる。
そこで彼女は一つの策を講じた……
「そうだね……じゃあ私のことは“あしながおばさん”
とでも呼んでもらおうかな?」
『あしなが……おばさん……?』
彼に背を向けていた彼女は、
振り向いて流し目を送りながらそう答えた。
彼女にしてみれば、昔リベリオンの文学に触れる機会があった時、
読んでいた小説の一つだったために、
自分の彼に対して施しをしているシチュエーションと被せて、
本来は“おじさん”だった部分を“おばさん”と差し替えて名乗ったのだ。
そんな彼女の名乗りに首を傾げていたノアールは――――
『おばさん……と名乗るには、貴女はそこまでお歳を召されてませんよね?
むしろまだ若々しく、綺麗ですし……』
と、答えた。
「君やっぱり、将来女泣かせになるんじゃないかい?」
そんな彼の歯に衣着せぬ言葉に彼女は、
初めて彼の容姿を見て内心思った言葉を口にした。
◇◇◇
「フッフッフ♪」
彼との出会いを思い出していた彼女は思わず笑ってしまう。
そして――――
「まあ……彼個人だけで考えれば、
悪い子じゃないっていうのは確かかな?」
と、口にして呟いた。
その日を境に彼女――――
“あしながおばさん”は基地から姿を消してしまった。
あしながおばさん……一体誰なんでしょうねー(棒
魔眼持ちでー小銃用照準眼鏡を首から下げててーカールスラント軍人でー
……ええ、漫画版ストウィシリーズを見ている方なら
これだけで彼女が誰なのかが解るはずです。
後々の展開のために必要な接触だったので登場させました。
それにしても漫画版では結構な頻度で登場していて、
アニメでも第2期で名前だけが登場して、小説版ではミーナ中佐と
会っている描写があるにもかかわらず、声すらあてられていないとは……
自分のイメージでは“豊口めぐみ”さんの千冬姉みたいな声が一番
近いと思いますが皆さんはどう思いますか?
それから全員の水着姿の描写部分はいかがでしたでしょうか?
作者はストウィのような複数人ヒロインが登場するアニメでは
そのヒロイン全員まんべんなく好きになる性分でして……
全員の水着姿のいい所をこれでもかというくらい書き表してみました。
見様によっては変態じみてますよねコレ……
そしてノアール君、無意識のラッキースケベと天然タラシぶりが
早速発揮されております。
前半のシリアスが終了したために反動が凄いですね