Unknown Wizard Chronicle 作:シノギ
実を言うとこのエピソードに関連した
“あるウィッチーズ”のアニメで
再燃した経緯がありまして…
そのせいか現在投稿されている話や、
ストックを含めても容量が一番多いという…
どれだけ気合い入れて書いたのかが
我ながらありありと伝わってきますね
ともあれ今回も楽しんでいただけると幸いです
ラストにちょっとしたサプライズもあります
1944年 8月16日
満天の星と月が輝くブリタニア上空。
さながら雲の海の上を飛んでいるのは
カールスラント製輸送機のユンカースJu52。
その機内後部の座席に座っているのは、
ブリタニア本国上層部にて行われた
会議に出席していた坂本とミーナ、
それに乗じてSUAの機体調整のために
呼び出されたノアール、
そして前者二人に同行していた宮藤だった。
「むぅ~……」
そんな中、目に見えて
不機嫌さを表していた坂本の口から唸り声が響く。
「不機嫌さが顔に出てるわよ、坂本少佐?」
坂本の向かいに座っていたミーナが
それとなく窘める。
「わざわざ呼び出されて何かと思えば、
“予算の削減だ”なんて聞かされたんだ…
顔にも出るさ…!」
「彼らも焦っているのよ。
いつも私達にばかり戦果を挙げられてはね……」
坂本の不満の理由に予想がついていたのだろう、
ミーナは言い聞かせるように述べ立てる。
かくいうミーナも内心は業腹と言えるだろうが、
坂本が表立って苛立ちを露にしているおかげで
バランスは十分と言える。
「連中が見ているのは、いつも自分の足元だけだ!」
「戦争屋なんてあんなものよ?
もしもネウロイが現れていなかったら
あの人たち……今頃人間同士で
争い合っていたでしょうね……?」
「……さながら世界大戦だな」
ネウロイという人類すべての
共通の敵がいるからこそ、
今は人間同士の争いなど微々たるものしかない。
だが、必ずしも争いそのものがなくなることは
決して無い。
それは“武力”というカテゴリー以外でも言える…
事実、501をはじめとした各国の
ネウロイ激戦区に設立された他の統合戦闘航空団に
派遣されたウィッチたちの中には、
それぞれの祖国にある軍上層部同士による
公の場での議論、もしくは非公式な策謀によって
引き抜かれた者も少なくない。
身近な例でいうならば、
今夜の夜間哨戒兼坂本たちの出迎えをする
サーニャも、このブリタニアより北に位置する
ペテルブルグに設立された第502統合戦闘航空団の
隊長である“とあるウィッチ”によって
引き抜かれようとしていたことがあったが、
そこは“そのウィッチ”の手の内を知っている
旧知の仲であるミーナの手腕によって阻止された。
結論から言って、旧知の仲の人間同士、
規模の大小関係なく
こうした争いというものは得てして起こるものだ。
たとえウィッチと関係のない軍部においても、
である……
争えるだけの権力も力もある者、
或いは国同士が共通の敵を見失えばどうなるか……
ソレをさも軽口のように言っているが、
坂本もミーナもいざ口にしてみると
その結末に少しばかり恐々とする。
閑話休題
『あの……』
するとそこに、
ミーナの隣に座っていたノアールが口を挟む。
『あくまで予想なんですが、今度の予算削減……
もしかして自分もその要因の一つだったり?』
「え?」
「…どういうことだ?」
意外な所から意外な言葉が出てきたため、
ミーナも坂本も首を傾げる。
『いえ……元を正せば自分は
ブリタニア本国から出向しているウィザードです。
おまけに自分のSUAは試験運用中の装備……
その軍上層部からのお達しなら、
自分も無関係ではないのかなと……』
「ノアール君、そんな………はぁ……坂本少佐?」
余計な部分で気を遣うノアールの性分が出たことに
ミーナはフォローを入れ、
坂本に彼を励ますようアイコンタクトを送る。
「ああ~……ノアール?
私は別にお前を責めているわけではないぞ?
あくまで!あくまで!!
上層部の方に不満があるだけであって、
お前に対して文句など一つもないからな!?」
『でも……』
「自分で言うのもなんだが、
我々軍人は上層部の政治家連中からすれば、
木っ端役人にすぎない。
その一人であるお前が責任を感じたところで、
疲れるだけだぞ?」
「そうよノアール君。
自分たちの上層部がそう決定したのなら、
それに従うことに国も階級の違いもないんだから。
無理に気負わないで?」
『はい……ありがとうございます…』
ノアールのフォローによって
すっかり毒気が抜けてしまった坂本は
空気の一新も兼ねて宮藤に話を振る。
「悪かったな宮藤…」
「…?」
「せっかくだから、
ブリタニアの街でも見せてやろうと思ったのに……」
「いえ!私は、その……
軍にもいろんな人がいるんだなって……」
<ラ~……ラララ~……♪>
坂本の気遣いに構わないと答える宮藤。
その時、4人のつけているインカムに
透き通った声が流れてきた。
「あの、なにか聞こえませんか?」
「ん? ああ、コレはサーニャの歌だ」
『リトヴャク中尉の?』
「基地に近づいた証拠だ」
「私たちを迎えに来てくれたのよ」
聞こえてきた歌声が
サーニャのものであると聞いた宮藤は窓の外を見る。
輸送機のすぐ横を並行して飛んでいるサーニャが
機内に目を向けると、宮藤が手を振っていた。
「ありがとう♪」
「……っ////」
宮藤の屈託ない笑顔の感謝に
気恥ずかしくなったサーニャは
照れ隠しに一度バレルロールし、
すぐ下の雲海に潜る。
一度途切れた歌声も、再び再開する。
「サーニャちゃんって、なんか照れ屋さんですよね?」
「フフッ♪とってもいい子よ、歌も上手でしょ?」
『自分は音楽に関しての知識は
からっきしですが……はい。この歌声は、まるで……
“水面に落ちる、雫の音”のような
透明感を感じます…』
<ぇ……ノアール少尉、今――――ッ!?>
ノアールが言い表した言葉に歌を中断したサーニャ。
だがその直後、息を呑んだと思えば言葉が途切れた。
「あら?」
「どうしたサーニャ?」
<誰か……こっちを見ています……>
歌が途切れ、ノアールに尋ねる言葉も
途切れさせたサーニャに坂本が問い掛ける。
小さく返ってきたのは、なんとも抽象的な返答だった。
「報告は明瞭に、あと大きな声でな…」
<すみません。シリウスの方角に
所属不明の飛行体、接近しています…>
シリウス――――すなわち南東の方角から
何者かが近づいてきているというのだ。
「ネウロイかしら?」
<はい、間違いないと思います。
通常の航空機の速度ではありません…>
「私には見えないが?」
<雲の中です。目標を肉眼で確認できません…>
「そういうことか……」
サーニャの固有魔法“全方位広域探査”による
魔導針で受信している情報を聞き、
坂本が右眼の魔眼を展開して
報告にあった方角を見てみるが、
これと言ってネウロイらしき姿は見えない。
坂本の固有魔法である“魔眼”は遠距離視と
コアの位置特定に秀でてはいるものの、
目標が見えていることが前提のため、
雲の中など遮蔽物に隠れている相手の前では
役に立たないのだ。
「ど、どうすればいいんですか!?」
「どうしようもないな……」
「そんなぁ……」
「悔しいけど…ストライカーが無いから仕方がないわ…」
ネウロイがいる以上、戦わなければならない……
宮藤は慌てながらも坂本に対処を尋ねるが、
お手上げと返される。
ミーナからもダメ出しの一言を貰い、
顔を強張らせる。
「あっ!まさかそれを狙って!?」
「ネウロイはそんな回りくどいことはしないさ…」
敵の隙を突いて攻撃を加える……
戦いにおいては有効な手段の一つだが…
これまで確認されたネウロイを鑑みても、
ネウロイがそんな人間と同じような思考に沿って
攻撃してきた前例は未だかつて無い。
故に偶然だろうと坂本はミーナの推測を否定する。
<目標は依然、高速で近づいています。
接触まで、約3分……>
サーニャの報告にミーナは輸送機パイロットに、
501基地に応援要請を出すよう指示した。
「サーニャさん、援護が来るまで時間を稼げればいいわ。
交戦はできるだけ避けて」
<はい…!>
『ミーナ中佐、リトヴャク中尉、自分も出ます…!』
サーニャ単独での戦闘は推奨できず、
応援が来るまでの時間稼ぎのみに留めるよう指示を出す。
すると、サーニャが自らの得物であるフリーガーハマーの
安全装置を解除する直前、
ノアールが出撃する旨を示した。
「でもノアール君、貴方夜間飛行の経験は!?」
『リトヴャク中尉と比べれば
大した時間ではないかもしれませんが、
経験済みです…』
「だがお前には私のような魔眼も、
サーニャのような魔導針による探査魔法もないだろう?
そんな体たらくで出撃する気か?」
『仰る通りです。ですから自分は
リトヴャク中尉が応戦している間の
輸送機の護衛にあたりたいと思います。
ミーナ中佐、どうか……』
戦うためではなく、自分たちを守るために出ると
進言したノアールに、ミーナは苦笑する。
サーニャが一時自分たちの側を離れて無防備になる以上、
ストライカーが無ければ飛べない自分たちと違って、
ノアールの装備はビームカプセルを用いれば
いつでも喚び出せる。故にここは――――
「わかったわ。サーニャさんが時間稼ぎをしている間、
私たちの護衛を任せるわ、ノアール君」
『了解!』
「ノアールくん、気を付けて…」
『わかってます、宮藤さん…』
ミーナの命令を受け、
ノアールは輸送機横にある出入り口の扉を開け放つ。
ビームカプセルを持ち、
躊躇うことなくその身を宙へと明け渡す。
カッッッ!!!
カプセルを起動させてSUAを装着したノアールは
輸送機とその周囲を見渡せるよう輸送機の真上に上り、
周囲の警戒を開始した。
『リトヴャク中尉、こちらは任せてください…』
「…はい、お願いします」
ノアールに輸送機を任せたサーニャは今一度、
安全装置を解除したフリーガーハマーを抱え直す。
「目標を引き離します!!」
<無理しないでね!>
サーニャは輸送機から離れ、
報告通り南東の方角へと向かう。
「宮藤、よく見ておけよ…」
「はい…」
宮藤が見ている窓の外で、
サーニャは眼を閉じ背面飛行の体勢になった。
目標の位置を正確に捉えるため、
固有魔法に意識を集中しているのだ。
「サーニャちゃんには
ネウロイがどこにいるかわかるんですか?」
「ああ。アイツには地平線の向こう側にあるものだって
見えているはずだ…」
「へぇ…」
「それでいつも、
夜間の哨戒任務に就いてもらっているの」
「お前の治癒魔法みたいなもんさ。
さっき歌を聞いただろ?アレもその魔法の一つだ」
≪港における霧笛のようなものですか…≫
「そうとも言えるわ。
あの歌声でこの輸送機を誘導していたのよ」
報告通りの方角から雲を巻き上げつつ接近する影があった。
魔導針にて探知したサーニャはその方角に向けて
フリーガーハマーの引き金を引く。
放たれた二発のロケット弾が着弾し、
周囲の雲ごと吹き飛ばす。
だが吹き飛ばされた空間に目標の姿はない。
サーニャはソレを見届けると、
魔導針が捉えた目標のいる地点に向けて
再びロケット弾を放つ。
するとここで、サーニャは違和感を覚えた。
「反撃してこない…?」
そう。時間稼ぎのためとはいえ
こちらからの攻撃に晒されているにも拘らず、
目標から何の反撃も来ないのだ。
もしネウロイならば容赦なく
反撃のビームが来るはずである。
「さすがね…見えない敵相手によくやっているわ…」
「私にはネウロイの姿なんて全然……」
「サーニャの言うことに間違いはない…」
ノアールの護衛のついた輸送機は
サーニャが交戦している空域から
それなりに遠く離れていた。
不気味とも取れるが、その間別の方角からの奇襲もなく
ここまで来れたのだ。
「サーニャもういい。戻ってくれ」
<はぁ……はぁ……でも、まだ……>
「ありがとう。よく守ってくれたわサーニャさん…
ノアール君もご苦労様」
≪はい。まもなくバルクホルン大尉、
ハルトマン中尉、クロステルマン中尉、
ユーティライネン少尉が合流するそうです。
リトヴャク中尉、お疲れ様です…≫
<……はい>
追い払うのみに留めるよう指示があったとはいえ、
ここで仕留められなかったことに
サーニャは申し訳なさに顔を俯かせた。
◇◇◇
生憎の大雨の中、応援に駆け付けたバルクホルン、
エーリカ、ペリーヌ、そしてエイラ達は
輸送機とサーニャとノアールたちと合流し、
今度の一件における情報や
疑問点のデブリーフィングのために
一同基地へと帰還した。
応援に飛んできた四人は一旦風呂に入って
冷えた体を温め、
その後ミーティングルームへと集合した。
待機していたシャーリーとリーネ、
ルッキーニも集合したが、
年相応の体質故かルッキーニは猫のように椅子の上で
身体を縮こませて眠ってしまった。
「それじゃあ今回のネウロイは
サーニャ以外誰も見ていないのか?」
「ずっと雲に隠れて出てこなかったからな……」
『はい。自分も輸送機より上を飛びつつリトヴャク中尉が
交戦していた辺りを見渡しましたが、
何かが雲を巻き上げつつ進んでいるのが見えただけで、
ハッキリとした姿は……』
輸送機に乗っていた3人とサーニャ、
ノアールの報告にバルクホルンが
再確認のために質問する。
「けど、なにも反撃してこなかったって言うけど、
そんなことあるのかな?それ本当にネウロイだったのか?」
「……」
エーリカの疑念の視線にサーニャは縮こまる。
彼女の言う通り、自分たちがこれまで戦ってきた個体も、
各地から寄せられてくる情報にある個体も、
そのすべてのネウロイは戦闘が始まれば
先制反撃問わず攻撃してきた。
だからこそ今度のネウロイと思しき目標が
“ネウロイ”なのか?という疑問が浮かぶのは致し方ない。
しかもハッキリと姿を見せたわけでは無く、
あくまでサーニャの魔導針による情報のみのため、
信憑性は乏しい。
「恥ずかしがり屋のネウロイ……!」
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
『リーネさん……無理に言わなくても……』
「……う、うん……
なんてこと、ないですよね……ごめんなさい」
サーニャのフォローにリーネが妙案、
というニュアンスで述べるも笑うどころか、
怒鳴り声さえないこの場の雰囲気に
尻すぼみになった声で引き下がる。
「だとしたら…丁度似た者同士、
気でも合ったんじゃなくって?」
「……」
「べぇー!」
ペリーヌの辛辣な言葉により一層縮こまるサーニャ。
エイラはそんなペリーヌにあかんべーをして見せる。
「ネウロイとは何なのか………
ソレが明確になっていない以上、これから先
どのようなネウロイが現れても不思議じゃないわ」
ひとまずミーナは今回現れた目標が、
サーニャの探知した通りネウロイであると仮定した上で、
今後も此度のような奇妙な動きをするネウロイが
現れるかもしれないということを
部隊内の全員に認知させる。
この一言による空気の一新で
エーリカとペリーヌの一言で落ち込んでいた
サーニャへの励ましとするのも忘れていない……
「仕損じたネウロイが
連続で出現する確率は極めて高い……」
『そして、今度のネウロイはこれまで遭遇してきた個体と
同一に考えるのは危険……
とまではいかなくても注意すべき、
と考えた方がいいんでしょうか?』
「そうね……
そしてノアール君の言うことも間違っていないわ」
バルクホルンとノアールの一言に頷いたミーナは
今後の対策を発表する。
「そこでしばらくは夜間戦闘を想定したシフトを
敷こうと思うの。サーニャさん!」
「はい…」
「宮藤さん!」
「は、はい!!」
「ノアール君!」
『はい』
「当面の間、貴方たちを夜間専従班に任命します」
「えっ!?わ、私もですか!?」
「今回の戦闘の経験者だからな」
慌てて返事をした宮藤は続くミーナと坂本の言葉に
さらに顔を強張らせる。
夜間哨戒専門のサーニャや、
専門ではないものの経験済みのノアールが
選ばれるのは理解できる。
だが、まさか自分が選ばれるとは思っていなかった宮藤は
慌てて抗議………というより訂正を申し出る。
「私はただ見てただけ――――うわっぷ!」
その直後、宮藤の頭を後ろにいた
エイラが抑え込み言葉が途切れる。
「はいはいはいはい!私もやル!!」
「いいわ。じゃあエイラさんも含めて四人ね」
エイラが身を乗り出してまで進言したのは、
夜間専従班への参加だった。
彼女もまた時折サーニャと
夜間哨戒に出ていくこともあるため、
ミーナは宮藤の夜間哨戒の経験値稼ぎに際して
いいバランスだと判断して彼女の参加を認めた。
そのほかのメンバーは昼夜兼任のローテーション
というシフトで運用することとなった。
「ごめんなさい……私がネウロイを取り逃がしたから……」
「えっ!?ううん、そんなこと言ったんじゃないから!」
『大丈夫ですよ。元よりあの時は
あくまで時間稼ぎだったんですから。
それに自分自身、夜間飛行は慣れてます。
気に病むことはありません』
「……」
自分の失敗で夜間哨戒に駆り出されることになった
宮藤とノアールに対し、責任を感じて謝罪するサーニャ。
宮藤とノアールが励ますも、
サーニャの表情が晴れることはなかった。
◇◇◇
1944年 8月17日
サーニャとエイラ、
宮藤とノアールが夜間専従班に任命された翌日、
食堂にて全員が朝食を食べ終わった後、
リーネがキッチンにブルーベリーが
山盛りに入れられた籠を3つも置いていた。
食後のデザートといったところだろう。
「あら、ブルーベリー……でもどうしてこんなに?」
「私の実家から送られてきたんです。
ブルーベリーは眼にいいんですよ♪」
説明しているリーネの手には
もう一つ籠が抱えられていた。
夜間専従班への配慮も兼ねているようだ……
「いっただきぃ♪」
「たしかにブリタニアでは夜間飛行のパイロットが、
よく食べるという話を聞くな」
送られてきたブルーベリーの量が多かったのか、
全員に行き渡った皿に盛られたブルーベリーも
小山ほどの量だった。
落ち着いた様子で食べているバルクホルンの横で
エーリカが勢いよくブルーベリーをかきこんでいた。
その様子は、さながら茶碗のご飯を
箸でかきこんでいるかのようにも見える……
「芳佳!シャーリー!ノアール!ベーして、ベー!」
「? べぇ」
「? こう?」
『べー?……ああ』
ルッキーニに促されて舌を出す宮藤とシャーリー、
それと共にルッキーニも自ら舌を出す。
ノアールは三人が舌を出したのを見て
遅れて自分も舌を出す。
「「「あっはっはっはっは~♪」」」
『っ!?っ!!?』
笑っている三人の舌は
ブルーベリーから溢れ出た果汁によって
青紫色に染まっていた。
ビショップ家印のブルーベリーは果汁豊富のようだ。
そんな中、ノアールは三人の舌と、
自分の舌をなぞった指先が
青紫になったことに驚いていた。
「全くありがちなことを……」
そんな笑っている三人を呆れた眼で見ているペリーヌ。
その口元をナプキンで拭きながら……
「お前はどうなんダ!?」
「ひぃっ!!」
その時、ペリーヌの背後からエイラが忍び寄り、
その口の端を指で引っ張って口内を露にする。
案の定、ペリーヌの口内……というより歯全体が
ブルーベリーの果汁によって染まっていた。
油断していたペリーヌは思わずナプキンを落とし、
しかも――――
「? 何事もほどほどにな……」
その様子を敬愛する坂本に見られてしまったことに、
涙目になる。
「な、なんてことなさいましてエイラさんッ!」
「…なんてことないっテ♪」
醜態を……それも坂本の前で
晒してしまったことにペリーヌは
涙目でエイラに詰め寄りながら抗議する。
そんな彼女のことなどどこ吹く風と
言わんばかりの態度のエイラ。
昨夜のサーニャへの嫌みの仕返しだったのか、
その顔は悪戯が成功した子供のように笑っていた。
「(……おいしい)」
『……なるほど、果汁がこんなにも豊富だから、
皆さんの口の中がブルーベリーのように
染まっているんですね』
サーニャは静かにブルーベリーの味を堪能し、
ノアールは態々一粒のブルーベリーを齧って、
その果汁の豊富さを確認し、
口の中が青紫になる原因を探求していた。
「さて、朝食も済んだところで……
お前たちは夜に備えて、寝ろ!」
「………え?」
サーニャ、エイラ、宮藤、
そしてノアールを集めて坂本が宣言する。
夜間専従班に任命された四人は、
夜間飛行のための魔法力を温存するために
昼夜逆転した生活が強いられるのだ。
サーニャとエイラはその命令にすぐ納得したが、
まだ自覚が薄い宮藤は呆然とした顔をしていた。
そんな中、ノアールが手を上げる。
『坂本少佐、念のためにお聞きしますが…
夜間専従班用の詰め所は
男女別で作られているんでしょうか?』
「いや。そんな物は無い」
『ですよね……じゃあ自分は
自分の部屋をそういう仕様にしますのでお先に――――』
「何を言っている?お前も三人と一緒の部屋で寝れば
手間も省けるだろう?」
ノアールは内心、坂本の言った言葉に
そのまま“何を言っている?”と返しそうになった。
『あの坂本少佐?自分、男ですよ?』
「そうだな……幼いゆえか
時折そう見えない時もあるが……」
『うっ………とにかく、男の自分が
女性三人と一緒の部屋で寝るのは、
倫理的にマズいのでは?』
「確かに倫理的にはよろしくない。
だが、私はお前を、お前のその純真さと
誠実さを信じている!」
『それは光栄ですが……』
「それとも、
お前は何かしか不純な気持ちがあるからって、
そう頑なに拒否しているのか?」
『それは!自分で言うのもアレですが、
無いと自負しています……
でも……さすがにミーナ中佐が――――』
「許可するわ♪」
ノアールの言葉を遮るように、
“エイラとサーニャ”に話をしていたミーナが
承諾を告げる。
『ミーナ中佐……でも!!』
「私もノアール君を信じているもの♪」
それでも食い下がろうとするノアールに
ミーナはその肩に手を置き、耳元に口を寄せる。
「これを機会に、サーニャさんとエイラさんとの交流も
しておいた方がいいと思って」
『っ!……でもお二人は……』
「大丈夫。二人にも話はつけてあるから。
あの一件以降、
二人とは目立って交流もなかったでしょ?」
あの一件――――ノアールがウィッチたちと
積極的に交流するきっかけになった
あの事件以降、活動時間の違いも相まって
確かにサーニャやエイラとの交流は殆ど無いといえた。
ノアールは尋ねるような視線を二人に向ける。
「……(コクッ」
「まあ、お前の事情は知ってるし…
お前にそういう度胸も無さそうだしナ。
サーニャが良いっていうなら私も構わないゾ…」
「私も!ノアールくんともっと仲良くしたいな♪」
サーニャとエイラ、そして宮藤の快諾に
ノアールは諦めの意味と
安心の意味とが混ざった溜息を吐く。
『わかりました。お三方、
窮屈な思いをするかもしれませんが、
よろしくお願いします』
こうしてノアールは夜間専従班詰め所こと、
サーニャの寝室にて寝ることとなった。
◇◇◇
「さっき起きたばっかりなのに……
何も部屋の中まで真っ暗にすることないよね……」
「暗いのに慣れろってことだロ…」
サーニャの部屋は外からの光が入らないよう
窓にはカーテンがかけられており、
その隙間を魔法陣が描かれた符が張りめぐらされている。
サーニャが普段使っているベッドは
一人だけでも十分広いため、
宮藤とエイラも一緒に寝ることとなった。
ノアールはさすがに一緒にベッドで寝ることは
アウトなため、自身の持ち物である
サバイバル用の寝袋を部屋に持ち込んで
その中で寝ることとなった。
「ごめんね。サーニャちゃんの部屋なのに、
こんなにしちゃって……」
「…別に、いつもと変わらないけど…」
「あ、そうなんだ……。
でも、なんかコレお札みたい」
「オフダ?」
「お化けとか幽霊とかが
入ってこないようにっておまじない…」
カーテンに張り巡らせてある符の一枚を宮藤は手に取り、
聞き馴染みのない単語にエイラが起き上がる。
「私、よく幽霊と間違われる……」
「へぇ~…夜飛んでるとありそうだよね…」
「ううん。飛んでなくても言われる……
いるのかいないのか、わからないって」
「……あはは」
「ツンツンメガネの言うことなんか気にすんナ…」
抑揚のない声音で自虐するサーニャの言葉に
宮藤は乾いた笑いしか出せず、
エイラは励ましの言葉をかけた。
『それを言うなら、
自分も似たようなものですよリトヴャク中尉…』
「ノアールくん、起きてたの?」
ベッドから離れたクローゼットのすぐ横で
寝袋に入っていたノアールが会話に割り込む。
寝袋の構造上、仰向けの状態で固定されている上に
ノアール自身不動の状態だったため彼女たちは
もうノアールは寝ているものと思っていたのだ。
『ええ。ミーナ中佐の厚意で
皆さんと同じ部屋で寝ているのですから、
少しは話をしないとですし…』
「律儀だナお前、任務じゃねぇんだかラ……。
それより“似たようなもの”って
どういうことだヨ?」
エイラは先のノアールの言葉の真意を問う。
『リトヴャク中尉が“幽霊”だと呼ばれているなら、
自分は“機械”と呼ばれるべきですね……』
「え?どういうこと?」
「全然似てないじゃないカ……」
『かつての自分……
命令を受けてネウロイを殲滅していたころの自分は
プログラム通りに動く機械と変わりません……
自分たちの身の回りに在る機械だって、
在って当たり前のものでしょ?
当たり前のものは意識すればそこに在る、
逆を言えば意識しなければそこには無いのと同じ
ってことじゃないですか…』
「お前……自分をそんな風に思ってたのかヨ……」
「ノアール少尉、そんな……」
「ノアールくん……」
彼の寝ている位置から三人の顔は見えないが、
漂う雰囲気から暗い気持ちにさせてしまったと
ノアールは察した。
『すいません……リトヴャク中尉を慰めるつもりで
切り出したんですが、
どうも上手くいかなかったようで……』
「自虐に自虐を重ねても、暗くなるだけだゾ……?」
『まあそうなんですけど……
“機械”と呼ばれる無機物な自分より、
人に思われてそこにいるかもしれない
“幽霊”と呼ばれているリトヴャク中尉のほうが
まだ恵まれているんじゃないか?
…って言いたかったんですけど…』
「さすがにちょっと複雑すぎだよノアールくん……」
とはいえ、ノアールの不器用な慰めにより、
暗くなっていた部屋の雰囲気が少しばかり
明るくなったのは僥倖と言える。
「それより、
寝るまでの暇ツブシにタロットでもやろう?」
「タロット?」
「占いだよ。私は未来予知の魔法が使えるんダ。
まぁ……ほんのちょっと先だけどナ……」
“未来予知”
エイラの言う通り、数秒先の未来を予測する固有魔法だ。
彼女はこの固有魔法を戦闘においては
主に回避に役立てている。
敵の攻撃してくる位置を予測して回避し、撃墜する。
そのため、彼女はこれまでの戦いの中で被弾したことは
一度もないのだ。
彼女がこの501部隊に派遣された理由は
コレと言っても過言ではない。
ベッドの上でサーニャが寝ている横にスペースを作り、
エイラと宮藤が向かい合う形で座る。
その真ん中にはエイラの持つタロットカードの中から
選ばれた7枚で六角形を作るように並べている。
その中から一枚選び取り、
その札によって結果が解ると言ったものだ。
「どれどれ?」
宮藤が選び取ったカードを覗き込むエイラ。
引かれたカードは「太陽」を意味するカード、
向きは正位置だった。
「ふ~ん?よかったナ。
今一番会いたい人ともうすぐ会えるッテ」
「えっ!そうなの!?」
占いの結果に笑顔になるが、
その表情はすぐ沈んでしまった。
「でも……それは無理だよ……」
「なんデ?」
「だって……私の会いたい人は………」
宮藤の脳裏に浮かんだのは、
今は亡き父の墓標だった。
彼女の沈んだ表情を見て
エイラは深く聞こうとはしなかった。
「そうか……そういわれてもなナァ……
ノアール、お前も占ってやろうカ?」
『それは構いませんが……寝間着とはいえ
お三方のいるベッドに上るのは些か……』
「じゃあ代わりに私か宮藤が引いてやるヨ」
「え?私も?」
「カードを選び直すから待ってナ」
そう言ってエイラは先に並べていたカード総てを
山札に戻してシャッフルする。
そこから再び7枚を選んで、今度は横一列に並べる。
「カードは7枚。引くのは1枚。
左から何番目、もしくは右から何番目かを選んで、
私の方から取るか、宮藤の方から取るか選んでくレ」
「私が引くのとエイラさんが引くのとで
変わったりするんですか?」
「タロットには正位置と逆位置ってのがあるんダ。
引いた時に上下がそのままか逆かでカードの示す意味が変わるんダ」
『ユーティライネン少尉が取ったカードが正位置でも、
宮藤さんから取れば逆位置になる……
そういうことですか?』
「ソウソウ」
「でも、それっていいんでしょうか?」
「それも占いの醍醐味って奴だヨ。
それに、私らはノアールに代わってカードを引くだけダ。
そのカードを選んでどっちの方向から取るのかも
ノアールの選択だシ。
さっきカードを並べた時、私は裏向けで置いただロ?
だからこのカードたちは引かれるまで何のカードなのか、
どっちの位置なのかわからなイ。
宮藤がさっき引いたカードだって、
逆位置だったかもしれないだロ?」
「なるほど……」
『自分の選択すらも占いの内、というわけですか…』
「そういうことダ。ほら、早く選べヨ」
エイラに促され、ノアールは思考する。そして――――
『では、7枚という奇数ですから……真ん中のカードを
ユーティライネン少尉が取ってください』
「よし、どれどれ~……」
エイラの方から引かれたカードは――――
「“運命の輪”……それも逆位置カ……」
「何か悪いんですか?」
「ん~~……
ノアール、お前失敗しちゃったことってあるカ?
その失敗が今でも引きずってて、
後々になって返ってくるって出てるんダ…」
『………少なくとも、
自分の記憶している中には無いと思います。
任務での失敗などは、後々取り戻していましたから……』
「あ~…ゴメンナ。そういうところ、
お前デリケートだったよナ……」
『気にしないでください』
「……エイラの占い、
たまに反対の意味で当たることもあるから、
気にしなくていいと思う…」
「ちょっ!サーニャ!!」
見学していたサーニャからの不意打ちに
エイラが狼狽する。
「“そんなこと無い”って言いきれる?」
「うっ………サーニャぁ~…」
反論できないのか、エイラは情けない声を出す。
その後、ふて寝のつもりなのか仰向けになるエイラ。
すると今までエイラの影になって見えなかった
サーニャの部屋のカレンダーが宮藤の視界に入る。
「あれ?」
しかもそのカレンダーには18日のところに
赤い丸が付けられていた。
その日は、宮藤にとっての嬉しくもあり、
悲しい日でもあった。
そのまま女子三人は就寝し、
ノアールもまた眠りについた。
◇◇◇
「夕方だぞ~!起っきろ~!」
「ふぁ?」
ルッキーニの起床を促す声に、
宮藤は目が覚める。ちなみに――――
『宮藤さん、自分はお先に……』
ノアールはルッキーニの声が聞こえた瞬間に
パッチリと目が覚め、
そそくさと寝袋を畳んで部屋を出て行った。
夜間専従班の4人はそれぞれの部屋で着替え、
食堂に向かう。
すでに他のウィッチたちは席についていた。
するとそこで、宮藤は部屋の違和感に気づいた。
「なんか暗いね?」
「うん。暗い環境に眼を合わせる訓練なんだって」
リーネの言う通り、
食堂の灯りの光量が調整されて薄暗くなっていたのだ。
するとそこにペリーヌが用意したポットと
人数分のティーカップがそれぞれに配膳された。
「これは?」
「マリーゴールドのハーブティーですわ!
これも眼の働きを良くすると言われていますのよ♪」
胸を張って紹介しているペリーヌ。
何故かその周りだけスポットライトが
当たっているかのように明るくなっている
………気がする。
「あら?それって民間伝承なんじゃ――――」
「失敬な!!これはお婆様のお婆様の
そのまたお婆様から伝わるものでしてよ!!」
「ご、ごめんなさい……」
ペリーヌの有無を言わさない剣幕に圧され、
リーネが謝罪する。
実際にマリーゴールドのハーブティーは存在している。
眼の働きを良くするというよりは、
疲れを軽減してくれるといった効果だが…
「なんか山椒みたいな匂いだね…」
「サンショウ?」
漂ってきた独特の香りを扶桑の調味料で言い表す宮藤。
するとそこに再びルッキーニが現れる。
「芳佳、リーネ、もっかいベーして!」
「「べー…」」
ルッキーニがまず舌を出し、
続いて宮藤とリーネが舌を出す。
だが昼間のブルーベリーと違い、
ハーブティーの色が舌に残ることはないので、
健康的な色の舌しか出てこない。
「つまんなぁ~い!!つまんないつまんない!
ないないないない!!!」
面白味が無いことに癇癪を起こすルッキーニ。
見ると、全体的にブルーベリーの時のような
盛り上がる様子もなく、ペリーヌは何故かわからないが、
居心地が悪そうな顔になる。そこへ――――
「どっちらけ…」
「ッ!!べ、別にウケを狙ったわけじゃなくてよ!!?」
エイラの揶揄にペリーヌは抗議の声を上げる。
ちなみにサーニャは――――
「(……不味い)」
無意識に舌を出し、
ハーブティーに不満を内心漏らしていた。
そしてノアールは――――
『(………まあ、薬湯と思えば……)…ん?』
薬として飲むことで留飲を下げていた。
その彼の手には開かれた新聞があった。
この新聞は、ノアールたちが仮眠に入っている間、
バルクホルンが読んでいた新聞で、そのまま食堂の
テーブルの上に放置されたままになっており、
出発までの暇つぶしにとハーブティーを飲みながら
ノアールは読んでいたのだ。
するとその中に気になる記事を見つけたのか、
ノアールはカップを置いて記事に眼を通す。
載っていた写真に写っていたのは、
新聞のためモノクロだが、
同じ意匠の服と帽子を被り、
国や年齢もバラバラの9人の少女たちだった。
『(ブリタニアより端を発し、
戦時下にある国々を回り、
歌と踊りで人々を癒すウィッチ隊……
連盟空軍第72統合戦闘飛行隊、航空魔法音楽小隊……)』
「ノアール、新聞を読みながら飲んだり食べたりするのは
褒められたものではないぞ?」
そこにバルクホルンからのお叱りが入る。
『あ、すみませんトゥルーデ姉さん。
出発までの暇つぶしにと思ったのですが…』
「……まあ、その新聞は私がここに置いて
そのままにしていたものだからな。
そこまでとやかくは言わんさ」
そう言ってバルクホルンはノアールから新聞を受け取り、
畳んで屑籠に捨てた。
◇◇◇
そして夜。夜間専従班の出発時刻となり、
4人はハンガーにて出撃準備を整えていた。
「ふ…震えが止まんないよ……」
滑走路に沿って誘導灯がつき始めるが、
日が沈み、雲に覆われて月の光もない暗い空を前に、
4人の中で初めての夜間飛行に赴く
宮藤の表情は怯えていた。
「ナンデ?」
「夜の空がこんなに暗いだなんて思わなかった……」
「夜間飛行初めてなのカ?」
『宮藤さんはそもそも軍属ではありませんでしたし…
これまで、昼間の戦闘しか参加してませんでしたしね……』
「無理ならやめる?」
気を使ってサーニャが宮藤に辞退を勧めるが……
「て……て、手繋いでもいい?
サーニャちゃんが手を繋いでくれたら、
きっと大丈夫だから……!」
「………」
宮藤の思わぬ提案に、
サーニャは表情こそ変わらないものの
その心情を表しているのか、
緑に光っていたサーニャの魔導針が
淡いピンク色になった。
ちなみにエイラはその提案に不機嫌な顔をしていた。
サーニャが宮藤の右手を握ると、
仕方ないといった様子でエイラが宮藤の左手を握る。
「さっさと行くゾ!」
「うん!」
エイラとサーニャの足元に魔法陣が展開する。
「えっ!え、えぇっちょっ……
心の準備が……あぁぁあ!!」
二人に連れていかれる形で滑走路を滑る宮藤。
遅れて宮藤の足元にも魔法陣が展開され
流れるままに飛び立った。
ノアールは念のために3人に遅れる形で飛び立つ。
初めての夜間飛行な上、
雲の上に出るまで視界が不明瞭なため、
宮藤はエイラとサーニャに手を離さないよう念を押す。
そして雲海の上に出た後は先までの怯えが嘘のように
晴れ晴れとした顔をしていた。
「凄いなぁ!
私一人じゃ絶対こんな所まで来れなかったよ!
ありがとうサーニャちゃん、エイラさん!」
「フフッ♪」
「いいえ……任務だから……////」
無邪気にはしゃいでいる宮藤にエイラは笑みを浮かべ、
サーニャは頬を赤くしながら応じていた。
『(哨戒任務とは思えないくらい
和やかな雰囲気だけど……)』
そんな三人を少し後ろを飛んで見ていたノアールは……
『(まあ……たまにはこういうのもいいかもしれない……)』
初めての“楽しい夜間哨戒”というものを堪能していた。
尚、夜間専従班の任務初日は
ネウロイの出現は起こらなかった。
◇◇◇
1944年 8月18日
早朝の基地食堂にて、
扶桑で言う酒を飲む際などに使われる小さな器の
お猪口を覗き込んでいるペリーヌ。
その中にはとある液体が入れられていた。
「これは?」
「肝油です、ヤツメウナギの。
ビタミンたっぷりで眼にいいんですよ?」
ペリーヌの疑問に答えた宮藤は
抱えていた一斗缶を見せる。
缶の側面には扶桑の文字で“肝油”と書かれていた。
ちなみにこの肝油が入れられたお猪口は
全員に行き渡っている。
「なんか生臭いぞ?」
「魚の油だからな、栄養があるなら味など関係ない」
肝油の臭いを嗅いで飲むのを躊躇うエーリカと、
関係ないと飲もうとしているバルクホルン。
「オッホッホッホ!いかにも宮藤さんらしい
野暮ったいチョイスですこと!」
扶桑からの取り寄せ物で、
自分の出したハーブティーと比べれば
優雅さの感じられないモノだったため、
ペリーヌは高笑いするが――――
「いや、持ってきたのは私だが?」
少し不満気な声で坂本が持ってきたモノと聞き、
高笑いが途切れる。
「あ、ありがたく、いただきますわ!!」
と、ペリーヌは慌ててお猪口を手に取り、
見事な上体反らしで肝油を一気飲みする。
とても令嬢とは思えない仕草である。
直後――――
バキンッ!
ペリーヌの顔が一気に青くなり、
何故かメガネにヒビが入る。
「ヴぇ~なにこれぇ~……」
「……エンジンオイルにこんなのがあったな…」
ルッキーニはあからさまに不味いと口にし、
シャーリーは不味いと言わなかったものの、
バイクレーサーだった頃に
飲んでしまう機会があったのか、
似た味のものを想起していた。
「ぺっぺっぺっ!」
「………」
エイラは口に含んだ瞬間吐き出し、
サーニャは吐き出しはしなかったものの、
二口目を口にすることなく固まっていた。
「新米の頃は無理やり飲まされて往生したもんだ……」
「おぎぼじ……おさっじいだしますわ……」
坂本の苦労を労うペリーヌだが、
往生寸前といった状態だった。
「……不味い…」
「……もう一杯♪」
「うわぁ……」
さすがのバルクホルンも肝油の不味さには
耐えられなかったようだ。
ドン引きしているエーリカの横で、
嬉々として肝油のおかわりを要求しているミーナ。
そんな彼女を見た後、
エーリカはノアールはどうだろうと首を向ける。
コンッ……
ノアールは先まで肝油を飲んでいたのか、
エーリカが首を向けた直後にお猪口を置いた。
「ノアールは……どうだった?」
『……味を評価するならば……
美味しいとは言えません……』
「……だよね。ノアールまでおかわりなんて
言い出したら正直引いてたよ…」
『……ですが、薬としてならギリギリ……
かろうじて……なんとか……
最低でも…と言ったところです…』
「そ、そうなんだ……」
エーリカはこの時、
普段からマイナスなことを言わないノアールが
ここまで食い下がった言葉を述べるのを見て、
肝油の恐ろしさを改めて実感した。
ちなみに約一名、
幼少期のトラウマによって肝油に拒否反応を示し、
自室に立て籠もることで難を逃れた
猫耳童顔豊胸のブリタニア軍人がいたことを追記する……
◇◇◇
そしてこの日も、夜の夜間飛行のために
詰め所で眠ろうとしている四人。
だがこの日は太陽からの日差しが強く、
窓を開けるわけにもいかないため、
室内は寝苦しいくらいの暑さに見舞われていた。
寝袋で寝ているノアールも、
さすがに軍服の上着を脱いで
インナーとズボンのみになっている。
「あぁ~……ねぇ、エイラさんと
サーニャちゃんの故郷ってどこ?」
気晴らしに話題を振る宮藤。
「私、スオムス…」
「……オラーシャ」
「……えっと、それってどこだっけ?」
苦し紛れに振った話題な上、
地理に関してはからっきしなため宮藤は言葉に詰まる。
『スオムスはヨーロッパの、
このブリタニアよりさらに北に位置する国です。
オラーシャはそこからさらに東の国ですね』
「そうなんだ……あ、ヨーロッパって
確か殆どがネウロイに襲われたって……」
出身を聞き、宮藤は二人の故郷の現状を
把握したうえで再び尋ねる。
「うん。私のいた街も、ずっと前に陥落したの……」
「じゃあ家族の人たちは?」
「皆、街を捨ててもっと東の方に避難したの。
ウラルの山々を越えた、ずっと向こうまで……」
「そっか……よかったぁ……」
サーニャの家族の行方を聞いた宮藤は胸を撫で下ろす。
そこにエイラが割って入る。
「何がいいんだよ…話聞いてないのカお前?」
「だって今は離れ離れでも、
いつかはまた皆と会えるってことでしょ?」
サーニャの事情を以前から知っているエイラは、
宮藤の前向きな感想に呆れ、詳細を話し始める。
「あのナ、オラーシャは広いんだゾ?
ウラルの向こうったって、扶桑の何十倍もあるんダ。
人探しなんて簡単じゃないんだゾ?」
『確かに……オラーシャの国土は
約2200万平方キロメートルと言われています。
あらゆる大陸の国の中で最大の国土を持つ国です』
「最大の国土……」
「そうダ。だから人探しって言ったって
簡単じゃないって言ったんダ…
それにその間にはネウロイの巣だってあるんダ」
「そっか……そうだよね……」
エイラとノアールの捕捉に
宮藤は事がそう簡単にいかないことを納得する。
「それでも私は羨ましいな…」
「強情だナお前……」
だが宮藤は食い下がり、
サーニャの現状を羨ましいと言った。
「だって、サーニャちゃんは
早く家族に会いたいって思ってるでしょ?」
「…うん」
「だったらサーニャちゃんの家族だって、
早くサーニャちゃんに会いたいって思ってるはずだよ!」
「…うん」
「そうやってどっちも諦めないでいれば、
きっといつかは会えるよ。
そんな風に思い合えるのって
すごく素敵だなって思うんだ!」
宮藤がここまで食い下がった理由……
扶桑にいる母や祖母、はとこの美千子は
手紙などのやり取りでいつでも話ができる。
だが、彼女が一番会いたいと思っている存在――――
父とはどれほど会いたいと思っても
その願いが叶うことはない。
だからこそ、サーニャの目指す夢を
掛け替えの無いものだと言い切れるのだ。
そんな言葉をかけてくれた宮藤に
サーニャは心を開きつつあった。
◇◇◇
夕方になり、起床予定時刻の少し前に起きた四人。
風通しの無い部屋で寝ていたため、
寝汗で不快感極まりない状態だった。
エイラの提案で宮藤とサーニャたち三人はサウナへ。
残るノアールは風呂で汗を流すこととなった。
ただし、時間帯からして他の誰か……
ウィッチの誰かが入っているかもしれないため、
その場合は宿舎近くの小川での行水で済まそうと
ノアールは考えた。
脱衣所の籠には普段見ているウィッチたちの
軍服類は入っておらず、
風呂場に誰もいないことの証左となっていた。
裸になり、洗体用具類を持って浴室に入る直前、
出入り口横に置いてある看板を
浴室の出入り口前に立てる。
そこにはブリタニア語と扶桑語で
“
以前はウィッチたちが先に入浴を済ませ、
その後ノアールが入るという体制だったが、
今度のようにノアールが特殊な時間帯に入る機会も
出てくるとして作られたものだ。
看板を立てて浴室に入ろうとした直前、
出入り口横に立っているもう一つの看板に
ノアールは目が行く。
そこにはブリタニア語と扶桑語で
“姉弟使用中”と書かれていた。
以前水着着用のルッキーニと一緒に入って以降、
姉としての振る舞いの一つとして、
ルッキーニがノアールと一緒に
入浴することが度々あった。
その際の目印として、ノアール一人で入る時の看板と
もう一つ、姉弟で入る時の看板をこしらえたのだ。
週に1、2回というペースで一緒に入っていたが、
今は夜間専従班になっているため
ルッキーニも自重していた。
弟ができる前のルッキーニならお構いなしに
彼と一緒に入っていただろうが、
こういう所は姉としての自覚が出来てきたのか、
成長を感じられる。
彼女とのやり取りを思い出していたノアールは、
そのまま浴室に入ろうとする、すると――――
“「サーニャをそんな目で見ンナぁぁぁぁーーー!!」”
という声が何処からともなく聞こえてきた。
『(今の……ユーティライネン少尉?)』
叫び声でも独特のニュアンスが
感じられるものだったため、
先の声の主はエイラだとすぐに分かったノアールだった。
言葉の真意を知る術はないため、
ノアールはそのまま浴室に入る。
身体と頭を洗い終えたノアールは
大浴場の真ん中に位置する天使像を前にして
湯船に身を沈める。
“「そうやってどっちも諦めないでいれば、
きっといつかは会えるよ。
そんな風に思い合えるのって
すごく素敵だなって思うんだ!」”
ノアールが思い起こしていたのは、
サーニャの目指す夢を掛け替えの無いものと称した
宮藤の言葉だった。
『どちらも諦めないでいれば……か……
自分は、どうなんだろうか?』
ノアールが次に思い起こしたのは、
この501部隊に来てからの日々だった。
ルッキーニを姉と呼ぶきっかけとなった事件、
バルクホルンを姉と呼ぶきっかけになった事件、
それらを経て、配属された当初より
部隊の皆とも打ち解けるようになった。
ミーナの言う、この部隊の皆が家族だという認識は、
彼の中にも根付いていた。
だがその一方、この501という家族を意識するあまり、
自分の本当の家族のことに“拘らなくなっている”自分は
間違っているのではという思いも芽生えつつあった。
当然ながら浴室に一人しかいないノアールに
声をかける者はおらず、彼の中には、
想い合うことのできる家族がいるサーニャと、
一番会いたい家族を失っても、
それを経たからこそ達観することができる
宮藤への羨望の気持ちだけが残った。
◇◇◇
基地から出発した夜間専従班の四人。
前回はおっかなびっくりで飛び立った宮藤だったが、
一度吹っ切れたことで自信がついたのか、
今度は補助なしで雲の上まで上ることができた――――
――――ということもなく、
またサーニャとエイラに手を引かれる形で飛び立つ。
もちろん、雲の上に出てしまえば
どうということはないのだが……
すると、宮藤が少し前に飛んで話を切り出す――――
「ねぇ聞いて!今日は私の誕生日なの!」
「え?」
「なんで黙ってたんだヨ!」
サーニャはとある理由で驚いた顔をし、
エイラは今まで話さなかった理由を問う。
「私の誕生日は、お父さんの命日でもあるの…」
「ぁ…」
「なんだかややこしくて、皆に言いそびれちゃった…」
「バカだなぁ……こういう時は
楽しいことを優先してもいいんだゾ?」
「えぇ~…そういうものかなぁ……」
「そうだヨ…」
『(誕生日…………そして誕生日が命日……か……)』
和やかに話をするウィッチ三人を見つつ、
ノアールは物思いに耽る。
『(どちらも、感じたことが無い感情だ……
自分が生まれた日に対する想い……
生まれた日に大切な人が死んだことに対する想い……)』
ノアールの中で自分にはないモノを持っている
彼女たちへの羨望が大きくなっていく。
彼がこんなにも感傷的になりやすくなっているのは、
戦うことしか知らなかったかつての自分より、
この部隊に来たことによって、
これまで気にすることのなかった事柄に対し、
考える余裕が生まれたからである。
それは喜ばしいことではあるが、危ういことでもある。
現にこうしてノアールは、
彼女たちへの羨望を大きくしているために、
無意識に会話に入ろうとしていない。
自分に話が振られないようにするための防衛手段だろう……
「宮藤さん、耳を澄まして?」
「え?」
そんな彼の前で、サーニャが宮藤の隣につく。
するとサーニャの魔導針の光が強くなり、
四人のインカムにブリタニア語や
それ以外の言語の声が響いてきた。
「あれ?なにか聞こえてきたよ?」
「………ラジオの音……」
「夜になると空が静かになるから、
ずっと遠くの山や地平線の向こうの電波も
拾えるようになるの…」
「わぁー、すごーい!こんなことできるんだ!」
「うん。夜飛ぶときはいつも聞いてるの…」
そんなサーニャの耳元にエイラが不機嫌な顔を寄せる。
「二人だけの秘密じゃなかったのかヨ…?」
「ごめんね。でも、今夜は特別……♪」
「ちぇっ……しょーがねぇナぁ……」
宮藤の誕生日への、
そして“とある理由”の餞別として秘密を話したと聞き、
エイラは渋々納得した。
「え?なに?」
「ううん。なんでも……」
宮藤の問いに、サーニャは誤魔化しを入れる。
「そういえば、
さっきから何も話してないお前はどうなんダ?」
『えっ!?』
サーニャから離れたエイラは軽く旋回すると共に
ノアールの元へとやってきていた。
「誕生日って聞いて、
お前の誕生日を聞いた事無かったなって思ってナ」
『そんな……自分の誕生日なんて……』
「なんだヨ~…宮藤は話したのに
お前は話さないってカ?」
こうなることを恐れていたノアールは、
どうにかして話を逸らせないかと思考する。そして――――
『そ、そういえば!リトヴャク中尉の部屋のカレンダー、
今日の日付に赤い丸がしてありましたが……』
「あ、そういえば……私も気になってたんだ。
薄暗くて書いてある内容が解らなかったんだけど……」
「……ああ、アレはナ――――」
誤魔化されたエイラは少し不満気な顔をするが、
話題の内容は先の誕生日の話にも関わることだったため、
質問に答えようとする。
その時――――
...a....ra.ra.la......laラら...~
「ッ!!?」
サーニャの魔導針の光が強くなり、
それと同時に四人のインカムに
地の底から響くような音が聞こえ始める。
「なんダ?」
「これ……歌だよ!!」
『しかもこのリズム………音程こそ滅茶苦茶ですが、
以前リトヴャク中尉が唄っていた歌と同じ…!?』
「どうして……?」
四人はその音が一定のリズムで鳴っていることに気づく。
サーニャはいち早くその音が
自分が口ずさむ歌と同じだと気づく。
『ッ!!皆さん下を見てください!!』
ノアールに促されて下を見ると
雲海に謎の紋様が広がっていた。
「なんだよこレ!!?」
「雲に変な模様が出てる!?」
『リトヴャク中尉の歌を模倣しているこの声と、
関係しているのは確かなようです!』
◇◇◇
その頃、501基地でもその謎の声が響き渡っていた。
しかもその上空に広がる雲にも、
謎の紋様が広がっていた。
「コレが……ネウロイの声!?」
「サーニャを真似てるっていうのか?サーニャは!?」
「夜間飛行訓練中のはずよ。宮藤さんたちと一緒に…」
「すぐに呼び戻せ!!」
「無理よ!この状態じゃどこにいるかも……」
「そうか……さしずめこの雲に広がる模様も、
ネウロイの妨害によるものということか……
しかもこの声から察するに……敵の狙いは…!!」
司令塔に設置された基地周辺を探知する
レーダースクリーンに白い影が広がり始め、
宮藤やノアールたちの反応を塗りつぶし、
現在位置がわからないようにしていく。
通信を試みるも、雑音だけが聞こえてくるだけだった。
◇◇◇
「どうして……?」
謎の声が自分が歌っているものと同じものを歌っている。
しかも魔導針が反応していることから、
ラジオと似た電波を使っていることもわかる。
そのことに呆然としているサーニャに三人が声をかける。
「敵か、サーニャ!?」
「ネウロイなの!?」
『リトヴャク中尉!!』
「ッ!三人とも、避難して!!」
ノアールたちの声にハッとしたサーニャは
冷静にその声と電波が発せられている場所を見極める。
するとサーニャは、自分の魔導針から発した魔導波と
敵が発している謎の電波がリンクしたことを感じ取り、
その場から急上昇する。
その直後、ネウロイが発するビームが
雲の中から放たれ、サーニャに向かう。
直撃こそ免れたものの、
サーニャの左足のストライカーが吹き飛ばされ、
バランスを崩して落下する。
「サーニャ!!」
それを見たエイラはすぐさまサーニャの元へと飛び、
宮藤とノアールが駆けつける間に、
サーニャを抱きとめる。
「バカ!一人でどうする気だヨ!!」
「敵の狙いは私…間違いないわ…
私から離れて……一緒に居たら……」
態々自分の歌を模倣して妨害電波にし、
それと同じ魔導波を発した自分を狙ってきた。
ネウロイの狙いが自分だと確信したサーニャは
三人に離れるよう促す。
「バカ!何言ってンダ!?」
「そんなことできるわけないよ!!」
「だって……」
『ッ!!皆さん、自分の後ろに!!』
バァンッ!!
ネウロイから発せられたビームが再び襲い掛かり、
ノアールは四人分を覆う
魔法力の壁を作り出して防御する。
『リトヴャク中尉、戦闘だけでなく
通信妨害までしてくる今度の敵は、
お一人で相手にするには荷が重すぎるというものです……
かくいう自分も、
こんな搦め手を使うネウロイは初めてです…!』
「そうダ!一人じゃダメなんダ!
サーニャには私らがついてル!
アイツみたいに一人ぼっちじゃなイ!」
「そうだよ!だから絶対に負けない!」
「っ……うん!」
サーニャが頷くのを見届け、
エイラは彼女からフリーガーハマーを受け取り
右手で構え、左には自身の元の武装である
MG42を構える。
未来予知によって敵の攻撃で
被弾することはない彼女は攻撃担当。
ストライカーが片方だけになってしまったサーニャは
宮藤におぶさり、魔導針による探知で
ネウロイの居場所を割り出す司令塔となり、
宮藤はその間無防備になるサーニャを
シールドによって守る防御担当。
ノアールはエイラと同じく攻撃と、
敵の攻撃を相殺させる迎撃、非常時の防御担当となった。
『……許せない』
「どうしタ、ノアール?」
ノアールが握った拳を震えさせているのが見えたエイラは
思わず尋ねる。
『リトヴャク中尉のあの美しい歌を……
こんな醜い音で模倣するなんて……
コイツだけは、絶対に……ッ』
一度聞いただけだが、
ノアールは歌という文化を知るきっかけになった
サーニャの歌を気に入っていた。
それをネウロイの発する奇々怪々な音で汚されたことに
怒りを露にしていた。
「お前、サーニャのために怒ってるのカ?」
『当たり前です!』
「よかったねサーニャちゃん、
お父さんが作ってくれた歌を美しいって言ってくれて♪」
「……うん////」
「ッ!!?」
頬を赤くするサーニャを見たエイラは、
一瞬ノアールを“ある理由”から思わぬ伏兵かと見たが、
今はそういう場合じゃないと言い聞かせ、
戦いに集中する。
「イロイロ言いたいことはあるけド……
サーニャの歌が汚されるのが許せないってのは、
同意だナ!!」
『はい!そして宮藤さんから聞いた言葉で、
さらに怒りが増しました!
“家族を繋ぐ歌”を汚した、コイツだけは許さない!!』
ノアールの怒りにもう一つの理由が加わった――――
“自分にはない家族の繋がり”を
汚したことへの怒りである……
そしてサーニャはネウロイの発する電波と
共鳴していることを利用し、
敵の位置を割り出して指示を送る。
「ネウロイはベガとアルタイルを結ぶ線の上を
まっすぐこっちに向かってる!距離……約3200……」
「こうカ?」
サーニャの指示のあった方角に
フリーガーハマーの砲身を向けるエイラ。
ノアールはエイラ達から少し離れて
十字に組んだ両手を構え、
敵の攻撃がいつ来てもいいように
指示のあった方角に目を光らせる。
「加速してる……もっと手前を狙って……
そう、あと3秒」
「当たれヨ!!」
サーニャの指示に砲身の角度を調整し直したエイラは
そこで引き金を引く。
それと同時にネウロイがいると思われる場所から
ビームが放たれる。
『させるかッ!!』
エイラ達を狙ったビームを
ノアールの放つ光線が相殺する。
すると、先に放たれたフリーガーハマーの
ロケット弾の内の一発が直撃したのか、
従来のネウロイと同様の声が響き渡る。
直後、エイラ達の真下を
ネウロイの発する光が通り過ぎていく。
「外しタ!?」
「ううん!速度が落ちたわ、ダメージを与えてる……」
一度離れた光が弧を描いて再び迫ってくる。
「戻ってくるわ!」
「戻ってくんナ!!」
再びフリーガーハマーの引き金を引きロケット弾を放つ。
だがネウロイはそれらをいとも簡単に躱していく。
「避けた!?」
「クソ、出てこイ!!」
ついにフリーガーハマーに残った最後の一発が放たれた。
だがネウロイはその一発すらも躱してしまった。
『マズい!!』
フリーガーハマーの残弾が
無くなったことを悟ったノアールは、
今のエイラ達に残された火力では雲に隠れたネウロイに
決定打を与えられないことを理解していた。
『(くそっ!せめて自分にも、
リトヴャク中尉のような探知能力さえあれば!!)』
魔法力を有した男であり、
空を飛んでネウロイと戦える術を持っているにも拘らず、
魔法力そのものを放つしか能のない自分に
悔しさを覚えるノアール。
その時――――!
<お願い!届いて!!>
『ッ!!?』
突如として“聞こえた”その声にノアールは周囲を見渡す。
サーニャ達の声でも、
基地にいるミーナたちの声でもない。
ましてや通信妨害が為されている今の状況で
通信できることこそが奇跡だろう。
そしてノアールは、
その声の主を探す最中にそれを見た――――
サーニャとは別の、何処からともなく発せられた
魔導波によってあぶり出されたネウロイの発する光を……!
『ッ!!そこかぁぁぁぁぁッッ!!!!』
ノアールは両手を十字に組み、
光線を横に薙ぎ払うようにして放つ。
薙ぎ払われた雲が霧散し、ネウロイが姿を現した。
「「出た!!」」
「ノアールでかしタ!!」
身を隠す雲が無くなったネウロイが
エイラ達に向かって突進する。
フリーガーハマーを放棄したエイラが
MG42を構えて引き金を引く。
「エイラ、ダメ!逃げて!」
「そんな暇あるカ!!」
ネウロイの装甲は意外にも脆いのか、
機関銃一丁による薄い弾幕で崩れていく。
だが、せめて一矢報わんという勢いで迫り、
ダメ押しのビームを放つ。
その時、エイラ達の前に巨大なシールドが展開され、
ビームの進行を防ぐ。
「ッ!気が利くな宮藤ッ!」
複数人だろうと覆い隠せるシールドを張れる
宮藤がいたことが功を奏したようだ。
「大丈夫!私達きっと勝てるよ!!」
「それがチームダ!!」
「……っ」
ビィィィィィィ!!!
ネウロイに直撃する弾丸に加えて、
見覚えのある光線がネウロイを襲う。
ノアールがエイラと並び、
光線をネウロイに照射していた。
『リトヴャク中尉!必ず勝って帰りましょう!』
「ノアール少尉……」
『そしてまた、聴かせてください……
貴女のお父さんの想いが籠った、あの歌を……』
「ッ!!」
その言葉を聞いたサーニャは
宮藤が背負った13mm機関銃を構え、引き金を引く。
エイラとサーニャの機関銃による弾幕と、
ダメ押しとも言えるノアールの光線に晒されるネウロイは
その勢いを失いつつあった。
そしてついに胴体中心部にあったコアが露出し
――――そして…!
キィン!パァァァン!!
コアが破壊されると共に、
ネウロイの身体を構成する欠片が四人に襲い掛かるが、
宮藤の展開していたシールドによってすべて防がれ、
その後ろに広がる雲海を消し飛ばすだけとなった。
♪~……♪♪♪~……♪♪♪~……
ネウロイとの戦闘は終わったが、
四人は未だに響く旋律に困惑する。
「まだ聞こえル…?」
「なんで……やっつけたんじゃ?」
『……いえ、さっきのネウロイが発していた
滅茶苦茶な音程と全く違います。
むしろ……これは……』
インカムから流れてくる旋律は
ピアノによるものだろう。
それも見事に調和した……
そして、このピアノが奏でている曲を……
奏者によって異なる細かな癖を……
誰よりも一番知っている彼女が気づかないはずがない……
「違う……これはお父様のピアノ……!」
サーニャは片足だけのストライカーで、
今飛べる限界の高さまで上る。
「そうか、ラジオだ!
この空の何処かから届いてるんだ!
すごいよ!奇跡だよ!!」
「いや……そうでもないかモ……」
『? どういうことですか?』
宮藤が奇跡と称したこの旋律をエイラはやんわり否定し、
ノアールはその真意を問う。
「今日はサーニャの誕生日だったんダ。
正確には昨日かナ?」
「え?じゃあ私と一緒?」
「サーニャのことが大好きな人なら、
誕生日を祝うのは当たり前だロ?
世界の何処かにそんな人がいるなら、
こんなことだって起こるんダ…
奇跡なんかじゃなイ……!」
「エイラさんって優しいですね♪」
「ッ…そんなんじゃねぇヨ……バカ////」
宮藤にサーニャを大切に想う一人と呼ばれたエイラは
照れ隠しに悪ぶる。
『(これが、互いを想い合うからこそ起こる出来事……
自分には……無理だろうな……)』
宮藤が言っていた言葉が、
こうして形となって見せつけられたノアールは
口を閉ざしたまま、サーニャを悲しげな眼で見つめた。
「お父様、お母様……
サーニャはここにいます……!
ここにいます……!」
目尻に涙を浮かべたサーニャは、
両親への想いを解き放つように、
魔導波に乗せて届けていた。
「お誕生日おめでとう、サーニャちゃん!」
「貴女もでしょ?お誕生日おめでとう、宮藤さん!」
「おめでとナー♪」
『……おめでとうございます、
宮藤さん、リトヴャク中尉……』
「……ありがとう!」
一日遅れの誕生日を祝った四人。
エイラは片足のストライカーだけになった
サーニャをおぶさり、
持てなくなったMG42を宮藤が預かる形になり、
一同“ゆっくり”と基地に戻っていた。
「もう少し飛んでるか、サーニャ?」
「うん…お願い……もう少しだけ……」
ピアノの旋律は聞こえなくなったが、
その余韻を噛み締めたいという
サーニャの気持ちを汲み、ゆっくりと飛んでいたのだ。
「大丈夫?サーニャちゃん、疲れてるんじゃない?」
「うるさいナ!大丈夫って言ってるだロ!」
「だって!心配じゃないですか!」
サーニャを案ずる宮藤をエイラが突っぱねる。
そんな二人のやり取りを見て微笑むサーニャは、
はるか遠くにいる両親に思いを馳せながら……
「お父様……お母様……」
と呟き、涙を浮かべていた。
<そう……わかったわ>
『…はい。では、お願いします……』
「ノアールくん?」
『ミーナ中佐に連絡を取りました。
戦闘終了後、敵の残存勢力の確認の後に
帰投せよ……とのことです…』
基地と連絡していたノアールが三人に告げたのは、
しばらくこの空域を警戒せよ――――
もう少しだけ遅れて帰って来てもいい
という旨の報告だった。
「お前…」
『こうすれば、
何の憂いもなくゆっくり飛んでいれるでしょうし……』
「……優しいんだねノアールくん♪」
『自分は別に………
リトヴャク中尉の気持ちを汲んだだけです……』
「サーニャ……」
ノアールはその言葉を聞き、その名の主に顔を向ける。
「サーニャって呼んでもいいわ」
『そんな……』
「私もエイラでイイ。苗字呼びは長いだロ?
それに、サーニャの我儘を
中佐に進言してくれたしナ……」
『……ではサーニャさん……エイラさん……』
ノアールの呼びかけに頷いて答えた二人。
するとここで、エイラがノアールに尋ねる。
「そういえばお前、
ネウロイが居た位置をどうやって見抜いたんダ?
サーニャみたいな探知の魔法なんか無いだロ?」
『それが、自分でもわからなくて……
エイラさんの撃ったロケット弾が外れた直後に
誰かの声が聞こえて、そしたらサーニャさんの魔導波とは
別の魔導波が流れてきて、
ソレがネウロイの位置を教えてくれたんです……』
その誰かの声と、
サーニャとは違う魔導波が今の自分たちを助ける
一助になったことを四人は実感する。
「もしかしたら、サーニャちゃんのお父さんのピアノが
聞こえてきたのもその誰かのおかげだったりして?」
「いやいや、いくら何でもそれは夢見すぎダロ?」
「えぇ~!!」
推測の域を出ない宮藤の一言にエイラが突っ込む。
「フフッ♪ でも、もしそうだったら……
その誰かにありがとうって言いたいな……」
「うん!」
「まあ……そういう夢も、悪くないかもナ……」
そんな三人のやり取りを見ていたノアールは、
徐に空の果てを見つめていた。
まるで、その誰かに彼女たちの想いを届けるかのように……
「? ノアール、今何か言った?」
『…いえ、なにも……?
(あれ、自分口に出してたのか……?)』
◇◇◇
「……?」
オラーシャ上空、とある空域にてその一団はあった。
9人の国も年齢も様々な少女たちが手を繋ぎ合っている。
全員が全員、袖の有無等の細かい違いだけとはいえ、
それぞれの出身国のマークがついた
襷(たすき)を肩にかけ、
華やかな赤い上着と赤い軍帽、
黒いベルト(スカート)を身に纏い、
同じく赤と黒の色彩をした
ストライカーユニットを履いていた。
「ジニーちゃん、どうかしたの?」
「うん……さっき声が聞こえたんだ……」
「声って誰の?」
ジニーと呼ばれたブリタニア人の少女が
扶桑人とオラーシャ人の少女の問いに答える。
「たぶん……ヴォロージャさんの
ピアノのお礼だと思う…」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
扶桑人のウィッチと反対にいた一団の中では
年長のスオムス人の少女が尋ねた。
「“素敵なプレゼントが届きました。ありがとう”
……そう言ってたから…」
「すごぉーい!届けてすぐに返事が来るなんて!」
「正直自己満足だけに終わると思っていましたが、
まさかこんなサプライズが待っていたとは、
予想外であります!」
身体と表情全部で驚きを表現する
ニューゼーラント人の褐色の少女と
軍人然とした喋り口調をしている
カールスラント人の少女が
自分たちの行った善意のお返しが
すぐに返ってきたことに驚く。
「その声って、
まさか話に聞いてた娘さんだったりしないか!?」
「いや…流石にそれは都合がよすぎるんじゃない?」
片眼が隠れた男口調になっている、
一見少年に見間違いそうなリベリオン人の少女に、
長髪を白いリボンでポニーテールにし、
メガネをかけたロマーニャ人の少女が
都合がよすぎると落ち着かせる。
「わかんない。遠くから聞こえるみたいに、
小さい声だったから………」
「まあ、何はともあれ……私たちのやったことは、
無駄じゃなかったってわかっただけでいいんじゃない?」
<そうね。返事があったことは予想外だったけど、
私たちがこれまでやってきたことの
結果の一つだと実感できた今度のことは、
貴重な経験かもしれないわ>
片耳の欠けた猫の使い魔の耳を持つ、
年長組のガリア人の少女がその場を収め、
彼女たちの指揮官である
リベリオン人の女性が締めくくった。
ストライカーユニットを駆る彼女たちは、
当然ながらウィッチだ。
そして彼女たちの指揮官である女性も元ウィッチである。
だが、彼女たちは“戦うウィッチ”ではない……
彼女たちの使命は、ネウロイとの戦いに疲弊し、
傷ついた人々に歌と踊りで笑顔と安らぎを与えること。
あがりを迎え魔法力を失った、負傷により戦線離脱、
体質に難あり、戦闘に役立たない、使い魔の相性、
家柄により前線に出せない、
もともと軍人ですらなかった――――
等々様々な欠点を持ったウィッチたちで構成された
異色のウィッチ隊――――
人々は、彼女たちをこう呼んだ……
連盟空軍第72統合戦闘飛行隊 航空魔法音楽小隊――――
“ルミナスウィッチーズ”と……
いかがでしたでしょうか?
ジニー以外のウィッチの名前は出していませんが、
彼女たちそれぞれが誰なのかわかりますよね?
話し方や説明文でそれぞれの特徴を表現できていると
いいんですが…
あの回におけるラストシーンに
とんでもないサプライズがあって
見た当初は二重の意味で感動しました
そこからまた過去作を見返して、
書きたいなぁと、以前から書くことになったら
こういう主人公にしようと放置していた
設定を急ピッチで仕上げて今作を立ち上げた次第です。
こういう作風が変わってしまったシリーズでも
どこかで繋がっているという演出は
いつ見てもニヤリとさせてくれますね
それでは