「すいませんでしたぁ…イッチさん…」
「うん」
エボルドライバーを弄ってたら、胡白が戻ってきた。心なしか少し窶れているように見える。
漫画でよく見るエフェクトが出てるんじゃないかと言う位には負のオーラが出ていた。
さーてそれじゃ今度はチョークスリーパーだな……。
「すいません、ウチの部下が…重ねてお詫び申し上げます」
上司さんが申し訳無さそうに頭を下げる。
「イヤ…はい」
釣られてこっちも頭を下げた。
「…………おや?」
上司さんが訝しげな声を出す。一体何が、と彼に視線を向けると、エボルドライバーをまじまじと見ている事に気付いた。
「…そちらの物は何でしょうか?ドライバー…ですか?」
「あ、コレですか?趣味のオモチャみたいなもんです、気にしないで下さい」
仮面ライダーなんて安易にバラす事じゃないと思ったから、上手く誤魔化してその場を乗り切る。
いやぁ全く人前でエボルドライバー出してるなんて危機感がな
ん?
さっき彼は何て言った?
普通このアイテムを初めて見て『ドライバー』と言う単語が出るか?
少なくとも仮面ライダーについて認知している人間でなければ出る事は無いだろう。
勿論この世界に『仮面ライダー』という特撮番組は存在しない。
胡白が教えていたのか?いや、流石の彼女もそんな危機感がガバガバな事は無い…と信じたい。
なら彼は何故―――
「…先程の自己紹介に、一文付け足させて頂きます」
「え?」
「私、ホロライブプロダクションスタッフ兼」
「ソイツはッ!?」
「眞鍋さん!?」
立○文彦ボイスを出すUSBメモリ型のアイテム、そして彼の首筋に現れる生体コネクタ。
間違いない、アレが来る…!!
メモリを首筋に差した彼は、轟々と燃える炎に包まれる。外殻が砕ける様に、中から怪物が現れた。
『マグマ・ドーパント』。『仮面ライダーW』に登場する怪人。
「貴方…仮面ライダーですね?」
「!?」
やはり奴は、仮面ライダーの存在を知っていた。
いや、それも当たり前だろう。
『ミュージアム』。仮面ライダーWでの敵組織の名前だ。原作では風都でガイアメモリを流通させていた組織……だった筈だ。『リ』と言う事は、またそれとは別の組織なのかもしれないが。ってか俺の店の『Re』とも被ってない?
まさか、風都以外にも魔の手を伸ばし始めたのか。
そんな事を考えている内に、マグマはどんどんと距離を詰めてくる。
「仮面ライダーは、我々が円滑に事を進める為に…消えてもらいます」
「やめて下さい眞鍋さん!!」
胡白が俺達の間に割って入る。
「……はぁ」
マグマが少し溜息を漏らした。
「まさかそんな人間だと思いはしませんでしたよ、笛木さん」
「そりゃコッチのセリフだ!!」
「ドーパントと分かったならやるこタ一つ…胡白!!」
「えっあっハイ!!」
「変身は初めてか!?」
「はい!!でもスレ民の皆さんから教えられました!!」
「なら心配はねェな!!行くぞ!!」
「行きます!!」
エボルドライバーにエボルボトルを差し込み、レバーを回す。
胡白は中指に付けた指輪を構える。
俺は禍々しいハーフボディに挟まれ、仮面ライダーエボル・コブラフォームに、
胡白は魔法陣を通り仮面ライダーワイズマンに変身する。
お互い初変身とは思えないレベルにキマっていた。
「へぇ、貴女も仮面ライダーだったんですか…笛木さん」
「かかってきやがれドーパント!!」
「イヤ、此処では屋内に被害が及ぶ…外に出ましょうか」
悠長な様子でそう言うと、マグマは
俺と胡白を掴んで窓から投げ飛ばした。
「おォォォォォォッ!?」
「うわぁーッッ!!」
どうにかバランスを整え足から着地する。胡白は尻もちをついてしまったようだ。
「チクショオ…」
「痛った!!」
2階から叩き落されると、着地を決めたとは言え足が痛い。
マグマが窓から飛び降りて来る。奴から吹き出す溶岩は『容赦はしない』という事を言わずとも語っている様に見えた。
「えいやーッ!」
ワイズマンがマグマに殴りかかる。
ん?殴りかかる…………?
「バカ野郎やめろッ!!!!」
「えっ!?」
危ない危ない危ない危ない危ない!!
「どうしたんですか急に大声出して!!」
「おま……ッ!!ホントにおまッ……!!子供がマネしたら危ないでしょーが!!!!」
「…ゑ?」
そう、子供がマネしたら危ない。ウィザードのライダーは指輪を付けている都合上、子供がマネして指輪を付けた状態で殴ったら怪我をしかねないからだ。
「……いや、あのね?指輪付けた状態で殴るのを子供がマネしたら危ないって………」
「え…じゃあどうすれば良いんですか?」
「お前の持ってるハーメルケインは飾りか?」
気付いてくれ、ハーメルケインに。右手でしっかり持ってるんだから。
「…コレですか?この笛みたいな」
「それそれ、それ槍にもなるから」
緊張感が無いがまあ仕方ない。マターリ教えなきゃ………
「チュートリアルは終わりで良いですか?」
「ッ!?」
ふと気が付くと、マグマが目の前まで迫ってきていた。
「グッ……!!」
油断した。片腕でグイッと首を締め付けられる。足が地面を離れているのが分かる。
「………んのぉ!!」
どうにか浮いた足で蹴りを決め、拘束を逃れた。
「チクショー、二度とこんなヘマしねぇ」
「達者だったのは口だけですか、所詮ライダー。あの
え?今何て言った?探偵?
ライダーで探偵と言ったら
「って考えてる場合じゃねぇ!!」
俺もスチームブレードを構えて体制を整える。
「オラッ!!」
とりあえずスチームブレードをグッと突いてみる。思ったより軽く扱えた。
「成程厄介ですね、ですが…」
マグマはそれを回避し、距離を再び詰めてくる。
咄嗟に反応した俺とマグマの拳がぶつかり合う。向こうの方は随分と余裕そうだが、此方の手はビリビリ痺れている。
その時。
「えいやッ!」
「くっ…!?」
胡白が文字通り横槍を刺す。不意打ちに少し怯んだマグマに、追撃の蹴りを叩き込んだ。
「ついでに喰らっとけ!!」
追撃も抜かりなく。トランスチームガンの照準を定め、二・三発打ち込む。
「ッ!!」
流石(疑似)ライダーウェポン兼変身アイテムと言うべきか、思ったより威力が高い。
「…鬱陶しいですねッ!!」
しかし一筋縄では行かないようだ。ブンッと腕を振るい溶岩の弾丸を飛ばしてくる。急な反撃に思わず仰け反った俺を見て、しめたとばかりにマグマは手を地面にかざした。
すると途端に奴の近くの地面から大量の溶岩が吹き出す。一瞬にして辺り一面がまるで地獄かの様な溶岩の海になった。
「終わりです!!」
マグマが勝利宣言をするかのように叫ぶと、奴の周りを取り囲む溶岩が噴き上がって津波の様に襲いかかってくる。
いくら頑丈なアーマーでもこの量の溶岩をまともに受けたら俺の肌は焼け爛れ、無事では済まない……!!
「(終わッ―――)」
その時。俺の周りの地面が盛り上がる。そして地面が俺の目の前に壁を作り、迫りくる溶岩の津波を抑え込んだ。
「胡白!?」
「はいッ!?」
間違いない、胡白がランドリングを使ってくれたのだろう。
「…お前ホントにライダー知らないの?」
「ホントです!!何となく使っただけです!!」
ナイスセンスと言う他ない。お陰で窮地を脱出できた。
「なッ………」
奴は今のを決め技としていたのだろう、信じられないと言った様に呆然と立ち尽くしている。
ならば、今がチャンス。
「決めてやる……!!」
エボルドライバーのレバーを回すと、俺の足元に羅針盤のような意匠が現れる。羅針盤は渦を巻くようにオーラへと変わり、収束する。
「終わりだ!!!!」
オーラを纏った必殺の蹴りはマグマに直撃し、その屈強な体をいとも容易く吹き飛ばした。マグマはゴロゴロと転がって、ビルの壁に胴体をぶつける事でようやく止まった。
勝った。そう確信した。
しかしその瞬間、俺の頭に一つの疑問が浮かぶ。
メモリブレイクは?
そう。ドーパントを殺さずに無力化するには、メモリブレイクが必須だ。しかし、
いくら元が悪逆非道なライダーであっても、この手を血に染め上げるような事は絶対にしたくない。
俺の様子を見て胡白も何となく察したのか、止めの一撃を躊躇っていた。
そんな事を考えている内に、マグマはよろめきながらもゆっくり着実に立ち上がっていた。逃走か反撃かは分からないが、明らかに戦意を喪失した様子は無かった。
「(マズイ……!!)」
その瞬間だった。
聞いたことのないメモリのガイダンス音声。それと同時にズダン、という衝撃音が鳴り響く。
「は…!?」
一体何が、と俺は思わず閉じていた目を開ける。
眼の前に、答えはあった。
黒いフードを被った人間が3人、俺の眼の前に立っていた。