No.1オペレーター城戸奏真の華麗なる緊急脱出<ベイルアウト> 作:羊毛ローブ
玉狛支部の作戦室。
その日は珍しく、支部の面々が揃っていた。
玉狛第一の木崎、小南、烏丸。
玉狛第二の修、遊真、千佳、ヒュース。
迅と宇佐美、支部長の林藤に、陽太郎と雷神丸。
さらに、林藤ゆりとクローニンまで顔を出している。
そして、その中に当然のように混ざっているのが城戸奏真だった。
「そういえば奏真さん」
「んー?」
ソファでのんびりと茶を飲んでいた奏真が顔を上げる。
「前に宇佐美先輩に見せてもらった、奏真さんのランク戦の解説ログなんですけど」
「……え? 見たの?」
奏真が少し驚いた顔をした。
「はい。以前、宇佐美先輩に見せてもらいました」
「マジで?」
奏真は宇佐美へ顔を向けた。
「栞ちゃん、見せたの?」
「うん。修君が奏真さんのことを知りたいって言ってたからね」
「そっかー。いや、別にいいけどさ」
奏真は少し考えた。
「あれ、俺も結構好き勝手喋ってた気がするんだけど」
「そうなんですか?」
「うん。タケミッフィーとやってる時は、割と自由に喋ってたからねー」
「でも、凄く分かりやすかったです」
「お、そう?」
奏真が嬉しそうに笑った。
「それで、もし他にも記録が残ってるなら、もう一回見たいなと思いまして」
「なるほどねー」
奏真は少し考えると、鞄の中を探り始めた。
「あー、だったら……」
取り出したのは、小さな記録媒体だった。
「これならまだ参考になるかなー」
「何の試合ですか?」
「去年の生駒隊、香取隊、王子隊の三つ巴」
「えっ」
修が目を瞬いた。
「その三部隊ですか?」
「うん。三部隊とも隊長の考え方が全然違うからね。特に相手の行動を予測する練習には、結構いいと思うよ」
「なるほど……」
「何? 面白そうな話してるじゃない」
小南が興味を示した。
「奏真さんが昔やったランク戦の解説を見るんです」
「へえ。奏真さん、実況解説なんかやってたの?」
「やってたよー。タケミッフィーに頼まれてね」
「タケミッフィー?」
「武富ちゃんのことだよ」
宇佐美が補足する。
「ああ、あの子ね」
「奏真さんの解説か。そりゃ面白そうだ」
迅が笑った。
「俺も見たいな」
「奏真さん、そんなこともやってたのね」
ゆりも興味深そうだった。
「まあ、昔は色々やってたからねー」
「奏真は昔から器用だったからな」
林藤が笑う。
「器用なのか不器用なのか、最近はよく分かりませんけどね」
宇佐美が小さく呟いた。
「栞ちゃん?」
「何でもないですよー」
奏真は首を傾げた。
「奏真さんの解説なら、勉強にもなりそうですね」
木崎が言うと、烏丸も頷いた。
「そうですね。俺も興味あります」
「わたしも見てみたいです」
千佳も控えめに手を挙げる。
「おれも見るぞ!」
陽太郎が元気よく宣言した。
その隣で雷神丸がのんびりと寝そべっている。
「……何だか大人数になりましたね」
修が苦笑する。
「いいんじゃない?」
奏真は楽しそうだった。
「みんなで見る方が面白いし」
「おれもそうま先輩の解説は気になる」
遊真が頷く。
「……戦術の参考になるなら、俺も見よう」
ヒュースも席を移動してきた。
「じゃあ、せっかくだし大きいモニターで再生しようか」
宇佐美が記録媒体を受け取る。
「ただ、奏真さん。これ普通の実況ログ?」
「うん。たまにちょっと変なことしてるけど」
「……ちょっと?」
「ちょっと」
宇佐美は何か言いたそうだったが、結局そのまま再生を始めた。
〇
『さあ、始まりました! B級ランク戦! 本日の対戦カードは、生駒隊、香取隊、王子隊の三部隊です!』
明るい声が響いた。
『実況は私、武富桜子! そして解説はこの方!』
『どうもー。ボーダーのメタルキングこと城戸奏真です。よろしくー』
『あっ、ご自分で言うんですね!』
『え、駄目?』
『いえ、確かにそう呼ばれていますけど!』
『覚えやすくていいでしょ?』
『まあ、インパクトはありますね!』
『ちなみに倒しても経験値は貰えません』
『そこまでゲームに寄せなくていいです!』
実況席に笑いが起こった。
現在。
「あはは! メタルキングって自分で言うのね!」
小南が笑った。
「いやー、結構気に入ってるんだよね。この呼び名」
「自分で名乗る人は初めて見ましたけど」
修が苦笑する。
「奏真さんらしくていいじゃないか」
林藤も笑っている。
「そうま先輩は倒すより捕まえる方が難しそうだな」
遊真の一言に、迅が頷いた。
「それは間違いないね」
「何でそこは満場一致なの!?」
奏真の抗議をよそに、映像は進んでいく。
『では早速、試合の展望をお願いします!』
『うーん。今日の試合は面白そうだねえ』
『と言いますと?』
『三部隊とも考え方が違うからね。王子君は相手を動かすのが上手い。香取ちゃんは自分が動くのが上手い。イコさんは……』
『生駒隊長は?』
『面白い』
『戦術の話をしてください!!』
『いや、ちゃんと強いよ!?』
実況席から笑い声が上がった。
『でも生駒隊は水上君がかなり戦術面を見てるからね。だから今日は、その辺も注目してほしいな』
『なるほど! では、まず香取隊からお願いします!』
『香取隊はねー。隊長の判断がかなり重要になるかな』
『と言いますと?』
『香取ちゃんは戦闘勘が凄くいいからね。相手が少しでも隙を見せたら、一気に崩せると思う』
『なるほど!』
『ただ、その判断が他の隊員に伝わってないと、隊全体の動きが遅れることがあるんだよね』
『若村隊員や三浦隊員との連携ですね?』
『そうそう。例えば、今の香取隊なら……』
奏真は少し考えると、突然声を変えた。
『あーもう! 何なのよあいつら! 逃げてばっかりじゃない!』
『……えっ!?』
次の瞬間、今度は少し荒っぽい男の声に変わった。
『おいヨーコ! だから一回落ち着けって! 相手の位置も分かってねえだろ!』
さらに、柔らかな声が続く。
『ヨーコちゃん、ちょっと待とうよ。あんまり離れると危ないよ』
『ちょ、ちょっと待ってください!』
武富が慌てて声を上げる。
『今の、香取隊の皆さんですよね!?』
『うん。似てた?』
『似てましたけど! 何で三人ともそんなにそっくりなんですか!?』
『よく見てるからねー』
『それだけであそこまで似せられます!?』
実況席に笑いが起こる。
『まあ、今みたいな感じで、三人とも見てるものが少し違うんだよね』
『……と言いますと?』
『香取ちゃんは相手の隙を見てる。若村君は部隊全体の状況を確認したい。三浦君はその二人の間に入って、何とか足並みを揃えようとする』
『なるほど!』
『誰かが間違ってるってわけじゃないんだけど、判断の優先順位が違うから、どうしても噛み合わない時があるんだよね』
『ああ! 確かに今の物真似だと、それぞれ何を考えているのか分かりやすいですね!』
『でしょ?』
奏真は満足そうに笑った。
『……あー、でも後でカトリーヌに謝っとこうかな』
『え? どうしてですか?』
『いやー、ちょっと大げさにやっちゃったし。本人からしたらあんまり嬉しくないかもしれないからね』
『いえ、でも今の方が分かりやすかったですよ?』
『本当?』
『はい! 三人の考え方の違いが凄くよく伝わりました!』
『そっかー。なら良かった』
奏真は少し笑った。
『でもまあ、本人には一言言っとこうかな』
『ふふっ。そうですね』
『ちなみに、香取ちゃんの戦闘勘自体は本当に凄いからね。若村君達との判断が上手く噛み合った時は、かなり怖い部隊になると思うよ』
『なるほど! 香取隊を見る時は、それぞれの判断がどう連携するかに注目ですね!』
『そういうことー』
現在。
「……え?」
修が目を丸くした。
今の声は、明らかに奏真のものではなかった。
香取の声。
若村の声。
三浦の声。
それぞれの話し方や声の高さだけでなく、間の取り方まで妙に似ている。
「ちょっと! 何これ! 凄い似てるじゃない!」
小南が声を上げた。
「ですよね」
修も頷く。
「普通に本人達が喋ってるのかと思いました」
「……随分よく似ていますね」
烏丸も感心したように言った。
「奏真さん、こういうこともできたんですね」
「いやー、昔から結構やってたよ?」
「そうだな。昔から人の喋り方を真似するのは上手かった」
林藤が笑う。
「特に東や諏訪の物真似なんかは、本人がそこにいるみたいだったな」
「あったねー」
奏真が懐かしそうに笑った。
「それにしても、よく似てますね」
木崎が感心したように言う。
「声だけではなく、話す間合いや癖まで再現している」
「奏真さん、普段からそういうところまで見てますからね」
迅が頷く。
「えへへ。そんな褒めても炒飯くらいしか出ないよ?」
「何で炒飯なのよ!」
小南が笑った。
「好きだから」
「理由が単純すぎるわ!」
そんなやり取りを聞きながら、ヒュースは画面を見つめていた。
声真似の完成度もそうだが、それより気になることがある。
隊員同士の会話を、まるでその場にいるかのように再現している。
だが、奏真は実際の通信を聞いているわけではない。
行動や性格から、そう考えているのではないかと予測しているのだ。
ヒュースはそのことを頭に留め、再び映像へ視線を戻した。
〇
『さて、試合が始まりました! まず王子隊が移動を開始!』
『うん。予想通りかな』
『香取隊の方向へ向かっていますね!』
『そう見えるね』
『……そう見える?』
『王子君、多分直接ぶつかるつもりはないよ』
『と言いますと?』
『まず軽く仕掛けて、香取ちゃんがどう動くか確認するんじゃないかな』
『なるほど!』
『多分、王子君は今こんな感じかな』
奏真は少し声を変えた。
『さて、カトリーヌはどう動くかな。少し誘ってみようか』
『……っ! また王子隊長の物真似!』
『似てた?』
『似てます! 相変わらずそっくりですね!』
『いやー、王子君の喋り方って特徴あるからね』
『それで、今の言葉はどういう意味なんでしょうか?』
『王子君は、相手がどう反応するかを見るのが上手いんだよ。だから最初から倒しに行くんじゃなくて、まず動かしてみるんだと思う』
画面上で、王子隊が香取隊へ射撃を行った。
『おおっと! 王子隊、先制攻撃!』
『うん。で、ここからが大事』
王子隊は射撃を終えると、すぐに移動を始めた。
『あっ! 王子隊が後退します!』
『そうそう。王子君が狙ってるのは、香取ちゃんに自分達を追わせることだと思うよ』
『なるほど!』
『で、追いかけた先に何があるか見てみようか』
画面が切り替わる。
王子隊の進行方向、その先には生駒隊が展開していた。
『……あっ!』
武富が声を上げる。
『生駒隊です!』
『そう。王子君は香取隊を自分達で倒すんじゃなくて、生駒隊とぶつけようとしてる』
『なるほど! 三つ巴ならではの誘導ですね!』
『うん。ただ、香取ちゃんも馬鹿じゃないからね。途中で気づく可能性はあるよ』
『その場合はどうなるでしょう?』
『王子君はそれも考えてると思う。誘導できれば得だし、できなくても香取隊を今の位置から動かせるからね』
『つまり、一つの行動に複数の狙いがあると?』
『そういうこと。相手がどう動いても、次に繋げられるのが王子君の上手いところかな』
その直後。
香取隊が進路を変えた。
『おおっと! 香取隊、王子隊を追うのをやめました!』
『お、気づいたね』
『これは王子隊の作戦失敗でしょうか!?』
『誘導は失敗。でも、香取隊を動かすことには成功してるから、完全な失敗ではないかな』
『なるほど……』
『それに、王子君ならもう次のこと考えてると思うよ』
『次のこと?』
『うん。今の香取ちゃんの反応を見て、次はどうすれば動いてくれるかなーって』
『……凄いですね』
『そういう読み合いが、王子君の強みだからね』
現在。
「……待て」
ヒュースが口を開いた。
宇佐美が再生を一時停止する。
「どうしたの?」
修が尋ねると、ヒュースは画面に表示された三部隊の位置を指した。
「こいつは、王子の作戦だけではなく、香取がその作戦にどう反応するかまで考えているのか?」
「うん、そうだよ」
奏真が当たり前のように答える。
「相手も考えて動いてるからね」
「……」
「王子君が香取ちゃんを誘導しようとする。香取ちゃんが気づくかどうか。気づいた場合、どっちへ動くか。王子君がそれを見て次に何をするか」
奏真は指を折りながら説明した。
「そういうのを順番に考えてる感じかな」
「……相手の思考も考えているのか」
ヒュースは再び画面を見た。
「なるほどなー」
遊真も頷く。
「相手が何をしたいのか考えて、その次に何をするか読むわけか」
「そうそう。遊真君も結構やってるでしょ?」
「まあ、そうだな」
「……言われてみれば、そうですね」
修が呟く。
「でも、それをあそこまで細かく言葉にできるのが凄いと思います」
「そうね。あたしだったら、あそこまで考える前に突っ込んじゃいそう」
小南が腕を組む。
「小南先輩は突っ込んでも何とかしますからね」
烏丸がさらりと言った。
「ちょっと! それどういう意味!?」
「褒めてますよ」
「本当でしょうね!?」
「もちろんです」
烏丸は真顔だった。
「……とりまる、今のは本当に褒めてたの?」
宇佐美が確認する。
「はい。小南先輩は実際に強いので」
「ほら! やっぱり褒めてたじゃない!」
小南が得意そうに笑った。
「……」
宇佐美と修が顔を見合わせる。
奏真は口元を押さえていた。
「……奏真さん?」
「いやー。カラマダガスカルも上手いなーって」
「何がですか?」
烏丸は涼しい顔である。
「……何よ!?」
小南だけが不満そうだった。
「ま、まあ続き見ようか」
宇佐美が苦笑しながら再生を再開した。
〇
画面では、王子隊の誘導から外れた香取隊が、生駒隊との距離を慎重に測っていた。
『さて、ここで生駒隊ですが――』
武富が口を開いたところで、奏真が何かを思いついたように笑った。
『あ、タケミッフィー。イコさん、今多分こんなこと考えてるよ』
『え?』
奏真は少し声を落とし、独特の関西弁で喋り始めた。
『なあ水上。俺、そろそろ撃ってええ?』
『……っ!?』
次に、落ち着いた関西弁へ変わった。
『まだ届きませんて、イコさん。もうちょい待ってください』
『えー。俺もう結構待ってんねんけど』
『ちょ、ちょっと待ってください!』
武富が笑いを堪えながら声を上げる。
『今の、生駒隊長と水上隊員ですよね!?』
『うん。似てた?』
『似てましたけど! 何でそんなに似てるんですか!?』
『昔から知ってるしねー』
『それだけであそこまで似ませんよ!?』
実況席に笑いが起こる。
『でも、実際にイコさんが何考えてるかっていうと、そろそろ自分の射程に入ってこないかなーってことだと思うよ』
『なるほど!』
『で、水上君はその辺を冷静に見てる。イコさんが攻撃したがってても、撃てる位置に入るまでは待たせると思う』
『つまり、生駒隊長の攻撃力を活かすために、水上隊員が状況を整理しているわけですね!』
『そうそう。イコさんって普段はあんな感じだけど、生駒旋空の間合いに入ったら本当に危ないからね』
『なるほど! あの物真似も、二人の役割を説明するためだったんですね!』
『まあ、それもあるけど』
『あるけど?』
『イコさんの声、久しぶりにやりたくなった』
『やっぱり遊んでるじゃないですか!!』
再び笑いが起こった。
現在。
「……っ、あはははは!!」
小南がとうとう声を上げて笑い始めた。
「ちょっと! 生駒と水上、そっくりじゃない!」
「……確かに似てますね」
烏丸も笑いを堪えている。
「特に水上隊員の話し方が凄く似ています」
「生駒さんの方も、本当に言ってそうですね」
修が笑う。
「わたしも、本人達が喋ってるみたいだと思いました」
千佳も小さく笑っていた。
「……生駒は本当にそんなことを言うのか?」
ヒュースが尋ねた。
「言うと思うよ?」
「……」
「実際、イコさんって結構ああいう人だし」
「おれも言ってそうだと思うぞ」
遊真が頷いた。
「……確かに、否定はできないな」
ヒュースも渋々認める。
「それにしても奏真さん、よくあそこまで似せられますね」
木崎が言った。
「普段から相手の様子を観察されているからでしょうか」
「んー。まあ、それもあるかなー」
奏真は少し考えた。
「でも、あの二人は一緒にいると面白いから、ついつい覚えちゃうんだよね」
「……そういうものですか」
「そういうものそういうもの」
奏真は楽しそうに笑った。
〇
『さて、ここで生駒隊長が前に出てきました!』
『お、来た来た』
『香取隊との距離が縮まっています!』
『うん。イコさんの射程に入りそうだね』
『生駒旋空が来るでしょうか!?』
『可能性は高いね。ただ、今の生駒隊を見るなら水上君の方にも注目かな』
『水上隊員ですか?』
『うん。香取隊だけじゃなくて、王子隊の位置も確認してるからね。イコさんが攻撃した後のことも考えてると思う』
『なるほど!』
画面では、生駒が少し位置を変えた。
香取隊との距離を保ちながら、建物の角へ移動する。
『生駒隊長、位置を変更しました!』
『うん。いい位置だね』
『どうしてでしょう?』
『あそこなら香取隊が角を曲がった瞬間に生駒旋空を合わせられる。それに、建物を利用すれば王子隊からも狙われにくい』
『なるほど! 二部隊を同時に警戒した位置取りですね!』
『そういうこと。水上君もイコさんも、やる時はちゃんとやるんだよねー』
『やる時は、ですか?』
『普段を見てると忘れそうになるけど』
『失礼ですよ!?』
その時。
画面の中で、香取が生駒の射程へ踏み込んだ。
『おおっと! 香取隊長が前へ出た!』
『あ、来るよ』
『何がですか!?』
『生駒旋空』
直後。
生駒の弧月が振り抜かれた。
『生駒旋空!!』
鋭い斬撃が建物の角を薙ぎ払う。
香取は咄嗟に身をかわした。
『避けたーっ! 香取隊長、間一髪で回避です!』
『うん。いい反応だね』
『今のも読んでいたんですか!?』
『イコさんがあの位置に入った時点で、撃つ可能性は高いと思ってたよ』
『なるほど!』
『ただ、香取ちゃんも警戒してたみたいだね。踏み込む直前に少し速度を変えてる』
『……あっ! 確かに!』
武富が画面を確認する。
『生駒隊長の間合いに入る直前、少し減速しています!』
『そうそう。多分、どのタイミングで攻撃が来るか探ってたんだと思う』
『つまり香取隊長も、生駒隊長の攻撃を予測していたわけですね!』
『うん。あの子、戦闘勘は本当にいいからね』
『なるほど!』
『今の攻防は両方とも上手かったと思うよ』
現在。
「……凄い」
修が小さく呟いた。
「何が?」
奏真が尋ねる。
「生駒旋空が来ることだけじゃなくて、香取隊長がどう対処するかまで見てるんですね」
「うん。あれは香取ちゃんも上手かったねー」
「でも、それって奏真さんが香取隊長の判断を理解してるから分かることですよね?」
「まあ、そうだね」
奏真は何でもないように頷いた。
「イコさんの攻撃が来るって分かってるなら、香取ちゃんはどうやって避けるか。そこまで考えると、次の動きも予測しやすくなるからね」
「……なるほど」
修はもう一度画面を見た。
ただ試合を眺めるだけでは分からなかったことが、奏真の解説を聞くことで少しずつ理解できるようになっている。
相手の動きを予測するには、相手が何を考えているかを想像する。
当たり前のようにも思えるが、それを実際の戦闘中に行うのは簡単ではない。
まして、複数の隊員の考えを同時に予測するとなればなおさらだった。
〇
試合は終盤に差しかかっていた。
王子隊と香取隊が再び接触する。
『おおっと! 王子隊、香取隊と交戦!』
『あー。これは王子君、ちょっと嫌かもね』
『と言いますと?』
『香取ちゃんが予想より早く距離を詰めてきてるから』
『なるほど!』
『王子君は距離を取って戦いたい。でも香取ちゃんは、その距離を一気に詰めようとしてる』
『お互いに相手の得意な状況を避けようとしているんですね!』
『そうそう。ただ、香取ちゃんは相手が嫌がる場所に飛び込むのが上手いからね』
画面上で、王子が後退した。
香取はすぐに追撃へ移る。
『おおっと! 香取隊長が追撃!』
『うん。ただ、ここからはちょっと難しいね』
『難しい?』
『王子君はまだ何か狙ってると思う。でも、香取ちゃんもさっき一度誘導されかけてるから、同じ手には乗らないかもしれない』
『なるほど!』
『だから、次は王子君がどうやって香取ちゃんの判断をずらすかが重要かな』
その直後。
香取が進行方向を変えた。
『香取隊長、進路変更!』
『おー。今度は早かったね』
『王子隊の狙いに気づいたのでしょうか!?』
『その可能性は高いかな。少なくとも、王子君が行ってほしそうな場所には行かなかったね』
『確かに!』
『こうなると王子君は別の方法を考える必要があるし、香取ちゃんはその隙に自分から仕掛けたいはず』
『互いに相手の考えを読もうとしているわけですね!』
『そういうこと。だからこういう試合は面白いんだよねー』
〇
しばらくして試合の記録が終わった。
宇佐美が再生を停止する。
「どうだった?」
奏真が皆を見回した。
「凄く参考になりました」
修が即答した。
「特に、相手の考え方を予測して動きを説明するところが」
「おー。良かった良かった」
「それに物真似が本当に似てました」
「そっちも褒めてくれる?」
「はい。普通に凄いと思います」
「私も面白かったわ!」
小南が笑う。
「特に生駒達のところ! もう一回見たいくらい!」
「お、小南ちゃんも気に入った?」
「うん! 今度は私の物真似もやってみてよ!」
「……え、本人の前で?」
「何よ。できないの?」
「いや、できるけどさー」
奏真は小南を見た。
「……本当にいいの?」
「いいわよ! やってみなさいよ!」
「じゃあ……」
奏真は少しだけ考えた。
そして、声を変える。
「もう! とりまる! また私のこと騙したでしょ!」
「……っ!」
宇佐美が吹き出した。
「ちょっと! 何よそれ!」
「え、似てなかった?」
「似てるけど! 何でその台詞なのよ!」
「いやー。一番よく聞く気がして」
「そんなに言ってないわよ!」
「そうですね。小南先輩はそんなに騙されませんから」
烏丸が真顔で言った。
「そうよ! 分かってるじゃない!」
「……」
「……」
修と宇佐美が揃って烏丸を見た。
迅は既に笑っていた。
「……ほらね?」
奏真が小さく呟く。
「何がよ!?」
小南の声が作戦室に響いた。
「まあまあ。奏真さん、今のはかなり似てましたよ」
木崎が苦笑する。
「お、レイジングのお墨付き!」
「……その呼び方も相変わらずですね」
「気に入ってるからねー」
「……しかし、今の物真似はなかなか使えそうだな」
不意に、ヒュースが口を開いた。
「ん?」
奏真が振り返る。
「何が?」
「物真似だ。戦闘にも利用できるんじゃないか?」
「……戦闘?」
「ああ。敵と接触した時に、相手の仲間の声を真似すれば、一瞬でも混乱させられるかもしれない」
「……」
奏真が目を瞬いた。
「……あー」
少し考え込む。
「……その考えはなかったな」
「そうなのか?」
「うん。今まで説明とか、人を笑わせる時にしか使ってなかったからね」
奏真は顎に手を当てた。
「……いや、普通に良い戦術だね」
感心したようにヒュースを見る。
「まぁ、流石に風間隊とかには通用しないだろうけど、一瞬の隙を突くなら全然あり」
「……やはりそうか」
「特に近距離なら面白そうだね。いきなり仲間の声で別方向から指示が飛んできたら、反射的にそっちを確認しちゃうかもしれないし」
「その一瞬で十分だ」
「そうそう。相手の判断を一瞬遅らせるだけでも、近距離戦ならかなり大きいからね」
修も頷いた。
「確かに、仲間の声だと思ったら一瞬反応してしまいそうです」
「ただし、相手がこちらの位置を把握していたら通用しないでしょうね」
木崎が補足する。
「風間隊のように連携の練度が高い相手なら、なおさらです」
「うん。だからタイミングが大事かなー」
奏真は頷いた。
「下手に使えば警戒されるし、一度使ったら二回目は通用しにくくなると思う」
「なら、確実に仕留められる場面で使うべきだな」
ヒュースが答える。
「そういうこと。いやー、ヒュース君、いいこと考えるねー」
「別に大したことではない。使える手段があるなら利用するだけだ」
「いやいや。俺、本当に考えたことなかったからさ」
奏真は楽しそうに笑った。
「こういうのがあるから、人の意見を聞くのって面白いんだよね」
「なるほどなー」
遊真が頷いた。
「そうま先輩の声真似なら、オサムの声でもいけそうだな」
「えっ、僕ですか?」
「うん。おれなら間違えるかもしれない」
「……」
修は少し考えた。
「でも僕の声で何を言うんだ?」
「……『ワイヤーを張りました』とか?」
「それ、敵に聞かせる意味あるのか?」
「……確かに」
奏真が笑った。
「まあ、誰の声でもいいってわけじゃないよねー」
「そういうことだ」
ヒュースが頷いた。
「使う相手と状況を選ぶ必要がある」
「……何だか、物真似が急に真面目な戦術の話になりましたね」
宇佐美が笑った。
「ほんとだよねー。俺もびっくり」
奏真はそう言って笑った。
〇
「そういえば奏真さん」
小南が何かを思いついたように声を上げた。
「んー?」
「じゃあ忍田さんの真似とかできる?」
「あー、忍田さんね」
奏真は少し考えると、何かを思い出したように笑った。
「じゃあ、ちょうどいいのがあるよ」
「本当!?」
「うん。ちょっとアレンジするけどね」
そう言って、奏真はちらりと迅を見た。
そして背筋を伸ばし、表情を引き締める。
先ほどまでの気の抜けた雰囲気が消えた。
次の瞬間。
「次はこの私が相手になるぞ、玉狛支部一党!!」
「……」
「……」
一瞬、作戦室が静まり返った。
その直後。
「ぶふっ!!」
迅が盛大に吹き出した。
「あっはははははは!!」
腹を抱え、ソファに突っ伏す。
「ちょっ、奏真さん!! それ!! あっはははは!!」
「お、悠一には分かった?」
「分かるに決まってるでしょ!! 俺、その場にいましたから!!」
迅は涙を浮かべながら笑い続けた。
「いや、めちゃくちゃ似てる!! 声も言い方も!! あの時の忍田さん、そのまんまだ!!」
「でしょー?」
奏真が満足そうに笑う。
「……ちょっと待ってください」
修が困惑した顔で口を開いた。
「忍田本部長って、玉狛支部にそんなに怒ったことがあるんですか?」
「ん? ああ、違う違う」
奏真は笑いながら手を振った。
「玉狛支部じゃなくて、城戸派にガチ切れしてたんだよ」
「……城戸派?」
「そうそう。元の台詞は『次はこの私が相手になるぞ、城戸派一党!!』だね」
「……えっ!?」
修が驚く。
「それをちょっとオマージュして、玉狛支部に変えてみた」
「何で変えたんですか!?」
「いや、今ここ玉狛支部じゃん?」
「理由が軽い!!」
小南が思わずツッコんだ。
「でも、忍田さんが城戸派にそこまで怒るなんて、何があったんですか?」
修の問いに、迅が笑いを収めながら答えた。
「黒トリガーを巡って、本部と玉狛が対立した時の話だよ。あの時、忍田さんが城戸派に向かって啖呵を切ったんだ」
「……あの忍田本部長が」
「うん。あの時は本当に凄かったよ。声も迫力も」
「ですねー」
奏真も頷いた。
「あの時の忍田さん、相当怒ってたからねー」
少しだけ、懐かしそうな表情になる。
「……まあ、当時は笑い事じゃなかったんだけどさ」
「……」
「まぁ、あの時の話も笑い話にしたいじゃん?」
奏真はいつもの調子で笑った。
迅は一瞬だけ奏真を見て、それから小さく笑う。
「……ですね」
「でしょ?」
「それにしても、めちゃくちゃ似てましたよ。あの時の忍田さんの顔まで思い出しました」
「いやー、なかなか迫力あったからね」
そんな二人を見ながら、遊真が首を傾げた。
「そういえば、そうま先輩」
「んー?」
「そうま先輩って、あの時なんかしてたのか?」
「あー、あの時?」
奏真は少し考えた。
「別に何もしてないよ。良くも悪くもね」
「……そうなのか」
「うん。まあ、俺は城戸派ではあるけど、叔父さんの意見に全部従うことはないかなー」
「……え?」
修が少し驚いた顔をした。
「それって大丈夫なんですか?」
「ん? 何が?」
「いや、城戸司令の派閥に所属しているのに、司令の意見に従わないこともあるって……」
「あー、大丈夫大丈夫」
奏真は軽く手を振った。
「だって俺、城戸奏真派だからね」
「……」
「……」
修が黙った。
「……それ、派閥なんですか?」
「うん。構成員一名」
「一名!?」
「派閥っていうか、個人じゃないですか!」
宇佐美が思わずツッコんだ。
「いやー、いいじゃん。少数精鋭ってことで」
「少数にも限度があるだろ」
ヒュースが呆れたように言った。
「えー? ヒュース君、入る?」
「断る」
「即答!?」
作戦室に笑いが起こる。
だが、奏真は少しだけ真面目な顔になる。
「まあ、冗談はともかくさ」
そう言って、修達を見た。
「組織としてストッパーはいるよ。一番上の命令が全部正解なんて、あり得なくない?」
「……」
「叔父さんだって人間だし、間違えることはあるでしょ。もちろん、俺だって間違えるしね」
「……それは、そうだと思います」
修が頷いた。
「でも、命令に従わなくてもいいってことですか?」
「いやいや、そこは別の話」
奏真は首を振った。
「組織なんだから、命令系統は大事だよ。みんなが好き勝手やってたら成り立たないし」
「はい」
「でも、それと上の判断を無条件で正しいと思うことは違うでしょ?」
奏真はいつもの調子で続けた。
「間違ってると思ったら、ちゃんと意見は言う。別の方法があるなら提案する。それでも必要なら、自分の立場でできることを考える」
「……なるほど」
「でも城戸派って、ちょっとその節があるからねー」
「その節?」
「叔父さんの判断なら間違いない、って考えがちというか。まあ、叔父さん自身がそうしろって言ってるわけじゃないんだけどね」
奏真は肩をすくめた。
「だから俺がバランス取ってるんだよ」
「……」
修は少し考え込んだ。
城戸派に所属しながら、城戸司令の判断に必ずしも賛同しない。
それも、単に反抗しているわけではない。
組織として必要だからこそ、異なる意見を持つ人間がいるべきだと考えているのだ。
「……それって、結構難しい立場じゃないですか?」
「んー? そう?」
「はい。周りから反発されることもあると思いますし」
「まあ、あるよー」
奏真はあっさり答えた。
「でも、全員が同じ方向しか見てなかったら、誰も間違いに気づけないじゃん?」
「……」
「だから、俺くらいは違う方向も見ておこうかなーって」
その言葉に、迅が小さく笑った。
「……奏真さんらしいですね」
「そう?」
「ええ。昔からそういうところ、変わりませんよね」
「いやー、人間そう簡単には変わらないからねー」
奏真は笑った。
すると、遊真が再び口を開いた。
「じゃあ、そうま先輩は城戸さんと意見が違ったら、ちゃんと言うのか?」
「言うよー」
「怒られたりしないのか?」
「怒られる時もあるねー」
「……そうなのか」
「まあ、叔父さんも俺が何でも言うこと聞くとは思ってないだろうし」
奏真は何でもないように答えた。
「それにさ、意見が違うことと、相手を信用してないことは別だからね」
「……なるほどな」
遊真が頷いた。
その横で、ヒュースも静かに話を聞いていた。
「……組織の長に対して、あえて異なる意見を出す人間が必要ということか」
「そうそう。何でも賛成してくれる人ばっかりだったら、逆に怖いでしょ?」
「……確かにな」
「だから俺は城戸奏真派」
奏真が得意げに胸を張った。
「ちなみに現在、新規隊員募集中!」
「さっき構成員一名って言ってましたよね?」
修が尋ねる。
「うん。人手不足なんだよねー」
「だったら、もう少し募集の仕方を考えた方がいいんじゃないですか?」
烏丸が冷静に言った。
「えー? じゃあ入隊特典に炒飯でも付ける?」
「それは奏真さんが食べたいだけでしょう」
木崎が苦笑する。
「……バレた?」
「バレますよ」
宇佐美が呆れたように返した。
〇
「そういえば迅さん」
「ん? どうした、遊真」
遊真が迅へ顔を向けた。
「迅さんは、そうま先輩があの時動く未来って見えてたのか?」
「あー、あの時ね」
迅は少し考えた。
「うーん。奏真さんが動くのもあり得たけど、大分薄かったかな」
「ほう」
「何もしない可能性の方がずっと高かったよ」
「だろうねー」
奏真があっさり頷いた。
「俺、あの時は叔父さんの意見に反対してたから」
「……え?」
修が驚いた顔をした。
「反対してたんですか?」
「うん。ユウゴさん知ってるからさ。それにホープも、あの時はこっちの常識を知らないだけって感じだったし」
「……」
遊真が奏真を見た。
「そうま先輩、おれの父さんを知ってたんだな」
「ん? うん。昔からねー」
奏真は懐かしそうに笑った。
「だから、ユウゴさんの息子って聞いた時は結構驚いたよ」
「……そうなのか」
「うん。まあ、ホープ本人のことはちゃんと見て判断したかったしね」
奏真は続けた。
「そもそも、こっちの常識を知らないからって、いきなり危険人物扱いするのは違うでしょ?」
「……なるほど」
修が頷く。
「でも、それなら奏真さんが止めに入ってもよかったんじゃないですか?」
「んー。まあ、そういう考え方もあるよね」
奏真は肩をすくめた。
「ただ、あの時は悠一が動いてたし、忍田さんもいたからね。俺まで前に出る必要はないかなーって」
「なるほどな」
遊真が頷いた。
「そうま先輩は、迅さん達に任せたわけか」
「まあ、結果的にはそうなるね」
「でも奏真さん」
迅が口を挟んだ。
「もし俺が失敗してたら、動いた可能性もありましたよね?」
「そりゃねー」
奏真はあっさり答えた。
「流石に見てるだけじゃ済まない状況になったら、考えたと思うよ」
「……やっぱり」
迅が笑った。
「その辺が、薄かった未来の一つかな」
「へえ」
遊真は少し感心したように頷いた。
「じゃあ、そうま先輩は城戸派にいても、おれの敵になるつもりはなかったんだな」
「んー。少なくとも、あの時はね」
「……あの時は?」
「そりゃ、ホープが悪いことしたら怒るよ?」
奏真が笑った。
「まあ、今のところそんな心配はしてないけどねー」
「そうか」
遊真も小さく笑った。
「それはよかった」
そんな二人を見ながら、修がぽつりと呟く。
「……でも、城戸司令の甥で城戸派なのに、司令に反対してたって、やっぱり複雑ですね」
「えー? 別にそんなことないよ?」
奏真は不思議そうに首を傾げた。
「叔父さんのことは信用してるけど、全部正しいと思ってるわけじゃないし」
「……」
「意見が違うからって敵になるわけでもないでしょ?」
そう言って、いつもの調子で笑った。
「だから俺は城戸奏真派なんだよ」
「……またそこに戻るんですね」
「大事なところだからねー」
すると迅が、何かを思いついたように笑った。
「でも奏真さん。城戸奏真派って、結局どっちの味方なんですか?」
「ん?」
奏真は少し考えた。
「……俺が正しいと思った方?」
「……」
修は思わず苦笑した。
「それ、城戸司令からしたら相当厄介ですよね?」
「……」
奏真が黙った。
そして、少し考える。
「……まあ、叔父さんもそう思ってそうだねー」
迅が楽しそうに笑った。
「でしょうね。奏真さん、昔からそういうところありますし」
「いやー、だってさ。自分の意見に全部賛成してくれる人間ばっかりでも困るでしょ?」
「それはそうですけど」
修が頷く。
その横で、ヒュースが静かに口を開いた。
「……一つ気になることがある」
「ん? 何?」
「お前は組織にはストッパーが必要だと言ったな」
「うん」
「では、城戸奏真派には誰がストッパーとして存在しているんだ?」
「……」
「……」
奏真が固まった。
「……あー」
少し考える。
「……現在募集中?」
「組織として欠陥があるな」
「厳しい!!」
奏真が抗議する。
「いや、でもヒュースの言う通りじゃないですか?」
修が苦笑した。
「構成員一名で、その一人が勝手に判断するなら、誰も止められませんよね」
「……オッサムまで!?」
「……オサムの言う通りだな」
遊真も頷いた。
「そうま先輩の派閥、一人しかいないからな」
「何でみんなして俺の派閥に厳しいの!?」
「まあまあ、奏真さん」
迅が笑いながら口を開いた。
「困った時は忍田さんに止めてもらえばいいじゃないですか」
「……忍田さん?」
「ええ。さっきの物真似みたいに」
「……」
奏真が少し考えた。
そして。
すっと背筋を伸ばす。
先ほどと同じ、忍田真史そのものの声。
「次はこの私が相手になるぞ、城戸奏真派一党!!」
「……」
「……」
一瞬の沈黙。
「ぶっ!!」
迅が再び盛大に吹き出した。
「あっははははは!!」
「ちょっと奏真さん! それ、自分に言ってるじゃないですか!!」
宇佐美も笑い始める。
「いやー、構成員一名だからねー」
奏真は何でもないように答えた。
「……つまり」
ヒュースが静かに言った。
「組織の代表と、それを止める相手を、同じ人間が演じているわけか」
「……」
「……」
「……あれ?」
奏真が首を傾げた。
「……これ、俺一人で全部できるんじゃない?」
「最初から一人じゃないですか!!」
修のツッコミが響いた。
その横で、遊真がぽつりと呟く。
「……そうま先輩、一人で派閥争いしてるな」
「……っ!」
迅がソファに突っ伏した。
「あっはははは!! もうやめて!! お腹痛い!!」
「ちょっと! 何で俺が一番おかしな人みたいになってるの!?」
奏真の抗議をよそに、玉狛支部は笑いに包まれた。
そんな中、陽太郎だけが真剣な顔で考えていた。
「……そうま」
「ん?」
「おまえのはばつには、らいじんまるをいれてやってもよいぞ」
「お、マジで?」
「うむ! とくべつだ!」
「やったー! ついに構成員二名!」
「……」
ヒュースが雷神丸を見た。
雷神丸は相変わらず眠っている。
「……そいつに意思確認はしたのか?」
「……」
「……」
奏真と陽太郎が雷神丸を見る。
雷神丸は動かない。
「……」
「……」
奏真が小さく呟いた。
「……やっぱり城戸奏真派、まだ一名かなー」
再び、作戦室が笑いに包まれた。
その横で、修は改めて今日の解説を思い返していた。
相手の思考を読み、戦術を予測し、複雑な状況を分かりやすく説明する。
そして、自分とは違う考え方を否定せず、新しい発想として取り入れる。
ふざけた言動が目立つ人物だが、その根底にある考え方は一貫しているのかもしれない。
修はそう思った。
もっとも。
「……ヒュース君、城戸奏真派に入らない?」
「断る」
「即答!?」
その一貫性が、普段の行動にまで表れているかどうかは、また別の話らしかった。