No.1オペレーター城戸奏真の華麗なる緊急脱出<ベイルアウト> 作:羊毛ローブ
「なぁオサム、なんでアズマさんのところに行くん必要があるんだ?」
白髪の小学生位の身長の男の子は三雲修に質問を投げかけた。
「それはボクがそうすべきだと思ったからだよ空閑」
「答えになってないぞオサム」
空閑と呼ばれた白髪の少年は口を尖らせて納得いっていない表情である。
空閑にとってはオサムが会ってみたい人がいるからという理由でボーダー本部に行くということは聞いていた。
聞いてはいたが彼が会いたいのは東ではない筈なのだ。
「オサム、お前が会いたいって言ってたのはキドって人じゃなかったのか?キド司令じゃない方の、なんでアズマさんに会う事になってるかおれには分からない」
彼にとっては当然の疑問である。
「城戸隊長のオペレーターとしての腕が凄いって話を空閑にもしたろ?実際にそれがどれぐらい凄かったのかを知りたくなったってのはこの前言ったろ?」
「だからキドセンパイに会うんじゃないのか?」
「それはそうなんだが、木崎先輩に聞いたら基本的に城戸先輩は神出鬼没で中々会えないらしくて、だったら東さんのところで話聞いたらどうだ?って言われたんだ。勿論本人がいるなら直接お話を聞こうとは思ってるよ」
「なるほど、ならチカを呼んでない理由っあるのか?」
「……もしもバッタリ城戸センパイに会ったとしてそこに千佳がいたら多分面倒な事になるから今回は誘わなかった」
彼のサイドエフェクトの対人威圧は初対面の女性に対しては驚くほどの威力を発揮するらしく、そんな事が分かっている状態で千佳を連れて行くのは愚の骨頂だといえる。
「ふむ、確かに聞いた事キドセンパイのサイドエフェクトの事を聞いたらその通りなのかも知れないな」
「話でしか聞いた事がないけど、宇佐美先輩があれ程苦手意識のある人ってよっぽどだと思うんだ」
「なら仕方ないか」
「あら?空閑君に三雲君じゃない、こんなところで珍しいわね」
その声に2人が振り返るとそこにいたのはA級部隊の隊長の1人である加古望の姿であった。
「これはこれはカコセンパイこんにちわ」
「こんにちわ」
「今日は本部に個人戦でもしに来たのかしら?」
「いや、キドセンパイって人に話を聞きたくて来ただけなのでお構いなく」
「加古先輩は城戸先輩が今どこにいらっしゃるかご存知ですか?」
「うーん、あの人は神出鬼没だからねボーダーのメタルキングっていう異名の通りエンカウントするのは難しいわ」
頬に手を当てながらヤレヤレといった様子で加古は答えてくれた。
「そうですか、実は僕達は城戸先輩の事について色々お話を聞きたくて本部に来たんです」
「そうなの?でもあの人の技術やら何やらは参考にならない事でも有名だけどそれでも良いの?」
「自分たちが強くなれる要素がどこに転がっているかなんて分からないですから」
「そう……」
加古の表情は何やら物悲しい様子であるが、そのまま加古は話を続けた。
「私もある程度ならあの人の事知っているからそれでも良いなら教えてあげる」
「いいんですか?」
「そうね、条件って訳じゃないけど、もしあの人に会えたら伝えて欲しい事があるの」
「何でしょうか?」
「いつでもチャーハン作ってあげるから暇なら遊びに来いってね」
その顔は少し寂しげでありながら昔を懐かしむような表情であった。
そんな顔をしている先輩に何を言うべきか考えていると、ふとあのサイドエフェクトの事について気になった。
「そういえば加古先輩はそんなに城戸先輩のこと苦手っぽいような感じしませんね?」
「あの人のサイドエフェクトって慣れたらそこまでじゃないし、感情の強さと威圧感は比例するらしいのよ」
「なるほど」
「最初はそりゃあ同じ空気を吸ってるって分かっただけでイライラする位だったけど、本人は申し訳なさそうにしてるし、けど圧迫感は相当ウザイし大変だったわね」
明らかに当時の事を思い出してイライラしているが、それを隠そうともしないのはどうなんだろうか?と思わなくもないが、話を聞き続ける事にする。
「徐々に慣れていってなんとかちょっとウザイ人位にはなったわ」
「ふむ、慣れる事ができるのなら数さえこなせばなんとかなりそうだな」
「そうみたいだな」
「そういう訳でもないのよ」
その会話を聞いていた加古は首を横に振った。
「確かにある程度の耐性は威圧されてる側にも付くし、苦手だと思わなければ威圧感も減るのは確かよ」
「なら慣れたら大丈夫って事にならないですか?」
「それがそうとも言えないのよ、対人威圧を当時の本部でオペ練してた子にした事があるんだけど……その子、その直後にボーダーを休職したの」
「え……」
「あの時はあの人珍しくメンタルが不安定だったらしくて相当感情の振れ幅が強かったらしいのよ」
対人威圧がどれほどの物かは受けたことがないから分からないが、その話を聞く限りは相当強いのだろう。
「まぁ当時は大騒ぎよ、あの人は確かにオペレーターから苦手意識を持たれる事は多かったのは事実だけどオペレーターを育成する熱意だけは誰よりも強かったから……」
「そんな事が……」
当時を知らない修からしたらそんな事件があったのは驚きであった。
「あの人、責任を取るって言って記憶消去封印措置をさせてもらって、ボーダーを辞めたのは隊員全員驚いたし、反対意見も多かったわ」
「そうなんですか……」
「まぁその休職してた子もアタッカーとしてボーダーに復帰したし、それが理由なのかは分からないけどあの人もボーダーに戻ってきたから今とはなっては昔話みたいなものだけど」
「ボーダーに戻ってこれたのは良かったのか?」
「それは本人にしか分からないわね」
「ごもっとも」
遊真は加古の言っていることがよく理解出来た。
結局は自分のことは自分にしか分からないし、そもそも自分のことすら自分で分からない事があるのだ。
だから他人である加古がその事を答えることはできないし、答えたとしても予想でしかないのである。
「あのー、その復帰した人って僕達も知っている人なんですか?」
「B級の吉里隊、月見花緒って子よ」
「ツキミか……」
「月見花緒隊員……何かどこかで薄ら聞いた事あるような名前があったような……」
確かに何処かで聞いた事があり何か結構重要な名前だった気もするが思い出せない。
「じゃあこれくらいで私は帰るわね」
「カコセンパイありがとう」
「色々とお話ありがとうございました。でもあと1つだけ聞いても良いですか?」
修は疑問があった。
「あら?まだ聞きたいことがあるの?」
「何でそこまで教えてくれたんですか?そんなに関わり合いがない僕達に」
何故そこまでの話をまだ会って間もない修達にしてくれたのかという当然の疑問である。
「そうね……強いて言うなら……」
加古は少し考えながら空閑と修を交互に見比べた。
「強いて言うなら……いやコレはアナタ達がA級に来れた時に話してあげる」
妖艶な笑みに修達は呆気に取られた。まさかの回答であるが、答える義務も義理も加古にはないのだから彼女にとってコレはサービスなのである。
「後は東さんとか二宮君とか三輪君とかもあの人の事だったら話してくれると思うわよ?」
「そうなのか、色々とありがとうねカコセンパイ」
「ありがとうございました」
「じゃあさっきの話楽しみにしてるから」
手を振りながら、修と遊真は加古に見送られボーダー本部の中を再度歩き始め、一言二言会話すると修は急に止まった。
「どうしたんだオサム?」
「空閑、いやちょっと何か引っかかって……」
「オサムは何が引っかかってるんだ?カコセンパイの言葉嘘はなかったぞ?」
空閑のサイドエフェクトは嘘が分かるというサイドエフェクトであり、加古の話は嘘はなかったのは彼が一番良く分かっているし、彼のサイドエフェクトを知ってるオサムもまたそれは理解している筈である。
「いやでもな、記憶封印措置を"させてもらって"なんて言い方普通はしないだろ?」
そう、修はそこが引っかかっていた。嘘こそ吐いていないが本当の事も言っていないそんな気がしていた。
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「あーそういえば記憶封印措置の事言い忘れてたわ」
2人を見送った後に加古はとある事を説明し忘れている事に気付いた。
「あれ実は罰とかじゃなくて、退職金代わりみたいな物なのよね」
そもそもボーダーが彼の記憶を隊務規定で封印したならば、それが休職した隊員が帰ってきた事が分かったからといって帰ってくる事はできない。
何故なら本来であれば、ボーダーに関することは殆ど忘れてしまう事になるからであり、休職中の隊員がいる事すら記憶に残らず自分がボーダーだった事すら忘れるからである。
しかし彼は隊務規定での記憶封印措置に当てはまらないがコレを望んだ。
だから記憶封印措置は、城戸奏真にとっての退職金代わりであったのである。
「”女の子が苦手っていう記憶”を封印措置してる筈なんだけど、なんで未だにあの人、対人威圧が発動しちゃうのかしら?」
加古のその呟きは誰にも聞かれなかった。
Tips
月見花緒はA級の三輪隊のオペレーターである月見蓮の妹である。
そして月見花緒を休職にまで追い込んだせいで月見姉が城戸を軽蔑している。
というのが周囲の認識であり、この事で原因でオペレーターが嫌いなボーダー隊員No.1の地位についた。
と思われているが、東と城戸が並行して月見姉に戦術やオペレーター技能の向上できる様に全く違うベクトルで教えており、東の戦術は理解出来て面白いし自分の成長が実感できるのに対して、城戸の理論は理解出来ないのにそのとおりにやると成果が出るが自分がカカシになった様に思える物であったが圧倒的なオペレーターの技術は憧れであった。
しかし、彼の技術が認められるどころかオペレーターでランク戦を出禁になった事も、その事でヘラヘラしている城戸も気に食わなかった。
更には、スナイパーとしてもすごい腕前を見せたのに出禁となり、それを当然のように認めている事が吐きたくなるくらい嫌だった。
その後に城戸がボーダーを辞めたことが決定打となり、自分の憧れが自分を否定したような気分になったのでアンチになった。
因みに妹の休職の件に関しては元々その翌日に休職予定であったが、生身の城戸のサイドエフェクトを直に喰らってしまった為、ソリッドビジョンが闇のゲームに変わった位のダメージを受けてしまった為に休職間でメンタルに異常をきたす可能性があると幹部に判断され大事をとって記憶封印措置で一旦その事を忘れてもらった後に休職が受理された。
つまりはタイミングが悪く月見の妹にサイドエフェクトが見られて、元々翌日から休職予定だった月見の妹が、休職間のメンタルケアの大事を取るために記憶封印措置をされた。というのが事実である。
余談ではあるが、月見姉はコレを城戸が当然知っていると思っている。
城戸はこの起きた事象だけしか知らないのと背後関係を知らないので責任を取ると言って記憶封印措置をされボーダーを一時的ではあるが辞めたのである。
この事を知っているのは城戸司令と本部の人員、月見姉妹である。実はサイドエフェクトで悩みまくっている事を知っていた城戸司令は甥っ子の為を思い、一度ボーダー以外の道も行くのもあるし休養の意味も兼ねて一時離隊扱いしたが、それを退職したと思われている。
この事から城戸司令は親族にも厳しい人間であるという事実無根のレッテルを貼られている。
因みにこの事実を知ったら月見はおそらく城戸に土下座するぐらい謝るが、一生その時は来ない。
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…………あれ?コレ勘違い系になりつつあるくない?
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