No.1オペレーター城戸奏真の華麗なる緊急脱出<ベイルアウト> 作:羊毛ローブ
「なあオサム。なんでアズマさんのところに行く必要があるんだ?」
本部の廊下を歩きながら、空閑遊真が隣の三雲修を見上げた。
「それは僕が、そうした方がいいと思ったからだよ」
「答えになってないぞ、オサム」
遊真が口を尖らせる。
今日、本部まで来た理由そのものは聞いていた。修には会ってみたい人がいる。そのためにわざわざ玉狛から本部まで来たのだ。
ただし。
「オサムが会いたいって言ってたの、キドって人じゃなかったか? キド司令じゃない方の」
「城戸先輩だよ」
「そう、それ。なんでアズマさんに会う話になってるんだ?」
遊真にとっては当然の疑問だった。
「城戸隊長がオペレーターとして凄かったって話は、空閑にもしただろ?」
「聞いた。十五秒で自分からベイルアウトして、そっから試合終わらせた人」
「言い方は間違ってないけど……」
「あと女の人に嫌われてる人」
「そこを代表情報みたいに言うな」
「でもオサム、一番詳しく説明してくれたぞ」
「宇佐美先輩から聞いた情報がそこに偏ってたんだよ……」
修は軽く咳払いして話を戻した。
「とにかく、実際どれくらい凄いオペレーターだったのか、もう少し知りたくなったんだ」
「だからキド先輩に会うんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど、レイジさんに聞いたら、城戸先輩は基本的に神出鬼没でなかなか捕まらないらしくて」
「ほう」
「だったら、昔一緒の隊だった東さんに話を聞いたらどうだって」
「なるほど」
「もちろん、本人がいたら直接話を聞きたいとは思ってるよ」
そこまで聞いて、遊真は一度納得したように頷いた。
だが、すぐに別の疑問が浮かんだらしい。
「じゃあ、チカを呼んでないのにも理由あるのか?」
「……ある」
修の返事は早かった。
「もし本部でばったり城戸先輩に会って、そこに千佳がいたら多分面倒なことになる」
「ああ」
遊真もすぐに理解した。
城戸奏真のサイドエフェクト――対人威圧。
意思疎通の成立する相手へ無意識に威圧感を与え、敵対意識や競争意識など、相手に向ける感情が強いほど効果も強くなる。
そして何より。
城戸奏真は、初対面の女性を極端に苦手としている。
「聞いた話だと、初対面の女の人にはかなり強く出るんだろ?」
「らしい。そんなの分かってる状態で千佳を連れてくるのもどうかと思って」
「ふむ。なら仕方ないな」
「宇佐美先輩があれだけ苦手意識持ってる相手っていうのも、正直ちょっと怖いし」
「でも会ってみたいんだな」
「……うん」
「オサムも変わってるな」
「空閑には言われたくない」
「あら?」
不意に、前方から声がした。
「空閑君に三雲君じゃない。こんなところで珍しいわね」
二人が振り返る。
そこに立っていたのは、A級部隊を率いる隊長の一人。
加古望だった。
「これはこれは、カコ先輩。こんにちは」
「こんにちは、加古先輩」
「今日は本部に個人戦でもしに来たのかしら?」
「いや、キド先輩って人に話を聞きに来ただけだぞ」
「あら」
加古の目が少し細くなる。
「城戸さん?」
「はい。加古先輩、今どこにいらっしゃるか知りませんか?」
「うーん」
加古は頬へ手を添え、少し考えた。
「あの人、本当に神出鬼没だから。『ボーダーのメタルキング』なんて呼ばれてるくらいだし、狙ってエンカウントするのは結構難しいわよ」
「やっぱりそうなんですね……」
「メタルキングだから逃げるのか」
「経験値はくれないらしいぞ」
「タチ悪いな」
「そこだけ聞くとね」
加古が小さく笑った。
「実は僕たち、城戸先輩について色々お話を聞きたくて本部まで来たんです。本人に会えなかったら、昔一緒の隊だった東さんに聞いてみようかと」
「そうなの?」
「はい」
「でも城戸さんの技術って、参考にならないことでも有名よ?」
「それも聞きました」
「それでも?」
「自分たちが強くなれるきっかけが、どこにあるかなんて分からないですから」
修がそう答えると、加古は少しだけ黙った。
「……そう」
その表情が、ほんの一瞬だけ寂しそうに見えた。
「私も、ある程度ならあの人のこと知ってるわよ。それでもよければ教えてあげる」
「いいんですか?」
「ええ。ただ、条件ってほどじゃないけど、一つお願いしていい?」
「何でしょう?」
「もし城戸さんに会えたら」
加古が少し笑う。
「いつでも炒飯作ってあげるから、暇なら遊びに来なさいって伝えておいて」
「分かりました」
「チャーハン?」
遊真が首を傾げる。
「城戸先輩の好物らしい」
「なるほど」
加古の表情は笑っている。
けれど、修にはそれが少しだけ昔を懐かしんでいるようにも見えた。
何と返せばいいのか迷っているうちに、修はふと別の疑問を思い出す。
「そういえば」
「何?」
「加古先輩って、城戸先輩のことをそこまで苦手そうには見えませんね」
「ああ、サイドエフェクト?」
「はい」
加古は肩を竦めた。
「あれ、慣れてくれば多少はマシになるのよ。それに、本人の感情が強いほど威圧感も強くなるらしいから」
「感情の強さと比例する?」
「大体はね」
「なるほど」
「最初はそりゃもう酷かったわよ」
加古の眉が僅かに寄った。
「同じ部屋にいるって分かっただけでイライラするくらい」
「そんなにですか?」
「本人はずっと申し訳なさそうな顔してるんだけど、それでも圧迫感は来るのよ。あれは本当に鬱陶しかったわね」
明らかに思い出して腹を立てている。
にもかかわらず「遊びに来い」と伝言を頼むのだから、修には二人の距離感がよく分からなかった。
「それで、徐々に慣れて」
加古が続ける。
「なんとか『すごく鬱陶しい人』から『ちょっと鬱陶しい人』くらいにはなったわ」
「結局ウザいのか」
「性格の分が残るから」
「城戸先輩……」
修の中でまた少し同情が増えた。
「でも、慣れることが出来るなら」
遊真が言う。
「会う回数増やせば、みんなそのうち平気になるんじゃないか?」
「俺もそう思う」
「そう単純でもないのよ」
加古は首を横へ振った。
「確かに、威圧される側にもある程度の慣れは出来る。城戸さん自身が相手を苦手だと思わなくなれば、圧も弱くなる」
「なら――」
「でもね」
そこで。
加古の声から少しだけ軽さが消えた。
「昔、対人威圧をまともに受けた子がいるの」
修と遊真が黙る。
「当時、本部でオペレーター訓練をしてた子」
「オペレーター……」
「その頃の城戸さん、珍しく精神的にかなり不安定だったらしいのよ」
加古は壁へ背を預けた。
「しかも生身同士だった」
「トリオン体じゃなく?」
「ええ」
修は宇佐美から聞いた話を思い出した。
戦闘中、明確に敵と認識した相手なら、一瞬身体が硬直することすらあるサイドエフェクト。
それを。
精神状態の不安定な奏真から、真正面で受けた。
「その子、直後にボーダーを離れたの」
「……え?」
修の声が小さくなる。
「当時はかなり大騒ぎだったわよ。城戸さんが女性オペレーターから苦手意識持たれてたのは、その頃からだったけど」
加古は一度言葉を切った。
「オペレーターを育てることに関してだけは、誰より熱心だったから」
「そんな人が……」
「本人が一番堪えたでしょうね」
加古はそう言った。
少なくとも。
彼女が知る限りでは。
「あの人、自分が原因だと思い込んでたから」
「それで?」
「責任を取るって言って、記憶封印措置を受けて、そのままボーダーを辞めた」
「記憶まで?」
「ええ」
「周りは止めなかったんですか?」
「止めたわよ」
加古は即答した。
「そりゃもう、かなり」
「でも辞めた」
「そう」
修には少し意外だった。
これまで聞いた城戸奏真は、どちらかといえば何を言われても軽く流してしまう人間だった。
オペレーターをやるのは反則だと言われれば、自分からランク戦を降りる。
アタッカーとして普通だと言われても、特に気にしない。
そんな人間が。
記憶を封印してまで離れた。
「まあ」
加古が少し表情を緩める。
「その子も後にボーダーへ戻ってきたし、城戸さんも戻ってきた。今となっては昔の話ではあるけどね」
「その人、今もボーダーにいるんですか?」
「いるわよ」
修が少し迷ったあと、訊いた。
「あの……僕たちも知ってる人ですか?」
「B級の吉里隊」
加古が答える。
「月見花緒って子よ」
「ツキミ……」
遊真が呟く。
「月見花緒隊員……?」
修は眉を寄せた。
「何か、どこかで聞いたような……」
「知り合いか?」
「いや、そうじゃなくて」
確かに聞いたことがある。
それも、何か妙に引っ掛かる形で。
重要な名前だった気がする。
だが。
「……思い出せない」
「なら、そのうち思い出すんじゃないか?」
「空閑は気楽だな……」
「思い出せないものは仕方ないぞ」
「それはそうだけど」
加古はそんな二人を見ながら、小さく笑った。
「じゃあ、私はそろそろ行くわね」
「カコ先輩、ありがとう」
「加古先輩、色々教えていただいてありがとうございました」
「どういたしまして」
「あ、でも」
修が呼び止める。
「あと一つだけ聞いてもいいですか?」
「あら。まだあるの?」
「はい」
少し迷った。
それでも訊く。
「どうして、そこまで教えてくれたんですか?」
加古が瞬きをする。
「僕たち、加古先輩とはそこまで関わりがあるわけでもないですよね。それなのに、かなり昔の話まで」
当然の疑問だった。
かなり個人的な話だ。
それを、会って間もない修と遊真にまで話した理由。
「そうね……」
加古は少し考える。
修を見る。
次に遊真を見る。
「強いて言うなら――」
一度そこで止まった。
「……やっぱりやめた」
「え?」
「その理由は、あなたたちがA級まで上がってきたら教えてあげる」
「そこまで引っ張るのか」
「目標が一個増えていいでしょ?」
加古がいたずらっぽく笑った。
「あと、城戸さんについて聞きたいなら東さん以外にも、二宮君とか三輪君ならかなり知ってると思うわよ」
「そうなのか。色々ありがとうな、カコ先輩」
「ありがとうございました」
「ええ」
加古は二人へ軽く手を振る。
「さっきの話、楽しみにしてるから」
「炒飯ですね?」
「そう」
「会えたら必ず伝えます」
「お願いね」
加古と別れ、修と遊真は再び本部の廊下を歩き始めた。
しばらく無言で進んだあと。
修が急に足を止めた。
「……ん?」
「どうした、オサム?」
「空閑」
「なんだ?」
「ちょっと引っ掛かる」
「さっきの話か?」
「うん」
遊真も立ち止まる。
「カコ先輩、嘘はついてなかったぞ」
「分かってる」
遊真のサイドエフェクトは、人の嘘を見抜く。
その能力について知っている修も、加古が嘘をついていなかったことは理解している。
「嘘だとは思ってない」
「じゃあ何だ?」
「言い方だよ」
「言い方?」
修は、先ほどの加古の言葉を思い返した。
「『記憶封印措置を受けて』ってところ」
「それが?」
「……いや」
修は少し考える。
正確には。
加古はそれを、奏真が望んで行ったものとして話していた。
規則違反の処分。
強制的な措置。
そういう言い方ではなかった。
「普通、重大なことをやって記憶封印されたなら、もっと『処分された』みたいな言い方にならないか?」
「ふむ」
「なのに加古先輩、城戸先輩が自分から責任取ろうとして、それを受けさせてもらったみたいな話し方だった」
「つまり?」
「何かまだある気がする」
「カコ先輩が言ってなかったこと?」
「うん」
遊真は少し考え。
「まあ、嘘ついてないなら、本当のこと全部言ってないだけかもしれないな」
「……やっぱりそう思う?」
「人は聞かれてないことまで全部話すわけじゃないからな」
遊真は何でもないことのように言った。
「それにカコ先輩、A級になったら話すって言ってたぞ」
「……そうだった」
「ならA級になればいい」
「簡単に言うなよ」
「オサムならそうすると思ったぞ」
「……」
修は言い返せなかった。
「とりあえずアズマさん探そう」
「ああ」
二人は再び歩き出した。
城戸奏真本人には。
まだ会えていない。
◯
「あ」
二人を見送った後。
加古は廊下の途中で足を止めた。
「記憶封印措置のこと、ちゃんと説明するの忘れてたわ」
誰もいない廊下で一人呟く。
「あれ、別に罰じゃないのよね」
城戸奏真が受けた記憶封印措置は、規律違反への処分として行われたものではない。
もし通常の退隊者へ行う処置と同じなら、ボーダーに関する記憶そのものを大きく封じることになる。
自分がボーダーに所属していたこと。
そこで誰と出会ったか。
何をしていたか。
そうしたものまで失う可能性がある。
だが奏真の場合は違った。
「退職金代わり、みたいなものだったのよね」
本人が望んだ。
だから本部側も、可能な範囲でその希望を聞いた。
記憶封印そのものを処罰として受けたわけではない。
奏真が消してほしいと言った記憶は。
「確か――」
加古は思い出す。
「『自分が女の子を苦手だっていう記憶』だったはずなんだけど」
それを封じれば。
無意識の苦手意識も消えるかもしれない。
対人威圧も、女性相手だけ極端に強く出ることはなくなるかもしれない。
少なくとも。
当時の奏真は、そう考えていた。
加古は首を傾げた。
「じゃあ何で今も、普通に発動してるのかしら?」
答える者はいない。
本人ですら。
多分、よく分かっていない。
「……本当に面倒なサイドエフェクトね」
加古の呟きは。
誰にも聞かれなかった。
Tips
月見花緒はA級の三輪隊のオペレーターである月見蓮の妹である。
そして月見花緒を休職にまで追い込んだせいで月見姉が城戸を軽蔑している。
というのが周囲の認識であり、この事で原因でオペレーターが嫌いなボーダー隊員No.1の地位についた。
と思われているが、東と城戸が並行して月見姉に戦術やオペレーター技能の向上できる様に全く違うベクトルで教えており、東の戦術は理解出来て面白いし自分の成長が実感できるのに対して、城戸の理論は理解出来ないのにそのとおりにやると成果が出るが自分がカカシになった様に思える物であったが圧倒的なオペレーターの技術は憧れであった。
しかし、彼の技術が認められるどころかオペレーターでランク戦を出禁になった事も、その事でヘラヘラしている城戸も気に食わなかった。
更には、スナイパーとしてもすごい腕前を見せたのに出禁となり、それを当然のように認めている事が吐きたくなるくらい嫌だった。
その後に城戸がボーダーを辞めたことが決定打となり、自分の憧れが自分を否定したような気分になったのでアンチになった。
因みに妹の休職の件に関しては元々その翌日に休職予定であったが、生身の城戸のサイドエフェクトを直に喰らってしまった為、ソリッドビジョンが闇のゲームに変わった位のダメージを受けてしまった為に休職間でメンタルに異常をきたす可能性があると幹部に判断され大事をとって記憶封印措置で一旦その事を忘れてもらった後に休職が受理された。
つまりはタイミングが悪く月見の妹にサイドエフェクトが見られて、元々翌日から休職予定だった月見の妹が、休職間のメンタルケアの大事を取るために記憶封印措置をされた。というのが事実である。
余談ではあるが、月見姉はコレを城戸が当然知っていると思っている。
城戸はこの起きた事象だけしか知らないのと背後関係を知らないので責任を取ると言って記憶封印措置をされボーダーを一時的ではあるが辞めたのである。
この事を知っているのは城戸司令と本部の人員、月見姉妹である。実はサイドエフェクトで悩みまくっている事を知っていた城戸司令は甥っ子の為を思い、一度ボーダー以外の道も行くのもあるし休養の意味も兼ねて一時離隊扱いしたが、それを退職したと思われている。
この事から城戸司令は親族にも厳しい人間であるという事実無根のレッテルを貼られている。
因みにこの事実を知ったら月見はおそらく城戸に土下座するぐらい謝るが、一生その時は来ない。
〇
…………あれ?コレ勘違い系になりつつあるくない?
お時間がある時にでも感想や評価を入れていただきますとモチベーションが上がりますので、感想書いてやっても良いぜ!って方や仕方ねーな評価付けてやんよって方は是非宜しくお願いします。