透き通るような世界観に宇宙的恐怖を混入させるな!!   作:那珂テクス

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「もうよい、意地の悪い運命の女神に悲しみの涙を施して、
 これ以上つけあがらせることはない。
 我々を苦しめに来るものを快く迎えてやれ。
 それに平然と堪えている風を見せて、
 逆にそいつを苦しめてやるのだ」
William Shakespeare/ウィリアム・シェイクスピア



導入『異物目線の箱舟』

 

 転生したらキヴォトスだった件。

 

 いや、これだと私自身がキヴォトスになったみたいだから違うな。正確には「転生したらブルアカ世界の住民だった件」だろうか。

 

 うん。「は???」だよね、何度整理しても。でも事実なんだから仕方ない。

 

 街中にサンクトゥムタワーとかいうクソデカバベルの塔がそびえ立っていて、当たり前のように銃器を背負ったJKで溢れていて、おまけにみんなヘイローを浮かべていて。

 転生して見聞きしたあらゆる情報が、この世界を学園都市キヴォトスだと証明している。では、ここは創作物を具現化した世界なのか? それとも元々あった世界が創作物として描かれていたのか? なんて疑問も浮かびはしたが、私はそのうち考えるのを止めた。そんな哲学的な思考に沈むよりも、今を精一杯生きる方がいいと割り切ったのだ。理解を諦めたとも言う。

 さすが学園都市というだけあって、ここではいつどこにいても生徒を見かける。私が今いるこの喫茶店だって、様々な学園の制服を着たJKだらけだ。

 なんなら私自身がその内の1人だしねHAHAHA!

 

 ──()()()()は「無暗(むやみ)マイノ」という名のキヴォトス人だが、前世は普通の人間だった。

 

 普通……うん、普通だよね。少なくとも生物学的には。至ってノーマルなホモ・サピエンス。ついでに日本人だったはず。ブルーアーカイブというソシャゲにはまってた一般オタク。

 でもなぁ……それ以外何も思い出せないんだよなぁ……。

 以前の自分の職業はおろか、本名、年齢、容姿、性別──そして死因に至るまで、重要なことは何一つ思い出せない。そのくせブルアカを遊んでいたことと、ユウカの太ももに挟まれたかったことだけは鮮明に覚えている。ろくでもないな、我が前世。

 ついでに言うと、そのブルアカの記憶だって鮮明ではあるが完全ではない。

 

「『あまねく奇跡の始発点』までしか知らないんだよなぁ……」

 

 テーブルに突っ伏しつつ頭を抱える。隣席の生徒が思いきり怪訝そうな顔で見てきたが、知らん。無視だ無視。恨むなら毎秒アイデンティティーがクライシスしてるような輩の隣に陣取った自分自身を恨むんだな。

 ──先述の通り、私が知っているストーリーは『あまねく奇跡の始発点』まで。

 つまり今後、転生者特有の原作知識によって無双するようなことがあったとしても、必ずそこで打ち止めになってしまうのだ。

 故に生きてプレナパテス戦までを乗り越えられたとしても、その後は行き当たりばったりで対処していくしかない。不穏すぎる防衛室長サマの謀略とかね! マジでどうしてこうなった。

 

 とまぁ、ここまで不満を垂れ流してきたわけだが、実はそれ以上にワクワクしていたりする。大好きなゲームの世界にいるわけなので当然だ。

 行きたい場所がいっぱいあるし、会いたい人もたくさんいる。アビドス、ミレニアム、トリニティ、アリウス、そこに所属する数多くのネームドキャラたち。そして──シャーレの先生。

 

 そう、先生だ。

 作中で一切語られなかった彼(彼女?)の容姿は、いったいどんなものなんだろうか。純粋に気になるし、生存戦略的にも必ず会っておきたい。ちなみに転生してすぐにシャーレオフィスの存在を確認したので、先生不在の滅亡ルートは回避できるはずだ。

 

(数日前に七人囚が脱獄してたみたいだし、そろそろ着任する頃だと思うんだけどなぁ)

 

 そんなことを考えつつ外を眺めていると、不意に地面が揺れた。

 地震ではない。悲しいかな、キヴォトスの日常(ばくはつ)だ。

 念の為に爆発地点を確認すべきか逡巡していると、ふと店内の喧騒が耳に入ってきた。

「なになに? 今回はどこが吹っ飛んだの?」

「すぐ近くみたい。不良が大量発生してて、主犯は……『災厄の狐』!?」

 ──おや?

「マジで!? やっば、早く逃げないと巻き込まれるよ!!」

「でもどんどん頭数が減っていってる。ヴァルキューレにしては早すぎない?」

「連邦生徒会が何か声明出してるよ。『暴徒鎮圧はシャーレの先生が主導』だってさ……誰?」

 先生きちゃーーーーーーーー!!!!

 

  ◇

 

(と、いうわけで現場に急行したわけだけど……私めっちゃ睨まれてねぇ?)

 現在、私は4人のJKから銃口を向けられている。なんとユウカ、ハスミ、スズミ、チナツという、まさにプロローグ初戦闘の面子だ。めちゃくちゃ感動してるし何なら固い握手をかわして太ももを撫でまわしたいくらいだが、全員が警戒心剥き出しなのでそうもいかない。

 何故だ。どうしてこんなに警戒される。

 私はただ絶体絶命のピンチに颯爽と駆けつけ、一瞬で敵を殲滅するという完璧な味方ムーヴをかましただけなのに……いやこれ初対面の奴にやられたらむしろ別勢力の敵キャラにしか見えんな! だからか!

 なんにせよこのままではマズい。今後彼女らと親密な関係を築く──少なくとも太ももを触らせてくれる程度には──為に、第一印象を変えなくては。

 というわけで、先生!

 キミにきめた!

 

「……初めまして。あなたが白ハgじゃねーわ、シャーレの先生ですね?」

 

 ああああああ間違えたああああああああ!!

 おのれアロナ、絶対に許さんぞ!!

 やべーよこれ完全に間違えたよこれ。例のアレのせいで先生のことを普段「白ハゲ」って呼んでたのが完全に裏目に出ちゃったよこれ。どうしてくれんの?

 お澄まし笑顔の裏で滝のような冷や汗を流していると、先生が4人を優しく押しのけて歩み出てきた。

 

「うん、そうだよ。助けてくれてありがとう、マイノ」

 

 ……あら。

 あら、あららら……(ワカモ並感)。

 やだ、この先生超かっこいい。

 得体の知れない詠唱と謎の機械犬を操る不気味な女を相手に、こんなにも屈託のない笑顔でお礼が言えるなんて。

 あーこれ、ひょっとしてあれか? 先生にはキヴォトスの生徒を魅了するパッシブスキルみたいなのがあって、私も転生者とはいえ生徒であることには違いないから影響されてたりする? ちょっと顔熱くなっちゃってるもん。

 やべーな先生。とんでもないスケコマシ女郎だ。

「れ、礼には及びません。散歩中にたまたま見かけただけなので」

「本当に? じゃあせっかく出会えたんだし、ちょっと一緒に歩かない?」

「……」

 マジでスケコマシやないかい!!

「な、何を言ってるんですか先生! こんな得体の知れない輩を同行させるなんて、危険すぎます!」

 必死になって止めるユウカ。残りの3人も口にこそ出さないが、うんうんと首肯している。

 そこまで言わなくたっていいじゃん……ちょっとはしゃいでただけなんだって……。

「落ち着いて、ユウカ。マイノが使ってた技は……確かにちょっと、怖かったけど。でも私たちを助けてくれたのは紛れもない事実だし、今もこうして友好的に接してくれてるよ?」

 銃を握る手に自身の手を重ねて、優しく諭す先生。唐突なスキンシップに動揺したのか、ユウカは「それは、確かにそうですけど」と口ごもりながら銃口を下ろしてくれた。他の3人も目を見合わせ、ユウカに倣う。

「……そうね。私としたことが、ちょっと直情的になり過ぎたみたい。ごめんなさい、マイノさん」

「私からも謝罪いたします。先ほどの行為は、正義の名に泥を塗る行為でした」

「危ないところを助けていただいたのに、申し訳ございません」

「私も、風紀委員として恥ずべき言動でした。ご気分を害してしまい、誠に申し訳ございません」

 口々に謝罪し、頭を下げてくる4人。その様子を見ていた私は、すっかり感心してしまった。

 正直なところ、彼女らにはなんの落ち度も存在しない。護衛対象がいる以上は不審者なんて警戒して然るべきだし、むしろ褒められるべき行為だ。恐らく先生もそれを分かっている。だからこそユウカを諭しはしても、謝罪を促すようなことはしなかった。それでも彼女らは、私のことを想って頭を下げてくれたのだ。

 良い子たちだ、本当に。

「皆さまは何も悪くありません。むしろ出しゃばった真似をしてしまった私の責任です……それで先生。一緒に歩く、とは?」

 気を取り直して話を振る。すると先生は、気絶した不良たちの向こう側を指差して言った。

「私たちの目的地は、あそこに見えるシャーレのオフィスなんだ。もし良ければ、マイノも一緒についてこない?」

 ──パンパカパーン!

 マイノが先生パーティーに合流した!




高評価、感想ありがとうございます!
やっぱりみんなクトゥルフ好きなんですねぇ(ニチャア)
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