透き通るような世界観に宇宙的恐怖を混入させるな!! 作:那珂テクス
Arthur Schopenhauer/アルトゥル・ショーペンハウアー
ブルアカはただのソシャゲではない。少なくとも私にとっては。
というのも、このゲームが前世と現在の私を繋ぐ、唯一の接点だからだ。
「私」という意識が覚醒したばかりの頃、私はひどく混乱していた。無暗マイノとして生きてきた18年間も、無暗マイノに成る以前の記憶も存在しないくせに、自身が転生者であるという確信だけはあったからだ。その根拠こそが、唯一残されていた『ブルーアーカイブ』に関する知識だった。
つまるところ、私は自身の素性を「かつてブルアカをプレイしていた誰か」としか定義できないのだ。
故に私にとって、ブルアカはただのソシャゲではない。
全てだ。
そのような特殊極まった背景のせいか、登場人物1人1人にかける想いも重い(激ウマギャグ)のだが、中でも特にお気に入りの子たちが存在する。その筆頭とも言えるのが──アロナだ。
シッテムの箱のメインOSにして、先生の相棒。神の名を冠したAIの干渉をくしゃみ一つではね除け、いついかなる時も先生を笑顔で迎えてくれる天使のような少女。ちょっとポンなところもあるが、そこはご愛嬌。
もしも会うことができたなら、初対面で決め台詞の1つでも言ってみよう──なんて考えていたのに。
「「えっ???」」
────記念すべき第一声がこれかよォ!!
いやだって仕方ないじゃん! 起動できるなんて微塵も思ってなかったんだから! ちょっとシッテムさんのセキュリティガバガバ過ぎやしませんかねぇ!?
え、ていうか本当にアロナ? アロナだよね?
シンプルな真円のヘイロー、純白のカチューシャ、水色の短髪にピンクのインナーカラーが入っていて、くりくりのお目目に青いセーラー服……うん。どこをどう見てもアロナだ。別世界の黒い方じゃなくて、プロローグで出会う青い方の。
全身を食い入るように見つめていると、もちもちのほっぺたにほのかな朱が差した。
「あ、あの……そんなに見られると、私……」
目線を逸らしてもじもじし始めるアロナ。あまりの可愛らしさに今すぐ抱きしめたくなるが、理性の急ブレーキをかけてグッと耐え忍ぶ。
ああっ! 照れてるアロナちゃん最高! 天使!! こんなに可愛い子にならいくら毛根を死滅させられても許しちゃう!!
頭を母性愛でやられてしまったせいか……次の瞬間、ふと思い浮かんだことが音を伴って漏れ出てしまった。
「マジで連邦生徒会長にそっくりじゃん」
「ッ」
私の独り言に、アロナが瞠目した。そしてすぐにハッとした後、不安そうにこちらの様子を窺ってくる。
やっべえミスった。この話題、先生はまだしも生徒が触れちゃいけないっぽいんだよなぁ……。
──連邦生徒会長。シャーレという超法規的組織を立ち上げ、先生をキヴォトスに招いた張本人。原作における最重要人物といっても過言ではないのに、現在の行方・経歴・本名に至るまで、そのほとんどがベールに包まれた謎の人物だ。ゲームのリリースから数年間は首から上の姿が未公開であり、数多くの先生が考察の種にしていた。
そして迎えた最終編。終盤のスチルにて、満を持して連邦生徒会長の全身像が明かされた。驚くべきことに、その顔はアロナと瓜二つだったのだ。
細かなデザインの違いはあったし、何より随分と大人びた顔立ちだった。が、それは明らかに成長したアロナそのものであり、衝撃のあまり一部の先生は清渓川に身を投げたという。
当の本人は「連邦生徒会長のことは何も知らない」と言っていたが……後日談でのプラナの発言と、今回の意味深な反応。やはり何かしらの隠し事があると考えて間違いないだろう。
両者の関係についてはずっと議論されてきたことだし、私としても興味がないと言えば嘘になる。それさえ知ることができたなら、キヴォトスの全ての謎を解き明かす鍵にすらなり得るからだ。
だが──
「怖がらせちゃってごめんね、アロナちゃん。この事は誰に言わないし、深入りもしないから安心して」
──そんな独りよがりな動機で、太陽のような笑顔を曇らせてはならない。絶対に。
たとえ私がこの世界の外縁より来たりし者で、悍ましく冒涜的な何かだったとしても。
それでも、心は先生だから。
抱き締めたアロナの背中をさすりつつ、決意を新たに……
新た、に……。
(抱き締めちゃった────!!)
なんということでしょう。気がつけば水色の頭が腕に収まっていて、私の乳を持ち上げているではありませんか。
ヤバい! ついにやってしまった!
初対面の幼女に抱きつき妄言を垂れ流し、あまつさえ背中をさするという役満不審者ムーヴ……いやもはや犯罪行為か? 通報されたら言い逃れできねぇ!
「あ、あの! とりあえず離してください」
「ハイヨロコンデ!!」
慌ててアロナを解放する。少しよろけつつ正面に立った彼女は、鮮やかな青色の瞳を向けてきた。まるで全てを見透かされているような気がして、私はなんとなく萎縮してしまう。
なんでジーッと見つめてくるんだろう。犯罪係数でも測ってるのかな……。
「えっと、ひとまずお名前をうかがってもいいですか?」
遠慮がちに質問し、どこからともなく紙とペンを取り出すアロナ。その意図に気付いた私は項垂れる。
うん、そうだよね。通報するにしても、犯人の個人情報は把握しとかないといけないよね……。
「無闇マイノです」
「では、マイノさん。貴女は先生の関係者さんですか?」
「一応そうですね。知り合ったのはついさっきだけど」
こうなったらとことん自白して──アロナちゃん? なんでグラサンかけたの?? 身も心も刑事になりきってるの???
「ふむふむ……では次に、どうやってここに入ってきたのでしょうか。あ、どうぞお掛けください」
ついに口調まで刑事じみてきた。椅子に座るよう促されたので、おとなしく従うことにする。
対面に腰掛けたアロナがゲンドウポーズになったのを確認し、私は恐る恐る口を開いた。
「先生の真似をしてみたの。シッテムの箱を持った状態で、『我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの古則を』って呟いて……」
「それだけですか?」
「それだけです……」
嘘ではない。パスワードを口に出してたかは不明だが、プレナパテスがやってたんだから先生もやってるでしょ。たぶん。ちなみに私は脳内に思い浮かべただけである。
「では、最後に。どうして私の名前を知ってるんですか? まだ名乗ってなかったのに」
…
……
………
「…………そうだっけ?」
「はい!」
「…………」
ガバった〜〜〜〜〜!!!
どうにかアロナを安心させようと必死で、完全に失念していた。確かにあの時、彼女はまだ名乗っていなかった。なんなら今も肯定こそすれ、自己紹介はしていない。
ユウカたちについてはいくらでも言い訳ができるが、今回はそうもいかない。だって先生にしか見えないんだもん、この子。下手な嘘はすぐにバレてしまうだろう。
……よし。
完全に予定外だが、言うしかない。
まずは私が無害であると信じてもらうために、知ってることを洗いざらい吐いてしまおう。
「アロナちゃん、未来予知って信じる?」
私がそう切り出すと、アロナは小首を傾げた。
感想・高評価ありがとうございます!!
私はアロナちゃんの母になりたい。