透き通るような世界観に宇宙的恐怖を混入させるな!!   作:那珂テクス

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「12時にディナーの予約をしたい」
John Wick/ジョン・ウィック


バーバ・ヤーガ

 

 先生のシャーレ着任から2日。

 連邦生徒会がサンクトゥムタワーの権限を取得し、一時的にキヴォトスの混乱は収まった。迅速に事態を鎮静化した彼女らを讃えるべきか、学園都市全域を掌握する謎の塔に戦慄すべきか。いずれにせよ、私は事の成り行きを見守ることにした。

 本当は何かしらの細工をしたかったんだけどね。サンクトゥムタワーが悪い大人(カイザーPMC)に侵略されることも、それに巻き込まれた生徒が負傷してしまうことも知っているわけだし。だからといって私が対策を──例えばカイザーPMCを殲滅したりしてしまえば、不知火カヤが彼らに裏切られるという一大イベントが消えてしまう。後に再びカイザーの手を取っていたようだが、一連の出来事は少なからず彼女の心を動かしたはずだ。カルバノグ2章以降の展開を知らない私としては、浅慮な行動のせいで捻れて歪んだ先に終着するのを避けたかった。故にサンクトゥムタワーに関する顛末は静観することにしたのだ。

 

 とまあ、そんな真面目な話はさて置き。

 

 権限移管直後にリンちゃんがシャーレを案内してくれたんだけど、その最中もエグい早さでタスクを処理しててドン引きしたよね。

 ヤバいよあれ。こっちに目を向けたまま手元だけ別の生き物みたいに動いてるんだもん。連邦生徒会長じゃないにせよ、十二分に超人だよリンちゃん。

 この子が失脚したらキヴォトスが秒で機能不全に陥る未来しか見えないんだけど、防衛室長さんはそこんとこちゃんと理解してるんですかねぇ? 最終的には先生がどうにかしてくれるんだろうけど……不安だ。

 

 リンちゃんやユウカたちと解散した後、私は先生に素朴な疑問をぶつけた。彼女の生活拠点についてだ。

 結果として「給料は連邦生徒会から振り込まれる」「シャーレでの寝泊まりを希望する」「家具は一通り揃っている」旨を確認したので、その翌日はシャーレ周囲の道案内に専念し、土地勘を覚えてもらうことにした。ショッピングモールからヴァルキューレ生活課の立ち寄り所、銃撃戦多発地帯まで一通り案内したので、流れ弾でうっかり死ぬようなことはないはずだ。きっと。

 余談だが、数分おきに「今すぐにでも働きたい」とせがむ先生を宥めるのはなかなか骨が折れた。いくらなんでも生徒への献身欲が強すぎるんよ。

 新作のロボット玩具を見せてどうにか意識を逸らすことに成功したが……後で気づいたけど、あれユウカのメモロビで先生がこっそり買ってたやつだわ。

 となると、私のせいで先生は1ヶ月も食事制限することになってしまうのか……。

 まあそれがきっかけでユウカとの絆が深まるんだし、良しとするか。

 そんなこんなでまた次の日を迎え、先生はいよいよ仕事を始めた。

 当然のように朝からシャーレに来ていた私は、ソファに寝転んで端末を弄っていたのだが──

 

「マイノって銃は使わないの?」

 

 ──脈略もなく、そんな質問をされたのだった。

「一応扱えますよ。持ってはいませんけど」

「ふ~ん、そっか。そうなんだ。ふ〜ん」

「……どうしたんですか急に」

 露骨に何か言いたげだったので問いかけてみると、先生はきらりと目を輝かせた。

「キヴォトスの生徒ってみんな銃を持ってるでしょ? でもマイノは何で持ってないんだろうって」

「ああ……」

 生返事をしつつ、自らの腰に吊り下げた発煙筒を見やる。そういえば、武器らしい武器はこいつしか持ってなかったな。疑問に思うのも当然だろう。

 ──先生が言う通り、キヴォトスの生徒はほぼ全員が銃火器を所有している。というか全くの非武装で出歩くことは皆無と言っていい。セイアとか一部の生徒は知らんけどね。銃社会アメリカすらも真っ青な携帯率なので、その治安の悪さは知っての通りだ。

 では、そんな環境下なのに何で私が銃を所持していないのかというと、単純にお金が無かったからだ。

 実はほんの少しだけ銃を振り回していた時期もある。が、それは初対面の武器商人にやたらと気に入られた挙句、お試しにと無料で提供されたものだった。おまけにいろんな組織にちょっかいを掛けまくっていたせいで、あっという間に壊れてしまったのだ。

 かといって転生して日が浅かったので貯金する暇も無かったし、鹵獲したものではしっくり来ない。もっと言うと、ついこの間入手した発煙筒──もといハウンドちゃんが強すぎた。この子1匹で大抵の修羅場を乗り切れるせいか、銃のことなんてすっかり忘れてしまっていたのだ。

 

 ちなみにこちらのハウンドちゃん、実はオーパーツだったりする。

 

 たまたま見つけた古代遺跡に忍び込んだ時、映画『エイリアン』のワンシーンばりに筒だらけの部屋に辿り着いたんだよね。そこに入るなり筒がひとりでに動き出して、最終的にイッヌの大群に変形したもんだから腰が抜けた。

 で、何故かみんな尻尾ブンブンで嬉しそうに擦り寄って来たので、とりあえず1匹だけ連れ出してきたのだ。見るからに強そうだったしね。

 

 そんな頼れる相棒なハウンドちゃんなのだが、1つ致命的な欠点がある。

 

 見た人が何故か、異常なまでにビビり散らしてしまうのだ。

 

 ちょうど2日前の出来事がいい例だ。シャーレのオフィス前で交戦した不良たちのように、ハウンドちゃんを目にした者は、何故かとてつもない恐怖に苛まれてしまう。しかもこれが敵味方関係なく作用するせいで、飼い主である私までもが必要以上に怖がられる事態に陥ってしまっている。このままだと、私はそう遠くない内に魔王か何かと勘違いされることだろう。

 ……うん。やっぱり普通の武器も買っておこう。

 ちょうどオフィス奪還の件で報酬が貰えたことだしね。

「先生、ちょっと一緒に出かけませんか?」

「いいよ。どこ行く?」

 ノータイムでペンを置いた先生に、私は爽やかな笑顔を向けた。

「タピオカ屋です」

 

  ◇

 

 シャーレからそう遠くないタピオカ屋に到着した私たちは、お揃いのドリンクに舌鼓を打っていた。ちなみに2人とも写メに熱中するような性分じゃないので、提供されるなり速攻でストローに吸い付いている。

「ふぅ。どうですか、先生」

「甘いおいしい幸せ!!」

 満面の笑顔を見せてくれる先生。ほんと、一々かわいいなこの人。

「それはよかった。この店はちゃんとタピオカも美味しいからおすすめなんです」

「んぐっ……タピオカ『も』? メニューは全部タピオカドリンクだったよね?」

「表向きはそうですね」

「?」

 首を傾げる先生を尻目に、私は店員に目配せする。店員はそれだけで意図を察したのか、すぐにこちらへやって来た。

 一連の所作が明らかに『知っている』人間のそれだったので、私は早速本題から切り出すことにした。

「ソムリエはいる?」

「彼がいない時はありません」

「さすがね。今日は連れも一緒なんだけど、大丈夫?」

「もちろんです。噂の先生には、彼も是非お会いしたいと申しておりましたので」

「そ。じゃあ遠慮なく」

 空のカップを置いて立ち上がる。向かいに座っていた先生は頭に疑問符を浮かべていたが、私が店の裏に入っていくのを見て慌ててついてきた。

「ちょ、ちょっとマイノ。いきなりどうしたの?」

「この先に武器商人がいまして。ちょうどいい機会なので銃を買っておこうかと」

「銃を!?」

 うわびっくりした。急に大声を出さないでくれ。

「今さら何を驚いてるんですか……2日前から飽きるほど見てきたでしょうに」

「確かにそうだけど……大丈夫? 違法だったりしない?」

 若干怯えた様子で私の腕にしがみついてくる先生。布越しに感じる弾力を堪能しつつ、私は至って真面目な顔をキープする。

「ちゃんと認可を得た真っ当な商売ですよ」

「にしては店員さんとの会話が裏取引っぽいような……タピオカドリンクも表向きみたいなこと言ってたし」

「商人の趣味ですよ。大昔のアクションスリラー映画が大好きなんです。本当にちゃんとしたお店なので、心配しないでください」

 そんなやり取りをしている内に、古びたドアの前に到着した。

 躊躇いなくドアノブを回して中に入ると、壁一面に陳列された銃器の数々と、ばっちりスーツを着こなした男が待ち構えていた。

「こんにちは、マイノ様。そしてお初にお目にかかります、シャーレの先生。お噂はかねがね」

「こんにちは」

「ど、どうも……初めまして……」

 恭しく一礼する男──ソムリエ。軽い調子で返す私とは対照的に、先生の声はガチガチに強張っている。

 うーん、まさか先生がここまで緊張するとは思ってなかった。ちょっと申し訳なくなってきたぞ。

 でもまぁ来ちゃったからには仕方ないし、さっさと終わらせて帰ることにしよう。

 来客用の椅子に先生を座らせた私は、すぐにソムリエと向き直った。

「テイスティングしたいんだけど」

 端的に伝えると、彼は大きく頷いて壁の方へと歩き始めた。

「あなたがトリニティ製をお好きなのは私もよく存じております。が、ミレニアム産の新しいおすすめの品がございます」

 そう言いつつ、2丁の拳銃を手渡してくる。私が1丁ずつ構えたりリロードしたりしていると、彼は詳細を解説し始めた。

「ヌロックの68と52。特殊形状のグリップ、容易に弾倉を交換できるマグウェルが特徴です。ご希望でしたら銃口もカスタマイズいたしますので」

 私が2丁を弄り終えると同時に言葉が締めくくられる。顔を上げると「他にございますか?」と問いかけられた。

「いま欲しいのは、ゴツくて正確なやつかな」

「ゴツくて、正確」

 わずかな沈黙の後、彼は自動小銃を取り出した。

「VR-15です。銃身は11.5インチ。ボルトキャリアはイオンボンド仕上げで強化されています。スコープはタロジカンの1×6です」

 先ほどと同様に銃を構え、特性を把握する。なかなか悪くない。

「じゃあ締めくくりに、何かおすすめはある? デカくて、大胆なやつとか」

「私のおすすめは、ゲネリM-40です。ボルトキャリアとチャージングハンドルはカスタムメイド。スティップリング加工されたグリップなので、濡れた手でも滑りません。ミレニアム製の傑作です」

 次にソムリエが手渡してきたのは、彼の背後に立て掛けられていたショットガンだ。先ほどまでより入念に、様々な角度で弄ってみるが……なるほど、これはいい。軽くて取り回しがいいし、無茶な体勢で発砲してもそうそう詰まることは無さそうだ。流石おすすめしてくるだけはある。

 うん、こいつにしようかな。あまり長居しても先生がかわいそうだし。

 入室後ずっと空気と化していた先生に声を掛けるべく、振り返ると……キラキラと瞳を輝かせた彼女と目が合った。ははーん、さては解説に聞き入ってたな?

 じゃあ、あと1つくらいおすすめしてもらうか。

「デザートは?」

「デザート、ですか?」

 少し挑発的に問いかけてみると、ソムリエは困ったような、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべた。

 そうして取り出されたのは────

 

「最高級のナイフです。青輝石で研ぎ上げました」

 

 ────いや実在すんのかい青輝石ィ!!

 アカン、その石にはあまり良い思い出が無い!! そんなもので研ぎ上げられたナイフなんて、それもう呪物か何かだろ!?

 私自身の──ひいては未来の先生の精神衛生を守る為、本日の買い物は急遽切り上げることにした。

「ゲネリM-40にするね」

「お持ち帰りになりますか?」

「うん、そうだね。ありがとう」

 指定のクレジットを支払い、先生を連れてそそくさと退出する。

 あっ、コラ先生! あんなナイフ見ちゃいけません! 見るなら私のおっぱいとかにしときなさい!!

 ドアを閉める直前、「マイノ様」と呼び止められたので渋々振り返ると、ソムリエに再び一礼された。

「どうぞ楽しいパーティーを」

「……」

 ぎこちない笑顔で頷いた私は、今度こそ先生と新たな相棒を連れて店を立ち去ったのだった。




※ソムリエは一般犬人間です。

 閲覧、感想、高評価ありがとうございます。本当に励みになります。

 「カルバノグ2章前編おもろい!! 後編はよ!!」とか思ってたら14日に公開で目ん玉飛び出た。
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