アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは。20000字超えそうだぜ!→やっぱ分けるぜ!を永遠に繰り返しているような気がしますね。ブーストは無しです。



東京都立呪術高等専門学校編。下

 

 

 

 

「……計画は、多少の()()()があったものの、無事完遂したようです」

「えぇ。こちらでも浮舟出の死を確認しました」

「大成功ですな」

「しかしまさか、わざわざ海外から雇った狙撃手が夏油傑に殺されてしまうとは。流石に予想外でした」

「最早仕方の無いことだろう」

「あの夏油傑が浮舟出(ただの同期)の為に人を殺すとは。予想だにしませんでした」

「正当防衛とはいえ、あれには驚かされましたな」

「しかしあの代は、我々が時折気味悪く感じるくらい仲が良かった。そう考えれば、そこまで驚くことではない」

「ふっ、涙ぐましい友情ですな」

「浮舟出の死体が無いのはどういうことだ?」

「家入硝子の証言では、呪霊に喰われたとのこと」

「何か隠しているのではないか」

「現場検証で狙撃手の銃が見つかっている。弾倉から見て二発撃ったようですね」

「狙撃手は浮舟出の左腕と心臓を撃った。家入硝子と夏油傑がそう証言している。我々にはそれ以上のことなんて知りようがないだろう」

「……狙撃で致命傷を負い、呪霊に喰われる最期。なんとも浮舟出にピッタリの無惨な結末ですな」

「違いない」

「あの山に棲まう一級呪霊、産土神(うぶすなかみ)の行方が知れないのはいかが致しましょう」

「こちらでいくら探しても見つかりませんでしたからな」

「捨ておけ。あの土地神も、浮舟出を殺す為の駒に過ぎん。生きていようと祓われていようと我々には関係無かろう」

「夏油傑の処分はどう致しましょう。もう数日も経っていて未だに結論が出ていないのは、流石にいかがなものかと」

「案ずるな、しかと考えておる。あとは、現在夏油傑を送迎している〝奴〟からの報告がくればこの件は無事終了だ」

()()()()()もこうして手元に戻ったことですし」

「……これが準一級呪具。あの忌まわしい──」

「うかつに触れるでない。この呪具が浮舟出に反応を見せた以上、最早この呪具は我々の知っているソレではない」

「この呪具が何故突然意思を持ったのか、また一から調べ直さなければなりませんな」

 

 

「いやいや、その必要はないんじゃないでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 高専内。

 この部屋の中にいる者以外には完全に秘匿されたとある部屋。誰にも知られず、誰にも侵入(はい)られることがない部屋。数本の蝋燭の火だけが灯る陰気で薄暗い部屋。

 この部屋で、呪術界(この世界)で上層部と呼ばれる面々がいつものように議論を白熱させていた。

 彼等は円を描くように、中心を囲むように座り、仕切りの襖越しに互いの顔も見えないまま侃侃諤諤(かんかんがくがく)と話し合っている。彼等が囲んだ中心点──薄暗い部屋の中央には、深緑色の金属で出来た左腕が木箱の中に納められた状態で置かれていた。

 彼等の悲願であった、浮舟出の殺害。それが無事成功したとの報せを受けたのが数日前。

 高専の敷地内で浮舟出の葬式を執り行うという、上層部からしてみれば(はらわた)が煮え繰り返るような行事。しかしそれを却下せずに渋々許可したのも、全て浮舟出を殺害出来たという安堵感からのものであった。

 夏油傑を浮舟出の葬式へ参列させることを許したのも、上層部面々は口には出さないが、あの学年の中で一番こちらに対して従順(協力的)である夏油傑を心のどこかで信用し、夏油傑ならば面倒事は起こさないだろうという気持ちもあった。

 間。

 浮舟出の殺害計画。

 ダミーの任務で体力を消耗させ、一級呪霊との連戦、長期戦。しかも足手纏いの後輩と共に。

 その場で喰われてくれれば最善だが、万が一生還した場合のことを考え狙撃手を雇うという用意周到ぶり。想定外の出来事もいくつかあったものの、大枠は想定通り。

 誰の助けも入らず、人目につきようが無い山奥での計画。

 しかし、にも関わらず。浮舟出の同期三人はどこからか浮舟出の身の危険を察知し、応援に向かって見せた。その報告を受けた時には思わず肝を冷やし、夏油傑が上層部で雇った狙撃手を殺害したという報告を受けた時には文字通り頭を抱えたものの。

 無事達成。

 殺害成功。

 浮舟出と仲の良かったあの三人の怒りも浮舟出の心臓を撃ち抜いた狙撃手に向くので、今回の件に上層部が関わっていることなんて知る由もないし、知れる筈もない。上層部の人間達は何も憂うことはなく、ただただ浮舟出の死を喜んでいた。

 そんな最中、部屋の扉を開けた一人の人物。

 その人物の右手は、上層部が今報告を待っていた〝奴〟と呼ばれている人物の首根っこをしっかりと掴んでいて。

 その人物の左手は、特徴的な前髪を一度かき上げた。

 

「いやいや、その必要はないんじゃないでしょうか」

「夏油、傑……!? 貴様何故ここに!」

 

 この場に集まった上層部の中の一人が目を見開いて叫ぶ。襖越しなので夏油には声しか届かないが、その焦り声だけでも夏油を笑わせるには充分だった。

 

「何故って、案内してもらったからに決まってるじゃないですか。ほら、コイツ」

 

 首根っこを掴んでいた〝窓〟の尻を蹴り上げ、部屋の中央付近まで転がす。

 

「ッ!? どういうことだ!」

「も、申し訳御座いません!」

 

 襖越しの叱責に、〝窓〟はその場で土下座をする。夏油は滑稽なその様子を見てクスクスと笑った。

 

「不出来な部下を叱っている場合ですかね」

「……夏油傑。許可も無くこの場に顔を出し、我々の機密を知った罪。どう(あがな)うつもりだ」

 

 先程とはまた違う人物の、襖越しの声。夏油の笑顔は崩れない。

 

「罪って、おかしな話ですね。私はただ正しいことをしているだけだと言うのに」

「正しいことだと」

「一つ、よろしいでしょうか」

 

 声を遮り、発言。その発言に対して誰も何も言ってこないのは、この場で一人笑う夏油傑の迫力に圧倒されているからに他ならなかった。

 

「あなた方上層部は、何故出を殺したんですか?」

「……何の話だ」

「惚けなくても大丈夫ですよ。もう知っているので」

「……だから──」

「良いから答えろ。少しでも長く生き(ながら)えたいならな」

「夏油傑、貴様どれだけ無礼をッ!」

「よい」

 

 襖を飛び越して唾液が飛んできそうな程の声量で怒鳴る一人を黙らせた、この場の誰かの声。その誰かの声以降ざわつきさえも聞こえなくなり、コイツがボスかと夏油は心の中でそう思った。

 

「質問に答えよう」

 

 一人の老人が前に出てきた。こんないかにも強そうなジジイがいるんだなと、夏油は内心そんな感想を抱いてから返した。

 

「賢明ですね。ではお願いします」

「ああ──」

 

 それから、語られる動機。

 浮舟出の過去。

 それも遠い過去に起因する、今回の動機。

 時間にして二分も掛からずに語り終えた殺害動機。その内容の馬鹿らしさに、夏油は思わず噴き出してしまった。腹を抱え、室内に響き渡る程の声量で大笑いしてしまった。

 

「……何が可笑しい」

 

 目の前の老人が咎める。

 

「いえ、失礼。まさかそんな下らない理由で出は殺されたのかと思ってしまいまして」

「下らないだと! 夏油傑、貴様! その発言は呪術界に対する侮辱であると知れ!」

 

 目尻に浮かんだ涙を指で拭い、ようやく落ち着いた様子の夏油は、表情を一変させた。

 楽から。

 怒へ。

 

「……出は何も悪くなかった。悪いのはやはり、上層部と出を傷付けた非術師達じゃないか」

「何が言いたい」

「独り言です。お気になさらず」

 

 剣呑。

 夏油の暴挙に、この場にいる誰もが攻撃に──もしくは制圧に行動を移さないのは、夏油が特級術師であるから。そして、夏油の体内には今まで取り込んだ数え切れないほどの呪霊達が(ひしめ)いているからだ。

 

「……上層部の方々って強いんですか? 私、前からずっと気になってたんですよね」

「当たり前だろう。我々はこの呪術界を統べ、その一切を執り行う選ばれし者達だ」

「へぇ」

 

 夏油は興味なさげにそう呟くと、手を開いた。

 

「じゃあ、御手並拝見ですね」

 

 何でもないように言った夏油の言葉に、この場にいる全員が目を見開いた。

 夏油の手のひらから流れ出る呪力。真っ黒なそれはやがて輪郭となり形となり、この部屋唯一の出入り口を塞ぐように、夏油の前に──そして上層部の前に立ちはだかった。

 

「夏油傑、貴様ァ……!」

「特級仮想怨霊と、三級呪霊一体です。ほら、あなた方お強いんでしょう? 頑張って下さいね」

 

 瞳が四つある、着物姿の呪霊。

 全長三メートル程の、頭部が大きい老人のような見た目の呪霊。

 その二体の身体から滲み出る吐き気を催す程の呪力圧に、上層部の面々に残された手段は逃走一択であった。

 

「ひぃぃぃ!」

「物陰に隠れるんだ!」

「お前の家には毎年多額の援助をしているんだ!」

「あ、あああ」

「馬鹿言え! だからってお前の盾になるわけないだろう!」

「おい触るんじゃない!」

「壁に穴を開けてでも逃げろ!」

 

 阿鼻叫喚。逃げ惑う老人達と〝窓〟。夏油はその様子を見て酷く満足した。心が満たされたような錯覚を覚えたが、すぐにこれは自分の為ではなく彼の為の行動なのだと思い直す。

 そんな夏油の前に、一人の老人が膝を付いた。

 

「夏油傑、すまない。我々が悪かった。だからその怒りを抑えてくれ」

 

 視線は向けず。しかしその声を聞き、あぁ、さっきのボスかと夏油は一人納得した。この状態で謝罪が出来る辺り、やはり他の奴等とは違うらしい。

 

「怒りを抑えても出は帰ってこない。どうせ帰ってこないのでしたら、怒りを発散させてスッキリした方が得ですよね」

 

 (こうべ)を垂れ、許しを乞う老人。自分の数倍は長生きしている人間に(かしず)かれるのは悪い気分ではなかったが、夏油は返す言葉で怒りを吐き捨て、すぐさま呪霊に顎で指示を出した。

 

「仕事をやる。お前の力を見せてみろ」

 

 

【……瀬をはやみ岩にせかるる滝川の。われても末に逢はむとぞ思ふ】

 

 

 老人のような見た目の呪霊が、術式を発動。呪霊の歌が室内に響き渡る。

 (こうべ)を垂れた姿勢から、歌と同じタイミングで動いた上層部の内の一人。夏油の説得を諦めたその一人は自らの耳に入ってくる歌を聞き流し、夏油の頭部に狙いを定めて自らの術式を発動させようとして。

 

「夏油傑ッ! ──あ」

「え」

「う」

「あれ」

「な」

「げ」

「ちょっ」

「ひっ」

「があ」

 

 その場にいる、夏油とその呪霊以外の全員の上半身が、滑り落ちた。

 襖が横一閃に斬り落とされ、蝋燭の灯りが消える。

 暗転。

 逃げ惑っていたこの場の全員の上半身と下半身が綺麗に(わか)たれ、自分の身に何が起こったのかを理解しないまま間も無く絶命した。

 暗闇の中、歌を(うた)った呪霊が死人の下半身を喰らいに回る。一人、また一人と下半身を拾い上げて口に入れ、咀嚼。夏油はその様子を、目を細めて眺めながら。

 

「あの時は三級呪霊にしか見えなかったが……強いな、お前。どうしてあの時私に降伏した?」

 

 

【……生き続くるにはかくすべかりき】

 

 

 夏油の問いに、床に落ちた全員分の下半身を食べ終えて口元を拭いながらそう答える呪霊。

 夏油は顎に手を当てて考えた。

 

「術式の使用に、言語の理解と発声。等級は準一級以上か。そんな奴が何故あの場に? 出が祓った呪霊の他に同等級の呪霊がもう一体いたのか? あぁクソ、殺す前にもう少し質問するんだったか」

 

 考えながら、こちらの指示を待つ呪霊を見る。数秒見つめて、溜め息を吐いた。

 

「……どうでも良いか」

 

 肩を落とす。また落ち着いたら調べてみるかとそう前向きに考えた夏油は、呼び出した呪霊二体を回収した。

 呪霊の術式によってズタズタに破壊されて床に転がる襖と、火の消えた蝋燭。思わず鼻を摘みたくなるほどの異臭と、辺りに飛び散った血液が、床を浸す程の血の海に滴る音。夏油は目の前の光景に眉一つ動かさず一瞥し、前進。部屋の中央へ。

 

「……出。迎えに来たよ」

 

 木箱の中。準一級呪具(想い人の左腕)を両手で拾い上げる。上層部の人間達の返り血を浴びた左腕を制服の袖で拭い、頬ずりをする。

 

「怖かっただろう、寂しかっただろう。もう大丈夫だ。私が助け出したからね」

 

 芋虫のような身体の赤子の呪霊を呼び出し、左腕を収納。それから呪霊を体内に戻して──

 

「──傑ッ!!」

 

 部屋の中に光が入る。振り返ると、そこには酷い顔をした親友(五条)が立っていた。

 

「ああ、悟か。どうしたんだい? こんなところで」

「どうしたもこうしたもねぇよ! なんだよこれ! なんで、コイツらみんな死んでんだよ……!」

 

 部屋の中の惨状を見て、五条が叫ぶ。

 返り血に塗れた自分と汚れ一つ無い親友。

 落ち着いている自分と混乱している親友。

 彼の為に行動した自分と尻込んだ親友。

 手を汚した自分と綺麗(大人)になってしまった親友。

 夏油傑と五条悟。

 最強と最強。

 親友同士。

 現在置かれた状況。自分と五条の立場の違いを客観的に、そして思いつく限り羅列してみる。

 うん。やっぱり分かり合うのは少し難しそうだ。

 夏油は心の中でどこか他人事のようにそう結論付けてから、近寄ろうとする五条を視線で牽制する。

 それから、互いの間に線を引くように──割り切った笑顔で答えた。

 

「まぁ、私が殺したからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呪術も扱えない猿共め」

「素が出てますよ、夏油様」

「うーん……()か。何だかしっくり来るね。今なら禪院家の気持ちも分かる気がするよ」

「幹部が揃いました。会議室(ミーティングルーム)へ」

 

 とある宗教施設。その内部、廊下。

 五条袈裟(ごじょうげさ)という、僧侶が身に付ける衣装を着こなし、深緑色の金属製の義手と手を繋いでいる男──夏油傑と。

 薄い桃色の髪、片手にバインダーを持った美女──菅田真奈美(すだまなみ)が、数度の遣り取りを終えた(のち)に一眼レフでツーショットを撮っていた。

 

「うん、良い写真だ。やはり家族というのは素晴らしいね」

「はい。浮舟様もきっと喜んでおられます」

「そうだね」

 

 夏油の右手が握る義手を見て目を細め、聖母のような柔らかい笑顔を見せる菅田。夏油も頷き、義手に優しく頬を当てた。それから、前を向く。

 

「……家族達も待っている。会議室(ミーティングルーム)へ急ごうか」

 

 あと、みんなで家族写真も撮りたいね。

 夏油がそう言い、互いに微笑み合う。脳内に浮かぶのは家族達の顔。そして、家族達の中心にいる夏油に(いだ)かれる一人の少年。

 故人──浮舟出の笑顔。

 慈しみ。そして優しさに包まれたこの場に、男の声が。声は廊下の向こうから段々と近づいてきていた。

 

「夏油!! 夏油を出せ!!」

 

 背丈が190cmある夏油と比べなかったとしても分かるくらいの低身長。

 毛穴の見当たらない禿頭。

 汗だくの顔に必死の形相を浮かべ、ドタドタと大きな足音を立てて男が駆け寄ってきた。男の呼吸はとても荒い。

 

「これはこれは金森さん。そんなに慌ててどうされました?」

 

 にこやかな笑顔で対応する夏油。しかしその笑顔は先程までのような深みは無く、どこまでも他所行きで平面的な笑顔だった。

 

「とぼけるな!! 早く儂の呪いを祓え!! オマエにいくら払ったと思っている!!」

 

 男──金森が唾を飛ばす勢いで怒鳴る。それを見て夏油の隣に立つ菅田が思わず顔を顰めるが、焦っている金森には夏油しか見えていなかった。

 

「いくら?」

「ざっと一億飛んで500万ですね。しかしここ半年間の寄付はありません」

「あーあ、もう限界かな」

 

 バインダーに目を通さずとも、間髪入れずに澱み無く答えて見せる菅田。夏油はその答えに満足そうに頷きながら、他所行きの笑顔のまま決断した。

 

「何を……言って……!!」

 

 立ち止まっているのにも関わらず、全く呼吸が整わない金森。走っていた時よりもその表情は酷く、見れたものではない。

 夏油は袖から呪霊玉(先程サイトウだかサトウだかいう非術師()に憑いた呪霊を祓った時のもの)を取り出し、飲み込む。それから答えた。

 

「猿にはね、それぞれ役割があります。金を集める猿と、呪いを集める猿。アナタは前者」

 

 区切る。

 

「お金が無いなら用済みです」

 

 言い終えてから、指を鳴らした。

 

「ふざける──ん゛っ!?」

 

 夏油の礼を欠いた物言いに反論する途中、金森の顔が歪んだ。否、()()()によって歪められた。

 

「ちゅうちゅう」

「ちゅう」

「ちゅうちゅう」

 

 その()()()は拳大くらいの、一頭身のマスコットのような複数体の呪霊だった。(すぼ)めた口で金森の唇を──耳を──肌を(ついば)み、吸う。

 

「ん゛〜〜〜〜〜」

 

 吸う。

 

「んん゛〜〜〜〜〜」

 

 皮膚が剥がれ、肉が丸見えになった顔から血が噴き出しても呪霊は構わず吸い続け、金森はやがて絶命した。うつ伏せに倒れた金森、その頭部を中心に廊下に血溜まりが広がっていく。

 

(けが)らわしい。本当に同じ人間ですか」

「だから言っているだろう。非術師(彼ら)は猿だ」

 

 心底軽蔑するような眼差しで金森(死体)を見下ろす菅田。夏油は早々に背を向け、軽く背伸びをしながら歩き出した。菅田も後に続く。

 廊下を歩き、突き当たり。黒い扉の部屋。夏油は扉の向こうで待つ家族達を想像して、心からの笑顔を浮かべてその扉を開けた。

 

「時が来たよ、家族達」

 

 会議室(ミーティングルーム)

 室内には、幹部(家族)と呼ばれる強者達が集まっていた。

 乳首にハートマークのニップルシールを貼っている、ソファに座る上半身裸の男。

 顔に大きな火傷(あと)がある、呪具を持った男。

 ソファに座る上半身裸の男に寄り掛かりスマホを触る、金髪のブレザータイプの制服の女子高生。

 ぬいぐるみを持ち凛と立つ、茶髪の黒セーラー服の女子高生。

 腰に縄を巻いて笑う、サングラス姿の黒人の男。

 入り口付近で待機する菅田。

 この室内の皆誰もが只者ではないオーラを立ち上らせており、この室内の皆誰もが呪詛師であった。

 夏油は家族一人一人と順番に言葉を交わす。

 

「あ、夏油様! それに浮舟お兄ちゃんも!」

「やあ菜々子。出もこんにちは、だってさ」

「……夏油様。浮舟お兄ちゃん」

「やあ美々子。出に触りたいなら、そんなに遠慮しなくても良いんだよ」

「あら、出ちゃんお風呂入った? ピカピカじゃない」

「やあラルゥ。よく分かったね」

「……」

「やあ利久(としひさ)、変わりないかい」

「……はい夏油様。浮舟様もお元気そうですね」

「はは、そうなんだよ」

「全ク、イツ見テモ泣カセテクレルナ。浮舟ハー」

「やあミゲル。良い加減出を見ただけで泣くのはやめてくれ」

「浮舟ノ境遇ヲ思ッタラ、涙モ出ルサ」

「ありがとうミゲル。出も、ミゲルの優しさを嬉しく思っているだろう」

 

()()()、愛する人が殺された。

 彼の殺害を企てた上層部を全員殺して──それから、彼を否定した非術師全員を皆殺しにすることに決めた。

 つまりはこの世界の一変。彼を否定した非術師を全員殺して回り、術師だけの世界を作る。そんな世界を迎えてようやく、彼は安心して眠れるのだと、夏油は心から信じていた。

 旅の道中で得た家族達。家族達には皆一様に非術師に対しての恨みがあり。そして仲間(家族)になる過程で、彼への愛を──彼への信仰心とも呼べる愛情を抱いた。

 夏油様について行こう。夏油様が愛した、どこまでも優しかった聖人のような彼を愛そう。

 つまりは夏油傑への忠誠と、浮舟出への忠愛。

 夏油一派と呼ばれる彼等彼女等の心は、非術師への恨みと彼への愛で、確かに一つになっていた。

 

「それにしても、全員で集まるの久しぶりじゃね?」

「そうね。何だかソワソワしちゃう」

 

 ソファに座る、金髪の女子高生──枷場菜々子(はさばななこ)と、上半身裸の男──ラルゥが話す。

 

「次は誰を殺しますか」

「……浮舟お兄ちゃんの手、温かくない」

 

 夏油の命令を待つ、顔に大きな火傷(あと)がある男──祢木利久(ねぎとしひさ)

 夏油から借りた彼の義手に自らの頭を撫でさせて思い出との感触の違いに落ち込み、溜め息を吐く茶髪の女子高生──枷場美々子(はさばみみこ)

 

「コンナニモ気高ク、美シイ生キ様ノ男ガ存在シタンダナ」

 

 以前夏油の口から語られた彼のエピソードを思い出し、サングラスの向こうで涙を流す黒人の男──ミゲル。

 

「夏油様、いかが致しましょう」

 

 夏油の後ろで控える、バインダーを持った美女──菅田真奈美。

 夏油はその言葉を受けて、深めに息を吸った。

 繋ぐ()の手を握り締めながら、高らかに言い放つ。

 

「猿の時代に幕を下ろし、呪術師の楽園を築こう。猿がいなくなった綺麗な世界の大地に、出の立派な墓を建てるんだ」

 

 家族達が真剣な眼差しで頷く。夏油は満足そうな表情と共に続けた。

 

「まずは手始めに、高専のみんなに挨拶に行こう」

 

 

 

 

 

 





これでさしす組全員の視点が書けました。書けて良かったです。
あと2話くらいで東京都立呪術高等専門学校編を終わらせるつもりです。
毎回読んで下さりありがとうございます。皆様良い週末をお過ごし下さい。
ではまた。

誰好き?

  • 浮舟出
  • 五条悟
  • 家入硝子
  • 夏油傑
  • 七海建人
  • 灰原雄
  • 伊地知潔高
  • 庵歌姫
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  • 枷場菜々子
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