アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは。ブーストは無しです。




アル中、説明する。

 

 

 

 

 2007年8月。

 愛知県▪︎▪︎市山中。

 浮舟出はメラメラと燃える自身の義手(左腕)を振り回し、両手で頭を守りながら逃げる一級呪霊──産土神を追いかけ回していた。

 

「あははははははははは! さっきまでの威勢はどォしたボケカスッ!」

 

 

【嗚呼……さても畏し……!】

 

 

 一時は戦闘を放棄し、自らの命を手放しかけた浮舟。しかし死の直前に判明した産土神の弱点である〝火〟。閃いた浮舟は持参していた酒、その最後の一本を自らの義手(左腕)に浴びせ、ジッポライターで着火するに至った。

 体内のアルコールが抜けてしまうまで──そして、今燃えている義手(左腕)のアルコールが蒸発しきってしまうまで。それまでに決着がつかなければ、浮舟は今度こそ成す術無く呪霊に殺されてしまうだろう。

 浮舟は預かり知らぬところだが、制限時間(リミット)は3分ばかりである。

 森の中。ゲラゲラと笑いながら、勇み足で呪霊の背中を追う姿は正に狂人。日光を遮る木々の間を、揺らめく紅蓮が通り抜けている。

 

「オレの腕が燃え尽きるのを待つつもりか〜〜〜〜!? 残念だけど、オレの義手ってどういう訳か傷付かねーんだわ! つまりは無敵! 理解(わか)ったらさっさと投降しろやッ!!」

 

 

【我が故郷(ふるさと)……燃えでくれ……】

 

 

 逃げる産土神は浮舟の方など振り返りもせず、一心不乱に足を動かしている。術式を使うどころか攻撃すらしないその姿は、最早ただの老人にすら見えて。人間らしく息を切らしながら、天敵と化した浮舟から逃れる為に必死に足掻いていた。

 走る呪霊。

 歩む浮舟。

 走る呪霊。

 歩む浮舟。

 (つまず)く呪霊。

 立ち止まる浮舟。

 

 

【嗚呼……民らよ、行かでくれ……】

 

 

 呪霊は朽ち果てた(やしろ)の廃材に躓き、地面を転がった。浮舟に追い付かれてしまうことなど気にもせず、瓦礫と化した、(やしろ)を型作っていた物を両手で必死に掻き集めていた。

 そんな呪霊の顔に熱が照らされる。見上げると、浮舟が燃えた義手(左腕)を構えこちらを見下ろして立っていた。

 

 

【儂はただ、君を助けまほしかりしばかりなれど】

 

 

「なァ〜に言ってんだか分かんねぇよ馬鹿! オラ死ね!」

 

 言葉と共に、構えた義手(左腕)を振りかぶる。

 

「──ッぐぅ……!?」

 

 その刹那。

 浮舟の身体を駆け巡った耐え難い激痛と、脳から身体へと送られた()()()()()()()()()()()()。浮舟は訳も分からず動かぬ体に戸惑いながらも、額に脂汗を滲ませながら必死に思考した。

 浮舟の義手(左腕)は決して傷付かねど、受ける感覚、痛覚は本物の腕と何も変わらず。

 燃え続ける義手(左腕)、その痛みを気合で耐え続けるのにも遂に限界が来ていたのだ。

 それは浮舟の精神(こころ)が折れたからではなく、身体が、脳が──何より燃えている義手(左腕)が浮舟に訴えかけているからだった。

 熱い。

 早く火を消せ。

 さもなくば死ぬぞ。

 と、戦闘中に何度も何度も忠告してきたそれらの言葉達。しかし浮舟はその全てを無視していて。

 つまりはその末路。

 当然の結末。

 此度(こたび)の飲酒で幾度とダメージを負っている頭がズキズキと痛み、幻聴が絶え間無く話しかけてきて思考の邪魔をする。

 浮舟は言うことを聞かない身体に苛立ち、叫んだ。

 

「五月蝿ぇ五月蝿ぇ五月蝿ぇ五月蝿ぇ! 今良いところなんだよ! 黙ってオレに従えクソ……、動けよ身体ァッ!!」

 

 

【……やめよ】

 

 

「やめねぇよ! この腕動かせばテメェを祓え(殺せ)るところまで来てんだろうが!」

 

 

【……げにあたらし】

 

 

 あと少しの所で動かない身体と、それに反して回る口。それから燃え続ける義手(左腕)。目の前に倒すべき相手がいると言うのに手が届かないという歯がゆさが、浮舟の平常心をざわつかせる。

 根性。それから気合。

 つまりは精神論。浮舟は折れる程の咬合力(こうごうりょく)で歯を食い縛った。

 

「馬鹿みてぇに燃えてるこの腕が当たりさえすれば、コイツは確実に死ぬんだ! それ以外に構うことなんてあるかよ! 何をビビってんだオレの身体は!」

 

 動け。

 動けよ。

 必死に命じる。しかし身体は構えた姿勢のままピクリとも動かず。指先一つ動かせず。

 段々弱まり始めた火の勢いと自身の呪力。それに応じて予見せざるを得ない自らの死(バッドエンド)が脳裏にチラつき、少し焦り始めた浮舟の耳に聴きたくなかった歌が入り込んできた。

 

 

【明けぬれば暮るるものとは知りながら。なほ恨めしき朝ぼらけかな】

 

 

 浮舟が動けないことに気付いたのか、攻撃に転じた産土神。しかしその表情は未だ険しく。

 依然として浮舟を恐れているのは変わりないようで。

 

 

 一級呪霊、産土神の術式──その内容。

 

 

 産土神の歌を聴いた者は、直後に例外無く二つの行動を迫られる。それはつまり歌を聴いて身体を動かすか否かということ。

 歌を聴いて身体を動かした者は、不可視の斬撃によって上半身と下半身を分かたれ間も無く絶命する。

 歌を聴いて身体を動かさなかった者には、不可視の斬撃は訪れない。代わりに両の足首までが地面に埋没し、抜け出すまで物理的に身動きが取れなくなる。その間に呪霊は飛びかかって攻撃してきて──というもの。

 

 歌を聴いてしまった時点で術式を食らってしまっている。つまり裏を返せば歌さえ聴かなければ、この術式は無効化出来るという回避法が存在するのだが──不幸にも浮舟には片腕しかなく。

 両耳を塞ぐことは出来ない。

 

 

 即ち、産土神の術式は浮舟に対しては必中。

 それは今この瞬間も決して例外では無く、脳からの拒否反応で身動きが取れない浮舟の両足がゆっくりと地面に沈み始めた。

 

「動け動け動け動け動け動け動け動けッ!! オレはコイツ祓っ(殺し)て、高専に帰るんだ! 同期達に謝って、灰原と七海の怪我の具合を確認して、美々子ちゃんと菜々子ちゃんのお兄ちゃんになって──そんでもってこんなクソ任務寄越してきた上層部の奴等を、見返してやんなきゃいけねぇんだよ!」

 

 怒鳴り散らすが、状況は何も変わらず。

 足が沈む。

 沈み込む。

 沈み切る。

 

 

【儂の勝ちかな】

 

 

 勝利を確信した産土神が、笑みと恐れを混在させた表情と共に浮舟の元へと突っ込んでくる。両手を前に出し、大きな頭部に相応の大口を開けて。

 浮舟が目を見開く。それと同時に、スローモーション。今までに幾度と無く体験してきた臨死。もしくは死の瀬戸際。それによって周囲の音が聞こえなくなった代わりに、舞い落ちる木の葉が──風に揺れるワイシャツの動きが──産土神の動きが──目に映る光景、その全ての速度が極限まで低下された。

 自らの意思に関係無く引き伸ばされた、死までのタイムリミット。

 今から自分を食い散らかすであろう産土神の、口内の鋭利さとグロテスクさがまじまじと確認出来る。

 深呼吸は出来ずとも、心を落ち着かせる時間が出来る。

 しかし起死回生の案は浮かばず。ゆっくりと着実に、産土神は浮舟の元へと近付いてきている。

 死。

 地面に埋まった両足を引っこ抜いている時間は無い。そもそも身体はピクリとも動かせない。

 産土神の攻撃は100%避けることが出来ない。

 

「…………」

 

 ならばどうする。

 

「…………ッ」

 

 死ぬ気で(おのれ)を叱咤して。

 死ぬ気で脳からの拒否反応を止めて。

 死ぬ気で身体を動かして。

 死ぬ気で迎え討つしか無ぇだろうが。

 

「ッ、──あああああああああああああああああああッ!!」

 

 浮舟が取った行動は、喉が潰れるほどの咆哮。

 それと同時に引き伸ばされていた時間が縮んで元に戻った。木の葉は地に落ち、ワイシャツは(はた)めき、産土神は瞬き一つの間に距離を詰めてきている。

 浮舟の咆哮が空気を震わせる。木々を震わせる。産土神の肌を震わせる。そして、浮舟自身の脳をも震わせる。咆哮の音圧に何もかもがビリビリと震えたその瞬間、浮舟の脳に異変が起こった。

 それは、本来ならば決して出さない筈の命令。浮舟の身体が死なない為に浮舟の脳が出していた、行動停止命令の解除。脳からの命令を忠実に送る為の信号経路、閉じていたシャッターが全て開け放たれ、浮舟の瞳が一瞬煌めいた。

 燃える腕。その拳を固く握り、身体の中の呪力を拳へと送り込む。

 

 しかし。

 呪力が足りない。

 このままでは、もしかしたら奴は生き延びてしまうかもしれないという直感。

 浮舟の頭はそのような結論を導き出した。

 酒瓶は既に(から)。飲酒での呪力補給は叶わず。

 何か無いか。

 何か策は無いかと思考を張り巡らせる。

 天啓。もしくは閃き。

 浮舟の頭に今朝の同期の言葉が思い起こされる。

 

『俺があげたウイスキーボンボンは持ってるか?』

 

 嗚呼、そうじゃないか。

 まだポケットにはそれがあったんだった。

 浮舟は拳を緩め、制服のズボンの左ポケットに素早く手を突っ込む。左腕に群がる炎がズボンに引火してしまうよりも早く、目当ての物を摘み取り口に放り込んだ。それでもやはり少し燃えたが、気にするものかと無視をした。

 この暑さで完全に溶けたチョコレートの甘味とアルコールの苦味が同時に舌に乗る。固体よりも液体に近いウイスキーボンボンを口の中で転がし、包装紙だけを器用に吐き捨てる。

 不足分以上の呪力が体内で廻り始めるのを感じて再び拳を強く握り締めた。

 

「……サンキュー、五条」

 

 握った拳の範囲。それから握った手のひらの中、指先、爪先へ。

 丹田(たんでん)からではなく、全身で練り上げた呪力を自身の左腕へと送り込む。左腕の中でも呪力を溜める場所を限定し、一点に練り上げていく。

 狙うは奴の顔面、そのど真ん中。開いた口の中に手を突っ込む羽目になったとしても、この拳だけは正確に突く。

 振りかぶる。

 身体が思うように動くことへの感謝。

 死の瀬戸際、身体に力を込める浮舟の心境はとても穏やかで。四六時中頭に響く幻聴すら聞こえない今の浮舟の頭の中には、余計な情報は何も入っておらず。ただ、目の前の呪霊を祓わねばならないという使命感と、決して死んでなるものかという強い意志。大きなその二つが、浮舟の身体を突き動かしていた。

 限界を超えた痛みと疲労感は快感へと転じ、浮舟の身体はどこまでも軽い。

 咆哮によって一時的に痺れた脳は、もう行動を制限してくることも無い。

 地面に沈んだ両足は動かせないので、拳を前へと突き出すその姿はまるで素人が本職の動きを真似た正拳突きのよう。

 不格好に拳を握り。

 不格好に振りかぶって。

 不格好に突く。

 不格好──そして単純極まる必殺。

 浮舟の拳が産土神に触れようとした瞬間、浮舟の拳の軌道に()が混じった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふーん、それで俺との再会に繋がるってわけね」

「そういうこと。マジで、みんな来てくれなきゃあのま死んでたってくらいギリギリだったのよ」

「土壇場で発動した黒閃でその一級呪霊を倒したということか。本当に凄いね、出」

「おう、泣きながら死んでったよアイツ」

 

 塀の側。

 同期三人に抱かれて一つの大きな塊と化した浮舟。良い匂いと良い声に囲まれておかしくなってしまいそうなその場で、10日前のことを思い出しながら三人に話していた。

 

「…………」

 

 黒閃発動を褒め称える夏油と五条とは対照的に、顎に手を当てて考え込む家入。異変に気付いた夏油が語り掛けた。

 

「硝子、どうかしたのかい」

「……似てる」

「?」

「……その呪霊と、いずるを食べた呪霊。見た目の特徴も術式も似てる」

「「……はぁ!?」」

 

 浮舟の言葉を信じるならば、一級呪霊は浮舟の手によって祓われた。

 しかし()()()、浮舟と共に逃げる家入の腹を斬って瀕死に追い込み、身動きが取れない浮舟を喰った呪霊との類似点。

 この広い世界、同じような術式を持った呪霊が二体といないとは断言出来ない。

 しかし()()()あの場で、あのタイミングで。老人のような見た目の、歌を歌う術式を持つ呪霊が二体存在し得るのだろうかという疑問。

 

「……いずる、正直に答えて」

 

 対面から浮舟を抱いていた家入が、耳元でそう囁く。その声色の恐ろしさにぞわぞわと身震いした浮舟は、自身の感情とは裏腹に高鳴る鼓動におさまれと必死に命じながら、平静を装って返した。

 

「な、なんでも言ってよ。絶対に嘘は吐かない」

「本当にその呪霊を祓ったの?」

「……うん、間違い無く祓った。それに、祓い損ねていたなら、五条が到着した時に六眼で気付いた筈だろ?」

「まぁそうだな。俺が到着した時には、いずる以外の呪力は確認出来なかった。少なくともあの場には、呪霊はいなかった」

「……となるとあの一瞬で出の目を欺き、悟の六眼で感知出来ない距離まで逃げたのか? しかしそれは、あまりにも現実離れし過ぎているな」

 

 浮舟からは一ミリたりとも離れずにそれぞれ考え始める三人。しばらくして、家入が口を開いた。

 

「……あのさ、その一級呪霊の名前って誰か分かる?」

「さぁ? 俺報告書読んでねぇし」

「私も、あの後色々あったからね。硝子も知らないのかい?」

「知らない。いずるが死んでから、()()()のことは思い出さないようにしてたから」

産土神(うぶすなかみ)

 

 重たい空気。

 しかし浮舟はそんなことには気付かず、知らないと嘘は吐かないので、正直に答えた。

 一瞬止まる時間。

 

「……ま、待て出。今なんて言った」

「え? だから、産土神だって」

 

 尋常ならざる面持ちで問いかけてくる夏油に、ヘラヘラと澱みなく答える浮舟。その答えに夏油は思わず大声を出した。

 

「あ、有り得ない! 産土神といえば、私が上層部を殺すのに使用した呪霊だぞ!」

「え、夏油上層部殺したの?」

「うるせーな傑、落ち着けよ」

「え、何でみんな驚いてないの?」

「これが落ち着いていられるか! 出、正直に答えろ! ()()()何が起こったんだ!」

「無視かぁ……」

 

 戸惑う浮舟の肩を掴んで詰問する夏油。その声量に五条が顔を顰めて抗議するが、夏油は構わず浮舟を()めつけた。

 その様子を冷静に見ていた家入が気にせず問うた。

 

「……いずる、嘘は吐いてないんだよね」

「も、勿論」

「じゃあ──嘘は吐いてないけど、私達に言ってないこと。あるでしょ」

「……はい」

「「「話せ」」」

「…………はいぃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【嗚呼……いかでかくなるなり。儂はただ君を救はまほしきばかりなれど……】

 

 

 真正面から浮舟の燃える左腕突き+黒閃を食らった産土神が、ポロポロと涙を流しながら消えていく。浮舟はその様子を黙って見ていた。

 

「…………」

 

 一級呪霊の単独祓除(ばつじょ)

 平凡な学生術師にしては偉業とも呼べるそれを成し遂げた浮舟の心の中には、しかし達成感も何もありはしなかった。

 産土神は塵となって霧散し、その場に残されたのは鎮火した左腕とボロボロの身体──体内に僅かに残った呪力でなんとか意識を保っている浮舟のみ。

 祓除を確認した浮舟は、戦闘前にワイシャツの胸ポケットに入れていた煙草を取り出して咥えた。死ぬ気はサラサラ無いが、それでも、今の状態で下山することは難しいとは理解していたからだ。

 煙草を咥えれば、硝子ちゃんを思い出す。浮舟の頭の中にあったそのロジックが煙草を取り出して咥えるに至ったのだ。

 深呼吸。

 鎮火したものの、信じられない程痛む左腕。生身ならとっくに炭化していたであろう燃え具合。義手で本当に良かったと浮舟は自嘲気味にそう結論付けたところで。

 虚空に小さな渦が現れた。

 前触れも突拍子も無く現れたその渦は空間を歪め、円形に──0の字に旋回。

 始めは親指ほどだった大きさの渦はその旋回と共に段々と勢力を増し、()()()()()()()()()()()()にまで膨れ上がる。

 

「……ハァ?」

 

 渦から出てきたのは、年齢も性別もさまざまな子供達。何が起きたのか分かっていないのは浮舟も子供達も同じなようで、目が合っても誰も何も言えず、ただ呆然と見つめ合ってしまっていた。

 先に平静を取り戻したのは浮舟。未だ混乱する頭には構わず、口を開いた。

 

「……君たち、何者?」

 

 そう問われた子供達は、涙ぐみながらそれぞれが一斉に捲し立てる。当然ながら浮舟はその全てを聞き取ることが出来ず、状況を理解するのに少しばかりの時間を取られるのだった。

 纏めよう。

 ピクニックや、登山。それから彷徨(ほうこう)。各々様々な理由でこの山を訪れた子供達。心身共に疲れ切り、もう駄目かと思ったその時に化物に食われたという。中には化物の姿は見ていない者もいた。しかし全員に共通しているのは、化物に食われ、気付けば天国なる場所にいたということ。

 天国には同じ境遇の同年代の子達が何人もいて、すぐに仲良くなった。その中には近所で顔見知りの子もいた為──そして天国では定期的に食事が提供されていた為、天国で退屈することや孤独で悲しむことは無かったという。

 

「……成る程、神隠し的なことね」

「お兄さん、大丈夫?」

 

 流れている血や、渇いた血。つまりはボロボロな状態の浮舟を見て心配そうにそう問いかけてくる一人の子供。浮舟は大丈夫だと笑って返し、少し考えた。

 

「……君達、ここから帰れる?」

「……道分からない」

「……私も」

「ここどこ?」

 

 浮舟の問いにざわつき始めた子供達。そんな中、登山者の姿の子供がよく通る声で答えた。

 

「僕、帰り道分かります」

「そっか。じゃあ君、この子達を山の麓まで連れて行ってくれるかな?」

「はい。僕は何度もこの山を登っているので、山の地形には詳しいです。ここからなら、1時間も歩けば麓に着く筈です」

「……じゃあ、頼んだよ」

「お兄さんはどうするんですか?」

「オレは、疲れたから少し休む」

「……分かりました」

「そこのリュックサック、あげるから持っていきなよ。中にペットボトルの水が数本入ってる」

 

 今日は暑いからね。

 浮舟が笑うと、登山服の子供が頭を下げた。

 

「お兄さん、ありがとうございます」

「気にしないで──ああ、最後に。どこに進んだら麓に着けるかだけ教えてくれる? 大まかな方角で良いから」

「あっちです。途中で草原が見えるので、そのまま真っ直ぐ歩けば登山道に出ます。僕は近道を知っているので違うルートで下山しますけど。お兄さんは、登山道から降りた方が迷わなくて良いと思います」

「本当にありがとう。じゃあね」

「はい、こちらこそお水ありがとうございます」

 

 

 近くに落ちていた浮舟のリュックサックを拾い手を振りながら去っていく子供達と、笑って手を振り返す浮舟。子供達の姿が木々の向こうに消えて見えなくなったあと、浮舟はようやく一安心した。

 直後に身体の力が抜け、地面に両膝を付く。今の浮舟には両足で自立する力さえも無く、ましてや神隠しの原因を考える余裕なんて無く。膝立ちのまま、数分呆ける。オレは今何してたんだっけと思考にモヤがかかる感覚。そんな時でも変わらず話しかけてくる幻聴にウンザリしながら、前と後ろどちらに倒れたら痛くないかとうっすら考えていた。

 

「いずるッ!!」

 

 自分の名を呼ぶ声が聞こえる。その方角へと視線を向ける前に、高速で飛来してきた何者かに抱き止められた。

 

「……ご、五条か」

「あんま喋んな! いずるお前、マジで死にかけてんだぞ!」

 

 それから間も無く、夏油と家入とも合流。後は皆が知る通りである。

 家入に煙草を見つかり。

 

「……その煙草」

「あっ」

 

 散らかったこの場を片付け。

 

「あれ、いずるリュックは?」

「あげたよ」

 

 会話もそこそこに下山を始め。

 

「え、硝子ちゃん何今の仕草。めっちゃ可愛いね」

「でしょ」

 

 救助を呼ぶ為に五条が〝蒼〟で先を急ぎ。

 

「じゃあ俺行ってくるわ! いずる、俺メッチャ頑張るから耐えろよ! なにがなんでも死ぬなよ!」

「クソしんどいけど、流石に死なねぇよ。あぁ、ついでにお酒買ってきてくれる? 持ってきた分全部使っちまったんだよね」

「ぜっっっってぇヤダ! じゃあな!」

 

 夏油の背に揺られている内に、ようやく戦いの終わりと自らの生還を実感し。

 

「……硝子ちゃん」

「なに」

「これ、現実だよな」

「うん。いずるは助かったんだよ」

「……そっか」

 

 そして、どこからか放たれた銃弾に撃たれ。

 

「──あ」

 

 銃弾を弾いたことで痛む左腕と、夏油の背中から降ろされた直後の第二射。浮舟は何が起こったのかも分からず身体の力が抜けていった。気合いではもうどうにもならない──というよりも、入れるべき気合いがどこにも見当たらないような感覚。

 溜め息。もしくはただ口から漏れただけの呼気。

 ジンジンと熱を持つ左胸を見れば白いワイシャツが真っ赤に染まっていて。

 ──あれ、オレもしかして死ぬのか? 

 浮舟は自身の左胸。それからワイシャツの白面積の、もう半分以上が赤く染められているのを見てようやく自覚した。

 

「い、いずる……?」

「硝子、どこからか撃たれた! 早く出を診てくれ!」

「いずる……、な、ど、どうして……! いずる! いずるぅ!」

「硝子ッ! しっかりするんだ! 出を診れるのは君だけだ! 頼む、落ち着いてくれ!」

 

 家入と夏油の声が頭の中で不快に反響し、状況が上手く掴めなくなる。兎に角死にそうなくらい胸が熱くて痛くて、焦点が定まらなくて。

 傷口を押さえる家入が反転術式を流し込むその温度に、こんな状況でも〝温かさ〟を感じて。

 

「左胸に穴が空いてる。多分、助からない……!」

「た、助からない!? どうしてだ!」

 

 やがて同期の声が耳に入らなくなる。ボヤける視界で、二人が何かを喋っているというのは分かるが、その内容はもうほとんど聞き取れなかった。

 ──なんだかとても疲れた。

 ──眠ってしまおう。

 浮舟はゆっくりと目を閉じた。

 

「そ、そんな……! 出……! しっかりしろ!」

「揺らしちゃ駄目だって!」

「出! 出ッ!」

 

 こちらに構わず強い力で揺らしてくる同期においおいと内心苦笑いし、しかしそのお陰で誰が揺らしているのか分かった。重たい目蓋(まぶた)を開け、力を振り絞って名前を呼ぶ。

 

「……げ、げとう」

「出! 気を持て、目を閉じるな!」

「……目を閉じたら、少し楽なんだ」

「駄目だ! 出!」

 

 夏油の厳しい言葉。しかしその言葉には応えられず、浮舟は再び目を閉じた。

 

「……いずる、ありがとね」

 

 声が、聞こえた。先程よりもはっきりと、誰に言われたのか目を閉じていても分かるくらいに。

 

「アンタと過ごした高校生活は楽しかった。大好きだよ、いずる」

 

 普段はそっけない同期からの素直な言葉。浮舟はすっかり言うことを聞いてくれなくなった目蓋(まぶた)辟易(へきえき)しながら笑って返した。

 

「……しょうこちゃん、オレも、大好きだぜ」

 

 ──あれ、オレもしかして告った? 参ったな、こんな死に際に言ったら背負わせちまう。

 

「い、出……」

 

 浮舟がうっすらとどう訂正しようか考えていたところで、この場にいるもう一人の同期の声。耳を傾ける。

 

「……出が、一旦どれだけの思いでここまで来たと思っている。それをこんな、あんまりだ」

「……げとう」

「愛してるよ、出」

 

 震える口で名前を呼ぶと、優しい声色でそう返ってきた。

 ──あれ、オレもしかして告られた? 参ったな、いやマジで参った。

 ──死んでも脳はしばらく働いている、というのをどこかで聞いたことがある。ならば今こうして死に際にも関わらずどうでも良いことを考えているオレの脳も、それと同じなのだろう。

 倦怠感。

 耳鳴り。

 重たい目蓋(まぶた)

 遠のく意識。

 近くにいる筈の同期がどこかに行ってしまう感覚。

 ──いや、どこかに行くのはオレの方か。

 

「……」

 

 ──誰かに抱き締められているような感覚があるような。

 ──いや気のせいだろう。

 ──オレは死ぬのか。

 ──同期と再会出来て、やっと帰れると期待させておいてあっさり死ぬのか。

 ──誰かに身体を動かされている感覚があるような。

 ──いや気のせいかもしれない。

 ──オレは死ぬ。

 ──これは避けられない。

 ──もうこの状態から生きて帰ることは決して叶わない。

 ──オレは死ぬ。

 死ぬ。

 

「…………」

 

 そんな浮舟の脳裏に、過去の映像がフラッシュバック。浮舟は訳も分からずその映像を見せられた。

 

 

 

 

『……ちゃんと帰ってきてよね』

『おっ、約束?』

『いや、縛り』

『縛り!?』

『もし帰ってこなかったら、いずるは惨たらしく死ぬ』

『そんな縛りがあるかよ!』

 

 

 

 

 ──懐かしい。二年生の頃、硝子ちゃんと遊び半分にそんな縛りを結んだな。

 ──結局あの後の任務はちょっと怪我したくらいで無事に終わって、コンビニでお菓子めっちゃ買って帰ったら五条も夏油ももう一泊するってなって、硝子ちゃんと二人でパーティーしたんだっけ。

 ──楽しかったなぁ。

 ──伏黒甚爾が高専に侵入した所為で、結局四人でパーティーはできなかったからなぁ。

 ──またやりたかったな。

 ……、

 …………、

 ………………。

 ──あれ。

 ──そういえばあの縛りってあの日だけのものなのか? 

 ──オレも硝子ちゃんもすっかり忘れていたけど、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 ──オレが今このタイミングでこの映像を思い出しているということは、もしかして()()()()()()()()()? 

 

「………………」

 

 浮舟出と家入硝子が結んだあの日の縛り。呪術を学んで2年目である、まだまだ未熟な二人が交わしてしまった他者間での縛り。

 命を賭けた縛り。

 浮舟は無事に帰ることを誓い。

 家入はそのペナルティに想い人の凄惨な末路を賭け。

 普通なら有り得ない内容の縛りは、それでも正当な縛りと成った。成ってしまった。

 しかし当時の二人は知らなかったのだ。

 縛りの重大さと、縛りの内容には隅々にまで目を配らなければならないこと。

 縛りを解く為の手順のこと。

 縛りを破った際に課せられる()()()()()のことを。

 浮舟は死ぬ。これはもう回避しようの無い純然たる事実。

 浮舟は家入に看取られて死ぬ。それはつまり、浮舟が()る場所は家入の元ではないということ。

 

『もし帰ってこなかったら、いずるは惨たらしく死ぬ』

『そんな縛りがあるかよ!』

 

 今となってはどうしようもないことだが、当時の家入には浮舟に惨たらしく死んでほしいなどという気持ちは全く無く。

 どうせ帰ってこれない(死んでしまう)のならば、これくらいの意地悪を言っても変わらないだろうというある種の諦念と、浮舟への発破。私が待っているのだから何としてでも帰ってこいという愛情の裏返し。

 されど、これは縛り。

 浮舟の死が確定した今この瞬間、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……………………」

 

 しかし。

 上記のように、縛りを破った際の結末はもう決められている。

 浮舟出は家入硝子の元に帰れないので、縛りの文言通り惨たらしく死ぬ。やっとの思いで同期と再会した末に無慈悲にも第三者に殺されるこの結末は充分惨たらしい。浮舟は縛りの通りにこのまま死ぬのだろう。

 しかし。

 浮舟出は家入硝子の元に帰るという縛りが破られている。

 そのペナルティがまだ課せられていない。

 浮舟出は縛りの通り惨たらしく死ぬ。

 浮舟が息を引き取るまであと僅か。この結末はもう変えられない。

 ならばペナルティはどうなる? 

 宙に浮いた状態の、行き場の無いペナルティはどうなる? 

 

「…………………………」

 

 ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どこかの誰かはそう結論付けた。

 やっとの思いで同期と再会した末に無慈悲にも第三者に殺されるこの結末。しかし死ぬまでにはまだ余白がある。浮舟はまだ生きている。

 浮舟出の死因は胸部への被弾によって出血多量、その末の失血死ではない。

 これよりも更に惨たらしい結末。

 浮舟を運ぶ家入の背後、空間に歪みが生じる。その歪みの中から何かが生まれる。顕現する。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という結末。

 行き場を失ったペナルティは事象に介入し、つい先程祓われた呪霊をもう一度現世に引っ張り出す。その意味はただ一つ。

 浮舟出をより惨たらしく死なせる為に。

 

 

【その子を置きゆけ、わらは】

 

 

 もう身体も何も動かせず、かろうじて動いている心臓と回り続ける脳。そんな浮舟の背中に最悪の呪力反応。嘘だ、そんなわけがないと言い切るが、背後から聞こえる声は聞き間違いようがない。

 瀕死の浮舟を運ぶ()()が驚いている。

 あの呪霊が歌を詠っている。

 瀕死の浮舟を運ぶ()()が乱暴に歩を進める。

 あの呪霊が追いかけてきている気配を感じる。

 あの呪霊が歌を詠っている。

 瀕死の浮舟を運ぶ()()は足を止めない。

 ──おい駄目だ。

 浮舟は制止の声を上げるが、その声は口から発せられることはない。浮舟の声は誰にも届かない。

 あの呪霊の術式。

 浮舟は指先一つ動かしていないが、浮舟を運んでいた()()は違う。

 ()()が何か喋っている。

 浮舟は耳を傾ける。

 ()()が何か喋っている。

 浮舟は耳を傾ける。

 ()()が浮舟の頬を撫でた。

 浮舟がその感触で、誰に運ばれていたのかを理解した。そして、誰が術式を食らったのかを理解した。

 ──駄目だ。

 ──駄目だ駄目だ。

 ──硝子ちゃんは死んじゃいけない。

 ──このペナルティはオレに課せられている筈だろう。硝子ちゃんは何も関係無い。

 浮舟は叫ぶが、当然のようにその声は喉から先へと出ていかない。

 ──誰か。

 しかしこの場には浮舟と家入、そしてペナルティによって蘇った一級呪霊産土神しか存在しない。

 ──誰か、助けてくれ。

 その時、瀕死の浮舟が心から他人を頼った。

 それに応える者は誰もいない。

 しかし応える()はあった。

 浮舟はその意味を理解し、声を発した。

 今度はキチンと口から出た。

 

「──ありがとう、硝子ちゃん」

 

 浮舟の左腕(義手)が浮舟の思いを受けて一人でに動く。その軌道は家入の胴体を切り裂いていた不可視の斬撃を弾き落とした。

 

「い、いずる……?」

 

 家入の驚愕に満ちた声。もうほぼ死んでいるような状態の彼が再び喋り、動き出したのだからその驚愕も頷ける。

 しかし左腕が動いたのは浮舟の意思にあらず。よってこれ以上の奇跡は無い。

 斬られた腹部の痛みに堪えかね、膝を折る家入。家入によって支えられていた浮舟もつられて崩れ、二人仲良く地面に転がる。地面を転がった際に二人の距離は手が届かない位置まで離れてしまい、歩かねば触れ合うことは出来ない。

 家入が、自らの腹部に走る激痛に反転術式を流して治療。地面に生える草と傷口が擦れる痛みに構わず、這いずって浮舟の元へと進む。

 倒れたままの浮舟と目が合う。自らの末路を理解している浮舟は、ただ笑って口を開いた。

 

「……硝子ちゃん、オレを助けてくれてありがとう」

「いずる……! 待ってて、今ちゃんと助けるから……!」

「大好きだ、硝子ちゃん」

「高専に帰ったらいくらでも言ってもらうから! 今は手を伸ばして! アイツから逃げないと!」

 

 悲劇的で、惨たらしい末路。必死に手を伸ばす家入の手は決して浮舟へは届かず。そして浮舟もまた、決してその手を取るつもりはなかった。

 (わか)たれた二人の距離。その間に呪霊が立つ。

 

 

【別れの言の葉や済みし】

 

 

 自らの手によって祓った筈の呪霊との再会。

 何度も限界を超え、代償を払った末、黒閃という奇跡を以ってしてようやく倒せた強敵。

 その強敵が傷一つ無く目の前に現れた現状に、浮舟はここにきてようやく心の底から後悔した。

 同期の忠告を聞かず、いつものように何とかなるだろうと楽観的な思いで教室を出た今朝の自分の行動を心の底から後悔した。

こんなことなら呪術師になんて。

 

「……ッ」

 

 飲み込む。

 ──それだけは思っちゃいけない。

 ──そんなことだけは考えちゃいけない。

 死の間際、浮舟は浮かびかけた最低な言葉をすぐさま飲み込むが、一度頭の中に浮かんでしまったその言葉は簡単には消えてはくれない。

 呪術師に悔いのない死などない。

 ──何だよ、オレも例外じゃあなかったのかよ。

 浮舟は内心唾を吐き、最低な言葉を思い出さないように目の前の呪霊を強く睨みつけた。

 ──人間、死ぬのは人生一度切りだ。

 ──せめて散り際は格好良く。

 浮舟はありったけの虚勢を込めて、口角を少しだけ上げてこう言った。

 

「……よう、また会ったな」

 

 ──決まったのか? いや、決まったかどうかを気にしてるんじゃ多分決まってないんだろうな。

 諦観。

 浮舟はカツカツと笑う呪霊を見てようやく、心の底から諦めがついた。

 ──せめて綺麗に食ってくれ。あんまり汚く食べられると硝子ちゃんのトラウマになっちまう。

 

「嫌だよいずる! ずっと一緒にいてよ!」

 

 呪霊の向こう、手を伸ばす家入が泣きながらそう訴えかけてくる。その姿を見た浮舟は思わず伸ばすつもりがなかった手を伸ばしてしまう。

 ──……死にたくない。

 弱音。しかし、それだけは寸前で(こら)えた。

 もうどうにもならない、これから死にゆく自分。浮舟は最後に彼女への感謝の言葉を残すことにした。

 

「……ごめんね、硝子ちゃん」

 

 ──……んだよ、失敗した。

 カツカツと笑っている呪霊がその大きな頭部に違わない大口を開け。

 身動きの取れない浮舟の身体に齧り付き、浮舟が家入に向かって伸ばした左腕以外を噛み切り──飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【気が付いたか、人の子よ】

 

 

 

 

 視界いっぱいに広がる白い空間と、そこに寝転がっていたであろうオレ。寝起きな筈なのに身体に纏わり付く眠気も倦怠感も何も無く。妙に冴えた頭が必死に現状を理解しようともがいていた。

 身体を見回す。高専指定のズボンと、白いワイシャツ。しかしあの戦闘によってワイシャツは血の色に──酸素に触れた赤黒い血の色に染まっている。

 しかし自分の身体に痛む箇所は無い。何故だが義手が無いので、オレは両手の肘の先が無い状態なのだが、そんなことが然程気にならなくなってしまうほどの存在が目の前に居た。正座をして、オレを見ていた。

 命の遣り取りをした相手。その末に負け、喰われた相手。しかし今となっては怒りの感情も湧いては来ず。オレはただただ一人の話し相手として、質問を投げかけた。

 

 

「……ここは、どこだ」

 

 

 

【ここか? ここは──天国だ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





浮舟出:寒空の下、何故だかぽっかぽかの同期達に抱かれて10日前のことを話している。縛り云々の辺りは家入が自責してしまうかもしれないのでうまく濁して話した。話さないことは嘘をついた判定にはあたらないと思っている。
早く室内に入りたいらしい。


家入硝子:寒空の下、念願の浮舟を思う存分抱き散らかしている為、興奮によって体温が急上昇している。アウター一枚で家を出て正解だったなと思っている。
浮舟の表情を見て、まだ何か隠してるんじゃないかと踏んでいるらしい。


夏油傑:寒空の下、痛む身体のことなど構わず浮舟の感触を楽しんでいる興奮で体温が急上昇している。浮舟という最優先事項が目の前にいるので、死ぬ気は毛頭無い。
流石にそろそろ治してほしいらしい。


五条悟:寒空の下、疲れ目に構わず六眼で浮舟を観察しまくっている。浮舟の中に混ざる〝異物〟に、コイツまさかと内心ヒヤヒヤしている。でも目の前にいてくれるだけでオールオッケー♪───O(≧∇≦)O────♪と思っている。勿論興奮で体温が急上昇している。
今この場にいるのは同期だけなので、昔の口調に戻っているらしい。




縛りのことってまだふんわりした部分があるから、それに乗じて色々やっても良いよねって思いがあります。あと縛りを破ったペナルティって何が起こるの〜?→しかも命かかってたらヤバくない〜?→じゃあなんでも起こるわなという思いもあります。

前回、次回で終わるといったような気がしますが、あんなの過去の私が言ったことなので信じちゃいけませんよ。今現在この文章を書いている私が一番正しいので。

次回、東京都立呪術高等専門学校編最終回。
ではまた。

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