こんばんは。ブースト無さすぎ君です。
12月30日。
新聞のテレビ番組欄には大型特番が連なり、日中のテレビではアニメやドラマの一挙再放送が映されている──年末。
朝食時に五条が「大晦日はなるべく早く帰れるように頑張るから、みんなで年越しそば食べような」と楽しそうな提案をしたり、出勤前の硝子ちゃんに洗面所に連れ込まれてエグいキスをされたり。
朝から盛り沢山だったイベントも終わり、五条と硝子ちゃんがいつものように玄関から出て行き、さて夕方まで暇だなとソファに飛び込んでから取り敢えずテレビの電源を点けてみたところで、洗い物を終えた夏油から声をかけられた。
「出、ちょっと良いかな」
マグカップを二つ持ち、隣に腰掛ける夏油。礼と共にマグカップを一つ受け取りながら返事を。
「どした」
「少し話したいことが──なんだその口元の汚れ」
「え、何か付いてる?」
夏油から指摘を受け、該当箇所を指でなぞってみると、そこには見覚えのある色。どこで見たんだったかと少し考えて、すぐさまついさっきの出来事がフラッシュバック。
洗面所。
硝子ちゃん。
唇。
「出、なんだか顔が赤いけど大丈夫かい? 熱でもあるんじゃ」
「い、いや、無い無い! 超健康!」
「本当に?」
「勿論! ちょっと口洗ってくるッ!」
「……それで、話って?」
何事も無かったかのようにソファに座る〝僕〟。夏油は神妙な表情で〝僕〟の隣に座っていて、なんだか昨日もこんなことあったなとぼんやり考えてしまう。
「今、なんて」
そんなことを考えていたので、たった今夏油の口から出た発言を上手く聞き取れず、聞き返してしまう。
いや違う。
本当は聞こえていた。最初から最後まで、アルコールが入っていない〝僕〟の頭は極めて冷静に夏油の発言を聞き取り、脳内で正常に処理してみせた。しかしそれでも聞き返してしまったのは、それ程に理解に苦しむ内容だったからに他ならない。
夏油の目を見る。
夏油は〝僕〟からの
「……出、私はここを出るよ。離れ離れになってしまった家族達を探しに行く」
「ど、どうしていきなり。なんかあったのかよ」
「君と再会した日から、ずっと考えていたんだ。私はこんな幸せな生活を送っていて良いのかってね」
「……」
目を閉じて、思い返すように
「私は上層部の奴等を殺した後、各地を回って大切な家族を得た。出を喪った私の心は荒んで傷付いていたが、家族と話している間だけは束の間の日常を送ることが出来たんだ」
楽しそうに語る──いや実際、そこでの生活は楽しかったのだろう。夏油が言う家族達は、復讐に囚われた夏油の心を確実に癒していたのだろう。
「家族達は皆、出を殺した非術師を憎み、百鬼夜行という大事にも二つ返事で着いてきてくれた。分かるかい出。そんな心優しい家族達が今、私という道標を失っているんだ」
リーダーを、そして目標を失った夏油一派。百鬼夜行を経て正式に日本国内を追われる身となってしまった夏油の家族達を、心の底から案じる夏油。
〝僕〟は夏油からの問いかけに首肯した。
「私が家族達を
「……ああ」
「──だから、行かねばならないんだ」
決意と信念に満ちた瞳が〝僕〟を射抜く。〝僕〟の目に映る夏油は、〝僕〟が良く知る一本筋の通った夏油そのもので。
参った。
昨日の今日で突然何なんだよと文句の一つでも言って、例え喧嘩になろうとも止めてやる気だったのだが、こんな姿を見せられては止める気も失せてしまった。
止める理由が無い。
「……本気なんだな」
「勿論。私は私がやるべきことをする」
「……そっか」
溜め息を一つ。それから重たい左腕を動かして夏油の肩に乗せた。
「分かった。それなら〝僕〟は止めない。夏油の意思を尊重するよ」
「ありがとう出。そう言ってくれて嬉しいよ」
「けど、心配事が二つ。五条と硝子ちゃんにはちゃんと説明した方が」
「大丈夫、抜かりないよ。昨晩出が眠った後にじっくり話し合っていたからね。納得してもらえたよ」
「気付かなかった」
通りでいつもより深く眠れたわけだ。
……話が拗れるので絶対口には出さないけど。
「じゃあもう一つ。夏油って
「馬鹿を言うな出」
怒られてしまった。
「私が呪霊操術のみで特級の座についたと、本気で思っているのかい?」
「……あー、そっか。ごめん」
「呪力無しの単純な組み手では、君や悟でも私には勝てない。だから安心してくれ。特級呪霊でも相手にしない限りそう死ぬことは無いよ」
一時期、夏油に相撲で挑みまくるというのが(〝僕〟と五条の間で)流行っていたのを思い出す。真っ向から勝負しても絶対に勝てないので、終いには闇討ち気味に飛びかかっても綺麗に投げ飛ばされたっけ。
ごほん。
つまり、夏油の強さとは呪霊操術という使役メインの術式に隠された圧倒的なフィジカル。それで頭も良いのだから本当に凄い奴だ。
言うならば冥冥さんと同じタイプ。
あれ、もしかして夏油と冥冥さんって結構似てる? どっちも美形だし、目閉じがちだし。馬鹿言え夏油と冥冥さんじゃ冥冥さんの方がキュートさ百億倍だわ。一緒にすんな。
「そっか、じゃあ安心……ってことで良いのか? 〝僕〟としては心配事は尽きないけど」
「……全く、出は他人のことになると心配性だな。私としては他人よりも、もっと自分の身を
心配の目を向ける〝僕〟に向かって微笑みながら夏油がそう結論付けた。
〝僕〟の為に呪術界を敵に回した夏油に言われたくはない。
「……それで、いつ出て行っちゃうんだ? やっぱり
「いや、もうすぐにでも」
「大丈夫なのか? もし夏油が生きてるってバレたら──」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私だって馬鹿じゃない。目立たない移動方法なんていくらでもあるんだよ」
「そうなのか……?」
「ふふっ、出に案じてもらうのは存外心地の良いものだね。私だけを見てくれているような、兎に角良い気分だ」
「そりゃ同期なんだから心配するって。夏油だって、五条と硝子ちゃんだって。〝僕〟が朝から任務行くってなった時滅茶苦茶心配してくれてたじゃん」
「……その話はあまりしたくないな」
「……ごめん」
咳払い。したのは〝僕〟だったか夏油だったか。どちらにせよ早く話を変えたかったのは間違いない。
「それで、ここからが本題なんだけどね」
「おう」
夏油の出立。話している内にようやく実感が湧き、見送る気持ちが出来上がってきた〝僕〟は、一旦落ち着く為に返事をしながらコーヒーに手を伸ばした。一口。
「出、君にも一緒に来てもらいたいんだ」
当然のように言った夏油と、その言葉を当然のように受け取った〝僕〟。そうか、〝僕〟にも来て欲しいのかと頭の中で数秒思考して──
「は、はあああああああああッ!?」
大声を上げてしまった。口の端からコーヒーがダバダバと溢れる。
「
あと汚い。
口から溢れたコーヒーが〝僕〟のスウェットを汚す前に、素早くティッシュを取り出して受け止めてみせた夏油は、苦笑いしながらそう言った。されるがまま首元を拭われるのがこそばゆい。
よし、大丈夫。
夏油がそう言って離れたのと同時に会話を再開。
「な〜〜〜〜〜に一人だけ平然としてんだ夏油テメェ! そりゃ驚くだろ! てっきり一人で旅立つもんだと思ってたよ!」
「『遠慮せずグイグイ友達を頼れ』。君が言ったんじゃないか」
「そりゃあ! ……言ったけど」
言ったけれども。
急展開に思わず項垂れ、長〜く息を吐いて後頭部をかく。見えないが、夏油は満足そうに笑っている気がした。
「……本気で言ってんのかよ」
「勿論」
「……〝僕〟が一緒に行くってことは、それはつまり五条と硝子ちゃんも着いてきちゃうってことだぞ」
「まぁ、同期揃って旅に出るっていうのも悪くないかもね」
「悪いわ! 五条と硝子ちゃん不在の高専はマジでヤバいだろッ!」
六眼と無下限の抱き合わせと、他者反転の使い手。その両者がある日忽然と姿を消す。嗚呼、高専の──引いては呪術界の混乱が手に取るように分かる。
「……そりゃあさ、〝僕〟だって叶うもんなら着いて行きたいよ。美々子ちゃんと菜々子ちゃんに会いたい」
「そうだろう、だから──」
「でも、〝僕〟は行けない。〝僕〟はもう好き勝手やっていい立場じゃなくなっちゃったんだよ」
言うならば
ありがたいことに、〝僕〟は同期達から好かれている。同期達からの、愛情と束縛という名の縄が〝僕〟の身体に幾重にも巻かれてしまっている。
それを解こうものなら、〝僕〟が望む日常はいとも簡単に崩れ去るのだ。
「五条は暴れた挙句にどんな手を使ってでも探し出すだろうし、硝子ちゃんはもう一回煙草始めて終いには病んじゃうかも。そんな未来が目に見えてるってのに、わざわざその道には進めない」
だから、本当にごめん。
頭を下げて謝る。
夏油が折角我儘を言ってくれたというのに、それを無下にしてしまったことに対して。
夏油が折角我儘を言ってくれたというのに、本当は心の底から迷っている〝僕〟自身の気持ちを、同期を盾にして隠してしまったことに対して。
頭を下げる。
下げる。
「……良いんだ。そんなに謝らないでくれ」
苦しそうな、絞り出したような夏油の声が頭上から降りかかる。〝僕〟は慌てて頭を上げて夏油の目を見た。だって、もしかして泣かせてしまったんじゃないかと焦ってしまうくらいには、夏油の声は震えていたのだから。
夏油は笑っていた。
その力強さは、思わず気丈という感想を抱いてしまいそうになる。
しかし夏油の本心が、心の内が分かってしまう。なんで来てくれないんだ、私よりも悟と硝子の方が大事なのかと、笑顔の裏から怨嗟の声が滲み出ているように錯覚する。
板挟み。
どちらを選んでもどちらかを悲しませてしまう最悪の二択が、〝僕〟に未来を選ばせた。
「……分かってたよ。こればっかりは、誰も巻き込んじゃいけないってね」
「でも、〝僕〟は」
「良いんだ。君は真摯に、心からの選択の果てに断ってくれた。
「……夏油」
笑っている。でも確実に悲しんでいる。
どうにかしなければと夏油の名を呼ぶ。夏油は遮るように、〝僕〟の眼前に手を
「…………」
数秒経っても目の前に広がり続ける大きな手のひらに、〝僕〟は思わず問うてしまった。
「…………夏油?」
「…………何でもない」
しかし夏油は何も説明せず、誤魔化すように笑って手を下げた。夏油の顔から表情は消えていた。
「どうかしたのか?」
「何でもないよ。言うならば
「賭け?」
「そう。私と出、果たしてどちらがツイているのか」
「それで、結果は?」
「……私の負けだよ」
「? そうなのか」
賭け。
〝僕〟の眼前に手を
「……はぁ。出に振られてしまった」
「本当にごめん」
「……はぁ」
悲しそうな表情で大きな溜め息を吐き、背を丸める夏油。立ち上がり夏油の右側へ移動。謝りながらその背を何度もさすった。
「……出と一緒にデートしたかったなぁ」
「家族を探す旅のことデートって言ってんのかよ」
「……出と旅先のホテルに泊まりたかったなぁ」
「いやごめんて」
「……出と互いの温もりを毎晩毎晩激しく求め合いたかったなぁ」
「本当に悪かったよ──って、夏油。お前さては落ち込んでないな?」
「バレたか」
さすっていた手を止めてジト目で睨むと、舌打ちが聞こえてきた。舌打ちすんな。
「……前から気になってたんだけどさ、なんで
落ち着いたのを見計らい、話題を変える。
それは言わば当然の問い。どれだけ〝僕〟のことが好きなら、監禁しちゃおうという発想になるのかという疑問。当然ながら、〝僕〟には同期達を監禁したいという欲は存在しない。なのに、同期達にはそれがある。
夏油は数秒思案した
「惚れたから」
とびきりの笑顔で笑いかけてくる夏油、その言葉を笑い飛ばす。
なんでコイツその笑顔〝僕〟たち同期にしか見せないんだろうな。もっと他の人にも見せれば良いのに。
「曖昧だなー」
「どこに惚れたのか、とか気にならないのかい」
「いや別に。『惚れたから』って正直理由になってない気がするけど、なんとなく掘り下げたら面倒臭そうだなって思ったから。さて、コーヒーおかわりしてこよっと」
「あれはね、君と始めて合同任務に行った時のことだった」
「すご、お構い無しかよ」
「その時のこと憶えてるかい?」
〝僕〟の言葉を眼前に無視し、試すように問いかけてくる夏油。〝僕〟は虚空を見上げて、一秒とかからずに思い出した。
「勿論。確か心霊スポット的なところに行ったんだったよな」
「そう、東京郊外のね。今だから言うけど、私って会った当初は出のことあまり興味無かったんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。だって見るからに普通だし、悟との喧嘩を見て大体の君の底が知れてしまったからね」
「酷ぇな。〝僕〟と五条の大迫力バトル見てそんなこと考えてたのかよ」
「大迫力バトルって……。ただ悟の〝無限〟にもがいてただけだろ」
「言うなよー、思い出を美化してたんだから」
「はっはっは」
これから訪れてしまうであろう
「でも、初めて出との合同任務に行ったあの日。出への印象の全てが変わった」
「……なんかあったっけ?」
「教室での間の抜けた昼行灯のような出とはまさに別人。苛烈で強烈、そして鮮烈なその姿に私は心奪われてしまったんだ」
「前半の罵倒の所為で何言われても嬉しくねぇ」
「兎に角、その時に私は出に惚れたんだ。任務から帰ったあとも何となく出の姿を目で追ってた。それから出と話すようになって、段々とこの世界で普通であることがどれだけ凄いのかを理解して──気が付いたら出に対して劣情を抱くようになってた」
「あー! 聞こえないー!」
左手で左耳を覆うが、〝僕〟には右手が無い。右耳から
「兎に角、私は君のことを心の底から愛してるってことさ。悟と硝子も、詳しい経緯は知らないけど
「……夏油、お前出ていくからって言っちゃいけないことバラしてないか?」
同性の同期からの、真剣な愛。なんで〝僕〟の頬は上気していやがるのか、頬の熱をうざったく思いながら
〝僕〟の問いに、夏油は何を言ってるんだといった表情で返す。
「出がしっかりと胸の内に秘めていれば良いことだろう?」
「無理だわ! 二人の顔見たら絶対気不味くなる!」
「出」
「なんだよ!」
え、五条と硝子ちゃんも〝僕〟にガチ恋なの? 突如露呈した冗談のような事実に顔を隠すように押さえる。
夏油のリーク情報、その人でなし加減にツッコんでいる最中に呼ばれた名前。隠していた顔を上げて夏油の方を向くと──って何を真面目に記していやがるんだ〝僕〟は。まどろっこしい。こんなの見れば分かる。一言で済むことじゃないか。
「……また会おう」
目の前にあった夏油の顔が離れていく。呆然としている〝僕〟を他所に、夏油は立ち上がって空になった二人分のマグカップを下げた。
夏油の背中がキッチンへと遠ざかる。
なんだかこのまま行かせてはいけないような気がして、続いてソファから立ち上がる。しかし、何故だか〝僕〟の両足には力が入らず、そのまま再びソファに沈み込んでしまった。座った姿勢すらも保てず、横へと倒れ、ソファに寝転がる。
違う。
力が入らないのは両足だけじゃない。もう、左手の指一本動かせやしない。
「……げ、夏油」
「本当にすまない。出に引き止められては私の決心が揺らぐ。仕方がなかったんだ」
「……ざけんな」
「愛してるよ、出。家族と再会することが出来たら、私は必ず君の元へ戻ってくる」
「……まだいくな」
「これは別れじゃない。分かるだろう? そう泣きそうな顔をしないでおくれ」
「……コーヒーに、なにを」
「意識も朦朧としてきた頃かな。……うん、硝子から
キッチンにて洗い物を済ませた夏油。
毎晩同期四人で寝ているので、着替える時以外はほぼ使わない自室に戻っていく夏油。
部屋着から着替えて自室から出てくる夏油。
そのまま玄関へ向かう夏油。
ふざけんな、まだ心の準備も見送る準備も出来てないんだぞ。
左手を伸ばす。しかし当然のように夏油には届かず。そして、夏油は〝僕〟の方を一瞥もせず廊下を歩いていってしまった。
「
玄関のドアが開き、閉じる音。
「……キス、すんな」
意識が沈む。
眠たい。
意識が、落ちる。
∪
「──ッ」
目が醒める。
寝起きだと言うのに、ぼやけた視界に反して意識はしっかりしている。それもその筈、だって眠りにつく前に夏油が旅立ってしまったのだから。
夏油を探さなければ。
未だ気怠い感覚を残している身体に鞭打って身体を起こそうとして、ようやく目の前が明瞭になる。そして、自分の後頭部の柔らかさにも気付く。
「な、なんで」
震える言葉で問いかける。
〝僕〟に膝枕しているその人は
「助けに来たよ、出君」
浮舟出:まったりとした日常がもう少し続くんだろうなと思っていたところでの、この仕打ち。夏油を一人にしてしまったことへの後悔をその後しばらく引き摺ることになるらしい。
「……〝僕〟は、どうすれば良かったんだ」
夏油傑:家族を探す為旅に出ることにした。出と一緒に行きたいなという気持ちと、出を危険な目に遭わせるわけにはいかないという気持ちが丁度半々存在し、つい誘ってしまった。賭けに負けたので、一人で行くことを決意。出に大人しく見送って欲しかったので薬を仕込んだ。
夏油としては悲しい別れでもなんでもないので、ちょくちょく連絡を入れて出を悲しませないようにしたいと考えている。別れを悲しんでくれているという事実には大喜びしている。
「…………」
わっせわっせと文字を書き書きしています。皆様いかがお過ごしでしょうか。
いつも読んでくださりありがとうございます。呪術廻戦のゲーム楽しみですね。
ではまた。
誰好き?
-
浮舟出
-
五条悟
-
家入硝子
-
夏油傑
-
七海建人
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灰原雄
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伊地知潔高
-
庵歌姫
-
冥冥
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夜蛾正道
-
九十九由基
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乙骨憂太
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折本里香
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禪院真希
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パンダ
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狗巻棘
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枷場美々子
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枷場菜々子
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伏黒甚爾