こんばんは。ブースト無しです。
マダガスカル島ってご存知ですか?
「いや、まさかあれから本当に一回も任務行かせてもらえないとは思わないじゃんね? もしかして呪霊ってこの世からいなくなったの? そんなわけないよね。だって七海が半ギレで帰ってくるのとかよく見てるし、伊地知も灰原も忙しそうに動いてるし、夜蛾先生は毎日眉間に皺寄せてるし、五条はしょっちゅう全国各地に出張行ってるし、硝子ちゃんの元には結構な頻度で怪我人が送り込まれるし、パンダ達二年生もケイちゃんも毎日組み手頑張ってるしッ!! なんで〝僕〟だけ任務行かせてもらえないの? 冬から春になって年度変わって、ジメジメした外気にムカつきながらもうこの暑さは夏だよなとか言っちゃう季節だよ!? そんな中〝僕〟だけ毎日高専でぷらぷらしてて良いわけないよね!?!?」
『……浮舟さん少し落ち着いてください。あとケイちゃん呼びやめて下さい』
「あ、ごめんケイちゃん」
『謝ったそばから誤らないでください」
「上手いこと言うね」
『ハァ……。兎に角、浮舟さんは何もしないでください。どこにも行こうとしないでください。そうすれば高専の──引いては呪術界の平穏は保たれるんですから』
「……もしかして今、同じ人を頭に思い浮かべてる?」
『はい。五条先生と家入さんは、浮舟さんと半日会わないだけで著しく機嫌が悪くなるような人なんですから。それでもし浮舟さんが勝手に任務を受けて危ない目に遭ったとなれば』
「なれば……?」
『口にするのも恐ろしいので言いません。浮舟さんは、浮舟さんがいないところで
「え、五条アイツなんか言ってんの?」
『…………』
「え、なんか喉が鳴る音だけ聞こえたけど」
『兎に角、間違っても任務に行こうとか考えないで下さい。貴方が高専に居るだけで救われる命があるんです』
「なんだか話が壮大になってきたね。……うん、分かった。ケイちゃんがそこまで言うなら考え直すよ。それに、お酒なんて飲まないのが一番だもんね」
『またケイちゃんって──……あぁもう良いです』
「そろそろ着きそう?」
『はい』
「電話ありがとうねケイちゃん」
『はい』
「呪物かぁ……。どんなのか知らないけど気を付けてね。五条からの指示ってことは、十中八九試練が待ち構えてるだろうし」
『……試練?』
「そうそう。五条のヤツ、後進を育てるぞ! って意気込んでたし。ただの普通の呪物ならケイちゃんに行かせないってこと」
『はぁ……』
「まあ、こんなことケイちゃんに助言しても釈迦に説法だろうけど、兎に角。呪物の回収には気を付けて。無事を祈ってるよ」
『……はい、気を付けます』
「じゃあまた──あ、仙台で牛タンが美味しそうなお店とかあったら後でお店の名前送ってくれる?」
『では失礼しま──は? それどういう』
∪
「あれ、最後なんか言ってた? まぁ良いか」
高専校舎内の休憩室での電話を終え、通話終了の文字が浮かぶスマホの画面を眺めながら、〝僕〟はそう呟いたのだった。
6月。
午前中。
天気は晴れ。
高専でのこと。
百鬼夜行当日の夜、高専敷地内にて突然の復活を遂げた〝僕〟。それから一週間弱の期間を同期達からの
「…………」
それから、半年経った。
半年も経過すれば人間それなりに変わるところも出てくるわけで。ほら『男子、三日会わざれば』という言葉もあるくらいだし。
まあ、〝僕〟の同期達はたった数時間離れただけでメチャクチャ
兎も角。
〝僕〟と、それから〝僕〟を取り巻く環境はこの半年でそれなりの変化を遂げたということだ。
そんな中でも変わらないのは、半年経っても高専内でのんびりしている〝僕〟と、未だ離れ離れになった家族を見つけられずにいる夏油くらいかな。
…………。
はぁ。
夏油も目的に向かって頑張っているというのに。〝僕〟は何をやっているんだ。
かつて夏油と由基ちゃんに言い寄られた休憩室のベンチに座りながら、独りで溜め息を吐く。そういえばここって、由基ちゃんと硝子ちゃんがバチバチに喧嘩してた場所でもあるのか。思い出したくなかったぜ。
お酒も飲めず(まぁこれは〝僕〟の都合によるものだけど)、任務も受けず、半年過ぎた。これじゃあただ生きているだけじゃないかと、
情けない。
なんなんだ〝僕〟は。
「……あぁ、またネガティブになってる。やめやめ」
〝僕〟はお酒の力を借りなければこんなにも暗くつまらない人間なのかと、こうして時々ネガティヴ思考に陥ってしまう。ネガティヴでいても良いことなんて一つも無いので改善したくはあるのだが、やはり自分の素の考えというものは、改めようと思っても一朝一夕の努力で改まったり善くなったりするものでもなく。
「…………」
苛立ちを発散するように、空になってしばらく経過しているジュースの空き缶を左手で掴み、自販機横のゴミ箱に上投げで放り込んだ。
「おっ、入った」
空き缶は音も無くゴミ箱に吸い込まれ、カコンと中で無造作に積み重なっているゴミ達とハイタッチを交わしていた。何だか良いことありそうだ。
そうだよ。
夕方には最高に楽しいイベントが待ってるんだし、ポジティブに行こう。くよくよしていても仕方がない。
うん。
「出センパイ、お疲れっす」
「おう、お疲れ真希ちゃん。それにパンダと棘ピーも」
「お疲れ出」
「しゃけ」
数時間後の未来にて待つ最高ハッピーイベントを思い出して心躍らせながら、画面が点いたままになっていたスマホをポケットにしまっていると、休憩室に入ってきた真希ちゃんに声を掛けられる。振り向くとそこには真希ちゃんの他にもパンダと棘ピーも。手を振ると、パンダはのっそりと、棘ピーはブンブンと手を振って返してくれた。まさかと思って真希ちゃんにも手を振ると、片眉を吊り上げて何だコイツという視線を向けながらも嫌々返してくれた。
なにこの後輩達。
可愛いな。
トレーニングウェア姿なのと、少し疲れた表情から、どうやら自主練終わりらしいと察する。ここは先輩としてジュースの一本でも奢らねばと心の中の〝僕〟がスクッと立ち上がるが、後輩達の手に握られたペットボトルを見て気まずそうに腰を下ろす。なんだよ、予め買ってあったのかよ。
「……可愛くない後輩」
「ハァ!?」
真希ちゃんは〝僕〟と喧嘩したあの日を経て、見ず知らずの年上を(というか〝僕〟を)敬えるようになった。要するに少しだけ丸くなった真希ちゃんは、〝僕〟を見れば挨拶をしてくれるし戦闘面の相談をしてくれるしで、出会った当初のクソ生意気な真希ちゃんが恋しくなってしまうくらいには、今の真希ちゃんはしっかりした後輩になった。
うんうん。
先輩を敬える子は好きだよ。
そんなことを考えていると、真希ちゃんと目が合う。うす、と〝僕〟の目を見て軽く頭を下げる真希ちゃん。今さっきも挨拶したじゃんと思ったりもするけど、もしかして体育会系はこうなのかと無理矢理納得し、〝僕〟は困惑しながらも左手を上げて返した。
「自主練はどう? 良い感じ?」
「まぁぼちぼちっす。言われた通り真剣の薙刀でやってますけど、気を遣う分扱いがむずくて」
「そうでしょ」
「というか、
「パンダぁ、敵が刃潰れた薙刀で戦ってくれるのかよ」
「出た、出の実戦では理論」
「高菜」
〝僕〟がからかうようにそう言うと、言われたパンダは顔を顰め、隣の棘ピーもパンダに同調するように目を閉じて首肯した。
「そう言うなよ。一年生の頃、呪詛師の集団に拉致られた時があった。でも組み手の時間──つまり訓練の段階から硝子ちゃんにメスやら短刀やら投げてもらってたから、いざ首元にナイフを押し付けられてもビビらずに済んだんだ」
「え、何すかその話。初耳っす」
「
「しゃけ、しゃけしゃけ……!」
「え、言ってなかったっけ? てかいずるトークってなに?」
「……え、恥ずっ。五条そんなこと言ってたの?」
「はい。
「…………」
「それは照れてる? それとも怒ってるのか?」
「……
「ツナマヨっ」
「えー、何だよ棘ピー。拉致られた話聞きたいのか?」
「しゃけ!」
問いかけると、目を細めて嬉しそうに頷く棘ピー。なんだかご機嫌なワンちゃんみたいで可愛いね。
そんなlike a ご機嫌なワンちゃんと化している棘ピーの頭を撫でようかどうか迷っていると、ポケットにしまっていたスマホが恐ろしげな音楽を奏でる。つまりは着信音。
スマホを取り出し、相手を確認。〝僕〟はゆっくり空を見上げた。
「……なんで着信音がTRICKのBGMなんすか」
真希ちゃんがジト目でツッコむ。
「だって怖いんだもん」
だもん?
意図せず自分の口から飛び出した語尾に我ながらキショいなと思っていると、パンダが問いかけてくる。
「出ないのか?」
「ま、まぁ、数コールで切れるんだったらそんなに大した用でもないのかな。なんて」
「出センパイ、普段なら
疑いと、呆れ。その半々の眼差しで〝僕〟を見る真希ちゃん。その視線はまるでこちらの考えていることなど全部まるっとお見通しであるかのようだった。
TRICKだけに。
げふん。
「出がそんなに言う相手って誰だ? 悟か?」
「いや、五条は出るまで掛け直してくるしスタンプ鬼連打してくるし、なんならあのわけ分からんワープで出先から戻ってきちゃうし」
「よく考えると、あの教師異常だな」
「よく考えなくても異常だよアイツ。……まぁつまり、五条が相手なら諦めて
「えー、じゃあ誰なんだよ」
「まどろっこしいな。出センパイ、
「あ、ちょっ──」
こうしてごねている間にも、コールは続く。その間に向こうが諦めてくれないかなとか考えていたのだが、それよりも先に〝僕〟とパンダのやり取りに痺れを切らした真希ちゃんが〝僕〟からスマホを取り上げた。真希ちゃんは画面に映る文字を確認し、首を傾げた。
「んだよ、憂太じゃん。なんで出てやらないんすか」
「い、いやあ、ははは……」
後頭部をかいて誤魔化す〝僕〟。理由を説明しかねていると、真希ちゃんは無言で通話ボタンを押した。
「真希ちゃん!?」
慌ててスマホを取り返す。しかしここで重大な事実が発覚。〝僕〟には左手しかない。そしてその左手は金属製の義手で出来ている。
「詰んだ……」
つまり通話を終了させる為には、ブルブルと震えながらTRICKのBGMを繰り返し流し続けるスマホを一度どこかに置き、懐からタッチペンを取り出し、それから然るべき画面操作を行わなければならないのだ。
もう通話が始まって数秒と経っている。この状態から通話を終了させるのはいくらなんでも不自然だ。後が怖い。
息を吸う。
吐く。
意を決する。
どうせなら
「……もしもし。乙骨君?」
『あ、いずるさんこんばんは! お久し振りです! 僕です乙骨憂太です! この前の通話からもう13時間47分も経ってしまいましたね。この13時間47分の間いずるさんはどんな風に過ごしてましたか? 何回声を発して何回トイレに行って何回呼吸しましたか? あと何回僕のことを思い出してくれましたか? 怪我とかしてませんか? 体調とか悪くなっていませんか? いずるさんとお話出来ない間、僕はもう不安で不安で……! 全然電話出てくださらないので思わず帰国を考えましたけど、でもこうしてお話出来てるなら万事解決ですよね! 僕は昨日からマダガスカル島に来てます! いずるさんマダガスカル島ってご存知ですか? ──ああいや、失礼な質問すみませんでした! いずるさんは勿論ご存知ですよね! 時に、マダガスカル島でお馴染みの
「「「…………」」」
「……以上、乙骨君からのお言葉でした」
「「「…………」」」
「おい、なんか言えよ」
テンション高めの乙骨君との通話が終わったあとの休憩室は、お通夜の如く冷えっ冷えの空気へと変貌していた。一言も発さずに押し黙るパンダと棘ピー。迂闊に通話ボタンを押してしまった過去の自分の行いを下唇を噛んで後悔している真希ちゃん。あと、乙骨君からの
あんな感じのマシンガントークが1日2回くらいのペースでかかってくるのだ。
なんでこうなってしまったんだ。
「良いかい真希ちゃん。これからは、先輩のスマホを勝手に操作しちゃいけないよ」
「……もう絶対にしません。すみませんでした」
諭すと、素直に頭を下げる真希ちゃん。そろそろこの空気感も気まずくなってきたので、わざとらしく咳払いをし、明るい声色を努めて笑う。
「い、いやぁそれにしても、まさか乙骨君がここまで〝僕〟に懐いてくれるとはね」
参っちゃうよ。
いや本当に。
先程の、初見回避不可の電話越しのメンタルデバフ攻撃をまるで気にしていないかのようにヘラヘラと笑い飛ばすと、後輩達はぎこちないながらも「ははは……」と笑ってくれた。愛想ってやつがふんだんに込められてやがる。
「ま、まぁ、俺はなんとなくこうなるんじゃないかって察してたけどな」
「え、そうなの? パンダ」
「……確かに、今思うと出センパイと話してる時の憂太って、目ぇイっちゃってたもんな」
言動とか。
パンダに続いて当時の証言(つまりは乙骨君が海外に行く前のこと)らしきものを口にする真希ちゃん。聞き捨てならないその言葉達に、〝僕〟は待ったをかけた。
「ちょっと待ってよ。今現在ならまだしも、乙骨君って前からそうだったっけ? ちょっとグイグイ気味だけど、普通に素直で心優しい後輩だったような気がするんだけど」
言うと、溜め息。それも三人分。なんだよ棘ピーもそっちにつくのか。
「おかか。こんぶ、ツナ」
「嘘だぁ棘ピー。さっきのが衝撃的過ぎて、もう全部が全部そう見えてきちゃう的なヤツじゃないの?」
「……憂太、俺達といる時もいつも嬉しそうに出のこと話してた」
「そんなの可愛いもんじゃん」
「……憂太の奴、出センパイ見かけたら猛ダッシュで駆けていくし」
「はっはっは、懐かしいな。灰原もそんな感じだったよ」
「……高菜」
「ボディタッチくらい普通じゃないか? 〝僕〟の同期は
「だぁ〜〜〜〜! 出センパイ、アンタヤバい人に好かれ過ぎて感覚が麻痺してんだよ! 普通の後輩は先輩を隠し撮りしないし、さりげなく手を繋ごうとしたり間接キス狙ったりしないんです!」
「え、乙骨君そんなことしてたの?」
「き・づ・け・よ!」
「あと出が高専内で憂太と会う時って、9割くらいは待ち伏せされてるからな」
「えぇ!? よく会うなぁとは思ってたけど! ──てかそんなに乙骨君のヤバエピソード知ってんなら〝僕〟に教えてくれよ! なんで今の今まで大事に温めてたんだよ!」
「チクったのバレたら何されるか分かんねぇから言わなかったんすよ!」
「憂太特級だしなー」
「こんぶ……」
「なんだこの後輩達!」
先輩の身を案じるってことを知らねぇのか!
疲れたのか、休憩室の長ベンチに並んで座る後輩達。疲れた理由が自主練によるものではなさそうなのがなんとも可哀想だ。
乙骨君。
乙骨憂太。
百鬼夜行が行われたあの日、夏油とタイマンで戦って勝利したという激強一年生な特級術師。
というのが〝僕〟の中での認識だった。
みんなに生きていたことがバレた翌日くらいか、ベッドで暇してる〝僕〟のところへ、ケイちゃんと一緒にお見舞いに来てくれた乙骨君。
〝僕〟の大ファンだと言う乙骨君。その熱量に気圧されて握手に応じたりケイちゃん撮影の元ツーショットを撮ったりしたのをつい半年前のようによく憶えている。ちゃんと半年前だったわ。
それ以降、高専で会う
乙骨憂太。
乙骨君。
日本って、マダガスカル島より時間が6時間進んでるんだぜ? 今こっちが午前中ってことはそっちは深夜どころか夜明けだろ? なんでそんな時間に元気に電話かけられるんだよ。
乙骨君、あなた怖過ぎです。
嫌だなぁ。
乙骨君が帰国したら〝僕〟どうなっちゃうんだろう。
「出センパイ、目ぇ死んでますよ」
「……はぁ。楽しいことだけ考えていたいよ」
「それは何よりっすね」
「適当だなぁ真希ちゃん。今度乙骨君に、1日2回も電話してこないでくれってそれとなく言っておいてよ」
「面倒なことになるので絶対に嫌です」
「えぇ……」
困った。パンダに視線を向ける。
「絶対嫌だぞ」
マジかよ。棘ピーに視線を移す。
「お、おかかっ!」
「なんだよ可愛い後輩達。同期の絆ってのはそんなもんなわけ?
「可愛い後輩の一人をメンヘラって言っちゃってるじゃないすか」
「あっ。……今のオフレコで」
なんか、乙骨君って五条に近しいものを感じるというか。兎に角こんな発言、乙骨君にバレたら何されるか分かったものじゃない。可愛い後輩達に「内緒で頼むナ」とお茶目にお願いしてみると、返ってきたのは蚊の鳴くような小さな声。どうやらこの声は真希ちゃんのようだ。
いつもはハキハキ喋る真希ちゃんが珍しい。そんな意味を視線に込めて見やると、真希ちゃんはふい、と顔を逸らした。逸らしたことでよく見える真希ちゃんの耳は何故だか赤くなっていた。
「い、良いですけど──……今度、私等の組み手の授業の時顔出してくださいよ。直接動き見てもらって……直接アドバイスもらいたいです」
もしかしなくても照れている真希ちゃん。
てっきり、鼻からスパゲッティ食えとか無理難題を押し付けられるかと思っていた〝僕〟は、拍子抜けと共に思わず微笑む。その程度のことなら毎日だって出来そうだ。
「そんなことで良いの?」
「出、分かってないな。これは真希なりの可愛げ的な──ぶぐふぉッ!」
〝僕〟が後輩達の授業に顔を出すという方向で事が固まり始めた矢先の出来事。パンダの何かしらの発言を真希ちゃんの鋭い跳び膝蹴りが遮った。
あちゃーと額を押さえる棘ピーと、何が起こったのか分からず口を開けたまま固まる〝僕〟。許してと逃げるパンダに追う真希ちゃん。
「あのー、良いよって棘ピーに伝えておくからね」
休憩室で部屋の名前とは真逆の行動を取る二人にかけられる言葉なんてある筈もなく、取り敢えず言うだけ言っておく。誠意って大事だからね。
「……棘ピー、どうする?」
「しゃけ」
「え、良いの? 嬉しいな、どうやって帰ろうか悩んでたんだよね」
「しゃけしゃけ」
「流石棘ピー。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
傍らに置いていた松葉杖を手に取る。
松葉杖を支えにどうにか尻を浮かせると、棘ピーが〝僕〟の身体に両腕を回して軽々と持ち上げた。お姫様抱っこの体勢だ。松葉杖を胸に抱く〝僕〟は棘ピーの男気にときめいているように見えるのかもしれない。
棘ピーの顔が近い。ツンツンじゃない髪型も似合ってるね。
「……ツナ?」
「いやいや、軽くないよ。ちゃんと3食食べてるし」
「しゃけ……」
〝僕〟の言葉に溜め息を吐いて首を横に振る棘ピー。どうやら呆れているらしい。
「明太子」
「よし、分かった」
棘ピーの意図を察し、休憩室の窓を開ける。6月のジメジメした熱気が頬を撫で、夏の訪れを否応無く知らせてくる。
動き出した棘ピーに合わせて一瞬の浮遊感。
棘ピーは〝僕〟を抱き抱えたまま窓枠を飛び越え、校舎外へと身を踊らせた。
浮舟出:半年経っても呪術界全体への生存報告は成されておらず、未だに高専内をウロチョロしているだけの生活を送っている。ネガティヴになったりならなかったり地の分が忙しい。
夕方には最高に楽しいイベントが待ってるらしい。
「もうラインもスタンプも覚えた。〝僕〟ってば若者過ぎ」
ケイちゃん:呪物回収の任務で仙台に行っている。浮舟のことは良い先輩だと思いつつも、やっぱ
ちゃんと名前で呼んでほしいらしい。
「浮舟さん、貴方ずっと読み方間違えてますから。……別に良いですけど」
禪院真希:あの一件以来浮舟のことを尊敬している。好感度もそれなりに高い。でもそれは女児が足が速い男の子を好きになるような感じのやつなので、その好意に恋愛的な意味は無い。
「……また出センパイと戦いてぇな」
パンダ:あの一件での勇気を認められ、後輩達の中で唯一呼び捨てで呼んでも怒られない。
浮舟のことを目的地まで輸送している姿を、高専内で度々目撃されている。
「出、運んでる途中に寝るのは良いけど涎つけんなよ」
狗巻棘:あの一件で浮舟からめっちゃ可愛がられており、愛称で呼ばれている。棘自身も満更でもないので訂正はしない。
週一くらいで、寝る前に呪言を使ってあげてるらしい。
「
乙骨憂太:高専に入学してから、傷付いた日も心細い日も、いずるトークを思い出して勇気を貰っていた浮舟出の大ファン。その想いの大きさは遥か海の向こうから浮舟を寒気で身震いさせるほど。
時折浮舟に自撮りを送って欲しいとせがむらしい。何に使っているかは不明。
「いずるさん、今何してるのかな。嗚呼、僕が歩行を支えてあげたいな。いずるさんの役に立ちたいな。いずるさんにありがとうってお礼を言われたいな。間近で微笑まれたいな頭を撫でられたいなぁ!」
「敵前ダゾ!集中シロ!」
遂に原作第一話にあたる部分へと話が進み始めました。本当ならもう少し先まで書きたかったのですが、乙骨君が思ったより喋ってたのでこの辺りで。
読者の皆様いつもありがとうございます。いつも絶え間無く感謝しております。
BIG LOVE。
ではまた。
誰好き?
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浮舟出
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五条悟
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家入硝子
-
夏油傑
-
七海建人
-
灰原雄
-
伊地知潔高
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庵歌姫
-
冥冥
-
夜蛾正道
-
九十九由基
-
乙骨憂太
-
折本里香
-
禪院真希
-
パンダ
-
狗巻棘
-
枷場美々子
-
枷場菜々子
-
伏黒甚爾