アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは。
ブーストかかりながらも書き上げるのに2日かかりました。




アル中、戦う。

 

 

 

 

「……あぁ?」

 

 小さな呪霊を肩に乗せ。

 立派な刀を片手に持ち。

 しかし、当の本人はとても大きく。目につく鍛え上げられた上半身もそうだが、奴から感じる圧力(プレッシャー)は、思わず自分の肌がジリジリと焼けているのではと錯覚するほどだ。

 五条を()()()にした奴。

 正体、術式、共に不明の男。

 オレの手持ち。

 彼我の差。

 様々な情報が頭の中をグルグルと駆け回るが、アルコールを摂取した脳では最適な取捨選択などできやしない。いつも肌身離さず持っている酒瓶の蓋を──

 

「よっと」

 

 開けられなかった。

 

「……え?」

 

 酒瓶が、地面に落ちて割れる。

 酒瓶と一緒に、酒瓶を握っていた左手も落ちる。

 

「……えぇッ!?」

 

 迫られた。

 斬られた。

 落とされた。

 瞬き一つの間に奴は消え、奴が居た場所の石畳が抉れたかと思えば懐に入られていて。

 お酒を飲もうと動かしたオレの左腕の肘から先を斬り。

 酒瓶を握った左腕が地面に落ちる頃には、奴はオレの遥か後方。

 振り返る。

 オレの両目が奴にピントを合わせるよりも先に、喉を掴まれてそのまま持ち上げられた。

 しかも、片手で。

 片手間で。

 

「グッ……!」

 

 両腕を振り回して抵抗するが、奴の顔には届かず、ただ切り落とされた肘先から奴の顔に血を撒き散らすに終わった。

 

「反撃なんてさせねぇっての。……チッ、汚ねぇ」

 

 絞める力が強くなる。

 抵抗する力が弱くなる。

 

「そうだ。()()で良い。じゃあ質問。ちゃんと答えられたら下ろしてやる」

 

 こんなことをしている場合じゃない。早く五条の容体を確認し、然るべき処置を行わなければならないのに。

 コイツが邪魔だ。

 コイツが大きな壁となって、オレと五条の間に立ち塞がっている。

 そのルートはただの一本道。

 迂回なんてできやしない。

 

「まず一つ。テメェ何者だ? 今までどこにいやがった」

「……ッ」

「答えろ」

 

 絞める力が更に強くなる。コイツ、呪術師にしては力が強過ぎるぞ。なんで呪術でオレに攻撃しないんだ、コイツ。

 

「グェ……ッ! ここだよ……! 高専にいた……!」

「応援か? それにしては早過ぎる」

 

 視界が段々とぼやけてくるが、こんなのお酒を飲んでたらしょっちゅう訪れる体内アラートだ。気にせず喋る。

 

「違う……! 迎えに来たんだ……! 長いこと待ってたから、早く二人に会いたくてな……!」

「嘘つけ。呪術師がそんな仲間意識高いわけねぇだろうが」

「決め付けんな馬鹿……! それはお前が周りの人間に恵まれなかっただけだろ……!」

「……」

 

 ドサッ。

 奴が握っていた手を開き、オレが地面に尻餅をついた音。

 ズッ。

 そんなオレの眼前にまで迫った音。

 引くほどブチ切れた表情でこちらにメンチを切っている。

 

「本当だったらさっきの言葉を言い終える前にテメェの喉握り潰してたけどな。この状況でまだそんな言葉を言えるのは面白ぇ。今は殺さないでやる」

 

 言外に、いつでも殺せると言っているようなもの。それを誇張やハッタリではなく、ただの事実として相手に認識させるだけの迫力が、コイツにはあった。

 ズズズ、奴は持っていた武器を、自分の肩に乗っている呪霊に食わせた。恐らくアレはドラ◯もんの四次元ポケット的な──

 

「お前、何者だ」

「だから、あの二人の同期の」

 

 無言でビンタされた。

 首がもげるかと思った。

 

「身の上について話せ」

 

 有無を言わせないとはこの事。オレは諦めて、出血を続ける左腕を一瞥してから話し始めた。割れた酒瓶からお酒の臭いが漂うこの場で、観念して話し始めた。

 オレが高専に入学した経緯を。

 オレと五条の関係を。

 オレと夏油の関係を。

 オレの、天与呪縛のことを。

 相槌一つも打たずオレの話を聞き終えた目の前の男は、噴き出した。

 

「お前マジかよ」

 

 と。

 嘲るように、それでいて憐れむように。

 

「さっきテメェの腕切り落としておいて正解だったな。テメェの話が本当なら、酒を飲んでないテメェはただの一般人だ」

「そう思う?」

「……何が言いてぇ」

 

 オレの言葉に、少し警戒する素振りを見せる男。近くで話していてようやく気づいた事だが、コイツ面が良い。

 

「全く……。顔がイケメンでおまけにマッチョって。アンタモテるだろ」

「おう」

 

 即答だった。

 ウザ過ぎる。

 

「おだてて俺をどうにかするつもりならやめとけ。俺はそういう男は細切りにするって決めてんだ」

「違う違う。ただ──おらよッ」

「グッ! ──テメェ!」

 

 油断した男の顔に、頭突きを一つ。至近距離で会話していたので、そうするのは容易だった。

 立ち上がり、男と距離を取る。男はすぐさま

 反撃、というわけではなく、己の鼻を腕で拭っていた。どうやら鼻血が出たらしい。でもオレなんかもっと出血してんだからな。

 ふざけんなよ。

 

「オレがさっき酒を飲もうとしたのはな、戦闘モードに切り替える為じゃない。今ある力を増強する為に飲もうとしたんだ。だってお前強そうだし」

「……そうか、もう飲んでやがったのか。このクソガキ」

「アルコール依存症で助かったぜ。こうした()()()()()にも対応出来る」

「ほざけ。どちらにしろテメェは、あの酒飲めなきゃ俺に勝てない──そういうことだろ」

 

 揶揄うように男は言った。

 

「ったくよ、いきなり天与呪縛とか言いやがるから少し親近感が湧いちまったのが間違いだな」

 

 片方の鼻の穴を塞ぎ、もう片方の穴から勢いよく鼻血を噴出させて、それで終いだともう一度鼻を拭った男。その最中にぼやいた言葉を、オレは聞き逃せるはずがなかった。

 

「親近感……? もしかして、お前も」

「チッ。……あぁそうだよ。折角だから冥土の土産に教えてやる」

 

 ついでに術式の開示にもなるしな。

 男はそう言った。

 みなまで言ってしまえるくらいには、男の身体からはおよそ緊張感なんてモノは消え失せていた。

 これが余裕か。

 

「俺にはな、生まれ付き呪力が無ぇんだ。……おい仲間だみてぇな顔すんな。テメェと違うのは、俺にはどうやっても呪力なんてモンは使えねぇって点だ」

「……つまり、お前術師じゃないのか?」

「あぁそうだよ。俺は術師じゃねぇ。術師のテメェや六眼のガキよりも強ぇけどな」

「なんで、こんなことを?」

「教えねー」

 

 舌をベロっと出して(意図せずダジャレを言ってしまった)会話を終了させた男は、つかつかとオレの方まで歩いてきた。

 

「喋り過ぎたな。まぁ良いか。どうせテメェも応援が来るまでの時間稼ぎとか、頭のどっかで考えてたんだろ? Win-Winで良かったじゃねぇか」

「……え、応援?」

「は?」

「……」

「おいおい、おいおいおいおい、テメェまさか何も考えず敵の俺とニコニコお話してたってのかよ。間抜け過ぎねぇか」

「……うるせぇッ! こちとら酔っ払いだぞッ!」

「……」

 

 ふぃ〜。

 自分が不利になった時は大声で掻き消すに限るな。

 

「こんな馬鹿と、中身は違えど天与呪縛被りか。恥ずかしくてすぐにでも殺したくなったわ」

「じゃあこれからは応援が来ることを願って時間稼いでやるから、やってみろやイケメンマッチョ」

「俺は伏黒甚爾(ふしぐろとうじ)だ。1秒でも長く生きていたいんなら、二度とそんなふざけた名前で呼ぶな」

 

 言ってから、チッ名乗っちまったと心底後悔したような表情を見せた。そんなことで悔しがんな。

 

「そうかよ、伏黒甚爾。オレは浮舟出(うきふねいずる)だ。同じ天与呪縛同士仲良くやろうぜ」

「ッ──死ね」

 

 ゴンッ!! 

 額にとんでもない速さでナニカが当たり、その勢いのまま真後ろに倒れる。背中を引っ張る重力が不思議とゆっくりと感じて、視界は伏黒甚爾から段々と上に登り、空の色が視界に入る。

 背中に衝撃。今まで17年間欠かさず行ってきた、呼吸が上手に出来なくなる。喘ぐ。その束の間、脳に酸素が充分に行き届かなくなり、ほんのり白みを帯びた視界。もしかしたら、オレが思っているよりも血液が失われていたのかも知れないが──兎に角、視界に映像がダイジェストで流れ始めた。

 成る程。

 これが、走馬と、う……。

 ……、

 …………、

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五条──五条悟との出会いは、オレが高専に入学した時期にまで遡る。

 夜蛾先生に誘われる形でこの世界に入ったオレは、オレの他にいるらしい同期3人よりも数週間遅れての入学となり、初日は居心地の悪い思いをしたのをよく憶えている。入学から数週間も経っていれば人間関係というものはそれなりに構築されてしまっているし、その間同期が3人しかいなかったのなら尚更だ。そこに、ペーペーのド素人が遅れて入ってきますなんて言われたら扱いに困るのは当然だろう。

 

 

 

 

 

 

 ……何故オレは、生まれて初めての走馬灯タイムで五条と出会った時の映像が流れているのだろう。あぁそうか。目の前で倒れた五条を見たからか。

 てか、こういうのって時系列に沿って流れるもんじゃないのか。なんでいきなり高専入学してんだの。幼少期のオレには何も無いのか。誰だよこの映像編集した奴。

 心の中でツッコミを入れるも、まるで他人事のように流れる続ける記憶。オレは諦めて身体を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

『お前、なんで高専来たんだよ。呪力無ぇじゃん』

 

 相手の呪力や術式を把握出来る、六眼(りくがん)。高専行きの車内にて、夜蛾先生に教えてもらったことだ。

 同期の五条悟は、その六眼とやらを持っているらしい。

 あとこうも言われた。

 クソ生意気で人を見下すような態度を取る奴で、御三家と呼ばれるくらいには格式ある五条家出身だと。

 つまりは坊っちゃんというわけか。当時のオレは簡単にそう結論付けた。

 夜蛾先生からの説明を、窓の外に流れていく景色に夢中で話半分に聞いていた当時のオレは、実際教室で五条に会ってみて──五条に突き飛ばされて上から目線でガン飛ばされてみて、ちゃんと話を聞いておけば良かったと後悔した。オレとしたことが、人前で唖然と大口を開けてしまった。

 だって、なぁ。

 坊っちゃんにしてはイケメン過ぎねぇかと。

 完全におかっぱヘアの小太りのチビを想像していた。

 超イケメンだし、身長だって負けていた。

 

『ちょっと待ってくれ。君、呪力が無いのかい?』

 

 オレに手を差し伸べてくれた優しそうなこれまたイケメン(初対面では不本意ながらそう思ったんだよクソが)の問いかけに、手を取って立ち上がりながら答える。

 

『あるよ』

『ハァ? 嘘つけ。無いぞ』

 

 キラキラと光る綺麗な瞳、アレが六眼か。胸倉を掴まれたので、至近距離でその瞳がよく見えた。

 

『〝僕〟の胸倉から手を離せ。この制服だってタダじゃないんだぞ』

『離させてみろよ。呪力があるんならそれぐらい出来るだろ』

『おい、やめろ。新入生同士仲良くしないか』

 

 見かねた夜蛾先生の言葉を、右手をあげて静止させる。オレは五条の綺麗な瞳を真っ直ぐ見つめた。

 

『あるよ』

『……お前、生意気なんだけど』

()()()()()()()

 

 ピクリ。

 五条の整った眉が不快気に跳ねた。

 

『夜蛾先生、許可を下さい。ついでに、アレも』

『……はぁ、分かった。あまり無茶はするなよ』

 

 一度喧嘩させた方が事態が収束すると踏んだ夜蛾先生は、不本意ながら許可をくれた。五条もオレの行動に興味があるのか、掴んでいた胸倉を離した。

 夜蛾先生は懐から瓶を──酒瓶を、取り出した。

 

『教師が朝っぱらから飲酒かよ』

『違う。これはコイツが飲むんだ』

『『『は?』』』

 

 教師にも平然と食ってかかる五条も、事の成り行きを見守っていた夏油も、沈黙を貫いていた硝子ちゃんも、全員声を揃えてそう言った。

 

『『『……は?』』』

 

 それでも理解出来なかったのか、もう一度声を漏らした。仲良いなコイツ等。

 

『……〝僕〟だってド素人だけどな、夜蛾先生にスカウトされてこの高専に来たんだ。〝僕〟を疑うってことは、教師を疑うってことだぞ』

『……それが?』

『え? ……あぁそっか。お前クソ生意気なんだっけ』

『ハァ!?』

 

 瞬時にキレる五条。それでも手を出さなかったのは、自分が格上だと確信しているからだ。

 つまりは、後手に回ってもどうにでもなるからと。

 そう、確信しているからだ。

 

『夜蛾先生曰く、〝僕〟の()()は天与呪縛と言うらしい。五条、お前天与呪縛って知ってるか?』

『当たり前だろうが! 舐めんな!』

『おぉ、やっぱ〝僕〟が知らないだけか。──話を戻そう。〝僕〟の身体には呪術師としての適正がありながら、呪力が無いのはおろか呪霊を見ることさえできない。何故だか分かるか? 五条』

『は? それはお前が才能のカケラも無いゴミカス人間だからなんじゃないの?』

『ピッタシ違う』

『ムカつく』

『……あと、呪霊って本当にいるのか? 〝僕〟見えないからまだドッキリの可能性を疑ってるんだけど』

『……ドッキリの可能性疑ってんのにノコノコ高専まで入学して来るなよ』

『確かに。良いこと言ったな五条』

『お前さっきから何なんだよ! 馴れ馴れしくすんな!』

 

 おぉ、怒ってる怒ってる。五条の威嚇に内心少しビビりながらも夜蛾先生から酒瓶を受け取る。それを両手で弄びながら、会話を続行。

 

『話を戻そう。何故〝僕〟には呪力が無いのか。何故〝僕〟には呪霊が見えないのか』

『……』

『しかし何故〝僕〟には呪術師としての適正があるのか。それは──』

『……それは?』

『とある一定の条件下でのみ、呪術師になれるからだッ!』

 

 ビシィッ! 

 半身で五条の鼻先に指を指しながらそう言った。

 

『……』

『あれ? 驚いてくれよ』

『……それだと、まだ途中だろ。お前がその酒瓶を持ってる理由とかまだ聞いてないし』

『ああ、()()? いやぁ不思議だよな。〝僕〟みたいな呪術はおろか喧嘩もろくすっぽやったことが無いような、品行方正を絵に描いたような新高校生がさ。こうやって酒瓶の蓋を開けて、んぐっ……こうやって飲むとさ──〝オレ〟呪術師になれるんだよ』

『なッ!? 突然呪力が』

『お、六眼で視えたか? 覚悟しろよクソガキ坊っちゃん。初対面でいきなり突き飛ばしやがって。テメェのその綺麗な面、形変わるくらいボコボコにしてやるからな』

 

 オレの纏う空気が変わった事に気付き、慌てて構える五条。オレは気にせず飛び掛かった──

 

『──痛ってぇ〜……! これから仲良くやっていく同期をそんなしっかりボコボコにするかよ普通!』

 

 あれから僅か1分後。

 夜蛾先生から聞きそびれた五条の無下限呪術の前では手も足も出ず、オレは教室の床を泣きながらのたうち回っていた。

 

『……お前、マジでなんなの? 俺の無下限呪術のこととか、俺の評判とかな〜んも知らないの?』

『知るかよ! こちとら夜蛾先生からクソ生意気な坊っちゃんとか、六眼がどうたらぐらいしか聞いてねぇんだぞ!』

『そのあとちゃんと説明していただろうが。人の話は真面目に聞いておけ、この馬鹿タレ』

 

 オレがあまりにも無知なことに唖然とする五条と、痛い痛いと床を転がるオレにげんこつを落とす夜蛾先生。

 

『家入、治療してやってくれるか』

『りょーかい。ほら、ジッとして』

『え、治療? 君お医者さん? 実家は家入整形外科?』

『黙ってろこのポンコツ。治療できないでしょ──あれ』

『どうした』

『治療が、出来ない』

『『『はぁ!?』』』

 

 3人仲良く驚く夜蛾五条夏油と、突然可愛い女の子が近くにきたことによってそれどころではないオレ。

 

『そりゃそうでしょ。家入さんまだ高校生でしょ? 医師免許とか』

『うるせぇ馬鹿! コイツはな、反転術式を他人に使えるすげぇ珍しい奴なんだよ!』

『指差すな』

『……反転術式ってなに?』

 

 

 当時のオレからしたら至極真っ当な疑問なのだが、この世界では知ってて常識ぐらいの単語で、何から何までスムーズにいかない会話に頭を抱えてチクショー! と叫ぶ五条。変わって、夏油が説明してくれた。

 

『簡単に言うと、回復魔法みたいなものだよ』

『え、凄ッ!!!!』

『でもそれがアンタに効かないから困ってんの。ちょっと静かにしてくれる?』

『MP切れ?』

『呪術界だと呪力切れ、の方が正しいかな。あと、彼女は呪力切れはしてないよ』

『わざわざ教えてくれてありがとう。君名前は?』

『私は夏油傑。困ったことがあったらなんでも聞いてくれ』

『じゃあ一つ良い?』

『なんだい』

五条(コイツ)ってずっとクソ生意気(こんな)なの?』

『よ〜し、テメェ表出ろや。今度は喋れなくなるくらいボコってやるから』

『そうだよ、ずっと()()だ』

『お、一人追加な?』

 

 その後、オレにはどうやっても硝子ちゃんの反転術式が効かないことが判明したり、まだ当時はお酒に慣れていなかったのでトイレで盛大に吐いたオレに、さっきまでバチバチだった五条が憐れんだり。初日こそ(こじ)れに(こじ)れたが、それからは誤解も無くなり、段々と仲を深めていった。

 

 

 

 

『俺五条悟。お前は』

『浮舟出。お前は』

『今言ったわ!』

 

 

 

 

 

 

『おい浮舟。お前俺のこと舐め過ぎ。御三家って知らねぇの?』

『オレ、◯ズゴロウ派。五条は?』

『……何五郎?』

『え!? お前もしかしてポ◯モン知らねぇの? ヤバ! おーい家入さん! コイツポ◯モン知らねぇんだって!』

『ヤバ』

『ヤバくねぇよ! なんだよポ◯モンって』

『ったくしょうがねぇな〜。ほら』

『なんだよこの機械』

『機械って……。良いか、これはGBA。今子供達を夢中にさせている夢の携帯型ゲーム機だ。ほら、コイツが◯ズゴロウ。可愛いだろ』

『◯ズゴロウ……』

『コイツが◯チャモ』

『◯チャモ……』

『コイツが◯モリ』

『◯モリ……』

『御三家といえば、日本じゃこっちが常識だから』

『◯ズゴロウ……』

『あと、自分が知らないことを馬鹿にされるのがどんな気持ちか分かったか? 嫌〜な気持ちだろ。分かったら、今度からもう少し優しく教えてくれよ。オレも頑張って覚えるからさ』

『……ごめん』

 

 

 

 

 

 

『おい、いずる! 俺のグラサン返せ!』

『やなこ〜った! 高校生の分際でこんな高い丸グラサンかけちゃってる五条君には、こうじゃ〜〜〜〜〜〜!』

『やめろ! レンズに指紋つけんな!』

 

 

 

 

 

 

『なぁいずる。俺も◯S買ったからさ、通信(仲間)入れてくれよ』

『お、五条◯S買ったの? みんな朗報! 五条が◯S買ったって!』

『悟、君もようやく輪に入れるね』

『ゲーム勝てなくてイライラした挙句私の◯Sに当たったこと、まだ許してないからな』

『じゃあマリ◯カートやろうぜ!』

『この前発売されたばかりじゃないか。もう手に入れたのかい』

『あったりめぇよ! だってこれは8人で通信出来るんだぜ!? ヤバくない!?』

『『ヤバい』』

『ヤバいのか? だって、俺等4人しかいないじゃん』

『……いいか五条。今までの◯Sソフトはな、多くても四人通信ってのが常識だったんだ』

『おう』

『でも、このマリ◯カートは最大8人での通信が可能! つまりオレ等同期が倍に増えても全員遊べるってこと! しかも、誰か一人がソフトを持っていれば他はソフト無しでもみんなで遊べるんだ!』

『え、ヤバ!』

『そうだろうそうだろう! じゃあ早速やるぞ』

『あっ、ちょっと待って。今箱から出す』

『『『充電しとけや!』』』

 

 

 

 

 

 

『いずる、酒臭い』

『しょうがないだろ。さっきまで任務だったんだぞ』

『キツかった?』

『相手するのは別に。むしろ、任務終わって今ゲロ吐きそうな方が問題。オエッ──』

『いずるぅぅぅぅ! 耐えろぉぉぉぉ! 今俺がトイレまで連れてくからぁぁぁぁああああ!』

 

 

 

 

 

 

『俺は、いずるに死んでほしくない。いずるに酒飲んで身体を壊してもらいたくないんだよ』

『それが無理だって、五条が一番よく分かってるだろ。お酒を飲まなくなったオレはただの一般人だ』

『……それでも、俺。いずるが辛そうにしてるのが耐えられない。いずるがボロボロになって、それでも笑ってるのが耐えられないんだよ……!』

『……ごめん』

 

 

 

 

 

 

『い〜ずる! これ、あげる!』

『何これ。チョコ?』

『ウイスキーボンボン。この前お土産コーナーで見かけてさ。これだって思った』

『何が?』

『いずるってお酒嫌いだろ?』

『ああ。不味いし』

『本当は、いずるには毎日美味いものだけ食って好きなだけ休んで日々を穏やかに過ごしてほしいんだけどさ。そうもいかないじゃん』

『ん? え? あ、あぁ。そうだな。そうもいかないよな』

『だから、これだったらお酒よりは美味しいかなって思って。本当は、いずるには毎日』

『分かった分かった! ……ありがとうな、五条』

『あ、ソレ市販のじゃなくて、俺がパティシエに頼んで無理矢理作らせた市販のよりアルコール度数が高い奴だから、高専内で食うなよ! 呪霊と戦う時だけな!』

『おう、分かった。今は大事に取っておく』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだよ、まだ動けんのかよ」

 

 倒れたオレの顔を覗き込んでいた伏黒甚爾が、意識を取り戻したオレを見て少し驚いたような顔を見せた。

 オレは気にせず、右ポケットをまさぐる。

 

「動くな。そうしたらその首落として、楽に殺してやる」

 

 オレは気にせず、右ポケットからチョコレートを出す。

 

「動くんじゃねぇ。このまま動き続けるなら、俺の腕力でその首引っこ抜くぞ」

 

 オレは気にせず──

 

「あっ」

 

 袈裟斬り。

 オレの右腕が、斜めに、滑るように、チョコレートを──ウイスキーボンボンを摘んだ手の形のまま落ちる。コロコロと石畳の上を転がる自分の右腕を、ただ呆然と眺めていた。

 

「テメェ、マジで命が惜しくないタイプか。それともこの後に及んで何も考えてないのかどっちだ」

 

 走馬灯を通じて、脳がオレに教えてくれた、最後の切り札。両腕が無い状態では摘んで口に入れることすら出来ない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 嗚呼。

 終わりだ。

 五条も助けられず、俺も死ぬ。

 五条は、あまり言いたくはないが天才だ。ここで死んで良いような奴じゃない。なんとかして助けやりたかったが、今となっては叶わぬ夢。

 助けてやりたかった? なんだか笑えるな。一体オレは何様のつもりだと、腹の内から笑いが込み上げてくるな。

 

「……なに、笑ってやがる」

 

 同期の中で一番の役立たずで。

 同期の中で一番の無知で。

 同期の中で唯一、志し半ばで死んでも許される男。

 それがオレだろうが。

 オレはどうなったって別にかまわない。オレなんかの命が失われたところで誰も、誰も……。

 

「……」

「おい、なんだよ。死んだのか?」

「……駄目だ」

「はぁ?」

「死ねない。

「まだ、死ねないんだ。

「帰らなければ。

「硝子ちゃんの元へ、帰らなければ。

「そういう約束だから。

「そういう、縛りだから」

 

 上体を起こし、腕の傷口を床に押し付けるようにして立ち上がる。アルコールも血液も足らないこの身体で出来ることなんて何も無いが、それでも。

 

「オレは帰らなくちゃならないんだ」

「ッ、させるか」

 

 瀕死のオレの、何を恐れているのか。伏黒甚爾はこめかみに汗を垂らし、慌ててオレの腹を蹴飛ばした。抵抗と受け身も取れず、石畳の上を転がる。

 転がった先に、オレの腕。ウイスキーボンボンはきちんと摘んだままだ。

 迷わず齧り付く。

 

「……」

 

 咀嚼。

 嚥下。

 まだ足らない。

 何か無いか。

 どこかにアルコールは無いか。

 五条から貰ったウイスキーボンボンはいい気つけとなり、少しばかり晴れた頭でアルコールを探す。

 見る。

 聞く。

 触れない。

 味わえない。

 嗅ぐ。

 嗅ぐ。

 嗅ぐ。

 慣れ親しんだ臭いがどこからかする。

 

「おいおい、あんな所にあるじゃないか」

 

 お酒の臭いを撒き散らす、割れた酒瓶。

 石畳に滲む、その中身。

 

「はは、ははは、ははははははははは」

 

 四つん這い。

 両腕の感覚なんてもう無いに等しいので、傷口をやすりがけするように、臭いの元へと駆け寄る。

 

「ッ! テメェ、まさか──」

 

 舌を出す。

 ザラリ。

 石畳の上をオレの舌が這う。

 ザラリ。

 アルコールを求めて、這い回る。

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

「美味い、美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味いッ! お酒を美味いと思ったのは生まれてこの方初めてだぜ! おい伏黒甚爾! お前も飲むか!? ほら美味いぞ!!」

「……イカれてやがる」

 

 口調こそ先程とあまり変わらないものの、伏黒甚爾は内心焦っていた。

 先程まではただの瀕死状態だった目の前の男が突然動き出したかと思えば、狂行。地面を駆け回り、落とした自分の腕からチョコレート(恐らくはアルコール入り)を奪い取り、終いには躊躇い無く地面を舐め回してみせた。

 ゾッとする。

 これがコイツの本性──コイツの天与呪縛の真髄なのか。

 

「さっきはよくもオレの両腕飛ばしてくれたなァおい。今からお前のその刀奪って、オレとお揃いにしてやる! あはははははははははははははははははははは! 天与呪縛もお揃いで、お互い両腕無しで更にお揃い! コイツはきっとスッゲェ笑えるぞ! だから! ……ほら寄越せよ」

 

 アルコールを摂取したからかハイになっている目の前の男──浮舟出。その瞳は据わっていて、浮舟出の両腕は自分が斬り落としたはずなのに、両腕があった時よりも威圧感が格段に増していた。

 なんとか、時間を稼いでコイツをどうにかしなければ。

 浮舟出の狂気にあてられた伏黒甚爾の頭には、防戦もしくは逃走の二択しか残されておらず、持ち前のフィジカルギフテッドで叩きのめそうという考えは欠片も存在しなかった。

 いつの間にか、逆転した立場。

 過去のデータも何も無い、今日初めて会った学生に、五条悟以上にここまで追い詰められるとは誰が思うか。

 クソ。

 内心吐き捨て、会話に応じる。なんとかして、失血死しないかと。そう打算する。

 

「……テメェには、扱う腕が無ぇだろうが」

「足でも口でも脇でも股でも、その刀持とうとすればどこでも持てるだろうが! 言い訳すんな!! おら! 寄越さないならオレから貰いに──」

 

 遂には歩き出した、浮舟出。

 面倒極まりない。

 しかし、もうやるしかないと、伏黒甚爾は呪具、万里の鎖を両手で構える。

 

 

「虚式、(むらさき)

 

 

 その瞬間、完全に死角だった背後から光線のようなものが伸び、伏黒甚爾の左腕と脇腹を貫いた。直線上にいた浮舟出はいつの間にかうつ伏せで倒れていた為無傷。浮舟出と目が合った。

 

「あれ? おいおい、伏黒甚爾! お前片腕どころか横っ腹まで無くなってんじゃねぇかよ! 誰にやられた!? まだオレ何もしてないぞ!? おい伏黒甚爾! オレ達の戦いはまだこれからだろ!? 返事しろよ伏黒甚爾! あ、クソ、動けねぇや! なぁ伏黒甚爾! 手ぇ貸してくれよ! お前まだ一本残ってんだろ!?」

「……うるせぇ」

 

 酔っ払っている浮舟出の怒涛の発言量に、顔を顰める伏黒甚爾。しかし、失った左腕以外も、もうまともに動かせなくなっていた。

 俺は死ぬんだな。

 そう理解した伏黒甚爾の前に、五条悟が現れた。

 

「……マジか」

「大マジ。元気ピンピンだよ」

「……反転術式か」

「正解──って、オマエと話してる場合じゃないんだわ。お〜いいずる! 大丈夫か!」

 

 自分を殺しかけた相手に対して簡単に背を向け、浮舟出の救護に向かう五条悟。その姿を見て、ふと浮舟出の言葉が頭の中に聞こえてきた。

 

『決め付けんな馬鹿……! それはお前が周りの人間に恵まれなかっただけだろ……!』

 

 確かに、そうかも知れない。

 心から心配する五条の表情。

 先程までのハイな状態が終わり伏黒甚爾にとって見慣れた方の、弱そうな雰囲気の浮舟出を見て、伏黒甚爾の口角がほんの数ミリ上がった。

 二度と手に入らない景色。

 失った妻の顔が、表情が浮かぶ。

 その妻の子と、己が名付けた子。

 二度とこの手に戻らない景色。

 後悔。

 自分の意思とは関係無く、伏黒甚爾は口を開いていた。

 

「2、3年もしたら俺の子供(ガキ)が禪院家に売られる。好きにしろ」

「え、伏黒甚爾大丈夫か? おいしっかりしろよ! なぁ五条! 伏黒甚爾ヤバいって! 死にそうだよ!」

 

 意識が遠のく。

 最期まで聞こえる、こちらを心配するような声色の浮舟出の言葉。さっきまで殺し合ってた男に、何を心配しているのか。この場にそぐわない浮舟出の言葉さえもどんどん聞こえなくなり、伏黒甚爾は最期の最期にこう思った。

 次こそ殺す、と。

 

 

 

 

 

 

 





はたして、浮舟の腕は治るのか。そして、浮舟の周囲は今回の浮舟の行動によってどうなるのか。





浮舟出:両腕斬られたけど、持ち前の明るさでカバー。ウイスキーボンボンはお酒の味するけど、お酒よりかは遥かに美味しかったらしい。

伏黒甚爾:絶対にもっと強いけど、浮舟が見るからに格下+似たような天与呪縛持ちで滅茶苦茶手を抜いて油断していた。又、最初に浮舟の酒瓶を割ってしまった所為で、その臭いで嗅覚が鈍り、浮舟がもう酔っていることに気付けなかった。作者的に、生かすべきか最後まで悩ませた。

五条悟:死に際に掴んだ呪力の核により、反転術式を習得。浮舟が戦っている間に急いで傷を治し、颯爽と登場。気分は白馬の王子様。お姫様の両腕が無くて意識が飛びかけた。

夏油傑:浮舟の足止めのお陰で天内理子と黒井さんを逃がすことに成功。天元様はこういうこともあろうかと代わりを用意していたらしい(詳しくは原作9巻参照)ので特に問題は無いらしい。両腕の無い浮舟をおぶり、その両腕を持ってダッシュしている五条を見て、危うく一線を越えるところだった。

家入硝子:煙草ふかしながらみんなの帰りを待っていたら、両腕が無い浮舟を背負った夏油とその両腕を持ったボロ泣きの五条が現れたので、あやうく気絶しかけた。意味が無いと知りつつも、寝る間も惜しんで浮舟の身体に反転術式を流し続けているらしい。







急いで書き上げたので、何かしらミスってると思います。その際は優しく指摘していただけるとありがたいです。
ありがたいといえば、この小説の評価バーに色がつきました。たりがたいです。
評価してくださった皆様、応援の言葉をくださった皆様、このお話を読んでくださっている皆様。本当にありがとうございます。
これからもアル中とさしす組をよろしくお願いいたします。

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