こんばんは!!!!!!ブースト無しです!!!!!!!!
アル中と植物トリオ。
「ビックリした。まさかこんなところで会うなんて」
「それはこっちのセリフっすけど。なんで出センパイがこんなところいるんですか? 確か昨日から旅行だかなんだかって……」
「いやぁ、ちょっと歌姫先輩とデートしてたのよ」
「歌姫先輩? ──あぁ、京都校の。……え、泊まりですか」
「ち、違う違う違う違う! そんな夢みたいな話あるわけないでしょ!」
「
「昨日はまた違う用事だったの! それで無事用事を終えた今日の〝僕〟はルンルン気分で歌姫先輩とデート! そういうこと!」
「ああ、そういうことっすか」
「というか、そっちこそなんでこんなところに? えらく遠出じゃん」
「私等三人で任務に出ることになりまして。今は現地までの移動中っす」
「ははぁ……、それはまたなんというか」
「高菜」
「そうだよね。珍しいっちゃ珍しいよね」
「まぁ、俺達は言われたことをやるだけだし、そう心配するなよ出」
「うーん、大丈夫かなぁ」
「……そんなに私達のことが頼りないっすか?」
「そういうわけじゃないけどさ。なんかこう……デジャヴっていうか、この先のことを思うとなんでか分からないけど不安な気持ちになるっていうか」
「はぁ」
「まあ兎に角、上層部って決して良い人ではないんだし、普段と違う雰囲気の任務なら警戒するに越したことはないってこと。
「「「…………」」」
「あれ、空気悪くない?」
「出って、自分に対するデリカシーだけ無いよな」
「しゃけ」
「えぇ!? ……ま、まぁ、兎に角。そう悲しそうな顔しないでよ真希ちゃん。真希ちゃん達二年生の腕が不安ってわけじゃないからさ」
「……なら良いっすけど」
「なんて言ったって先輩の〝僕〟がこの
「「「…………」」」
「やべ、また間違えたか」
「……真希、ちょっと機嫌悪そうだな」
「……しゃけしゃけ」
「なあ出」
「なに、パンダ」
「真希の頭、撫でてやってくれよ」
「良いよ。はい真希ちゃん、よしよし」
「ッ!? 〜ッ!? 〜〜〜〜〜ッッッッ!?!?」
「……真希ちゃんキレてない?」
「いや、これは喜んでる。確実に」
「なにすんだ──いや、なにするんすか出センパイ!」
「ごめんよ真希ちゃん。つい出来心で。怒りのベクトルは全てパンダに向けてやってくれよな」
「もっとやって下さいッ!」
「は?」
「やっぱ包容力っつーか、年上の男の優しさに飢えてるパターンだよなー。常日頃の予想大当たり」
「しゃけ」
「これでいい?」
「は、はい。へへへへへへへへへへ」
「あーあ、出の
∪
「みたいなことがあったんだよね」
「浮舟さんあなた……、いややっぱりなんでもないです」
「?」
グラウンドに繋がる石階段の最上段。そこに並んで腰掛けながら、ケイちゃんについ昨日あったことを話す。
今頃真希ちゃん達も呪霊と接敵してる頃かなぁとか、もしかしたらもう解決してんのかなとか考えるも、ケイちゃんから返ってきた言葉は曖昧なもの。首を傾げてその意味を問えば、ケイちゃんは少し
「……フットワーク軽いですね」
「まぁ、歌姫先輩とのデートってなるとね〜」
足も腕も治ったことだし。
そう呟くと、ケイちゃんは心配そうに〝僕〟の身体を見回した。
「本当に、もう痛まないんですか?」
「マジで大丈夫。だってほら、この足で歌姫先輩と歩いて、この手でエスコートしてきたんだから」
ちゃんと目的も果たせたし、満足満足。
歌姫先輩から貰ったという付加価値が付いている神聖極まりないお酒の中身を、ケイちゃんに見せるようにちゃぷちゃぷと揺らす。ケイちゃんは視線を一度地面に下ろしてから、〝僕〟の目を見つめた。
「……なら良いですけど。あまり無理はしないでくださいね。浮舟さんの身に何かあって悲しむのは俺達なんですから」
「え、ケイちゃんに真っ直ぐそう言ってもらえるの嬉しいな」
「当たり前じゃないですか」
「へへ、──って、呑気に喜んでちゃ駄目か。任せてケイちゃん。無理はしないよ」
「約束ですからね」
「うん。その代わり、ケイちゃんも無理しちゃ駄目だよ」
「…………」
「ケイちゃん?」
こちらからもと条件を提示すれば、どこか明後日の方を見てしまうケイちゃん。肩を揺さぶってこっちを見ろと言っているところに、ケイちゃんの名前を呼ぶ声が。
「あー! 伏黒見ーっけ!」
ケイちゃんと揃って振り返ると、そこには虎杖君の姿が。手を振って挨拶すれば、虎杖君も笑顔で返してくれた。癒し。
「浮舟先輩、お疲れさまでっす!」
「お疲れ様、虎杖君。ケイちゃんを探してたの?」
「あ、そうそう! 伏黒、一緒に自主練しようって言ったのになんでどっか行くんだよ」
「はぁ? 自主練するって言うからグラウンドで待ってたんだろ。お前こそ遅いぞ」
「俺は伏黒のこと探してたの! 普通一緒に行くだろ!」
「なんだその普通……」
どうやら互いに勘違いしていたらしく、話が噛み合わない二人。そこにもう一人、早歩きで向かってくる女子生徒が。
「おい伏黒! アンタ、なに私に無駄足踏ませてんのよ!」
「釘崎、お前も怒ってんのか」
「あ・た・り・ま・え・だろコラこの重油野郎!」
「重油?」
「浮舟さんは黙ってて! 今私がキレるターンだから!」
「トホホ」
「……うるせぇ」
やいのやいの、俺は悪くないいや悪いと、大きな声で言い争う一年生三人。元気だなぁとその光景を
やがて怒りも放出し尽くしたのか、最後には「今度から気を付けよう」という凄く当たり前な結論を導き出して仲直りをしていた。
「仲直りできて良かったね」
「……俺は悪くない」
「まだ言うか!」
「まあまあ! これ以上はやめておこうよ! ね、元はといえば自主練しに来たんでしょ?」
「……ふん」
またもや火がつきそうになったケイちゃんと野薔薇ちゃんの間に入り、仲裁を試みる。〝僕〟の仲裁は見事成し遂げられ、しかし怒りが完全に収まらない野薔薇ちゃんはそっぽを向いてグラウンドに降りて言ってしまった。
「芯が太くて良いね」
しっかりとした足取りで階段を下りる背中にそう呟くと「そんな生優しいもんじゃないですよ」
とケイちゃんにツッコミを入れられてしまった。
ちなみに虎杖くんは一足先にグラウンドに降りて準備運動を
「折角だから、少し見てあげようかな」
動かなかった足が完治しても、両腕がくっ付いても。それでも未だ高専内でニート生活を満喫している〝僕〟に今日これ以降のタスクなどあるわけがなく、一度ストレッチ代わりに背中を伸ばしてからグラウンドへと降りていくのだった。
「浮舟さん、お忙しいところありがとうございました」
「いやいや、マジで
「勿論です」
「ちゃんと組み手形式で教えてあげられれば一番良いんだけどね。今日は許可が降りなかったよ」
「え、許可制なの?」
「そうなんだよ虎杖君。反転術式効くから別にお酒飲んでも良くねってなったんだけど、硝子ちゃんったらやけに心配性でさ」
「ま、まぁ俺家入さんの気持ちも分かるっす。浮舟先輩ってなんだか危なっかしいっていうか」
「そんな子供みたいな」
「いやいや、そういうんじゃないんだけど。……うーん、いつの間にかどこかにいっちゃいそうな雰囲気っていうか」
「詩的だね」
「詩的ですか?」
「──はぁ、
三人で話していた横をタオルで汗を拭いながら通り過ぎ、石階段にどかりと座ってそう言う野薔薇ちゃん。可愛い後輩の頼みならばと立ち上がってその一歩目を踏み出した。
「よっしゃ、任せて」
「おい! 浮舟さんをパシんなッ!」
「良いじゃない別に、浮舟さんも乗り気なんだし」
こともなげにそう言う野薔薇ちゃんと、「お前本当に……!」と後頭部をガシガシと掻いて苛立ちを露わにするケイちゃん。使い道が無くてパンッパンな〝僕〟の財布が火を吹くぜとやる気だったのだが、どうやらケイちゃんは怒っているらしい。
「……釘崎お前、浮舟さんのことどう思ってんだ」
「絶対に怒らないし、タメ口きいても許してくれる優しい先輩?」
「……ハァ」
「なによ、言いたいことあんだったら言いなさいよ」
「高専は、呪術界に
「そのくらい知ってるわよ。馬鹿にしてんの?」
「高専には、高専生以外の呪術師がプロとして任務を受けてその報酬で生計を立てていような人達も普通に出入りしてるんだ」
「確かにたまに見かけるわね」
うんうん。冥冥さんとか七海とか、イノッチとかね。邪魔にならないように頭の中で相槌を打つ。
ケイちゃんは「浮舟さんは
「
「……顔が広いって意味?」
「違う。俺が今言った味方の意味はもっと重い」
「伏黒、なんか目怖ぇなぁ」
「だよね虎杖君。なんかケイちゃんキレてるよね」
こんこんと、野薔薇ちゃんに対して〝僕〟の交友関係についてを説明するケイちゃん。その迫力に思わず距離を取って虎杖君と内緒話をしてしまう。野薔薇ちゃんに向き合っているケイちゃんは、〝僕〟達のことなど視界にも入っていなかった。
「浮舟さんの意思を尊重し、浮舟さんの側に立ち、浮舟さんの肉壁になって護る──浮舟さんの味方ってのはそういった意味だ」
「…………」
「つまりそのくらい浮舟さんのことを想っている人達が、今の釘崎の舐めた行動を見たらどう思うかって話だ」
「浮舟さんの生存を喜ぶ?」
「まぁそれはそうかも知れないが、それとは別件で確実に殺されるぞ」
「わ、悪かったわよ。気を付けるわ」
「謝る相手が違う」
「……アンタもその一人ってわけね」
「なにか言ったか?」
「なんも言ってないわよ
「なに?」
「ジュースは自分で買いに行くわ。パシってごめんなさい」
ガチトーンで怒られたからか、なんだか落ち込んでいるように見える野薔薇ちゃん。励ましついでにそう言ってみるが、返ってきたのは溜め息。
こんな言う必要あった? とケイちゃんに視線で問えば、当然です、と同じく視線で返ってきた。
「〝僕〟暇だったし、別に良いのに」
「私が良くなくなったの。……まぁ、東京の生活も長く楽しみたいし」
「そっかぁ」
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
髪をファっとかきあげてから颯爽とこの場を去る野薔薇ちゃん。その後ろ姿に手を振って見送る。
青嵐。
自主練メンバーの内、一人が飲み物を買いに行った現在のこの状態。10年も昔に高専生として過ごしてきた〝僕〟なら分かる。しばし休憩のお時間というわけだ。
グラウンドから伸びる石階段の途中に腰を下ろす。少し間隔を空けた両隣にケイちゃんと虎杖君が座った。
「なんだかさっきの野薔薇ちゃんモデルさんみたいだったね」
「おっ、その言葉、釘崎も喜ぶと思う。あとで
「そうなの?」
虎杖君の言葉を真偽を確かめる為に、ケイちゃんに振る。ケイちゃんはなにかを思い出すかのように斜め上を見た。
「……まあ、初顔合わせの時も原宿でスカウトにキレてるくらいでしたし。喜びはするかと」
「じゃあ言ってみるか〜」
「それより、浮舟先輩! さっきから手に持ってるお酒なんすか? なんか難しい漢字書いてあるけど。……ごしんしゅ?」
「おみき、ね。歌姫先輩から貰った大事な大事なお酒なんだ」
「うたひめ先輩」
「そう、京都校で先生やってるスーパー可愛い先輩。優しくて大好きなの」
〝僕〟の言葉から、知らない単語だけを復唱してみせた虎杖君に説明する。説明しながら、つい先程別れたばかりの先輩に思いを馳せる。
嗚呼、歌姫先輩今日も可愛かったなぁ。
今度京都校の授業風景とか見学したいなぁ。
しれっと座って歌姫先輩の授業受けたいなぁ。居眠りしてるところを丸めた教科書でポムって叩かれたいなぁ。
「おーい、浮舟
「ハッ、つい意識が楽園に」
「浮舟先輩、その歌姫先輩? のことが大好きなんだ」
「うん、大好き」
即答。
すると虎杖君は首を傾げた。
「あれ? じゃあ、家入さんってなんなんだ……?」
「なんなんだ…… ってなに? 大切な同期だけど」
「いや、てっきり付き合ってるのかと思って」
「おいコラ。浮舟さんに向かってデリカシー無い質問すんな」
〝僕〟と硝子ちゃんの関係性が気になるのか、そんな感じの質問を投げかけてきた虎杖君。その質問の際どさにケイちゃんが虎杖君を睨むが、〝僕〟はいいよいいよとケイちゃんを宥めた。
「本当にすみません、浮舟さん」
「いいってケイちゃん。そりゃあ気になるよね」
虎杖君に笑いかければ、「へへ」と照れ笑いが返ってくる。人の色恋が気になるというのは健全な高校生である証拠だ。いや、高専生か。
「最初に言っておくと、〝僕〟と硝子ちゃんは別に付き合ってるわけじゃないんだよ」
「へぇー。距離感近いしお互い良い感じだったんで勘違いしてた」
「距離感近いのは……まぁ、うちの同期の特性と言いますか。硝子ちゃんに限らずみんな近いんだよね、距離感」
突然始まった監禁生活にも関わらず、初日の夜から四人同じベッドで眠れている事実がそれを証明している。学生の頃から、夏だろうが冬だろうがベッタベタくっ付いてたもんねみんな。
「?」
「……まぁ、硝子ちゃん──というか、硝子ちゃんに限らず〝僕〟の同期達はガチで〝僕〟のこと好きらしいから、この現状をいつまでも受け入れていたらなんだかちょっと困ったことになっちゃうかもなんだけど」
「ちょっと……?」
〝僕〟の発言に、ケイちゃんが疑問符を提示。おいやめろ。もう手遅れだろみたいな顔しないでくれ。
「相手から好意を伝えられているのにそれに応えることが出来ないってのは本当に申し訳ないんだけれど、兎に角〝僕〟と硝子ちゃんは付き合ってない」
「はい、浮舟先輩」
「どうした虎杖君」
「突っ込んで聞いていい?」
「いいとも」
「なんで付き合わないの?」
「なんでって……」
顎に手を当てて、少し考えてみる。しかしどれだけ考えてみても理由は一つしか思い浮かばなかったので、それだけを伝えることにした。
「ほら、〝僕〟って
「
「……え、あ──あぁ、そうだったそうだった! つい昔の
「頼みますよ浮舟さん。縁起でもないこと言わないでください」
「いつまでも不健康気分じゃいけないよね。はっはっはっは」
梅雨時の暑さで頭がやられてしまったのか、
ケイちゃんのジト目が嫌に刺さる。
笑って誤魔化す。
虎杖君が「つまりどうして付き合わないんだ?」と首を傾げている。
笑ってはぐらかす。
「ただいま……って、なに笑ってんの?」
「おかえり野薔薇ちゃん。ちょっとボケてただけだよ」
このまま会話が続けば、また要らんことを言ってしまいかねない。ナイスなタイミングで戻ってきた野薔薇ちゃんを笑顔で迎え入れて誤魔化し続ける。
「ほら、休憩終わり。また分からないところがあったら教えてあげるから、自主練に戻りなさい」
「はーい」
「ったく、往復歩いてたからロクに休めてないのに」
手を叩いて、みんなをグラウンドへ向かわせる。〝僕〟の言葉を素直に聞き入れた虎杖君と、ぶつくさ言いながらも従った野薔薇ちゃんがグラウンドへと続く石階段を降りていく。
ふぅ。
なんとか誤魔化せた。
安堵の溜め息を吐いたのも束の間、まだこの場にいたケイちゃんから声をかけられる。
「……浮舟さん、大丈夫なんですか?」
「なにが?」
こちらを見るは、どこか眠たそうな──あまり感情を感じられないいつも通りのケイちゃんの瞳。しかしその奥にこちらを思い遣るような、心底〝僕〟の身を案じているような色を感じ取ってしまい、言葉の意味を理解していないフリをして笑って問い返す。
ケイちゃんの質問は必ず答えを得たいほどのものではなかったのか、それとも〝僕〟の態度に呆れてしまったのか、「なんでもないです」という言葉だけ残してグラウンドへと降りていった。
「…………」
遠ざかっていく可愛い一年生達の背中を見送る。
もう誰にも見られていないからと笑顔が消えた〝僕〟の表情は、きっと酷いモノなのだろう。
鏡が無いのでよく分からないが、何故かそう確信していた。
∩
「ったく、急に雨が降るなんて聞いてないわよ」
「予報にも無かった雨だ。仕方ないだろ」
「んなの分かってるわよ。分かった上で梅雨に文句言ってんの」
「ははは、喧嘩相手が壮大だなー」
窓を流れる水滴、その向こう。今の気分のように暗く重たい雲から降りしきる雨を眺めて。呪術高専東京校の一年生三人が、廊下を歩きながら雑談に興じる。
決して強くは無いが、当分止みそうにない雨の音が屋内に居てもしっかりと聞こえる午後。
濡れた髪の先から水滴を垂らしながら、うんざりとした表情の釘崎が。
「元はといえば、あの
「あの人特級術師だからな。多忙なのは間違いない」
「まあまあ、代わりに浮舟先輩が見ててくれたんだから良いじゃん」
「あの人は、……」
「なんで俺の顔を見る」
「いや、下手なこと言ったらまた怒るかと思って」
「その線引きが出来るんだったら、普段からちゃんとしてろよ。浮舟さんに対して」
「気が向いたらね」
「おい」
「──話戻すけど、浮舟さんが先生の代わりにうちらの自主練見ててくれるっていうのは別に嫌じゃないの。むしろ体術系のアドバイスは素直に為になるし、教え方優しいし」
「……フッ」
「え、伏黒なんでニヤニヤしてんの?」
「そういうところは良いんだけど、未だにあの人がちゃんと強い人なのかだけが疑問なのよ。アドバイスとか聞いてても「あれ、今この瞬間殴り掛かったら全然勝てそう」とか思っちゃうくらい隙だらけだし」
「人の話聞きながらなに考えてんだ……」
「あー、でも確かに釘崎の言うことちょっと分かるかも。浮舟先輩の雰囲気ってなんか強そうじゃないっていうか。……上手く言えねーけど」
つい先程まで、一年生三人の責任者という形で同じグラウンドにいた一人の男。齢が二つほど上の浮舟出という男。口頭での指導という形式での遣り取りは、浮舟のことをあまり知らない釘崎と虎杖にとって要らぬ疑念を抱かせるには十分過ぎて。
ニコニコと笑い、柔らかな物腰でこちらを思い遣る年上の男。線が細く、足の運びも佇まいも、戦闘経験に覚えのある者とは思えない──言ってしまえば素人丸出しの仕草。しかし何故か指示や指導だけは的確な男。
話に聞く浮舟出の武勇伝と、実際目にした時に受けた印象の
良い人ではあるんだけど。
二人口を揃えた締めの一言に、伏黒はまたもや
「浮舟さんはな」
「──あ、皆さん! 丁度良いところに!」
「…………」
伏黒による、浮舟出という先輩がいかに強くて人格者で尊敬出来る存在かという解説(予定時間18分)が今まさにこれから始まるという時に、誰かから声をかけられる。出鼻を挫かれる形となった伏黒は無言のままゆっくりと首を回し、声の主を見詰める。顔を見て、その名を呼んだ。
「……伊地知さん。どうしたんですかそんなに慌てて」
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」
伊地知と呼ばれた、痩せ型でスーツ姿の男。ここまで走ってきたのだろう、濡れた肩と崩れた前髪がそのことを安易にこちらに想起させる。目の前で膝に手を置いて息を整えるその姿は、こちらに言い知れぬ頼りなさを感じさせた。
深呼吸を繰り返すこと数度。ようやく呼吸を落ち着かせた伊地知は背を伸ばし、ズレた眼鏡の位置を指で直してから「突然申し訳ありません」前置きを一言。
伏黒が社交辞令的に「いえ」と返す。
「なにかお話し中でしたか?」
「浮舟さんの凄さをこの二人に叩き込もうとしてました」
「ああ、成る程。それは素晴らしいことですね」
「はい」
伏黒の言葉を聞き、微笑む伊地知。伏黒も当然だと言わんばかりに肯定で返し、伊地知よりも前にこの場にいた筈の虎杖と釘崎は一瞬で置き去りにされたような疎外感を覚える。
伊地知が咳払いを一つ。
「──って、そうこうしている場合じゃありません」
「確かに。伊地知さん酷く慌ててましたけど、どうしたんですか」
返ってきた言葉は、どこかドライな印象を受ける伏黒の目を僅かに開かせた。
「任務の通達です。……あなた方一年生三人に」
浮舟出:単身泊まりがけで歌姫の元まで出掛けられるくらいには自由を得ている。しかしその代償に同期二人からのエゲツないデートのお誘いを了承しなければならないというものがあるのだが、背に腹はかえられないらしい。
一年生三人のことを好ましく思っている。まぁチビとか言われてないしなということでタメ口も許している。
「え、歌姫先輩このお酒本当にくれるんですか!?〝僕〟の為に!?マジ!?超嬉しいです歌姫先輩大好き!!!!!!!!」
伏黒恵:尊敬する乙骨先輩が浮舟出に狂っていくのをこの目で見ていた為、自分はこうはならないぞと固く決心していた。しかし現在、段々と同じ道を歩みつつあることには気付いていないらしい。
虎杖と釘崎のタメ口をやめさせたいが、浮舟自身が気にしてないので強くは言えないらしい。
「長旅お疲れ様です浮舟さん。駅まで迎えにきました。いえ、後輩なので。いえ。いいです。俺が荷物持ちます。車待たせてありますんで行きましょう」
虎杖悠仁:この先輩は俺が護らなくてはいけないような気がしているらしい。たまに宿儺が聞いてもない浮舟のアレソレを語ってくるので尚更。
浮舟に体術を褒められて嬉しかったらしい。
「良いか小僧。出の腰付きをよく見ろ。美味そうだろう。あの腰付きで信じられん力の蹴りを繰り出すのだからやはり出は面白い。おい聞いているのか小僧」
「マジでキメェ」
釘崎野薔薇:はぁ?朝っぱらからなによ急に。『顔色を良く見せたいならコントロールカラーはピンクを使え』?なにそれ経験談?『どんなに激しい運動をしても絶対にメイクが落ちないメイクキープミストを知っている』?──野薔薇で良いわ。詳しく教えて浮舟さん。
庵歌姫:腕がくっ付いた報告を割と早めに貰ったので、あぁこの後輩はきちんと過去の失敗から学んでいるんだなと頭を撫でてあげるし、後輩のお願いならと御神酒を用意してあげる最高に美人で超可愛い野球好きな巫女服系先輩。
思いの外喜んでもらえて嬉しかったらしい。
「ただそのお酒は一体なにに使うんだ?お?硝子を悲しませたら承知しないからな浮舟おい。こっち向け。冥さん呼ぶぞ。おいコラ喜ぶな。コイツマジで一回シめようかしら。おいコラ喜ぶな」
お久しぶりです。文字数としては8000と別に特別多い文字数というわけでもないのですが、お仕事大忙し君によりこの頻度の更新となりました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
こうして時間が経っても待っていてくださる読者の皆様方に、今はただ感謝を。
最近はもっぱら、京都姉妹校交流会の展開を考えています。そこまで書くのにどれだけの時が経つのかは分かりませんが、意欲はありますとだけ言わせてください。
……あとがきのおまけキャラ紹介、段々長くなってないか?
ではまた。
誰好き?
-
浮舟出
-
五条悟
-
家入硝子
-
夏油傑
-
七海建人
-
灰原雄
-
伊地知潔高
-
庵歌姫
-
冥冥
-
夜蛾正道
-
九十九由基
-
乙骨憂太
-
折本里香
-
禪院真希
-
パンダ
-
狗巻棘
-
枷場美々子
-
枷場菜々子
-
伏黒甚爾