アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

41 / 73

こんばんは。ブーストありです!




アル中と等級違い。

 

 

 

 

「我々の〝窓〟が呪胎を確認したのが3時間程前。避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を閉鎖」

 

 本降り。

 つい先程──午前中までは日差しが出ていたことなど思い出せないくらいの雨が降っている、そんな中。四人の人影がとある少年院の敷地内で佇んでいた。傘も差さずに、スーツ姿の男が他三人に状況を説明していた。

 

「『受刑在院者第二宿舎』。5名の在院者が現在もそこに呪胎と共に取り残されており、呪胎が変態を遂げるタイプの場合()()に相当する呪霊に成ると予想されます」

 

 スーツ姿の男──高専所属の補助監督、伊地知潔高(いじちきよたか)が淡々とそう告げた。その指示を聞いていた、呪術高専東京校の一年生等三人が浅く頷いて返す。

 少年院の敷地内、規則的に立ち並ぶ木々の木の葉に当たる雨の音が、胸騒ぎと不快にリンクする。

 一年生が内の一人、虎杖悠仁がいつも通りの表情で口を開く。

 

「なぁなぁ、俺特級とかまだイマイチ分かってねぇんだけど」

「「「…………」」」

 

 閑話休題(ズコッ)

 

「……クラスター弾での絨毯爆撃でトントン? ヤッベェじゃん」

「それも、通常兵器が呪霊に有効と仮定した場合の話だ。実際はもっと厄介だぞ」

「えぇ、なんで俺ら呼ばれたの?」

 

 事態の重大さを理解した虎杖が引いた目で伊地知を見る。

 

「わ、私の人選じゃありませんから!」

 

 伊地知が慌てて釈明する。そのやり取りを見ていた伏黒が、一度溜め息を吐いたあとに引き継ぐ。

 

「本来なら、呪霊と同等級の術師が任務に当たるんだ。今日の場合だと五条先生とかな」

「……で、その五条先生は?」

「出張中。そもそも高専でプラプラしてていい人材じゃないんだよ」

 

 虎杖の頭に五条の顔が浮かぶ。それから疑問が生じた。

 

「……先生、毎日のように浮舟先輩とイチャイチャしてね?」

 

 言外に「暇人じゃないの」と言っている虎杖の言葉。伏黒は溜め息を吐いた。

 

「メチャクチャ無理してるんだよ、あの人。浮舟さんが絡むとバフがかかるっていうか」

「やっぱ凄いんだな、先生」

「……まぁ、浮舟さんとの時間を確保する為に任務の時間遅らせたり、早く帰る為にワンパンで片付けて報告書適当に書いたりとかもしてるけどな」

「やっぱヤバいんだな、先生」

「今回の出張はその皺寄せかもな」

「うわー……」

 

 脱線しかけた二人の会話を、伊地知が正しく戻す為に「良いですか」と声を上げて視線を集める。眼鏡のレンズに雨粒が付着するのをものともせずに、任務概要の説明を続ける。

 

「この業界は人手不足が常。手に余る任務を請け負うことは多々あります。ただ今回は緊急事態で異常事態です」

 

 一年生三人が頷く。

 

「五条さんもいませんし、現在高専には二年生も三年生もいません。なので、一年生であるあなた方にこの任務が回ってきたというわけです」

「てか、俺達だけで任務って受けれるんだ。五条先生必須かと思ってた」

 

 言い換えれば、保護者の不在。つい先程浮舟に自主練習の監督を務めてもらい、尚且(なおか)つアドバイスを受けていた虎杖にとって、保護者(その)単語はまだ鮮明に頭に残っていた。

 

「二級以上の術師には単独での任務が認められています。伏黒君は二級なので、今回の場合、四級術師であるお二人の監督役は伏黒君ということになります」

「そういうことだ。素直に従えよお前ら」

「へー、凄いんだな伏黒」

「当然だ」

「……あれ、てか浮舟さんって確か結構強いんだったよな。非常時(こういう時)は任務出ないの?」

 

 呪術師としての初歩的な説明を受けていた虎杖は、それによって生じる当然の疑問を口にする。普段高専で見かける二個上の先輩は、記憶が正しければその実力は周囲から結構な評判だったような。

 

「浮舟さんは、任務には出られません」

「そうなんだ」

「当たり前だろ。浮舟さんの身に降りかかる危険を、五条さんや家入さんが許すわけがない」

「……まぁ、それもありますが。そもそも、イレギュラーで生き返った浮舟さんには戸籍が存在しないのです。従って、公的には高専にも所属していないことになります」

「そもそも任務を割り振る選択肢に無い、的なことか」

「そういうことだ。だから浮舟さんの応援は期待するな」

「浮舟さんの戦う姿見たかったなー」

 

 虎杖が唇を尖らせてぼやく。

 

「同感」

 

 そこに同調するは、先程まで黙っていた釘崎。折角セットした髪が雨で崩れていくと共に気分が下がっていたとは本人談。

 雨が止む気配は無い。

 

「──そうだ、お前ら。冗談でも浮舟さんに連絡とか入れるなよ」

「「え?」」

 

 伏黒が念を入れるようにそう言って虎杖と釘崎を見ると、二人は今まさにツーショットを撮っている最中だった。

 

「何する気だオイ……」

「写真でも送ろうかと思って。可愛い後輩の元気な顔見せてあげたら浮舟さんも喜ぶでしょ」

「絶対にやめろ! 浮舟さん来ちゃうだろ!」

 

 閑話休題(……緊急事態なのですがby伊地知)

 

「良いですか。何度も言うように、相手は変態を遂げれば特級に成る可能性のある呪霊です。()()()()()()()()()。特級に会敵した時の選択肢は『逃げる』か『死ぬ』かです」

 

 逃げる。

 死ぬ。

 伊地知の補助監督然とした、淡々と概要を伝える様が一年生三人にようやく緊張感を芽生えさせる。先程まで呑気に状況を聞いていた虎杖の頬を流れる液体は、おそらく雨粒ではない。

 

「自分の恐怖には素直に従ってください。君達の任務はあくまで生存者の確認と救出であることを忘れずに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう、歌姫先輩ったら帰り際普通に改札間違えちゃってさ。全然違う方面に帰ってっちゃったんだよね」

「へぇ」

 

 昼下がり。

 雨下。

 高専内医務室にて。

 エブリデイ暇人な〝僕〟は、急患の処置を終えて遅めの昼食を摂っている硝子ちゃんとのんびりお話をしていた。〝僕〟がなんでもない話をして、硝子ちゃんが相槌を打つ。そんな静かな空間。

 しとしと。

 窓を閉めてても聞こえる雨音と、普段よりゆったり流れる時間。眠たくなるような昼下がりに、どこかリラックスした気分で身を任せる。パイプ椅子の背もたれに体重をかけながら、硝子ちゃんが淹れてくれたホットコーヒーを一口飲んで──

 

「大変です浮舟先輩ッ!!」

 

 スパァンッ! 

 医務室のドアを勢い良く開けて、灰原が入ってきた。驚いて()せる。

 

「大丈夫かー、いずる」

 

 背中をさすってくれる硝子ちゃん。落ち着いてから「ありがとう」と礼を述べ、灰原に向き直る。

 

「……お帰り、灰原」

「あ、はい。ただいま戻りました」

「医務室直行ってことは、どこか怪我しちゃったの? 大丈夫?」

「いえ、医務室に行けば浮舟先輩がいるだろうという予想で来ました! 僕は無傷です!! ピンピンしてます!!」

 

 補助監督ですしね!! 

 親指で自分を指して元気アピールをする灰原に惜しみない拍手を送る。

 

「それは良かった。七海は?」

「直帰しました!!」

「相変わらずだねー」

「はい!! ──ってそうではなく!!」

「……灰原、声のボリューム少し落としてくれ」

「すみませんでした家入さん!!」

「……ハァ」

 

 少しも落ちていない声のボリュームと共に高速で頭を下げた灰原に、硝子ちゃんはウンザリしたような顔を見せて、デスクワークチェアと共に部屋の端へと避難した。

 

「浮舟先輩、大変なんです!!」

「落ち着いて、なにが大変なのさ」

「これを見て下さい!!」

「? どれどれ」

 

 灰原がこちらに差し出すは、高専の補助監督に支給されているという仕事用の端末。これさえあれば補助監督間のネットワークにアクセス出来て、電話帳には補助監督全員の連絡先が乗ってるしで、補助監督には携帯必須の代物である。

 そんな、補助監督が使う端末に映し出された画面。何をそんなに焦っているのかと、らしく無い態度を見せる灰原を(いぶか)しみながら確認する。

 

「…………は?」

「七海を車で送ったあと、どこか手こずってるところとかあれば応援に向かおうかなと考えて、現在東京校エリアで遂行中の任務一覧を確認したんです。そしたら、一年生の子達が五条さんの引率無しに任務に出てるんですよ!! 有り得なくないですか!?」

「少年院上空に出現した呪胎……。下手したら特級案件か。いくらケイちゃんが優秀でも、虎杖君と野薔薇ちゃんを連れていくのは有り得ない。それでなくても完全に等級違いの任務」

 

 窓の外の音の大きさで、雨足が強まったように錯覚する。けれども違う。〝僕〟達が黙ってしまっただけだ。

 

「……硝子ちゃん。お願いがある」

 

 少し離れた場所でコーヒーに息を吹きかけていた硝子ちゃんに、〝僕〟は真面目な態度で()()()()をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い痛い痛い辛い辛い辛いなんで俺が。

 あの時俺が指なんて拾わなければ。

 あの時。

 あの時。

 ……やめろ、考えるな。

 嫌だ。

 もう嫌だ。

 逃げたい。逃げたい。

 死にたくない。ここで死んで、死んだとして、それは()()()()か? 

 考えるな。

 

「ッ……」

 

 呪胎から変態を遂げた特級呪霊。ここで変われば伏黒と釘崎を殺すと言いやがった宿儺にどうにかして変わる為に、伏黒と別行動を取り、特級呪霊の相手を単身で請け負って戦っている最中。

 特級呪霊が全方位に放つバリアみたいな呪力を両手で受け止めている俺は、段々と焼き焦げて消えていく指先の痛みに涙しながら、必死に()()()()()()()()()()()

 左腕は、手首から先が無い。

 右腕の指先は、第一関節までしか残されていない。

 それでも耐える。伏黒から来るであろう合図を待ちながら、なるべく時間を稼ぐ。

 ……だけど、考えないようにすればするほど、痛みに耐えれば耐えるほど。

()()()()を考えてしまう。

 

『……くん』

 

 奥歯を噛み締める。足腰に力を入れる。決して押し返せない呪力の壁を、両手を焦がしながら受け止める。

 伏黒はまだか。まだ釘崎を見つけられないのか。

 

『……どり君』

 

 やがて、身体が浮き上がる感覚。真後ろへの浮遊感を覚えて、耐えきれなかったのだと自覚した。

 

『──虎杖君、聞いてる?』

 

 背中に感じる衝撃。どうやら壁際まで飛ばされたらしい。

 なにが可笑しいのか、ケタケタと笑っている特級呪霊。絶望的な状況に力無く頭が垂れる。

 瞬間。俺の脳がつい数時間前の記憶を思い起こさせた。

 

 

 

 

 

『あー、じゃあまだ呪力の込め方とか教わってないんだ』

『そうなんすよ』

『まぁ、最初って呪力込めるの結構ムズイからね。今日教えてすぐ実戦で使えるようになるってもんでもないし』

『取り敢えずこの武器だけ貸してもらって、宿儺の力を借りずにそれで祓えって言われました』

『……屠坐魔(とざま)かぁ。真希ちゃんのだ』

『真希ちゃん?』

『ううん、こっちの話。それ結構良い武器だよ』

『はぁ』

『じゃあ、取り敢えず呪力云々よりも一番大事な話をしよっか。野薔薇ちゃんも集合』

『なによ』

『虎杖君も野薔薇ちゃんも、今二人とも得物を持ってる状態だね』

『おう』

『そうね』

『じゃあ、なにかしらの理由があってその得物が手元に無い。もしくは使えなくなってしまった。しかも目の前の呪霊からは絶対に逃げられません。……そんな時どうする?』

『なにかしらの理由?』

『逃げられません?』

『理由はなんでも良いよ。兎に角こんな風に〝僕〟が二人の武器を取って、ポイッ──ケイちゃんナイスキャッチ』

『投げるなら一声かけてください……』

『はい、虎杖君も野薔薇ちゃんも丸腰になっちゃいました。どうする?』

『どうする……って』

『はい。悩んでる間にも〝僕〟という名の呪霊は二人をぶち殺そうと近付いてきてるよー』

 

 

 

 

「…………へへっ」

 

 死の間際に何故か思い出した浮舟先輩のアドバイス。その無茶苦茶な内容を頭の中で反芻して、俺はこんな状況にも関わらず、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエ、顔覚えたからな」

 

 薄暗い空間。

 辺りには祓った呪霊の残骸が多数。

 その真ん中に私。

 私と、祓い切れなかった呪霊多数。

 身体のあちこちが痛い。

 金槌は早々に駄目になった。

 釘も何処かへ飛び散った。

 藁人形も壊された。

 絶体絶命。勝ち目無し。認めたくないけど、つまりはそんな状況。

 まさか浮舟さんの言ってたことが本当に起こるなんて。ツイてない。

 

「絶対呪ってやる」

 

 両足を掴まれ、抵抗も出来ないまま(というか抵抗する力すらないまま)上下逆さまの体勢で揺れる。間抜けな顔の呪霊を睨みつけて、呪いの言葉を残す。私の意地とプライドにかけて、お前だけは絶対に呪ってやると言葉にして意思表示をする。

 

「…………」

 

 ……私、死ぬのね。

 

『はい、虎杖君も野薔薇ちゃんも丸腰になっちゃいました。どうする?』

 

 ……ったく、なんで今際にあの人の顔が浮かぶのよ。

 

『どうする……って』

 

 あー、今思い出してもイライラする。なんなのよあの無茶なアドバイス。色んなこと教えてもらったけど、なんであのアドバイスだけあんなにも横暴だったのかしら。

 

『はい。悩んでる間にも〝僕〟という名の呪霊は二人をぶち殺そうと近付いてきてるよー』

 

 実体験? これで実際に助かった? 馬鹿言うんじゃないわよ。それくらいピンチな状況になってるんだから、そんな無茶出来るわけないじゃない。ふざけんな。バーカバーカ。

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

『分かんない? そっか、よし。じゃあこれだけは覚えて帰ってね』

『早く教えなさいよ』

 

 虎杖と釘崎からの答えを待つが、黙るばかりでなにも帰ってこない。浮舟は笑って回答を締め切ると、釘崎からの催促。浮舟はなにがおかしいのかまた笑った。

 笑ってから、正答を述べ始めた。

 

『どんなに死にかけてても、呪霊って触れるんだよね。虎杖君もそうだよ? 呪力の流し方知らなくても、呪霊には触れるの』

 

 そんなこと誰でも分かる。呪術に触れて間も無い虎杖も、杉沢第三高校での一件から()()()()を理解していた。しかし浮舟の真意は理解出来ず、釘崎と共に首を傾げた。

 釘崎が口を開く。

 

『触れるからなんなのよ』

 

 浮舟が笑う。

 

『限ッッッッッッッ界まで足掻いて。呪霊に殺させる隙を与えるな。死ぬ気で死ぬ気で死ぬ気で死ぬ気で足掻いて、邪魔をして、なんかもう動き過ぎてそれが死因で死にそうだわってくらい大暴れして。兎に角時間を稼ぐ。そしたら勝てるとまでは言わないけど、誰かしら助けは来ると思うから』

『『…………はぁ?』』

 

 人任せかよ。

 そうツッコミを入れたくなるのを、先輩とそれに従う伏黒(後輩)の手前控える。しかし代わりに出た拍子抜けの言葉は、伏黒の眉を(ひそ)めさせるには十分なものだった。

 

『おい、浮舟さんがアドバイスを下さったんだぞ。まずはありがとうございますだろ』

『──いやいやいやいや! 伏黒アンタなんでもかんでもYES YES言ってんなよ! 明らかに意味分かんねぇだろーが今の言葉ッ!』

『落ち着けって釘崎。まだ続きがあるかもしんねーじゃん』

 

 浮舟のイエスマンと化している伏黒に殴り掛かろうとする釘崎を、虎杖が羽交い締めしてなんとか押さえている状況。浮舟は気にせず『いやさ』と続けた。

 

『〝僕〟って昔丁度似たような場面があってさ。等級違いの任務喰らってた後輩達を助けたことがあったの』

『……それって』

 

 ヘラヘラと笑いながら語る浮舟。その内容から何かを察した伏黒が呟くが、誰にも拾われることはなかった。

 

『後輩達が相手してた呪霊ってのがまた厄介でさ。後輩達逃したあともそれ追っかけちゃう可能性があるから〝僕〟が死ぬ気で食い止めなくちゃいけなくて』

『強かったの?』

『うん。メッチャ』

『メッチャ』

 

 浮舟の言葉を虎杖が復唱する。

 

『術式持ってるしパワーもあったし、戦ってすぐにこんなの勝てるわけないって悟ったよ。でも後輩達には安全なところまで逃げてもらわなくちゃいけないから、〝僕〟まで逃げるわけにはいかなかったわけ』

『……浮舟さん。それ、どうしたの?』

 

 浮舟の語る過去に興味が湧いたのか、神妙な表情で質問を投げかける釘崎。

 浮舟は『さっき言った通り』と前置きしてから。

 

『メチャクチャ足掻いたよ。後輩達早く逃げてくれーって思いながらね。お酒飲みまくってゲロ吐きまくって、命からがらの状態。呪霊自体は奇跡が重なってなんとか祓えたんだけど、身体も内臓もボロボロで一人じゃ帰れないし、もうこのまま死ぬんだなって感じ』

『『『…………』』』

 

 息を呑む。

 いつもニコニコ笑っている優しい先輩が抱える壮絶な過去を浴びて、ふざけることも出来ずにただ聞き入ってしまう。

 

『でも、同期達が助けに来てくれたんだよ。ね? これって凄いことでしょ。もしも〝僕〟が早々に諦めて死を受け入れていたら、〝僕〟は死んでたし後輩達も危なかった。でも死ぬ気で足掻いたから、結果みんな助かったってわけ。……まぁ〝僕〟はそのあとガッツリ死んじゃったんだけどね』

『浮舟さん、笑えません』

『えぇ、マジ? 恥ずかしい──兎に角っ!』

 

 スベッた事実を掻き消すかのように、浮舟が声を張り上げる。それから、優しい表情で笑った。

 

『呪霊に圧倒されて、ボロボロの状態で死にかけてても、生きたければそこから更に足掻いて』

『足掻く……』

『可愛い後輩をみすみす死なせるなんてポカ、絶対にやらかさない。なにがあったって必ず助けに向かう。だから、〝僕〟が──〝僕〟じゃなくても、五条とか頼れる大人達が駆け付けられる(間に合う)確率が少しでも上がるように、死ぬ気で足掻いてほしい』

 

 それは、アドバイスというよりも願いに近かった。

 誰も死なせなくないという浮舟の願い。

 君達に生きていてほしいという浮舟の願い。

 拳の握り方でもなく、蹴りのフォームでもなく、どうしようもなくなった状況からの精神論。

 無茶苦茶な先輩。しかし不思議と、一年生達はその言葉を大事なものだと思っていた。

 死に際に思い出してしまうくらいには、浮舟の言葉を真面目に受け取っていた。

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

「…………ッ」

 

 試しに拳を握ってみる。上手く力が入らない。

 

「…………ッ」

 

 試しに握られた両足を振り解こうと動かしてみる。上手く力が入らない。

 

「…………当たり前でしょ。もう十分に足掻いたあとなんだから」

 

 金槌が壊れてからも、拳で応戦した。ここで死んだら同期二人に笑われる気がして、死に物狂いで呪霊を殴って祓った。

 でも、それもすぐに限界が来た。

 ざけんじゃないわよクソ呪霊共。特級呪霊の呪力に当てられたのか知らないけど、次から次へと湧いて出やがって。私の体力は有限だっつーの。

 私の足を掴んでいる呪霊が、口を大きく開ける。顔を背けたくなるほどの悪臭を浴びてしまい、大きく舌打ちをする。

 粒々した舌の向こうには、真っ暗な穴。あそこに呑み込まれたらおしまいなことくらいは、瀕死の私にも理解出来る。

 

「…………誰も助けに来ないじゃない」

 

 呪霊が腕を動かし、私を口の上へと迎え入れようとする。キショい粒々の舌が近づいてくる。

 もう無理。死ぬ気で足掻いたけど、もう身体動かない。

 私は死ぬ。

 誰にも知られず、特級呪霊の生得領域の中でキモい呪霊に喰われて死ぬ。

 

「…………ごめんね、沙織ちゃん。ふみちゃん」

 

 私は死ぬ。

 ここで死ぬ。

 …………。

 クソッ。

 

「…………浮舟さんの嘘吐き」

 

 悪態をつく。

 脳裏に浮かぶ、能天気に笑う二個上の先輩。

 何故か化粧品に詳しくて、女子顔負けの肌ツヤをしてやがる浮舟先輩。

 ふざけたアドバイスをくれやがった浮舟さんが、5回くらい連続で電車の乗り換えミスりますようにと不幸を願う。

 呪霊の舌と私の身体が、触れ

 

「だ〜〜〜〜〜れが嘘吐きだよ、オイ」

 

 突風と、破裂音。それがなんなのか気付いたのは、呪霊を構成していた液体の雨が私の顔に弾け飛んできた後だった。

 私の足を掴んでいた腕だけを残し、爆裂四散してみせたキモい呪霊。宙に取り残される形となった私は、上下逆さまの体勢のまま頭から地面へと落ちて──

 

「よっと」

 

 何者かに抱き抱えられた。

 

「怪我してない? ……って、そりゃしてるか。まぁ生きてるだけで二兆点満点だぜ」

 

 制服越しでも感じるくらいの体温の高さ。

 鼻を()くお酒の臭い。

 私はそんなわけがないと、私の身体に触れている不届者の正体を確認すべく顔を見上げた。

 私を抱き上げている()は、ニィッと不敵に笑いかけてきた。

 

「よく頑張ったな、野薔薇ちゃん」

 

 

 

 

 





虎杖悠仁:右も左も分からん状態で特級案件を任されてしまった可哀想な一年生。特級呪霊を前に一度は心が折れたが、足掻く為に再び奮闘しているらしい。

「全て出し切れ。拳に──のせろ!」




釘崎野薔薇:生得領域に入って早々に二人と分断され、独り呪霊と戦い続けた勇気ある一年生。呪具を破壊されてもなお拳を握って戦い続けた。浮舟には言いたいことが色々あるらしい。

「よく頑張ったな、野薔薇ちゃん」
「……は?コイツよく見たらまつげ長過ぎんか?ふざけんなよマジで」




伏黒恵:釘崎を助ける為、特級呪霊の生得領域内を玉犬と共に爆走しているらしい。

「なんだ……、この呪力。──まさか」




浮舟出:等級違いの任務を任された後輩という構図にトラウマを刺激され、灰原に運転させて現地まで急いだらしい。()()()は許可された模様。

「うわ!どうしよう!もう車の中からお酒飲んでおいた方が良いかな!それとも建物の中入ってからの方が良いかな!あんま早く飲み過ぎると効率悪いかもしんないもんな!でもギリギリ過ぎると敵の不意打ちとか喰らっちゃう可能性もあるしどうしよう!」
「浮舟先輩落ち着いてください!!」




筆が乗ったので久しぶりの週一投稿です。その節はご迷惑おかけしております。毎週これだけ執筆の時間取れれば最高最高最高なんですけどね!

いつも更新待っててくれてありがとうね!感想とか評価もありがとうね!誤字修正もここすきもありがとうね!

これからも爆裂に頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。
ではまた。

誰好き?

  • 浮舟出
  • 五条悟
  • 家入硝子
  • 夏油傑
  • 七海建人
  • 灰原雄
  • 伊地知潔高
  • 庵歌姫
  • 冥冥
  • 夜蛾正道
  • 九十九由基
  • 乙骨憂太
  • 折本里香
  • 禪院真希
  • パンダ
  • 狗巻棘
  • 枷場美々子
  • 枷場菜々子
  • 伏黒甚爾
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。