アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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ブーストあり!ブーストあり!




アル中と両面宿儺。

 

 

 

 

「浮舟か。こんなところでなにをしている。危ないだろう」

「あれー? 宿儺様じゃないですか〜〜! お久しぶり〜〜!」

「ふん、久方振りの再会だというのになんとも呑気な奴だ。まさかお前がここに来るとは思わなかったぞ」

「そりゃあ許可貰ったからここにいるんですよ! ……あれ、二人でお月見した以来でしたっけ?」

「そうなるな」

 

 雨の中、談笑する二人。伏黒と両面宿儺が今から命を懸けた戦いをする──そんな場面で、突然現れた浮舟出という男。

 尊敬する先輩と呪いの王(両面宿儺)がまるで昔からの友人のように気さくに笑いあっているのを見た伏黒は、わけがわからず一旦構えを解いた。

 不意に、浮舟が一度大きなくしゃみ。寒さか、それともむず痒さからか。理由は定かではないが兎に角、くしゃみをした。

 それから、鼻を擦りながら首を動かし、伏黒と目が合った。

 

「あ、ケイちゃんお(ひさ)! 酒飲み(サケノミ)王子こと、浮舟出で〜〜〜〜す。って、ハンカチ王子みたいに言うな! うわ! 痛いっすよ浮舟さ〜〜〜〜ん! ドンデンドンデンドンデンドンデン」

「…………」

 

 なんなんだこの先輩。伏黒は呆けながらも、自分で自分にツッコミを入れながらご機嫌に振る舞う浮舟の姿を見続けた。

 

 閑話休題(雨は止まない)

 

 つい先程抜き出したばかりの心臓を、浮舟に見られぬよう茂みに投げ入れた両面宿儺。

 伏黒と肩を組み、酒瓶を持っていない方の手でスパイダーマンの糸を射出するポーズを取る浮舟出。

 なんかもう全てを投げ出したくなる衝動に駆られ、空を仰ぐ伏黒恵。

 混沌としているこの場で、意外にも両面宿儺によって話が切り出された。

 

「──それで? どうするのだ」

「どうする、って……なに? 宿儺様、そもそもなんでこんなところに? 虎杖君は? 特級呪霊は?」

 

 浮舟は首を傾げ、自分がここまで酩酊自失(めいていじしつ)の思いで走ってきた理由を思い出す。そんな言葉は無い。

 

「…………」

 

 特級呪霊の相手をしているというケイちゃん(伏黒)と虎杖を助けに来た筈。しかしこの場にいるのは、胸に傷があり上半身裸の虎杖悠仁(両面宿儺)と疲労困憊といった様子の伏黒恵のみ。浮舟は数秒考え、それから閃いた。

 

「……あぁ、宿儺様に代わって倒してもらったんだ」

「そういうことだ。(さと)いな」

「いやぁ、へへへ」

「…………」

 

 唖然。

 伏黒がつい先程まで感じていた肌を刺すような殺気は鳴りを潜め、今の両面宿儺の表情はどこまでも柔らかい。まるで愛孫に接する老夫のようである。

 

「じゃあ解決じゃん。ケイちゃんも大した怪我じゃないみたいだし、良かった良かった」

 

「帰ろ帰ろ」と二人に背を向け、一足早く歩き出した浮舟。ここにもう脅威は無いと判断したのか、その背中は無防備極まりない。

 

「…………」

 

 終わった、のか。

 伏黒の中に複雑な感情が渦巻く。

 戦いは避けられないと思っていた。しかし今の状況はどうだ。両面宿儺はこちらに対する興味を無くし、浮舟の背中を見つめている。

 安堵。

 伏黒は、悟られぬよう視線を下げ、長く息を吐いた。

 しかし虎杖が帰ってきて(なにも解決して)いないことを思い出して慌てて顔を上げ──

 

(あぶ)ね」

 

 眼前に迫る虎杖悠仁(両面宿儺)の拳を両腕で防ぐ浮舟。容易く止められたという事実は本来ならばプライドが傷付きかねない事態だが、両面宿儺はただ嬉しそうにゲラゲラと笑った。

 再び伏黒が視線を上げた時、その目に映ったのは、そんな衝撃的な光景だった。

 

「ほう、止めるか」

「そんだけ()()()()()殺気出されちゃあねー。宿儺様、オレのこと試した?」

浮舟()の今の実力とやらを知りたくてな。高専でぬくぬくと生活していたにしてはいい反応だ。褒めてやる」

「ありがとうございます」

「……ふむ、そうか。そういう道もあるか」

「なにか言った? 宿儺様」

 

 浮舟を褒めたあと、一度なにかを考える素振(そぶ)りを見せた両面宿儺。突然の思案と、その際呟いた一言。浮舟が呟きの意味を問えば、両面宿儺はニヤリと笑った。

 

「二人がかりで来い。相手してやる」

「はぁ?」

 

 突然の提案に、浮舟が伏黒の方を振り返る。伏黒は何も言えなかったが、その意図を察した浮舟は親指を立てた。

 

「よく分かんないけど良いよ!」

「う、浮舟さんッ」

「勝ったら、()()()()()()で良いんだよね?」

 

()()()()()()

 浮舟の口から発せられた、なにかを濁した言葉。しかし両面宿儺だけはその意味を理解しているようで、首肯。

 

「あぁ。()()()()()()小僧の身体を治してやる」

 

()()()()()()

 その傷はつい先程、両面宿儺が虎杖悠仁の心臓を抜き出したことによるものなのだが、浮舟はその場面を見ていない。

 加えて、酔っている浮舟の頭は心臓に穴が空いている今の虎杖悠仁(両面宿儺)の状態を「呪いの王といえどやっぱ特級呪霊って手強いんだな」程度にしか考えていなかった。

 完全なる誤解。

 けれども、身体の主導権は虎杖に戻さなければならない。その一点だけは理解していた浮舟は、両面宿儺に交換条件を持ちかけたのだ。

 

「よっしゃケイちゃん。頑張ろうぜ」

 

 そんな中、伏黒だけは現状の全てを正しく理解していた。浮舟に優しく笑いかける両面宿儺の、そのドス黒い本性を理解していた。

 だから、平時ならば浮舟を止めなければならない。今から始まるのは高専のグラウンドでやるような組み手とは全くの別物なんですよと、しかと言って聞かせなければならない。

 

「…………」

 

 待てよ、と。

 伏黒は少し考えてみた。

 

「…………」

 

 いや、これはチャンスだ。

 伏黒はそう思った。

 先程、伏黒は両面宿儺と対峙した時こんなことを考えていた。

 自分一人で両面宿儺と競り合い、心臓が欠けた状態では勝てないと思わせれば虎杖の心臓を取り戻せる──と。

 だが戦闘状態に入った両面宿儺を見て、その案が非現実的であると思い至った。

 しかし。

 

「…………今なら、浮舟さんがいる」

 

 本来ならば、頼ってはいけない力。伏黒は浮舟の過去を()()()()()()で知っている為、出来ることならば浮舟にこれ以上苦しんでほしくはなかった。

 しかし。

 同期の命が危ぶまれているこの場面。

 藁にもすがるこの場面。

 

「……やりましょう、浮舟さん」

「お、ケイちゃんも乗り気だね」

「ケヒッ」

 

 伏黒は、選択した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、もっとだ浮舟()! もっと来い!」

「そいそいそいそいそいそい!」

 

 浮舟が拳を、肘を、爪先を、膝を、両面宿儺へと何度も何度も容赦無く叩き込む。しかし両面宿儺はその全てを笑いながら受け止め、時折痛烈なカウンターを返しながら浮舟におかわりを要求する。

 雨でぬかるんでいる地面に、二人の足運びの跡で作られた不可思議な模様が描かれては上書きされる。飛び跳ねた泥により、二人の高専制服は膝あたりまでが見るも無惨な泥色に染まっていた。

 突いた拳が雨を弾く。攻撃を受けた衝撃(振動)で身体に付着していた雨が散る。

 打撃を肘で止められたことにより、浮舟の親指の爪にはヒビが入っている。

 カウンターをモロに食らったことにより、鎖骨も肋も折れている。

 しかし、浮舟は笑っていた。

 血が滲む口端を引き上げ、嬉しそうに笑っていた。

 

「やっぱ宿儺様強ぇんだね! オレのラッシュ正面から受けて無事なのって五条くらいしか知らないから、なんか新鮮!」

「たわけ、この俺を他の者と同列に扱うな。泣きを見るぞ」

「もう見てるって! ──ケイちゃんッ!」

「はい!」

 

 これ以上浮舟のラッシュを受けても得るものは無いと判断したのか、両面宿儺が浮舟の制服の襟部分を両手で掴みにかかる。それによって起こる未来を予見した浮舟が伏黒に指示を飛ばし、応えた伏黒が蝦蟇(がま)の舌で浮舟の足首を掴んで引き寄せた。

 

「ナイス、ケイちゃん!」

 

 親指を立てた浮舟が伏黒の頭上を越え、後方へと飛んでいく。突然離脱した浮舟を追ってきた両面宿儺に、伏黒は蝦蟇(がま)と入れ替わる形で喚び出した玉犬(白)を当てがった。

 

「芸のない」

 

 両面宿儺は鋭い牙を剥き出して飛びかかってにた玉犬(白)を回し蹴り一つで払い飛ばし、それから退屈そうに溜め息を吐いた。

 

浮舟()伏黒(オマエ)も、なんだその為体(ていたらく)は。そんな実力で──」

 

 どこかウンザリとした様子で二人の実力を嘆く両面宿儺。

 その顔に、泥がかけられた。

 

「…………」

 

 溜め息の途中で突然遮られた視界。両面宿儺が無言のまま手で顔の汚れを拭い落とせば、明瞭になった視界の遠くに笑う浮舟。

 

「石が入ってないだけ良心的でしょ?」

「……一度仕置きが必要だな」

 

 両面宿儺もこの攻撃には流石に腹が立ったのか、ポキポキと指を鳴らしながらゆっくり前進を始めた。

 そんな両面宿儺を止めるべく、伏黒が間合いへと飛び込んだ。

 

「シッ!」

 

 真希から習った、格闘術に通ずる体重移動。地面を蹴り、上体を一切揺らさず──つまりは行動の前に必ず起こる予備動作を極めてゼロに近い値まで近付ける。結果相手に悟られず、足運びだけで彼我(ひが)の距離を詰めた伏黒。浮舟に注意を向けていた両面宿儺の顎に視覚外から強烈なアッパーカットを振り上げた。

 

「甘い」

 

 毎日のように()()()からしごかれた末に身につけ、それ相応の練度を誇っている筈だった伏黒のアッパーカットは当たり前のように半身で(かわ)され、手首を掴まれて頭突きを喰らう。虎杖悠仁の頭の石のような硬さを思い知りながら、伏黒は数歩たたらを踏んで後ろに下がる。

 

大蛇(オロチ)ッ」

 

 両面宿儺からの追撃を避け、伏黒は自身の影から大蛇を喚び出した。熱帯雨林の水辺に生息する巨大アナコンダよりも遥かに大きな大蛇(オロチ)虎杖悠仁(両面宿儺)の胴体を軽々と()んでみせたが、両面宿儺の両腕を広げるという動作一つで大蛇(オロチ)の強靭な顎は容易く裂かれ、そのまま式神ごと破壊された。

 

「この調子では、小僧の身体はいつまで経っても治らんぞ」

 

 虎杖悠仁(両面宿儺)の頭突きを受けたことにより、大蛇(オロチ)という一手を終えても(なお)明滅している伏黒の視界。

 頭を振って治そうとするが、額に残る痛み同様、そうすぐに治るものでもない。熱を持ち始めた額につい手をやれば、両面宿儺はもうすぐそこまで迫っていた。

 

「ッ」

 

 理屈でも、経験から来る行動でもなく、無心でただ反射的に仰け反る。頭より先に身体で動いたその判断は正解だったようで、仰け反って天を向いた鼻先を虎杖悠仁(両面宿儺)の殺人的な蹴りが掠めた。

 

「よく避けた」

偶々(たまたま)に決まってんだろ……!」

 

 2度は無い。攻撃を仕掛けた側も(かわ)した側も、不思議と同じ言葉が浮かんだ。

 両面宿儺が少し楽しげに嗤う。

 

「次はどう逃れるつもりだ?」

「……さあな」

 

 一歩一歩、両面宿儺が嗤いながら近付いてくる。相手のタイミングで間を詰められぬように伏黒も同じ歩幅で後退(あとずさ)るが、だからと言って人外の膂力や敏捷性を持つ両面宿儺に有効な攻めも、受け切る守りも、あっと驚くカウンターも持ち合わせてはいない。

 つまりはジリ貧。

 伏黒に残された手は語るも恥ずかしい()()()のみ。

 両面宿儺を打倒するその(すべ)。伏黒にはなくとも、浮舟にはあった。

 

「……成る程、いつの間に印を結んでいたとはな──上かッ!」

 

 遡ること十数秒。両面宿儺の蹴りを仰け反って躱した際の一瞬、自らの式神の一つ(ぬえ)を喚び出す手印を結んだ伏黒。後方にて泥を握り固めていた浮舟を、両面宿儺に悟られぬよう上空へと連れ去っていた。

 今この瞬間。

 ここにきて両面宿儺が頭上から迫り来る呪力に気付くが、気付いた時にはもう遅い。

 高度40メートル。(ぬえ)が浮舟の肩から足を離した後、浮舟は力を溜めるように膝を抱え、自由落下と共に前回転を始めていた。

 落下速度と比例して上がる回転速度。回る視界の中、どんどん近付いてくる両面宿儺の頭部と自らの脚のリーチ。その距離感を正確に掴んだ浮舟は、伸ばした脚の先──両面宿儺の無防備な脳天に踵を落とした。

 

「──ダラッシャアッ!」

 

 鈍い音。

 舞い散る泥水。

 それらによって思わず顔を背けた伏黒は、直後向き直って目にした光景に舌打ちをした。

 

「なんでピンピンしてんだよ……!」

 

 当人以外には知る(よし)もないことだが、両面宿儺にも多少のダメージは入っていた。

 それでも、アルコールを取り入れた浮舟の人外のパワーをよく()()()()()()()伏黒は、浮舟の攻撃を受けても(なお)2本の足でしっかりと立っている両面宿儺に、そう言わずにはいられなかった。

 

浮舟()も勿論だが、オマエの判断も少しは良かった──……成る程。オマエの式神、影を媒体にしているのか」

「……ならなんだ」

「分からんな。オマエ、あの時何故逃げた」

「?」

「宝の持ち腐れだな」

 

 伏黒の術式のナニカに気付いたのか、それを使いこなせていない伏黒に呆れた様子を見せる両面宿儺。

 自分の何が悪いのか──というよりも、自分の中に潜む可能性(ナニカ)に気付いていない伏黒は、意図を理解できず眉間に皺を寄せた。

 変態を遂げた特級呪霊を前にして、逃げるという選択をした伏黒。

 伏黒のその選択を愚かだと切り捨てた両面宿儺。

 戦いの中で上昇した体温が雨によって冷えていくのを感じる。両面宿儺の言葉の真意を探る伏黒の思考が、段々と深まりかけたその時。

 堂々と立つ虎杖悠仁(両面宿儺)の二本足。

 左足と右足。

 その間を、いつの間にか背後を取った浮舟の右脚が昇っていった。

 まだ気付かない両面宿儺。

 その光景をしかと認識していた伏黒は、昇っていく脚が酷くスローに見えたと後に語った。

 

「ぐおぉッッ!?」

 

 命中。

 男にとっての命そのものを力の限り蹴り上げた浮舟は、ぬかるむ地面に強く両膝をついた両面宿儺を見下ろした。白目を剥いて静かに悶絶する両面宿儺に、不敵な笑顔で言い放った。

 

「話長ぇーんだよッ!!」

「こ、この大たわけ……!」

 

 正気を取り戻した両面宿儺が、忌々しげに浮舟を見上げる。

 両面宿儺(呪いの王)にも金的は有効。浮舟は心のメモにしかと刻んだ。

 

「平安時代だと金的はナシか!? だったらごめんな!!」

 

 初めて見る、余裕がなくなった両面宿儺の表情。その悔しげな表情を見ることができて気を良くしたのか、浮舟は更に言葉を続ける。

 だから見えなかった。

 両面宿儺が震える右手で、構えを取っていたのを。

 

「……(かい)

「あ?」

 

 この場にいる全員の耳に、音が入った。

 音。

 斬撃音。

 なにか柔らかい物がスパッと切れる音。

 柔らかさの奥に硬さがある物が、地面に滑り落ちる音が、耳の穴から鼓膜へと滑り込んだ。

 

「──ああ……!?」

 

 浮舟出の左腕が、雨降りしきる地面に落とされた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く。浮舟()、お前の課題はすぐ調子に乗るところだ。浮舟も常に酔っ払ってはいたが、こうも楽天家ではなかった。……まあ、傷付けて悪かった。本当に反省している。お前を鍛えてやるのはまた次の機会だな」

 

 いつの間にか立ち上がっていた宿儺様が、オレになにか、アドバイスだか謝罪だかよく分からないものをしている。

 でも、なにも頭に入ってこない。

 だって、腕が斬り落とされてんだから。

 

「ぐぅぅ……!」

 

 痛む傷口を右腕で押さえる。指の隙間から血がどんどん流れていくが、これ以外に方法がない。

 

「おい浮舟()。聞いているのか」

 

 宿儺様を見下ろした時、何かが来るのは分かった。だから咄嗟に左腕で防いだ。

 ……なのに。

 

「……あぁ、そういうことか。浮舟()、もうお前の左腕は呪具ではないのだぞ。そう気軽に攻撃を受けるな」

 

 次は避けろよ。

 文末にそう付け加えた宿儺様の言葉。その言葉の意味を段々と理解出来るようになったかと思えば、次に膝をついていたのはオレだった。

 

「浮舟さん!」

「来るなケイちゃんッ! まだ、戦闘中だ……!」

 

 駆け寄ってこようとするケイちゃんを止める。あの見えない斬撃の避け方が確立されていない以上、オレの近くに来てはいけない。

 そもそもの話、宿儺様の見えない斬撃(あの技)の射程が分からない以上、今ケイちゃんが立っている場所だって安全かどうか分からないのだ。

 だから、止める。ケイちゃんを護る為。そして、無闇に宿儺様を刺激しない為。

 そんなオレとケイちゃんの遣り取りを、宿儺様は鼻で笑った。

 

「その状態で戦いも何もないだろう、浮舟()

「五月蝿ぇ! オレは……、アンタ(宿儺様)に虎杖君の怪我治して貰わないといけないんだよ……!」

「そうまでして、未だこの小僧の身を案ずるか。()()の自己犠牲も、ここまでくれば本物だな」

 

 血を流すオレの(ザマ)を見て笑う宿儺様。オレへの嘲りの中に含まれた意味深な言葉。

 

「? それ、どういう」

 

 その意味を問うが、宿儺様は耳を貸さなかった。()()()を察知し、忌々しげに舌を鳴らした。

 

「チッ、……小僧め。──おい浮舟()。腕はちゃんと持って帰るんだぞ。あの女の反転術式でも治るだろうが、流石に腕が無くてはどうにもならん」

「ま、待て……! 宿儺様……!」

「待つものか。戦いの前に提示した条件を忘れたのか? 全く、愚かで()い奴め」

「まだ負けてない!」

「いいや、浮舟()。お前は負けた。負けたのだから、小僧の身体は治してやらん。当たり前の理屈だろう」

「待って! ──待って……、下さい……!」

 

 痛みに震える脚を動かし、宿儺様の元へと駆け寄る。だが思い通りに動かないオレの脚はぬかるみに取られてバランスを崩す。顔面から転びそうになったその時、オレの身体を支えたのは宿儺様だった。

 虎杖君を助けられないかもしれない。

 そう考えてしまうオレの脳みその司令によって涙が滲む視界。宿儺様はオレの目の端に溜まった涙を指で掬い、舐めた。

 気色の悪さに粟立つオレの背筋を下から上へと撫でた後、腰に手を回して抱き寄せた。

 

「ククク、その表情(かお)、いいぞ。(そそ)る。美味そうだ」

 

 恥辱に塗れたオレの顔を見て、宿儺様が笑う。

 

「勘違いするなよ、浮舟()。俺はお前のことを嫌いになってなどいない。ただ何をしても()い様を見せるお前を、今はただ虐めてやりたい気分なのだ」

「虎杖君を……!」

 

 無事な右手を伸ばす。左腕が無くて右腕があるという、今までとは逆の状態に一瞬頭が混乱するが、宿儺様の顔めがけて伸ばす。

 

「あ」

 

 髪でも引っ張ってやろうかと考えていたのだが、宿儺様はオレから突然手を離した。バランスを崩して地面に転がる。

 

「浮舟さんッ!」

 

 ケイちゃんがオレを抱き寄せて傷の具合を診る。来るなって言ったのに。

 未だ血を流し続けている自身の左腕の断面を見て血の気が引いたオレは、目を背けるように肘から上の()()()()()の力を抜き、ダランと下に降ろした。

 

「……俺は、お前を助けた理由に論理的な思考を持ち合わせていない」

 

 ケイちゃんが何かを言っている。霞み始めた視界でケイちゃんの顔を見上げれば、ケイちゃんはオレではなく宿儺様に──いや、もう入れ替わっている虎杖君に話しかけていた。

 

「危険だとしてもオマエのような善人が──」

 

 ケイちゃんが言葉を続ける。しかしオレにはずっと聞いていられるほどの余裕は無く。重たくなってきた目蓋(まぶた)を再び持ち上げることは叶わず、ゆっくりと意識が落ちていくのを最後に自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ほう、つまりお前はこう言いたいのか。()()()()()()()()()()()()()()()──と』

『まあ端的に言えばそうっすね〜』

『宿儺様。お言葉ですが、コイツは信用なりません。コイツの言葉には何一つとして信ずるに値するものはなく、何よりコイツは今酒に酔っています。聞くだけ無駄では』

『良い。……お前、続けろ』

『ほら、オレも一応貴族ではあるんですけど、なんかもう貴族の中でも呪術師が中心になって勝手に事を進めているといいますか。弱小貴族としては、端に追いやられているみたいでマジムカつくんですよね』

『マジ……?』

『誠に、みたいな意味です──そんでもってオレの故郷もこの前宿儺様に救っていただいたことですし、こりゃもう翻すしかないっしょ、反旗。って感じで』

『……お前の言葉は、一体何処の国の言葉なのだ。聞いていて頭が痛くなる』

『貴様……! よもや宿儺様の気分を害しようと、そういう腹づもりではあるまいなッ!』

『いやいや、そんなんじゃないですよ裏梅さん』

『ッ、コイツ』

『ただ、オレって()()()にちょっぴり特殊でして。言葉遣いが流行(はや)りの先を行ってるんすわ』

『成る程な、お前も術師ではあるというわけか』

『大当たり! 流石宿儺様!』

『……宿儺様、コイツ殺しましょう。此奴の軽薄な態度、もうこれ以上は我慢なりません』

『よせ、なんだか面白くなってきた。──おいお前。その体質とやらについて話せ。先に断っておくが、俺の前で』

『分かってます。絶対に嘘は吐きません。なんなら縛ります?』

『またコイツは宿儺様の御話を遮って……!』

『……()い。話してみろ』

『んじゃまあ、早速。オレの体質って言うならば──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





浮舟出:彼と共闘した術師達は口を揃えて「やり易かった。でもちょっと落ち着いてほしい」と言うらしい。




伏黒恵:尊敬している先輩の戦いっぷりを目の当たりにした。スゲーって思ってたらしい。
その後、浮舟と虎杖の二人を抱えて伊地知のところへと戻ったらしい。



両面宿儺:小僧代わるの手こずってるから今のうちに出来るだけ殺しておくか→お、出じゃん出に嫌われたくないから伏黒殺すのやめにするか→いやよく考えたらここで終わるのメッチャ勿体無いな。出と伏黒の二人を相手取った方がおもろい→ 二人がかりで来い。相手してやる。








戦闘シーン書くのメッチャむずかったです。メッチャむずかったのに、私の文章力により伝わってないかもしれないと思うととても悲しくなります。伝わっていることを祈ります!!!!!!!



週一投稿を狙って出来る投稿者はいない。だが今の大塚には「狙って更新している」と、そう思わせるだけの凄みがある!!

誰好き?

  • 浮舟出
  • 五条悟
  • 家入硝子
  • 夏油傑
  • 七海建人
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  • 伊地知潔高
  • 庵歌姫
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