アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは!ブースト無しです!



記憶の中の日常。

 

 

 

 

「よ〜っす、お待たせ」

「やあ。私も今着いたところだよ」

「コイツ、す〜ぐこういうモテワード言っちゃうんです」

「……誰に言ってるんだい?」

 

 昼からの任務をサクッと終わらせてきたオレは、待ち合わせ場所にもう着いている夏油に元気良く声をかけたのだった。

 2006年9月。

 東京都内、渋谷。某激安の殿堂前。

 まだ残暑が残りまくっている頭痛が痛い季節だというのに、今日の気温は20℃を下回っている。オレとしても、手に馴染むこの義手(左腕)が熱を持ってしまう季節は好きではないので、涼しくなるのは大歓迎──ってそんなどうでもいいことを言っている場合ではない。

 しゃっくり。

 雑踏の中でもすぐに分かる高身長。その顔を見上げる形で会話を続ける。

 

「それで、どうして()()()()なのかな」

「待ち合わせ場所の話? だって、今日は夏油が酒奢ってくれるんだろ?」

「うん。ちょっと遅くなってしまったけれど、改めて出の誕生日プレゼントとしてね」

 

 オレの言葉に、夏油が補足を入れる。ナイス補足と親指を立てたくなったが、話がとっ散らかってはいけないので夏油からの問いに答えることにした。

 

「オレ、酒はいつもここで買ってるんだよね」

「……自分で買ってるのかい?」

「あー、ぼちぼちかな。任務終わりなら補助監督さんに同行してもらってるし、フリーの日ならお酒コーナーにいた人に『酒一本奢るから〜』って声かけて代わりにレジ通してもらったり」

「…………」

 

 正直に話す。この前協力してくれたおじさん、めっちゃファンキーだったなとかなんでもない記憶を思い出していると、夏油が難しい顔をしていることに気がついた。

 

「あ、未成年が酒買うなみたいな当たり前の倫理の話しようとしてる?」

「……いや、よく考えれば硝子も喫煙者(未成年)だったね。私からとやかく言ったりはしないよ」

流石(さっすが)夏油。話が分かるね」

「というかそもそも、今回は私から言い出したことではあるんだし」

「確かに」

「まぁ、それでも見知らぬ人に頼むというのはあまり感心しないかな。誘拐でもされたらどうするつもりだい?」

「2回も誘拐されたら、流石のオレも引退を考えるよ」

 

 お説教、とはいえないくらいの優しい諭し方。恐らく、なにかあったらその人にも迷惑がかかってしまうだろう的なことを夏油なりの茶目っ気を込めて言いたかったんだろう。

 言いたかったんだよな? 

 

「私は出のことが心配なんだ」

「……ごめんなさい」

 

 うーん。

 コイツ将来良い父親になるんだろうな。

 そんで子供も父親に似て背ぇ伸びるんだろうな。

 と、夏油の真剣な表情を見て思うのだった。

 鬱。

 

「どうかしたのかい?」

「いやなんでも。……ただ、厳しい世の中だよなって」

「年齢確認は、これから先もっと厳しくなっていくだろうね。出が一人で酒類のコーナーをウロチョロしているだけで通報されてしまうかも」

「それは嫌だな」

 

 オレの勝手なコンプレックスを、どんどんクリーンになっていく社会を憂いていると解釈した夏油がそんなことを言う。訂正するようなことでもないので、そっちの解釈に乗っかる。

 

「だから──」

「?」

 

 不意に手を取られ、繋がされる。その手の温かさに思わず硬直し、視線を繋いだ手からどんどん目で追う。肘から肩、そして待ち受けるは夏油の笑み。

 なにしてんだコイツはと握られた左手と夏油の顔を交互に見まくると、夏油は爽やかに照れ笑った。

 

「こうして()()でいないとね」

「はぁ〜〜〜〜?」

「嫌かな」

()じゃねぇけど。……どういう理屈?」

「ほら、私って背が高いし」

「お?」

「失礼。大人びて見えるだろう?」

「……まぁ確かに」

「警察官も、二人組には職務質問をしづらいものだよ。ましてや私のような()()()()青年と一緒にいる男にはね」

 

 心優しいの部分を強調して語る夏油。どうやら笑うポイントらしい。なんか腹立つから無視しとくけど。

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

「……ドライな出、それもまた良いね」

 

 手を繋いでしまっているので、普段ならば聞こえてこないような夏油のキショい呟きも耳に入ってしまう。なんてキショい野郎だ。外見からはとてもじゃないが想像出来ない。あ、今夏油の顔見て頬染めたそこのレディ。コイツガチでキショいからやめといた方がいいですよ。いや本当に。

 本日の気温がいくら20℃を下回っているからといって、我等が激安の殿堂様は今日も冷房をガンガンに効かせている。店舗内に入った途端に身体を撃ち抜く、肌寒いとさえ感じる室内温度に、一瞬首が縮んだ。

 

「涼しいね」

 

 オレが内心寒がっていることも知らず、夏油は涼しい顔をしてそんなことを言った。

 

「筋肉量多いヤツはこれだから」

「?」

「なーんでも。そういえば、夏油はここに用事あんの?」

「あー、そうだね。どうせならついでに見ておこうかな」

「酒瓶持って歩くの重た過ぎだから、先にそっち行こ」

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 にこやかに笑い、時折冗談を言いながら──手を繋ぎながら、終始とても良い雰囲気でフロアを回る浮舟と夏油。その姿を、物陰から覗く二人分の人影が。

 

「クソクソクソクソ! なんだよアイツ等二人っきりで出かけやがって!」

「人の頭の上でうるさいなー。静かにしろよ」

 

 物陰からひょっこりと顔だけ出し、浮舟と夏油の背中を恨めしげに見つめるは今回の()()()()に呼ばれていない五条と家入。二人の身長差故に物陰から出された顔は縦に並んでおり、苛立たしげに声を上げる黒丸サングラス男に家入は顔を(しか)めて抗議した。

 

「五条。お前ただでさえ目立つんだから、そんなに大声出したらバレるだろ」

「分かってるって! でもマジムカつくだろ!? なんでアイツ等黙ってデートしてんの!? 俺も誘えよ!!」

「アホくさ。デートじゃないだろあれ」

「じゃあなんだよ!」

「買い物。御三家ともなると、ただ二人で出かけることすらデートって教わんの?」

「ハァ? なんだよそれ。暗に、俺に常識が無いって言いてぇわけ?」

「そう言ったつもりだったんだけど」

「ムキー! 硝子の馬鹿! ヤニカス!」

「おー、なんとでも言え。私は帰る。喫煙所で一服してから帰る」

「あ、傑といずるがキスしてる」

「は?」

「うっそぴょ〜〜〜〜ん! wwwはい騙されたァ! www興味無いフリしてるけど本当は気になって仕方が無いのバレバレ! wwwはい雑魚wwwwww恋愛雑魚乙wwwwww」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、今なんか叫び声聞こえなかったかい? まるでトムとジェリーのトムが、重たいアイロンで尻尾を挟まれた時のような」

「気のせいだろ。こんな場所にトムがいるわけないし」

「それもそうだね」

「てか夏油、お前いっつもこんな高い調味料買ってんの?」

「最近、手料理に凝っていてね。一度拘り始めると歯止めが効かなくて……」

「あー、なんか気持ち分かるわ」

「今度、出のリクエストを基になにか作るよ。食べたいものとかあるかい?」

「マジ? じゃあ蕎麦(そば)食べたい! 蕎麦(そば)!」

「……蕎麦(そば)かぁ。生憎だけど、まだ私には手打ちのノウハウが」

「え、普通に買えばいいじゃん。ほら、こっちにある乾麺のヤツ」

「一袋二人前で200円? ──やれやれ、私も舐められたものだね」

「美味しいじゃん」

「私が、出に振る舞う蕎麦(そば)だよ?」

「いやだからオレ、これが良いって」

「そんな生半可な蕎麦(そば)で出が喜ぶと思うかい?」

「お前今誰と話してんの?」

「どうせなら出の笑顔が見たい……! 出に美味しいと喜んでもらいたい……! 私はそれだけの為に手料理を始めたというのに……!」

「なんか申し訳ないよ。ごめん夏油、そんな悩ませるつもりはなくて」

「謝らないでくれ!」

「……うーん、じゃあどうする? 夏油の納得のいくラインってのがあんま分からないんだけど」

「出に喜んでもらいたい。しかし私に蕎麦(そば)を手打ちで作る技術は無い」

「ガチ悩みしてるじゃん」

「……決めたよ。これにする」

「よしそうしよう──ってそれなに!? なんか高そうなんだけど! なんでプラスチックの袋じゃなくて箱で売られてんの!? 十割蕎麦!? 一つ800円!?」

「……これで()()()にしてくれないか」

「上手いこというな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うおおおおお、一刻も早く二人の仲を邪魔したい……! でもいずるが楽しそうだからその笑顔だけは守りたい……!」

「裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り裏切り」

「ヤベ、硝子壊れてる。おーい硝子、聞こえてるかー」

「いずるが飲んでるお酒の瓶の中に目薬を垂らして悪酔いさせて潰れたところをお持ち帰りして写真や動画で証拠を残しつつ一晩いずると」

「いずると事に及ぶ時の計画をまるでお経のように!? 硝子起きろ! それ以上はマズい! 生々し過ぎて耳を塞ぎたくなっちまう!」

「…………何をしてるんだい?」

「「あ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー! 二人も買い物来てたんだ、奇遇じゃ〜ん」

「そ、そうだなー……」

「奇遇だねー……」

「……はぁ」

 

 夏油の用事も終わり、買い物カゴにお高い蕎麦(そば)を入れて地下一階にあるお酒コーナーをウロウロしていると、突然五条と硝子ちゃんが現れた。そのすぐ後ろを夏油がついてきたので、どうやらオレの知らないところでバッタリ出くわしたのだとなんとなく察する。

 手を振るオレから目を逸らす二人と、そんな二人を見て溜め息を吐く夏油。その仕草の意味が分からないオレは、取り敢えず首を傾げてみた。

 

「二人もお酒買いにきたの? ……あれ、五条お酒苦手じゃなかったっけ」

「ちょ、ちょっと心変わりっつーか。たまには飲んでみようかな的な」

「五条と、今夜は飲み会でもしようかって話してたんだよね。ねー、五条」

「そ、そうそう! 飲み会飲み会!」

「へー、仲良いんだね二人共」

「……な訳ねぇだろ可愛いなおい」

「……純粋か終いには襲うぞ」

「何か言った?」

「「なーんにも!」」

「……はぁ」

 

 声を揃えて笑う二人と、溜め息を吐く夏油。その遣り取りを何度か繰り返したところで、じゃあ折角ならと四人で回ることになった。その際夏油にさりげなく買い物カゴを回収されてしまい、なんでコイツは一々スマートなんだと内心嫉妬した。

 買い物カゴを持っている夏油を中心に、陳列されているお酒を見ていく。平日昼間のお酒コーナーは、オレ達以外には誰もいない。

 

「いずる、この酒はどう? カフェオレみたいな味するんだって」

「あー、カルーアミルクね。それめっちゃ美味しいけど、知らないうちにベロベロになっちゃうから怖いんだよね。歌姫先輩との初任務でもやらかしちゃったし」

「歌姫先輩?」

「そうそう。一年生の頃の、夜蛾先生引率じゃない初任務の時。美人な先輩だし良いところ見せたいな〜ってラベル買いしたカルーアミルクグイ飲みしたら、ものの見事に泥酔しちゃって。気が付いたら帰りの車の中だったよ」

「ふーん……」

「……硝子ちゃん、なにメモってんの?」

「なんでも」

 

 チラリと見えた紙の端に『カルーアミルクが有効!』と綺麗な字で書かれていたが、なにが有効なのかはオレには知る由もない。というか、知っちゃいけないような気がする。

 突然メモを取り始めた硝子ちゃんを黙って眺めていると、肩を叩かれる。振り返れば、笑顔の五条が両手に酒瓶を握っていた。

 

「取り敢えず、名前カッケェヤツ持ってきた」

「ありがとう──」

 

 礼を言いつつ、ラベルを確認。

 上善如水。

 エンシェント・クラン。

 

「カッコいい……!」

「だろ!? これにしようぜ!」

「──あ、ちょっと待って! オレ上善如水は飲んだことあるわ! これヤバいヤツ!」

 

 夏油の買い物カゴにぶち込もうとした五条を止める。ちなみに読み方は上善如水(じょうぜんみずのごとし)である。カッコいい。

 

「なんだよ」

「それ水みたいに飲めちゃうから、知らん間に泥酔しちゃうカルーアミルクタイプ! もしくはレディキラー的な(くく)りの!」

「レディキラーってなに?」

「普通のお酒と違って、口当たりが良くてお酒の味もあんましないから、お酒に慣れてない女の子でも楽しく飲めちゃうようなお酒のこと!」

「へぇ、上善如水か……」

「え、なんで五条も急にメモ取ってんの?」

「別に関係ないけど、個人的に買っておこうかなこの酒。関係ないけど」

「私もカルーアミルク買っておこう」

「え、オレってもしかして酒売の才能有り!?」

「二人の場合、そこまで真っ当な理由じゃないと思うよ」

「……なんか今日は深く考えたらいけない感じの日か」

「そうかもね」

 

 自身に秘められたお酒トークの才能に打ち震えていると、背後に立った夏油が耳打ちをしてくる。その低音に思わず身震いしたのも束の間、深く考えたらいけない感じの日(そういう日)なのだと察して肩を落とした。

 前にもあったな、()()()()()

 冥冥さんが「分けてあげよう」って言ってオレの手首にワンプッシュしてくれた小さいスプレーみたいなのを良い匂いだと喜んでいたら、その匂いに気付いた同期がやたらとソワソワしてた日とか。あれって、後日気付いたんだけど冥冥さんとおそろの香水の匂いだったんだよな。全く、冥冥さんも人が悪い。これじゃあオレと冥冥さんが匂いが移るくらい一緒にいるみたいじゃんね。

 いやそれメッチャ最高だけどね! 

 ね! 

 ……ゴホン。

 気を取り直そう。

 

「じゃあいっか。五条のもう一個のお酒買って帰ろうかな──っておい!」

「なんだよいずる」

「エンシェント・クラン、アルコール度数40%じゃねぇか!」

「名前で選んだからよく見てなかった。別に良くね?」

 

 オレとしては到底受け入れられない、アルコール度数40%の表示。しかし同期達は事の重大さをイマイチ理解できていないのか、何を言っているんだと眉を少しだけ斜めにするだけ。

 声を張る。

 

「ちょっとみんな集合!」

「なんだよ」

「なに?」

「どうしたんだい」

 

 元々みんな近くにいたのだが、オレの言葉を受けて更に寄ってくる。円陣でも組んでいるかのように、みんなの額がくっつきそうだ。おい五条と夏油(二人)、オレの身長に合わせる為にそんなに膝曲げてなおかつ腰も折るのか? 

 ふざけやがって。

 切り替え。

 

「いい? これからオレが言うこと復唱して。『いずる君はお酒が好きなわけでも強いわけでもないので、アルコール度数20%を超えると吐きます』」

「「「いずる(出)君はお酒が好きなわけでも強いわけでもないので、アルコール度数20%を超えると吐きます」」」

「よくできました!」

 

 左手を上げてハイタッチ。一件落着とばかりに三人順番にタッチしていったところで、五条がぼやく。見れば、つまらなそうに唇を尖らせていた。

 

「なんだよいずる。俺が選んだ酒全否定じゃん」

「それはマジでごめん! でもよかれと思って選んだお酒で相手がメッチャゲロ吐いてたらなんか嫌じゃない!?」

「…………」

「即答して!?」

「まあまあ、悟も出の言いたいことは分かっただろう? これ以降は出の要望を汲んだ酒を選んでいけばいいじゃないか」

「まとめてくれてありがとう夏油……。なんか今日やたらと声張る日だな」

 

 溜め息を吐いて肩を落とす。お酒を買いに来ただけなのに、なんでこんなに疲れているのかと不思議に思う。しかし声を張ったことで冷えていた身体がようやく暖まり、激安の殿堂様のクレイジー冷房を楽しめるようになった。涼しいってこんな感覚なんですね。

 衣類の隙間に入り込む冷感の心地良さに目を閉じていると、五条から声をかけられる。

 

「いずるは普段どんなお酒飲んでんの?」

「一番多いのは、業務用レモンサワーの素かな」

(もと)?」

「原液ってこと。炭酸水とかで薄めたらレモンサワーになるお酒。水で薄めるタイプのカルピスをそのまま飲んでるっつったら分かりやすいかな」

 

 関係ないけど、五条家に遊びにいった時に出てくるカルピスって濃いぃんだろうな。

 そんな偏見を頭の中でふんわりと浮かべていると、五条から冷たい目で見られていることに気が付いた。

 

「……いずる、お前原液をそのまま飲んでるってこと?」

「うん」

「最強スト────ップ!」

「どしたの急に」

「あーあ、最強ストップが出ちゃったね。こりゃ大変だ」

「硝子ちゃんまで。え、オレが知らないだけでこのワードってお馴染んでたっけ」

「いや私も知らん」

 

 ズコッ。硝子ちゃんの乗っかりボケに思わず前にずっこける。そんなオレを、五条が高い位置から指差した。

 

「いずる、お前自分の身体を気遣え! そんなんじゃ内臓がどうたらこうたらして早死にするぞ!」

「アルコールが内臓にどう悪影響を及ぼすのかよく分かってないから言葉を濁したね」

「うるせぇ傑! 俺は真面目に言ってんだ!」

「えー、五条だってこの前パンに塗るチョコクリームそのまま食ってたじゃん」

「それは実家では絶対に出来ない初めての体験が(ゆえ)の出来心だから! いずるみてぇにそればっかやってるわけじゃねぇから!」

「いやでも実際、良いのよレモンサワーの素。アルコール味の中にちゃんとレモンの味するし、かと言ってゴクゴク飲めるわけでもないし」

「いや、ダメ! もう完全に最強ストップかかったから!」

「2、3口飲めば良い感じの状態保てるの! オレだって好きで原液飲んでるんじゃないの! 色々飲んでみて、レモンサワーの素(これ)がまだマシだなって思ったからそうしてるの!」

「…………ちなみに」

「なに?」

「…………ちなみに、そのレモンサワーの素って何日で(から)にする?」

 

 五条が、俺は探りを入れていますといった表情でオレの顔を見る。なんだそのバレバレの表情は。

 オレとしても別に隠すようなことでもないので、正直に胸を張って答えることに。

 

「一日」

「最強スト────────ップ!!」

「さっきよりも声デカい。これはヤバいよいずる」

「え、流石にヤバいかな」

「声のデカさで決まるというのも謎だし、というか何故出もボケ側に回ろうとするんだ」

 

 私が大変になるだろう。

 買い物カゴ片手に、夏油が面倒そうな顔でやれやれと首を振った。チャーミングな前髪が揺れてらあ。

 

「最強ブロック!」

 

 レモンサワーの素を常用しているという事実を到底受け入れられない五条が次に(おこな)ったのは、オレの背後に回ってのバックハグ。恥ずかしいからやめてくれと身を捩るが、本気で振り解ける筈もなく泣く泣く受け入れた。

 

「最強ブロックが発動したので、もういずるはレモンサワーの素飲めません! はい俺の勝ち!」

「ワッハッハ。飲んじゃえよ〜レモンサワーの素飲んじゃえよ〜」

「え、硝子ちゃんがノリノリだ」

「出たなレモンサワーの素怪人! いずるを揺さぶるな! いずるはもう断酒するって決めたんだ!」

「断酒するわけねぇだろ。オレ絶対に硝子ちゃん側だから。──硝子ちゃ〜ん! 助けて〜!」

「絶対に助けるっ」

「凄いキリッとした顔! これは期待できる!」

「……はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ここにはお酒買いに来たんだったな。早いところ見つけちゃおう」

「やっと冷静になったね」

「ぶっちゃけ、レモンサワーの素で全然有難いんだけど、折角夏油に奢ってもらうなら冒険したいって気持ちもあるんだよね」

「分かる」

「お、全肯定硝子ちゃんだ。こいつぁ縁起が良いや」

「まだボケるのかい」

「嘘嘘、冗談だよ夏油。な〜んちゃって」

「いずるぅ〜。幸せに生きてくれよぉ〜」

「はいはい、幸せに生きるよ。五条がバックハグやめてくれたら取り敢えずのところ幸せなんだけどな」

「最強無視」

「お、最強無視だ。こいつぁもう何言っても無駄かもな」

「……この四人でいると、私がツッコミに回りがちになるのがいただけないね」

「五条と夏油が二人でふざけ合ってる時にはオレと硝子ちゃんがツッコミまくってるんだから、まぁ今回のも日替わりみたいなもんだよ」

「そんな定食みたいな」

「それより、夏油のオススメはまだ聞いてなかった。なんかない?」

 

 左側には夏油。右側には硝子ちゃん。そしてオレの背後には、なんかもう買い物自体に飽き始めている五条。五条という甘えん坊に体重をかけられて歩きづらくなっているオレの歩幅に合わせての移動で、右へ左へと陳列棚に視線を流して良い感じのお酒を探していく。

 

「私? ……そうだな」

 

 試しに夏油に振ると、夏油は顎に手を当てて考え始めた。視線はひっきりなしにお酒からお酒へと動いている。

 

「アルコール分が20%以下で、それでいて飲み易過ぎない酒か……」

 

 なんかもう本当に真面目に考えてくれている夏油。思考の邪魔をしちゃいけないなと少し口を閉じていると、硝子ちゃんが思い出したかのように呟いた。

 

「そういえばの話なんだけど」

「うん」

「いずる、()酒って言うの可愛いね」

「え?」

 

 不意打ち極まりない、予想だにしない角度からの指摘。オレは思わず硬直した。

 普通じゃないの? 

 そんな意味を込めて硝子ちゃんを見ると、硝子ちゃんはクスリと笑った。美人過ぎ。

 

「え、みんなはお酒って言わない?」

 

 振ってみる。

 

「酒」

 

 硝子ちゃんが答える。

 

「酒」

 

 五条が答える。

 

「酒」

 

 何かを考えながら、夏油が器用に答える。

 

()酒って言わないの!?」

「言わないね、ゴムだから」

「ゴム関係ないだろ五条」

「関係ないね、ゴムだから」

「その構文気に入ったの?」

 

 麦わら帽子を被っていそうな袖無し短パンサンダル男の真似をする五条。似せようとしている声は全然似てないが、似ていないのがなんだか面白かった。

 今度オレのシャンクスとコラボしような。

 

「いや、絶対みんな()酒って言ってる時あったけどね」

 

 自分だけ置いていかれているような感覚を受けたオレは、負けじと食い下がる。

 硝子ちゃんが笑った。

 

「そりゃあさ、いずるに()られて言葉が感染(うつ)っちゃう時はあるだろうけど。なんでもない平常時なら普通に酒って言ってると思うよ」

「……オレ、()酒って言うのやめるわ」

 

 項垂れる。指摘されて、なんだか()酒と言うのが無性に恥ずかしくなってくる。まるで、野生のメスゴリラにブラをつけさせたあとに脱がせ、メスゴリラに自分はノーブラだったんだと自覚させるボランティアのような。

 そのメスゴリラ視点に立っているかのような。

 無性に恥ずかしくなっていると、硝子ちゃんに両肩を掴まれた。

 

「可愛いからぜっっっったいにやめないで」

 

 目が真剣(マジ)だった。

 

「わ、分かった」

 

 その目にビビってしまったオレは、小刻みに頷くことしか出来ず。もう完全に()酒と言うのは恥ずかしいものだと脳が思ってしまっているのだが、これからもオレは()酒と言い続けなければいけないらしい。

 お酒。

 …………。

 

「ちょっといいかな」

「どうした夏油」

「どうしたもこうしたも、ほら。オススメの()酒探してきたよ」

「全世界最速でイジられてる……」

「あー、傑サイテー。いずる傷付けたー」

「このクズー。ほらー、いずる泣いちゃってるじゃーん」

 

 悲しそうなフリをして眉を下げると、すかさず乗ってくれた五条と硝子ちゃんが夏油を非難する。ノリの良い友達最高! でもちょっと距離近いかな! そんなマジで抱き締めなくていいから! 

 

「……ごめんねぇっ」

「あ、小学生みたいに謝られた。これは流石に許すしかない」

「ありがとう出」

 

 オレの許しを得て、パッと花開いたように笑う夏油。眩しい笑顔をしやがるぜ。

 夏油や五条みたいな高身長男にも小学生という時代があったのかと、夏油と笑い合う刹那に考えてしまう。

 全然想像できない。

 

「それで? 夏油のオススメ見せてよ」

「あぁ、ほらこれ。なんだか良さそうじゃないかな」

 

 そう言って夏油が渡して来たのは、750mlサイズのよく見る茶色の瓶。しかし貼られたラベルはピンク色だし、書かれている文字は英語の筆記体。

 その酒瓶を見たオレは、第一印象でこう思った。こう思ってしまった。

 

「……なんか、やらしっ」

「──ハァ!?」

「真剣に選んでくれたのは勿論嬉しいんだけど、そこはかとなくやらしさを感じるよ」

 

 つまりは、エロじゃん。

 

「そ、そんな小学生みたいな感想があるか! 頼む出! 受け取ってくれ!」

「なんかソレ、キャバ嬢相手に空けるお酒みたい」

 

 いずるのこと狙ってんの? 

 オレに押し付けるように酒瓶を差し出してくる夏油を見て、硝子ちゃんがからかうように笑った。

 

「え、夏油オレに貢ごうとしてる?」

「そ、そんなわけが! ……ないだろう」

 

 勢い良く放たれた言葉は、段々と尻すぼみしていく。しまいには俯いてしまった夏油の肩に、五条がニッコニコの笑顔で手を置いた。

 夏油が、縋るような表情で五条を見上げる。

 

「悟……! 君は私の味方でいてくれるのかい?」

「エロ傑」

「あ、膝から崩れ落ちた。写メ撮っとこ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いんだ……。出が好みそうな酒を選ぶという行為も、好きな酒を奢りたいという思いも、全ては私のエゴに過ぎないのだから。例え出に受け入れてもらえなかったとしても、私は何も言わずに」

 

 地面に座り込むという真似こそしないものの、人体の構造上可能な限り小さく纏っていじけてしまった夏油。オレはそんな夏油の肩を抱くようにして励ましの言葉をかけ続けた。

 

「ごめんて夏油。もうやらしいとか言わないからさ」

「…………」

「──あ、違う! 煽りとかじゃないんだって! ごめん! マジでごめん!」

 

 やらしいという言葉は、夏油に対して金輪際言わない方がいいのかもしれない。俯いた夏油に悟られぬよう、五条と硝子ちゃんと目配せしてそう取り決めた。

 数分後。

 ようやくいつもの調子を取り戻した夏油は何事もなかったかのように快活に笑った。

 

「それで、出はどうするんだい? 私達三人のオススメが出揃ったわけだけど」

 

 そう言って、買い物カゴの中を見せてくる夏油。中には、硝子ちゃんが個人的に買うカルーアミルクと、五条が個人的に買う上善如水と、夏油オススメのやらしいお酒。あとお高い蕎麦(そば)

 

「…………」

 

 出揃ってねぇ……。

 硝子ちゃんと五条のヤツはオレの身体のキャパの関係で却下になってるヤツだし。

 

「……これ、よく考えたら選択肢一つしかなくね?」

「そうだね。だから出の口からキチンと教えてほしいな。()()()()()()()()()()()()()()()のかをね」

「あ、汚ぇぞ傑!」

「そうだそうだー」

「ハッハッハ、子犬が元気に吠えているね!」

 

 顔を上げて笑う夏油。凄い良い表情(かお)だ。オレはその表情(かお)に数瞬見惚れてから、買い物カゴへと視線を移した。

 カルーアミルクか、上善如水か、やらしいお酒。

 この中から選ばないといけないという謎の展開に、大いに悩む。

 悩む。

 物凄く悩む。

 意味無いけど、色んな角度からお酒の瓶を眺めちゃう。

 

「へぇ、悩むとは意外だね。もう私の勝利以外あり得ないというのに」

「傑の野郎、勝ちを確信し過ぎて悪役みたいになってやがる! さっきまでのいじけ具合はなんだったんだ!」

「ぶーぶー」

 

 笑う夏油と、文句を言いまくる五条と硝子ちゃん。それを尻目に悩むオレ。

 悩む。

 考える。

 悩む。

 考える。

 

「…………あのさ」

 

 そして、思い至る。

 なんでこんなことに気が付かなかったんだと、自分自身にツッコミを入れる。ひとしきり自分の間抜けさに身が沁みたところで、オレは口を開いた。

 

「…………そもそも、このお酒どうやって買う?」

 

 湧いて出た当然の疑問。

 お酒は20歳(ハタチ)になってから。

 そんな言葉もある通り、お酒は20歳以上でなければ買うことができない。普段のオレもそれを分かっていたから、冒頭のように補助監督さんにお願いしたり知らないおじさんに頼んだりしていたのだ。

 しかし今回は、夏油の誘いによって生まれたお買い物イベント。

 同期と買い物をするというイベントが楽し過ぎてすっかり頭から抜け落ちていたが、つまりはそういうこと。

 オレ達全員未成年である。

 

「「「「…………」」」」

 

 オレを含めて黙り込む四人。

 チクタク。

 時計の短針が進んでいく音が何回か聞こえてきたところで、みんな正気に戻った。

 

「「「確かにー」」」

 

 

 

 

 

 





浮舟出:お酒奢ってくれんの!?マジかよありがとう!いつ行く?オッケー爆速で任務片付けるわ!
という感じで、夏油との買い物を二つ返事で了承した男。街中で飲酒をするわけにはいかないので、集合前にそこそこの量の酒を飲んできたらしい。




夏油傑:想い人と放課後制服デートしたいなという思いから「酒を奢る」と言いだしたので、浮舟への誕生日プレゼントに関してはその日に別のものを渡している。言うならばそれっぽい口実らしい。
五条と家入の乱入が無ければ、帰りは寮の門限ギリギリだったらしい。





五条悟:任務をサッと終えて帰宅し、放課後なにしようかなとか思いながら浮舟の部屋を開けたらベッドに家入がいたことで浮舟の不在を知った。





家入硝子:暇だからと浮舟の部屋を訪れたら本人が不在だったので、空いてるベッドで昼寝をしていた。突然入ってきた五条を「ノックも無しになんて失礼な奴だ」と心の底から思ったらしい。




夜蛾正道:大人代表として酒類をレジに通してほしいという冗談みたいなお願いによって渋谷まで呼び出された。仕方無いので全部支払ってあげたらしい。






冥冥:とある任務の際、浮舟から普段しないような女物の香水の匂いがしたので、特になにも考えず自分の香水で上書きしたことがある。今思えば、何故あんなことをしてしまったのか不思議らしい。






ゴールデンウィークなので更新遅れました!みんなはゴールデンウィーク楽しめたかな!?

どうでもいいことですが、昔は驚安ではなく激安の殿堂と呼ばれていたらしいですよ。

いつも読んでくださってありがとうございます!超励みになってます!
あと番外編を1話(もしかしたら前後編分けるかも)投稿したら、また本編に戻ります!

どうでもいいことですが、次回の番外編はみんな大好きなアイツが登場です。
お楽しみに。

誰好き?

  • 浮舟出
  • 五条悟
  • 家入硝子
  • 夏油傑
  • 七海建人
  • 灰原雄
  • 伊地知潔高
  • 庵歌姫
  • 冥冥
  • 夜蛾正道
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