アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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閑話編
アル中と喪中。


 

 

 

 

 一晩明けて、正午。

 昨日の午後から降り続けた雨も止み、6月の日差しによって地面もすっかり乾いた日中。高専敷地内ではあるが外の光が届かないほど深く、奥まった場所にある死体安置所にて。

 部屋の外──引いては屋外にまで届きそうなほどの声が、室内に響き渡っていた。

 

「クソ! クソクソクソ! 〝僕〟が、全部〝僕〟が悪いんだ……! 虎杖君がこうなることは前から分かってたっていうのに!」

 

 かつて上層部の企みによって殺された浮舟なりに、上層部から秘匿死刑を通達されている(現在は無期限の猶予が与えられてはいるが)虎杖のことは前から気にかけていたのだろう。衣類を全て剥かれ、白い布を掛けられて検死台の上で眠る虎杖を、浮舟が覆い被さるように抱き締めて泣いている。その表情は後悔と悲哀に満ちていた。

 少年院上空に出現した呪胎が特級呪霊に変態し、任務に当たっていた一年生の内一人が死亡。()()()()()を防ぐ為に駆け付けた浮舟だったが、その命を護ることは叶わなかった。自らも片腕を切断されるという重傷を負い、家入の反転術式で治療を施された今も完治とは程遠い状態。ただくっ付いているだけの左腕──その拳を何度も何度も検死台に叩き付ける。己が無力さを呪い、己が愚かさを呪った。

 侮っていた。

 自らの預かり知らぬ角度から好意を向けてきている両面宿儺という存在。浮舟が現場に駆け付けた時には、虎杖は両面宿儺に代わっていた。

 突然の()()()に一瞬戸惑いはしたものの、勝てば虎杖の怪我を治してもらうという条件のもと、伏黒と共にその誘いを受けた。

 虎杖悠仁と両面宿儺は、言わば一連托生。どんな結果になりつつも、どんな怪我を負いつつも、虎杖悠仁が死ぬことはない。ましてや両面宿儺はこちらに好意を持っている。だから──

 浮舟は、そう侮っていた。

 結果、両面宿儺は怪我を治さず。代わる形で戻ってきた虎杖はあっさり死に、残されたのは最悪の結末のみ。

 

「うぅ……! 虎杖君、ごめん……! 〝僕〟が不甲斐ないばっかりに……!」

「いずる……」

 

 そんな浮舟の痛々しいまでの泣き様に、これから両面宿儺の器(虎杖悠仁)の検死を執り行う予定の家入も、虎杖死亡の報告を受けて飛んで帰ってきた五条も、今回の任務の責任者である伊地知も──誰も彼もが浮舟の肩に伸ばした手を力無く下ろしていた。

 かつて、ここまで取り乱している浮舟は見たことがない。それもその筈、今日この日に至るまで浮舟の周囲では誰も死んでいなかったからだ。他ならぬ浮舟自身が10年前に一度死亡しているが、自分の死体を見て泣くことは出来ない。

 間。

 浮舟にとって、人生初めてとなる友との死別。ましてや、呪術界(この世界)において異常とも言えるほど他者を尊ぶ浮舟に、目の前の絶望を耐えられるわけがなかった。

 浮舟を慰めることも出来ずにいる3人は、浮舟から少し離れ、浮舟に背を向けるように話し始めた。

 空いている検死台に腰掛けた五条が、居心地悪そうに立つ伊地知を睨む。

 

「わざとでしょ」

「……と、仰いますと」

「特級相手、しかも生死不明の5人救助に一年派遣はあり得ない」

 

 五条から発せられる無尽蔵のプレッシャーに当てられた伊地知が、脂汗をかきながら必死に対応する。

 五条が続ける。

 

「僕が無理を通して悠仁の死刑に実質無期限の猶予を与えた。面白くない()が僕のいぬ前に特級を利用して(てい)よく彼を始末したってとこだろう」

 

 推論。

 しかし有り得ないと反論することは出来ないほど、実際()は──呪術界の上層部は腐り切っていた。

 何しろ、前例がある。

 10年前に、同じような手法で浮舟を葬っているのだから。

 アイマスク越しなので周囲に悟られることはないが、思い出したくもない過去に触れた五条の眉間に皺が寄った。

 

恵と野薔薇(他の2人)が死んでも僕に嫌がらせができて一石二鳥とか思ってんじゃない?」

「いや、しかし派遣が決まった時点では本当に特級に成るとは」

「アイツ等さ、何よりやっちゃいけないことをしたんだよ」

「やっちゃ、いけないこと」

「いずるを泣かせた」

「ッ」

「もう犯人探しも面倒だ、上の連中全員殺して──」

 

 会話はお終い。そう言わんばかりに立ち上がり、過激な結論を持って場を締めようとした五条。その決定的な一言を言い終えるよりも先に、浮舟の声が入り込んだ。涙ながらに、上擦った声でその名を呼んだ。

 

「五条」

「……どうしたの、いずる」

 

 呼ばれた五条が素直に振り向く。浮舟はフラフラと今にも崩れ落ちそうなバランスで立ち上がり、泣き腫らし真っ赤になった目で五条を見詰めた。

 

「それ以上は駄目だ」

「……うん、そうだよね」

 

 短い遣り取り。しかし言われた五条は全てを察し、微笑みで返した。

 

「ありがと、いずる。僕を気遣ってくれて」

 

 いつの間にか浮舟の背後に回った五条が、後ろから浮舟に抱き付く。身長差故に覆い被さるようなハグはそのしっかりした体重もあって、荷重に耐えられない浮舟の膝を震わせるには十分だった。

 

「五条、いずるが可哀想」

「ごめんいずる、座る?」

「いや、立ってる」

「そっか」

 

 落ち着いてくれた。

 浮舟の一言により殺気を身体の内に潜めた五条を見て、伊地知が心の中で安堵する。そして、浮舟ありきで成り立っているこの代のパワーバランスを、久し振りに再認識したのだった。

 浮舟先輩が死んでいた(いなかった)頃は本当に大変だったんですよ……。

 と。

 そんな具合に。

 

「五条」

「ん、なに?」

「あんま伊地知のこといじめちゃ駄目だよ。上層部と五条、面倒臭いのに挟まれて苦労してるんだから」

「え、今僕のこと面倒臭いって言った?」

「〝僕〟も見てるだけだから偉そうに言えないけど、補助監督の仕事ってマジで大変なんだよ」

 

 もっと言って……! 

 味方についてくれた浮舟、その言葉に心の中で両手を合わせながら感謝する伊地知。ほぼ専属という形で付き従っている五条からは常日頃感謝の()の字も受けていないのもあって、浮舟の優しい言葉が胸に染み入っていた。

 

「うん」

 

 しかし五条の返答は浅く冷たく、その言葉だけで真面目に聞いていないのだということがすぐに分かる。伊地知は心の中で膝から崩れ落ちた。

 しかし、追撃。浮舟は引かなかった。

 

「うんじゃないでしょ」

「?」

「伊地知に言いなさい。『いつもありがとう』って」

「えぇ〜〜〜〜〜? なんで僕が。むしろ『いつも呪霊を祓ってくれてありがとうございます』じゃないの?」

「言わないと今度からハグ禁止」

「…………『伊地知くん、いつもありがとうございます』」

 

 嫌そうに、それから面倒臭そうに。自らが頭を下げることと浮舟とのイチャラブを天秤にかけ、すぐさま決断を下してみせた五条は、渋々ながらもそう言った。抱き付いた浮舟越しに頭を下げて、感謝の意を示した。

 

「……あぁ」

「え、伊地知泣いてる。五条お前、普段どんだけ態度悪いの」

「いやいや、僕別にこうなるほど態度悪くないって!」

「おーい、そろそろ始めても良いかー」

 

 天を仰いで静かに涙を流す伊地知と、たった一言の感謝でそうなってしまう普段の五条の態度を疑ってしまう浮舟。五条が慌てて弁明を始めたところで、一人で器具を準備していた家入が声をかけた。

 

「……硝子ちゃん。ごめん、邪魔しちゃった」

「別に良いさ。故人を悼むのも大事だよ」

 

 ましてや可愛がっていた後輩なら尚更、ね。

 つい先程まで泣いていたこともあり、平静を装いながらも時折しゃくりあげるような呼吸をしている浮舟。そんな浮舟に向かって、家入は医療用の青いゴム手袋をはめながら笑いかけた。

 

「──じゃあ、好きに解剖(バラ)していいよね」

 

 検死。

 1000年現れなかった、両面宿儺の器という逸材。生前明かされなかったその謎を、少しでも解き明かして後世に生かす為。そのような理由によって回ってきた家入への依頼。解剖する前に一目会わせてくれと懇願してきた浮舟によって開始時間は予定よりも後ろ倒しになったものの──

 

「〝僕〟はもう行くよ」

「もう行くのか? ……いや、すまない。意地の悪い問いかけだったな」

「硝子ちゃんはなにも悪くないよ。ただ、虎杖君もあまり大勢の人に見られたくはないだろうからさ」

 

 それじゃあ。

 我儘(ワガママ)言ってごめんね、ありがとう。

 浮舟は一度鼻を鳴らし、礼を言ってから死体安置所の重たい扉を開け、廊下へと去っていってしまった。

 

「「「…………」」」

 

 そして、沈黙する室内。浮舟という空気清浄機(もしくは精神安定剤)がいなくなり、3人誰しもがどこかしら居心地の悪そうにしている中。

 不意に、白い布をかけられていた虎杖悠仁の遺体がピクリと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、そうそう。少年院での戦いで宿儺様に左腕落とされちゃったんだよ」

『大変なことじゃないか。何故そんなに落ち着いているんだ』

「前にも言ったじゃん。〝僕〟反転術式効くようになったんだよ」

『あー……、そういえばそうだったね。すると、もう今は』

「うん、バッチリ。ケイちゃんみたいに影絵の手の形も作れるよ」

『出、君が無事で良かったよ。何度も言うようだけど』

「──無茶だけはするな、でしょ? 分かってるって。〝僕〟だって、死にたくて戦ってるわけじゃないんだからさ」

『でも、君は死ぬ気で戦うじゃないか』

「そりゃあ、可愛い後輩がピンチなんだから助けに行くよ。夏油だって〝僕〟の立場ならそうするだろ?」

『……はぁ、そうだった。君はそういう人間だったね。分かったよ、よく理解したとも。出がそう言うのなら、これ以上私はなにも言わないよ』

「なんかごめん」

『なにを謝ることがある。第一、止めたくても止められないよ』

「そういえば、今はどこら辺にいるの? 全然帰ってくる気配ないけど」

『関東圏内ではあるんだけどね、中々手こずっている』

「夏油が教祖やってた、宗教施設……だっけ? そこにも美々子ちゃんと菜々子ちゃんいなかったんでしょ」

『あぁ、だから困っているんだ。それ以降の行き先にアテがないから、適当な目星をつけて順番に探し回るしかない。今はその最中ってところだね』

「家族を探すのも大事だけど、近いうち一度帰ってきたら? 久し振りに同期4人でご飯でも」

『すまない、出。それだけはできない』

「……そっか」

『言うまでもなく、私は出達同期が大好きだ。しかし、一度甘えてしまっては決心が鈍るというか……」

「いや、分かってる分かってる。〝僕〟だって家族と同期どっちが大事なの!? とか言うつもりはないし」

『本当にすまない』

「気にすんなって。気長に待つよ」

『……いつか、必ずまた会おう。今度は面と向かって』

「あぁ、待ってる。頑張れ夏油」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (まばゆ)いほどの日差しは、夏が近づくにつれてその中に着々と暑さを含み始めてきていて。

 そんな日差しに照らされれば、嫌でも目を細めてしまう。

 高専敷地内、とある社前にて。

 天気は快晴。

 しかし境内(けいだい)の石階段に腰掛ける二人の心中は鬱屈としていた。

 

「長生きしろよって……自分が死んでりゃ世話ないわよ」

 

 顔や手の甲に、制服から露出している部分だけでも治療を受けた後が多々残る二人──昨日、虎杖と共に任務に当たっていた二人──伏黒と釘崎が話していた。

 

「……アンタ、仲間が死ぬの初めて?」

同級生(タメ)は初めてだ」

「ふーん、その割に平気そうね」

「……オマエもな」

「当然でしょ、会って2週間やそこらよ。そんな男が死んで泣き喚くほどチョロい女じゃないのよ」

 

 互いに、目は合わせず。

 ポツリと呟いた独り言に対して偶然答えが返ってきているような、そんな距離感の会話。話中の虎杖に対してもどこかドライな印象を受ける。

 しかしぶっきらぼうに答える伏黒の瞳は間違いなく悲しんでいるし、素っ気ない釘崎の唇もなにかに耐えるように固く結ばれている。

 

「……暑いな」

 

 伏黒が話題を変えるように、そう呟いた。

 予想だにしない方角から返答。

 

「いやあ、マジで暑いよね」

「ッ、浮舟さん。お疲れ様です」

 

 どこからともなく、というか普通に道でもなんでもないところから突然現れて会話に入ってきた浮舟。それに驚いた伏黒は少し肩を跳ねさせつつも、すぐさま立ち上がって頭を下げていた。

 

「うーわ、体育会系……」

 

 その遣り取りを見た釘崎が心底嫌そうに吐き捨てた。

 

「おい、釘崎。お前も挨拶しろ」

「挨拶はするけど、そんな丸坊主挨拶嫌よ。お疲れ様、浮舟さん」

「お疲れ、野薔薇ちゃん。ケイちゃんも、そんな大仰に(かしこ)まらなくていいんだよ」

「いえ、これが普通ですので」

「うーん、まぁいっか」

「……それで、浮舟さんは」

 

 何故こんなところに。

 そう言いたげな目で浮舟を見る伏黒。察した浮舟は手に持っていたスマートフォンを制服のポケットに仕舞いながら答えた。

 

「虎杖君に最後の挨拶をしてきた。二人はもう済ませたんだっけ」

「……はい」

「……えぇ」

「ごめん、あまりパッと振っていい話じゃないよね」

「別に、平気です」

「強がんなよケイちゃん。仲間の死に対してドライな男の方が格好良いなんて、誰が教えた?」

「…………」

「浮舟さん、もう怪我は大丈夫なの」

「うん、もうバッチリだよ野薔薇ちゃん。これも全部硝子ちゃんのおかげだね」

 

 まだ重たい物持ったりはできないけど。

 切断跡の残る左腕、その拳を何度か握ったり開いたりさせながら、浮舟は元気にそう言った。

 釘崎が続ける。

 

「……そういえば、昨日はありがと」

「なんのこと?」

「ほら、助けてくれたでしょ」

「あぁ、そのこと。礼を言うのはむしろこっちだよ」

「? どういう意味よ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。野薔薇ちゃんが頑張ったから、〝僕〟も駆け付けられたんだ」

「…………」

「あれ、我ながらカッコイイ台詞言えたなって思ったんだけど。不発?」

「俺は良いと思いました。おい釘崎、なにボーっとしてんだ」

「…………」

「釘崎?」

「…………かっこよ」

「……釘崎?」

「──は? なんも言ってないけど」

「い、いや、お前今なんか」

「う、うっさいバーカバーカ! なんも言ってないって言ったらなんも言ってないのよ!」

「なんでキレんだよ……」

 

 ボソリと呟いた言葉に対して追及すれば、突然キレ始めた野薔薇。扱いの難しさに伏黒がげんなりと溜め息を吐き、こめかみを汗が一筋、伝った。

 

「なんだ、いつにも増して辛気臭いな、恵」

 

 お通夜かよ。

 ここらで日陰に移動した方が良さそうな程の暑さ。各々、高専生の命を守る為に作られた特製の制服の内に暑さがこもり始めたこの場に、呪術高専東京校二年生、禪院真希が現れた。その肩に担いだ細長いバッグを見るに、恐らくは任務帰り。

 真希の声を聞き、顔を向けた伏黒が応える。

 

「禪院先輩」

「私を苗字で呼ぶんじゃ──」

 

 伏黒のパーソナルスペースの広さ故に繰り広げられる〝どんな相手に対しても苗字呼び〟。しかし真希に限ってはその対応は誤りであり、真希は訂正させようと目を鋭く細めた。

 不意に、真希の背後──木陰から、半身を出した二人。

 パンダと狗巻。

 突然現れた3人組(内一匹パンダ)に呆気を取られている釘崎を置いてけぼりに、パンダが口を開く。その口から発せられる流暢な日本語を聞いて、釘崎の開いた口が更に開く。

 

「真希、真希!! マジで死んでるんですよ、昨日!! 一年坊が一人!!」

「は・や・く・言・え・や! これじゃ私が血も涙もねぇ鬼みてぇだろ!!」

「実際そんな感じだぞ!?」

「ツナマヨ」

 

 喪中に喪中かよとツッコミを入れる眼鏡の女生徒。

 人語を解し、発するパンダ。

 おにぎりの具を発するミステリアス男子。

 開いた口が塞がらない釘崎。

 二年生3人の遣り取りを白けた目で見守る伏黒。

 

「真希ちゃん、最低だね〜」

 

 後輩のあまりにもいつも通りな様子に、不謹慎な言動を怒るレベルを通り越して笑けてきた浮舟が、ヘラヘラと笑いながらそう言った。

 騒いでいた真希の耳が動く。その()を敏感にキャッチし、認識した。

 身体の向きを変え、ポニーテールがその場に置いていかれるほどの速度で頭を下げる。曲げた腰の角度は45°。パンダと狗巻もその後に続いた。

 

「出センパイ、チーッス!!」

「チーッス!!」

「明太子ー!!」

「うーわ、この人(?)達も体育会系……」

 

 3人息の揃ったタイミングで繰り出された丸坊主挨拶に、顔を引き攣らせる釘崎。浮舟がヘラヘラ笑いながら手を振って返した。

 

「任務お疲れ、真希ちゃんパンダ棘ピー。野薔薇ちゃんから変な目で見られてるから、早く頭上げてね」

「ウスッ」

「ケイちゃんといい、その挨拶流行(はや)ってんの?」

「感謝の気持ちっす」

「……なんの?」

「補足すると、俺達で行った任務が出の懸念通り一筋縄ではいかないタイプだったんだよな。でも俺達は出の助言聞いて予め警戒してたから、目立った怪我も無し。3人力を合わせて任務も無事完遂ってわけ」

「あー、だから()()()()()()ね。そのくらい別に良いのに」

「いや、出センパイの言葉が無かったら私等──」

 

 喋りながら、担いでいた細長いバッグの中から見慣れた薙刀(呪具)を取り出す真希。チャックを開け、やがて見えてきた全容に、浮舟は過剰過ぎる感謝の意味を理解して空笑いした。

 真ん中からポッキリ。

 呪具の扱いの上手さに自負あり。常日頃その言葉を胸に鍛錬を続けている真希の相棒がこうなってしまっているのだ。今回の任務の壮絶さが窺える。

 浮舟は呪具の状態を見たあと、二年生3人に向けて労いの意味を込めて笑いかけた。

 

「よく頑張ったね」

「……あざす」

 

 同期(見る人)が見れば発狂したのちに自宅へのお持ち帰りを図ろうとするほどのスマイルを受けて、ふいと視線を逸らす真希。胸を張るパンダ。後頭部をかきながら照れる狗巻。三者三様のリアクションを見せたあと、パンダが浮舟に耳打ちをするように話しかけた。

 

「あ、出。また()()頼む」

()()?」

「ほら、昨日真希にやってやったヤツ」

「ああ、アレ」

「おいパンダ余計なこと言うな! 出センパイ、大丈夫です! 私この後任務の報告があるんで! マジで勘弁してください!」

「とか言いつつ膝曲げて頭差し出しちゃってるもんな。本能が抗えてねぇもん」

「しゃけしゃけ」

「うっせぇ!」

「なんだ、甘えん坊さんだね真希ちゃん。そ〜ら、よしよしよしよし」

「あ、ちょっ、待って──えへ、えへへへへへへへへへへへへへへへへ」

「よし、ノルマクリア」

「こんぶ」

「パンダと棘ピーもやる? 片手空いてるけど」

「「…………」」

 

 溶ける真希を見て笑っていると、浮舟からの予想だにしない提案。顔を見合わせた二人はそれからふと数秒黙って真希の痴態を眺め、俺達が? もう高二だぜ? と浮舟の提案を鼻で笑った。

 それから、決断。

 

「よ〜しよしよしよし。みんな頑張ったね、無事帰ってこれて偉いぞ〜」

「……意外と悪くないな」

「ツナマヨ!」

 

 左手で真希の頭を撫で、右手でパンダと狗巻の頭を交互に撫でる。両腕があるのはこの為だと言わんばかりに、甘い言葉と共に後輩を撫でまくる浮舟。かつて同期によって培われた頭撫でスキルがここでも活きていた。

 閑話休題(明るく振る舞わないとやってられないよね)

 

「オマエ達に〝京都姉妹校交流会〟に出てほしくてな」

 

 それから数分後。

 浮舟による頭撫で無双が終わり、その餌食となった二年生達がようやく落ち着きを取り戻した頃。

 すっかり腰砕けとなってしまい、狗巻に肩を借りる形となってしまった真希の代わりに、パンダがそう言った。

 釘崎が同じ言葉をそのまま繰り返す。

 

「京都姉妹校交流会ぃ?」

「……京都にあるもう一校の高専との交流会だ」

「でも二、三年メインのイベントですよね?」

 

 息を整えながら、パンダの言葉になんとか補足を入れた真希。それに対して伏黒がまた問いを投げかけた為、真希はもう一度深呼吸をしてから返した。

 

「その三年のボンクラが停学中なんだ」

「……あー、そういうことだったんだ」

「どうしたんすか、出センパイ」

「年明けだったかな、一度だけ三年生の子達と会ったことがあるんだよ」

「三年って、百鬼夜行の後ぐらいから停学食らってませんでしたっけ」

「いや、忘れ物取りに来たとかで。今思えば、あの時って停学中だったんだと思って」

 

 だ〜からコソコソしてたんだ。

 半年程前の思い出を半笑いで振り返る浮舟に、一同が「コイツ隙あらば誰かと仲良くなってんな」と呆れにも畏怖にも似た視線を向けたところで、自然と話が本筋に戻された。

 一人で立てるようになった真希が、腕を組んで言う。

 

「てなわけで人数足らないから、オマエ等出ろ」

 

 

 

 

 

 

 





浮舟出:後輩が死に、死なせてしまった自分を責めている。その思考をボヤけさせる為に酒を飲みたい衝動に駆られているが、許される筈もなく。せめてみんなの前ではと気丈に振る舞うが、伏黒には気付かれている。




伏黒恵:同期が死んだ。喪中という感覚はないが、普通にちょけ気味の一個上を見て「デリカシーとかないのか」と心の中でツッコミを入れている。




釘崎野薔薇:同期が死んだ。安い女ではないので会って2週間かそこらの同期が死んだくらいでは泣かないが、それはそれとして落ち込んではいる。体育会系にありがちな先輩後輩の力関係が存分に働いている挨拶のことを丸坊主挨拶と呼んでいる。




夏油傑:週一くらいの間隔で浮舟と電話をしている。家族との再会はまだ果たせていない。






なんかハーメルン調子悪かったみたいですね!
私の筆の調子の方は好調です!
いつも読んでくれてありがとうね!
感想もありがとうね!
またね!

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