こんばんは!大塚ガキ男です!ブースト無し過ぎ!
ムカつく程に照り付ける日差しの中。
高専のグラウンドにて野薔薇ちゃんとパンダwith棘ピーの組み手(棘ピーは野薔薇ちゃんがぶっ飛ばされた時に受け止める役)を、真希ちゃんと一緒に「次こそ受け身取れるかな」なんて芝生に座って話し合いながら眺めていた最中。
真希ちゃんが遅れてやってきた人物に気付いて振り返り、声をかけた。
「おっせぇよ恵」
顔を向ければ、そこにはジャージのチャックを上げながらゆっくりと歩いてきているケイちゃん。真希ちゃんが遅れた理由を咎めるように問えば、ケイちゃんは「なんでもいいでしょ」と素っ気なく返した。
そのままこちらに歩いてきたケイちゃんは、〝僕〟の背後に立ってジッと見下ろしてきた。数秒経ってから口を開く。
「お疲れ様です、浮舟さん」
「お疲れ、ケイちゃん。調子はどう?」
「別に普通です」
「そっか」
「…………」
会話終了。顔を見てなんだかいつもと様子が違うようなとも思ったりしたが、まあケイちゃんはいつもこんな調子かと納得しておく。
野薔薇ちゃんは大丈夫かな、とグラウンドに視線を戻しかけて、ケイちゃんが〝僕〟の顔を見つめていることに──見つめ続けていることに気がつく。
「…………どうしたのケイちゃん、そんなに見つめて」
「……いえ」
なんでもありません。
なんでもありそうな表情でそう断ったケイちゃん。〝僕〟はそんなわけないでしょと返す。
「言ってみなよ」
「相談……というか、質問があります」
「なんでも聞いてよ」
「…………浮舟さんは、呪術師としてどんな人達を助けたいですか?」
それは、予想もしていない角度からの質問。
逆に予想していた角度なら「浮舟さん、寝癖凄いですよ」とか「浮舟さん、インナー見えてます」とか、そういった類の指摘。
だから、数秒考える。答えはすぐに見つかり、そのまま返す。
「
「ッ」
「──なーんて、勿論〝僕〟にも限界というものがあるから。誰も彼もを助けることが出来ないというのは理解してるよ」
風が凪ぐ。
ケイちゃんの視線を他所に続ける。
「でも、この手で掴めるものならなんでも助けたいんだ──ほら、最近
「笑えません」
「ちぇー。……まぁ兎に角、言い換えれば誰でも構わないということだよ」
「……仮に」
「うん」
「現場にて被救助者を二人発見したとして、どちらか一人しか助けられないとしたら。浮舟さんはどうするんですか」
「難しい──というか意地悪な質問だね、ケイちゃん」
トロッコ問題的な?
言葉尻にそう付け加えると、ケイちゃんは頭を下げた。
「……すみません」
「いや、全然良いよ。呪術師ってのは自分を含めて色んな人の命が関わる仕事だからね。もしかしたらそう言った選択を迫られることもあるかも」
「……それで、あの」
「質問の答えだよね。……〝僕〟なら
「ッ……」
「というか、現場の切迫した状況でどっち助けるとか助けないとか深く考えてる時間無いしね。まず助け易い方から助けて、行けそうならもう一人助けに行くくらいのマインドで良いんじゃないかな」
質問の通り助けるのは無理だとしても、考えておくくらいはアリでしょ。
加えてそう返しておく。
ケイちゃんはあまり納得していないような顔をしているが、こればっかりはしょうがない。
実際の任務では
悩んでいるうちに両方手遅れ、なんてことが起こってしまったら笑えないし。
だから〝僕〟は、そういった状況ならまず助け易い方を助ける。というだけの話。
助ける相手が仲間だったらまた変わってくるんだろうけどね。
難しい問題だ。
〝僕〟のふわふわした回答を受けて、ケイちゃんが呟く。
「浮舟さんは、人を助けて後悔とかしないんですか」
「するよ、勿論──というか、ケイちゃんはなんでいきなりこの質問を? 大丈夫? 心しんどかったりする?」
「答えなきゃいけませんか」
「答えなくても良いけど、気になるかな」
「……少し、呪術師という存在に思うところがあったんです」
「あー、呪術師は簡単に言っちゃえば人助けでもあるからね。助ける人間の善悪を考えちゃうのはあるあるだよ」
「……今ので分かったんですか」
「大体ね。ケイちゃん真面目だし、〝僕〟もそのあたり悩んだ時期あったから」
〝僕も〟。
そして、夏油も。
かつて高専内の森の中で語り合ったように、どうしても人間の中には助けるに値しないような──こんな奴が死んでも誰も困らないんじゃないかと思うような人間がいる。存在する。
心身共に疲弊している時──思考に魔が差した時、ついこういったことを考えてしまう。
……まぁ、常日頃から考える人もいるだろうけど。
咳払い。
兎に角、人間ってのは全員が全員
それは任務先であったり、事前資料やケイちゃんの言うように人命救助時だったり、術師ならば誰だってその問題に直面する。
ケイちゃんも単独任務を受けられるということは、上記のような場面を一人きりで対応することもあるはずだ。
「……クズを助けたことで本来助けられるべき人間が助からないかも知れないと思うと、複雑な気持ちになります」
考え過ぎじゃない?
一人で抱え込んでしまっているような気がするケイちゃんを見て、〝僕〟はおどけたように笑った。
ケイちゃんの視線が刺さる。
咳払い。
それから、本音を開陳。
「まぁ。でも分かるよ、その気持ち。どうせなら善い人間に生きていてほしいもんな」
「…………」
「でもさ、悪い奴助けちゃったとしてもそれはマイナスが重なることにはならないし」
「どういう意味ですか」
「呪霊に襲われるとかいうそんなクソ不運から助けても、悪い奴はその後の人生において別に良くも悪くもならないというか」
「はぁ」
「この世界から人口が一人分減らなくなっただけで、ケイちゃんのその後の人生に与える影響ってのはあまり変わらないんじゃないかな」
「……でも、悪人が生き延びたことによってまた新たな被害者が生まれかねません」
「それこそ
「…………」
「だから善し悪しとか深く考えずに、助けられる人をがむしゃらに助ければ良いんだよ。そういえば貴方が以前助けたあの人、今こんな悪事を働いてますよなんてわざわざ報告してくる人いないんだからさ」
「……はい」
〝僕〟の言葉を受けて、音も無く頭を下げたケイちゃん。下げた頭が5秒経っても6秒経っても一向に戻っていかないことに気が付き、慌てて「頭上げてよ」と許可を出す。
先輩に対する敬意ってものが出来上がり過ぎじゃないか、ケイちゃん。
「……俺も早く、浮舟さんや乙骨先輩みたいに強い、一人前の呪術師になります。今みたいにくよくよ悩まず、助けたいと思った人を助けます」
「──忘れないで、ケイちゃん」
「は、はい」
「誰が強くて自分が弱くてとか、そんなん関係無いんだよ。
「すげぇ! 出センパイ、フィル・コールソンから引用してる!」
「……なんか一瞬で置いていかれたような」
「──きゃあああああああっ!!」
ケイちゃんと、らしくもなく真面目な話をしていた場面。その際発した〝僕〟のセリフに真希ちゃんが大層喜んでいたところで、空から野薔薇ちゃんが降ってきた。
「え?」
視界が暗くなったことで野薔薇ちゃんの存在に気付き、慌てて受け止めようとするが、お酒の入っていない〝僕〟の力では到底受け止め切れずに一緒に崩れ落ちる。
芝生の上に野薔薇ちゃんと二人して転がっていると、野薔薇ちゃんに「ちゃんと受け止めなさいよ」と胸を叩かれた。
「ごめん」
「謝るのは私らの方っす。──おいパンダァ! 出センパイ怪我したらどうすんだよッ!」
「ゴメーン!」
「こんぶ?」
「大丈夫大丈夫。ありがとう棘ピー」
野薔薇ちゃんを投げ飛ばした張本人、パンダが謝りながら駆けてきた。心配そうな顔をして〝僕〟を見下ろす棘ピーの手を借りて起き上がる。どうやら、野薔薇ちゃんを投げる方向を間違えたらしい。
未だ仰向けで地面に倒れている野薔薇ちゃんに声を掛ける。
「……野薔薇ちゃん、立てる?」
「ん」
「……あぁ、オッケーオッケー」
「ん、じゃねぇよ野薔薇。甘えてねぇで自分で立て!」
仰向けの状態でこちらに両手を伸ばす野薔薇ちゃん。その手を掴もうとしたところで、真希ちゃんが野薔薇ちゃんの無防備な横っ腹を軽く蹴飛ばした。
「いった! 真希さん酷い!」
「酷くねぇよ。おら、組み手に戻れ」
「はーい……」
野薔薇ちゃんは痛みに顔を顰めながらもすぐさま立ち上がり、蹴られたところをさすりながらトボトボとグラウンドに戻っていった。
「……にしても、この調子で間に合いますかね」
「これからだよ。野薔薇ちゃんもケイちゃんも頑張ってるし」
「恐縮です」
「……出センパイ。無茶言うようですけど、やっぱ交流会出てくれませんか?」
「無理だって。〝僕〟呪術界では死んでることになってるんだから」
「11年も経ってるんだったら、意外とバレないんじゃないっすか?」
「うーん、京都校の楽厳寺学長っているでしょ? あの人昔から〝僕〟のこと嫌いだったし、会えば絶対バレちゃうよ」
楽厳寺学長。
上層部に呼び出された時とか、歌姫先輩に会いに京都校に遊びに行った時とかに何度か会ったことのある人。なにもしていないのに何故か嫌われていたので、プライベートでの交流は皆無。よって楽巌寺学長がどんな人なのかはあまり分からないが、立派なヒゲと眉毛を持っていたことは覚えている。
11年経ってもまだ学長やってるらしいぜ、凄いねあの人。
真希ちゃんが少し残念そうに呟く。
「出センパイいれば百人力なんすけど……」
「まぁ、〝僕〟は本来なら高専生でもないんだ。楽巌寺学長にバレないところからみんなの活躍を見させてもらうことにするよ」
それに、なにかがまかり間違って交流会に出場出来ることになったとしても、〝僕〟には余命云々の問題がある。交流会という
この力は、誰かが本当にピンチの時に使わなければ。
「……浮舟さん、大丈夫ですか?」
「え? あー、ごめん。なんの話だっけ」
「交流会、今年も東京校が勝ったらなにかご褒美下さい。って真希さんが言ってました」
「ご褒美? 全然良いけど、〝僕〟からのご褒美ってことは
「別にウチら、物下さいって言ってないっすよ」
「難しいなぁ。……よし、決めた」
「なんすか?」
「真希ちゃん──というかみんなさぁ、なんか〝僕〟に隠れて本を所持してるでしょ」
「ギクッ」
「真希さん、ギクって口で言わないでください。──俺は持ってません」
「わ、私も持ってないっす。そんな話聞いたこともない」
しどろもどろ。
わたわたとなにやら慌てた様子で答えた二人。なにを慌てているのか分からない〝僕〟は話を続けることにした。
「
「あー。あったっすね、そんな話も。読者との解釈違いを防ぐ為に同期とのラブロマンス云々は徹底的に省かれたとかいう、あの本。よく知らないっすけど」
「噂では続編にあたる『二年生編』の制作も既に決定しているらしいですね。知りませんけど」
「詳しいね」
「章の合間に書かれている出センパイ情報は、今回の為に書き下ろした全て初出しの情報なんだとか」
よく知らないっすけど。
「特典で付いてくるブロマイド(全9種)の中には、浮舟さんの11年前──つまりリアル学生時代の写真が使われているシークレットレアが極稀に封入されているらしいです」
知りませんけど。
「そ、そうなんだ……」
知らなかった情報の数々。
読んでない二人の耳にも届いているということは、どうやらあの本は結構な人の手に渡ってしまっているのかも知れない。大丈夫? そこから〝僕〟が生きてるって上層部にバレちゃったりしない?
「なんだ、二人とも持ってないんだ」
ちょっと安心したような。
〝僕〟の本。
上機嫌な冥冥さんにサシでご飯連れて行ってもらえたので、〝僕〟の本が信頼出来る術師に対して3000円で売られているという一件に関しては完全に黙認している。
黙認しているけれども。
3000円って。
高くない?
参考書買ってるんじゃないんだからさ。
そんな、お高い〝僕〟の本(ハードカバー)。冥冥さんから発売を知らされた当初は一体誰が買うんだよとか思ったものだが、この前伊地知と新田ちゃんに「とても面白かったです(っす)!」とか本片手に話しかけられてメッチャビビったよね。
話を戻そう。
「あの本持ってないんじゃ、二人にはこの話あまり関係ないか」
「「え?」」
「そんなにあの本が需要あるなら、東京校が勝ったら本にサインでもしてあげようかと思ったんだけど」
「「…………」」
言うと、真希ちゃんとケイちゃんが硬直する。一秒、二秒とその場から一ミリも動かなくなる。
それから、ケイちゃんがまっすぐ手を挙げて質問。
「あの、宛名は書いてもらえますか」
「恵!?」
「宛名? 『ケイちゃんへ』みたいなこと? 全然良いよ。なんなら一言添えちゃおうかな」
有名人からサインとか貰ったことないから、作法とかそういうのは分からないけど。
今度インターネットで検索してみようかな。
インターネットで。
「し、質問良いすか!」
「どうしたの真希ちゃん」
「サインの後、握手とか! つ、つつつツーショットとか撮ってもらえますか!」
「うん、良いよ。……あーでも、真希ちゃんとケイちゃんは本持ってないみたいだし、二人には別のご褒美考えておくよ。なにかリクエストあったら教えてね」
お高めのご飯奢るとかどうかな。
そんな感じの代替案をいくつか頭に浮かべていると、スマホに着信。二人に断って、電話に出る為にこの場から離れるのだった。
∩
「真希さん」
「おう」
「組み手、お願いします。とびきりキツいのを」
「ハッ、分かってるじゃねぇか恵。言われなくてもボコしてやろうと思ってたところだ」
「交流会、絶対勝ちましょう」
「ったりめぇだろ」
「……あ、なんか俺の影に物入れられそうです」
「は?」
「今ふと閃いて触ってみたんです。ほら、沈むでしょ」
「は?」
「真希さんの呪具とか俺持ち運ぶんで、交流会なにがなんでも勝ちましょうね」
「……コイツ、出センパイ絡んだ時のやる気ヤベェな」
この展開なんか違うな……と思って丸々書き直していたら1ヶ月経ってました!遅れてごめんね!
ちなみに修正前は、二年生からのスパルタに耐えかねた野薔薇ちゃんが「どうせなら優しい浮舟さんに教えてもらいたい!」とごねて、お酒飲んだ浮舟からお望み通りボコボコにされるようなお話でした。
浮舟にお酒飲ませる必要ないなと思ったのと、書いてみたら思った以上にボコボコにしちゃってたので没にしました。
これからも頑張ります!応援よろしくお願いします!
またね!
誰好き?
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浮舟出
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五条悟
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家入硝子
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夏油傑
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七海建人
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灰原雄
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伊地知潔高
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庵歌姫
-
冥冥
-
夜蛾正道
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九十九由基
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乙骨憂太
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折本里香
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禪院真希
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パンダ
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狗巻棘
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枷場美々子
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枷場菜々子
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伏黒甚爾