アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは。土曜日なのでこの時間にお届けです。



アル中、沈む。

 

 

 

 

「よう、また会ったな」

 

気が付くと、オレはあの場所に立っていた。

急げばまだ間に合う距離に瀕死の五条が倒れていて。

しかしオレと五条の間には、無傷の伏黒甚爾が立ちはだかっていて。

 

「まさか、()()で勝った気でいるんじゃねぇだろうな」

 

伏黒甚爾がオレに話しかける。すると両腕を斬られた記憶がフラッシュバックし、その痛みで頭を押さえた。何故、両腕を斬られた(そんな)記憶が存在する?オレには、しっかりと頭を押さえる腕が有るというのに。

 

「今度こそ殺す」

 

伏黒甚爾は刀を構え、オレの目を見ながらゆっくりとこちらに向かってきた。

マズい。

慌てて背を向け、走り出す。しかし身体は思うように動かず、まるで水中でもがいているようだった。

それでも走る。

じゃないと殺される。

 

「じゃあな、いずる」

 

その声に振り返ると、血だらけの五条が、うつ伏せのまま笑顔でこちらに手を振っていて。

驚愕に目を見開く。それとほぼ同じタイミングで俺の首に刀身がめり込み──

 

「いずるッ!」

「…………あ、」

 

気が付くと、〝僕〟は五条に肩を揺さぶられていた。

 

「こら、悟。怪我人をそんなに揺さぶるな」

「私、先生呼んでくる」

 

嗜めるようにそう言った夏油と、急いで部屋から出ていった硝子ちゃん。

何が何やらと視線を彷徨わせていると、〝僕〟の肩を揺さぶっていた五条と目が合った。五条の綺麗な瞳は涙で滲んでいた。

いつもの丸グラサンはどうした?

そう問おうとして、ここが病室だということに気が付く。〝僕〟は病室内のベッドの上で寝ている姿勢。なんでだ?なんで〝僕〟がベッドに?

 

「いずる、生きてて良かった」

「五条──お前、泣いてるのか」

 

抱き締められる。その際、引き寄せられるようにして上体が起きた。

何故そんなにも感極まっているのか分からないが、抱き締められたならそれに倣うべきだろうと〝僕〟も五条の背中に手を回し……、まわ、し……。

 

「あ、ああッ……!?」

 

両腕が、無い。

肘から先が、存在しない。

 

「〝僕〟の!う、腕がァ!?」

「すまない、(いずる)

 

夏油がオレに頭を下げた。そんな出来事、有史以来あっただろうか──いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。

落ち着け。

深呼吸だ。

呼吸を整えろ。

 

「斬り落とされた出の両腕の回収は成功したが、反転術式の効かない君の身体では、元のように腕をくっつけてやることが出来なかった」

「……」

「両腕を失ったまま無茶をした君の身体に、落ちた腕を再び接合することは、現代の医療では不可能だったんだ」

「斬り落と、された?〝僕〟の腕が……?」

「……憶えてないのかい?無理もない。悟が君をおぶってこちらに来た時には、もう生きているのが不思議なくらいの状態だったからね」

 

知らない。

全く記憶に無いエピソードが、〝僕〟の耳にスラスラと入ってはもう片方の耳から抜けていく。

憶えてない。

憶えてないということは、〝僕〟はお酒を飲んでいたということか。

お酒に呑まれていたということか。

 

「今日、何日……?」

「……()()から4日も経っている。出は、4日も寝ていたんだよ」

「な、なんで、こんなっ──うグッ」

「いずる、大丈夫か!」

 

腕が無い。

目覚めてから数分も経っているのに、まだ無い。

どういうことなんだ。

もしかして、これは夢じゃないのか。

両腕には包帯が巻かれていて、その傷口は、処置されたであろう断面は、見ることは出来ない。感覚が無いだけで、本当は包帯の下に隠れてるんじゃないかと一瞬思ったけれど、どう考えてもこの包帯のシルエットの中に腕は収まらない。

 

「……オェッ」

 

吐瀉。

ベッドの上だが、堪え切れなかった。

 

「わ、わるい、はいちまった」

「傑、処理するもん持ってきてくれ。俺はいずるの着替えを」

「分かった。出、どうか落ち着いてくれ。もう大丈夫だから。君を害する存在はここにはいないから」

 

寒くもないのに、手先が震える。身体が震える。

歯の根が震える。カチカチと歯が鳴る。

夏油がバケツや雑巾を持ってきてくれる。

視界がチカチカする。

五条が〝僕〟の吐瀉物を嫌な顔ひとつせず処理してくれる。

起こしていた上体を、自分で支え切れなくなり、後ろに倒れる。ベッドの骨組みが軋んだ。

意識が。

意識が、保てなくなる。

 

「いずる、先生来たよ──」

「ほら君、大丈夫かい。しっかりして──」

 

医者らしき人を連れた硝子ちゃんの声。

必死に〝僕〟に声をかける医者らしき人。

泣きながらオレの吐瀉物を処理し、ごめん、ごめんと謝り続ける五条。

目を背け、顔を押さえて身体を震わせる夏油。

誰も彼もが──どれもこれもが〝僕〟の頭蓋の中でガンガンと反響する。やがて、何も見えなくなった。

何も、聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「復活!」

 

朝。

高専内。

教室に入ったオレは、高らかにそう宣言した。オレより早く登校していた3人は、どこからかクラッカーを取り出して、紐を引いた。パンパンと大きな音が鳴り、教室内に火薬の匂いが漂い始める。

夏油が教室の窓を開けてから、ニコリと笑いかけた。

 

「おめでとう、出。また君と授業が受けられて嬉しいよ」

「ああ、オレもだ」

「いずる。本当に、本当に大丈夫なのか?もう痛いところはないのか?」

「大丈夫。お医者さんからもお墨付きを貰った。勉強どころか体育も受けていいってさ」

「俺っ、ずっといずるが心配で……!」

 

涙ぐむ五条。オレは優しく言葉をかけた。

 

「安いもんだ、腕の2本くらい。お前が無事で良かった(激似ボイス)」

「それ、全然面白くないから二度とやんなよ」

「はい……」

 

場を和ませようとしたのだが、五条にキレられてしまった。似てるのにな。

 

「いずる。おいで」

 

場の空気が居た堪れない感じになったところで、硝子ちゃんから助け舟。すぐさま硝子ちゃんの方を向くと、ひょいひょいと手招きされた。歩み寄ると、ぽわっと反転術式を使用された。

 

「あ、ありがとう」

「気にしないで。私がやりたくてやってることだから」

 

硝子ちゃんは()()以降、何かとオレに反転術式を使用してくるようになった。一度死にかけたところでオレに反転術式が効かないという事実は何も変わらないはずなのだが、硝子ちゃん曰く「目に見えた効果が無いだけで、きっとどこかには効いているはずだから」らしい。

暇さえあればオレに反転術式を使うので、一度断ったことがある。硝子ちゃんが無理して体調を崩してしまったら、それはオレにとってとても悲しいことだから。そう、面と向かって伝えたことがある。

しかし、その時の硝子ちゃんの、まるで捨てられた子猫のような表情が、オレの心の一番柔らかい部分を的確に引き裂いた。そうなればオレが折れるしかない。以来、オレは大人しく硝子ちゃんの()()を受けている。

五条は()()以降、オレのそばを離れず周囲を警戒し、オレを守るようになった。伏黒甚爾にボコられたのがトラウマなのかと聞けばそうではなく、オレが遠くに逝きかけたあの体験がトラウマとなっているようで、いっそ過保護と言えるくらい、五条はオレを守るようになった。

夏油は()()以降、パッと見の変化は感じられないが、あまり笑わなくなったように感じる。勿論、こちらが呼びかければ笑顔を見せるが、以前みたいに口を開けて笑わなくなった。

あと、なんか知らんけど3人共ボディタッチが凄い増えた。

硝子ちゃんはすぐオレの背中にもたれかかってくるし、夏油はやたらオレの腰に片手を回すし、五条はことあるごとに抱きついてくる。

今だって、いつの間にか家族写真の距離間くらい4人がぴったりくっついている。

 

「……その、授業始めていいか」

 

この摩訶不思議な空間は、夜蛾先生が来るまで続いた。

 

「──それで。話ってなんですか?」

 

あれから授業を受けた。

五条の、夏油の、硝子ちゃんの介護を受けながらも滞り無く授業を受けた。昼食は全て食べさせてもらう形で摂り、時折お酒を飲ませてもらい、グラウンドでの組み手の時は硝子ちゃんと見学をして。

そして、放課後。

やることも無いので教室でぼーっとしていたオレを、話があると言って夜蛾先生が連れ出した。突然の出来事だが、当然のように五条夏油硝子ちゃんの3人も無言で後ろをついてきた。

両腕が無い為余った制服の袖が、歩く度にゆらゆらと揺れる。道中の会話は一つも無い。

やがて到着したのは、高専が管理する武器庫だ。武器庫の前で夜蛾先生がこちらに向き直ると、深々と頭を下げた。

 

「出。この前の件は全面的に高専側のミスだ。改めて謝罪させてくれ」

「い、良いですって別に。気にしてない……といったら嘘になりますけど。もう自分の中で折り合いをつけたことですから。オレ、別に大丈夫ですよ」

「っ……。そうか、本当にすまない」

 

夜蛾先生は少し苦しそうな顔をし、もう一度頭を下げた。

実際、あの場ではオレが戦うしかなかった。

あの時はお酒が入っていたので何も考えてなかったが、あとから聞けば、五条を殺した(未遂に終わったが)後の伏黒甚爾は間違いなく〝星漿体〟を殺すつもりだったらしいし。

オレは五条を助けたくての行動だし、オレの腕がこうなるくらいには相手が強過ぎた。むしろ、今こうして生きていられるだけ幸運だったのかもしれない。

五条が土壇場で反転術式を習得していなければ。

五条が(むらさき)で伏黒甚爾を殺していなければ。

あの場で死んでいたのは伏黒甚爾ではなかったのかも知れない。

伏黒甚爾が出した呪霊(肩に乗っていた武器を呑み込む呪霊や小っちゃいハエみたいな呪霊とか)は、当然ながら高専には登録されていない呪霊であり、伏黒甚爾が高専内で呪霊を出した瞬間アラートが鳴ったらしい。

先生方もそのアラートの原因を把握したり呪霊を祓ったり色々てんやわんやしていたらしいので、オレと五条のところに応援が来なかったからといって何故誰も来ないんだとはならない。なるわけがない。

当然だ。

だから、別にオレは何も気にしてはいないし、ずるずると未練がましく何かを引き摺ってなどいやしない。

兎に角、生きてて良かった──ただそれだけの話なのだから。

 

「俺としても出のような術師が、こんな形で術師としての道を閉ざされるのは本意ではない。だから──」

 

言葉の途中で、夜蛾先生がガラガラと武器庫の扉を開けた。

 

「この中からなんでも貸し出す。勿論、今の腕の状況からして使用できない武器もあるだろうが。それでも、お前が術師を続けると言ってくれた以上、俺はそれに応えなければならない」

 

言われて、中に一歩足を踏み入れる。

武器庫。

壁やら棚やらにビッシリとさまざまな武器が陳列されており、そのどれもが呪霊を祓う為に使う武器だという。よく分からないが、武器に呪力を流して使うらしい。

確かに、オレはこのままだとキックでしか戦えないので、夜蛾先生の提案は素直に嬉しかった。

 

「一人でたまに侵入(はい)るけど、やっぱ面白いよなココ」

「……待て、今なんと言った」

「あっ、ヤベ」

 

失言した五条が武器庫を飛び出す。その後ろを夜蛾先生がカンカンの様相で追いかけて、残されたのはオレと夏油と硝子ちゃん。

 

「それで、どうするの?」

 

少し不機嫌そうな硝子ちゃんが、促す。

オレがまだ入院していた頃、術師を続けると言った時、硝子ちゃんは猛反対した。お願いだから怪我をしないで。苦しまないで、平穏に生きてと、いっそ突き放すように言われたのをよく憶えている。

それでも、オレは術師として続ける道を選んだ。

だから、硝子ちゃんがこうして不機嫌になっているのも頷けるというものだ。

本当にごめんね硝子ちゃん。

 

「出。私達も一緒に探すから、何か希望があれば言ってくれ」

 

対照的に。

オレが術師を続けると言った時、笑ってくれたのが夏油だった。君は高専(ここ)にいた方が安全だ。私が、今度こそ必ず君を護るよと、耳元で囁かれたのをよく憶えている。

あの場面で〝星漿体〟とそのお世話係の人を安全な場所まで逃した夏油こそがMVPなのではと思うのだが、夏油はオレと五条のピンチに加勢できなかったことをえらく気にしているようで。

 

「そうだな。少し見て回る」

 

武器庫の中を歩く。刀に槍に、苦無や手裏剣や巻物などの、サブウェポンのようなものまで。当たり前だが、多種多様な武器がある。

迷う。

元々獲物を使って戦うタイプでは無かったし、いざ使うにしてもオレには両腕が無い。必然的に使える武器は限られてくる。……というか、腕がなくても使える武器ってなんだ?靴のつま先に刃を仕込むとか、そんな感じか?

歩く。

硝子ちゃんは飽きたのか(早っ)、武器庫の外で煙草を吸い始めた。

夏油はオレのすぐ後ろをピッタリくっついている。圧が凄いよ圧が。

 

「……」

「木箱、だね」

 

剥き出しで並んでいる武器がほとんど。しかし、その中で箱に入れて保管されているなにか。目を引くのは当然だ。オレは立ち止まり、夏油と目を合わせた。

 

「開けてみようか」

「頼む」

 

夏油が木箱を手に取る。

 

「ん、結構重いよ、これ」

 

大きさ30〜40cm程のそれは埃を被っている。夏油が息を吹きかけて埃を払った際に木箱の表面に文字が書いているのを確認したが、字体がくねくねと暴れ回っていて読み取ることは出来ない。直感だが、年代物なのかなと思った。

夏油が木箱を揺らすと、コトコトと音が聞こえてきた。

 

「開けるよ」

「おう」

 

開ける。

そこには、左腕が入っていた。

 

「こ、これは……」

「ラッキーだな、一番欲しかったヤツだ。早速付けてみようぜ」

 

勿論、生の左腕ではない。人間のではあるが。

木箱の中に入った腕は何らかの金属のような素材で作られており、色は緑色。武器庫内の灯りに照らされて光沢を見せている。その腕は木屑の緩衝材のようなものの中に埋もれており、それなりに丁寧に保管されていたようだ。

つまりは義手()()()()()()

オレが、金額を理由に自分用に作るのを断った義手と同じようなものが、まさかこんなところ(武器庫)にあるとは。

使う使わないは別として、試してみない手はない。

まぁ、オレには手無いんですけどね(爆オモロジョーク)。

 

「待つんだ出。ただの武器じゃなく、もし呪具だったらとか、そう言ったことは考えないのか?」

「えー、取り敢えず付けてみりゃいいじゃん」

「だ、駄目に決まってるだろう!」

 

危ないじゃないか!

夏油にしては珍しく大きな声を出したなと思った。

ねだるオレと、渋る夏油。そこに、夜蛾先生の声がかかった。

 

「それは付けても問題無い。……何も起こらない、と言った方が正しいがな」

 

少し息を切らしている。どうやら五条は取り逃したらしい。

 

「じゃあ安全だな。夏油、頼む」

「不用心過ぎる。夜蛾先生の言い方に何も疑問を抱かなかったのかい」

「少し待て。息を整える」

 

深呼吸を数度。ようやく落ち着いたのか、夜蛾先生が話し始めた。

 

「それは、平安時代に作られたとされる呪具だ。しかも準一級相当のな」

「ほら。やっぱり危険だよ出」

「しかし、それ自体には呪力も何も無い。過去、何人もの隻腕の術師がその腕を付けたが、何も起こらなかった。何故これが古来から呪具として伝わっているのか不思議なくらいにな」

「え、じゃあ、なんでここで保管されてるんですか?言っちゃえばただの義手ってことでしょ?」

「言っただろう、平安時代に作られたと。当たり前だが、平安時代にこんなに精巧な義手を作る技術は無い。しかもこれは金属で出来ているときた。呪力はなくとも、呪いに関連する()()()()()というのが高専の考えだ」

「何らかの呪いによって作られたオーパーツ、ということですね」

 

よく分からんが、オーパーツという単語は格好良いので納得した。そんな格好良い義手なら付けても問題無いだろうと。

しかし、この呪具(義手)、よく見るとおかしいのだ。本来の義手ならあるはずのソケットが無い。あるのは腕の部分のみだ。

ソケット(受け口)

義手を付ける時、当たり前だがフィギュアみたく腕の断面にガチっとはめ込んだりはしない。義手のソケット(受け口)に自分の腕(オレなら肘)を入れて、義手に付いているベルトを反対の腕から回して固定し、装着完了という感じなのだ。

だからつまり、ソケットが無いということはどうやって付ければ良いのか分からないということ。

 

「「……ソケット」」

 

言葉が被り、目が合う。なんだか可笑しくて笑った。

 

「……出、君も同じことを考えていたようだね」

「ああ」

「ソケットどころかベルトも無いし、これは諦めるしかなさそうだね。他のを探そう」

「なんか嬉しそうだなお前」

「そりゃあね。得体の知れない呪具を出に触らせるわけにはいかないよ。今まで害が無かったからといって、今この瞬間が安全というわけではないから」

 

決して、ね。

夏油は笑顔でそう言って、木箱の蓋を閉じ──

 

「よっしゃあ逃げ切り!夜蛾センバッチリ撒いて来た!」

 

ドン。

どこからか現れた五条が夏油の背中に軽く体当たり。

 

「ちょっ」

 

バランスを崩し、義手の入った木箱が夏油の手から離れ、宙を舞う。

義手は木箱から飛び出し、辺りに木屑を舞わせながらクルクルと縦回転。

ピタッ。

義手はオレの目の前で静止したかと思うと、ゆっくりと、オレの左腕にあたる部分に移動し始めた。

 

「は?」

「出、避けるんだ!」

 

夏油が叫ぶ。

 

「避けてる!けどコイツ、追ってくるんだよ──」

 

みじろぎ、移動。頭に浮かんだ選択肢のままに実行するも、義手は動きを変え軌道を変え、後をついてくる。

 

「何が呪力が無いだよ夜蛾先生!全然あるじゃんかよ!うおおおおおおおッ!?」

 

接着。

螺子込(ねじこ)むように、グルリと横に一回転から、何かが(はま)った音がした。

接合。

呪具の左腕。

緑色の金属体から紐のようなものが伸びて、オレの肘を這い上がっていく。その際キツく、キツく締め付けられ、やがて紐のようなものはオレの肩の辺りで身体の中に沈んだ。

 

「出ッ!」

 

夏油が駆け寄り、オレの()()を触診する。

 

「身体にどこか異常は──ああもう、悟!君は一体なんてことをしてくれたんだッ!」

「わ、悪い。こんなことになってるとは知らなくて。いずる、大丈夫か?」

 

突然の出来事に呆気に取られていた五条も、すぐさま現状を認識して、夏油と同じようにオレの左腕を確かめるように触る。

 

「よ、よしてくれよ。くすぐったいだろ」

 

ペタペタとした触感に思わず身動ぐ。夏油と五条がジッとオレを見つめていることに気が付き、動きを止める。

 

「なんだよ」

「……感覚が、あるのかい?」

「……え?」

 

接合した左腕を見詰める。

元々あった肘の部分から先が、夜蛾先生曰く準一級相当の呪具(義手)になってしまっている。

腕が、肘から先が緑色の金属になってしまっている!

肘と義手の境目には、段差も切れ目も存在しない。数ミリ単位の隙間も無く、()()()()()()()()()()()()()接合されている。

 

「ど、どうなっちまってんだ。これ……」

「出、何処へ行くんだ!」

 

ふらふらと、出口に向かって歩く。夏油の声が背中に当たるが、オレは構わず歩いた。

 

「硝子ちゃん」

 

外で煙草を燻らせていた硝子ちゃんに声をかけると、硝子ちゃんはこちらを振り返って微笑んだ。わぁ美人。

 

「ん、もう終わったの?」

「えっと……今吸ってる煙草貰ってもいい?」

「?別に良いけど。いずる、煙草吸わないんじゃないの」

「ありがとう」

 

突然のお願いに、訝しみながらも火が点いている煙草をくれた硝子ちゃんにお礼を言ってから背を向け、渡された煙草を咥え、左腕の義手部分にバレないようにこっそりと押し付けた。

 

「──熱ッッッッつう!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く。君は何を考えているんだ。火の点いた煙草を、義手とはいえ自分の腕に押し当てるなんて」

「マジで意味分かんないんだけど。いずるはそれが正しいと思ってやってるわけ?」

「なんでいずるってすぐ危ないことするんだよ。俺が守るとは言ってるけど、自傷を未然に防ぐのは流石に無理だぞ」

「すみませんでした……」

 

オレは武器庫の前で、正座で大説教を受けていた。

 

「いやぁ、あの行動にはオレなりにああすべき理由もあったわけでして」

「……へぇ?あの行動が?まぁそれなら仕方がないかと、私達3人を納得させるだけの理由があるというのかい。それなら是非とも聞かせてほしいな」

 

ヤバいよヤバいよ。みんなブチギレてるよ。

だからオレ、みんなに見えないようにこっそりやったのにさ。

熱過ぎて思わず大声を出してしまった。

馬鹿過ぎる。

ばっちりバレてやんの。

オレは冷や汗を垂らしながら、3人から発せられる怒りのオーラに喉を干上がらせながら、丁寧な口調を努めて言葉を紡いだ。

ちなみに、夜蛾先生は上層部にこの異常事態の報告に行ってしまっているので、助けは望めない。

 

「た、例えばの話なんだけど、硝子ちゃんまだ煙草ある?」

「あるけど絶対あげない」

「もうしないよ、本当にごめん。……その煙草、一本いつもみたいに持ってみてくれる?」

「……こう?」

「その状態の持ってる指がオレの腕。煙草がこの義手と仮定して聞いてほしい」

「ああ」

「オッケー」

「その煙草を指先で突くと、持っている硝子ちゃんの指には、振動として伝わるだろ?」

「そうだね」

「でもそれって硝子ちゃんの指の触覚に振動が伝わってきたからそう感じるわけで、実際に硝子ちゃんの指が突かれたわけじゃないでしょ?」

「そりゃそうでしょ。いずる、アンタ何が言いたいわけ?」

「じゃあ次は煙草に火を点けて」

「……もういい、出の言いたいことは分かった。君はイカれてるよ」

「おっ、流石夏油。冴えてるな」

「適当におだてても、決して出への説教の時間が短くなるわけじゃないよ。出は黙って正座を続けるんだ」

「はい」

 

同期だというのに、おもっクソ睨まれた。

夏油がオレの言葉を引き継ぐ。

 

「つまり、出はこう言いたいんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?って」

「……いずるは、それを自分の腕で試したってこと?有り得ない挙動で自分の腕にくっ付いた義手が、果たしてただの義手なのかを知る為に」

「あの時は混乱してて、それが一番手っ取り早くて確実だと思いました……ごめんなさい……」

 

気まずくて、ついつい頬をかく。

接合された左腕、その指先で頬をかく。

この義手は、嫌になるくらい手に馴染んでいた。

指先の一つ一つの関節から、複雑な動きまで、脳から送られてくる信号を誤差無く正確に実行してみせる。

まるで生まれる前からずっと一緒だったかのような、不思議な感覚。

違和感も拒否感も、まるで無い。

 

「おいいずる、ちゃんと聞いてんの?」

「あぁ、聞いてる。本当にごめん」

 

同期からのお説教に意識を戻す。コイツ全然懲りてないなといった意味の視線を一身に受けていると、夏油が宣誓した。

 

「決めた」

「なにを?」

「出、君にはこれから単独での行動を禁止する」

「え?」

 

何を決めたんだか。一種のんびりとした心持ちで夏油の言葉に相槌を打つと、返ってきたのは耳を疑う言葉。慌てて聞き返すと、五条と硝子ちゃんの二人もうんうんと頷いていた。

 

「出は、自分がどれくらい人に心配をかけているのか分かっていないようだからね」

「わ、分かってるって。この前硝子ちゃんにもお説教していただいたし」

「ならなんで()()()()()が出来る?」

「そ、それは……」

「結局、君は自分の価値を軽んじているんだ。自分のことは誰も心配しないだろうと──いや、出のことだからそんなことすら考えていないのかもしれないけれど──自分が何かしたところで周囲に与える影響は何もないだろう。別に何も問題は無いだろうとたかを括っている。だから、今回みたいな事になるんだ」

 

夏油の言葉は止まらない。

 

「これからは私達が出を見張る。無茶をしないように、馬鹿をしないように、すぐ隣で君を護り、君を導こう」

「いやいや、良いって。ほら、見てよ。オレ片腕使えるようになったんだ。ご飯も一人で食べられるしお酒も」

「良い加減にしないか」

 

ピシャリ。

思わず背筋が伸びる一言で、オレは発言を中断させられた。

 

「もうこれは決定事項だ。これからは朝の起床から夜の就寝まで、私達3人が君を護る。私達の目が黒い内は、もう君に決して無茶なんてさせないよ」

「え、あの……もしかして、マジなんですか?」

「当たり前だろう。何だったら、一年生の二人にも声をかけようか」

「本当にごめんなさいでした。なので、オレに同級生だけでなく後輩にもお世話される未来だけは、本当の本当に勘弁してください」

「分かってくれたようで良かった。これからも同期4人、仲良くしていこう。じゃあ、そろそろ寮に戻ろうか」

 

差し伸ばされた手を、義手で掴む。意図も容易く立ち上がらされ、夏油の手の温かさが義手を通して伝わってきた。

夏油は──いや、3人は、おかしくなってしまった。

一体どうしてこんなことになってしまったのかと考えれば、それは恐らくオレの日々の行動の積み重ねのせいなのだ。

側から見ればオレは危なっかしくて、手のかかる同級生なのだろう。自分なりに上手くやってきたつもりだったが、天才3人組にかかればオレなんてただの平凡なクソドジ男子高校生というわけだ。

硝子ちゃんがオレと腕を組み。

五条がオレの肩を掴み。

夏油が先導する。

成る程、合理的ではないが、これならば、いつどのタイミングで敵に襲撃されても安心だろう。

しかし、どうなのだ。

この3人に護ってもらうだけの価値が、はたしてオレにはあるのか。

本当にこれで良いのか。

彼等にはもっとやるべきことがあるんじゃないのか。

オレが彼等の重荷になっているんじゃないか。

自責の念が、雨雲のようにモクモクと現れたが、同期の笑顔を見ていたら、いつの間にか消えていた。

 

 

 

 

 

 

 






浮舟出:両腕を義手にすることは出来ず、なら片腕だけでもと軽い気持ちで、取り敢えず性能が良い筋電義手を作りたいと医者に相談したところ、一般学生呪術師にとっては目玉が飛び出る金額を提示された為、断念。普通の義手だと戦闘時に邪魔になると考え、じゃあ良いかと義手無し生活を敢行。入院生活中のリハビリはまあまあ地獄だったらしい。
この状態でまだ戦う気がマシマシなので、同期や医者はおろか、夜蛾先生からもドン引きされている。ちなみに、呪術師やめたいですと言ったら言ったで面倒なことになっていた模様。


夏油傑:出の身の安全を守り隊。本当ならあんな呪具すぐさま引っこ抜いてやりたかったが、出が痛がるかも知れないと考え、やめた。出が感じる苦しみを全て取り除いてあげたいと思っている。
その為ならなにをしても良いとも思っている。
同期3人で出を護ろうと固く誓った。


家入硝子:いずるに幸せな人生を送ってもらい隊。いずるに効かなければ反転術式なんて持ってても意味が無いんじゃないかと時々思う。けどいずるに褒められると嬉しいので、この術式はしっかり人の為に使おうと決めた。
いずるの全てが愛おしく感じるのと同時に、もういずるの全てを私が管理するのが最良なのではと考えている。
なので、あのクズ二人は別にいらんでしょ、とも考えている。


五条悟:いずる絶対守るマン。
いずると出会うまではクソガキ道中まっしぐらだったものの、いずるから俗世の一般常識について教わり、丸くなる。しかし同期と夜蛾先生以外の人間がいずると話そうとすると、必ず五条が間に入って圧をかける。
上層部が何か企んでいるのを勘付いているらしい。
同期4人でずっと一緒にいれたら楽しいよなと心から思うくらいには、同期に対して心を開いている。


夜蛾正道:二年生ズの歪な関係を知りつつも、特に指摘はしないタイプの大人。五条が段々とまともになっている現状に喜びつつ、あれ出ってこんなイカれてたか?と日々頭を抱えている。あと義手が勝手に動き出した件についてはマジで申し訳なく思っているらしい。
最近、教室に入ると、教室内がジメジメしているらしい。


お医者さん:高専の息がかかった病院で働いているお医者さん。また厄介な奴が来たよと心の中で思っていた。



庵歌姫:可愛い後輩である家入硝子から連絡を貰い、急いで東京校に向かっているらしい。





おかげさまで楽しく書かせていただいております。ランキングに載っていたようで、UAやらお気に入り数やらが爆伸びしていてとても驚きました。ありがとうございます。感想を送って下さる方も、どうもありがとうございます。
急いで書いているので、設定等間違っているかもしれません。なにかお気付きになりましたら、こっそり優しく教えていただけると超嬉しいです。
それでは。



誰好き?

  • 浮舟出
  • 五条悟
  • 家入硝子
  • 夏油傑
  • 七海建人
  • 灰原雄
  • 伊地知潔高
  • 庵歌姫
  • 冥冥
  • 夜蛾正道
  • 九十九由基
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  • 禪院真希
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  • 枷場美々子
  • 枷場菜々子
  • 伏黒甚爾
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