アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは。大塚ガキ男です。お盆ブースト無しです。




アル中と女のタイプ。

 

 

 

 人気(ひとけ)の無い山道で五条悟を襲った、謎の呪霊。

 しかし五条悟はそれをものともせず、終始一方的な戦いを演じ、その最中に呪霊相手に()()をレクチャーする余裕っぷり。

 未登録の特級呪霊という立ち位置である、人語を解する火山頭の呪霊──漏瑚(じょうご)は一方的に蹂躙され、傷だらけの状態。五条に蹴り飛ばされた先、湖に打ち付けられた漏瑚は水中から起き上がった後、周囲を見渡した。

 五条悟がいない。

 死角から狙い討つつもりかと周囲を警戒していた刹那、音も無く──前触れも無く五条が現れた。

 両手に高専の生徒を二人抱えて、この場に姿を現した。

 

「……ソイツは」

「見学の虎杖悠仁君と、僕の婚約者(フィアンセ)浮舟出君です」

「ざけんな」

「もう、いずるってばノリ悪いなぁ!」

「ノリとは思えないからだよ! 肩抱くな!」

「先生、俺達10秒位前まで高専にいたよね。どーなってんの?」

「んー、トんだの」

「トんでるのはお前だ」

 

 湖の上に浮いている事実も、目の前の呪霊の存在も、何一つ説明する気はない五条。虎杖もその空気を察して切り替える。湖に沈まない自らの身体、その足元を不思議そうに眺めていた。

 

 五条悟を戦闘不能にし、虎杖悠仁(両面宿儺)を仲間に引き込む。

 

 奴が言った言葉を頭の中で思い出した漏瑚は、目的達成の為の材料である()()が揃っている垂涎の状況に、しかし悔しそうに歯噛みした。

 数分前の、五条との戦闘により彼我の差は理解した。自分では五条を戦闘不能にはできない。

 加えて、両面宿儺の器である虎杖悠仁。奴を殺すわけにはいかず、五条に守られた虎杖を連れ去ることは出来ない。

 

「……なんだそのガキは。盾か?」

 

 最後に、あの男。

 懐から取り出した酒を一口含んでいるところを五条に肩を抱かれ、嫌そうな顔で頬擦りをされている男──浮舟出。

 奴の言う通り、浮舟が場合によっては自らの意思でこちら側につく可能性のある人物ならば。その可能性が存在する限り、決して傷付けてはならない。

 殺してはならないガキと、倒すことのできない術師と、傷付けてはならないガキ。

 その三者。

 厄介事が増え過ぎだ。漏瑚は心の中で吐き捨てた。

 それから、目を細めて眺める。

 五条の頬を手で押し返している男からは呪力が微量しか感じられない。

これなら虎杖の方がまだ多い。

 五条が何故この場に連れてきたのか理解出来ないほど、漏瑚から見た浮舟は弱者だった。

 

「盾? 違う違う。言ったでしょ、見学だって」

 

 思案している間に会話は進む。漏瑚は一旦浮舟のことは置いておくことにし、目の前の会話に集中することにした。

 

「今この子に色々教えている最中でね。ま、君は気にせず戦ってよ」

「……自ら足手纏いを二人も連れてくるとは、愚かだな」

「先生、この呪霊(コイツ)ヤバいよ」

「だよなァ虎杖君。どう見ても特級レベルだぜ五条」

 

 漏瑚の言葉を受けた二人はその言葉を一切否定せず、目の前の呪霊の恐ろしさにブルブルと震えている。

 五条があっけらかんと笑う。

 

「アハハ、大丈夫でしょ。だって君弱いもん」

 

 ────。

 漏瑚の中でなにかが切れる音がした。

 

「舐めるなよ小童(こわっぱ)が!! そのニヤケ面ごと飲み込んでくれるわ!!」

 

 噴火。

 頭部の火山口が火を吹く。両耳を塞いでいたコルクが吹き飛んで白い煙を吐き出す。漏瑚の怒りそのままに、炎を──被害を撒き散らす。湖の水が(ゆだ)ってしまいそうなほどの熱さを放出する。

 肌を刺すようなプレッシャーを受けた虎杖と浮舟が硬直。今まで戦ってきたどんな呪い(バケモノ)よりも、遥かに呪い(バケモノ)。目の前の呪霊から湧き出る呪力に当てられ、二人は身動き一つ取ることができなかった。

 

「大丈夫。僕から離れないでね」

 

 二人を安心させる為、五条が微笑む。本当に大丈夫なのかと虎杖と浮舟が互いに顔を見合わせた瞬間、地形に変化が起こった。

 

「領域展開!!」

 

 漏瑚が、手印を結んだ。

 森に囲まれた夜の湖が、景色が一瞬にして消える。瞬く間にドーム状の岩に囲まれ、あたりから溶岩が噴き出す異様な地形に塗り替えられた。

 肌を焼く熱気。

 喉を焼く大気。

 網膜を焼く黒い赤。

 この空間を構成する全てが、この身を焼き尽くさんと猛威を振るってくる。五条がいなければどうなっていただろうと、浮舟が一人ゾッとする。

 周囲を見渡してただただ圧倒される虎杖に、五条が教師らしく説明を入れた。

 

「これが()()()()。術式を付与した生得領域を呪力で周囲に構築する」

 

 少しでも油断すれば肌を舐めようと手を伸ばしてくる炎に、虎杖が身を(よじ)って暑がる。聞いていなくても続けるらしく、五条の説明は止まらない。

 

「君達が少年院で体験したのは術式の付与されていない未完成の領域だ。ちゃんとした領域なら一年生全員死んでたよ」

「おい五条どうするよ。オレ今領域展開とか出来ないぞ」

「今から説明するからいずるは黙ってて! というかいずるそもそも領域展開出来ないでしょ」

 

 浮舟の言葉にツッコミを入れるほどの余裕。

 領域内に閉じ込められて尚、未だ焼き死なない三人を漏瑚がどう思っているのかはさて置き、五条が続ける。

 

「領域を広げるのは滅茶苦茶呪力を消費するけど、それだけに利点もある。一つは環境要因によるステータスの向上。ゲームのバフみたいなもんだね」

 

 喋り続ける五条に岩が伸びる。表面が赤く光るほど熱せられた大岩が殺到してくる。五条はその攻撃を〝無限〟で受けず、呪力を込めた拳で破壊する。

 容易くやってのけた一連の行動に、漏瑚は大きく舌打ちをした。

 

「もう一つ。領域内で発動した付与された術式は、絶対当たる」

 

 その言葉の強さに、虎杖がすかさず問いかける。

 

「絶対!?」

 

 五条が言い聞かせるように返す。

 

「ずぇ〜ったい」

 

 敵の領域内という状況を忘れさせるほど、そこだけ──二人の間だけ和やかな雰囲気が流れていた。浮舟は冷や冷やしながら両手で五条の服の端を摘んでいる。

 浮舟に頼られている五条の笑みが、数段深くなる。

 

「でも安心して。対処法もいくつかある。今みたいに呪術で受けるか、これはあまりオススメしないけど領域外に逃げるとか」

 

 そして。

 五条の説明が佳境に入り始めたところで、痺れを切らした漏瑚が言葉を被せた。

 

「貴様の〝無限〟とやらも、より濃い領域で中和してしまえば儂の術も届くのだろう?」

「うん、届くよ」

 

 どこまでいっても普段の通り、自分のペースを崩さない五条。漏瑚が忌々しげに睨みながら機を窺う。

 

「領域に対する最も有効な手段。こっちも領域を展開する」

 

 五条が、アイマスクに手をかけた。

 

「同時に領域が展開された時、より洗練された術がその場を制するんだ」

 

 その手によって徐々にアイマスクが外れていく。なにかをする気なのだと察した漏瑚が構えながら叫んだ。

 

「灰すら残さんぞ!! 五条悟!!」

 

 漏瑚の狙いは術式の行使。

 五条を襲撃したのは、半ば戯れのようなものだった。

 しかし戦闘の最中突き付けられた彼我の差。

 呪霊としての矜持が、それを受け入れられなかったのだ。

 殺す。

 最早計画などどうでも良い。ただ目の前の呪術師よりも呪霊(自分)の方が優れているのだと証明する。

 その為の行使。

 しかし、それよりも先に五条の手印が結ばれた。

 

「領域展開──無量空処(むりょうくうしょ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自販機、もうちょい増やしてくんないかしら」

「無理だろ。入れる業者も限られてるしな」

 

 ガコン。

 蝉の声が騒がしい空間に、水分がたっぷり入った容器が落ちてくる音がした。

 高専内、屋外の自販機コーナー。

 前にここで歌姫先輩と真夜中に語り合ったなとか懐かしい思い出に浸りながら、野薔薇ちゃんとケイちゃんの遣り取りを日陰の端っこで二人眺める。

 訓練の合間の、ちょっとした休憩時間。

 一年生ということもあり真希ちゃんにパシられた二人は、渡されたお金片手にこうして自販機コーナーまで人数分の飲み物を買いに来ている──というわけらしい。

 今ここで会ったばかりだから、二人から聞いたことをそのまま反芻(はんすう)しただけだけど。

 みんなと違ってロクすっぽ訓練せずに室内にいた〝僕〟ですら、この暑さは(こた)える。ならばずっと外で頑張っている野薔薇ちゃんとケイちゃんは尚更のことだろう。

 訓練頑張ってね。

 そう声をかけると「……うす」とケイちゃんが頭を下げた。

 野薔薇ちゃんが自販機の取り出し口からジュースを拾い、立ち上がってこちらを見てくる。

 

「言われなくても頑張るわよ。一級だろうが特級だろうがすぐになって、大稼ぎしてやるんだから」

「お、良い心意気だね野薔薇ちゃん。頭を撫でてあげよう」

「良いの? ──え!? あ、いえ、違うんです硝子さん! 普段からやってもらってるとかそういうんじゃないんです!」

「……いや、別に構わないよ」

「というか、家入さん。どうしてこんなところにいるんですか?」

 

 そう。

 自販機コーナーにいるのは〝僕〟と野薔薇ちゃんケイちゃんだけじゃない。硝子ちゃんもいるのだ。

 

「ああ、それはね──」

 

 ことの経緯は、ほんの5分前。

 今日は時間があるらしい五条にマンツーマンで稽古をつけられている虎杖くん。こうなっては〝僕〟にはやることがないので、医務室にて硝子ちゃんの話し相手になっていた。

 ようやくひと段落ついたという硝子ちゃんに「気分転換がてらジュースでも買いに行こうよ」となんの気なしに声をかけた。冷房が効いている医務室内を肌寒いと思ったのと、普段から屋内作業が続いている硝子ちゃんに少しでも日光を浴びてもらいたいなという願いがあったからだ。

 〝僕〟のお誘いに二つ返事で腰を上げた硝子ちゃんと共に、屋内ではなくわざわざ屋外の自販機コーナーを訪れ、野薔薇ちゃんとケイちゃんと出会(でくわ)した──つまりはこういう経緯。こういう時系列。

 暑さに参っている硝子ちゃんは野薔薇ちゃんになにか言う気力も無いのか、〝僕〟を後ろから抱き締めて「涼しい……」と力無く呟いている。涼しいわけがないのだが、涼しく感じるかどうかは本人の自由だ。

 

「浮舟さん、その優しさは逆効果では?」

「〝僕〟もそう思ってたところ。ごめんね硝子ちゃん。医務室帰ろっか」

「そうしよう。あ、その前にアイスコーヒーを……」

 

 ()だるような暑さを体現するかのように、ふらふらとした足取りで自販機へ向かった硝子ちゃん。目当てのアイスコーヒーのボタンを押し、キャッシュレス決済にも対応している自販機にスマホを(かざ)して──

 

「なんで東京(こっち)いるんですか禪院先輩」

 

 ケイちゃんが口を開いた。

()()先輩? 

 その言葉が向けられた方向に視線を向けると、いつの間にか男女一組が立っていた。

 カスタムされた高専の制服を着こなしている女生徒の方が応える。

 

「嫌だなぁ伏黒君。それじゃあ真希と区別がつかないわ。真依って呼んで」

 

 次いで、その隣に立つ白ティーにボンタンという出立ちの男子生徒が、品定めをするような目で野薔薇ちゃんとケイちゃんを見ながら。

 

「コイツらが、乙骨と三年の代打……ね」

 

 つまらなそうに呟いた。

 図体がデカくて、しかもマッチョときた。その溢れ出る漢のオーラに同じ男として思わず羨望の眼差しを向けてしまっていると、女生徒の方がニヤニヤと笑いながら会話を続けた。

 

「アナタ達が心配で学長に付いて来ちゃった」

 

 見たことのない生徒と、学長という発言。恐らくは京都校の人達だろうか。今日は交流会の打ち合わせに京都の学長が来るから気を付けてねと今朝五条から言われたので、もしかしたら本当に一緒についてきたのかもしれない。

 硝子ちゃんが自販機から〝僕〟の隣に戻ってきて、どうでも良さげに事の成り行きを眺めている。

 女生徒が指先で髪を弄りながら笑った。

 

「同級生が死んだんでしょう? 辛かった? それともそうでもなかった?」

「……何が言いたいんですか?」

 

 要領を得ない言い回しに、ケイちゃんが目を細めて問い返す。

 

「いいのよ言いづらいことってあるわよね。代わりに言ってあげる」

 

 女生徒は質問には答えずに続けた。

 

「〝器〟だなんて聞こえはいいけど、要は半分呪いの化物でしょ。そんな穢らわしい人外が隣で不躾に()()()を名乗って虫酸が走っていたのよね?」

 

 死んでせいせいしたんじゃない? 

 その発言に、この場における東京校サイドの人間から表情が消える。挑発のつもりか、それとも本心で言ってやがるのか、意図は読めない。読めないほど、今〝僕〟はムカついていた。

 一歩前に出て女生徒を睨む。

 

「ノコノコやってきてふざけたこと言わないでくれる? 野薔薇ちゃんとケイちゃんの気持ち考えなよ」

「いずる、よせ」

「離してよ硝子ちゃん」

「駄目だ。あれくらい黙って流してやれ」

 

 大人な対応を見せた硝子ちゃんが〝僕〟の腕を掴んだ。一発二発くらいぶん殴っても訓練の名目として済むかなとか考えていた〝僕〟としてはその制止は到底納得出来るものではなく、振り払おうと腕を振るが、硝子ちゃんは離してくれなかった。

 〝僕〟に気付いた様子の女生徒(今かよ)が、〝僕〟の顔を見て鼻で笑う。

 

「なによ貴方。ぱっとしない顔してるわね」

「……硝子ちゃん、お酒飲んでいい?」

「私より背低いみたいだし」

「あぁ、私のいずるに舐めた態度取ったんだ。サクッと殺してやれ」

「い、良いわけないじゃないですか! 二人とも落ち着いてください!」

「なんだよケイちゃん。〝僕〟その子に用があるんだけど」

「ここは俺と釘崎が対応しますんで、浮舟さんは大人しく見守っていてください……!」

「そうよ。あの女私がボコすんだから取らないでよ」

「……むぅ」

 

 可愛い後輩二人に言われては、〝僕〟にはこれ以上突き進む理由も無い。握っていた拳の力を緩め、黙って下ろした。女生徒は変わらず鼻で笑っているが、今回だけは見逃してやるとしよう。

 

「真依、どうでもいい話を広げるな。俺はただコイツらが乙骨の代わり足りうるのか、それが知りたい」

 

 未だ言い足りなさそうな女生徒を諫めた白ティーのマッチョが一歩前に出てきた。ケイちゃんと視線を合わせる。

 

「伏黒、とか言ったか」

 

 目をつけられたケイちゃんが半身引く。

 

「どんな女がタイプだ」

 

 ? 

 突然の問いかけに、ケイちゃんのみならず野薔薇ちゃんも、ついでに〝僕〟と硝子ちゃんも首を傾げる。白ティーマッチョはそんなこと全く気にもせず、自らの白ティーをビリビリに破きながら続けた。

 聞いたことのあるセリフに隣に立つ硝子ちゃんの眉間に皺が寄る。そうだよね、由基ちゃんみたいだよね。

 もしかして由基ちゃんと知り合いだったりするのだろうか。それともマジで無関係の、ただセリフが被っただけなのか。少し考えてみるが、答えなんて直接聞かないと分からないので──そして〝僕〟は生存を隠蔽されている以上見知らぬ人と()()()長い事話すわけにはいかないので──黙ってことの成り行きを見護ることにした。

 

「返答次第では今ココで半殺しにして、乙骨……最低でも三年は交流会に引っ張り出す」

 

 どうやら強い奴と戦いたい系のマッチョらしく。三年生の代打であるケイちゃんと野薔薇ちゃんでは満足出来ないのか、()()()をご所望の様子。乙骨君海外いっちゃってるし、三年生の子達は停学中なんだけどな。

 

(ちな)みに俺は、身長(タッパ)(ケツ)がデカい女がタイプです」

 

 白ティーを破いたことで上裸になったマッチョは、その白い歯を輝かせながら不気味に笑った。

 

「…………」

 

 場に白けた空気が流れる。特に女性陣からの視線がマッチョに痛く突き刺さる。自販機からジー、という電力の音が微かに聞こえてくるほど、束の間沈黙の時間が続いた。

 しかし当の本人はそんな視線も苦しいほどの沈黙も全く気にせず、ケイちゃんの答えをただ待っていた。

 

「なんで初対面のアンタと女の趣味を話さないといけないんですか」

 

 心底嫌そうにケイちゃんが返した。ケイちゃん、こうやって一人でグイグイ話進めていく人苦手だもんね。

 ケイちゃんの言葉に野薔薇ちゃんも同調する。

 

「そうよ。ムッツリにはハードル高いわよ」

「オマエは黙ってろ。ただでさえ意味分かんねー状況が余計ややこしくなる」

 

 野薔薇ちゃんのムッツリという言葉に、頬に青筋を立てながらケイちゃんが言葉を被せた。いつも通りの遣り取りに思わずクスリと笑ってしまう。この場ではなるべく空気として徹していたいので、慌てて口を塞ぐ。

 

「京都三年、東堂葵(とうどうあおい)。自己紹介終わり。これでお友達だな、早く答えろ男でもいいぞ」

 

 ケイちゃんの()()()という言葉を受けて、マッチョ──東堂君がすかさず名乗る。本当に友達になりたい気の良いナイスガイなのかと一瞬錯覚したが、いや違う。マジで一刻も早く女性のタイプを聞きたいだけだコイツ。

 東堂君が続ける。

 

「性癖にはソイツの全てが反映される。女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん。俺はつまらん男が大嫌いだ」

 

 成る程、つまりは東堂君なりの一種の()()()のようなものか。〝僕〟は〝僕〟なりに噛み砕いて納得してみる。納得してうんうんと頷く〝僕〟の様子を横目で見ていた硝子ちゃんが「いずるはあんな風になるなよ」と釘を刺してきた。違うよ硝子ちゃん。東堂君の理念に賛同しているわけじゃないよ。

 

「交流会は血湧き肉躍る俺の魂の独壇場。最後の交流会で退屈なんてさせられたら何しでかすか分からんからな。俺なりの優しさだ、今なら半殺しで済む」

 

 交流会という言葉を聞いて、脳裏に「いっく〜ん!」とこちらに駆けてくる関西弁が思い浮かび、慌てて振り払う。今頃アイツ何してんのかなとか思いながら、東堂君の言葉を最後まで聞く。

 

「答えろ伏黒。どんな女がタイプだ。男でも構わんぞ」

 

 中々答えようとしないケイちゃんに段々と苛立ってきたのか、その分厚い肉体から呪力を立ち上らせる東堂君。段々とこの場の空気が戦闘へと流れて始めたのを肌で感じる。

 ケイちゃんもそれは同じなようで、野薔薇ちゃんの方を一瞥してから一度視線を地面へ。それから顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。

 

「……別に、好みとかありませんよ。その人に揺るがない人間性があれば、それ以上は何も求めません」

「なんで〝僕〟の方見ながら言うのさ」

「やっぱりだ……、退屈だよ伏黒」

 

 ツゥー。

 〝僕〟のツッコミを他所に、東堂君が静かに涙を流した。頬を流れる純粋な一雫に思わずギョッとしていると、不意に潤んだ瞳が〝僕〟の方を向いた。

 

「お前はどうだ。見るからに弱そうだが、人を見かけで判断するのは良くないよな」

「それは確かにね」

「伏黒が意識するような奴だ。念の為聞いておく。どんな女がタイプだ」

「えっ」

 

 やはり相槌を打ったのは悪手だったか。

 後悔するも時既に遅く、東堂君の瞳は完全に〝僕〟の方を向いてしまっている。東堂君の隣の女生徒もニヤニヤと笑いながら〝僕〟を見ていた

 

「いや、〝僕〟は良いよ。それよりもあとは若い人達同士でさ、仲良くしててもらって……」

「逃げるつもりか?」

「逃げたって良いでしょ。〝僕〟は交流会にも出ないんだし」

「お前を見れば、実力者ではないというのは分かる」

 

 呪力も感じられんしな。

 東堂君がなんでもないように〝僕〟の全身を眺めてから。

 

「──しかし女のタイプは聞かせてもらおう。同じ男としての興味もあるからだ」

 

 なんでだよ。

 〝僕〟は心の中で元気にツッコんでから、どうしたものかと頭を回し始めた。

 変に嫌がったせいで、ケイちゃんや野薔薇ちゃん、それに硝子ちゃんからもジッと見られてしまっている。

 嫌だ。

 絶対に答えたくない。

 硝子ちゃんからの穴が空くほどの視線に耐えながら、〝僕〟はそう思った。

 

「早く答えろ。伏黒といい、東京校は女のタイプも語れないような照れ屋さんばかりなのか?」

 

 急かすような言葉の中には、ほんの少しの挑発も含まれている。男ならドンと答えろという東堂君なりの発破も含まれているのだろう。

 

「うーん、恥ずいから()だ」

 

 でも〝僕〟は答えない。

 

「いずる……?」

 

 てっきり自分の名が挙がるものだと思っていたのか、硝子ちゃんが〝僕〟の制服をちょいちょいと引っ張ってくる。ごめんね硝子ちゃん。硝子ちゃんのことメッチャ好きだけど、硝子ちゃん(本人)の前でそんなことは言えるわけないからさ。

 だって、それってもう告白じゃん。

 

「……つまらん、本当につまらん。強くもなく、女のタイプも明かせないような男が高専の地に足を踏み入れているとはな」

 

 ガッカリだ。

 そう言いながら東堂君が地面を蹴ってこちらに突っ込んできた。

 段々とこちらに迫る哀しげな顔。しかし両拳はしっかりと握られていて、まさかその顔のまま攻撃する気かと頭の中で変な指摘をしてしまう。

 

「──浮舟さん! ここは俺に任せてください!」

 

 あんなマッチョの攻撃受けたら流石に死ぬかと身構えながら待っていると、〝僕〟と東堂君の間に割り込む影。東堂君のラリアットを受けたのは、ケイちゃんの両腕だった。〝僕〟の代わりに後方にぶっ飛ばされながら、そう叫んだ。

 

「ケイちゃん!」

「そういうことだから、浮舟さん早くどっか行って。危ないでしょ」

「野薔薇ちゃんまで……」

「あーあ、伏黒君かわいそっ」

 

 野薔薇ちゃんにも離脱を求められ、後輩を置いてどこかに行って良いものかと逡巡。しかしいつの間にか背後に立った女生徒が野薔薇ちゃんをバックハグしているのを見て、あぶれている〝僕〟は考えを改めた。

 

「……そっか、〝僕〟はお邪魔ってわけね」

 

 言い換えれば、サシで()らせてくれ。

 ケイちゃんも野薔薇ちゃんも相手にはそれねりの因縁があるっぽいし、確かに〝僕〟が加勢したところで邪魔なだけだろう。

 そういうことならばと硝子ちゃんに目配せし、野薔薇ちゃんにまたねと声をかけてからその場を去ることに決めた。

 視界の端で女生徒が野薔薇ちゃんに拳銃を向けているのが見えた。一級になるんだったら銃弾くらい、掴むまではいかないとしても避けられるようにならないとね。

 〝僕〟は準一級だから避けられずに死んだけど。

 まぁ女生徒が持ってる銃も実弾なわけがないので、特に気にせずそのまま医務室へと戻るのだった。

 

「なぁいずる。女のタイプ教えてくれないか。なぁ。今は私しかいないんだから恥ずかしくないだろ。なぁ教えてくれ。いずる。私か? 私以外の奴がいるのか? 歌姫先輩なら許すけど、他にいるわけがないよな? なぁ。いずる。答えてくれよ。なぁ。いずる。なぁ」

 

 帰り道。

 〝僕〟の腰に手を回しながら耳元で質問責めしてくる硝子ちゃんを、適当にいなしながら。

 

 

 

 

 





後書き書いている暇無いほど眠たいので、今回は無しです!後日覚えていたら書き足します!
みんなお盆休みゆっくり休んでね!
ではまた。

誰好き?

  • 浮舟出
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