おはようございます!久し振りの戦闘シーンです!ブーストちょっとだけあったみたいです!
「これは呪いを呼び寄せる呪物なんだ」
午前三時。
自室にて。
吉野順平は真人の胸の中で泣きながら、自宅のリビングの
真人が指で摘んだ呪物──両面宿儺の指を室内灯に照らしながら言う。
順平はしゃくりあげながら、叫ぶように問うた。
「なんでっ、そんなものが
「人を呪うことで金を稼いでいる呪詛師は多い。そういう連中の仕業だろう」
問いに答える真人の声はどこまでも冷静。
しかし順平を慰める手つきだけは優しかった。
「大きな物音で目が覚めて、一階に降りたらリビングが滅茶苦茶になってて……! 床や壁には訳が分からないほど血が飛び散ってて……!」
「うん、辛かったね」
「テーブルで寝てたはずの母さんとは連絡が取れないし、リビングには浮舟さんのものらしき手首が落ちてるし……! なんでッ、どうしてこんなことに……!」
「呪霊ってのは兎に角
「なんで……なんでわざわざ酷い言い方をするんですかッ……」
真人の胸に顔を埋めたまま、順平が怒りに任せて吐き出す。それに対して真人は何も言い返さず、順平の頭を撫でながら。
「ごめん順平。俺が悪かったね」
「…………」
真摯に謝った。
謝られては順平もこれ以上は何も言えず、涙を飲んで押し黙るしかない。
窓の外。
音のしない闇夜を一瞥してから真人が続けた。
「俺は、事実を受け止めるなら早い方が良いんじゃないかと思ってた。でも順平の気持ちを押し図れてなかったね」
「……もう、いいですよ。別に」
順平は真人の胸から離れ、両手で顔を隠したまま背を丸めて項垂れた。
真人が問う。
「順平の家に泊まってた子は呪術師だったんだよね? その子は
見えないってことは、防げないってことだから。
真人の淡々とした物言い。順平は、両手の指の隙間から床を見下ろしていた。
「……呪術師が太刀打ち出来ないなら、母さんも同じ。そう言いたいんですよね」
「聡明だね」
「……母さんと浮舟さんは死んだ」
「生きていたらそんなに嬉しいことはないけどね。でも縋るには細過ぎる糸だ」
「…………誰が、こんなことをしたんですか」
順平の瞳がギョロリと虚空を睨み付ける。
真人はその問いが来るのを待っていたように答えた。
「コネと金さえあれば人なんて簡単に呪い殺せるんだよ。心当たりは無いかい? 君や母親を恨んでいる人間。もしくは──金と暇を持て余した薄暗い人間に」
∩
「──
かくして、里桜高校に〝帷〟が下された。
復讐に
朝の全校集会で生徒職員等が体育館に集められていた中、順平は術式を使って
「おー、できたできた」
里桜高校、
真人は半円の頂からゆっくりと闇が降りていくのを目で確認しながら、満足げに笑っていた。
真人の隣に座る、額に縫い目のある黒いスウェット姿の男が返す。
「悪いね真人。私の残穢を残すわけにはいかないから。〝帷〟の効果は?」
「内からは出られない。外からは入れる──あくまで呪力の弱い人間は、だけど」
「住宅地での事前告知のない〝帷〟。すぐに〝窓〟が通報するだろう。君の考えている絵図が描けるといいね」
「大丈夫じゃないかな。順平が宿儺の器を引き当てた時点で流れはできてるんだ」
まさか浮舟も付いてくるとは思わなかったけど。
真人がクスリと笑い、男も笑って返した。
「最初改造しそうになった俺が言うのもアレだけど……
「あぁ、彼はこの程度じゃ死なないって確信があるからね。それなら計画が壊されない程度に少しばかり場を掻き乱してくれた方が面白い」
「浮舟出が計画をぶっ壊しちゃうって可能性は?」
言ってから、その様子を具体的に想像出来なくなった真人が言葉の後ろに「良くも悪くも」と付け加えた。
真人の言葉に、男はクスクスと笑う。
「浮舟出が? 無い無い。だってアイツ、電話越しで何度も私と話してるっていうのに何にも気付いてないし。その上鈍感で察しも悪い」
男は表情こそ冷静ながらも、どこかムキになったような態度で捲し立てた。
「産土神の件は流石にその範疇の外ではあったけれど、たかだか浮舟出程度がどれだけ必死こいたって私の計画が壊されることは無いよ」
「産土神?」
男は断言。しかし発言の中に含まれた聞き馴染みの無い言葉に、真人が耳聡く反応して聞こえた単語で聞き返す。
男は誤魔化すように軽く笑った。
「こっちの話さ。兎に角、
「オッケー。……改造しても良い?」
「
「ちぇっ。俺、その辺り上手く出来そうなんだけどなぁ」
「計画が終われば好きにして構わないよ。だからそれまでは他の人間で練習しておいてくれ」
男がやんわりと釘を刺し、真人が軽い調子で了承。
数瞬の沈黙の後、真人が切り出した。
「というか、前に浮舟出が自分の意思で仲間になるみたいなこと言ってなかったっけ。アレどういうこと?」
「あぁ、アレ」
男は「話に聞いて可能性を感じたんだけどね」と少し残念そうな言葉と共に一拍置いてから。
「忘れてくれて構わないよ。この前会ってみて、覚醒どころかその兆しすら見えなかったからね。勧誘はすれど、浮舟出の方からノコノコやってくるって線は消滅した」
だから、今回大っぴらに巻き込んだんだけどね。
たはは。
男は笑い、真人は興味有りげに目を細めた。
「へぇ……。でもいつかは目覚めるんだ」
「うん。必ず」
笑っているようにも怒っているようにも見える複雑な表情。そんな男の表情を眺めていても
「君こそどうなんだい? このままだと浮舟出も駆け付けると思うけど」
「……あんま興味無いかな。俺の
「……漏瑚も君くらい冷静だと助かるんだけどな」
「アレはアレで素直で可愛いじゃない。……それより良かったの?」
〝帷〟が校舎の高さまで降りてきている最中。まだかまだかと俄かに胸を高鳴らせながら、真人が問う。
「?」
「あの指。貴重な
「いいんだ。少年院の指はすぐに虎杖悠仁が取り込んでしまったからね。吉野順平に仕掛けた方は高専に回収させたい」
「悪巧み?」
「まぁね。それじゃ私はお
男はそう言って、〝帷〟が降り切らない内に校舎を後にした。
一人残された真人が、ポツリと呟く。
「夏油も見ていけばいいのに。きっと楽しいよ。──愚かな
∩
真人は歩いていた。
復讐を始めた吉野順平と、通報を受けて駆け付けた虎杖悠仁が衝突したことを確認して、屋上から合流すべく校舎内を一人歩いていた。
本で読んだ
同じ校舎内。しかし遥か遠くからかろうじて聞こえる両者の怒号に耳を傾けながら、期待に胸を膨らませて歩いていた。
だから、気付くのが遅れた。
気付いてから「なんでコレに気付かなかったんだ?」と心底疑問に思うくらいには膨大な存在感。そうこうしている今もどんどんと増えていく呪力量。
嗚呼そうかと、背後からジリジリと感じる呪力圧に左の口角を上げながら、真人は足を止めた。
「なあ」
声を掛けられる。
真人は笑いながら振り返った。
「多分行き先一緒だよなァ」
渦巻きボタンから分かる、呪術高専の学生服。
努力で引き締まったというよりかは、ただ細い両脚。
世界中を虜にするトップアイドルもかくや、と言った具合のくびれた腰回り。
殴れば向こう側へと突き抜けてしまいそうな薄い腹。
ガラス細工のように繊細で華奢な肩。
肩から伸びる非筋肉質な両腕。
現場に残っていた筈の右手には酒瓶。
飲酒によって赤らんだ頬。
裂けそうな程吊り上げられた口角。
儚げで、総じて重量感の無い見た目。
だからと言って痩せ細っているわけでもなく、どこまでいっても
浮舟出。
男の予想通り、やはり来た。
見た目だけに限って言えば弱そうな体躯。いざ取っ組み合いの喧嘩になったら、例えおかしな方向に転んで良い勝負にまでもつれ込んだとしても、最後には必ず自分が勝つだろう──浮舟を見た誰もがそう思うくらいには、浮舟の見た目からは
しかしこちらを笑いながら睨み付ける表情だけは、どこまでも挑戦的で。
しかしその身体から溢れ出る呪力の奔流は桁違いで。
真人の頭はそう結論付けた。
「…………」
静かな校舎の四階。
真人と浮舟。
彼我の距離、教室二つ分。
それなりに開いた両者の距離。
それだけ離れているにも関わらず、浮舟の身体から滲み出る明確な殺意に当てられてしまった真人。聞いていた話よりも遥かに強く感じる浮舟の呪力に、思わず震えた魂の挙動を隠すかのように嗤った。
「浮舟出……!」
「
浮舟は空いた左手で後頭部をガシガシと掻きながら酒瓶を胸元にしまい、
何の策も気負いも無く詰められ始めた彼我の距離に、真人が拳を握り構え始める。
しかし浮舟が進めたのは一歩分のみで、その後すぐに歩みを止めてしまった。
真人は意図が分からずに首を傾げる。
しかし浮舟も同じ仕草を取っていた。
「なんでそんな悠長にしてんの?」
浮舟が問うてくる。
真人は意図が分からずに言い返した。
「……どういう意味?」
「いや、もう間合いなんだけど」
「は?」
浮舟が笑いながら右手を伸ばし、教室と廊下の間にある窓、その枠に手を掛ける。思い切り手前に引っ張ると、力強く掴んだ窓枠が──引いては壁全体がぐわんと波打ち、全ての窓を破壊しながら真人の方へと波が押し寄せていった。
左右の壁が波の動きに合わせて一瞬揺れる。
粉々になり、その一つ一つが鋭利な凶器と化した窓ガラス。
不規則に壊れ、大小様々な形で殺到する窓枠や壁の中身や断熱材。
真人が埒外の戦闘法に混乱している間に、その全てが眼前に押し寄せてきた。
「ッ!」
正気を取り戻す。
下水道で七三術師がやった技か?
いや違う。真人は猛スピードで殺到してくる瓦礫群をしっかり
七海建人の拡張術式、瓦落瓦落よりも精度が低い。瓦礫の全てに呪力が込められているわけではなく、あくまでランダム。呪力の込められていない瓦礫は、当然だが真人のダメージにはならない。
しかし、こうも視界を塞がれてはその取捨選択すら難しい。
だから避けるしかない。
真人は浮舟の躊躇なき殺意に息を呑みながらも、冷静な思考で両脚をガゼルの形に変えて教室内に転がり込んだ。
暴風雨。
振り返り、目線の先には壁が無くなりすっかり見通しの良くなった廊下。
先程まで自分が立っていた場所がズタズタに崩されていく様をどこか呆然と眺めながら、真人は何事もなかったように立ち上がった。
「ンだよ、避けやがって……」
教室の前方。つい先程まで扉があった場所を
「お前、名前は?」
「…………」
「転校生みたくチョークで黒板に書かなくても良いからさ、取り敢えず名乗れよ」
「……
「そうか真人。今回の事件、お前が首謀者?」
真人は脳裏で屋上での会話をやんわりと思い出してから、挑発的に返した。
「……だったら?」
「殺す」
「祓うの間違いだろ」
「仮に首謀者じゃなかったとしても殺す。お喋り出来る呪霊には個人的な恩があるから、理解も深めずに殺すってのはちょっと流儀に反するんだが──
浮舟一人分の語気とは思えないほど大きな意思が込められた言葉。真人は半身になりながら、身体の陰に隠した右手に、こっそりと改造人間のストックを数体握り締めた。
「真人、術式教えてくれよ」
「……教えるわけないでしょ」
浮舟の間の抜けた問いかけに、真人が愚者に向ける視線で睨む。
浮舟としても本気で知りたかったわけではないらしく、肩を竦めて
その裏で、真人は腹の内で嗤った。
──コイツ、俺の術式を知らないな。
と。
思えば、浮舟は真人に対してまず名を問うた。それはつまり、真人の見た目の特徴を知らなかったということ。真人と名乗っても何のリアクションも取らなかったのは、真人の名前だけでも知らなかったということを意味する。
浮舟は真人のことをなにも知らない。
──触れさえすれば勝てる。というか、俺が触れることを警戒すらしていない。触れるのは容易い。
嗤う。
嗤いながら、手の中のストックを浮舟に向かってばら撒いた。
「たあぁぁあだあぁああいぃぃいまあああぁぁ」
「おおおおぉぉおつうううぅうりぃぃいぃいぃ」
「うううううううううううううううううううう」
鬼に寄せて作った、赤黒い肌の一本角。
犬に寄せて作った、四足歩行の巨体。
鋏に寄せて作った、鋭い両手の鋏人間。
計三体。
どれも元人間。
計三体。
どれも真人の忠実な道具。
「うおッ!? 不意打ちは無しだろ!」
浮舟が身体をのけ反らせて驚く。手のひらサイズの物体から空中で人造人間へと変体した計三体は天から地から、そして一体回り込んで側方から──それぞれ異なるタイミングで浮舟に牙を向く。
「オレだって殴るより先に一声掛けたってのに……」
赤黒い肌の一本角が頭上から浮舟に飛び掛かる。
浮舟は一本角の両手を掴んで引っ張り、無防備な顔面に左膝を叩き込む。苦痛に顔を歪めた一本角を、左側方から迫ってきていた鋏人間に投げ付けた。
「あぁ」
「ぐえ」
衝突。
浮舟の両脚首を切断しようとしていた鋏人間は、高速で飛んできた一本角と共に黒板に突き刺さった。程なく沈黙。
「コイツ等なんで時計とか身に付けてんのォ!?」
地から──つまりは正面から、教室内に並べられた机や椅子を蹴散らしながら四足歩行の巨体が浮舟に迫る。
浮舟は倒した
がっぷり四つ──否、人造人間は四足歩行なので正確には二つ。
浮舟の身体はビクとも動かず、四足歩行の巨体の腰周りの肉を直接掴んで──放り投げた。四足歩行の巨体は窓を破ってグラウンドとは反対の方向へと消えていき、落下によるダメージで息絶えた。
「……あれ、元人間なんだけど」
そして再び一対一。
難なくストックをいなされた真人は、どこか気まずそうに動揺を誘う。
「あぁそう。じゃあすぐ殺してあげて正解だな」
しかし浮舟は動じず、むしろ自らの行動改めて
真人が走る。
「あれ? 元人間があんな形に変わるってことは」
浮舟が呑気に点と点を結びつけようとしていた隙に、真人が浮舟へと肉薄する。浮舟の身体へと、その両手を伸ばした。
「──はい、俺の勝ち」
真人の両手が、浮舟の腹に触れた。
呪術に縁の無い普通の人間ならこの時点で詰み。
真人に魂を触れられた人間は、そのままの形を保てなくなるからだ。
真人の思うままに、思う形に変えられた後に肉体がついてこれずに絶命。それでなくとも、真人のストックとして使い捨てられるという悲惨な末路が待っている。
普通の人間ではない──身体を呪力で守ることを常日頃
果たして浮舟は。
「アハァッ……!」
真人の両手が浮舟の魂に難なく触れた。
「え?」
触れた。
触れてやった。
確かに呪力で保護されてはいたが、七三術師ほど丁寧に守られてはいない。浮舟のソレはそこ等に放置されていた廃材で無理くりバリケードを作ったようなもの。
しかも今回の場合はワンタッチではなく触れ続けている。
その証拠に、浮舟の魂を保護している呪力の膜はもう腐り落ちた。
真人の両手はもう浮舟の魂に触れている。
もうどんな形にだって変えられる。
だが。
しかし。
浮舟の身体は変化しない。
未だ人間の形を保って、突然腹を触り始めた真人の行動に眉を顰めている。
「二重? ──いや。なに、これ……?」
浮舟の身体は変化しなかったのではない。
魂に触れた真人が、それでも何もしなかったのだ。
浮舟の魂を読み取っていた真人が、理解し切れずに固まる。
浮舟の魂を触り、この目で見て、両目を大きく見開いて呆然としてしまった。
その魂の
「なァんで断りも無く俺の腹ベタベタ触ってんだよボケッ!!」
触り続ける真人に堪忍袋の緒が切れたのか、浮舟は握った拳で真人の横っ面を殴り抜いた。教室と廊下の間の壁が取り払われた今、真人は廊下の窓に後頭部を突っ込んで停止した。
「気色の悪ィ呪霊だなオイ。五条だって触る時ゃもうちょい遠慮するぜ」
辺りに散らばる瓦礫を避けながら、浮舟が真人の方へと歩いてくる。
窓に突っ込み、頭だけ外へと出していた真人は星々の存在しない偽物の夜空を眺めながら余韻に浸っていた。
「聞いてんのかよ真人」
「……あぁ。聞いてる」
「そうかい。聞く態度が
そう言って、浮舟が左手を真人の喉元に伸ばす。
ツギハギの縫い目が伸びる細い首を掴んでしまうよりも先に、真人の両手が浮舟の前腕を掴んだ。
真人は目を爛々と輝かせて叫ぶ。
「やっぱり……! やっぱりだ!
「……はぁ?」
真人の豹変っぷりに、浮舟が眉を顰めて身を引く。しかし真人は掴んでいる箇所を前腕から両手に移し、感激したといった様子の握手で浮舟に詰め寄る。
「出の魂を光り輝く宝石と例えるならば、他の魂なんて駄菓子屋に売ってる紐のついた飴細工! こんな魂は初めて見た!」
「メチャ美味いだろうが」
額同士がくっついてしまいそうな両者の顔面。真人は浮舟の目を真っ直ぐ見つめながら「そういうことじゃないんだって!」と更に続ける。
「出の魂はどうやって磨かれたの!? 友との出会い? それとも仲間の死? 自らの術式に対する理解? 神の手も加わっているばかりか、時折見え隠れする過去の業! それがまた不思議な屈折となって輝きとなっている! 嗚呼もう! こうやって触れ続けているのに未だ全貌を把握することが出来ない!」
「お前何? 占い師?」
浮舟はここに来て、真人の迫力に初めて気圧された。己に対する得体の知れない興味に、気味の悪さを感じていた。
浮舟の右足が一歩下がる。
真人は今一度浮舟の両手を強く握り込んで、深々と笑った。
「だからこそ──君の全てを知りたくなる……!」
真人の両手が蠢く。悟った浮舟が瞬時に手を引けば、その手はズタズタに引き裂かれていた。
真人の両手指、計十本は全て太いフックに変えられており、浮舟が手を引く直前に先端が浮舟の手の肉に刺さっていたのだ。
パタタ、と浮舟が下げた両手の指の先から血の雫が滴り落ちる。
「大丈夫、約束もあるし殺しはしないよ。でも死ぬ直前まで痛め付けてそれから綺麗さっぱり治してあげる。その時君の魂はどんな色を、どんな輝きを見せてくれるのかなぁ……!」
「……気持ち悪ぃ野郎だな」
浮舟は真人の言葉に引きながらも、大きな裂傷が残る両手を強く握り締めた。
「よし、神経は死んでない。まだ握れる」
「アハッ……!」
「お前みてぇな危険な奴を、野放しにしてはおけない」
「じゃあどうする? さっきみたいに俺を殴る? その綺麗な魂で俺を殺してみる?」
「あぁ」
首肯。
それから、浮舟は大きく息を吸った。
真人が首を傾げる。
「?」
「虎杖く〜〜〜〜〜んッ!!!!!!!!」
「ッ!?」
浮舟が叫ぶ。その桁違いの音圧に真人は耳を押さえて耐える。そうでないと、目玉が内側から押し出されてしまいそうだったからだ。
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜いッ!!」
返答。
浮舟の立ち位置からして右下方。グラウンド方面。
浮舟は返答があった方向に右手をピンと伸ばして、片目を瞑って差した指の先を細かく左右へ微調整する。
「……あっちだな」
「何するつもり?」
画家のような位置の調整方法に、真人がどこか期待したような表情で笑う。
浮舟は真人からの問いに返事をするよりも先に──両拳を胸の前に構えた。
ファイティングポーズ。
ここにきて初めて見せた浮舟の予備動作に、真人の胸は高鳴り続けていた。
「シッ……!」
浮舟の口から空気が漏れる。
次の瞬間には、真人の顔面を左手で掴んでいた。
「へ……?」
秒速にして、
音速に届きかねない速さで突き出された浮舟の左手。
目にも止まらぬ速度で伸び切った後にようやく流血が付いてくる。
見てから避けるのは困難。しかも浮舟はこの突きを真人に対して初めて
掴まれてからようやく攻撃されたことに気付くような感覚。
そんな速度の、突き。
それを可能にしたのが、シャコのパンチの原理だった。
シャコのパンチが繰り出される
掛け金を外すと蓄積された弾性エネルギーが一気に解放され、捕脚が高速で前へ飛び出す──という仕組み。
しかしここで問題となってくるのが、浮舟の腕はシャコの捕脚と同じような性質ではないということ。
当たり前だが、人間とシャコでは構造が異なる。浮舟の両腕にはシャコのような捕脚が存在せず、外骨格がバネのようにしなったりもしない。
だから浮舟は呪力で補った。
浮舟はファイティングポーズを取る前に、腕を伸ばした状態で呪力を太く通して筋肉を補強していた。
その状態で無理矢理腕をたたむ事で、腕が伸びた状態に戻ろうとする力を働かせる。
結果、秒速300m。
前髪が吹き飛ぶような速度で顔面を掴まれ、背筋が仰け反る真人。浮舟は掴んだまま廊下へと思い切り叩きつけ、昏倒を狙った。
しかし相手は呪霊。対人用の格闘術が百通じるわけもなく、真人は浮舟の指の隙間から目を輝かせながらこれで終わり? と大きく笑って浮舟の手に走る傷口を舐めた。
「な訳ねェだろ〜がボケ!」
浮舟の右手が真人の胸に置かれる。真人がその意味を理解し終えるより先に、浮舟は顔面を掴んでいる左手を手前に思い切り引っ張った。
「……嘘でしょ?」
人外の握力。頬やこめかみ、頭部に当てられた浮舟の五本指にギシギシと強い力が込められ、余裕を貫いていた真人の笑みがついに崩れる。
「
真人の首が伸びる。その際に革靴を素手で引き千切るような不快な音が鳴り、浮舟はそれでも構わず引っ張り続ける。
「タイム、ちょっとタイム! もうちょっとお互いを知ってみようよ! ね?」
真人は何かを焦っているのか、自らの術式は使わず浮舟の右手に何度も手で触れて
やがて。
「あっ」
卒業証書を入れておく筒を強引に開けた時のような音と共に、真人の首が引っこ抜けた。浮舟に
「……これぐらいで死ぬタマじゃねェよな」
呪術を扱う者に取っての核──脳にはなにもダメージを与えていない。
この呪霊が未だ祓われてはいないことを、浮舟は理解していた。
真人の首。
遥か向こうで待つ虎杖。
吉野順平。
浮舟は優先順位を自分の中で計り。
「……よし」
真人の顔面を持ったまま立ち上がる。軽いステップで瓦礫を避け、先程までストック達と戦っていた教室へと再び戻る。
配列がバラバラになった机や椅子を無視して、教室の後方──掃除用具を入れる細長いロッカーの前へ。
「オレちょっとやることあるから、ここで大人しく待ってろよな」
箒やモップが立てかけられている狭いロッカーに、真人の首を乱暴に投げ入れる。
──コイツには聞きたいことが沢山ある。
強い口調で
術師ではなかった吉野順平が里桜高校でしでかした事。
真人が自らの術式で作り上げた変死体やストックの事。
後で真人に聞かねばならなかった。
全てを聞き出した後に殺さねばならなかった。
「火山頭にはお花ちゃんの所為で聞けずじまいだったしなァ」
だから今度こそ。
浮舟はロッカーの扉を閉じ、取っ手を握り潰す。それだけでは飽き足らず、ドアが開かないようにロッカーを横から両手で挟んで大きく歪めた。
砂時計のようなシルエットになったロッカーを確認一瞥してから、えずく。浮舟はこの間の戦闘で軽くグロッキー状態に移ろうとしていた。
長時間の戦闘は禁物──浮舟は自らにそう言い聞かせてから、踵を返した。
それから勢い良く駆け出し、窓の割れる音と共に校舎の外へと躍り出るのだった。
戦闘シーン、むず過ぎやしませんかね。
あと明け方から書き始めてつい先程完成の爆裂眠た君なので、後書きのキャラ紹介は後日覚えてたら書きます。ごめんね!
真人と屋上で話していた男については、後日(といっても直近とはいきませんが)しっかりと1話分書いて説明しますので、なんか知らんけどそうなったんやなぐらいに思っていてください……。悪いようにはしませんので……。
それと、一つ前の後書きで「あと二話で終わる想定!」みたいなこと言っちゃってたと思うのですが、想定外に書きたい部分が増えちゃったのであと二話で終わる想定です!
みんな感想ありがとうね!マジで!
ではまた。
おやすみなさい。
誰好き?
-
浮舟出
-
五条悟
-
家入硝子
-
夏油傑
-
七海建人
-
灰原雄
-
伊地知潔高
-
庵歌姫
-
冥冥
-
夜蛾正道
-
九十九由基
-
乙骨憂太
-
折本里香
-
禪院真希
-
パンダ
-
狗巻棘
-
枷場美々子
-
枷場菜々子
-
伏黒甚爾