アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは。ブーストはかかりませんでした。



アル中、喜ぶ。

 

 

 

 

 真夜中。静まり返った高専の寮内。

 最近は、寝るまでの何でもない時間は室内の電気を消すギリギリまで居座る同期達と、ゲームをしたり駄弁ったりの生活を送っていた。しかし時計が22時を回れば自然と解散の流れになるもので、オレは最近の日課となっている、解散したにもかかわらず何故か知らぬ間に布団に潜り込んでいる五条の背中を蹴っ飛ばして追い出してから(嬉しそうにすんな)、ようやく電気を消して布団に入る。

 目を閉じても睡魔がやってこないのはいつものことで、ただ瞼の裏に今日の出来事がぼんやりと浮かんでいく時間。それを飽きるまで続けるが、眠たくなんて全くならない。いつも、4時間寝れれば次の日はご機嫌なくらいなのだ。お酒のおかげでオレの目元にはいつまで経っても消えない隈がうっすら浮かんでいるのだが、同期に心配かけたくないので毎朝ファンデーションを塗って誤魔化している。二日酔いで死んだ顔もマシになるので、オレは結構重宝している。

 そんなこんなで、いつもの如く眠りにつけないオレは一度起き上がってお酒をぐびぐびと流し込む。

 身体のバランスが保てなくなるくらい飲んでからようやく布団に入ると、身体がそのまま深く沈み込む感覚。もう起き上がるのが億劫なくらい身体と瞼が重たくなってきたところで、

 誰かがオレを呼ぶ声が聞こえた。

 

「……浮舟」

「え、なんですか?」

「きゃあ!?」

「──痛ッ!」

 

 呼ばれたので返事をすると、その誰かは驚いた声を上げながら、思い切りオレをビンタした。ビンタされた頬を左手で押さえながら、反射で涙が出て潤んだ視界で声の主を見る。こんな夜中に、オレの部屋に侵入して名前を呼び、あまつさえビンタをしやがるとは。一体どんな不届者なのか。

 姿を注視していると、窓の外から差し込む月明かりが、暗くてシルエットしか分からなかった不届者の姿を露わにした。

 

「……歌姫先輩?」

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

「痛たた……」

「その、悪かったわよ」

 

 場面転換。

 人気(ひとけ)の無い屋外の自販機前。いやまぁ、こんな時間ならどこでも人気(ひとけ)は無いけれども。

 ひとまず、ここに移動した。

 言わずもがな、あのまま自室で会話をすると、同期に見つかるかもしれない。同期に見つかるということはつまり、事態が面倒なことになるのを意味する。それはもう、本当に面倒なことに。

 そんな、もしもの場合を考えての移動。オレは未だジンジンと痛む頬を、左手でさすって熱を逃しながら、歌姫先輩からの謝罪の言葉を受け取っていた。

 片やパジャマ。

 片やよく見る巫女服。

 自販機の灯りが二人を照らす。

 

「……それで、なんでオレの部屋に居たんですか」

「そ、それはちょっと……」

「ちょっと?」

「……今ワケを話すと格好悪く思われるかもだし」

「オレは、歌姫先輩のこと格好悪いとか思ったことないですよ。安心して話してください」

「ほ、本当? 本当に、格好悪いとか思わない?」

「はい」

 

 オレは笑顔で微笑んだ。

 

「じゃ、じゃあ──」

 

 オレから再度言質を取り、ようやく口を開いた歌姫先輩。

 まとめよう。

 時は遡り、昨日の午後。

 硝子ちゃんから、オレが高専の侵入者に両腕を落とされ、なんやかんやあって片腕が義手になった旨の連絡を今更ながら受けた歌姫先輩。寝耳に水だったその連絡に驚いたと同時にメッチャキレた歌姫先輩はすぐさま東京まで行ってオレを問い詰めるつもりだったのだが、任務と重なってしまい──更に、任務先がめっちゃ遠い&これといって特出したものもないただの呪霊相手に世紀の大手こずりをかましてしまい、任務が終わったのが夜。

 任務後の疲弊した頭は何故かその日の終電ギリギリの新幹線の片道チケットを取ってしまい、疲弊した頭では違和感に気付かず新幹線に乗り、東京駅からタクシーで高専の付近まで行き、それから山の中を一人歩いてきた。

 つまりは、そういうことらしい。

 真夜中に高専に到着した歌姫先輩は、オレが真夜中なので寝ているのではということに寮内に足を踏み入れてからの気が付き、問い詰めるのはまたの機会にしようということで。これとはまた()()で話しておくつもりだったことをついでということで一枚のメモ用紙に纏め、黙って枕元に置いて帰るつもりだった。しかし、オレの義手を、そして反対側の肘から先が無いオレの腕を見てつい名前を呟いてしまい、目を瞑っていたもののまだ起きていたオレが返事をして──現在。

 

「……格好悪ッ」

「しっかり言ってんじゃねーわよ!」

「いやいや、マジすか歌姫先輩。じゃあメールでいいじゃないですか」

「わ、分かってるわよそんなこと! でも気付いた時にはもうここまで来ちゃってたんだから仕方ねーでしょうが!」

 

 いくら人気(ひとけ)がないとはいえ、普通の声量で怒る歌姫先輩。その声が酔っ払った頭に響く。

 どうやら仕方ねーらしい。

 仕方ねーのか? 

 

「……まぁ幸いにもオレは起きてましたし、未成年の男子高校生の寝込みを襲おうとした変態お姉さんというレッテルは貼られずに済みましたね。よかったですね歌姫先輩。オレも嬉しいです」

「こ、このクソガキは……!」

 

 ギリギリと歯噛み、怒りを堪える歌姫先輩。オレの言ったことは、状況証拠的に見れば全て事実と取られる程度には辻褄が合ってしまっているので、手を出せないでいるようだ。

 そんな歌姫先輩を見て、ついオレは本心が(こぼ)れる。

 

「歌姫先輩って、怒ってる時が一番可愛いですよね」

「どういう意味じゃコラ!」

 

 それはさて置き。

 

「まぁ、歌姫先輩の行動は意味分かんなかったですけど、オレはこんな形ですけど歌姫先輩と話せて嬉しかったですよ」

 

 思い出すのは、高校一年生。初任務で歌姫先輩にお世話になった時のこと。

 初めて現地で会った時は、優しそうなお姉さんで良かった〜という印象。話し方も所作も丁寧で、こんな先輩がいるなら呪術界って良いところなんだろうなと淡い期待を抱いたほどだ。

 4級の呪霊相手に手こずるオレに歌姫先輩は終始優しい微笑みを浮かべ、慣れない飲酒で任務中にも関わらず酔い潰れてしまったオレを介抱し、呪霊から守ってくれたのだ。地面に転がりながら、ぐるぐる回る視界の中で見た歌姫先輩の格好良い背中は、今でもよく憶えている。

 だから、オレは歌姫先輩のことは人として大好きだ。優しいし、面白いし。

 

「……はぁ。毒気抜かれるわ、その笑顔」

 

 怒り肩を落とし、溜め息を一つ。

 

「それにしても、浮舟。アンタなんでその事言わなかったのよ」

 

 その事。

 ()の事。

 

「い、いやぁ。どうやって切り出したものかと考えていたら、日数も経っちゃってたんで。じゃあ次会った時で良いよなとか考えてました」

 

 げんこつ。

 

「痛っ」

「全く、アンタがそうやって先送りにした分だけ、聞かされた側はショックが大きくなるんだから、気を付けなさいよ」

「すみませんでした」

「……それで、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫ですよ。ほらこの通り、原理はよく分かんないんですけど、本物の手みたいに正確に動かせるんです」

 

 緑色の義手でピースをしてみせる。微妙な顔をされてしまった。

 

「ハァ……。硝子が愚痴ってたわよ。アンタが危ないことばっかりするって」

「それは、マジで申し訳無く思っています……」

「本当に思ってる?」

「はい。それに、最近は同期がオレを守ってくれてるので尚更」

「? あまり情景が読めないんだけど、どういうことかしら」

「そのまんまですよ。五条と夏油がオレの前後を警戒して、硝子ちゃんがオレの隣。そういうフォーメーションが作られちゃってて。高専にいる時はずっとそうされてます」

 

 言い終えると、歌姫先輩の口があんぐりと開いていた。

 

「……浮舟、アンタそれが異常だってことに気付いてる?」

「異常? えぇ、まあ、はい。ヤバいなって思ってますよ。でも別にどうすることもできないので、任せてます」

「……アンタねぇ」

「じゃあお言葉ですけど、歌姫先輩がオレの立場だったら断れます? ちなみに、断ろうとすると五条はオレを正面から抱き締め、夏油は辛かったねと訳の分からない慰めをしながらオレの背中をさすり、硝子ちゃんは脇腹に的確なボディブローを入れて思考力を弱らせてくるものとします」

 

 それを聞いた歌姫先輩は、顎に手を当てて思案。数秒経ってから、

 

「無理。あのクズコンビにそんな近付かれたら蕁麻疹出るわ。……というか、硝子って浮舟の前ではそんな感じなの? あの子、結構ドライなところあるでしょ」

「まぁ態度はドライなんですけど、オレの預かり知らないところでジメっとしてると言いますか」

「……アンタがムカつくくらい他人事なのも、そうなってる原因の一端なんじゃないかしら」

 

 額を押さえる歌姫先輩。

 

「ああ、夏油からも前にそんなこと言われましたよ。自分としては全然そんなつもりないんですけどね。だって自分のことって、一番気にかけなくちゃいけないモンじゃないですか」

「寝る直前までお酒飲んでる奴にそんなこと言える資格はありません。ほら、いい加減()()飲むのやめなさい」

 

 ん。

 差し出された手に、泣く泣く持っていたお酒を乗せる。

 

「えぇ〜。折角ノッて来たのに」

「意味分かんないこと言うな。アンタ顔赤いしフラフラし過ぎなのよ。……ちなみに聞くけど、アンタいつも()()()()飲んでるわけ?」

「あぁ、レモンサワーの原液のことですか? いやぁ、恥ずかしながら美味しいお酒とかまだ全然分からなくて。取り敢えずアルコール度数がそれなりで味もレモン味なので、最近はそればっかり飲んでます。イェ〜イ」

「イェ〜イじゃないわよイェ〜イじゃ」

 

 一息。

 

「まぁ、変な時間に連れ出しちゃって悪かったわね。また今度、時間ある時にゆっくり話しましょ」

「それはもう、是非お願いします。歌姫先輩の都合が良い日なら、いつでも駆け付けますからオレ」

「ふふっ、ありがとう。浮舟」

 

 大袈裟に胸を張って応えて見せると、歌姫先輩はクスクスと笑ってくれた。なんだか嬉しい。

 歌姫先輩はこれからまた京都校に戻るらしい。

 

「空いてる部屋ありますし、泊まっていったらいいじゃないですか」

「そんな気を遣わせられないし、気にしないで」

「もう終電無いじゃないですか」

「タクシーで無理矢理帰るわよ」

「えぇ〜? どうしてそんな頑ななんですか」

あの二人(五条と夏油)に会いたくないからよ」

「……あぁ〜」

 

 アイツ等のことマジで嫌なんですね。

 ウケる。

 それならせめて結界の外まで見送りますよと、歌姫先輩の隣を歩く。

 歩きながら他愛も無い雑談に興じていると、歌姫先輩は、(おもむろ)に懐から一枚のメモを取り出した。

 そういえば、枕元にメモを置くつもりだったみたいなこと言ってたな。

 

「はい、これ渡しておくわ」

「ありがとうございます。どれどれ」

 

 丁寧に折り畳まれたメモ用紙を開いていく。食事のお誘いだったら嬉しいなとかニヤニヤしながらその内容を確認。

 

『上層部がアンタを狙ってる』

 

 メモ用紙には、そう書かれていた。

 

「……は?」

「ストップ」

 

 どういうことか聞こうとすると、歌姫先輩がオレの目の前に手のひらを突きつける。言われなくてもオレの思考はストップしてしまっているのだが、言われた通りストップ。深呼吸。

 

「以降の発言には気を付けなさい。さっきまでの会話と違って、聞かれたらマズい内容なんだから」

 

 声を抑える歌姫先輩。それに倣う。

 

「……どうしてこんなことに?」

「知らない。私もたまたま内容が聞こえただけだから詳しいことは分からないのよ。浮舟出が危険だとか害だとか、ほんの一部分しか聞こえなかったし」

 

 オレが危険で、害。

 ……どうしよう。身に覚えがあり過ぎる。

 

「まぁ良くわかりませんけど、良くわかりました。ご忠告ありがとうございます」

「しばらくは目立つことはしないほうが良いわよ」

「そうします」

 

 そうこうしている内に、別れ際。

 しゃんと伸びた背筋のまま歩いていく歌姫先輩。その背中に今日はありがとうございましたと声をかけると、一度振り返った。

 

「良い? もし何かあったら、私にちゃんと連絡すること。頼りないかも知れないけど、これでも私は先輩なの。ヤバくなったら素直に頼ること。分かった?」

「分かりました。歌姫先輩ほど頼りになる先輩はいませんし、今度からは、いの一番に頼らせていただきます」

「よろしい」

 

 全て本心なのだが、なんだか嘘っぽく聞こえてしまうのはオレの日頃の行いの悪さか。

 しかし、そこは心が綺麗な歌姫先輩。オレの言葉を疑うことなく、素直に受け取ってくれた。

 

「じゃあね、浮舟。真夜中に押しかけた私が言えることじゃないけど、しっかり休みなさいよ。アンタが元気じゃないと、みんな心配するんだから」

「肝に銘じます」

 

 その肝はお酒でやられちゃってるんですけどね。へへへ。

 そんな下らないことを考えていたら、いつの間にか歌姫先輩は結界の外に行ってしまっていた。すっかり静かになってしまった空間に溜め息を吐き捨て、来た道を一人で戻る。酔っ払って熱を持った顔を、夜風が通り抜けていく様が堪らなく心地良い。

 歌姫先輩に会えたんだから、今日こそは良い夢みたいなと期待を抱きながら寮に戻り、なるべく音を立てないように廊下を歩き、同期(隣人)を起こさないように自室のドアをゆっくりと開け──

 

「「「…………」」」

「ヒッ」

 

 入らず閉めた。あ、開けられた。

 

「逃げるな」

 

「こ、こんばんは。良い夜ですね夏油くん。それにみなさんお揃いで」

「……やっほー」

「……いずる、早く」

「こんばんは、出。さっ、入って入って」

 

 口調こそ世間話のソレだが目が全然笑ってない夏油の迫力に押され、一歩下がるオレ。同時に、見えざる力によって身体が室内に引き寄せられる。夏油の真横を通り抜け、その先にいた五条にキャッチされた。

 

「ちょっ、こんなところで〝蒼〟使うな! 夏油も、念入りに施錠した挙句バリケードを敷くな! えっ、硝子ちゃん何それ! その手に持ってるやつ何!? 大丈夫な錠剤!? それって持ってて大丈夫な錠剤だよね!? いやいや、飲まない飲まない! 怖過ぎるよその錠剤! ちょっと、羽交締めすんな夏油! オレの口を無理矢理開けさすな五条! もが、もががががががが──」

 

 

 

 

 

 

 






浮舟出:同期3人にクソデカ感情を向けられながら、な〜んにも分かってないしな〜んにも改善しない馬鹿。馬鹿だから、同期に「なんかオレ上層部に狙われてるらしいよ。ウケるよな」とか普通に話しちゃう。


庵歌姫:今作品における聖人枠。浮舟の異常に真っ当に心を痛め、真っ当に叱ってあげられる系巫女服お姉さん。硝子同様、慕ってくれる浮舟のことを可愛い後輩だと思っている。
その可愛い後輩がとんでもないことになっていたことを知らされ、は?聞いてないが?となって今回の暴挙。
何気に、さしす組に気配を悟られず浮舟の部屋に侵入するという離れ業をやってのけた。
ちゃんと東京校には事前に電話で話は通しておいたから、不審者じゃないよ。


家入硝子:頼れる先輩に浮舟のことを愚痴った。歌姫曰く、惚気と取れるようなことも言っていたらしい。夜中に浮舟が出ていくのを一番最初に気付いた。その件でしばらく二人を煽るつもりらしい。


夏油傑:寝ていたところを硝子に起こされた。
いずるの部屋で待っていようと提案したのはコイツ。


五条悟:すやすや寝ていたところを二人に叩き起こされてキレそうになったが、浮舟が関連していると聞いた瞬間パッチリ目が覚めた。


高専事務職員:来るのは聞いてたけど、なんで真夜中?










呪術廻戦、新作アニメのpv観てつい最近書いた奴ばっかり出てきて嬉しかったです。パパ黒格好良いです。

誰好き?

  • 浮舟出
  • 五条悟
  • 家入硝子
  • 夏油傑
  • 七海建人
  • 灰原雄
  • 伊地知潔高
  • 庵歌姫
  • 冥冥
  • 夜蛾正道
  • 九十九由基
  • 乙骨憂太
  • 折本里香
  • 禪院真希
  • パンダ
  • 狗巻棘
  • 枷場美々子
  • 枷場菜々子
  • 伏黒甚爾
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