アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

64 / 73

こんばんは!ブーストちょい有りです!




アル中とお願い。

 

 

 

 

「宿儺の器、虎杖悠仁は殺せ」

 

 京都校の為に開放された呪術高専東京校敷地内の離れ、書院造の一室にて。

 床板に腰を下ろし、淡々と指示を出した京都校の学長──楽厳寺嘉伸。集められた京都校のメンバー一同の空気が張り詰めた。

()()

 未だ生徒ながらも言葉の重みを理解していた一同。無意識の内に呼吸が浅くなり、なんの冗談かと三輪と真依が目を見合わせるが、あの楽厳寺学長が冗談を言ったことなど今まで一度もないことに思い至った。

 

「アレは人ではない。故に全て不問。事故として処理する。遠慮も躊躇もいらんぞ」

 

 嫌だなぁ……。

 楽厳寺からの指示に、三輪は心の中で嘆いた。

 嘆いてから気付く。

 果たして三輪の本心と、三輪以外の面々は同じ心境なのだろうか。

 と。

 三輪は辺りを見渡してみた。

 頼りになる先輩、西宮は壁の側に座り、箒を抱きながら畳を眺めているので目が合わない。

 真依は柱に寄りかかって口を閉じ、加茂は静かに目を閉じている。

 メカ丸は普段通り立ったまま停止し、東堂も普段通り話半分に聞きながら苛立たしげに腕を組んでいた。

 ダメだ誰とも意思疎通が図れない。

 

「…………」

 

 三輪が内心焦り始めていた頃、楽厳寺は──待てども誰からも言葉が返ってこない現状を、楽厳寺は一体どう思ったのか。

 どちらにせよ、楽厳寺は表情一つ変えずに虎杖悠仁を殺害するという(てい)で話を進めた。

 

「敵対術師に止めを刺す時、気をつけねばならんことは? 加茂」

 

 突然問われた加茂はピクリと不自然に身体が反応するが、すぐに返答。

 

「はい、死後呪いに転ずることを防ぐために呪力で殺します」

 

 模範回答。

 しかし楽厳寺は未だ表情を動かさず。

 

「そうだ。他者の呪力でしっかり止めを刺せば何の問題もない。……過去、御三家間でその()()を間違えたが故に恐ろしい事態に陥ったことがあると聞く。必ず、呪力で殺すように」

 

 老化が進んだことにより窪み、翳った楽厳寺の目元。正面から目を合わせでもしない限り真っ暗な目元は、顔の向きから見て視線を下方に落としているのだとなんとなく気付けるレベルの暗闇。

 楽厳寺の言葉に、加茂が恐る恐る片手を挙げてから発言した。

 

「私の知る限り、これまでの呪術史においてそのような事件があったとは聞いたこともないのですが」

「……加茂、下らぬ質問をしている暇があるなら交流会に備えよ」

「…………」

 

 なんで質問されたくないこと口にしたんだろう……。

 三輪は心の中で嘆いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉妹校交流会の開催場所である、東京校敷地内の森の中。

 べらぼうに広い敷地内での情報共有をトランシーバー数個で補うのは、現代からすればやはり無茶だったようで。

 見る限り、〝僕〟が参加していた10年前とは違ってその辺りの設備は整っているようだ。

 森の中に配線を通したり重たい機材を木の上に括り付けたりと、そこに至るまではまぁ大変だったらしいが、設備の一新には直哉の乱入事件が絡んでいたと聞く。

 確かに、双方向が電源を入れた状態じゃないと通話が出来ないトランシーバーよりも、本部からスピーカーを通してドデカい音量で迅速な指示を出せた方が断然良い。

 ありがとう直哉。お前のお陰で高専はまた一つ先に進むことが出来たよ。

 森の設備を一目確認した〝僕〟は、足早にその場を後にした。

 

直哉(アイツ)元気にしてるかなぁ……」

 

 歩きながら、ふと過去のことを思い出してみる。

 直哉との絡みといえば交流会が主だったので、生き返った報告も特にしていない。というか死んでいた関係でガラケーからスマホへのデータの引き継ぎが出来ていないので、連絡先が分からないのだ。

 〝僕〟が暗記している連絡先は歌姫先輩くらいだし。

 というかアイツん家禪院だし。

 

「…………」

 

 呪術界全体への生存報告が実現出来ていない以上遊びに行くわけにもいかないし。

 ……連絡したらしたで(やかま)しいし。

 というかそもそも生存報告自体このまま行われない可能性だって全然あるし。

 

「…………」

 

 別に良いや。その内会えるっしょ。

 みたいな感じで他人事極まりない物事を酷く楽天的な思考で片付けながら、辿り着いたのは教員用観覧室。

 東京校と京都校の両サイドの教師陣(といっても三、四人だけれども)が一堂に会し、その内に各箇所に散らばるであろう生徒達。

 彼等彼女等の活躍を、冥冥さんのカラス達の視界と繋がった6枚の壁掛けモニターを眺めながらあーでもないこーでもないと言い合ったりする場所だ。

 いや、初めて来たからよく分かんないんだけどね。

 というかなんで〝僕〟もここに? 

 

「何故東京校の生徒がここにいる」

 

 場違いな空気を感じながらも、まあ誘われたわけだしと。ミニシアターじみた配置で三列分用意されたロングソファ(最前列だけはそれこそシアターのように個別の座席が四席分設けられている)の最後方(さいこうほう)の端辺りに座っていた〝僕〟。

 ちなみに一番端だと(かえ)って目立つので、あえて左端に一人分のスペースを空けている。

 しかしそんな小細工も、この部屋にまだ〝僕〟以外に誰もいないとなっては通じるはずもなく。

 ミーティングを終えて戻ってきた楽厳寺学長に即指摘されてしまった。

 

「…………」

 

 ど〜しよう。

 マスクをしているとは言え、普通に挨拶なんてしていいわけがない。

 でも無視なんて出来るわけないし。

 

「答えろ」

 

 やっぱ断れば良かった〜〜〜〜〜〜〜〜冥冥さんも「バレやしないよ」とか言うし〝僕〟としても可愛い後輩達の頑張ってる姿を特等席で観られるならと即決しちゃったけどこんな思いがけないピンチに陥るくらいだったら冥冥さんからあとで録画でもなんでも買って夕方になるまでは医務室で待機してる硝子ちゃんと楽しくお話でもしてた方が──

 

「──私が呼びました」

「め、冥冥さん……!」

 

 気まずさが最高潮を迎え、楽厳寺学長へ謝罪の言葉を叫びながら退室したくなったところで、音も無く部屋に入ってきた冥冥さん。

 今日も今日とて美しいお姿のまま、〝僕〟の方まで近寄って肩に触れてくれた。

 

「見たところロクな呪力も無い、ただの補助監督志望に見えるが」

 

 ラッキーなことに、マスクをした〝僕〟を見ても、呪術界随一の嫌われ者であるあの浮舟出だとは夢にも思っていない楽厳寺学長。〝僕〟のことをただの場違いな一般生徒だと認識しているらしく、浮舟云々ではなくあくまで一学長(いちがくちょう)として叱っているみたいだ。

 楽厳寺学長の怒りを受けても眉一つ動かさない冥冥さん。いつものように飄々とした態度で、屈することなく微笑みながら切り返した。

 

()()()()()なんです、彼。構いませんね?」

 

 マッジかよ〝僕〟ってば冥冥さんのお気に入り!?!?!?!?!?!?!?!? と頭の中のミニ浮舟出達が思い思いに狂喜乱舞する。

 その間も楽厳寺学長と冥冥さんは静かに睨み合っていたわけだけど(冥冥さんが目を開けていたかは不明)、やがて楽厳寺学長の溜め息によって手打ちとなった。

 

「……好きにせい」

 

 言って、最前列の個別ソファに座った楽厳寺学長。もうこちらを振り返りもせずモニターを眺め始めた背中を見て、ようやく〝僕〟はまともな呼吸が出来るようになったのだった。

 小声で謝辞。

 

「庇ってくれて、ありがとうございました」

「構わないよ、君の命がまた失われるようなことになれば、私としては大損になってしまうからね」

 

 そんなことよりも。

 〝僕〟が全力で放った感謝の言葉を、なんでもないように流した冥冥さん。余裕たっぷりに笑みを向けてくれた。

 

「もっと見易い位置に座れば?」

「い、いや。〝僕〟はここで」

 

 楽厳寺学長にビビり散らかしている〝僕〟の心の中なんてお見通しのくせに、こちらを見下ろしながら意地悪な質問を投げかけてくる冥冥さん。

 そんなところも好き。

 

「ふぅん、そう。なら私もここで」

 

 言って、〝僕〟の左隣──ソファの一番端に腰を下ろした冥冥さん。

 絶叫した。

 

「え!?!? なんで!?!?」

「……ゴホン」

「こら、あまり大きな声を出してはいけないよ」

「す、すみません」

 

 喉が吹き飛ぶほどの音量で驚き飛び上がった〝僕〟。しかし楽厳寺学長の咳払いと冥冥さんの言葉によって正気を取り戻して、ペコペコと頭を下げてから静かにまたソファに座り直した。

 

「端には肘掛けがあるからね」

「あ、あぁ。そうですね……」

 

 あっぶね。お気に入りとかなんとか言われたから、冥冥さんったら〝僕〟のこと好きなのかと思った。

 魔性が過ぎるよ冥冥さん。

 

「教室で独りは嫌だろう?」

 

 それで、なんで〝僕〟をここに? 

 そんな問いを含んだ視線で冥冥さんを見ていると、冥冥さんはクスリと笑ってそう言った。

 なんてこった。まさか、こんなにも心温まる理由でこの部屋に呼んでもらえたとは。

 最高だ冥冥さんって。

 一緒着いてく。

 憂憂君にどれだけ威嚇されようとも。

 

「め、冥冥さん……!!」

「元気いっぱいだね」

「ありがとうございます。このお誘い無かったら、木の上とかから見るしかないって思ってました」

「そうならずに済んで良かったよ──それに、君と話もしたかったんだ」

 

 嬉し〜〜〜〜〜〜〜〜。

 

「それで……話って?」

 

 一向に熱が冷めない頭の中を無視しつつ、冷静なつもりで質問を投げかけてみる。まさか冥冥さんのことだから、ただ世間話をしたかったわけではないだろう。

 そんな、少しばかりの怯えを含んだ〝僕〟からの質問。

 問われた冥冥さんは(おもむろ)に右腕を伸ばし、〝僕〟の肩に回して自分の方へと引き寄せた。

 一連の動作によって冥冥さんのオトナな香水の匂い(己の語彙力の無さが情けない)がふわりと香り、鼻から吸い込んだ空気をまた鼻から吐き出す頃には一緒に鼻血も出ちゃってるんじゃないかと──〝僕〟は他人事のように思った。

 それ以外は、思考が停止していたからだ。

 

「話っていうのはね」

 

 続いて、冥冥さんの言葉が耳に這入(はい)ってくる。距離が近いからか、普段よりも声量もトーンも控えめな声色が〝僕〟の鼓膜を震わし、御声の響きで停止していた思考が再び回り始めた。

 

「ウワ──────────ッッッッ!?!?」

「おや、刺激が強過ぎたかな」

「──って、冥冥さん何を!?」

「……ゴホン」

「すみませんでしたぁッ!」

 

 閑話休題(すみませんでしたぁッ!)

 

「話といってもそう重たい内容じゃないんだ。声も肩肘も張らず、いつも通り聞いてくれていいよ」

「無理です冥冥さん近いです」

「フフ、初心(うぶ)だね」

「ありがとうございます近いです」

 

 冥冥さんのセクシーさ(語彙も相変わらず終わってる)を鼻から耳から肌からと浴びてちょっとした状態異常に陥ってしまった〝僕〟。

 状態異常の内訳としては身体の硬直と発声時のイントネーションの平坦化、といったところ。あと当然のように頭も回っていない。

 ド緊張しているからだ。

 ド緊張を通り越して、最早ドキンちゃんである。

 

「そんなことはないと思うけどね」

 

 そんなことはないらしい。

 

「話っていうのはほら、()()()のことでね」

「あ、あぁ。そういえばそんなことも言ってましたね……」

 

 以前、冥冥さんに滅茶苦茶高そうな中華料理店に連れて行ってもらった時のこと。つばめの巣のスープの味に目を白黒させている間に、そんな話をされたのを覚えている。

 二つ返事で制作を了承した旨もよく覚えている。

 

「……この前改めて書いた〝僕〟のプロフィールがそのまま特典になるんでしたっけ?」

「うん。君や彼に関することは上手いことぼかして、だけどね」

 

 君や彼。

 君とは恐らく、〝僕〟──〝僕〟の復活に関わることだろう。

 彼とは恐らく、夏油──夏油の生存に関わることだろう。

 

「バレないようにしてくれるなら、〝僕〟としては止める理由も無いですし。……この前ご馳走してもらった時にOKは出した筈ですけど?」

「勿論、既に二冊目の草稿は上がって来ているよ」

 

 (はっや)

 

「特典のシークレットに関することで、君に相談があるんだ」

「シークレット」

「うん」

「一冊目でいうところの、生写真的な」

「そういうこと。お利口だね」

 

 微笑みを携えた冥冥さんに、肩に回されていない方の手で頭を撫でられる。

 (ちっけ)ッッッッッッッ。

 天にも昇る──だなんて生温い。

 〝僕〟はもう、既に天に昇っていた。

 昇り終えていた。

 

「二冊目のシークレットは、通常特典+君の生写真──ということにしようと思っていてね」

「良いと思いますよ。話に聞くと複数冊買えないみたいですし、生写真が当たっても『プロフィールには何が書いてあったんだろう』とか思っちゃうかもしれないですもん」

 

 もん? 

 そもそも〝僕〟のプロフィールや写真に一定の需要があること自体驚きなのだが、現に売れてしまっているのだから仕方がない。

 本音を言わせてもらうと、購入者が術師に限られるので誰が購入したのかと想像で顔が浮かんでしまって恥ずかしいからそんなもの売らないでほしいとは思っている。

 常日頃。

 しかしこうして需要が発生している以上、〝僕〟一人の意見で諸々が台無しになってしまってはそれはそれでなんだか申し訳ないという気持ちに──お金が動いているのなら尚更のこと──なっているのだった。

 こういうのは深く考えず、流れに身を任せることが重要。というのが、少ない人生経験から得た知見である。

 

「そういうこと。だから今回のシークレットは女装写真にしたいんだ」

「へー、女装。女装というからには誰か男性を呼んで、女の子の格好をさせるということですか?」

「うん。君を」

「へー、君。君ってことは……〝僕〟ぅ!?」

「……ゴホン」

「ごめんなさい!」

 

 流せないワードを拾ってしまった。

 

「ほら。君は線が細いし、なにより頬を朱く染めて恥ずかしがる姿が凄く可愛らしいだろう? 女装したら絶対に似合うと思うんだ」

「な、なんで〝僕〟が女装を……一冊目みたいに普通の写真で良いじゃないですか」

「物は試しだよ。需要があるなら、今度女装だけの写真集も作ろうと思ってね」

「じょ、女装には個人的にトラウマが……」

呪詛師集団による誘拐事件(一年時のアレ)のことかな? まぁ、仮にトラウマがフラッシュバックしたとしても、その時に君が見せるであろう怯えた表情は十二分に撮る価値がある」

「…………」

 

 肩に回された腕を、無言で退けようとしてみる。

 冥冥さんの力が強過ぎてビクとも動かなかった。

 

「ね、お願い。きっと良いモノになると思うんだ」

 

 顔を寄せられ、肩に回されていない方の手で顎を撫でられる。

 どうやら冥冥さんは〝僕〟のことを男子高校生ではなくアニマルの類いと勘違いしているようだが、実際その勘違いは〝僕〟に対して有効なのは間違いなかった。

 

「今度デートしようか。時間を忘れるほど楽しんだら、夜も遅いしどこかで一泊──なんてこともあるかもしれないね」

 

 どんだけ撮りたいんだよ。

 〝僕〟の女装には冥冥さんがそうするだけの価値があるのか、それとも頑なにYESと言わない〝僕〟に対して冥冥さんが意地になってしまっているのか。

 多分は後者。

 絶対後者。

 というかまずい。顔近過ぎる冥冥さん美人過ぎる。

 押し切られ──

 

「おまたー!!」

 

 る直前に、五条がドアを豪快に開けて入室してきた。

 

「五条、アンタ大人らしく(大人しく)入りなさいよ」

 

 続いて歌姫先輩も入ってきたことで、〝僕〟はようやく助けを求めることが出来たのだった。

 

「いや、僕単体でも求めてよ。助け」

 

 土台無理な要求だ。

 

「歌姫先ぱ──いや、歌姫()()! 助けてくださ〜い!」

「おや、残念。交渉はまた今度」

 

 助け──この場の目撃者が増えたことにより、小さく両手を挙げて離れた冥冥さん。その仕草は思わず指笛を吹きたくなるほど可愛らしいものだったが、〝僕〟はようやく離れてもらえたことに安堵し、大暴れしている心臓の鼓動を抑えるので精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………いずる、可愛いね」

 

 三列目のロングソファ。

 左端に冥冥さん。

 その隣に〝僕〟。

 〝僕〟の右隣に歌姫先輩。

 そんな、神みたいな席順。

 美女二人に挟まれた〝僕〟の表情は幸せそのもの──なんてことはなく。〝僕〟の背後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からの耳打ちに、口から瞳からと生命力を枯らしているところだった。

 

「…………歌姫先輩、助けて」

 

 楽厳寺学長には聞こえないよう、アーロンパーク編のナミの如く涙目で助けを求めてみる。しかし歌姫先輩の表情を見るに、〝僕〟の頭に麦わら帽子を被せてくれそうな感じではない。

 

「ごめん、無理。五条(コイツ)、アンタごと無下限で塞いじゃってるから」

 

 成る程、じゃあ無理か。

 壁掛けのモニターを確認してみたが、両校の生徒達はまだ開始位置に着いていない様子。時間には多少の余裕有り、といったところか。

 

「……いずる、楽厳寺(おじいちゃん)にバレないように、お互い呼び方とか考えようか。僕は『君』とか『可愛い生徒』とかそんな感じで呼ぶから、いずるは僕のこと『五条先生』や『悟先生』って呼んでくれる? あぁ、嬉しいなぁ。いずるがまさか僕の生徒になる日が来るなんてね。時の流れは残酷だけど、教師と生徒の禁断の──みたいなのもいずる相手だったら凄く(そそ)られる」

「教職の台詞とは思えない長く気持ちの悪い耳打ち。早くしょっ引かれないかしら」

「最早呪詛だね」

 

 両隣の美女が五条へと罵詈雑言を浴びせているものの、無下限の前では無力。

 いや、この場合はただ聞こえないフリをしているだけかもしれない。

 

「…………マジ可愛っ、何この人間」

「噛むな、〝僕〟のこと」

「うわ、キュートアグレッション発動してる……」

「これ、撮影しておけばとんでもない脅しの材料になるね」

 

 五条が〝僕〟の頭に頬ずりをし、ボソボソと〝僕〟の可愛いポイントを呟きながら肩やら首やらに甘噛みをしやがっている。かかる吐息が生温かくて気色悪い。

 思わず全てを振り払って大暴れしてしまいそうなったが、不意に(しゃが)れた声が無下限を通り抜けてきた。

 

「──そこの生徒」

 

 固まる。

 〝僕〟も五条も、引いては冥冥さんも歌姫先輩も。

 思わず固まった。

 緊迫。

 この中で唯一、浮舟出の生存を知らない人物。長年の発言、行動から呪術界における()()()と銘打たれている人物──楽厳寺学長が、視線はモニターそのままに声を掛けてきた。

 五条と目を見合わせる。五条はアイマスクを付けているので正確には合ってはいないが、〝僕〟と五条の心は今間違いなく通じ合っていた。

 

「な、なんですか」

 

 無視も、聞こえないフリも通用しない。

 何故ならば、この場に()()は〝僕〟一人しかいないのだから。

 

「こちらへ来なさい」

 

 呼ばれた。

 何か猛烈に嫌な予感がする。

 〝僕〟がなにかしらのアクションに移る前に、五条が口を開いた。

 

「なに? おじいちゃん。僕今可愛い教え子とスキンシップを取ってるところなんだけど」

「良いから、来なさい」

 

 五条の場を和ませるような口振りも意に介さず、楽厳寺学長は頑として言葉を繰り返している。

 

「…………大丈夫なの」

 

 歌姫先輩が五条に耳打ちをする。五条はゆっくりと頷いた。

 

「勿論大丈夫……な、筈。何故なら出が生きているだなんて、普通は思いもしないんだから」

 

 そう。

 〝僕〟が少々イレギュラーなだけで。

()()、命というモノは一度その生を全うしたならば元通りになるということは無い。

 絶対に無い。

 だから、誰かが死んでも「もしかしたら生き返るかも」と思いながら日々を過ごす人なんていない。

 仮に街中で死者に滅茶苦茶ソックリな人物とすれ違ったとしても「アイツ生きてたのか!」とは思わないのだ。

 だって〝僕〟の死はキチンと呪術界全体に通達され、葬式も高専にて(おおやけ)に行われているのだから。

 ましてや、〝僕〟が死んだのは十年も前。

 だから有り得ない。

 どれだけ今の〝僕〟を見ても、浮舟出と結び付くことは絶対に無い。

 

「なにをしておる」

 

 しかし、不安はいつだって付き纏うものなのだ。

 何も考えずにソファに深く座って構えることなんて、どうしたって出来ないものなのだ。

 

「行ってくる」

「……気を付けて」

 

 解かれた無下限。五条の言葉を背に、立ち上がってゆっくりと楽厳寺学長の方へと向かった。

 歌姫先輩の前を通り、中段のソファの横を通って、モニターを背に楽厳寺学長の前へ。楽厳寺学長越しに、どこかハラハラとした様子で事を見守る大人三人組が視界に入った。

 

「なんでしょうか」

「…………」

 

 硬い声色で問えば、楽厳寺学長は黙って手招きをした。近寄れ、ということか。

 片膝を付いて、楽厳寺学長の顔を見上げる形を取る。

 

「……茶を、買ってきてはくれんか」

「…………」

 

 ………………………………、

 ……………………、

 …………。

 危ねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 バレてなかった〜〜〜〜〜〜〜〜。

 

 どれだけ今の〝僕〟を見ても、浮舟出と結び付くことは絶対に無い。キリッ

 

 じゃねぇよ内心ビックビクだわマジで焦った〝僕〟の高専生活というか人生自体ここで終わりかと思った〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 

「も、ももも勿論。何茶が良いですか?」

「……緑茶を」

「温かいのにします? それとも冷たいの?」

「……温かいのを」

「缶が良いとかペットボトルが良いとかあります?」

「……どちらでも良い」

「分かりました。ダッシュで行ってきます」

「まぁ待て、金も持たずに何処へ行く」

 

 いや、貴方の前から離れられるなら〝僕〟の自腹でも全然良いんですけど。

 しかし楽厳寺学長としてはそこらの生徒に自腹を切らせるなんてプライド(というか普通に大人としてか)が許さないらしく、懐からがま口財布を取り出してパチリと口を開けた。

 

「ほれ、釣りはいらん。好きなものでも買いなさい」

「あ、ありがとうございます。……〝僕〟入れたとしても、500円玉4枚も要ります? 1枚で十分じゃないですか」

 

 手のひらに乗せられた500円玉硬貨4枚。もしかしたらボケているのかもと(失礼)恐る恐る進言すれば、楽厳寺学長は〝僕〟の手を引いて耳元で囁いた。

 ……なんか今日の〝僕〟ったら囁かれてばっかだな。

 

「気の利く良い子のようだから、一応忠告しておく」

「ちゅ、忠告……?」

 

 場にそぐわない二文字に思わず聞き返す──楽厳寺学長の囁き声に呼応して──〝僕〟も囁き声で聞き返した。

 

「……年の差が離れた恋愛は、どちらも幸せにはならん。同年代の生徒と全うな恋愛をしなさい」

 

 言われて、〝僕〟は思わず楽厳寺学長の目を見た。

 マジでこちらを心配している目だった。

 

「……ち、ちなみになんですけど」

「なんだ」

「〝僕〟と()のやり取りを聞いてて、そう思ったんですか?」

「釣りで、昼食でも食べてきなさい。五条は儂の方から言っておこう。……ここにはもう戻らぬように」

 

 言った楽厳寺学長は気まずそうな顔で目を逸らし、以降の〝僕〟との会話を強制的に終了させてしまった。

 最悪だ。

 冥冥さんとのハッピータイムのことであれば「年の差とか関係なくないですか!?!?」と果敢に言い返したものだが、五条とのアレのことならば弁明の余地も無い。

 というか気遣いがマジでありがたかった。

 夜蛾先生みたく、見た目から受ける印象よりも優しいのかもしれない。楽厳寺学長。

 

 

 

 





浮舟出:京都校が来てすぐ辺りは「絶対バレないようにするぞ!」と思っていたが、一向にバレる気配が無いので一安心しているらしい。


冥冥:なんとしても浮舟の女装写真が撮りたいらしい。


庵歌姫:別室で五条と話してた。


五条悟:別室で歌姫と話してた。今日もいずるが可愛い。


楽厳寺嘉伸:アイツ、あの冥冥に目付けられてるし五条に好かれてるしマジで可哀想だな……。




お世話になってます!
次回辺りから戦闘シーンが始まるんじゃないかという噂が飛び交ってます!
あと、年末どうしても投稿したい番外編があるので、京都姉妹校交流会編の間にぶち込まれるかもしれないという噂も聞いてます!
ではまた!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。