アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは!




番外編
サンタさん、マジでいるよ。


 

 

 

 

「……サンタ〜〜〜〜〜〜?」

 

 季節は、冬。

 学年は、一年。

 入学初日に五条と激闘を繰り広げたり、硝子ちゃんのことを名字で呼んでいた頃と比べれば同期4人の仲もだいぶ深まってきた季節。

 任務終わりにマックに行ったりゲーセンに行ったり夜通し桃鉄やってギスったりと、そこだけ切り取れば普通の高校生と変わらない生活を送っていた季節。

 冬。

 正確に言えば、12月20日。

 放課後の自室にて。

 今日は珍しく任務も無いしと、まったりとした気持ちで本日最後の授業を終え、特に同期達と約束もしてなかったオレ。

 試運転がてら点けてみた暖房──エアコンから送られてくる生暖かい風に確かな手応えを感じていたオレ。

 そんな最中、ノックも入るぞの一言も無く、自室のドアが開かれた。

 聴覚を頼りにドアの方へとリモコン片手に振り向けば「サンタってマジでいると思う!?」と何やら慌てた様子の五条がいたので、上記の台詞を吐き出したところである。

 閑話休題(取り敢えず、座って話そう)

 

「……それで、サンタ?」

 

 床に敷かれた座布団、計2枚。

 座布団(オレ)座布団(五条)

 それぞれが座布団に腰を下ろし、ご丁寧にも正座で向かい合っての会話である。

 ちなみにオレの傍らにはいつもの通り酒瓶が置いてあり、適宜アルコールを摂取しながらの会話であることもここに明記しておこう。

 

「あぁ、傑と硝子から聞いたんだよ。『この世にはサンタって奴がいて、ソイツは一年に一度──イブの夜に()()()()()()()()()()()()子供達にプレゼントを配り歩く』……ってな」

 

 サンタについて語る五条の表情は真剣そのもので、ふざけている様子は感じ取れない。

 仮に今の五条の発言がただのボケではないのだとすると、少々考える時間が欲しいというのが正直なところ。

 何故ならオレは酔っ払っているからだ。

 思考の時間稼ぎついでに話の続きを促してみる。

 

「夏油と硝子ちゃんはその後なんて?」

「知らね。言うだけ言って任務行った」

 

 なんか他の任務先のヘルプみたいな感じらしい。

 五条は二人の任務内容を興味なさげに呟いてから──オレの目を真っ直ぐと見てきた。

 見てきて、こう言った。

 

「……いずるは信じるか?」

「信じるって、何を」

「だから、サンタのことだよ! 仮に、傑と硝子が言ってたことが本当なら──サンタってヤバくないか!? たった一晩で世界中のガキ共にプレゼント配り回るんだぞ!? なに、そういう呪霊か!? いやでも傑と硝子(あの二人)のことだし、いつもみたいに騙されてる可能性もあるか!? つーかそもそも、俺サンタに一回も会ったことねーんだけど!」

「…………」

 

 あぁ、そうかと。

 ここにきてオレはようやく納得した。五条がこれほど慌てる意味も、夏油と硝子ちゃんがサンタのことを吹き込んだ意味も。

 ボケでもなんでもない。

 五条(コイツ)、サンタ知らねぇ〜んだ。

 考えてみれば、それもその筈。五条は高専(ここ)に来るまでに、御三家──呪術関連のしきたり以外では、五条家の敷地外にはほぼ出ないという閉ざされた生活を送ってきた。

 教育(勉強)も五条家の中、教育(作法)も五条家の中という生活を送ってきたならば、確かにサンタを知らないというのもあり得る。

 五条ん()って金持ちだし、クリスマスだからとかわざわざ理由付けなくても欲しいもの買い与えてそうだし。

 つーかクリスマスって元を辿れば西洋の文化だし。ガチ和(そんな言葉は無い)の五条家では取り入れていないという可能性も、十分に納得出来る。

 

「聞いてんのかよいずる!」

 

 さて、五条がサンタを──サンタクロースを知らないという事実が浮き彫りになったところで、オレの眼前には二つの選択肢が提示されていた。

 それはつまり、五条にサンタクロースの真実を教えるのかどうか──ということ。

 こういうのは普通遅くても中学校に上がる頃には何かしらの方法で真実に辿り着いているものなのだが、同年代の他人とのコミュニケーションが今までほぼ無かった五条に仲の良いませたクラスメイトから「知ってる? サンタさんの正体ってさ」と耳打ちでネタバレをされることも無かったし、というかそもそもサンタの存在をつい先程知ったというピュアっぷり。

 それはつまり、五条には普通の子供なら誰しも経験した()()()()()()()()()()()()()()()が一つも無かったことを意味する。

 

「おい、いずる!」

 

 クリスマスケーキも、近所の外壁に張られた小規模なイルミネーションも、寝ぼけ眼でプレゼントの包装を破く時の高揚も、プレゼント片手に窓から見下ろす外の薄明るい景色も、何もかも。

 五条悟は、一度も経験したことが無いのだろう。

 

「いずる……?」

 

 馬鹿野郎。

 そんな悲しいことがあるか。

 同期想いのオレは、沸々とそう思った。

 それはきっと恐らく、夏油も硝子ちゃんも同じように思っている筈だ。

 だからオレが取るべき選択肢は、最初から決まっていた。

 

「……五条」

「な、なんだよ!」

「サンタ()()、マジでいるよ」

「マジ!?」

「近い近い」

「会ったことあるか!?」

「…………」

「いずる?」

「……アルヨ」

「あんの!?」

 

 丸サングラス越しに目を剥く五条を尻目に、オレは酒瓶を傾けつつ自分に対する言い訳を必死に考えていた。

 サンタに会ったことは、ある。

 しかしそれはクリスマスシーズンに近所の人が()()をしていたという前提が存在する、リアルサンタではなくクリスマスシーズンの一種の催しものとしてのソレ──つまりは偽物。

 しかし偽物ではありつつも、実際目の当たりにした子供(オレ)からすればその人は間違いなく本物のサンタなわけで。

 分かりやすく言えば、長州力に会ったと思ったら実は長州小力でした──という訳だ。

 我ながらなんて分かりやすい例えだ。

 冴えてる。

 いや、冴えてないっすよ。

 …………。

 そもそも上記のケースを「それはサンタさんに会ったことにはならない」と言われてしまえば「じゃあ本物のサンタってなに? フィンランドまで行けっての?」みたいな、間違い無くサンタからは悪い子認定されてしまうような屁理屈が浮かんでしまうのでつまり──オレはサンタに会ったことがある。

 ということになる。

 なるのだ。

 きっとなる。

 

「どんな奴だった!?」

 

 オレからの続報を待ち侘びる五条。黒いレンズを裕に貫通してくるその瞳の輝き具合に「コイツ可愛いな」と素直に思ったりしながら、言葉の端々から真実がまろびでてしまわぬように、酔った頭で必死にワードを組み立てながら慎重に話し始めた。

 

「サンタさんはな、真っ赤な服を着ているんだ」

「真っ赤? なんで?」

「…………」

「いずる?」

 

 なんでと言われても。

 しかし、五条から見ればオレはサンタに会ったことのあるヒーローに映っているのだ。会ったことがあると発言し(てしまっ)た手前、すぐに「いや詳しくは知らんけど」では済まされない。

 ……まあバレないし、適当でも良いか。

 マズい、オレの悪いところが出た。

 

「……クリスマスイブっていつだ?」

「は? いやいや、それくらい知ってるっての。えーっと、12月24日……だろ?」

「12月って冬だよな」

「あぁ」

「冬って寒いよな」

「当たり前だろ」

「冬って、雪降るよな」

「降る──まさかッ!」

「そのまさかだ。サンタさんってイブの夜に働くだろ? 子供達が寝静まってる中外なり枕元なりを歩くわけだから、黒い服なんて着てたら不審者確定なわけ。だから、雪に埋もれず闇に溶け込まずの、目立つ真っ赤な服を着てるってわけ。言わばサンタさんとしてのアイコン──ある種の証明書みたいなもんだな」

 

 ペラペラペラペラと、よくもまぁこれだけ舌が回るものだと自分のセリフながら関心してしまう。

 嘘吐く時、逆に饒舌になっちゃう人っているよね。

 

「成る程な!」

 

 ほら納得した。

 

「……いやでも、それだとサンタが外歩いてる時に人だかりが出来ないか? そうなったら困るんじゃねーの」

 

 配るサンタも、受け取る子供も。

 文末に余所余所しく上記の言葉を付け加えた五条の顔が曇る。

 サンタの身を案じたのか、それともサンタという存在に対して信じるに値しない矛盾(ノイズ)が発生したからなのか──定かではない。

 しかしオレとしては五条にはサンタという存在を信じていてもらいたいので、べしゃりを続ける。

 

「おっ、良い質問だ五条。今そのことについて話そうとしてたんだ」

 

 酔いに満たされた思考のまま調子良く五条を褒めれば、五条もまた調子良く笑う。

 人差し指を立てて、順を追う。

 

「まず、サンタさんってトナカイにソリ()かせて、それに乗って鈴の音シャンシャン鳴らして移動してんだよな」

「じゃあ尚更目立つだろ」

「まあ待て。サンタさんってのはそこまで平凡(フツー)な存在じゃない」

「?」

「サンタさんって、トナカイ諸共空飛んでんだよ」

「ハァ!?」

「だから人だかりなんて()()出来ない。つーか、そもそもバレることも少ない」

「そういうことか! どうやってガキ共の家回るのかとか考えてたけど、空飛ぶなら納得──……いや、それでも間に合うか?」

「間に合う」

「間に合う?」

「あぁ、サンタさんって足バカ速いから」

「マジか……」

 

 別に「サンタさんは各国に沢山居て、宅配業者みたいにエリア毎でサンタの管轄が違うんだぜ」とか言っても良かったのだが、どうせ初めてサンタを知るなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()方がロマンティックだ。

 ほら見てみろ、五条も感慨深そうに震えてやがる。

 

「……俺も、貰えると思うか」

「え、なに?」

「プレゼント」

「………………………………良い子にしてたらな」

 

 こちらの顔をしっかり見ながら問いかけてくる五条の表情を見てしまったオレには、後先考えず発言したツケを早速支払う羽目になっていた。

 あれ、この状況マジ? 

 サンタどうすんの? 

 サンタってどこにオファーしたら来てくれんの? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月24日(クリスマスイブ)

 放課後の教室にて、オレ達は五条の居ぬ間に話し合っていた。

 

「だから五条(アイツ)、最近やけに張り切ってるんだ」

 

 隣の席の硝子ちゃんが、タバコの煙を吐き出してから呆れたようにそう言う。

 

「そ〜なんだよ。五条ったら、すっかりもうサンタさんからプレゼント貰えるつもりでいるぜ」

 

 机に上半身を投げ出したまま答える。

 木材と埃が混じったような香りを鼻で味わいながら、今晩のことを考えて憂鬱な気持ちに陥る。

 えぇい、ヤケ酒じゃい。

 そんなオレを見て、反対側のお隣さん──夏油が静かに笑った。

 

「可哀想に。真実を伝えてあげなくて良かったのかい?」

「……二人だってネタバラシしなかったくせに」

「そりゃしないけどさー」

「うん、しないね」

 

 暫し、無言。

 

「……本当ならさ、夜蛾先生に頼み込んでサンタさんの格好してもらおうとか考えてたんだよ」

 

 今となっては実現叶わぬ秘蔵の計画を、話の種にと吐き出してみる。

 

「え、それメッチャ面白いじゃん。やろうよ」

 

 オレの計画を聞いた硝子ちゃんは、いつもみたいな無表情ながらも少しだけ目を輝かせて喜んだ。

 しかし、実現叶わぬ。

 その理由を夏油が代わりに語ってくれた。

 

「夜蛾先生、今晩は上層部のお偉い方と会食だってさ」

 

 忘年会でも兼ねてるのかな。

 興味なさそうに夏油は笑い、硝子ちゃんの眉間に皺が寄った。

 

「は? イブに?」

「みたいだね」

「つまんねー。夏油、代わりにサンタの格好しろよ」

「嫌だよ。折角の休みだっていうのに」

 

 席の都合上二人のやり取りの間に挟まりながら、ふと放課後以降の予定が何も無いことを思い出した。

 歌姫先輩と冥冥さんにメール送ってみようかなとか考えたけど、あの二人は普通に予定埋まってそうだしな。

 

「…………」

「──(いて)ッ、なんで肩パンするのよ硝子ちゃん」

「いや、なんかムカついたから」

「えぇ……」

 

 そう、休み。

 オレ達今日、任務無いから暇なんです。

 最高。

 

「…………」

 

 時に。

 呪霊が、人の負の感情から生まれるというのをご存知だろうか。

 学校だとか病院だとか、人が集まりやすい場所に呪霊が生まれ易いというのもご存知だろうか。

 初夏とか長期休暇明けとか、その辺りの期間が呪術界の繁忙期と呼ばれているのをご存知だろうか。

 ──ならば、クリスマスイブは? 

 ──というか年末は? 

 

「同期全員休みなのに、五条は任務行ってるし」

 

 イブはどこも混むから、別に良いんだけどさ。

 そう言いながらも、硝子ちゃんはどこか退屈そうだ。

 

「悟、『良い子ポイント稼ぐんだよッ!』って〝窓〟から無理矢理任務カツアゲしてたよ」

「馬鹿だなー。……というか、今までの行い考えたらそれでもマイナスなんじゃないの?」

「それは可哀想だよ硝子ちゃん」

「語呂良いね」

「ね」

 

 咳払い。

 

「過去は置いておいて、今頑張ってるんだったらそれに対する何かしらの()()()くらいはあっても良いんじゃないかな」

 

 五条が頑張ってるのは事実だし、

 文末にそう付け加えれば、硝子ちゃんと夏油からジッと見詰められていることに気が付く。

 

「……え、なに。オレなんかマズいこと言った?」

「い、いや。優しいなと思って」

「普通じゃない?」

「全然。夏油と私なんか、今晩枕元に立って爆竹で叩き起こしてからドッキリ大成功のプラカード見せ付けて、その後無言で自分の部屋に戻るつもりだったし」

「そんなこと考えてたの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その晩。

 もしくは夜更け。

 丑三つ時。

 アルコールの影響で不眠症を患っていたオレは、消灯から今の今まで、ベッドに入ってから一睡も出来ないままこの時を迎えていた。

 念の為にとかけておいた目覚ましも定刻から数コンマという速さで解除し、喉の痛みを覚えながらベッドから静かに這い出る。

 身体を伸ばし、部屋の電気を点け、ついでにエアコンの電源を落とす。部屋着のまま、靴下を履いて裏地がモコモコのスリッパを履く。

 実家暮らしでは分からなかったが、どうやらオレは暖房で喉がやられるタイプらしい。

 これからは暖房無しで我慢しなければ。

 

「…………折角のクリスマスイブだもんな」

 

 放課後、二人と話し合った後。

 オレは人知れず、某激安の殿堂へと買い出しに行っていた。

 当然だが、オレが行ったのは地下一階にある酒類のコーナーではない。

 五条へのクリスマスプレゼントを用意する為に行ったのだ。

 クリスマスを味わったことの無い五条の為に──そしてなんの責任も取ろうとせずに適当ぶっこいた自分への戒めとして、サンタをでっち上げる為に。

 五条へのプレゼントと、なけなしのサンタ要素としてサンタといえばの赤い帽子(ナイトキャップというらしい)を購入した。

 勿論、五条が眠っている間に部屋に忍び込んでこっそりとプレゼントだけ置いて帰る──という、()()()()()()()()()()()作戦なのでサンタ帽はぶっちゃけ必要無いのだが、この帽子は言わばオレなりの雰囲気作りだ。

 

「…………」

 

 草木も眠る、丑三つ時。

 片手で持てるサイズの箱に入れ、その上からクリスマスラッピングを施したプレゼントを手に──そしてサンタ帽を被り、オレは自室から廊下へと躍り出た。

 

「さっみ」

 

 暖房で温められていた身体が冬の夜の気温に晒されて、開口一番にそう呟く。歯の根が震えるほどの寒さに思わず撤退の二文字が脳裏に浮かび上がったが、(かぶり)を振って追い払う。

 消灯後の寮内の廊下には僅かな光源も無く、頼りになるのは窓の外の月明かりのみ。

 なにかにつまずいて転ばぬように、そして歩く際にスリッパがパタパタと鳴ってしまわぬように──必然的に移動方法は忍び足となってしまっていた。

 前に脚を伸ばすことで靴下とパジャマのズボン(ズボンて)の隙間から寒気が滑り込んでくるので、その度に寒い寒いと愚痴りながら、五条の部屋へと真っ暗な廊下を歩き続ける。

 

「あれ、いずる?」

「ッッッッッッッ」

 

 不意に、背後から何者かに右肩を触れられた。

 飛び退きながら振り返れば、オレの肩に触れた──オレの肩に手を置いていた人物は、呆れたように笑っていた。

 

「いや、私だから。そんな呪霊(おばけ)に遭ったみたいな反応されると傷付くんだけど」

「しょ、硝子ちゃん……!? なんでここに……!?」

「なんでって、いずると一緒。面倒だけど、折角だかららしくないことでもしてみようかなって」

 

 部屋着の上から暖かそうなダウンジャケットを着ている硝子ちゃん。

 女子寮は男子寮の隣に建てられているとはいえ、ここまで来るには一度外に出なければならない。

 納得の防寒対策だった。

 

「硝子ちゃん、サンタの格好してないんだ」

「いずるだってしてないじゃん」

「オレはほら──帽子被ってるし」

「なんだ、私物かと思った」

「な訳ないでしょ」

「似合ってるよ」

「マジ? 私物にしようかな……」

「というか、五条寝てるんだから格好なんてなんでも良いんじゃないの」

「まぁそうだけど」

 

 相変わらず、硝子ちゃんは正しいことを言ってくれる。

 私物のサンタ帽が無性に恥ずかしく思えてきた。

 

「いずる、寒くないの?」

「寒いけど、まぁ数部屋先だしとか思って上着着るのサボっちゃった」

「……なんか可愛い」

「え、なにか言った?」

「なにも。寒いならカイロ使う? 私両ポケットにカイロ入れてきてるから」

「え、良いの? ありがとう硝子ちゃん」

「どいたまー…………」

 

 (しば)し無言の硝子ちゃん←語呂の良さ異常。

 ダウンジャケットの左ポケットをまさぐり、その最中(さなか)に突然動きを止めてしまった硝子ちゃん。どうしたのかとその名を呼べば、硝子ちゃんは視線を窓の外へと映しながらこう言った。

 

「……忘れてた。カイロ一個しかないや」

「あ、そうだったんだ。それじゃあ、そのカイロは硝子ちゃんが使わなきゃね」

「いや、良いよ」

「でも、それだと硝子ちゃんが寒い思いを……」

「はい」

 

 言って、硝子ちゃんは自身も手を突っ込んでいるダウンジャケットの右ポケットをこちらへと向けた。

 

()()って」

「え、なに?」

 

 勝手に取れってことか? 

 硝子ちゃんのミステリアスさに戸惑っていると、硝子ちゃんは呆れたように溜め息を吐いた。

 理由こそ分からないが、どうやら悪いことをしてしまったらしい。

 

「なんかごめん」

「……いや、良いよ。いずるがこういうところで察し悪いのって今に始まったことじゃないし」

「ごめん」

「一緒に使お。……こう言いたかったの」

「え、それって」

 

 硝子ちゃんからのお誘い。

 その意味を自分なりに理解しようと噛み砕いていると、五条へのプレゼントを持っていない方の手──即ち左手を掴まれ、そのまま硝子ちゃんのダウンジャケットの右ポケットへと連れ込まれた。

 カイロの発熱、それから硝子ちゃんの手の柔らかさに、束の間言葉を失った。

 

「……いずる、意外と手冷たくないね」

「ま、ままま、まぁ、酔っ払ってるし」

「ふふっ。バーカ」

「え、なんで?」

「別に。言いたくなっただけ」

 

 突然の暴言に呆けたオレを見て心底楽しそうに笑う硝子ちゃん。教室での硝子ちゃんとは違うどこか年相応なメチャかわスマイルに、オレは完膚なきまでに打ちのめされてしまった。

 

「行こっ」

「う、うん」

 

 打ちのめされているうちに手を引かれ、気が付けば歩き出している。そんな状態。

 少し前を歩く硝子ちゃんに歩幅を合わせて追いつくと、硝子ちゃんはオレを見てまたクスリと笑った。

 なんか楽しそうだな硝子ちゃん。

 夜型だからかな。

 

「……しょ、硝子ちゃん。もっと慎重に歩いた方が良くない? 五条、起きちゃうかも」

「あー、別に起きないよ」

「すげ、言い切った」

「うん。だって夕食の時(さっき)、五条の飲み物に睡眠薬仕込んだし」

「こともなげに!?」

「事前に何回かいずるで試したから、効果は実証済み。朝までは肩揺らしたって起きないと思う」

 

 寝顔拝んでやろーぜ。そう言って笑う硝子ちゃんに、オレは確かな頷きで返した。

 凄いや硝子ちゃん。

 ……つーか普通に聞き流しちゃったけど、オレってば睡眠薬盛られてたんだ。

 たしかに、自律神経爆乱れ&生活リズム激終わり中のオレにしては珍しくよく眠れたなって日がここのところ何度かあった気がするけど。

 ……、

 …………、

 ………………。

 

「……硝子ちゃん、その睡眠薬どこで買ったか教えてもらえない?」

「やだ。酒辞めれば」

「トホホ……」

 

 手を繋いだまま、肩を落としてみる。

 五条はどうやらお薬の力もあって爆睡中らしいので、意識的に潜めていた足音を気にせず、普段通りに歩くことにした。

 

「そういえば、プレゼント何を用意したの?」

適当(てきとー)。いずるは?」

「……まぁ、五条は知らなそうなものを」

「いいんじゃないの? 五条(アイツ)ボンボンだから、高いの用意したって大して響かないでしょ」

「そう言ってもらえると心が軽くなるよ。ありがとう硝子ちゃん」

 

 感謝の言葉を述べている間に、いつの間にか五条の部屋の前へ。体感ゼロ秒の移動時間は、同じ寮内だからか、それとも硝子ちゃんと話していたからか。

 

「別に。……そういえば、夏油は?」

 

 ドアノブに手を伸ばしたところで、硝子ちゃんから問われる。

 ドアノブを捻り、ドアを押しながら答えた。

 

「さぁ? オレと硝子ちゃんが会ったのもメチャクチャ偶然なんだし、もうプレゼントを置いた後か、それともこれからか。……案外何もせず部屋で寝てたりして」

「あり得る。プレゼント用意してたにしても、夏油(アイツ)なら直接渡しそうだし」

 

 五条が眠るベッドまでの数歩の合間に脳内に浮かぶは、夏油の優男スマイル。

 果たしてその笑顔が五条相手にも向けられるのかは不明だが、夏油も同期想いの良い奴だ。この場にはいなくとも、なんだかんだプレゼントは用意して──

 

「あれ、偶然だね」

 

 サンタがいた。

 丁度窓の外から室内へと侵入しようとしていたところの、全身真っ赤に黒いブーツのサンタ姿でその身体よりも大きな袋を担ぎ、立派な白い付け髭まで付けた──夏油(サンタ)がいた。

 

 

 

 

 

 

 





浮舟出:高学年までサンタクロースを信じていた。ちなみにプレゼントの中身は牛乳にチョコの味が付くストロー等、五条が知らない類いのスイーツ関連セット。

夏油(サンタ)に遭遇した衝撃で、五条の部屋にサンタ帽落としちゃったみたい。別に良いか」



家入硝子:サンタクロースという存在を知ったその年に、夜中目が覚めた際に()()()()()()()()()()と鉢合わせてしまった。以降は普通にクリスマスプレゼントとして欲しいものを買ってもらったらしい。
ちなみに件の睡眠薬は医務室にあった複数の錠剤を適当に混ぜ混ぜして作ったヤツなので、売り物ではない。

「いずる、私のサンタ姿見たいの?どうしてもって言うなら考えないこともないけど」



夏油傑:放課後、1ウケの為にドンキ(浮舟とは他店舗)に行ってサンタのコスプレセットを購入した。ミニスカタイプもあったが、自分の体格ではどう頑張っても入らないので泣く泣く断念したらしい。

「会えて良かったよ。もし一人だったら、翌日の授業をサンタ姿で受けるところだった」



五条悟:良い子にしていた甲斐あって、翌朝枕元にプレゼントが三つも置いてあった。
俺ってば三つも貰えるほど良い子だったんだとか呑気に考えてる。

「いずる!ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!サンタさん、帽子落としてった!」




本当は12月24日の夜に投稿したかったんですけど、その辺り仕事で忙しそうなので早めに投稿しました。
交流会編の途中ですが、たまには季節感ある話書きたいなと思って急遽番外編を差し込みました!本編楽しみにしてた方はごめんなさい!

番外編が終わった後は、京都姉妹校交流会──激闘編──が始まるみたいです!
あとなんか数日後にまた短めのが投稿されるみたいです!

ではまた!



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