おはようございます!
「夏油、31日暇?」
「急だね、出。どうしたんだい?」
「いやさ、年末年始は寮母さんもお休みな訳じゃん」
「あぁ、そういえば食堂に張り紙がしてあったね」
「つまりは自炊しなくちゃいけないわけだから、折角なら31日は五条と鍋パしようって話してて。あっ、ちなみに硝子ちゃんは誘ったけど断られちゃった」
「……31日って、4日後の12月31日のことかな」
「勿論。つーか、1月31日なら寮母さんいるし」
「…………」
「いやー。寮生活始まってから本当にたまにぐらいのペースで自炊する機会はあったけど、流石に鍋は初めてでさ。取り敢えずふざけなければ不味くはならないだろってことで、鍋の素は五条が。食材はオレが買ってくるってことで話は進んでて」
「……出」
「五条のヤツ、最初は闇鍋がやりたいとか言ってたんだよ。でも五条が持ってくる食材って言ったら絶対一つはお菓子混ざってるじゃん? だからそれは4人揃った時にしようって取り敢えず説得して」
「
「なんだよ」
「……帰らないのか?」
「なにが?」
「だから、年末だろう──実家に帰らないのか?」
∩
「あー、やっぱ帰んないって?」
「うん。何度か聞いてみたけれど、答えは変わらなかったよ」
普段授業を受けている教室の窓際。
日中でも外気温は10℃を下回る、本格的に冬真っ只中の12月27日。
高専自体も
教師陣の善意によって任務も割り振られなくなるので、本当の本当に冬休み。
本来ならば、教室の戸も窓も隙間風一つ入らないほどピシャリと閉めなければたちまちのうちに身体の芯から震え出す程の気温。
しかし家入が喫煙者ということもあり、窓を開け、窓枠にもたれ掛かりながら
二人きりとは言えど、互いに意中の相手はこの場にはいない。各々タバコを吸ったりホットコーヒーの缶を傾けたりと、極自然体で話していた。
窓の外へと視線を下ろせば、グラウンドでは五条と浮舟がキャッチボールをしている。
家入と夏油が視線のピントを、浮舟へと合わせてから。
「いずるって、家族仲悪いんだっけ」
「そんなことはないと思うけれど……言われてみれば、出の口からご家族のことってあまり聞かないな」
家入が投げかけた疑問に夏油が答えれば、家入は浮舟へと視線を固定したまま「使えねー」と笑った。
「硝子は帰るつもりなのかい?」
「あー、うん。別に長居はしないけど、一泊くらいは。顔くらいは見せて──あとお年玉貰いに」
「はは、硝子らしいね」
グラウンドでは、五条が〝蒼〟で飛ばしたボールが狙い定まらずに浮舟の頭上を軽々と超えたところだった。
「五条お前ッ、その暴投は自取りだろ流石に!」
「急に自撮りとか言うなよ! ケータイ教室だわ!」
「違ェよ! 自分でボール取ってこいって意味!」
「成る程な!」
二人の楽しそうな声が教室まで届く。無邪気な遣り取りに夏油の真剣な表情が崩れ、家入は懐からタバコをまた一本取り出して咥えた。
家入が懐に手を伸ばした辺りで察しを付けた夏油は同じように懐からライターを取り出し、家入が咥えたタバコのフット部分に火を当てた。
「苦しゅうない。やっぱ
「ははは、出にもこうやって点けさせているのかい?」
「は? そんなことさせるわけないじゃん」
「えぇ……」
「夏油は帰んの?」
「……わ、私も帰るよ。こっちから実家へ持っていきたい荷物もあるし、早く家族にも会いたいからね」
夏油は発言してから、呪術界には家族仲が良好ではない人間の方が多いことに気が付き──同期の五条もその枠組みに含まれていることに気が付き、自らの至らなさに苦虫を噛み潰したような表情をし、
いつもと変わらぬ冬の晴天は、しかし夏よりも遠く、そして彩度に欠けているように感じた。
「いずるって、一人っ子だよね」
「あ、あぁ。そんなことを聞いた覚えがあったような」
「で、母親と……父親っているのかな」
「確か、出が幼い頃に亡くなっていたはずだ。そのエピソードを雑談中に投げ込まれて、当人を他所に私だけ気まずくなった思い出がある」
「いずるって自分に対するデリカシー無いもんね」
彼と出会ってから8ヶ月。
8ヶ月も経てば、浮舟出という男がどんな人間であるかは大体分かってきたつもりだ。
彼の天与呪縛のデメリットも理解していたし、飲酒の苦しみを独りで抱え込んでいることも、二人は(そして五条も)なんとなく察していた。
そんな
「……家族というのは、本来逃げ道である筈なんだ。どれだけ親元を離れて辛いことがあっても、何かあったら最後には帰ってこられる場所でなければならない筈なんだ」
「恵まれてんだね、お前」
でも
夏油の思想に対して家入はどうでも良さそうに忠告し、釘を刺された夏油も「分かっている」と強く返した。
「高専でこんなにも苦しんでいる出が、もしかしたら家庭でも居場所が無いのかも知れないと考えると、このやるせなさはなんだ」
力の限り拳を握り、怒りのまま震わせる夏油。
家入はその様子を温度の感じられない瞳で数秒見詰め、吸い殻となったタバコを懐から取り出したポケット灰皿に入れた。
煙が混じらなくなった溜め息を一つ吐いて、窓から離れた。
「ど、どこに行くんだい」
「キャッチボール観戦」
夏油も来れば。
立ち去った廊下から顔だけ戻して発言した家入。一人残された夏油は、胸中曇らせながらも慌てて家入の後を追った。
∩
「馬鹿野郎! コントロールムズいんだったら無理矢理〝蒼〟でボール飛ばすんじゃねェっての!」
「悪ぃー!」
「ったく……。あれ、二人共どうしたの?」
グラウンドへと降りる広い石階段。
ボールを追いかけているうちに、石階段の麓辺りに互いに距離を空けつつも並んで座る
浮舟の柔和な笑みに早くもダウンを取られそうになった二人は、しかし気取られぬよう表情は普段通りを装っていて。
拾ったボールを投げようとした浮舟の背中に返した。
「見学」
「……同じく」
「ふーん」
遠投。
投げた先の五条は少し左に駆けてボールを取り、今度は〝蒼〟を使わずに利き手でキチンと投げ返した。
飛んできたボールを取ろうと両手を挙げて空を見上げる浮舟。二人も同じように空を仰ぎ、太陽の眩さに目を細めた。
「なんかオレに話とかあったりする? 無かったら戻っちゃうけど」
不意にやってきた見学の二人のことをどう思ったのか、ボールを投げてから浮舟が切り出す。
いや、なんでもない──つい遠慮の言葉を吐き出しそうになった夏油を片手で制止した家入が、ワンテンポ遅らせて返答。
「いずるさ、帰省しないの」
「あれ、硝子ちゃんもそれ聞くの?」
キャッチして、投げ返す。
時折「良い球!」と褒め合いながら続くキャッチボール。手を止めることなく、会話は続く。
「お年玉、貰わないの? 私は欲しいから大晦日に帰って元日の夕方くらいに戻ってくるけど」
「お年玉ねぇ。オレの地元ってご近所さんも家族みたいに仲が良いし、
「羨ましい」
「……まぁ、高専入学してみたらちょっと帰るの厳しいかなとかふと思っちゃって」
「厳しい? どうしてだい」
浮舟の言葉に、静観を貫いていた夏油が話に加わる。突然の新メンバーに手元が狂ったのか、浮舟の遠投は五条の高身長を以ってしても届かぬ後方へと飛んで行ってしまった。
「五条ごめーん! 今度はオレが自取りだわ!」
「いや良い! 俺が〝蒼〟で取る!」
「ありがとー!」
「どういたしましてー!」
距離が離れているので、大きめの声量。そら教室まで届くわけだと家入が内心そう思ったところで。
浮舟は、少し言葉を選ぶ素振りを見せてから口を開いた。
「……厳しいってのは勿論、オレの
「出って非術師の家系だろう? 呪力が立ち昇っていたところで視えないのだから、別に関係無いように思えるけど」
「バカやろ、普通に未成年飲酒だっての」
「「……あー」」
夏油の的外れな指摘に、浮舟が思わず振り返ってツッコむ。振り向いた浮舟の顔──
五条含め、毎日一緒に過ごしている同期からすれば忘れがちではあるが。
浮舟出は、アル中である。
∩
「成る程ね、別に仲悪いわけじゃなかったんだ」
「硝子、そんな言い方」
「良いよ夏油。気にしてないし、心配してくれてたならむしろ嬉しいよ」
石階段に、三人。
解消された二人の懸念。
胸の
「確かに、実の母親とはいえ天与呪縛のこと──というか、高専のことを説明するのは骨が折れるだろうね」
「呪術に関するアレソレって家族に対しても口外禁止だけど、説明しなければただの不良息子に映るだろうし」
「そ〜〜なんだよ。頑張って酒抜いてっても多分
「かわいそ。お年玉無しじゃん」
「そうなのよ。お年玉も無いし、おせちに入ってるタコの旨煮も食えないしさぁ」
浮舟の本心を知り、憐れんだ二人はボディタッチついでにその背中をさすった。
運動中につき暖かい熱を発している浮舟の背中とは対照的に、冷たい石階段にジッと座っていた二人。心地良い熱源に思わず彼の背中に抱きついてしまいたい衝動に駆られたが、歯を噛み締めて
「ありがとね、二人共……」
「「こちらこそ」」
「?」
「おーい! いずる! 早く続きやろうぜ!」
「すぐ行く! ……まぁ、
五条の呼び掛けに応え、立ち上がった浮舟。振り返って二人を見下ろしながら、ニッと笑った。
「それに、同期と過ごすのも
思い返すはつい数日前のクリスマス。
四人で笑った朝の光景を思い出し、二人は悟った。
高専に入学するまで当たり前のように過ごしていた
同じ学舎で過ごし、放課後に出かけ、寝食を共にし、戦場で背中を預けた同期のことを。
帰省しない五条が年末年始をどう過ごすつもりなのかを、つい失念してしまっていた。
「じゃ、オレキャッチボール戻るから。今日もう帰省しちゃうなら──二人共良いお年を! 帰ってきたら地元のお話聞かせてくれよな!」
言って、走り去る浮舟。五条と合流してハイタッチを交わす姿に、残された二人は溜め息を吐いた。
「……いずるなりに色々考えてたんだ」
「……みたいだね」
「あーあ、なんかお年玉とか言ってた自分が恥ずい」
「私も、家族のことばかり考えて同期のことを蔑ろにしてしまっていたみたいだ」
自省。居心地が悪そうに視線を落とし、行進している蟻と目配せ。
夏油よりも早く立ち直った家入が、顔を上げてから小さく呟く。
「……あー、やっぱ泊まるのやめるわ」
「おや、どうしたんだい急に」
「元旦に顔だけ見せて、速攻帰ってくる。それなら鍋パ参加出来るし」
「硝子……」
「夏油はどうすんの」
「私も──うん、私も残るよ。そもそも、悟と出の二人に火を扱わせるのは危ないと思ってたんだ」
「良い言い訳考えたじゃん」
「だろう? ……さてと、家族に連絡を入れておかないと」
浮舟の真実を知り、同期の大切さを思い出した二人。
立ち上がって見上げた青空は相変わらず鮮やかさは感じられないものの、ふと吸い込んだ冬の冷たい空気はひたすらに澄んでいた。
浮舟出:アル中なので帰省は無し。他にも理由はあるらしいが、帰省するよりも五条と元日の『スポーツマンNo.1決定戦』を観る方が遥かに楽しみらしい。
「おい待ってくれよ!3日に古畑任三郎スペシャルあるじゃん!」
家入硝子:お年玉のことをタバコに換える為のチケットだと認識している。数日休みなので、同期達と夜更かししたどさくさでいずるのベッドで寝落ちして困らせてやろうと画策している。
「いずる、紅白とCDTVどっち観る?」
夏油傑:結局、この4人こそが
「硝子、出の部屋のテレビなんだからチャンネル権は出に在るべきだよ。……出、ちなみに私は紅白派だ」
五条悟:え、傑も硝子も実家帰んないの!?マジ!?アツ!!いやでもご両親心配するんじゃないの!?大丈夫なの!?
「古畑任三郎って誰?知り合い?紅白ってなに?饅頭?」
ガチ年末に投稿しようとしてたお話です。私ってばこういう計画性のあることも出来るんですよってことを読者の皆様にお見せしたかったのですが、年末大忙しっぽいので早めの投稿です。計画性無し。
何故年末に予約投稿しなかったのかといいますと、早めに感想貰えた方が忙しい年末に見返して頑張れそうだと思ったからです。
↑正直者。
本編の方も書き進めてはいますが、恐らくこのお話が年内最後になるかと思います。今年一年(というか去年も一昨年もずっと)ありがとうございました。
皆様良いお年を。
来年もよろしくね!